無水銀殺菌ランプおよび殺菌装置
【課題】従来の殺菌ランプよりも高い殺菌性を有する無水銀殺菌ランプを提供すること。
【解決手段】キセノンガスとヨウ素蒸気とが封入された放電容器16を有する無水銀殺菌ランプである誘電体バリア放電ヨウ化キセノンエキシマランプ10であって、放電容器16を、ヨウ素原子(I*)の発光波長領域の紫外線を透過する透光性材料で形成した。
【解決手段】キセノンガスとヨウ素蒸気とが封入された放電容器16を有する無水銀殺菌ランプである誘電体バリア放電ヨウ化キセノンエキシマランプ10であって、放電容器16を、ヨウ素原子(I*)の発光波長領域の紫外線を透過する透光性材料で形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水銀殺菌ランプおよび殺菌装置に関し、特に、キセノン(Xe)ガスとヨウ素蒸気とを放電媒体とする無水銀殺菌ランプ等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品包装材の殺菌や水の殺菌浄化等には、水銀蒸気が放電により発する紫外線を利用する低圧水銀ランプが用いられている。殺菌作用の分光特性が260[nm]付近にピーク値を有するため、253.7[nm]にピーク波長を有する低圧水銀ランプが適しているからである。
しかしながら、近年、環境保全の観点から水銀を用いない殺菌ランプが望まれており、その一つとして、ランプの放電容器にキセノン(Xe)ガスとヨウ素(I2)蒸気とが放電媒体として封入されたヨウ化キセノンランプが知られている(特許文献1)。当該ヨウ化キセノンランプは、ヨウ化キセノンのエキシマ発光(XeI,B→X遷移)のピーク波長が253[nm]であるため、前記低圧水銀ランプに代替するものとして期待されている。
【特許文献1】特開2002−18432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、食の安全性への関心の高まり等から、より高い殺菌性を有する殺菌ランプの開発が望まれている。この場合に、従来の殺菌ランプであれば、ランプへの投入電力を増大し、253[nm]およびその近傍の発光強度を高めることによっても殺菌力を増強することができるが、それでは、コストパフォーマンスが悪くなってしまう。
本発明は、上記した課題に鑑み、ランプへの投入電力を増大させることなく、それでいて高い殺菌性を有する無水銀殺菌ランプ、および当該無水銀殺菌ランプを有する殺菌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するため、本発明に係る無水銀殺菌ランプは、キセノンガスとヨウ素蒸気とが封入された放電容器を有する無水銀殺菌ランプであって、前記放電容器が、ヨウ素原子(I*)の発光波長領域の紫外線を透過する透光性材料で形成されていることを特徴とする。
また、前記透光性材料は、少なくとも178[nm]以上の波長領域の紫外線を透過することを特徴とする。
【0005】
さらに、前記透光性材料は、石英ガラスからなることを特徴とする。
上記の目的を達成するため、本発明にかかる殺菌装置は、上記した無水銀殺菌ランプと、当該無水銀殺菌ランプを点灯駆動する交流電源とを有し、前記交流電源が、40[Hz]〜80[kHz]の範囲の点灯周波数で前記無水銀殺菌ランプを点灯駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
上記構成からなる無水銀殺菌ランプによれば、253[nm]にピーク波長を有するヨウ化キセノンのエキシマ発光(XeI,B→X遷移)に加え、これよりも短波長領域に存する、ヨウ素原子(I*)が発する紫外線を殺菌対象に照射することができる。当該無水銀殺菌ランプが従来の低圧水銀ランプよりも高い殺菌性を示すことは、後述する実験により明らかになっている。これは、DNAの光吸収スペクトルのピーク波長が260[nm]付近に加え、200[nm]付近に存するところ、178[nm]〜188[nm]範囲と206.2[nm]で発光するヨウ素原子(I*)の紫外線が対象菌の殺菌に寄与しているからであると思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
<ランプ構成>
図1(a)は、実施の形態に係る誘電体バリア放電ヨウ化キセノンエキシマランプ10(以下、単に「ランプ10」と言う。)の概略構成を示す縦断面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるA・A線断面図である。なお、図1および後掲する図12において、各部材間の縮尺は統一していない。
【0008】
ランプ10は、内管12と外管14とが同軸上に配されてなる二重管構造をした放電容器16を有するランプである。内管12と外管14とは、溶融石英ガラスで形成されている。当該溶融石英ガラスの波長による紫外線透過率を図2において実線で示す。なお、この紫外線透過率については後述する。
図1に戻り、内管12と外管14の両端は閉じられていて(封止されていて)、両者の間で放電空間18が形成されている。外管14の外径と放電ギャップ長d(即ち、外管14の内径と内管14の外径との差の半分)については後述する。
【0009】
放電空間18には、放電用ガスとして、キセノン(Xe)ガスが、例えば、13.3[kPa]封入されている。
外管14の一端部外周には、有底筒状をしたヨウ素(I2)ガス導入管20(以下、単に「導入管20」と言う。)が設けられている。導入管20内部と放電空間18とは、外管14に開設された連通孔22を介して連通している。導入管20には、ランプ10の製造過程で所定量の固体ヨウ素(I2)がガラスカプセル24に封入された形で投入され、その後、当該ガラスカプセル24を割ることによって、固体ヨウ素I2が、ヨウ素蒸気(ガス)となって、放電空間18へと拡散していく。ランプ10の放電空間18には、前記キセノン(Xe)ガスに加え、ヨウ素(I2)蒸気が、例えば、0.04[kPa]封入されている。
【0010】
内管12の内周面に、内側電極26が設けられている。内側電極26は、金属製の円筒部材からなり、当該円筒状部材の外周面が内管12の内面に密着されて構成されている。当該円筒部材の構成については後述する。
一方、外管14の外周面には、外側電極28が設けられている。外側電極28は、0.1[mm]径のニッケル(Ni)線が、2[mm]ピッチで螺旋状に、管軸方向L1=10[cm]に渡って、外管14の外周面に密着して巻回されてなるものである。このような細い金属線を用いることで、放電空間18からランプ10外部へ放出される光の通過性を確保することができる。本例の場合、通過性は95[%]である。なお、ランプ10の有効発光領域(active area)は、管軸方向の外部電極28の長さ(L1)で規定される。
【0011】
本願発明者らは、基本的には上記の構成からなるランプ10を用い条件を種々に変えて実験を実施した。
<交流電源>
ランプ10には、内側電極26と外側電極28に接続された交流電源30によってランプ10を点灯させるために交流電力が供給される。用いた交流電源は以下の4つである。
【0012】
(1)AC電源PS0:型番As−114B(NF Electronic Instruments 社製)、仕様:U=0〜3.3[kVrms]、I=0〜20[mArms]、f=25[kHz]〜159.9[kHz]
(2)バイポーラ・パルス電源PS1:最大振幅U=0〜4.4[kV]、立上がり時間0.9[μs]、立下がり時間0.6[μs]、f=21.5[kHz]〜115[kHz]
(3)ユニポーラ・パルス電源PS2(高速高電圧トランジスタープッシュプルスイッチ型番・HTS 31-01-GSM (Behlke 社製)を使用):U=0〜3[kV]、立上がり時間60[ns]、立下がり時間40[ns]、f=10[kHz]
(4)ユニポーラ・パルス電源PS3(プッシュプルスイッチ・型番HTS 81-06-GSM (Behlke 社製)を使用):U=0〜8[kV]、立上がり時間160[ns]、立下がり時間60[ns]、f=10[kHz]〜80[kHz]
<ランプ実験>
(1)内側電極
内側電極26(図1)を構成する円筒部材に種々の金属材料を用い、その各々について効率を調べた。ここで、効率[%]とは、投入電力[W]に対する紫外線(UV)放射パワー[W]の比率をいう。当該放射パワーは、ランプ10から10[cm]の距離において、2×2[cm2]の光学絞り(diaphragm)を用いて測定した。なお、実験に供したランプ10における、キセノンとヨウ素の封入量は、Xe/I2=13.3[kPa]/0.04[kPa]である。また、交流電源には、前記AC電源PS0を用いた。
【0013】
準備した内側電極(円筒部材)は、以下の7種類である。
(a)Ni:厚さ0.1[mm]のニッケルの薄板を2枚重ね、これを円筒状に丸めたものを、内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。2枚重ねにしたのは、後記する銅およびアルミニウムの薄板との厚みを揃えるためである。
(b)Al foil:市販の食品パッケージ用アルミ箔(厚さ0.012[mm])の光沢面を外側にして円筒状に丸め、内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
【0014】
(c)Cu:銅の薄板(厚さ0.2[mm])を、円筒状に丸め、内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
(d)Al:円筒状に丸めたアルミニウムの薄板(厚さ0.2[mm])を、内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
(e)Al+Al foil:アルミニウムの薄板(厚さ0.2[mm])に、市販の食品パッケージ用アルミ箔(厚さ0.012[mm])の非光沢面側を重ねたものを、アルミ箔が外側になるように円筒状に丸め、これを内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
【0015】
(f)Cu+Al foil:銅の薄板(厚さ0.2[mm])に、市販の食品パッケージ用アルミ箔(厚さ0.012[mm])の非光沢面側を重ねたものを、アルミ箔が外側になるように円筒状に丸め、これを内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
(g)Ni+Al foil:ニッケルの薄板(厚さ0.1[mm]を2枚重ねたもの)に、市販の食品パッケージ用アルミ箔(厚さ0.012[mm])の非光沢面側を重ねたものを、アルミ箔が外側になるように円筒状に丸め、これを内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
【0016】
実験結果を図3に示す。
実験結果から(a)Ni、(c)Cu、(d)Alの中では、(d)Alが最も高い効率を示すことが分かる。これは、内側電極の紫外線(UV)反射率の違いに因るものであると思われた。そこで、本願発明者らは、(b)Al foilの内側電極の外周面をアクリルラッカーで黒く塗ったものを準備し、当該黒塗りの内側電極でも実験を行った(実験結果は不図示)。その結果、黒塗りの内側電極は、(b)Al foilの内側電極よりも紫外線(UV)放射パワーが20[%]少なくなることが分かった。これにより、内側電極の紫外線(UV)反射率が、効率に影響を及ぼすことが確認できた。
【0017】
また、(e)Al+Al foil、(f)Cu+Al foil、(g)Ni+Al foilの中では、(f)Cu+Al foilが最も高い効率を示すことが分かる。これは、エキシマ発光する放電媒体にあっては、過熱状態になると効率が低下するところ、内側電極の芯になっているAl,Ni,Cuの内、Cuが最も熱伝導率が良いので、適度な冷却効果が発揮されているためであると考えられる。
【0018】
以上、実験した範囲において、内側電極としては、(f)Cu+Al foilが最も適していると考えられる。なお、(e)Al+Al foil、(g)Ni+Al foilは、(f)Cu+Al foilよりも若干効率は下がるものの、実使用上は問題ないものと思われる。
上記の結果を踏まえ、以下の実験において内側電極は、(f)Cu+Al foilを用いた。
(2)放電ギャップ長d
本願発明者らは、異なる放電ギャップ長d(図1)のランプを作製し、その各々について紫外線(UV)放射パワー[mW]を測定し、比較した。放電ギャップ長dは、d=2[mm]、d=7.4[mm]とした。
【0019】
各々のギャップ長dに対応する外管と内管の寸法を以下に記す。
(i)放電ギャップ長d=2[mm]
外管:外径17.7[mm]、内径15.1[mm](肉厚1.3[mm])
内管:外径11.1[mm]、内径9.0[mm](肉厚1.05[mm])
(ii)放電ギャップ長d=7.4[mm]
外管:外径30.0[mm]、内径26.8[mm](肉厚1.6[mm])
内管:外径12.0[mm]、内径9.2[mm](肉厚1.4[mm])
また、本願発明者らは、放電ギャップ長が9[mm]のランプも作製した。
【0020】
(iii)放電ギャップ長=9[mm]
当該ランプは、二重管ではなく単管構造とした。上記(i),(ii)と同じ溶融石英ガラスからなるガラス管の両端が封止されてなる放電容器に上記(i),(ii)と同じ量のキセノン(Xe)ガスとヨウ素(I2)蒸気が封入されている。なお、当該ガラス管の外径は11.1[mm]、内径は9.0[mm](肉厚1.05[mm])である。
【0021】
放電容器の外周面には、長さ10[cm]、幅5[cm]のアルミニウムテープ2枚の各々を放電容器の長手方向に沿わせ、当該2枚が放電容器をはさんで対向するように貼着されている。当該アルミニウムテープが外部電極を構成している。なお、この場合の放電ギャップ長は、放電容器(ガラス管)の内径である9.0[mm]となる。
実験の結果、放電ギャップ長=2[mm]、放電ギャップ長=9[mm]のランプの紫外線(UV)放射パワー[mW]は、放電ギャップ長=7.4[mm]のランプの1/3〜1/5であることが分かった。すなわち、大きな紫外線(UV)放射パワー[mW]を得るためには、放電ギャップ長は、長すぎることは勿論、短すぎてもだめであることが判明した。
【0022】
以上の結果を踏まえ、以下の実験は、放電ギャップ長d=7.4[mm]のランプで実施した。
(3)交流電源
本願発明者らは、交流電源の波形や周波数の異なる電源でランプ10を点灯させ、投入電力[W]に対する単位面積当たりの紫外線(UV)放射パワー[mW/cm2]と効率[%]について調査した。なお、実験に供したランプ10における、キセノンとヨウ素の封入量は、Xe/I2=13.3[kPa]/0.04[kPa]である。
【0023】
使用した交流電源は、上述したAC電源PS0、バイポーラ・パルス電源PS1、ユニポーラ・パルス電源PS2、ユニポーラ・パルス電源PS3である。
実験結果を図4に示す。
図4から、AC電源PS0を用いて投入電力を増大させると、放射パワーは、略直線的に上昇することが分かる。
【0024】
また、ユニポーラ・パルス電源PS2を用いて得られる効率は、AC電源PS0を用いて得られる効率よりもはるかに高いことが分かる。
なお、図4には示していないが、ユニポーラ・パルス電源PS3を用い、周波数80[kHz]で点灯させたところ、10.3[mW/cm2]の放射パワーと5[%]〜8[%]の効率が得られた。
(4)キセノン封入圧
本願発明者らは、キセノン封入圧に対する紫外線(UV)パワーの変化の様子を調査した。キセノン封入圧(封入量)の異なる供試ランプを準備し、その各々を、バイポーラ・パルス電源PS1を用い、4.2[kV]、f=60[kHz]、デューティ比50[%]で点灯駆動した。
【0025】
ここで、ヨウ素(I2)の蒸気圧は0.04[kPa]と一定とし、キセノン(Xe)の封入圧[p(Xe)]を変化させた。
実験の結果、紫外線(UV)パワーは、キセノンの圧力が13〜14[kPa]までは、は単調に増加した後、減少に転じ、40[kPa]に達すると放電しなくなることが認められた。したがって、25[kPa]付近までの実験結果について図5に示す。
【0026】
12[kv]よりも低い低圧領域においては、一様な放電が認められた。12[kPa]〜15[kPa]の領域では、一様な放電に加え複数のフィラメント放電が認められた。15[kPa]を超えると複数の明るいフィラメント放電が認められ、その数はキセノン圧の上昇とともに減少した。
図5に示す実験結果から、ヨウ素(I2)の封入量が一定の場合には、キセノン(Xe)の封入量を12[kPa]以上15[kPa]以下に設定することが、多くの紫外線(UV)パワーを得るためには好ましいことが分かる。また、供試ランプの中では、13.3[kPa]のキセノン(Xe)の封入量(封入圧)のものの紫外線(UV)パワーが最高であった。
【0027】
以上の結果を踏まえ、以下の実験におけるキセノンの封入量(封入圧)は、13.3[kPa]とした。
(5)発光スペクトル
上記「(4)キセノン封入圧」の実験におけるキセノンの封入量(封入圧)が、13.3[kPa]の供試ランプの発光スペクトルを図6に、発光スペクトル(VUV〜UV領域)の強度分布値を図7に示す。なお、図6中、一点鎖線で示すのは、DNAの紫外線吸収率(相対値)曲線である。
【0028】
Xe/I2=13.3[kPA]/0.04[kPa]のランプ10の発光スペクトルは、図6に示すように、殺菌性のある領域(180[nm]〜300[nm])において、178[nm]〜188[nm](ピーク値:178.3[nm]、179.9[nm]、183.0[n
]、184.4[nm]、187.6[nm])の範囲と206.2[nm]とにヨウ素原子(I*)の発光、XeI(B→X、λmax=253[nm])、XeI(C→A、λmax=265[nm])にエキシマ発光、そして、270[nm]〜280[nm]の範囲でI2*の微かな発光が認められた。
【0029】
このように、ランプ10から178[nm]〜188[nm]、および206.2[nm]波長の紫外光が取り出せるのは、図2において実線で示した透過率曲線を有するガラス材料を外管14(図1)に用いたからである。
従来の殺菌用ヨウ化キセノンランプは、253.7[nm]にピーク波長を有する低圧水銀ランプの代替品との位置づけから、当該低圧水銀ランプに用いられるガラス材料をその放電容器に用いている。すなわち、253[nm]およびその付近の紫外光が透過すれば良いとの観点から、図2において、破線で示すような透過率曲線を有するガラス材料を使用している。なお、破線は、従来の殺菌ランプに用いられているガラス材料の代表的なものの一例として示す、Vycor 7913(コーニング社製)の透過率曲線である。
【0030】
破線の透過率曲線から分かるように、従来、殺菌ランプの放電容器に用いられているガラス材料は、200[nm]以下の紫外光をほとんど透過しない。
これに対し、実施の形態に係るランプ10の放電容器16(図1)は、178[nm]〜188[nm](ピーク値:178.3[nm]、179.9[nm]、183.0[n
]、184.4[nm]、187.6[nm])の範囲のヨウ素原子(I*)の発光による殺菌力をも利用すべく、実線で示すような、すくなくとも178[nm]以上の波長領域の紫外線を透過するガラス(以下、「供試ガラス」と言う。)材料を放電容器に用いることとしたのである。
【0031】
なお、放電容器に用いるガラス材料としては、図2の実線で示すものに限らず、短波長領域の紫外線の透過率がさらに高い、一点鎖線で示す透過率曲線を有するものを用いても良い。なお、一点鎖線は、実線よりもさらに高い透過率を有するガラス材料の一例として示す、Suprasil 311,312(ヘレウス社製)の透過率曲線である。
前記Suprasil 311,312は合成石英ガラスである。Vycor 7913と供試ガラスとは、共に溶融石英ガラスであるが、供試ガラスは、Vycor 7913よりも不純物をより多く除去したものであり、そのため、より短波長域の紫外線の透過率が向上している。
【0032】
比較のためのランプとして、市販されている低圧水銀ランプ(形名:GL4、東芝ライテック株式会社製)の発光スペクトルを図8に示す。当該低圧水銀ランプ(以下、「比較ランプ」と言う。)は、図8に示すように、λ=253.7[nm]の共鳴線に集中する単放射特性を有する。
ランプ10と比較ランプの殺菌性に関する比較実験については後述する。
(6)点灯周波数
本願発明者らは、点灯周波数を変化させた場合、I*(206.2[nm])の発光強度とXeI*(253[nm])の発光強度がどのように変化するのかを調査すべく実験を実施した。
【0033】
実験結果を、図9に示す。図9において、横軸は点灯周波数[kHz]を、左側の縦軸は10[kHz]における、I*(206.2[nm])の発光強度とXeI*(253[nm])の発光強度とをそれぞれ「1」としたときの各々の相対放射強度を示している。図中、XeI*(253[nm])の発光強度は「●」で、I*(206.2[nm])の発光強度は「■」で、それぞれプロットした。右側の縦軸は、I*(206.2[nm])の発光強度をXeI*(253[nm])の発光強度で除した値を示しており、当該値は、図中「▲」でプロットした。
【0034】
図9から、10[kHz]から80[kHz]まで点灯周波数を変化させると、XeI*(253[nm])の放射強度は、おおむね直線的に5倍に増大する。
一方、I*(206[nm])放射強度は、40[kHz]までおおむね直線的に増大し、40[kHz]からその増加率が急上昇する。そして、70[kHz]〜80[kHz]で増加率が鈍化するため、80[kHz]を超えると、あまり発光強度の増加は望めないと思われる。また、詳細なデータは省略するが、効率は60[kHz]で最高値を示し、70[kHz]、80[kHz]と周波数が高くなるほど低下することが確認されている。よって、ランプ10は、40[kHz]〜80[kHz]の範囲で点灯駆動させることが好ましい。
【0035】
また、点灯周波数を高くしていった場合の、XeI*(253[nm])の放射強度とI*(206[nm])放射強度と増加割合が異なるため(最終的に、XeI*(253[nm])の放射強度は5倍に、I*(206[nm])放射強度は、19倍になる)、点灯周波数を変化させることによって両者の強度比を調整することが可能である。したがって、殺菌対象となる細菌の種類に応じて交流電源による点灯周波数を切り替えることにより効果的に対象菌を殺菌できる可能性がある。また、殺菌対象物中に、複数種の細菌(殺菌に効く波長の異なる細菌)が存在する場合には、当該殺菌に効く波長の範囲で、交流電源による点灯周波数を周期的に変化させることにより、効果的な殺菌が期待できる。
【0036】
以上の結果を踏まえ、以下の殺菌実験は、実験範囲で最も効率の高い60[kHz]の周波数でランプ10を点灯することとした。
<殺菌実験>
本願発明者らは、ランプ10(Xe/I2=13.3[kPA]/0.04[kPa])を点灯周波数60[kHz]で点灯させ殺菌実験を行った。このとき用いた交流電源は、バイポーラ・パルス電源PS1である。
【0037】
対象菌としては、耐性の高い細菌として知られている枯草菌芽胞「Bacillus Subtilis ATCC6633芽胞」(Eiken Chemical Co.)を採用した。当該枯草菌の芽胞懸濁液として、菌数が107[CFU/ml]に調整されたものを用いた。
(1)ペトリ皿を用いた実験
本実験では、比較対象として前記比較ランプ(GL4、東芝)による殺菌実験も実施した。
【0038】
前記芽胞懸濁液が1.5[ml]溜められたペトリ皿に、当該ペトリ皿底面と平行に設置したランプ10または比較ランプによって、数秒から1分の照射時間で、紫外線を照射した。ランプ10および比較ランプとペトリ皿との距離は、5[cm]とした。また、ランプ10に関しては、ペトリ皿との距離を2[cm]に設定しても実施した。
ランプ10から2[cm]、5[cm]の距離における紫外線照度は、それぞれ、1.71[mW/cm2]、0.76[mW/cm2]であった。
【0039】
比較ランプから5[cm]の距離における紫外線照度は1.6[mW/cm2]であった。したがって、ランプ10と等距離における紫外線量[mJ/cm2]を等しいものとするため、比較ランプによる紫外線の照射時間は、ランプ10よりも短くした。
ペトリ皿の中で所定時間紫外線が照射された芽胞懸濁液を103倍に希釈し、希釈液の少量を、シャーレ(Sterile S shale,Eiken Chemical Co.)に収納された標準寒天培地(Parlkore, Eiken Chemical Co.)上に均一に塗沫して、培養した。培養条件は、37[℃]で48[時間]とした。
【0040】
希釈率と培養後における寒天培地上のコロニーの計数値とから、生菌率(生存菌数[CFU]/初発菌数[CFU])を算出した。
実験結果を図10に示す。
図10中、比較ランプによる生菌率を「■」で、ランプ10のペトリ皿との距離が5[cm]の場合の生菌率を「▲」で、ランプ10のペトリ皿との距離が2[cm]の場合の生菌率を「▼」で、それぞれプロットした。
【0041】
図10から分かるように、実験範囲において、ランプ10では、生菌率10−6レベルを超える殺菌性が発揮されることが確認された。
なお、図10には示していないが、ランプ10による完全殺菌(100[%]殺菌)は、紫外線量が50[mJ/cm2]〜55[mJ/cm2]を超えると達成された。
また、ランプ10のD値(Decimal Reduction Value)は、約5[mJ/cm2]〜8[mJ/cm2]であった。
【0042】
図10から、ランプ10は、比較ランプよりも高い殺菌性を有することが分かるが、例えば、生菌率10−4レベルを達成するのに必要な紫外線量は、比較ランプが40[mJ/cm2]であるのに対し、ランプ10は22[mJ/cm2]〜25[mJ/cm2]であった。
また、略15[mJ/cm2]以上では、紫外線量が同じであれば、ランプ10の生菌率は比較ランプよりも低い(すなわち、殺菌性が高い)ことが分かる。比較ランプのピーク波長が253.7[nm]のみであるのに対し、ランプ10のピーク波長が253[nm]に加え、178[nm]〜207[nm]の範囲に存することから判断して、当該178[nm]〜207[nm]といった短波長領域の紫外線の殺菌性が高いためであると考えられる。
【0043】
この点について確認するため、ランプ10のペトリ皿との距離を5[cm]に加え、2[cm]でも実験を行った。すなわち、上記短波長領域の紫外線は空気に吸収されやすいため、ランプ10をペトリ皿(芽胞懸濁液)に近づけることにより、当該短波長領域の紫外線の芽胞懸濁液に対する照射量を増大させるためである。
図10における、ランプ10の、ペトリ皿からの距離が5[cm]の場合と2[cm]の場合とを比較すると、同じ生菌率の殺菌性を達成するのに必要な紫外線量[mJ/cm2]は、2[cm]の場合の方が5[cm]の場合よりも少なくて済むことがわかる。これにより、ランプ10における、178[nm]〜188[nm]領域と206.2[nm]におけるI*発光が殺菌に寄与していることが確認されたと考えられる。
【0044】
さらに、178[nm]〜188[nm]領域と206.2[nm]におけるI*発光が殺菌効果を向上させる理由として以下の点が推察される。すなわち、細菌は、ピーク波長253.7[nm]の単一波長の照射(比較ランプによる紫外線照射)に適応して、耐性を有する変異体(resistant mutants)を生成する。しかしながら、複数の波長の紫外線の照射(ランプ10による紫外線照射)に対しては、細菌が前記変異体を生成するのが困難になるからであると思われるからである。
【0045】
図11に、実験に供された寒天培地の写真を示す。図11(a)、(b)の左側は、紫外線未照射の前記芽胞懸濁液を103倍に希釈したものの、37[℃]で48[時間]培養後の写真である。
図11(a)の右側は、22.8[mJ/cm2]の紫外線量照射後の結果であり。図11(b)の右側は、45.6[mJ/cm2]の紫外線量照射後の結果である。
(2)流水殺菌装置を用いた実験
ペトリ皿を用いた上記実験は、滞留する水中に存する枯草菌芽胞に対する殺菌性を調査したが、本実験では、流水中に存する枯草菌芽胞に対する殺菌性を調査した。
【0046】
当該実験に用いた殺菌装置40の概略構成を図12に示す。
前記芽胞懸濁液を1[l]貯留するステンレス製の水槽44から、当該懸濁液42がチューブポンプ(Masterflex,Cole Parmer Instrument Co.)46によって、5.4[l/min]の流速で汲み上げられる。汲み上げられた芽胞懸濁液は、幅90[mm]で、図示のように傾斜したステンレス製の平板48上に流出される。
【0047】
平板48上で、芽胞懸濁液は幅90[mm]で深さ0.5[mm]の均一な層となって流れ、その後、水槽44に還流する。
一方、平板48の上方には、平板48との垂直方向の距離が4[cm]の位置に、ホルダー50に支持されてランプ10が配置されている。なお、ホルダー50によってランプ10が直接的に支持されているのは、紫外線照射の妨げにならないランプ10端部である。
【0048】
また、ランプ10の上方には、ランプ10を冷却するためのクーリングファン52が設けられている。クーリングファン52で冷却するのは、ランプ10の点灯中の温度を可能な限り一定に維持し、キセノン(Xe)ガスの圧力やヨウ素(I2)の蒸気圧を一定に保持するためである。
ランプ10から側方に、カバー54が設けられている。これは、クーリングファン52がもたらす風によって運ばれる、空気中のミクロフローラ(microflora)が水槽44中の芽胞懸濁液42に入りこまないように遮蔽するためである。なお、「(1)ペトリ皿を用いた実験」の項では言及しなかったが、ペトリ皿を用いた実験においても、クーリングファンを用い、ランプ10には、ペトリ皿の中の芽胞懸濁液にミクロフローラ(microflora)が侵入するのを防止するためカバー54と同様のカバーを取り付けた。
【0049】
なお、流水装置を用いた実験は、カバー54を取り外した状態においても行った。
上記殺菌装置40を用い、平板48上を流れる芽胞懸濁液42に、ランプ10によって1[min]〜10[min]の間、紫外線を照射した。
そして、上記「(1)ペトリ皿を用いた実験」で説明したのと同様な手法で、生菌率(生存菌数[CFU]/初発菌数[CFU])を求めた。
【0050】
その結果を図13に示す。図13において、カバー54(図12)を設けた場合の生菌率を「◇」で、カバー54無しの場合の生菌率を「◆」で、それぞれプロットした。
図13から分かるように、流水中の枯草菌芽胞に対しても殺菌性が認められた。これは、ランプ10が水の殺菌浄化システムにも好適に用いることができることを示唆している。
【0051】
また、カバー54の有無にかかわらず同様な結果となった。これは、カバー無しの場合、芽胞懸濁液42の中にミクロフローラ(microflora)が侵入していたと仮定すると、ランプ10は、当該ミクロフローラ(microflora)を死滅させる効果をも発揮したと考えられる。
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下のような形態とすることも可能である。
【0052】
上記実施の形態では、本発明を誘電体バリア放電ランプに適用した例を示したが、これに限らず、本発明は、熱陰極ランプや冷陰極ランプにも適用可能である。
また、上記実施の形態では、放電容器を溶融石英ガラスや合成石英ガラスなどのガラス材料で形成したが、これに限らず、例えば、フッ化マグネシウム(MgF2)等の他の透光性材料で形成しても構わない。要は、ヨウ素原子(I*)の発光波長領域の紫外線(特に、178[nm]以上の波長領域の紫外線)を透過する透光性材料であれば良いのである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本願発明に係る無水銀殺菌ランプは、食品包装材の殺菌や水の殺菌浄化に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】(a)は、実施の形態に係る誘電体バリア放電ヨウ化キセノンエキシマランプの概略構成を示す縦断面図であり、(b)は、(a)におけるA・A線断面図である。
【図2】各種ガラス材料の透過率曲線を示す図である。
【図3】内側電極を構成する金属材料の違いによる効率等についての実験結果を示す図である。
【図4】上記ヨウ化キセノンランプへの投入電力に対する放射パワーと効率の変化を、交流波形や点灯周波数を変えて実験した結果を示す図である。
【図5】キセノン(Xe)の封入圧(封入量)に対する紫外線(UV)パワーの変化の様子を調べた実験結果を示す図である。
【図6】上記ヨウ化キセノンランプの発光スペクトルをDNAの光吸収スペクトルと共に示す図である。
【図7】上記ヨウ化キセノンランプの発光スペクトル(VUV〜UV領域)の強度分布値を示す図である。
【図8】従来の低圧水銀ランプ(比較ランプ)の発光スペクトルを示す図である。
【図9】上記ヨウ化キセノンランプにおいて、点灯周波数を変化させた場合の、I*(206.2[nm])の発光強度とXeI*(253[nm])の発光強度、および両者の比率の変化の様子を示した図である。
【図10】上記比較ランプと上記ヨウ化キセノンランプを用いて、ペトリ皿中の芽胞懸濁液に紫外線を照射した場合における、生存曲線を示す図である。
【図11】上記ヨウ化キセノンランプを用いた殺菌において、照射した紫外線量による菌の増殖の違いを示す図(写真)である。
【図12】流水中の菌の殺菌実験をするための装置の概略構成を描いた図である。
【図13】上記ヨウ化キセノンランプを用い、流水中の菌に紫外線を照射した場合における生存曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
10 誘電体バリア放電ヨウ化キセノンエキシマランプ
16 放電容器
40 殺菌装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水銀殺菌ランプおよび殺菌装置に関し、特に、キセノン(Xe)ガスとヨウ素蒸気とを放電媒体とする無水銀殺菌ランプ等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品包装材の殺菌や水の殺菌浄化等には、水銀蒸気が放電により発する紫外線を利用する低圧水銀ランプが用いられている。殺菌作用の分光特性が260[nm]付近にピーク値を有するため、253.7[nm]にピーク波長を有する低圧水銀ランプが適しているからである。
しかしながら、近年、環境保全の観点から水銀を用いない殺菌ランプが望まれており、その一つとして、ランプの放電容器にキセノン(Xe)ガスとヨウ素(I2)蒸気とが放電媒体として封入されたヨウ化キセノンランプが知られている(特許文献1)。当該ヨウ化キセノンランプは、ヨウ化キセノンのエキシマ発光(XeI,B→X遷移)のピーク波長が253[nm]であるため、前記低圧水銀ランプに代替するものとして期待されている。
【特許文献1】特開2002−18432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、食の安全性への関心の高まり等から、より高い殺菌性を有する殺菌ランプの開発が望まれている。この場合に、従来の殺菌ランプであれば、ランプへの投入電力を増大し、253[nm]およびその近傍の発光強度を高めることによっても殺菌力を増強することができるが、それでは、コストパフォーマンスが悪くなってしまう。
本発明は、上記した課題に鑑み、ランプへの投入電力を増大させることなく、それでいて高い殺菌性を有する無水銀殺菌ランプ、および当該無水銀殺菌ランプを有する殺菌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するため、本発明に係る無水銀殺菌ランプは、キセノンガスとヨウ素蒸気とが封入された放電容器を有する無水銀殺菌ランプであって、前記放電容器が、ヨウ素原子(I*)の発光波長領域の紫外線を透過する透光性材料で形成されていることを特徴とする。
また、前記透光性材料は、少なくとも178[nm]以上の波長領域の紫外線を透過することを特徴とする。
【0005】
さらに、前記透光性材料は、石英ガラスからなることを特徴とする。
上記の目的を達成するため、本発明にかかる殺菌装置は、上記した無水銀殺菌ランプと、当該無水銀殺菌ランプを点灯駆動する交流電源とを有し、前記交流電源が、40[Hz]〜80[kHz]の範囲の点灯周波数で前記無水銀殺菌ランプを点灯駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
上記構成からなる無水銀殺菌ランプによれば、253[nm]にピーク波長を有するヨウ化キセノンのエキシマ発光(XeI,B→X遷移)に加え、これよりも短波長領域に存する、ヨウ素原子(I*)が発する紫外線を殺菌対象に照射することができる。当該無水銀殺菌ランプが従来の低圧水銀ランプよりも高い殺菌性を示すことは、後述する実験により明らかになっている。これは、DNAの光吸収スペクトルのピーク波長が260[nm]付近に加え、200[nm]付近に存するところ、178[nm]〜188[nm]範囲と206.2[nm]で発光するヨウ素原子(I*)の紫外線が対象菌の殺菌に寄与しているからであると思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
<ランプ構成>
図1(a)は、実施の形態に係る誘電体バリア放電ヨウ化キセノンエキシマランプ10(以下、単に「ランプ10」と言う。)の概略構成を示す縦断面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるA・A線断面図である。なお、図1および後掲する図12において、各部材間の縮尺は統一していない。
【0008】
ランプ10は、内管12と外管14とが同軸上に配されてなる二重管構造をした放電容器16を有するランプである。内管12と外管14とは、溶融石英ガラスで形成されている。当該溶融石英ガラスの波長による紫外線透過率を図2において実線で示す。なお、この紫外線透過率については後述する。
図1に戻り、内管12と外管14の両端は閉じられていて(封止されていて)、両者の間で放電空間18が形成されている。外管14の外径と放電ギャップ長d(即ち、外管14の内径と内管14の外径との差の半分)については後述する。
【0009】
放電空間18には、放電用ガスとして、キセノン(Xe)ガスが、例えば、13.3[kPa]封入されている。
外管14の一端部外周には、有底筒状をしたヨウ素(I2)ガス導入管20(以下、単に「導入管20」と言う。)が設けられている。導入管20内部と放電空間18とは、外管14に開設された連通孔22を介して連通している。導入管20には、ランプ10の製造過程で所定量の固体ヨウ素(I2)がガラスカプセル24に封入された形で投入され、その後、当該ガラスカプセル24を割ることによって、固体ヨウ素I2が、ヨウ素蒸気(ガス)となって、放電空間18へと拡散していく。ランプ10の放電空間18には、前記キセノン(Xe)ガスに加え、ヨウ素(I2)蒸気が、例えば、0.04[kPa]封入されている。
【0010】
内管12の内周面に、内側電極26が設けられている。内側電極26は、金属製の円筒部材からなり、当該円筒状部材の外周面が内管12の内面に密着されて構成されている。当該円筒部材の構成については後述する。
一方、外管14の外周面には、外側電極28が設けられている。外側電極28は、0.1[mm]径のニッケル(Ni)線が、2[mm]ピッチで螺旋状に、管軸方向L1=10[cm]に渡って、外管14の外周面に密着して巻回されてなるものである。このような細い金属線を用いることで、放電空間18からランプ10外部へ放出される光の通過性を確保することができる。本例の場合、通過性は95[%]である。なお、ランプ10の有効発光領域(active area)は、管軸方向の外部電極28の長さ(L1)で規定される。
【0011】
本願発明者らは、基本的には上記の構成からなるランプ10を用い条件を種々に変えて実験を実施した。
<交流電源>
ランプ10には、内側電極26と外側電極28に接続された交流電源30によってランプ10を点灯させるために交流電力が供給される。用いた交流電源は以下の4つである。
【0012】
(1)AC電源PS0:型番As−114B(NF Electronic Instruments 社製)、仕様:U=0〜3.3[kVrms]、I=0〜20[mArms]、f=25[kHz]〜159.9[kHz]
(2)バイポーラ・パルス電源PS1:最大振幅U=0〜4.4[kV]、立上がり時間0.9[μs]、立下がり時間0.6[μs]、f=21.5[kHz]〜115[kHz]
(3)ユニポーラ・パルス電源PS2(高速高電圧トランジスタープッシュプルスイッチ型番・HTS 31-01-GSM (Behlke 社製)を使用):U=0〜3[kV]、立上がり時間60[ns]、立下がり時間40[ns]、f=10[kHz]
(4)ユニポーラ・パルス電源PS3(プッシュプルスイッチ・型番HTS 81-06-GSM (Behlke 社製)を使用):U=0〜8[kV]、立上がり時間160[ns]、立下がり時間60[ns]、f=10[kHz]〜80[kHz]
<ランプ実験>
(1)内側電極
内側電極26(図1)を構成する円筒部材に種々の金属材料を用い、その各々について効率を調べた。ここで、効率[%]とは、投入電力[W]に対する紫外線(UV)放射パワー[W]の比率をいう。当該放射パワーは、ランプ10から10[cm]の距離において、2×2[cm2]の光学絞り(diaphragm)を用いて測定した。なお、実験に供したランプ10における、キセノンとヨウ素の封入量は、Xe/I2=13.3[kPa]/0.04[kPa]である。また、交流電源には、前記AC電源PS0を用いた。
【0013】
準備した内側電極(円筒部材)は、以下の7種類である。
(a)Ni:厚さ0.1[mm]のニッケルの薄板を2枚重ね、これを円筒状に丸めたものを、内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。2枚重ねにしたのは、後記する銅およびアルミニウムの薄板との厚みを揃えるためである。
(b)Al foil:市販の食品パッケージ用アルミ箔(厚さ0.012[mm])の光沢面を外側にして円筒状に丸め、内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
【0014】
(c)Cu:銅の薄板(厚さ0.2[mm])を、円筒状に丸め、内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
(d)Al:円筒状に丸めたアルミニウムの薄板(厚さ0.2[mm])を、内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
(e)Al+Al foil:アルミニウムの薄板(厚さ0.2[mm])に、市販の食品パッケージ用アルミ箔(厚さ0.012[mm])の非光沢面側を重ねたものを、アルミ箔が外側になるように円筒状に丸め、これを内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
【0015】
(f)Cu+Al foil:銅の薄板(厚さ0.2[mm])に、市販の食品パッケージ用アルミ箔(厚さ0.012[mm])の非光沢面側を重ねたものを、アルミ箔が外側になるように円筒状に丸め、これを内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
(g)Ni+Al foil:ニッケルの薄板(厚さ0.1[mm]を2枚重ねたもの)に、市販の食品パッケージ用アルミ箔(厚さ0.012[mm])の非光沢面側を重ねたものを、アルミ箔が外側になるように円筒状に丸め、これを内管12(図1)に挿入して、内管12内周面に密着させたもの。
【0016】
実験結果を図3に示す。
実験結果から(a)Ni、(c)Cu、(d)Alの中では、(d)Alが最も高い効率を示すことが分かる。これは、内側電極の紫外線(UV)反射率の違いに因るものであると思われた。そこで、本願発明者らは、(b)Al foilの内側電極の外周面をアクリルラッカーで黒く塗ったものを準備し、当該黒塗りの内側電極でも実験を行った(実験結果は不図示)。その結果、黒塗りの内側電極は、(b)Al foilの内側電極よりも紫外線(UV)放射パワーが20[%]少なくなることが分かった。これにより、内側電極の紫外線(UV)反射率が、効率に影響を及ぼすことが確認できた。
【0017】
また、(e)Al+Al foil、(f)Cu+Al foil、(g)Ni+Al foilの中では、(f)Cu+Al foilが最も高い効率を示すことが分かる。これは、エキシマ発光する放電媒体にあっては、過熱状態になると効率が低下するところ、内側電極の芯になっているAl,Ni,Cuの内、Cuが最も熱伝導率が良いので、適度な冷却効果が発揮されているためであると考えられる。
【0018】
以上、実験した範囲において、内側電極としては、(f)Cu+Al foilが最も適していると考えられる。なお、(e)Al+Al foil、(g)Ni+Al foilは、(f)Cu+Al foilよりも若干効率は下がるものの、実使用上は問題ないものと思われる。
上記の結果を踏まえ、以下の実験において内側電極は、(f)Cu+Al foilを用いた。
(2)放電ギャップ長d
本願発明者らは、異なる放電ギャップ長d(図1)のランプを作製し、その各々について紫外線(UV)放射パワー[mW]を測定し、比較した。放電ギャップ長dは、d=2[mm]、d=7.4[mm]とした。
【0019】
各々のギャップ長dに対応する外管と内管の寸法を以下に記す。
(i)放電ギャップ長d=2[mm]
外管:外径17.7[mm]、内径15.1[mm](肉厚1.3[mm])
内管:外径11.1[mm]、内径9.0[mm](肉厚1.05[mm])
(ii)放電ギャップ長d=7.4[mm]
外管:外径30.0[mm]、内径26.8[mm](肉厚1.6[mm])
内管:外径12.0[mm]、内径9.2[mm](肉厚1.4[mm])
また、本願発明者らは、放電ギャップ長が9[mm]のランプも作製した。
【0020】
(iii)放電ギャップ長=9[mm]
当該ランプは、二重管ではなく単管構造とした。上記(i),(ii)と同じ溶融石英ガラスからなるガラス管の両端が封止されてなる放電容器に上記(i),(ii)と同じ量のキセノン(Xe)ガスとヨウ素(I2)蒸気が封入されている。なお、当該ガラス管の外径は11.1[mm]、内径は9.0[mm](肉厚1.05[mm])である。
【0021】
放電容器の外周面には、長さ10[cm]、幅5[cm]のアルミニウムテープ2枚の各々を放電容器の長手方向に沿わせ、当該2枚が放電容器をはさんで対向するように貼着されている。当該アルミニウムテープが外部電極を構成している。なお、この場合の放電ギャップ長は、放電容器(ガラス管)の内径である9.0[mm]となる。
実験の結果、放電ギャップ長=2[mm]、放電ギャップ長=9[mm]のランプの紫外線(UV)放射パワー[mW]は、放電ギャップ長=7.4[mm]のランプの1/3〜1/5であることが分かった。すなわち、大きな紫外線(UV)放射パワー[mW]を得るためには、放電ギャップ長は、長すぎることは勿論、短すぎてもだめであることが判明した。
【0022】
以上の結果を踏まえ、以下の実験は、放電ギャップ長d=7.4[mm]のランプで実施した。
(3)交流電源
本願発明者らは、交流電源の波形や周波数の異なる電源でランプ10を点灯させ、投入電力[W]に対する単位面積当たりの紫外線(UV)放射パワー[mW/cm2]と効率[%]について調査した。なお、実験に供したランプ10における、キセノンとヨウ素の封入量は、Xe/I2=13.3[kPa]/0.04[kPa]である。
【0023】
使用した交流電源は、上述したAC電源PS0、バイポーラ・パルス電源PS1、ユニポーラ・パルス電源PS2、ユニポーラ・パルス電源PS3である。
実験結果を図4に示す。
図4から、AC電源PS0を用いて投入電力を増大させると、放射パワーは、略直線的に上昇することが分かる。
【0024】
また、ユニポーラ・パルス電源PS2を用いて得られる効率は、AC電源PS0を用いて得られる効率よりもはるかに高いことが分かる。
なお、図4には示していないが、ユニポーラ・パルス電源PS3を用い、周波数80[kHz]で点灯させたところ、10.3[mW/cm2]の放射パワーと5[%]〜8[%]の効率が得られた。
(4)キセノン封入圧
本願発明者らは、キセノン封入圧に対する紫外線(UV)パワーの変化の様子を調査した。キセノン封入圧(封入量)の異なる供試ランプを準備し、その各々を、バイポーラ・パルス電源PS1を用い、4.2[kV]、f=60[kHz]、デューティ比50[%]で点灯駆動した。
【0025】
ここで、ヨウ素(I2)の蒸気圧は0.04[kPa]と一定とし、キセノン(Xe)の封入圧[p(Xe)]を変化させた。
実験の結果、紫外線(UV)パワーは、キセノンの圧力が13〜14[kPa]までは、は単調に増加した後、減少に転じ、40[kPa]に達すると放電しなくなることが認められた。したがって、25[kPa]付近までの実験結果について図5に示す。
【0026】
12[kv]よりも低い低圧領域においては、一様な放電が認められた。12[kPa]〜15[kPa]の領域では、一様な放電に加え複数のフィラメント放電が認められた。15[kPa]を超えると複数の明るいフィラメント放電が認められ、その数はキセノン圧の上昇とともに減少した。
図5に示す実験結果から、ヨウ素(I2)の封入量が一定の場合には、キセノン(Xe)の封入量を12[kPa]以上15[kPa]以下に設定することが、多くの紫外線(UV)パワーを得るためには好ましいことが分かる。また、供試ランプの中では、13.3[kPa]のキセノン(Xe)の封入量(封入圧)のものの紫外線(UV)パワーが最高であった。
【0027】
以上の結果を踏まえ、以下の実験におけるキセノンの封入量(封入圧)は、13.3[kPa]とした。
(5)発光スペクトル
上記「(4)キセノン封入圧」の実験におけるキセノンの封入量(封入圧)が、13.3[kPa]の供試ランプの発光スペクトルを図6に、発光スペクトル(VUV〜UV領域)の強度分布値を図7に示す。なお、図6中、一点鎖線で示すのは、DNAの紫外線吸収率(相対値)曲線である。
【0028】
Xe/I2=13.3[kPA]/0.04[kPa]のランプ10の発光スペクトルは、図6に示すように、殺菌性のある領域(180[nm]〜300[nm])において、178[nm]〜188[nm](ピーク値:178.3[nm]、179.9[nm]、183.0[n
]、184.4[nm]、187.6[nm])の範囲と206.2[nm]とにヨウ素原子(I*)の発光、XeI(B→X、λmax=253[nm])、XeI(C→A、λmax=265[nm])にエキシマ発光、そして、270[nm]〜280[nm]の範囲でI2*の微かな発光が認められた。
【0029】
このように、ランプ10から178[nm]〜188[nm]、および206.2[nm]波長の紫外光が取り出せるのは、図2において実線で示した透過率曲線を有するガラス材料を外管14(図1)に用いたからである。
従来の殺菌用ヨウ化キセノンランプは、253.7[nm]にピーク波長を有する低圧水銀ランプの代替品との位置づけから、当該低圧水銀ランプに用いられるガラス材料をその放電容器に用いている。すなわち、253[nm]およびその付近の紫外光が透過すれば良いとの観点から、図2において、破線で示すような透過率曲線を有するガラス材料を使用している。なお、破線は、従来の殺菌ランプに用いられているガラス材料の代表的なものの一例として示す、Vycor 7913(コーニング社製)の透過率曲線である。
【0030】
破線の透過率曲線から分かるように、従来、殺菌ランプの放電容器に用いられているガラス材料は、200[nm]以下の紫外光をほとんど透過しない。
これに対し、実施の形態に係るランプ10の放電容器16(図1)は、178[nm]〜188[nm](ピーク値:178.3[nm]、179.9[nm]、183.0[n
]、184.4[nm]、187.6[nm])の範囲のヨウ素原子(I*)の発光による殺菌力をも利用すべく、実線で示すような、すくなくとも178[nm]以上の波長領域の紫外線を透過するガラス(以下、「供試ガラス」と言う。)材料を放電容器に用いることとしたのである。
【0031】
なお、放電容器に用いるガラス材料としては、図2の実線で示すものに限らず、短波長領域の紫外線の透過率がさらに高い、一点鎖線で示す透過率曲線を有するものを用いても良い。なお、一点鎖線は、実線よりもさらに高い透過率を有するガラス材料の一例として示す、Suprasil 311,312(ヘレウス社製)の透過率曲線である。
前記Suprasil 311,312は合成石英ガラスである。Vycor 7913と供試ガラスとは、共に溶融石英ガラスであるが、供試ガラスは、Vycor 7913よりも不純物をより多く除去したものであり、そのため、より短波長域の紫外線の透過率が向上している。
【0032】
比較のためのランプとして、市販されている低圧水銀ランプ(形名:GL4、東芝ライテック株式会社製)の発光スペクトルを図8に示す。当該低圧水銀ランプ(以下、「比較ランプ」と言う。)は、図8に示すように、λ=253.7[nm]の共鳴線に集中する単放射特性を有する。
ランプ10と比較ランプの殺菌性に関する比較実験については後述する。
(6)点灯周波数
本願発明者らは、点灯周波数を変化させた場合、I*(206.2[nm])の発光強度とXeI*(253[nm])の発光強度がどのように変化するのかを調査すべく実験を実施した。
【0033】
実験結果を、図9に示す。図9において、横軸は点灯周波数[kHz]を、左側の縦軸は10[kHz]における、I*(206.2[nm])の発光強度とXeI*(253[nm])の発光強度とをそれぞれ「1」としたときの各々の相対放射強度を示している。図中、XeI*(253[nm])の発光強度は「●」で、I*(206.2[nm])の発光強度は「■」で、それぞれプロットした。右側の縦軸は、I*(206.2[nm])の発光強度をXeI*(253[nm])の発光強度で除した値を示しており、当該値は、図中「▲」でプロットした。
【0034】
図9から、10[kHz]から80[kHz]まで点灯周波数を変化させると、XeI*(253[nm])の放射強度は、おおむね直線的に5倍に増大する。
一方、I*(206[nm])放射強度は、40[kHz]までおおむね直線的に増大し、40[kHz]からその増加率が急上昇する。そして、70[kHz]〜80[kHz]で増加率が鈍化するため、80[kHz]を超えると、あまり発光強度の増加は望めないと思われる。また、詳細なデータは省略するが、効率は60[kHz]で最高値を示し、70[kHz]、80[kHz]と周波数が高くなるほど低下することが確認されている。よって、ランプ10は、40[kHz]〜80[kHz]の範囲で点灯駆動させることが好ましい。
【0035】
また、点灯周波数を高くしていった場合の、XeI*(253[nm])の放射強度とI*(206[nm])放射強度と増加割合が異なるため(最終的に、XeI*(253[nm])の放射強度は5倍に、I*(206[nm])放射強度は、19倍になる)、点灯周波数を変化させることによって両者の強度比を調整することが可能である。したがって、殺菌対象となる細菌の種類に応じて交流電源による点灯周波数を切り替えることにより効果的に対象菌を殺菌できる可能性がある。また、殺菌対象物中に、複数種の細菌(殺菌に効く波長の異なる細菌)が存在する場合には、当該殺菌に効く波長の範囲で、交流電源による点灯周波数を周期的に変化させることにより、効果的な殺菌が期待できる。
【0036】
以上の結果を踏まえ、以下の殺菌実験は、実験範囲で最も効率の高い60[kHz]の周波数でランプ10を点灯することとした。
<殺菌実験>
本願発明者らは、ランプ10(Xe/I2=13.3[kPA]/0.04[kPa])を点灯周波数60[kHz]で点灯させ殺菌実験を行った。このとき用いた交流電源は、バイポーラ・パルス電源PS1である。
【0037】
対象菌としては、耐性の高い細菌として知られている枯草菌芽胞「Bacillus Subtilis ATCC6633芽胞」(Eiken Chemical Co.)を採用した。当該枯草菌の芽胞懸濁液として、菌数が107[CFU/ml]に調整されたものを用いた。
(1)ペトリ皿を用いた実験
本実験では、比較対象として前記比較ランプ(GL4、東芝)による殺菌実験も実施した。
【0038】
前記芽胞懸濁液が1.5[ml]溜められたペトリ皿に、当該ペトリ皿底面と平行に設置したランプ10または比較ランプによって、数秒から1分の照射時間で、紫外線を照射した。ランプ10および比較ランプとペトリ皿との距離は、5[cm]とした。また、ランプ10に関しては、ペトリ皿との距離を2[cm]に設定しても実施した。
ランプ10から2[cm]、5[cm]の距離における紫外線照度は、それぞれ、1.71[mW/cm2]、0.76[mW/cm2]であった。
【0039】
比較ランプから5[cm]の距離における紫外線照度は1.6[mW/cm2]であった。したがって、ランプ10と等距離における紫外線量[mJ/cm2]を等しいものとするため、比較ランプによる紫外線の照射時間は、ランプ10よりも短くした。
ペトリ皿の中で所定時間紫外線が照射された芽胞懸濁液を103倍に希釈し、希釈液の少量を、シャーレ(Sterile S shale,Eiken Chemical Co.)に収納された標準寒天培地(Parlkore, Eiken Chemical Co.)上に均一に塗沫して、培養した。培養条件は、37[℃]で48[時間]とした。
【0040】
希釈率と培養後における寒天培地上のコロニーの計数値とから、生菌率(生存菌数[CFU]/初発菌数[CFU])を算出した。
実験結果を図10に示す。
図10中、比較ランプによる生菌率を「■」で、ランプ10のペトリ皿との距離が5[cm]の場合の生菌率を「▲」で、ランプ10のペトリ皿との距離が2[cm]の場合の生菌率を「▼」で、それぞれプロットした。
【0041】
図10から分かるように、実験範囲において、ランプ10では、生菌率10−6レベルを超える殺菌性が発揮されることが確認された。
なお、図10には示していないが、ランプ10による完全殺菌(100[%]殺菌)は、紫外線量が50[mJ/cm2]〜55[mJ/cm2]を超えると達成された。
また、ランプ10のD値(Decimal Reduction Value)は、約5[mJ/cm2]〜8[mJ/cm2]であった。
【0042】
図10から、ランプ10は、比較ランプよりも高い殺菌性を有することが分かるが、例えば、生菌率10−4レベルを達成するのに必要な紫外線量は、比較ランプが40[mJ/cm2]であるのに対し、ランプ10は22[mJ/cm2]〜25[mJ/cm2]であった。
また、略15[mJ/cm2]以上では、紫外線量が同じであれば、ランプ10の生菌率は比較ランプよりも低い(すなわち、殺菌性が高い)ことが分かる。比較ランプのピーク波長が253.7[nm]のみであるのに対し、ランプ10のピーク波長が253[nm]に加え、178[nm]〜207[nm]の範囲に存することから判断して、当該178[nm]〜207[nm]といった短波長領域の紫外線の殺菌性が高いためであると考えられる。
【0043】
この点について確認するため、ランプ10のペトリ皿との距離を5[cm]に加え、2[cm]でも実験を行った。すなわち、上記短波長領域の紫外線は空気に吸収されやすいため、ランプ10をペトリ皿(芽胞懸濁液)に近づけることにより、当該短波長領域の紫外線の芽胞懸濁液に対する照射量を増大させるためである。
図10における、ランプ10の、ペトリ皿からの距離が5[cm]の場合と2[cm]の場合とを比較すると、同じ生菌率の殺菌性を達成するのに必要な紫外線量[mJ/cm2]は、2[cm]の場合の方が5[cm]の場合よりも少なくて済むことがわかる。これにより、ランプ10における、178[nm]〜188[nm]領域と206.2[nm]におけるI*発光が殺菌に寄与していることが確認されたと考えられる。
【0044】
さらに、178[nm]〜188[nm]領域と206.2[nm]におけるI*発光が殺菌効果を向上させる理由として以下の点が推察される。すなわち、細菌は、ピーク波長253.7[nm]の単一波長の照射(比較ランプによる紫外線照射)に適応して、耐性を有する変異体(resistant mutants)を生成する。しかしながら、複数の波長の紫外線の照射(ランプ10による紫外線照射)に対しては、細菌が前記変異体を生成するのが困難になるからであると思われるからである。
【0045】
図11に、実験に供された寒天培地の写真を示す。図11(a)、(b)の左側は、紫外線未照射の前記芽胞懸濁液を103倍に希釈したものの、37[℃]で48[時間]培養後の写真である。
図11(a)の右側は、22.8[mJ/cm2]の紫外線量照射後の結果であり。図11(b)の右側は、45.6[mJ/cm2]の紫外線量照射後の結果である。
(2)流水殺菌装置を用いた実験
ペトリ皿を用いた上記実験は、滞留する水中に存する枯草菌芽胞に対する殺菌性を調査したが、本実験では、流水中に存する枯草菌芽胞に対する殺菌性を調査した。
【0046】
当該実験に用いた殺菌装置40の概略構成を図12に示す。
前記芽胞懸濁液を1[l]貯留するステンレス製の水槽44から、当該懸濁液42がチューブポンプ(Masterflex,Cole Parmer Instrument Co.)46によって、5.4[l/min]の流速で汲み上げられる。汲み上げられた芽胞懸濁液は、幅90[mm]で、図示のように傾斜したステンレス製の平板48上に流出される。
【0047】
平板48上で、芽胞懸濁液は幅90[mm]で深さ0.5[mm]の均一な層となって流れ、その後、水槽44に還流する。
一方、平板48の上方には、平板48との垂直方向の距離が4[cm]の位置に、ホルダー50に支持されてランプ10が配置されている。なお、ホルダー50によってランプ10が直接的に支持されているのは、紫外線照射の妨げにならないランプ10端部である。
【0048】
また、ランプ10の上方には、ランプ10を冷却するためのクーリングファン52が設けられている。クーリングファン52で冷却するのは、ランプ10の点灯中の温度を可能な限り一定に維持し、キセノン(Xe)ガスの圧力やヨウ素(I2)の蒸気圧を一定に保持するためである。
ランプ10から側方に、カバー54が設けられている。これは、クーリングファン52がもたらす風によって運ばれる、空気中のミクロフローラ(microflora)が水槽44中の芽胞懸濁液42に入りこまないように遮蔽するためである。なお、「(1)ペトリ皿を用いた実験」の項では言及しなかったが、ペトリ皿を用いた実験においても、クーリングファンを用い、ランプ10には、ペトリ皿の中の芽胞懸濁液にミクロフローラ(microflora)が侵入するのを防止するためカバー54と同様のカバーを取り付けた。
【0049】
なお、流水装置を用いた実験は、カバー54を取り外した状態においても行った。
上記殺菌装置40を用い、平板48上を流れる芽胞懸濁液42に、ランプ10によって1[min]〜10[min]の間、紫外線を照射した。
そして、上記「(1)ペトリ皿を用いた実験」で説明したのと同様な手法で、生菌率(生存菌数[CFU]/初発菌数[CFU])を求めた。
【0050】
その結果を図13に示す。図13において、カバー54(図12)を設けた場合の生菌率を「◇」で、カバー54無しの場合の生菌率を「◆」で、それぞれプロットした。
図13から分かるように、流水中の枯草菌芽胞に対しても殺菌性が認められた。これは、ランプ10が水の殺菌浄化システムにも好適に用いることができることを示唆している。
【0051】
また、カバー54の有無にかかわらず同様な結果となった。これは、カバー無しの場合、芽胞懸濁液42の中にミクロフローラ(microflora)が侵入していたと仮定すると、ランプ10は、当該ミクロフローラ(microflora)を死滅させる効果をも発揮したと考えられる。
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下のような形態とすることも可能である。
【0052】
上記実施の形態では、本発明を誘電体バリア放電ランプに適用した例を示したが、これに限らず、本発明は、熱陰極ランプや冷陰極ランプにも適用可能である。
また、上記実施の形態では、放電容器を溶融石英ガラスや合成石英ガラスなどのガラス材料で形成したが、これに限らず、例えば、フッ化マグネシウム(MgF2)等の他の透光性材料で形成しても構わない。要は、ヨウ素原子(I*)の発光波長領域の紫外線(特に、178[nm]以上の波長領域の紫外線)を透過する透光性材料であれば良いのである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本願発明に係る無水銀殺菌ランプは、食品包装材の殺菌や水の殺菌浄化に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】(a)は、実施の形態に係る誘電体バリア放電ヨウ化キセノンエキシマランプの概略構成を示す縦断面図であり、(b)は、(a)におけるA・A線断面図である。
【図2】各種ガラス材料の透過率曲線を示す図である。
【図3】内側電極を構成する金属材料の違いによる効率等についての実験結果を示す図である。
【図4】上記ヨウ化キセノンランプへの投入電力に対する放射パワーと効率の変化を、交流波形や点灯周波数を変えて実験した結果を示す図である。
【図5】キセノン(Xe)の封入圧(封入量)に対する紫外線(UV)パワーの変化の様子を調べた実験結果を示す図である。
【図6】上記ヨウ化キセノンランプの発光スペクトルをDNAの光吸収スペクトルと共に示す図である。
【図7】上記ヨウ化キセノンランプの発光スペクトル(VUV〜UV領域)の強度分布値を示す図である。
【図8】従来の低圧水銀ランプ(比較ランプ)の発光スペクトルを示す図である。
【図9】上記ヨウ化キセノンランプにおいて、点灯周波数を変化させた場合の、I*(206.2[nm])の発光強度とXeI*(253[nm])の発光強度、および両者の比率の変化の様子を示した図である。
【図10】上記比較ランプと上記ヨウ化キセノンランプを用いて、ペトリ皿中の芽胞懸濁液に紫外線を照射した場合における、生存曲線を示す図である。
【図11】上記ヨウ化キセノンランプを用いた殺菌において、照射した紫外線量による菌の増殖の違いを示す図(写真)である。
【図12】流水中の菌の殺菌実験をするための装置の概略構成を描いた図である。
【図13】上記ヨウ化キセノンランプを用い、流水中の菌に紫外線を照射した場合における生存曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
10 誘電体バリア放電ヨウ化キセノンエキシマランプ
16 放電容器
40 殺菌装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キセノンガスとヨウ素蒸気とが封入された放電容器を有する無水銀殺菌ランプであって、
前記放電容器が、ヨウ素原子(I*)の発光波長領域の紫外線を透過する透光性材料で形成されていることを特徴とする無水銀殺菌ランプ。
【請求項2】
前記透光性材料は、少なくとも178[nm]以上の波長領域の紫外線を透過することを特徴とする請求項1に記載の無水銀殺菌ランプ。
【請求項3】
前記透光性材料は、石英ガラスからなることを特徴とする請求項1または2に記載の無水銀殺菌ランプ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の無水銀殺菌ランプと、当該無水銀殺菌ランプを点灯駆動する交流電源とを有し、前記交流電源は、40[kHz]〜80[kHz]の範囲の点灯周波数で前記無水銀殺菌ランプを点灯駆動することを特徴とする殺菌装置。
【請求項1】
キセノンガスとヨウ素蒸気とが封入された放電容器を有する無水銀殺菌ランプであって、
前記放電容器が、ヨウ素原子(I*)の発光波長領域の紫外線を透過する透光性材料で形成されていることを特徴とする無水銀殺菌ランプ。
【請求項2】
前記透光性材料は、少なくとも178[nm]以上の波長領域の紫外線を透過することを特徴とする請求項1に記載の無水銀殺菌ランプ。
【請求項3】
前記透光性材料は、石英ガラスからなることを特徴とする請求項1または2に記載の無水銀殺菌ランプ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の無水銀殺菌ランプと、当該無水銀殺菌ランプを点灯駆動する交流電源とを有し、前記交流電源は、40[kHz]〜80[kHz]の範囲の点灯周波数で前記無水銀殺菌ランプを点灯駆動することを特徴とする殺菌装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図11】
【公開番号】特開2010−56008(P2010−56008A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221656(P2008−221656)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】
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