説明

無灰炭の製造方法

【課題】濾過により、石炭成分が抽出された液体成分に含まれる、特に粒径の小さい灰分まで除去することで、灰分濃度の極めて低い無灰炭を製造する無灰炭の製造方法を提供することにある。
【解決手段】石炭と芳香族溶剤とを混合したスラリーを加熱処理するスラリー加熱工程(S1)と、スラリー加熱工程(S1)で加熱処理されたスラリーを、液体成分と、固体成分と、に分離する分離工程(S2)と、分離工程(S2)で分離された液体成分を濾過する第1濾過工程(S3)と、第1濾過工程(S3)で濾過された濾液を、さらに濾過する第2濾過工程(S4)と、第2濾過工程(S4)で濾過された濾液から芳香族溶剤を除去して、無灰炭を取得する無灰炭取得工程(S5)と、を含み、第2濾過工程(S4)で濾過する濾液の温度が、第1濾過工程(S3)で濾過する液体成分の温度よりも低いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭から無灰炭を製造する無灰炭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭は、火力発電やボイラーの燃料、または、化学品の原料として幅広く利用されている。この石炭中には、灰分が含まれているが、近年においては、環境対策の一つとして、石炭中の灰分を効率的に除去する技術の開発が強く望まれている。また、ガスタービン燃焼による高効率複合発電システムでは、LNG(Liquefied Natural Gas)等の液体燃料に替わる燃料として、いわゆる無灰炭(ハイパーコール)を使用する試みがなされており、この無灰炭を得る技術の確立が重要な課題となっている。
【0003】
ここで、無灰炭とは、石炭を溶剤で抽出処理し、この溶剤に溶ける成分だけを分離して、その後、溶剤を除去することによって、製造されたものである(例えば、特許文献1参照)。この無灰炭は、石炭中の灰分が溶剤に溶けないため、実質的に灰分を含まないことから、ガスタービン直噴燃料用途への利用を始めとして、燃焼効率の向上や石炭灰の低減等、環境負荷低減型の石炭利用技術に関して注目を集めている。また、この無灰炭は、加熱下で高い流動性を示し、熱流動性に優れることから、コークス原料としての適用が期待される等、様々な用途への適用性の検討が行われている。
【0004】
そして、このような無灰炭の一般的な製造方法では、石炭を溶剤抽出したスラリーを重力沈降法等で固液分離し、固形分である灰分を重力沈降させた後、分離した液体成分を濾過することにより、液体成分に含まれる灰分を除去することが行われている。このような製造方法により、無灰炭中の灰分濃度を0.06質量%程度にまで低減させている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−26791号公報
【非特許文献1】日本エネルギー学会関西支部 第50回研究発表会 要旨集 p19−22
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の無灰炭の製造方法では、以下に示す問題がある。
前記したとおり、従来の無灰炭の製造方法においては、固液分離の後、液体成分を濾過する工程を経ている。ここで、固形分である灰分を重力沈降させる固液分離において、粒子の小さい灰分は、上昇流速に伴った上昇により、また、溶液中のブラウン運動による分散状態にあることにより、上澄み液であるオーバーフローに混入して回収される。そして、このオーバーフローをフィルターで濾過することで、固液分離において除去することのできなかった灰分を、ある程度は取り除くことができる。しかし、特に粒径が小さい灰分については、濾過により除去することは困難である。
【0006】
また、フィルターを複数用いた多段濾過を行った場合においても、粒径の小さい灰分は、フィルターを通過してしまうため、除去することができない。特にフィルターの網目長以下である0.5μm程度以下の粒径の灰分は、濾過による除去が困難であり、最終的に無灰炭に含まれることになる。その結果、従来の技術では、無灰炭中の灰分濃度は、0.06質量%程度にまでしか低減することができない。そこで、無灰炭の品質をさらに向上させるため、無灰炭中の灰分濃度をさらに低減させる技術の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、濾過により、石炭成分が抽出された液体成分に含まれる、特に粒径の小さい灰分まで除去することで、灰分濃度の極めて低い無灰炭を製造する無灰炭の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、前記課題を解決するため、以下に述べる事項について検討を行った。
本発明に係る無灰炭の製造方法は、濾過を2回行うものであるが、まず、高温状態において濾過により除去できるものを予め取り除くことで、最終的に得られる無灰炭の回収率が向上する。これは、濾過による石炭成分のロスの割合は、除去される灰分量に対して一定であるが、低温状態になるほど、石炭成分のロスの割合は、非常に大きくなるためである。よって、無灰炭の回収率を向上させるには、低温濾過を行う時点で低灰分条件にしておくことが非常に有利である。また、濾液中に、一度濾過で通過した灰分粒子のみを含む状態で低温にすることで、フィルターを通過可能な微粒子のみに抽出成分が析出し、この微粒子粒径が大きくなる。1回の濾過のみを行う場合は、抽出成分の析出が、微細な粒子から巨大な粒子まで、まんべんなく起こるため、フィルターを通過可能な微粒子の微粒子粒径の成長率が小さくなり、濾過によって取り除くことができなくことが懸念される。
そこで、本願発明者らは鋭意研究した結果、濾過を2回行い、かつ、2回目の濾過で濾過する濾液の温度を、1回目で濾過する液体成分の温度よりも低くすることで、灰分濃度の極めて低い無灰炭を製造する無灰炭の製造方法を発明するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る無灰炭の製造方法は、スラリー加熱工程と、分離工程と、第1濾過工程と、第2濾過工程と、無灰炭取得工程と、を含み、前記第2濾過工程で濾過する濾液の温度が、前記第1濾過工程で濾過する液体成分の温度よりも低いことを特徴とする。
【0010】
このような製造方法によれば、スラリー加熱工程において、石炭と芳香族溶剤とを混合したスラリーが加熱処理され、分離工程において、スラリー加熱工程で加熱処理されたスラリーが、石炭が溶解した液体成分と、灰分および不溶石炭を含む固体成分と、に分離される。そして、第1濾過工程において、分離工程で分離された液体成分が濾過され、液体成分に含まれる所定以上の粒径の灰分が除去される。また、第2濾過工程で濾過する濾液の温度を、第1濾過工程で濾過する液体成分の温度よりも低くすることで、濾液中の抽出成分が灰分周囲へ析出し、灰分を含む微粒子粒径が大きくなる。これにより、第2濾過工程において、第1濾過工程で濾過された濾液を、さらに濾過することで灰分を含む微粒子が除去され、第1濾過工程で除去できなかった灰分が除去される。そして、無灰炭取得工程において、第2濾過工程で濾過された濾液から芳香族溶剤が除去され、無灰炭が製造される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る無灰炭の製造方法によれば、固液分離した液体成分に含まれる、特に粒径の小さい灰分まで除去することができるため、灰分濃度の極めて低い無灰炭を高効率、かつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、図面を参照して本発明に係る無灰炭の製造方法ついて詳細に説明する。なお、参照する図面において、図1は、無灰炭の製造方法の工程を説明するフローチャート、図2は、重力沈降法を行うための固液分離装置を示す模式図である。
【0013】
≪無灰炭の製造方法≫
図1に示すように、無灰炭の製造方法は、スラリー加熱工程(S1)と、分離工程(S2)と、第1濾過工程(S3)と、第2濾過工程(S4)と、無灰炭取得工程(S5)と、を含むものである。
以下、各工程について説明する。
【0014】
<スラリー加熱工程(S1)>
スラリー加熱工程(S1)は、石炭と芳香族溶剤とを混合してスラリーを調製し、その石炭と芳香族溶剤を含むスラリーを加熱処理する工程である。そして、スラリーを加熱処理することによって、石炭成分が芳香族溶剤に加熱抽出される。
【0015】
原料となる石炭(以下、「原料石炭」ともいう)は、軟化溶融性をほとんど持たない非微粘結炭や、一般炭、低品位炭である褐炭、亜瀝青炭等の劣質炭を使用することが好ましい。これらのような安価な石炭を使用することにより、無灰炭をさらに安価に製造することができるため、さらに経済性の向上を図ることができる。しかし、用いる石炭は、これら劣質炭に限るものではなく、瀝青炭を使用してもよい。
【0016】
なお、ここでの劣質炭とは、非微粘結炭、一般炭、低品位炭等の石炭をいう。また、低品位炭とは、20質量%以上の水分を含有し、脱水することが望まれる石炭のことである。このような低品位炭には、例えば、褐炭、亜炭、亜瀝青炭がある。例えば、褐炭には、ビクトリア炭、ノースダコタ炭、ベルガ炭等があり、亜瀝青炭には、西バンコ炭、ビヌンガン炭、サマランガウ炭等がある。低品位炭は前記例示のものに限定されず、多量の水分を含有し、脱水することが望まれる石炭は、いずれも本発明のいう低品位炭に含まれる。
【0017】
石炭を溶解する芳香族溶剤としては、一般的には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の1環芳香族化合物や、ナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン等の2環芳香族化合物等が用いられる。また、2環芳香族化合物には、その他脂肪族側鎖をもつナフタレン類、また、これにビフェニルや長鎖脂肪族側鎖をもつアルキルベンゼンが含まれる。なお、非水素供与性溶剤である2環芳香族化合物が好ましい。
【0018】
非水素供与性溶剤は、主に石炭の乾留生成物から精製した、2環芳香族を主とする溶剤である石炭誘導体である。この非水素供与性溶剤は、加熱状態でも安定であり、石炭との親和性に優れているため、溶剤に抽出される石炭成分の割合(以下、「抽出率」ともいう)が高く、また、蒸留等の方法で容易に回収可能な溶剤である。そして、この回収した溶剤は、経済性の向上を図るため、循環して繰り返し使用することもできる。
【0019】
芳香族溶剤は、沸点が180〜330℃のものが好ましい。沸点が180℃未満であると、加熱抽出の際、または、後記する分離工程(S2)での必要圧力が高くなり、また、芳香族溶剤を回収する工程で揮発による損失が大きくなり、芳香族溶剤の回収率が低下する。さらに、加熱抽出での抽出率が低下する。一方、330℃を超えると、後記する液体成分および固体成分からの芳香族溶剤の分離が困難となり、芳香族溶剤の回収率が低下する。
【0020】
芳香族溶剤に対する石炭濃度は、原料石炭の種類にもよるが、乾燥炭基準で10〜50質量%の範囲が好ましく、11〜25質量%の範囲がより好ましい。芳香族溶剤に対する石炭濃度が10質量%未満であると、芳香族溶剤の量に対し、芳香族溶剤に抽出する石炭成分の割合が少なくなり、経済的ではない。一方、石炭濃度は高いほど好ましいが、50質量%を超えると、スラリーの粘度が高くなり、スラリーの移動や分離工程(S2)での液体成分と固体成分との分離が困難となりやすい。
【0021】
スラリー加熱工程(S1)でのスラリーの加熱処理(加熱抽出)は、300〜420℃の範囲とするのが好ましい。加熱温度をこの範囲とすることにより、石炭を構成する分子間の結合が緩み、緩和な熱分解が起こり、抽出率が最も高くなる。加熱温度が300℃未満では、石炭を構成する分子間の結合を弱めるのに不十分であり、抽出率が低下する。一方、420℃を超えると、石炭の熱分解反応が非常に活発になり、生成した熱分解ラジカルの再結合が起こるため、抽出率が低下する。
【0022】
加熱時間(抽出時間)は、溶解平衡に達するまでの時間が規準であるが、それを実現することは経済的に不利である。従って、石炭の粒子径、芳香族溶剤の種類等の条件によって異なるので一概には言えないが、通常は、予熱器を通過して、所定の抽出温度に到達後、10〜60分程度である。加熱時間が10分未満であると、石炭成分の抽出が不十分となりやすく、一方、60分を超えても、それ以上抽出が進行しないため、経済的ではない。
【0023】
また、分離工程(S2)へ移行する前に、この加熱したスラリーを冷却処理により、石炭から溶出した溶質が再析出しない程度の温度、例えば200〜360℃程度まで冷却してもよい。スラリーを冷却することで、その後の取り扱いが容易となり、また、過度な熱分解を避けることができる。その他、沈降槽の圧力を下げたり、バルブ等の仕様の水準を下げたりすることができる。なお、ここでのスラリーの冷却温度については、後記する第1濾過工程(S3)で濾過する液体成分の温度、および、第2濾過工程(S4)で濾過する濾液の温度を考慮して、適宜調整すればよい。
【0024】
なお、この加熱抽出の際、石炭の熱分解により、主に平均沸点(Tb50:50%留出温度)が200〜300℃にある芳香族に豊富な成分が生成し、好適に芳香族溶剤の一部として利用することができる。
【0025】
加熱抽出は、非還元性雰囲気で行うことが好ましい。具体的には、不活性ガスの存在下で行う。加熱抽出の際、酸素に接触すると、発火する恐れがあるため危険であり、また、水素を用いた場合には、コストが高くなるためである。
【0026】
加熱抽出で用いる不活性ガスとしては、安価な窒素を用いることが好ましいが、特に限定されるものではない。また、加熱抽出での圧力は、加熱抽出の際の温度や用いる芳香族溶剤の蒸気圧にもよるが、1.0〜2.0MPaが好ましい。圧力が芳香族溶剤の蒸気圧より低い場合には、芳香族溶剤が揮発して液相に閉じ込められず、抽出できない。芳香族溶剤を液相に閉じ込めるには、芳香族溶剤の蒸気圧より高い圧力が必要となる。一方、圧力が高すぎると、機器のコスト、運転コストが高くなり、経済的ではない。
【0027】
<分離工程(S2)>
分離工程(S2)は、前記スラリー加熱工程(S1)で加熱処理されたスラリーを、液体成分と固体成分とに分離する工程である。
ここで、液体成分とは、石炭が溶解した溶液、すなわち、芳香族溶剤に抽出された石炭成分を含む溶液をいい、固体成分とは、芳香族溶剤に不溶な灰分と不溶石炭を含むスラリーをいう。
【0028】
分離工程(S2)でスラリーを液体成分と固体成分とに分離する方法としては、特に限定されるものではないが、重力沈降法を用いることが好ましい(重力沈降法については、後記する)。
【0029】
スラリーを液体成分と固体成分とに分離する方法としては、各種の濾過方法や遠心分離による方法が一般的に知られている。しかしながら、濾過による方法ではフィルターの頻繁な交換が必要であり、また、遠心分離による方法では未溶解石炭成分による閉塞が起こりやすく、これらの方法を工業的に実施するのは容易ではない。従って、流体の連続操作が可能であり、低コストで大量の処理にも適している重力沈降法を用いることが好ましい。これにより、重力沈降槽の上部からは、芳香族溶剤に抽出された石炭成分を含む溶液である液体成分(以下、「上澄み液」ともいう)を、重力沈降槽の下部からは芳香族溶剤に不溶な灰分と不溶石炭を含むスラリーである固体成分(以下、「固形分濃縮液」ともいう)を得ることができる。
【0030】
また、液体成分を第1濾過工程(S3)へ移行する前に、この加熱状態にある液体成分を冷却処理により、石炭から溶出した溶質が再析出しない程度の温度、例えば200〜360℃程度まで冷却してもよい。液体成分を冷却することで、その後の取り扱いが容易となり、また、過度な熱分解を避けることができる。その他、濾過の際の圧力を下げたり、バルブ等の仕様の水準を下げたりすることができる。なお、ここでの液体成分の冷却温度については、後記する第2濾過工程(S4)で濾過する濾液の温度を考慮して、適宜調整すればよい。
【0031】
<第1濾過工程(S3)>
第1濾過工程(S3)は、前記分離工程(S2)で分離された前記液体成分を濾過する工程である。
液体成分を濾過する方法としては、特に限定されるものではなく、一般的に用いる濾過方法で行えばよい。例えば、後記するように、固液分離装置にフィルターユニットを設けることで、簡便に、かつ連続的に濾過を行うことができる。
【0032】
濾過に用いるフィルターとしては、紙、布、メンブレン、セラミックス、ステンレス鋼、銅等の材質のものを用いることができる。フィルターはカートリッジ式でもよいが、連続的に操業する場合に、フィルター交換の手間を考慮して、連続的にフィルターを供給できる構造のものが好ましい。また、フィルターとして使用するろ紙、ろ布、メンブレンフィルター、セラミックスフィルター、ステンレス鋼フィルター、銅フィルター等としては、例えば、フィルターの目の孔径が、0.5μm程度の目の細かなものを使用することができる。
第1濾過工程(S3)による濾過により、液体成分に含まれる粒径0.5μm程度を超える灰分を除去することができる。
【0033】
<第2濾過工程(S4)>
第2濾過工程(S4)は、前記第1濾過工程(S3)で濾過された濾液(第1濾液)を、さらに濾過する工程である。
第1濾液を濾過する方法としては、特に限定されるものではなく、前記した第1濾過工程(S3)と同様の方法で行えばよい。
また、第2濾過工程(S4)においても、第1濾過工程(S3)と同様に、固液分離装置にフィルターユニットを設けることで、簡便に、かつ連続的に濾過を行うことができる。以下に述べる温度以外のその他の条件についても、第1濾過工程(S3)に合わせて行えばよい。
第2濾過工程(S4)による濾過により、液体成分(第1濾液)に含まれる粒径0.5μm程度を以下の灰分を除去することができる。
【0034】
ここで、第2濾過工程(S4)では、前記第1濾過工程(S3)で濾過された濾液の温度を、前記第1濾過工程(S2)で濾過する液体成分の温度よりも低い状態で濾過する(濾液冷却工程)。
【0035】
無灰炭製造の工程においては、一般的に、石炭の抽出率は380℃付近にて最大値をとる(例えば、特開平2005−120185号公報参照)。つまり、温度を低下させることにより、抽出成分の芳香族溶剤への溶解度は小さくなり、固形分として析出することになる。この抽出成分の析出は、溶液中の固形分である灰分周囲に起こるため、この抽出成分の析出により、灰分を含む微粒子粒径が大きくなる。この微粒子粒径が大きくなることにより、灰分のフィルターの通過性が低くなり、第1濾液中の灰分は、濾過により除去することが可能となる。これにより、灰分濃度の極めて低い(例えば、 0.020質量%以下)無灰炭を製造することができる。
【0036】
第2濾過工程(S4)で濾過する濾液(第1濾液)の温度は、前記液体成分の温度よりも100℃以下低いことが好ましく、150℃以下低いことがより好ましい。さらには、190℃以下低いことが好ましい。また、第1濾液の温度の下限値は、20℃程度が好ましい。
ただし、第1濾液の温度が低くなるほど、抽出成分の析出が多くなるため、灰分除去においては優位であるものの、抽出成分の析出も多くなり、無灰炭の回収率の減少を引き起こす。そのため、第1濾液の温度は、灰分除去の可能な範囲で高い方が好ましい。
【0037】
後記するように、温度を低下させるには、冷却器を用いることができる。なお、濾液を冷却するために、上澄み液受器(図2参照)に冷却機構を設けておいてもよい。
しかしながら、上澄み液受器に一旦濾液を入れた際、ある程度自然冷却されるため、冷却器や冷却機構等を設けない構成としてもよい。また、濾液を上澄み液受器中に回収した後、しばらく放置することで、所望の温度まで、自然冷却させてもよい。
【0038】
また、濾過による灰分除去の効果を高める方法として、温度低下によって、抽出成分が多く析出する石炭を原料に添加することが挙げられる。このようにすることで、析出量の少ない原料石炭を用いた場合に、抽出成分の析出量を増加させることができ、灰分のフィルターの通過性を低くすることができる。好ましくは、高温域で析出が起る石炭を用いる。なお、この場合にも、無灰炭の回収率を考慮して、温度条件を適宜調整する。
【0039】
このような、第1濾過工程(S3)、および、第2濾過工程(S4)は、例えば、重力沈降法を行うための固液分離装置において、分離工程(S2)に連続して行うことができる。
以下、重力沈降法の一例について、図1、2を参照して説明する。
図2に示すように、重力沈降法では、固液分離装置100において、まず、石炭スラリー調製槽1で、無灰炭の原料である粉体の石炭と芳香族溶剤とを混合し、スラリーを調製する。次に、ポンプ2によって、石炭スラリー調製槽1からスラリーを予熱器3に所定量供給し、スラリーを300〜420℃まで加温する。そして、加温したスラリーを抽出槽4に所定量供給し、攪拌機10で攪拌しながら300〜420℃で所定時間加熱した後、必要に応じて、冷却器7aにより、所定温度に冷却する(スラリー加熱工程(S1))。なお、スラリーを冷却するために、抽出槽4に冷却機構を設けておいてもよい。そして、この抽出処理を行ったスラリーを、重力沈降槽5へ供給して、スラリーを上澄み液と固形分濃縮液とに分離し(分離工程(S2))、重力沈降槽5の下部に沈降した固形分濃縮液を固形分濃縮液受器6に排出するとともに、上部の上澄み液をフィルターユニット8aへ所定量排出する。
【0040】
ここで、重力沈降槽5内は、原料の石炭から溶出した溶質の再析出を防止するため、スラリーを加熱した温度、スラリーを加熱した後に冷却した場合は、加熱後に冷却した温度に維持することが好ましく、また、圧力は、1.0〜2.0MPaの範囲とすることが好ましい。また、重力沈降槽5内において、所定の温度で維持する時間は、スラリーを上澄み液と固形分濃縮液とに分離するのに必要な時間であり、一般的に60〜120分であるが、特に限定されるものではない。
【0041】
なお、重力沈降槽5の数を増やすことにより、固形分濃縮液に同伴した芳香族溶剤に可溶な成分を回収することができるが、効率的に回収するには、重力沈降槽5を二段に配置するのが適当である。
【0042】
そして、重力沈降槽5内から排出された上澄み液は、必要に応じて、冷却器7bにより、所定温度に冷却した後、フィルターユニット8aによって濾過され、濾液(第1濾液)として、上澄み液受器(第1濾液受器)9aに回収される(第1濾過工程(S3))。そして、上澄み液受器9aに回収された上澄み液(第1濾液)は、必要に応じて、冷却器7cにより、所定温度に冷却する。なお、上澄み液や、第1濾液を冷却するために、重力沈降槽5や、上澄み液受器9aに冷却機構を設けておいてもよい。また、冷却器7b、7cや冷却機構を用いずに、自然冷却させてもよい。そして、上澄み液受器9aに回収された第1濾液は、さらに、フィルターユニット8bに所定量排出されて濾過され、濾液(第2濾液)として、上澄み液受器9b(第2濾液受器)に回収される(第2濾過工程(S4))。
【0043】
そして、以下に説明するように、この液体成分(第2濾液)、および、固体成分(固形分濃縮液)から蒸留法等を用いて芳香族溶剤を分離・回収し、液体成分(第2濾液)からは灰分濃度が極めて低い無灰炭を得る(無灰炭取得工程(S5))。また、必要に応じて、固体成分からは、灰分の濃縮された副生炭を得ることができる。
そして、固形分濃縮液受器6に排出された固形分濃縮液から分離・回収された芳香族溶剤および上澄み液受器9bに回収された上澄み液から分離・回収された芳香族溶剤は、必要に応じて、石炭スラリー調製槽1へ循環する(便宜上、図2の点線部分で示す)。
【0044】
<無灰炭取得工程(S5)>
無灰炭取得工程(S3)は、前記第2濾過工程(S4)で濾過された濾液(第2濾液)から芳香族溶剤を除去して、無灰炭を取得する工程である。
【0045】
第2濾液(上澄み液)から芳香族溶剤を分離して除去する方法は、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)等を用いることができ、分離して回収された芳香族溶剤は石炭スラリー調製槽1(図2参照)へ循環して繰り返し使用することができる。芳香族溶剤の分離・回収により、第2濾液からは、灰分濃度が極めて低い無灰炭を得ることができる。この無灰炭は、灰分をほとんど含まず、水分は皆無であり、原料石炭よりも遥かに優れた性能(熱流動性)を示す。
【0046】
なお、必要に応じて、前記無灰炭取得工程(S5)において、前記第2濾過工程(S3)で濾過された濾液から改質炭である無灰炭を取得することに加え、前記分離工程(S2)で分離された固体成分から芳香族溶剤を除去して、改質炭である副生炭を製造してもよい(副生炭取得工程)。
【0047】
この副生炭は、含酸素官能基が脱離されており、また、灰分が含まれるものの水分が皆無であり、発熱量も十分に有している。従って、この副生炭は、各種の燃料用等として利用することが可能である。
【0048】
固体成分(固形分濃縮液)から芳香族溶剤を分離して除去する方法は、前記した液体成分から無灰炭を取得する無灰炭取得工程(S5)と同様に、一般的な蒸留法や蒸発法を用いることができ、分離して回収された芳香族溶剤は、石炭スラリー調製槽1(図2参照)へ循環して繰り返し使用することができる。芳香族溶剤の分離・回収により、固形分濃縮液からは灰分が濃縮された副生炭を得ることができる。
【0049】
なお、分離工程(S2)で分離された液体成分から灰分のない無灰炭のみを製造し、固体成分からは芳香族溶剤のみ回収し、灰分の濃縮された副生炭は、廃棄してもよい。
また、前記した無灰炭および副生炭の取得における固液分離は、同じ装置を用いて、順次行うことができるが、それぞれ別の装置を用いて行ってもよい。また、無灰炭および副生炭の取得においては、同時に取得されるようにしてもよく、どちらか一方を先に取得するようにしてもよい。
【0050】
本発明は、以上説明したとおりであるが、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、例えば、原料石炭を粉砕する石炭粉砕工程や、ごみ等の不要物を除去する除去工程や、得られた無灰炭を乾燥させる乾燥工程等、他の工程を含めてもよい。
【実施例】
【0051】
次に、本発明に係る無灰炭の製造方法について、実施例を挙げて具体的に説明する。
表1に示す性状の石炭を使用し、以下の実験を行った。
【0052】
【表1】

【0053】
[第1実施例]
原料石炭として、瀝青炭Bに瀝青炭Oを30質量%混合した石炭を用いた。
この原料石炭5kgに対し、6倍量(30kg)の芳香族溶剤(1−メチルナフタレン(新日鉄化学社製))を混合してスラリーを調製した。このスラリーを、窒素中、2.0MPaの圧力で加圧して、内容積30リットルのオートクレーブ中380℃、40分の条件で加熱処理(加熱抽出)した。このスラリーを350℃まで冷却し、2.0MPaの圧力、350℃に維持した重力沈降槽内で上澄み液と固形分濃縮液とに分離した。
【0054】
この上澄み液について、一部については、蒸留法で芳香族溶剤を分離・回収して、無灰炭(固液分離後無灰炭)を製造した。また、残りについては、上澄み液を250℃まで冷却し、濾過フィルターで濾過して(第1濾過)、濾液(第1濾液)を取得した。
【0055】
この第1濾液について、一部については、蒸留法で芳香族溶剤を分離・回収して、無灰炭(第1濾過後無灰炭)を製造した。また、残りについては、この第1濾液を60℃まで冷却し、濾過フィルターで濾過して(第2濾過)、濾液(第2濾液)を取得し、この第2濾液から蒸留法で芳香族溶剤を分離・回収して、無灰炭(第2濾過後無灰炭)を製造した。
【0056】
このようにして得られた固液分離後無灰炭、第1濾過後無灰炭、および、第2濾過後無灰炭について、JISM8812に定められた方法で灰分濃度を測定した。なお、原料石炭の灰分濃度も測定した。灰分濃度が0.020質量%以下のものを灰分が極めて低いものとして、無灰炭の品質が良好とした。
【0057】
また、灰分の減少率を以下の式により算出した。
固液分離後無灰炭の灰分減少率(質量%)=[1−(固液分離後無灰炭の灰分濃度(質量%)/原料石炭の灰分濃度(質量%))]×100
第1濾過後無灰炭の灰分減少率(質量%)=[1−(第1濾過後無灰炭の灰分濃度(質量%)/原料石炭の灰分濃度(質量%))]×100
第2濾過後無灰炭の灰分減少率(質量%)=[1−(第2濾過後無灰炭の灰分濃度(質量%)/原料石炭の灰分濃度(質量%))]×100
これらの結果を表2に示す。
【0058】
[第2実施例]
原料石炭として、瀝青炭Mに瀝青炭Oを30質量%混合した石炭を用いた。
この原料石炭を用い、前記実施例と同様の方法で、上澄み液と固形分濃縮液を得た。
この上澄み液について、一部については、蒸留法で芳香族溶剤を分離・回収して、無灰炭(固液分離後無灰炭)を製造した。また、残りについては、上澄み液を250℃まで冷却し、濾過フィルターで濾過して(第1濾過)、濾液を取得した。この濾液について、一部については、蒸留法で芳香族溶剤を分離・回収して、無灰炭(第1濾過後無灰炭)を製造した。
【0059】
このようにして得られた固液分離後無灰炭、および、第1濾過後無灰炭について、JISM8812に定められた方法で灰分濃度を測定した。なお、原料石炭の灰分濃度も測定した。灰分濃度が0.02質量%以下のものを灰分が極めて低いものとして、無灰炭の品質が良好とした。
また、灰分の減少率を算出した。なお、固液分離後無灰炭の灰分減少率、および、第1濾過後無灰炭の灰分減少率は、第1実施例と同様の式により求めた。
これらの結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2に示すように、第1実施例では、固液分離後無灰炭では、灰分の減少率が94.86質量%であり、灰分濃度は0.380質量%であった。また、第1濾過後無灰炭では、灰分の減少率が99.46質量%であり、灰分濃度は0.040質量%であった。そして、第2濾過後無灰炭では、灰分の減少率が99.73質量%であり、灰分濃度は0.020質量%であった。よって、第1濾過、および、第2濾過を行うことで、灰分濃度が極めて低い、良好な品質の無灰炭を得ることができた。
【0062】
第2実施例では、固液分離後無灰炭では、灰分の減少率が95.36質量%であり、灰分濃度は0.510質量%であった。また、第1濾過後無灰炭では、灰分の減少率が99.64質量%であり、灰分濃度が0.040質量%であった。しかし、第2濾過を行っていないため、最終的な灰分濃度は、0.040質量%であり、灰分濃度が極めて低い、良好な品質の無灰炭は得られなかった。
【0063】
以上、本発明に係る無灰炭の製造方法について最良の実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】無灰炭の製造方法の工程を説明するフローチャートである。
【図2】重力沈降法を行うための固液分離装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0065】
S1 スラリー加熱工程
S2 分離工程
S3 第1濾過工程
S4 第2濾過工程
S5 無灰炭取得工程
1 石炭スラリー調製槽
2 ポンプ
3 予熱器
4 抽出槽
5 重力沈降槽
6 固形分濃縮液受器
7a、7b、7c 冷却器
8a 8b フィルターユニット
9a 上澄み液受器(第1濾液受器)
9b 上澄み液受器(第2濾液受器)
10 攪拌機
100 固液分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭と芳香族溶剤とを混合したスラリーを加熱処理するスラリー加熱工程と、
前記スラリー加熱工程で加熱処理されたスラリーを、石炭が溶解した液体成分と、灰分および不溶石炭を含む固体成分と、に分離する分離工程と、
前記分離工程で分離された液体成分を濾過する第1濾過工程と、
前記第1濾過工程で濾過された濾液を、さらに濾過する第2濾過工程と、
前記第2濾過工程で濾過された濾液から芳香族溶剤を除去して、無灰炭を取得する無灰炭取得工程と、を含み、
前記第2濾過工程で濾過する濾液の温度が、前記第1濾過工程で濾過する液体成分の温度よりも低いことを特徴とする無灰炭の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−221340(P2009−221340A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66815(P2008−66815)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究成果に係る特許出願(平成19年度経済産業省新エネルギー・産業技術総合開発機構「石炭利用技術振興事業石炭利用次世代技術開発調査ハイパーコール利用高効率燃焼技術の開発」(委託研究)、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】