説明

無段変速基油組成物

【課題】金属ベルトやチェーンとプーリー間の摩擦係数を著しく向上させ、長期に亘ってこの高い摩擦係数を維持でき、かつクラッチ板の目詰まりを引き起こすことのない無段変速機油組成物の提供。
【解決手段】潤滑油基油に、(A)下記一般式(1)のリン化合物の少なくとも1種をリン量として組成物全量基準で0.005〜0.15質量%、及び(B)1分子内にS−S結合、S−P結合、S=P結合、S−C結合、及びS=C結合の何れかを1つ以上を有し、かつ金属元素を含有しない硫黄化合物の少なくとも1種を硫黄量として組成物全量基準で0.005〜0.15質量%含有する無段変速機油組成物。
【化1】


(一般式(1)中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ個別に水素原子又は炭素数が1〜30のヒドロカルビル基、R5は炭素数が1〜30のヒドロカルビレン基、X1及びX2はそれぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、nは1〜10の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機油組成物に関し、特には、金属ベルト式又は金属チェーン式等の無段変速機におけるベルトやチェーンとプーリー間の摩擦特性に優れた潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ベルト式又は金属チェーン式の無段変速機はエンジンの燃焼効率の良い領域を選択的に使用できることから、省燃費性に優れた変速機として脚光を浴びており、特に、近年は金属ベルト式無段変速機を搭載する車種が増加している。これらのタイプの変速機は、金属ベルト又は金属チェーンと金属製プーリー間の摩擦によりトルクを伝達し、またプーリーの半径比を変えることにより変速を行う機構からなっている。したがって、金属ベルト式又は金属チェーン式の無段変速機に使用される潤滑油には、伝達トルク容量を向上させるために金属間での摩擦係数の高いものが求められている。
【0003】
金属間の摩擦係数を高くするために、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を配合する方法が提案されていた(非特許文献1)が、ジアルキルジチオリン酸亜鉛は使用にともない消耗され、金属間摩擦係数が低下してしまう問題があった。また最近のベルト式無段変速機においては湿式クラッチを組み合わせたものがあり、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の劣化成分はクラッチ板の目詰まりを引き起し、その機能を損なわせるという問題があった。
【0004】
このために、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない無段変速機油として、Caサリシレート、リン摩耗防止剤、摩擦調整剤及び分散型粘度指数向上剤を配合するもの(特許文献1)、ポリイソブテニルサクシンイミド無灰分散剤、有機ホスフィット、カルシウム過塩基性フェナート清浄剤、サクシンイミド、エトキシル化アミンを含む摩擦改良剤及び長鎖カルボン酸の一級アミドを配合するもの(特許文献2)、特定の鉱油系潤滑油基油にリン化合物及び無灰分散剤としてホウ素変性コハク酸イミドを配合するもの(特許文献3)、特定のリン化合物及び無灰分散剤としてホウ素変性コハク酸イミドを配合するもの(特許文献4)、ホウ素含有コハク酸イミド系無灰分散剤を配合するもの(特許文献5)等が提案されている。
【0005】
しかしながら、上記変速機油では、高出力のエンジン動力を伝達するためには、摩擦係数が不足であり、さらなる改善が要望されている。
一方、特定の炭化水素可溶アリールホスフェートと特定の炭化水素可溶アリールポリホスフェートの組合せた潤滑剤または機能的流体を摩耗抑制剤として使用することが提案されている(特許文献6)。しかし、この特許文献6には、このアリールポリホスフェートが無段変速機油の添加剤として使用できる記載はなく、また硫黄化合物と組み合わせて用いることにより、金属間の摩擦係数を著しく高めることができる記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−355695号公報
【特許文献2】特開2000−336386号公報
【特許文献3】特開2000−109875号公報
【特許文献4】特開2000−109872号公報
【特許文献5】特開2000−109867号公報
【特許文献6】特許第3199844号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】馬渕 他 「ベルトCVTの伝達トルク向上に対するCVTF添加剤ZnDTPの効果(第1報)」(社)日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集(東京1998-5) p.511
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するものであり、本発明の目的は金属ベルトやチェーンとプーリー間の摩擦係数を著しく向上させ、長期に亘ってこの高い摩擦係数を維持でき、かつクラッチ板の目詰まりを引き起こすことのない無段変速機油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するための手段としての本発明は、次のとおりである。
(1)潤滑油基油に、(A)下記一般式(1)で表されるリン化合物の少なくとも1種を、該リン化合物由来のリン量として組成物全量基準で0.005〜0.15質量%、及び(B)1分子内にS−S結合、S−P結合、S=P結合、S−C結合、及びS=C結合の何れかを1つ以上を有し、かつ金属元素を含有しない硫黄化合物の少なくとも1種を、該硫黄化合物由来の硫黄量として組成物全量基準で0.005〜0.15質量%含有することを特徴とする無段変速機油組成物。
【0010】
【化1】

【0011】
一般式(1)中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ個別に水素原子、又は炭素数が1〜30のヒドロカルビル基を示し、R5は炭素数が1〜30のヒドロカルビレン基を示し、X1及びX2はそれぞれ個別に酸素原子、又は硫黄原子を示し、nは1〜10の整数を表す。)
【0012】
(2)硫黄化合物が、ポリスルフィド化合物、チオリン酸エステル化合物、チオ亜リン酸エステル化合物の少なくとも1種である上記(1)に記載の無段変速機油組成物。
(3)コハク酸イミド系分散剤を組成物全量基準で0.5〜10.0質量%含有する上記(1)又は(2)に記載の無段変速機油組成物。
(4)アルカリ土類金属系清浄剤を組成物全量基準で0.05〜1.0質量%含有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の無段変速機油組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、特定のリン化合物及び特定の硫黄化合物、さらには所望によりコハク酸イミド系分散剤もしくはアルカリ土類金属系清浄剤を含有するため、金属ベルトやチェーンとプーリー間の摩擦係数が著しく向上し、長期に亘ってこの高い摩擦係数を維持でき、かつクラッチ板の目詰まりを引き起こすことがない等の格別の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔潤滑油基油〕
本発明に用いる潤滑油基油としては、通常の潤滑油の基油として用いられている鉱油系及び/又は合成油系基油を用いることができる。
鉱油系基油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱瀝、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の潤滑油基油や溶剤脱蝋で得たワックスを異性化、脱蝋して得られる潤滑油基油が使用できる。鉱油系基油の動粘度は、通常、100℃において、好ましくは2〜7mm2/s、より好ましくは3〜5mm2/sの範囲から選定するとよい。粘度指数は80以上が好ましく、特には100以上が好ましい。
【0015】
合成油系基油としては、例えば、ポリ−α−オレフィン(1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等)及びその水素化物、イソブテンオリゴマー及びその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル、ポリオールエステル、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、並びにポリフェニルエーテル等が好適に使用できる。
【0016】
潤滑油基油には、粘度指数向上剤を含有させてもよい。粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物等のいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させた、いわゆる分散型粘度指数向上剤、さらには非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等、一般の潤滑油で粘度指数向上剤として使用されているものを用いることができる。
これらの粘度指数向上剤の中から適宜選定した1種あるいは2種以上を、効果を発揮する適切な量で含有させることができるが、その量は、通常、組成物全量基準で1〜20質量%の範囲で選定することが好ましい。粘度指数向上剤を含めた潤滑油基油の100℃における動粘度は4〜10mm2/sが好ましく、特には5〜9mm2/sが好ましく、また粘度指数は120以上が好ましく、特には140以上が好ましい。
【0017】
潤滑油基油は、組成物(すなわち無段変速機油組成物)全量基準で通常、多くとも98質量%が好ましく、特に好ましくは98〜62質量%が用いられる。これら潤滑油基油の動粘度は、無段変速機の種類に合わせて上記の範囲で適宜選定すればよい。
【0018】
〔リン化合物〕
本発明は、下記一般式(1)に示されるリン化合物を少なくとも1種含有する。
【0019】
【化2】

【0020】
一般式(1)において、R1、R2、R3及びR4の官能基は、それぞれ独立してヒドロカルビル基又は水素原子である。ただし、R1、R2、R3及びR4が全て水素であることはない。ヒドロカルビル基としてはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基等が挙げられ、炭素数は1〜30、好ましくは1〜20、特に好ましくは3〜9である。R1、R2、R3及びR4は同一であってもよいし、各々が異なっていてもよい。またR5はヒドロカルビレン基を示す。ヒドロカルビレン基としてはアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、アルキルアリーレン基等が挙げられ、炭素数は1〜30、好ましくは1〜20、特に好ましくは3〜9である。X1及びX2は酸素原子又は硫黄原子を示し、nは1〜10の整数を表し、好ましくは1〜5の整数、特に好ましくは1〜3の整数である。また、n個のR4、R5及びX2もそれぞれ同一でもよいし、異なっていてもよい。特には、上記式(1)中のX1、X2が酸素原子、R1、R2、R3、R4がフェニル基、R5がフェニレン基、nが1からなるテトラフェニル(m−フェニレン)ビスホスフェートが好ましい。
上記一般式(1)に示されるリン化合物は、特許第3199844号公報に合成方法が記載され、これに基いて合成することができるが、また、この化合物は、合成樹脂の難燃剤として広く知られており(例えば、特開2003−192919号公報参照)、その一部は市販されているので、これらから適宜選択して用いるとよい。
なお、本発明においては、一般式(1)で表せるリン化合物を少なくとも1種類含有していればよく、これ以外のリン化合物、例えば分子内に一つのリン元素を含むリン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、及びこれらのアミン塩等、さらには分子内に硫黄元素をも含むチオリン酸エステル等の一般の潤滑油で摩耗防止剤として使用されているものを混合して用いることもできる。
【0021】
一般式(1)に示したリン化合物は、該リン化合物由来のリン元素質量として、組成物全量基準で0.005〜0.15質量%、好ましくは0.005〜0.10質量%含有されるよう配合する。また組成物に含まれるリン元素全体の質量割合としては、組成物全量基準で0.01〜0.15質量%含有されることが好ましく、特に好ましくは0.01〜0.10質量%である。このリン元素量が0.005質量%より少ないと金属間摩擦係数の向上作用が小さく、摩耗防止性も不十分である。一方、0.15質量%を超えると材料適合性が悪化する。
【0022】
〔硫黄化合物〕
本発明の無段変速機油組成物は、硫黄化合物の少なくとも1種類を含有する。該硫黄化合物は、1分子内にS−S結合、S−P結合、S=P結合、S−C結合、及びS=C結合の何れかを1つ以上有し、かつ金属元素を含有しない化合物である。具体的な化合物の例として1分子内にS−S結合とS−C結合を含むポリスルフィド化合物(R−Sn−R)の一種であるジベンジルジスルフィドや、1分子内にS−P結合を含むチオリン酸エステル化合物((R−X)3−P=X、但しXは酸素もしくは硫黄で、4つのXのうち少なくとも1つは硫黄)の一種であるトリラウリルトリチオホスフェートが挙げられる。その他にもスルフィド化合物(R−S−R)、スルホキシド化合物(R−S(=O)−R)、スルホン化合物(R−S(=O)2−R)、ポリスルホン化合物(R−[S(=O)2n−R)、チアゾール化合物、チアジアゾール化合物、チオール化合物(R−SH)、チオケトン化合物(R−C(=S)−R)、チオ亜リン酸エステル化合物((R−X)3−P、但しXは酸素もしくは硫黄で、3つのXのうち少なくとも1つは硫黄)、などの化合物が挙げられる。上記硫黄化合物のうち、特にポリスルフィド化合物、チオリン酸エステル化合物、チオ亜リン酸エステル化合物が好ましい。また上記硫黄化合物中のRは炭化水素基を表し、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基等が例として挙げられ、炭素数は好ましくは1〜30、より好ましくは1〜20のものである。
これらの硫黄化合物は、例えばギヤ油、金属加工油、作動油、自動変速機油などの各種潤滑油に極圧剤などとして添加される市販されているものの中から選定すればよい。なお、これらの硫黄化合物はそれぞれ単独で使用することも、2種以上を混合して使用することもできる。
【0023】
硫黄化合物は、該硫黄化合物由来の硫黄量として組成物全量基準で0.001〜0.15質量%、特には0.005〜0.10質量%配合することが好ましい。この硫黄化合物の含有量が、この硫黄量が0.005質量%より少ないと十分な金属間摩擦係数向上効果を得られなくなる。一方、0.15質量%を超えると酸化安定性、及び耐摩耗性が低下する。また組成物全体の硫黄元素含有量としては、組成物全量基準で0.005〜0.20質量%となるようにすることが好ましく、特には0.01〜0.15質量%が好ましい。
【0024】
〔コハク酸イミド系分散剤〕
本発明に用いると好ましいコハク酸イミド系分散剤は、コハク酸イミド化合物を主成分とするものであり、このようなコハク酸イミド化合物は、イミド化に際してポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した下記一般式(2)のような、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した下記一般式(3)のような、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドがあり、更にそれぞれにホウ素を含有しているものがある。
【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
なお、上記一般式(2)及び(3)中、R6、R7及びR8は、それぞれ独立してアルキル基又はアルケニル基を示し、aは1〜10、好ましくは2〜5の整数、bは1〜10、好ましくは2〜5の整数を示す。
本発明においては、これらの中から選ばれるいずれの分散剤も使用可能であり、例えばギヤ油、金属加工油、作動油、自動変速機油などの各種潤滑油に使用されている無灰分散剤として市販されているものの中から選定すればよい。これらの分散剤はそれぞれ単独で使用することも、2種以上を混合して使用することもできる。
上記コハク酸イミド系分散剤の含有量は、組成物全量基準で0.5〜10.0質量%が好ましく、特には2.0〜8.0質量%が好ましい。
【0028】
〔アルカリ土類金属系清浄剤〕
本発明に用いると好ましいアルカリ土類金属系清浄剤は、潤滑油劣化時の無段変速機におけるベルト又はチェーンとプーリー間の摩擦係数の滑り速度依存性を低減し、金属間摩擦特性を向上させることを可能する。このアルカリ土類金属系清浄剤として、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属を含有するスルフォネート、フェネート、サリシレートを用いることができる。またそれぞれに高い塩基価(BN)を有する、いわゆる過塩基性の金属系清浄剤、もある。本発明においては、これらの中から選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属系清浄剤等、一般の潤滑油で金属系清浄剤として使用されているものを用いることができる。
【0029】
これらの金属系清浄剤は、組成物全量基準で0.05〜1.0質量%含有することが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5質量%含有される範囲で配合する。こうすることにより摩擦係数を高めて、無段変速機性能の著しい向上を図ることができる。この範囲の含有量であれば、長期間使用後の潤滑油組成物でも高い金属間摩擦係数を保持することができ、かつ潤滑油の酸化安定性を損なうことはない。
【0030】
〔ジアルキルジチオリン酸亜鉛〕
本発明の無段変速機油組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を実質的に含有しない。なお、ここで、実質的に含有しないとは、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を全く含有しないか、又は含有しても、潤滑油劣化時にクラッチ板の目詰まりを引き起こし、その機能を損なわせることがない量以下、具体的には組成物全量基準で亜鉛元素量として0.001質量%以下であることを意味しているが、全く含有しないことがより好ましい。
【0031】
〔他の添加剤〕
本発明の無段変速機油組成物には、上記添加剤以外に、更に酸化防止剤、流動点降下剤、摩擦調整剤等を配合することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系化合物やアミン系化合物等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば特に使用することに支障はない。具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等のアルキルフェノール類、メチレン−4,4−ビスフェノール(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)等のビスフェノール類、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン類、ジアルキルジフェニルアミン類、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)脂肪酸(プロピオン酸等)と1価又は多価アルコール、例えばメタノール、オクタデカノール、1,6−ヘキサジオール、ネオペンチルグリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等とのエステル等が好適である。これらの酸化防止剤の中から適宜選定した1種又は2種以上の化合物を、含有させることができるが、通常その量は組成物全量基準で0.1〜2質量%の範囲で選定とすることが好ましい。
【0032】
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩等が挙げられる。これらの摩擦調整剤の中から適宜選定した1種或いは2種以上の化合物を、任意量、含有させることができるが、通常その量は組成物全量基準で0.1〜2質量%の範囲で選定することが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に制限されるものではない。
〔無段変速機油組成物の調製〕
下記の潤滑油基油及び添加剤を用いて、実施例1〜6及び比較例1〜5の無段変速機油組成物を、表1の上部に示す配合割合(添加量は組成物全量基準での質量%)でそれぞれ混合して調製した。
【0034】
〔潤滑油基油〕
O−1;水素化精製基油(100℃の動粘度:4.3mm2/s、粘度指数:124)
【0035】
〔添加剤〕
(i)一般式(1)に示したリン化合物
P−1;テトラフェニル(m−フェニレン)ビスホスフェート(一般式(1)において、R1=R2=R3=R4=フェニル基,R5=フェニレン基,X1=X2=O,n=1の化合物)
(ii)本発明品以外のリン化合物
P−2;トリクレジルホスフェート
【0036】
(iii)硫黄化合物
S−1;ジベンジルジスルフィド
S−2;トリラウリルトリチオホスフェート
S−3;トリフェニルホスホロチオネート
S−4;エチル−3−[{ビス(1−メチルエトキシ)ホスフィノチオイル}チオ]プロピオネート
【0037】
(iv)コハク酸イミド系分散剤
I−1;ホウ素非含有コハク酸イミド(モノタイプ)
【0038】
(v)アルカリ土類金属系清浄剤
C−1;過塩基性Caスルフォネート(TBN:300)
【0039】
(vi)その他の添加剤
酸化防止剤、腐食防止剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、摩擦調整剤からなる群のうち1種又は2種以上選択して組み合わせたもので、全実施例及び比較例にて共通の組成である。
【0040】
〔評価〕
ASTM D2174に記載のブロックオンリング試験機(LFW−1)を用いて、無段変速機油の摩擦係数(μ60)とブロックの摩耗痕幅を、次に示した測定条件で測定した。測定結果を表1に示す。この試験における摩擦係数が大きいものほど、無段変速機において伝達効率が高く、無段変速機油として優れている。
【0041】
試験条件:
リング:Falex S-10 Test Ring (SAE4620 Steel)
ブロック:Falex H-60 Test Block (SAE01 Steel)
温度:80℃
荷重:445N
滑り速度:0.33m/s
試験時間:60分間
摩擦係数:開始から60分後(試験終了直前)に測定
摩耗痕幅:試験終了後にブロックの摩耗痕幅を測定
【0042】

【表1】

【0043】
これらの結果から明らかなように、一般式(1)に示したリン化合物及び硫黄化合物を含有しない比較例3は60分後の摩擦係数(μ60)が0.133であるのに対し、該リン化合物を含有する比較例1及び2は、μ60が0.152と明らかに高いことが分かる。一方、硫黄化合物を含有していても該リン化合物を含有しない比較例4、5は比較例3からわずかにμ60が上昇しているものの、比較例1、2と比較すると明らかに低い。これらに対し、本発明である該リン化合物及び硫黄化合物を含有する実施例1〜6は全てのμ60が0.16を超えており、非常に高い摩擦係数を発現していることが分かる。一方、実施例及び比較例で、摩耗痕幅の大きな差は見られず、この摩耗痕幅から十分に優れた耐摩耗性を有していることが分かる。また、実施例1〜6の無段変速機油組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などの潤滑油劣化時にクラッチ板の目詰まりを引き起こしやすい添加剤を配合していないことから長期間使用してもクラッチ板の目詰まりなどのトラブルは生じないものと予想される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の無段変速機油組成物は高い摩擦係数を有し、クラッチ板の目詰まりを引き起こす添加剤などを含有しないので、自動車用の変速機として優れた省燃費性で注目されている金属ベルト式又は金属チェーン式の無段速変速機のための潤滑油組成物として有用に使用され、長期間トラブルを起こさず、エネルギーの有効活用に資するものと期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、(A)下記一般式(1)で表されるリン化合物の少なくとも1種を、該リン化合物由来のリン量として組成物全量基準で0.005〜0.15質量%、及び(B)1分子内にS−S結合、S−P結合、S=P結合、S−C結合、及びS=C結合の何れかを1つ以上を有し、かつ金属元素を含有しない硫黄化合物の少なくとも1種を、該硫黄化合物由来の硫黄量として組成物全量基準で0.005〜0.15質量%含有することを特徴とする無段変速機油組成物。
【化1】

(一般式(1)中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ個別に水素原子、又は炭素数が1〜30のヒドロカルビル基を示し、R5は炭素数が1〜30のヒドロカルビレン基を示し、X1及びX2はそれぞれ個別に酸素原子、又は硫黄原子を示し、nは1〜10の整数を表す。)
【請求項2】
硫黄化合物が、ポリスルフィド化合物、チオリン酸エステル化合物、チオ亜リン酸エステル化合物の少なくとも1種である請求項1に記載の無段変速機油組成物。
【請求項3】
コハク酸イミド系分散剤を組成物全量基準で0.5〜10.0質量%含有する請求項1又は2に記載の無段変速機油組成物。
【請求項4】
アルカリ土類金属系清浄剤を組成物全量基準で0.05〜1.0質量%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の無段変速機油組成物。

【公開番号】特開2011−162617(P2011−162617A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24958(P2010−24958)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】