説明

無水アルコールの精製方法および無水アルコール精製用の装置

【課題】大量のアルコールを扱う場合にあってもコスト面および安全面で問題とならず、アルデヒドのみを選択的に除去することを可能にする方法およびそのための装置を提供する。
【解決手段】含水アルコールから無水化高純度アルコールを精製する方法において、アルデヒド前処理装置(2)にて該含水アルコールをアルデヒド変換触媒と接触させることにより該含水アルコールに含まれるアルデヒドを低減させる工程と、ゼオライト充填塔(3)にてアルデヒドが低減した含水アルコールを無水化することにより精製する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とうもろこし、さとうきび等のバイオマス原料を発酵させることにより生成する含水エタノール等の含水アルコールから無水アルコールを精製する方法および無水アルコール精製用の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
含水アルコール(エタノール等)を無水化して高純度アルコールを精製する方法として蒸留とPSA(Pressure Swing Adsorption)法または分離膜法とを組み合わせた方法が知られている。
【0003】
しかしながら、アルコールに含まれるアルデヒドにより、PSA法または分離膜法に用いられる例えばゼオライトの表面や細孔内で化学反応が起こる。こうした化学反応により重合した化合物が形成され、この重合化合物はゼオライト表面の親水性を低下させると共に、細孔を閉塞させるため、分離精製効率が著しく低下する。
【0004】
こうしたアルコール中に含まれるアルデヒドの処理方法の1つとして、アルコールとアルデヒドの沸点差を利用した蒸留法が知られている。
【0005】
しかし、アルコールとアルデヒドの沸点差は非常に小さいため、微少量のアルデヒドを効率的に除去することは困難である。
【0006】
アルコール中に含まれるアルデヒドの他の処理方法として、水素を添加接触させることによりアルデヒドをアルコールに還元して除去する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−196778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アルコールに水素を添加する方法では、工業的に大規模な量のアルコールを処理するために、水素消費量が膨大となることからコスト的に不利な面が多く、また、可燃性ガスである水素を取り扱わなければならないために、使用する設備関係の安全面への対策も必要となっており、その方法を実施することは容易ではない。
【0009】
また、上記のような高純度アルコールの精製においては、アルコールに含まれるアルデヒドは微少量であるため、アルデヒドのみを選択的に除去することは困難であった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、大量のアルコールを扱う場合にあってもコスト面および安全面で問題とならず、アルデヒドのみを選択的に除去することを可能にする方法およびそのための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、含水アルコールから無水化高純度アルコールを精製する方法において、該含水アルコールをアルデヒド変換触媒と接触させることにより該含水アルコールに含まれるアルデヒドを低減させる工程と、該含水アルコールを無水化することにより精製する工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記アルコールは、バイオマス原料を発酵させることにより得られるエタノールである。
【0013】
好ましくは、前記アルデヒド変換触媒は、酸化ジルコニウムである。
【0014】
好ましくは、前記アルデヒド変換触媒は、活性促進化合物を担持した酸化ジルコニウムである。
【0015】
好ましくは、前記活性促進化合物は、硫酸、タングステンおよびモリブデンから選択される少なくとも1種である。
【0016】
好ましくは、前記活性促進化合物の担持量は、前記アルデヒド変換触媒の最終重量全体に対して3〜15重量%である。
【0017】
好ましくは、前記含水アルコールの無水化の工程は、ゼオライトを用いて行う。
【0018】
好ましくは、前記アルデヒドを低減させる工程において要する反応温度は、蒸留塔の塔圧、蒸留塔から出たエタノールの凝縮熱により調整するか、または蒸留液を蒸留塔コンデンサの冷却水によって冷却することにより調整される。
【0019】
また、本発明は、含水アルコールから無水化高純度アルコールを精製する装置であって、含水アルコール中のアルデヒドをアセタールに変換するアルデヒド変換触媒を充填したアルデヒド前処理装置と、該含水アルコールを無水化するための分離材を備えた精製装置とを備えた、装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、水を分離・除去することにより精製するためにゼオライト等の分離用の膜に含水アルコールを接触させる前に、酸化ジルコニウムまたは硫酸、タングステン、モリブデンのうち少なくとも1種を担持させた酸化ジルコニウムを用いて、含水アルコールに含まれるアルデヒド類をアセタール化することによって含水アルコール中のアルデヒド濃度を低減させることができ、分離膜の表面およびその細孔内へのアルデヒド類の吸着・拡散を防止し、分離膜の分離精製効率の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の含水アルコールから無水化高純度アルコールを精製する方法を実施するための装置の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明の含水アルコールから無水化高純度アルコールを精製する方法を実施するための装置の他の例を示すフロー図である。
【図3】本発明の含水アルコールから無水化高純度アルコールを精製する方法を実施するための装置の他の例を示すフロー図である。
【図4】本発明の含水アルコールから無水化高純度アルコールを精製する方法を実施するための装置の他の例を示すフロー図である。
【図5】実施例1の結果を示すグラフである。
【図6】実施例2の結果を示すグラフである。
【図7】実施例3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の含水アルコールから無水化高純度アルコールを精製する方法を実施するための装置の一例を示すフロー図である。
【0024】
図1に示す装置は、蒸留塔(1)と、アルデヒド前処理装置(2)と、ゼオライト充填塔(3)とを備えている。
【0025】
蒸留塔(1)には、精製対象のアルコールが導入される。本発明において精製対象とするアルコールは、微少量のアルデヒドを含む含水のアルコールであれば特に限定されないが、例えば、とうもとこし、さとうきび等のバイオマス原料を発酵処理することにより得た発酵エタノールが挙げられる。このような発酵エタノールには、エタノールに沸点が比較的近い水および微少量のアルデヒドが含まれている。
【0026】
蒸留塔(1)の塔頂から出た蒸気状の含水エタノールは、アルデヒド前処理装置(2)中に通されて、ここで、含水エタノール中のアルデヒドがアセタールに変換される。
【0027】
アルデヒド前処理装置(2)中には、アルデヒドをアセタールに変換するためのアルデヒド変換触媒が充填されている。アルデヒド変換触媒としては、酸化ジルコニウムが挙げられる。酸化ジルコニウムには、さらに、硫酸、タングステンおよびモリブデンから選択される少なくとも1種である活性促進化合物が担持されてもよい。このような活性促進化合物の担持量は、アルデヒド変換触媒の最終重量全体に対して3〜15重量%である。
【0028】
また、アルデヒド前処理装置(2)中に充填される上記アルデヒド変換触媒は、球形、タブレット、ラッシヒリング等の成形型または粉体状であってよく、または、ハニカム表面に薄膜状に貼り付けられたものであってもよい。
【0029】
アルデヒド前処理装置(2)から出た含水アルコール中に含まれるアルデヒドはアセタールに変換されている。続いて、含水アルコールは、ゼオライト充填塔(3)に通される。
【0030】
ゼオライト充填塔(3)には、水を細孔中に吸着することができるゼオライトが充填されている。ゼオライトは、球形、タブレット、ラッシヒリング等の成形型であってもよい。
【0031】
なお、本実施の形態では、ゼオライトによりアルコールを脱水する最終精製を行うこととしたが、ゼオライトに限られず、水の除去に用いられ得る他の分離用の材料を用いるようにしてもよい。
【0032】
ゼオライト充填塔(3)を通過することにより、含水アルコール中の水分はゼオライトに吸着される。アセタールは、アルデヒドとは異なり反応基(−OHまたは−CHO)がなく、また、分子径も大きいために、ゼオライト表面およびその細孔に対する悪影響は少ないと考えられ、ゼオライトの表面上をそのまま通過していく。したがって、アルデヒドがゼオライトの細孔において反応を生じさせ細孔を閉塞させるという従来の問題が上記装置では解消される。
【0033】
ゼオライト充填塔(3)の出口から、水分が除かれた無水化高純度エタノールが取り出され、本実施の形態の方法は終了する。
【0034】
上記の本発明の実施の形態は例示に過ぎず、図2〜4には本発明の他の実施の形態のフロー図が例示されている。
【0035】
なお、図2〜4において、図1の装置と同様の構成要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0036】
図2に示す実施形態では、図1のゼオライト充填塔(3)の代わりにゼオライト膜反応塔(4)が設置されている。この実施の形態のゼオライト膜反応塔(4)では、多孔質セラミックの表面にゼオライトを層状に形成した反応膜が内部に設置されている。
【0037】
上記図1および図2の実施形態のように、蒸留塔(1)とゼオライト充填塔(3)またはゼオライト膜反応塔(4)との間にアルデヒド前処理装置(2)を設置することが効果的である。
【0038】
図3および図4に示す別の実施形態では、蒸留塔(1)から貯留タンク(5)に含水アルコールを凝縮させ、凝縮された含水アルコールをアルデヒド前処理装置(2)に導入する方式となっている。
【0039】
上記の各実施形態において、ゼオライト前処理装置(2)内におけるアルデヒド変換反応に要する温度は、蒸留塔(1)の塔圧、蒸留塔(1)から出たエタノールの凝縮熱(図3および4)により調整するか、または蒸留液を蒸留塔コンデンサの冷却水によって冷却することにより調整される。
【0040】
上記の各実施形態におけるアルデヒド前処理装置(2)の設置位置はゼオライト充填塔(3)またはゼオライト膜反応器(4)へ流入するアルデヒドの濃度を低減させることができれば十分であるので、上記の例示に限定されず、他の設置位置であってもよい。
【0041】
以下、本発明の方法および装置に関し、アルデヒド前処理装置(2)を設置することによる効果を具体的に説明するための実施例を行ったので、以下、その説明をする。
【0042】
(実施例1:触媒種によるアルデヒド低減効果)
600ppmのアルデヒドを含む90重量%エタノール水溶液を、種々のアルデヒド変換触媒種と接触させた。
【0043】
その際の反応条件は、以下の通りである。
【0044】
・反応温度:70℃
・反応時間:5時間
・触媒量:1.0g
・供試液量:10mL
また、本実施例1において用いられた触媒は、酸化ジルコニウム(ZrO)、硫酸担持酸化ジルコニウム(SO/ZrO)、タングステン担持酸化ジルコニウム(WO/ZrO)またはモリブデン担持酸化ジルコニウム(MoO/ZrO)であり、硫酸等の活性促進化合物の担持量は、触媒の最終重量全体に対して10重量%であった。
【0045】
上記の条件にて600ppmのアルデヒドを含む90重量%エタノール水溶液に各種のアルデヒド変換触媒を接触させ、反応後の各成分の濃度を測定した。測定は、 (株)島津製作所製ガスクロマトグラフGC-2014により行った。
【0046】
各成分の濃度の測定後、濃度変化率を算出した。算出式は、下記の通りである。
【0047】
濃度変化率=100−{(初期濃度−反応後濃度)/初期濃度×100}
上記反応実施の結果を図5に示す。
【0048】
図5のグラフに示す通り、反応系において多量のエタノールおよび水に対する濃度変化は僅かであり、エタノール精製工程の条件であるアルデヒド濃度の低減を選択的に行うことができた。
【0049】
(実施例2:担持量の効果)
実施例1と同様の供試液を、活性促進化合物の担持量を種々変更したアルデヒド変換触媒と接触させた。
【0050】
その際の反応条件は、実施例1と同様とした。
【0051】
また、活性促進化合物としてタングステン(WO)を担持させ、その担持量を、3〜20重量%とした5種の触媒を用いた。
【0052】
上記の条件にて600ppmのアルデヒドを含む90重量%エタノール水溶液に各種のアルデヒド変換触媒を接触させ、反応後の各成分の濃度を測定した。測定は、実施例1と同様にして行った。
【0053】
各成分の濃度の測定後、アルデヒド除去率を算出した。算出式は、下記の通りである。
【0054】
アルデヒド除去率=(初期濃度−反応後濃度)/初期濃度×100
上記各反応を実施した結果を図6に示す。
【0055】
図6に示される通り、酸化ジルコニウムはアルデヒドに対してほぼ選択的に反応するが、この反応性を高めるためには、活性促進化合物を担持させることによりさらに高い酸性点を酸化ジルコニアの表面に発現させることが望ましいことが分かった。
【0056】
図6に示される結果によると、活性促進化合物の担持量が3〜15重量%であるときに、アルデヒド濃度低減効果に優れており、担持量がこの範囲であれば、固体超強酸性点の発現が効率的に得られ、この超強酸点がアルデヒドに対して選択的に作用してアルデヒド濃度を低下させるものと考えられる。
【0057】
(実施例3:反応温度の効果)
実施例1と同様の供試液を、一定のアルデヒド変換触媒と接触させるが、反応温度を種々変更した。
【0058】
反応温度以外の反応条件は実施例1と同様とした。
【0059】
また、アルデヒド変換触媒として、酸化ジルコニウムを用いた。
【0060】
上記の条件にて600ppmのアルデヒドを含む90重量%エタノール水溶液を、各種の温度にてアルデヒド変換触媒と接触させ、反応後の各成分の濃度を測定した。測定は、実施例1と同様にして行った。
【0061】
各成分の濃度の測定後、アルデヒド除去率を算出した。算出式は、下記の通りである。
【0062】
アルデヒド除去率=(初期濃度−反応後濃度)/初期濃度×100
上記各反応を実施した結果を図7に示す。
【0063】
図7に示されるグラフの通り、アルデヒド濃度低減の良好な効果を得ることができるのは、反応温度が50〜80℃であるときであり、この温度範囲であれば、アルデヒドが選択的にアルデヒド変換触媒と反応することができ、触媒による他の副反応が極めて低く抑えることができると考えられる。
【符号の説明】
【0064】
1 蒸留塔
2 アルデヒド前処理装置
3 ゼオライト充填塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水アルコールから無水化高純度アルコールを精製する方法において、
該含水アルコールをアルデヒド変換触媒と接触させることにより該含水アルコールに含まれるアルデヒドを低減させる工程と、
該アルデヒドが低減した含水アルコールを無水化することにより精製する工程と
を含むことを特徴とする無水アルコール精製方法。
【請求項2】
前記アルコールは、バイオマス原料を発酵させることにより得られるエタノールである、請求項1に記載の無水アルコール精製方法。
【請求項3】
前記アルデヒド変換触媒は、酸化ジルコニウムである、請求項1または2に記載の無水アルコール精製方法。
【請求項4】
前記アルデヒド変換触媒は、活性促進化合物を担持した酸化ジルコニウムである、請求項1または2に記載の無水アルコール精製方法。
【請求項5】
前記活性促進化合物は、硫酸、タングステンおよびモリブデンから選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の無水アルコール精製方法。
【請求項6】
前記活性促進化合物の担持量は、前記アルデヒド変換触媒の最終重量全体に対して3〜15重量%である、請求項4または5に記載の無水アルコール精製方法。
【請求項7】
前記含水アルコールの無水化の工程は、ゼオライトを用いて行う、請求項1〜6のいずれか1つに記載の無水アルコール精製方法。
【請求項8】
前記アルデヒドを低減させる工程において要する反応温度は、蒸留塔の塔圧、蒸留塔から出たエタノールの凝縮熱により調整するか、または蒸留液を蒸留塔コンデンサの冷却水によって冷却することにより調整する、請求項1〜7のいずれか1つに記載の無水アルコール精製方法。
【請求項9】
含水アルコールから無水化高純度アルコールを精製する装置であって、
含水アルコール中のアルデヒドをアセタールに変換するアルデヒド変換触媒を充填したアルデヒド前処理装置と、
該含水アルコールを無水化するための分離材を備えた精製装置と
を備えた、無水アルコール精製装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−105601(P2011−105601A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258768(P2009−258768)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】