説明

無水銀セラミックメタルハライドランプ

【課題】垂直点灯時における放電容器の過熱を抑え、クラックなどの不具合の発生が抑制された無水銀セラミックメタルハライドランプを提供する。
【解決手段】下側電極の体積が上側電極の体積より大きい無水銀セラミックメタルハライドランプの電極に流れる単位時間あたりの電気量を、上側電極から下側電極に流れる電気量よりも下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくした交流波形で点灯することにより、放電容器上下での温度差を抑制し、クラックの発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本質的に水銀を含まない無水銀セラミックメタルハライドランプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への意識の高まりから、本質的に水銀を含まない無水銀高圧放電ランプが開発されている(特許文献1参照)。この高圧放電ランプは、石英ガラス製の放電容器を備え、1気圧以上の希ガスを封入したり、水銀の代わりに亜鉛などの蒸気圧の高いハロゲン化物を封入することにより、発光管内の蒸気圧を高め、ランプ電圧を確保し、発光特性の向上を図っている。この石英ガラス製放電容器を使用した無水銀高圧放電ランプは、自動車用前照灯などにおいて実用化されている。
【0003】
一方、透光性セラミックス製放電容器を使用したセラミックメタルハライドランプが、長寿命、高効率などの特長を有しているため、道路、工場、スポーツ施設等の照明として広く利用されている。透光性セラミックス(多結晶アルミナなど)は、石英ガラスに比べ、耐食性、耐熱性に優れているため、種々の金属ハロゲン化物を封入物として利用できるため、高効率、高演色などの利点がある。
【0004】
また、プロジェクタ用放電ランプにおいては、垂直に配置する放電ランプの一対の電極に対して印加する交流駆動電圧のデューティー比を異ならせたランプ装置が開示されている(特許文献2)。上側電極の熱容量が下側電極の熱容量と同等もしくは大きく形成されており、上側電極の温度上昇を抑え、タングステンの蒸発による消耗を抑制し、ランプ寿命の長期化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−238488号公報
【特許文献2】特開2003−347071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらのセラミックメタルハライドランプにおいては、無水銀化を図る上で点灯するためのランプ電圧を確保する必要があるため、水銀の代わりに蒸気圧の高い金属ハロゲン化物を封入する。しかしながら、放電容器に透光性セラミックスを使用し、水銀を含まず水銀の代替として蒸気圧の高い金属ハロゲン化物を封入した無水銀セラミックメタルハライドランプを垂直点灯した場合においては、以下のような問題が発生した。
【0007】
蒸気圧の高い金属ハロゲン化物を封入したランプにおいては、アーク長に対するランプ電圧を十分に確保できるものの、水銀封入ランプに比べ発光管内の対流が激しくなるため、アークは不安定になり、このためアークの上方が太くなり、アークの曲がりなども見られるようになった。このようにアーク上方が太くなる現象や、アーク曲がりが生じると、アークがセラミック放電容器に近くなるため、アークの近くなった管壁は過熱され、放電容器上部での温度が上昇し、放電容器内の上下において大きな温度差が生じる。透光性セラミックは、石英ガラスに比べ耐食性、耐熱性においては優れているものの、このような発光管上部の過熱や発光管における大きな温度差が生じた場合に、放電容器にクラックが発生しやすい問題がある。
【0008】
そこで本発明は、無水銀セラミックメタルハライドランプを垂直点灯した場合において、放電容器の上部が過熱されることによる放電容器内の大きな温度差の発生を抑え、過熱による寿命中におけるクラックの発生を抑制することを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の請求項1記載の無水銀セラミックメタルハライドランプは、金属ハロゲン化物と希ガスを封入し水銀を含んでいないセラミック製放電容器と、前記セラミック製放電容器内に一対の電極を備え、垂直点灯時における前記一対の電極に流れる電気量が、単位時間あたりに上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくした交流点灯波形により点灯され、前記下側電極の体積が前記上側電極の体積よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、垂直点灯時における一対の電極に流れる電気量が、単位時間あたりに上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくした交流点灯波形により点灯されるので、下側電極に流れる電子の数が上側電極に流れる電子の数を上回る。これにより単位時間あたりに下側電極は上側電極よりも多くの電子の衝突を受けるため温度が高くなり放電容器の下部温度を上昇させる。このため放電容器内の大きな温度差の発生を抑制し、寿命中におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0011】
また、流れる電子の数が増えると電極温度が過度に上昇し電極が損耗する懸念があるが、下側電極は上側電極よりも大きな体積を有しているため、電子の衝突により電極が損耗することはない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る無水銀セラミックメタルハライドランプを示す断面図。
【図2】第1実施形態における点灯電流波形を示す図。
【図3】第2実施形態における点灯電流波形を示す図。
【図4】第3実施形態における点灯電流波形を示す図。
【図5】第4実施形態における点灯電流波形を示す図。
【図6】第5実施形態における点灯電流波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の無水銀セラミックメタルハライドランプを示す断面図である。
セラミックメタルハライドランプ1は、発光部2と両端に細管部3a、3bを備えている。細管部3a、3bには電極マウント4a、4bが挿入され、ガラスフリットにより封じられている。電極マウント4a、4bはタングステン製の電極5a、5b、モリブデン製のロッドにモリブデン製のコイルを巻き回した中間材6a、6b、導電性サーメットロッド7a、7b、モリブデン製の外部リード8a、8b、ニオブ製のストッパー9a、9bからなる。ストッパー9a、9bは、細管部の端部に電極マウント4a、4bを係止するためのもので、導電性サーメットロッド7a、7bにそれぞれ溶接されている。また導電性サーメットロッド7a、7bと外部リード8a、8bの周囲には、この部分が折損しないための補強部材としてアルミナ製の補強リング10a、10bが固着されている。
【0014】
発光部2は上下対称の略楕円形状をしており、内径8mm、内容積は0.35ccである。発光部2の内部には、ZnI5mgと希土類ハロゲン化物が封入されており、点灯電力70Wで点灯される。ZnIは蒸気圧が高く、水銀の代わりに封入することにより、ランプの点灯に必要なランプ電圧を確保することができるため、電極間距離は6mmであるが75Vのランプ電圧を得ることができる。このように蒸気圧が高くランプ電圧を確保するために封入される物質としては、ZnIの他にAl、Ga、In、Snなどのハロゲン化物を使用することができる。
【0015】
一般的に、高圧放電ランプを点灯するための交流波形は正弦波または矩形波であるが、本発明の無水銀セラミックメタルハライドランプにおいては、垂直点灯時における前記一対の電極に流れる電気量が、単位時間あたりに上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくした交流点灯波形により点灯されている。
【0016】
放電空間における上側電極の体積V、下側電極の体積V、単位時間に上側電極から下側電極に流れる電気量をQ、下側電極から上側電極に流れる電気量をQとしたとき、V/Vは0.5(Q/Q)≦V/V≦1.5(Q/Q)の範囲にあることが好ましく、更に0.2≦V/V≦0.8の範囲にあることが好ましい。
【0017】
本実施例においては、V=0.33mm、V=0.66mmであり、V/V=0.5となっている。各実施例の点灯波形はこの電極の体積を基準として決められたもので、電極体積を変更した場合には、点灯波形も適宜変更したほうが好ましい。
【0018】
以下本発明に係る無水銀セラミックメタルハライドランプの点灯電流波形に関して、添付の図面により詳細に説明する。点灯電流波形の図面においては、上側電極から下側電極に流れる電流を+側に、下側電極から上側電極に流れる電流を−側に表記している。
【実施例1】
【0019】
図2(a)は本発明の第1実施形態に係る無水銀セラミックメタルハライドランプの点灯電流波形である。
図2(a)に示すように、単位時間Tにおいて、上側電極から下側電極に電流が流れる時間をT、下側電極から上側電極に電流が流れる時間をTとしたとき、TをTよりも大きくし、デューティー比を変更したことを特徴とする。
【0020】
本実施例においては、点灯周波数は100Hzであり、単位時間Tは10msecである。Tは3.3msec、Tは6.7msecであり、上側電極から下側電極に流れる電流値と下側電極から上側電極に流れる電流値の電流値は同じであるため、Q/Qは0.5となる。
【0021】
本構成によれば、単位時間Tにおいて、下側電極に流れる電子の数が上側電極に流れる電子の数より大きくなるため、下側電極は上側電極よりも多くの電子の衝突を受け温度が上昇する。上側電極より下側電極の温度が上昇することにより放電容器内の上下温度差は抑制され、寿命中におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0022】
図2(a)は矩形波による例を示したが、矩形波に限らず図2(b)に示すような正弦波や図2(c)に示す三角波でもよい。
また、単位時間Tにおいて、下側電極から上側電極に電流が流れる時間Tが上側電極から下側電極に電流が流れる時間Tよりも大きくしてあればよく、本実施例に示した矩形波、正弦波、三角波に限定されるものではない。
【実施例2】
【0023】
図3(a)は本発明の第2実施形態に係る無水銀セラミックメタルハライドランプの点灯電流波形である。
図3(a)に示すように、上側電極から下側電極に流れる電流値をI、下側電極から上側電極に流れる電流値をIとしたとき、IをIよりも大きくしたことにより上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくする。
【0024】
本実施例においては、点灯周波数100Hzであり、Iは0.6A、Iは1.2Aであるため、Q/Qは0.5となる。
【0025】
図3(a)は矩形波による例を示したが、矩形波に限らず図3(b)に示すような正弦波や図3(c)に示す三角波でもよい。
また、下側電極から上側電極に流れる電流値Iが上側電極から下側電極に流れる電流値Iよりも大きくしてあればよく、本実施例に示した矩形波、正弦波、三角波に限定されるものではない。
【実施例3】
【0026】
図4(a)は本発明の第3実施形態に係る無水銀セラミックメタルハライドランプの点灯電流波形である。
図4(a)に示すように、破線で示した正弦波のベースとなる位置をプラス側にdIだけ移動させる。本実施例においては、dI=0.2Aである。本構成により、上側電極から下側電極に電流が流れる期間が短くなり、下側電極から上側電極に電流が流れる期間が長くなり、上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量は大きくなる。
【0027】
図4(a)は正弦波においてベースをプラス側に移動させ、上側電極から下側電極に電流が流れる期間を短くし、下側電極から上側電極に電流が流れる期間を長くしたが、図4(b)に示す三角波でもよい。
また、ベースをプラス側に移動させることにより、上側電極から下側電極に電流が流れる期間を短くし、下側電極から上側電極に電流が流れる期間が長くなればよく、ベースを移動させる前の電流波形は本実施例に示した正弦波、三角波に限定されるものではない。
【実施例4】
【0028】
図5(a)は本発明の第4実施形態に係る無水銀セラミックメタルハライドランプの点灯電流波形である。
図5(a)に示すように、下側電極から上側電極に流れる電流の電流波形が矩形波であり、上側電極から下側電極に流れる電流の電流波形が正弦波である。このとき正弦波のピーク電流値Iは矩形波の電流値Iと同じもしくは小さくなっている。
図5(a)の破線で示した矩形波11は下側電極から上側電極に流れる電流の電流波形を反転させたものであり、この反転させた領域内に上側電極から下側電極に流れる電流の電流波形である正弦波が収まる構成になっており、単位時間あたりの電気量が小さい。
【0029】
図5(a)は矩形波と正弦波の組み合わせを示したが、上側電極から下側電極に流れる電流の電流波形は正弦波に限らず、図5(b)に示す三角波でもよい。
また、下側電極から上側電極に流れる矩形波電流に対して組み合わせる上側電極から下側電極に流れる電流波形は、下側電極から上側電極に流れる矩形波電流よりも単位時間あたりの電気量が小さい電流波形であればよく、本実施例に示した正弦波、三角波に限定されるものではない。
【実施例5】
【0030】
図6(a)は本発明の第5実施形態に係る無水銀セラミックメタルハライドランプの点灯電流波形である。
図6(a)に示すように、時間T22は時間T11よりも長い時間としたとき、破線で示した正弦波12を複数の時間T11と時間T22に分割し、時間T11の期間において上側電極から下側電極に電流を流し、時間T22の期間において下側電極から上側電極に電流を流したことにより上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくする。ここでT11とT22の時間的な比率T11/T22は0.5である。
【0031】
図6(a)は正弦波12を分割した電流波形を示したが、分割する前の電流波形は正弦波に限らず、図6(b)に示す三角波でもよい。
また、複数の時間T11と時間T22に分割したとき、下側電極から上側電極に電流を流す時間T22が上側電極から下側電極に電流を流す時間T11よりも長ければよく、分割する前の波形は本実施例に示した正弦波、三角波に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0032】
1 セラミックメタルハライドランプ
2 発光部
3a,3b 細管部
4a,4b 電極マウント
5a,5b 電極
6a,6b 中間材
7a,7b 導電性サーメットロッド
8a,8b 外部リード
9a,9b ストッパー
10a,10b 補強リング
11 矩形波
12 正弦波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ハロゲン化物と希ガスを封入し水銀を含んでいないセラミック製放電容器と、前記セラミック製放電容器内に一対の電極を備え、垂直点灯時における前記一対の電極に流れる電気量が、単位時間あたりに上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくした交流点灯波形により点灯され、前記下側電極の体積が前記上側電極の体積よりも大きいことを特徴とする、無水銀セラミックメタルハライドランプ。
【請求項2】
前記単位時間あたりに上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくした交流点灯波形が、デューティー比を変更した交流点灯波形であることを特徴とする、請求項1記載の無水銀セラミックメタルハライドランプ。
【請求項3】
前記単位時間あたりに上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくした交流点灯波形が、上側電極から下側電極に流れる電流値よりも、下側電極から上側電極に流れる電流値を大きくした交流点灯波形であることを特徴とする、請求項1記載の無水銀セラミックメタルハライドランプ。
【請求項4】
前記単位時間あたりに上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくした交流点灯波形が、元となる点灯波形のベースをプラス側に移動させることにより、上側電極から下側電極に電流が流れる期間を短くし、下側電極から上側電極に電流が流れる期間を長くしたことを特徴とする、請求項1記載のセラミックメタルハライドランプ。
【請求項5】
前記単位時間あたりに上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくした交流点灯波形が、矩形波電流以外の波形であり、下側電極から上側電極に流れる矩形波電流よりも電流値を小さくして、下側電極から上側電極に流れる矩形波電流よりも電気量が小さい上側電極から下側電極に流れる電流波形と、下側電極から上側電極に流れる矩形波電流との組み合わせであることを特徴とする、請求項1記載のセラミックメタルハライドランプ。
【請求項6】
前記単位時間あたりに上側電極から下側電極に流れる電気量よりも、下側電極から上側電極に流れる電気量を大きくした交流点灯波形が、元となる点灯波形を、複数の時間T11と時間T22に分割し、T11の期間は上側電極から下側電極に電流を流し、T22の期間は下側電極から上側電極に電流を流すこととし、T22をT11よりも長くしたことを特徴とする、請求項1記載のセラミックメタルハライドランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−230796(P2012−230796A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97761(P2011−97761)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】