説明

無端ベルト及び画像形成装置

【課題】耐久性に優れ、高精細な画像を長期間にわたって形成することに貢献する無端ベルト、及び、高精細な画像を長期間にわたって形成することのできる画像形成装置を提供すること。
【解決手段】表面から厚さ方向10μmまでの深さを有する表面領域において、前記深さ(X)と弾性率(Y)との関係を表した一次近似式Y=aX+bにおける変数aが−2.6〜−0.6の範囲にあることを特徴とする無端ベルト1、及び、この無端ベルト1を備えてなることを特徴とする画像形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無端ベルト及び画像形成装置に関し、さらに詳しくは、耐久性に優れ、高精細な画像を長期間にわたって形成することに貢献する無端ベルト及び高精細な画像を長期間にわたって形成することのできる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンター及びビデオプリンター等のプリンター、複写機、ファクシミリ、これらの複合機等には、電子写真方式を利用した各種の画像形成装置が採用されている。そして、電子写真方式の画像形成装置には、金属製ドラム体又は弾性ローラに代えて、又は、これらに加えて、熱可塑性樹脂等によって形成された無端ベルトが用いられる。このような無端ベルトとしては、例えば、転写ベルト、中間転写ベルト、転写搬送ベルト、搬送ベルト、定着ベルト及び現像ベルト等が挙げられる。これらの画像形成装置は、無端ベルトの機能等に応じて、例えば、像担持体に現像された現像剤像を記録体に直接転写する直接転写方式と、現像剤像を一旦無端ベルトに転写し、無端ベルトから記録体に転写する中間転写方式(二次転写方式とも称する。)とがある。
【0003】
直接転写方式は、感光ドラム等の像担持体に形成された静電潜像を現像手段に装備された現像剤担持体から供給される現像剤で現像し、転写手段に電圧を印加することにより、無端ベルト(転写搬送ベルトともいう。)に静電的に吸着されて像担持体と転写手段との間に搬送される記録体に現像された現像剤像を転写し、現像剤像が転写された記録体を加圧ローラ及び定着ローラによって圧着又は加熱圧着し、転写された現像剤像を記録体上に画像や文字として定着する方式である。
【0004】
中間転写方式は、例えば、像担持体に形成された静電潜像を現像剤で現像し、現像された現像剤像を像担持体に当接又は圧接する無端ベルト(中間転写ベルトともいう。)に転写(一次転写)し、無端ベルトに転写された現像剤像を記録体に転写(二次転写)して、現像剤像が転写された記録体を加圧ローラ及び定着ローラによって圧着又は加熱圧着し、転写された現像剤像を記録体上に画像や文字として定着する方式である。このような中間転写方式の画像形成装置は、現像剤の転写性がよく、画像のカラー化及び高精細化、並びに、画像形成速度の高速化等を比較的実現しやすいことから、広く利用されている。
【0005】
画像形成装置に装着される無端ベルトとして、例えば、「画像形成体と記録媒体との間に配設され、駆動部材により循環駆動されて、前記画像形成体表面に形成されたトナー像を一旦自己の表面に転写保持し、これを記録媒体へと転写する中間転写部材用の導電性エンドレスベルトにおいて、一定荷重印加速度100mN/mm/60秒の測定条件におけるベルト表面のユニバーサル硬度を、表側についてF1、裏側についてF2としたとき、F1<F2の関係を満足することを特徴とする導電性エンドレスベルト」が挙げられる(特許文献1の請求項2)。ここで、「前記表側および裏側のユニバーサル硬度F1およびF2が、いずれもベルト表面から7μm以内における値」である(請求項4等参照)。この導電性エンドレスベルトは、表側及び裏側の夫々に用いる混練物を成型して成る二層構造である(実施例及び比較例参照。)。
【0006】
また、別の無端ベルトとして、例えば、「シロキサン変性ポリイミド樹脂又はシロキサン変性ポリアミドイミド樹脂を含む無端管状ベルトであって、該無端管状ベルトの表面側がポリイミドの性質を有し、その裏面側がシリコーンの性質を有し、かつ、その表面側から裏面側にかけての厚さ方向に物性が連続的に変化する傾斜材料であることを特徴とする無端管状ベルト」が挙げられる(特許文献2の請求項1)。この無端管状ベルトは、「表面側と裏面側の物性に傾斜を有しており、表面側は離型性を裏面側は弾性を有して」いる(0007欄、0069欄、0111欄等参照。)から、表面側から裏面側に向かってその弾性が増大、すなわち、弾性率が減少している。
【0007】
ところで、これらの無端ベルトは、通常、複数の支持ローラ(駆動ローラ等を含む。)に張架され、常に、張力がかけられた状態で、無限軌道上の走行及び停止が繰り返されながら、すなわち、通常、複数の支持ローラに張架され、常に、張力がかけられた状態で、屈曲が繰り返されながら、高速で走行する。そうすると、強度の強い材料で無端ベルトを形成しても、無端ベルト特にその表面にクラックが発生することがある。例えば、画像形成装置に装着された無端ベルトの走行及び停止が繰り返されると、無端ベルトの屈曲疲労等によって、無端ベルトにクラックが生じることがある。また、画像形成装置に装着された無端ベルトが停止していると、無端ベルトにおける、前記支持ローラに小さな曲率で巻回された部分の表面側に引張応力が集中する。このような状態で停止していた無端ベルトを走行させると、無端ベルトの表面にクラックが生じることがある。このようにして表面にクラックが生じた無端ベルトは、現像剤を所望のように担持することも他の部材に所望のように供給することもできず、形成される画像の品質を低下させる原因となる。
【0008】
また、無端ベルトの表面に生じたクラックが成長して大きくなると、そのクラック内に現像剤が侵入して、無端ベルトへの現像剤の固着、現像剤の転写不良等が発生することがある。現像剤は通常ワックス等の粘着性の高い材料を含んでいるから、クラック内への侵入等によって無端ベルトへの現像剤の付着量が過多になると、無端ベルトの表面とクリーニング部材との接触抵抗が大きくなって、クリーニング部材が無端ベルトの進行方向に折れ曲がってしまうという不具合も生じる。
【0009】
特に、近年の小型軽量化された画像形成装置では、無端ベルトが張架される前記支持ローラが小径化されており、無端ベルトはより一層小さな曲率でこれらの支持ローラに巻回されることになる。また、印刷速度が高速化された画像形成装置では、無端ベルトは小さな曲率で支持ローラの外周面に追従して高速で走行することになる。このような状態で、無端ベルトの走行及び停止が長期間にわたって繰り返されると、無端ベルトの表面にはより大きく深いクラックが発生しやすくなって、前記問題が顕著に発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−235547号公報
【特許文献2】特開2007−72197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、耐久性に優れ、高精細な画像を長期間にわたって形成することに貢献する無端ベルトを提供することを、目的とする。
【0012】
また、この発明は、高精細な画像を長期間にわたって形成することのできる画像形成装置を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、表面から厚さ方向10μmまでの深さを有する表面領域において、前記深さ(X)と弾性率(Y)との関係を表した一次近似式Y=aX+bにおける変数aが−2.6〜−0.6の範囲にあることを特徴とする無端ベルトであり、
請求項2は、請求項1に記載の無端ベルトを備えてなることを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る無端ベルトは、前記表面領域における前記一次近似式の変数aが−2.6〜−0.6の範囲にあり、前記表面領域において、弾性率の大きな表面から特定の割合で前記表面領域の内部に向かって徐々に弾性率が小さくなるから、すなわち、前記表面領域において、表面から特定の割合で前記表面領域の内部に向かって徐々に弾性が大きくなるから、画像形成装置に装着されて長期間にわたってその走行が停止していても、表面領域に集中する引張り応力に反して表面領域が延伸状態になりにくく、無端ベルトの表面に生じる歪量を低減することができ、表面にクラックが発生することを防止することができる。したがって、この発明によれば、耐久性に優れ、高精細な画像を長期間にわたって形成することに貢献する無端ベルトを提供することができる。
【0015】
また、この発明に係る画像形成装置はこの発明に係る無端ベルトを備えているから、この発明によれば、高精細な画像を長期間にわたって形成することのできる画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明に係る無端ベルトの一実施例である無端ベルトの概略斜視図である。
【図2】図2は、この発明に係る画像形成装置の一実施例であるタンデム型カラー画像形成装置の概略図である。
【図3】図3は、この発明に係る画像形成装置の別の一実施例であるマルチパス型カラー画像形成装置の概略図である。
【図4】図4は、耐久性試験を実施可能なベルト装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明に係る無端ベルトの一実施例である無端ベルト1を図面に基づいて説明する。図1に示されるように、無端ベルト1は、後述する樹脂組成物で環状に形成されて成る。無端ベルト1の厚さは、特に限定されないが、通常、例えば、0.03〜1mmであるのが好ましく、0.05〜0.2mmであるのがより好ましく、0.07〜0.14mm程度であるのが特に好ましい。無端ベルト1の厚さが0.03mm未満であると、無端ベルト1の機械的強度が低下することがあり、一方、1mmを超えると、無端ベルト1の可撓性が低下してかえって耐久性に劣ることがある。無端ベルト1の幅及び内周径は、無端ベルト1の用途等、すなわち、画像形成装置に配設される位置(構成部分)、張架される複数のローラ間隔等に応じて、所望の幅及び内周径となるように、任意に設定される。その一例を挙げると、例えば、無端ベルト1の幅は200〜350mmであり、内周径は200〜2,500mmである。
【0018】
無端ベルト1は、複数の層が積層されてなる積層構造とされてもよいが、図1に示されるように、単層構造とされるのが好ましい。無端ベルト1が単層構造に形成されると、積層される層の剥離等が生じることなく、また、後述する表面領域における傾きを調整することができないことがある。
【0019】
この発明の発明者は、後述する実施例及び比較例に示すように、実際に種々の無端ベルトを製造し、クラックの発生状況を比較確認したところ、無端ベルト1の表面近傍特に表面から10μmまでの表面領域における弾性率がクラックの発生に大きく関係していることを見出した。また、この発明の発明者は、前記知見に基づいて、無端ベルト1の前記表面領域における弾性率とクラックの発生状況とを比較検討したところ、予想に反して、この領域における弾性率が特定の割合で徐々に減少すると、クラックの発生をより一層長期間にわたって防止することができることを見出した。そして、前記特定の割合は、前記表面領域における深さに対する弾性率の前記一次近似式における変数aの範囲が−2.6〜−0.6であることも見出した。
【0020】
したがって、この発明において、無端ベルト1は、表面から厚さ方向10μmまでの深さを有する表面領域において、深さ(X)と弾性率(Y)との関係を表した一次近似式Y=aX+bにおける変数aが−2.6〜−0.6の範囲にあることが重要であり、−2.0〜−0.7であるのが好ましく、−1.5〜−0.9であるのが特に好ましい。
【0021】
前記一次近似式Y=aX+bにおいて、Xは無端ベルト1の表面からの深さであって、表面の深さを0μmとしたときに0μm以上10μm以下の範囲にあり、Yは前記深さ(X)における弾性率である。
【0022】
ここで、前記表面は、無端ベルト1の表面であればよいが、より正確には、JIS B0610に記載された「粗さ曲線のための中心線平均表面」である。この発明において、無端ベルト1に発生するクラックはその表面の微少亀裂が表面内及び/又は内部に向かって成長するから、前記深さはクラックの原因となる微少亀裂が生じやすい領域、すなわち、表面から深さ10μmまでの領域としている。また、この発明において、前記深さは、現像剤の平均粒径は5〜8μmであることが多く、平均粒径が6〜7μmであっても、その中には粒径が10μm程度のものが微量に存在するから、このような粒径10μmの現像剤が無端ベルト1に侵入することを防止することのできる深さにしている。すなわち、無端ベルト1に侵入する可能性のある現像剤の粒径を考慮して、前記深さは設定されている。したがって、この発明において、前記表面領域は深さ10μmまでに限定される理由は特になく、例えば15μm等に設定されてもよい。
【0023】
前記一次近似式における前記変数aが−0.6を超えると、前記表面領域における弾性率の減少率が小さすぎて、表面領域が全体的に延伸状態になりやすく、クラックの発生を防止することができない場合がある。一方、前記変数aが−2.6未満であると、前記表面領域における弾性率の減少率が大きすぎて、表面近傍の弾性率が高い領域のみでは引張り応力に対向することができず、結果、表面近傍のクラックの発生を防止することができない場合がある。
【0024】
すなわち、前記変数aが前記範囲内にあると、無端ベルト1が、弾性率の大きな表面から前記割合で内部に向かって徐々に弾性率が小さくなっているから、換言すると、表面から前記割合で内部に向かって徐々に弾性が大きくなっているから、画像形成装置に装着されて長期間にわたってその走行が停止して、支持ローラに巻回された無端ベルト1の外側が延伸状態にあり、その内側が圧縮状態にあることによって、無端ベルト1に異なる応力がかかっていても、外側の表面領域に集中する引張り応力に反して表面領域が延伸状態になりにくく、無端ベルトの表面に生じる歪量を低減することができる。その結果、前記変数aが前記範囲内にあると、無端ベルト1の表面にクラックが発生することを防止することができる。
【0025】
このように、前記変数aが前記範囲内にある場合に無端ベルト1の表面にクラックの発生を防止できる理由は詳細には明らかではないが、同じ樹脂組成のものでも、無端ベルト1を構成している樹脂の配向性や、樹脂の結晶性、充填剤と樹脂との親和性等の状態が無端ベルト1表面で異なることにより、無端ベルト1の表面の内部応力が緩和され、その結果クラックが発生しにくいのではないかと、推定している。特に、後述する実施例及び比較例の結果からすると、現像剤が付着する無端ベルト1表面の極近傍の物性が影響していることから、それらの物性を高度に調整することが、無端ベルト1の性能に重要であると考えている。
【0026】
ところで、無端ベルト1に現像剤の粒径に対して大きなクラックが発生すると、クラックに現像剤が入り込むため、転写不良が発生することがある。また、無端ベルト1は転写後にクリーニング部材によって押し付けられるため、クラックに入り込んだ現像剤が無端ベルト表面にこすり付けられて固着することがある。さらに、現像剤はワックスや結着樹脂等の粘着性の高い材料を含んでおり、無端ベルト1とクリーニング部材との接触抵抗が高くなり、クリーニング不良や、クリーニング部材が無端ベルト1の進行方向に折れ曲がることがある。ところが、無端ベルト1は、前記変数aが前記範囲内にあるから、その表面に前記のような大きなクラックが発生することはないから、前記したような現像剤がクラックに進入することによる問題点を実質的に起こすことがない。
【0027】
この発明において、クラックの発生を防止するには、前記変数aが重要であり、前記一次近似式Y=aX+bにおける変数bは、特に限定されない。変数bとしては、例えば、5〜10であればよい。
【0028】
前記一次近似式を算出するには、まず、複数の深さ(X)における弾性率(Y)を測定する。弾性率(Y)の測定は、例えば、ナノインデンテーション法により、実行することができる。ここで、ナノインデンテーション法は、圧子に荷重をかけて無端ベルト1の表面に圧子を押し付け、前記荷重を静的に変化させたときの荷重値と無端ベルト1に侵入した圧子の深さを測定することによって弾性率等を求める方法である。具体的には、測定装置として、例えば、商品名「Nano Indenter」(MTSナノインスツルメンツ株式会社製)を用いて、以下の条件で深さ(X)に対する弾性率(Y)を測定することができる。なお、この装置は、動的な材料特性評価ができるため、無端ベルト1のような薄膜製品における深さ方向の弾性率等のプロファイルを得ることができる。前記測定装置において弾性率は自動的に測定され、その測定結果はISO14577に準拠している。
【0029】
<ナノインデンテーション法における測定条件>
・最大荷重:500mN
・荷重分解能:50nN
・測定方式:連続剛性測定法(CSM)
・CSM使用周波数:45Hz
・CSM使用振幅値:2nm
・押込み方式:歪速度一定方式
・圧子:プリマウント型バーコビッチダイヤモンド圧子
・圧子の形状:三角錐 φ63.5°、β12.95°
・圧子における面と綾線の角度:142°
・圧子における先端曲率半径:20nm
【0030】
前記測定装置を用いて測定される、一回のプロファイルデータより、深さ方向のプロファイルが得られる。第1の深さXにおける第1の弾性率Yが測定される。次いで、同様にして、第2の深さXにおける第1の弾性率Yが測定される。この操作を複数回例えばn回行い、深さXと弾性率Yとの組(X,Y)を複数組、例えば、n組測定する。このようにして、深さXと弾性率Yとの組(X,N1)が複数例えばn組算出される。
【0031】
このとき、深さ(X)は、前記範囲0〜10μmから複数の値が選択され、選択される深さ(X)の数nは少なくとも2であればよく、より正確な一次近似式を得るには3以上であるのが好ましい。具体的には、無端ベルト1における表面の平滑な領域を選択し、選択した領域と異なる領域を10回測定し、測定値の算術平均値とするのが好ましい。ここで、「無端ベルト1における表面の平滑な領域」とは、高度に平坦である必要はなく、目視にて平坦であると認められる領域であればよい。
【0032】
このようにして得られた、深さXに対する弾性率Yの一次近似式Y=aX+bを算出する。一次近似式Y=aX+bは、複数例えばn組の深さXと弾性率Yとの組(X,Y)を考慮して、通常の手法、例えば、最小二乗法等により、容易に算出される。このようにして、一次近似式Y=aX+bが算出される。
【0033】
無端ベルト1は、前記特性を有していればよく、その裏面の特性例えば弾性率等は特に限定されない。好ましくは、無端ベルト1における裏面の弾性率と表面の弾性率との関係は、無端ベルト1の表面が大きな弾性率を有していることが好ましい。その理由は、無端ベルトは駆動ローラ部分では曲げられて使用されているため、無端ベルトの内側は圧縮状態になり、無端ベルトの外側では引張り状態になっている。そのため、絶えず表面側には大きい応力がかかり、それらの厚み方向での歪みの違いを緩和するためにも、無端ベルト1の表側の弾性率は大きくすることで内部応力が軽減され、結果としてクラック等が発生しにくくなると考えられる。このように、前記弾性率の大小関係が前記関係であると、支持ローラに張架されても、表面以外の部分から無端ベルト1が損傷することを効果的に防止することができる。さらに、無端ベルト1の裏面においても、裏面から厚さ方向10μmまでの深さを有する裏面領域において、深さ(X)と弾性率(Y)との関係を表した一次近似式Y=aX+bにおける変数aが−2.6〜−0.6の範囲にあるのが特に好ましい。前記裏面領域が前記特性を満足すると、支持ローラに張架された部分の裏面領域にクラックが発生することを効果的に防止することができる。
【0034】
無端ベルト1は、導電性が要求される場合には、通常、1×10〜1×1013Ω・cmの体積抵抗率を有するのが好ましく、1×1010〜1×1012Ω・cmであるのが特に好ましい。体積抵抗率が前記範囲内にあると、無端ベルト1を画像形成装置に使用した場合に、高品質の画像を形成することができる。前記体積抵抗率は、体積抵抗測定装置(三菱化学株式会社製、商品名:Hiresta−UP、使用プローブ:URS)により測定することができる。
【0035】
この発明に係る無端ベルトは、樹脂組成物を成形して成る。樹脂組成物は、ある程度の強度を有し、繰返し変形に耐える可撓性に富む樹脂単体又は複数種類の樹脂を含有してなる樹脂組成物であるのがよく、このような樹脂組成物に含有される樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリル・スチレン共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、アセチルセルロース、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリアミド樹脂(PA)、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、架橋型ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂、フッ素樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂(PESF)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン共重合体、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、四フッ化樹脂(PTFE)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリアリレート(PAR)、ポリアセタール(POM)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂及びポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましく、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂であるのがより好ましく、ポリアミドイミド樹脂がさらに好ましく、特に、芳香族ポリアミドイミド樹脂が、強度、可撓性、寸法安定性及び耐熱性等の機械的特性がバランスよく優れている点で、好ましい。
【0036】
前記芳香族ポリアミドイミド樹脂は、トリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物とを反応させるジイソシアネート法により製造することができ、ジイソシアネート法は原料の入手、反応性及び副生成物が少ない等の点で優れている。ジイソシアネート法で製造される芳香族ポリアミドイミド樹脂の他にも、重縮合反応を好適に進めることができるのであれば、ジイソシアネート化合物に代えてジアミン化合物を用いて製造される芳香族ポリアミドイミド樹脂も、好ましい。ジアミン化合物を用いて得られる芳香族ポリアミドイミド樹脂は、ヤング率が高く、無端ベルトを形成する樹脂組成物に含まれる樹脂として好適である。また、トリカルボン酸無水物の一部をテトラカルボン酸二無水物に代えてイミド結合を増加させた芳香族ポリアミドイミド樹脂は、耐湿性に優れている。芳香族ポリアミドイミド樹脂は、適宜の溶媒中で、常圧下、及び、常温下又は加熱下で反応させることにより、容易に合成することができる。
【0037】
前記トリカルボン酸無水物としては、芳香族トリカルボン酸無水物が好ましく、例えば、トリメリット酸無水物、3,4,4’−ジフェニルエーテルトリカルボン酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、2,3,5−ピリジントリカルボン酸無水物、ナフタレントリカルボン酸無水物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらの酸無水物は一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0038】
トリカルボン酸無水物の一部に代えて用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0039】
前記ジイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート化合物を好ましく挙げることができる。また、ジイソシアネート化合物として、芳香族ジイソシアネート化合物と共に、又は芳香族ジイソシアネート化合物に代えて、脂肪族ジイソシアネート化合物及び/又は脂環式ジイソシアネート化合物を、又はこれらの誘導体であるアミン類を使用することもできる。
【0040】
芳香族ジイソシアネート化合物として、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、4,4’−ジイソシアネートジフェニルスルホン、4,4’−ジイソシアネートビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートビフェニル、2,4−トルエンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。また、これらの芳香族ジイソシアネート化合物の誘導体であるジアミン類も原料として利用できる。脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。これらのジイソシアネート化合物の中でも、無端ベルトの耐熱性、機械的特性及び溶解性等を考慮すると、使用する全ジイソシアネート化合物中の60質量%以上、好ましくは70質量%以上を、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートビフェニル、イソホロンジイソシアネート又はこれらの誘導体であるジアミン類とすることが好ましい。さらに、無端ベルト1の寸法安定性を考慮すると、使用する全ジイソシアネート化合物中の70質量%以上をジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート又はこの誘導体である4,4’−ジアミノジフェニルメタンとすることがより好ましい。
【0041】
芳香族ポリアミドイミド樹脂を合成する重縮合反応に使用される溶媒としては、溶解性の点で極性溶媒が好ましく、反応性を考慮すると非プロトン性極性溶媒が特に好ましい。非プロトン性極性溶媒として、例えば、N,N−ジアルキルアミド類が挙げられ、N,N−ジアルキルアミド類としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、及び、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド等が挙げられる。また、極性溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等も好ましい。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0042】
樹脂組成物は導電性付与剤を含有してもよい。導電性付与剤として、例えば、導電性粉末及びイオン導電性物質等を挙げることができる。導電性粉末としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボンの他に、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等のゴム用カーボン類、また酸化チタン、酸化亜鉛、ニッケル、銅、銀、ゲルマニウム等の金属、さらには金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマー、ナノ粒子等を挙げることができる。イオン導電性物質としては、例えば、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸カルシウム、塩化リチウム等の無機イオン性導電物質等を挙げることができる。これらの中でも、導電性カーボン及びゴム用カーボン類等が好ましく、カーボンブラックが特に好ましい。導電性付与剤は、前記各種物質をその一種を単独で使用することができ、また二種以上を併用することもできる。導電性付与剤の好ましい形状は、球状又は不定形である。球状又は不定形をなす導電性付与剤の粒子のサイズは、一次粒子径として0.01〜10μm程度が好ましい。導電性付与剤がカーボンブラックの場合、そのBET比表面積は、一次粒子径との相関性が強く、50〜300m/gであることが好ましく、100〜200m/gがより好ましい。
【0043】
樹脂組成物における導電性付与剤の含有量は、導電性付与剤の導電性及び粒径、並びに、無端ベルトに要求される導電特性等により、適宜調整すればよいが、通常、樹脂組成物と導電性付与剤との全質量100%に対して、1〜25質量%であるのが好ましく、5〜20質量%であるのがより好ましく、10〜20質量%であるのが特に好ましい。導電性付与剤の添加量が1質量%より少ないと、導電性物質同士の距離が離れすぎて無端ベルトにおける導電性の発現が悪くなることがあり、一方、導電性付与剤の添加量が25質量%を超えると、無端ベルトの機械的強度が低下することがある。導電性付与剤を樹脂に分散させるには、公知の方法を適宜選択することができ、公知の方法として、例えば、ミキシングロール、加圧式ニーダー、押出機、三本ロール、ホモジナイザー、ボールミル、ポットミル及びビーズミル等を用いた混合方法が挙げられる。
【0044】
樹脂組成物は、この発明の目的を阻害しない限り、前記樹脂及び前記導電性付与剤に加えて、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、シリコーン系化合物、フッ素系有機化合物、カップリング剤、滑剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、老化防止剤、補強性充填材、反応助剤、反応抑制剤等の各種添加剤等が挙げられる。また、この樹脂組成物は、この発明の目的を阻害しない限り、他の樹脂が含有されていてもよい。これら他の成分の前記樹脂組成物における含有量は、これら他の成分の添加により前記樹脂組成物に発現させる特性に応じて適宜に決定されることが、できる。
【0045】
次に、この発明に係る無端ベルトの製造方法を説明する。前記樹脂組成物を公知の成形方法によって環状に成形して無端ベルト1を製造することができる。例えば、無端ベルト1を形成する前記樹脂組成物に含有される樹脂として熱可塑性樹脂を選択した場合には、遠心成形、押出成形、射出成形等により、一方、前記樹脂として熱硬化性樹脂を選択した場合には、遠心成形、RIM成形等により、無端ベルト1を成形することができる。これらの成形方法の中でも、材料を問わずに適用可能であり、かつ厚さ精度に優れる等の点で、遠心成形が好ましい。
【0046】
無端ベルト1を遠心成形によって成形する場合には、無端ベルト1を形成する前記樹脂組成物は成形時の粘度を50,000mPa・s以下に調整するのが好ましい。粘度が50,000mPa・sを超えると、厚さの均一な無端ベルト1を製造するのが困難になることがある。樹脂組成物の粘度の下限については、特に限定されるものではないが、10mPa・sであるのが好ましい。樹脂組成物の粘度が上記範囲を外れる場合は、前記溶媒の添加量等を調節することにより、樹脂組成物の粘度を前記範囲内に調整することができる。
【0047】
遠心成形によると、流動性の樹脂組成物を円筒形の金型に注入し、金型を回転させて遠心力で金型内周面にフィルム状成形体を均一に成形し、溶媒を乾燥除去して、無端ベルト1が製造される。金型は各種金属管を用いることができる。好適な金型としては、金型の内周面は鏡面研磨されており、鏡面となった内周面はフッ素樹脂やシリコーン樹脂等の離型剤により離型処理され、形成した無端ベルト1が内周面から容易に脱型できるようにされた金属管を挙げることができる。
【0048】
金型内周面に成形されたフィルム状成形体から溶媒を除去する処理として、以下の一次溶媒除去工程及び二次溶媒除去工程からなる溶媒除去処理を挙げることができる。一次溶媒除去工程では、金型を回転して遠心成形されたフィルム状成形体から、金型を回転したまま5〜60分間、40〜200℃の熱風を金型内に通過させることにより、溶媒が除去される。一次溶媒除去工程に続く二次溶媒除去工程では、フィルム状成形体を金型ごと遠心成形機から取り出し、取り出したフィルム状成形体を加熱炉、例えば、過熱水蒸気炉で、110〜350℃に10〜300分間加熱し、これによってフィルム状成形体中の溶媒を除去する。
【0049】
フィルム状成形体を均一に成形した後、金型ごとフィルム状成形体を取り出し、又は、フィルム状成形体から溶媒を除去した後、フィルム状成形体を取り出し、放冷する。なお、金型ごとフィルム状成形体を放冷すると、金型とフィルム状成形体との熱膨張率の差により、樹脂組成物でできたフィルム状成形体を脱型することができる。脱型した円筒状のフィルム状成形体の両側端部を除去し、所定幅毎に裁断すれば、無端ベルト1が製造される。
【0050】
なお、樹脂組成物に含まれる樹脂としてポリアミドイミド樹脂を選択する場合には、上述した遠心成形による他に、ポリアミドイミド樹脂の原料であるトリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物とが一部重合したポリアミド酸の溶液を、金型の内周面や外周面に浸漬方式、遠心方式、塗布方式等によってコートし、又は前記ポリアミド酸の溶液を注形型に充填する等の適宜な方式で筒状に展開し、その展開層を乾燥製膜してベルト形に成形し、その成形物を加熱処理してポリアミド酸をイミドに転化して型より回収する周知の方法(特開昭61−95361号公報、特開昭64−22514号公報、特開平3−180309号公報等)等により、無端ベルト1を製造することもできる。
【0051】
この発明において、前記変数aを調整するには、溶媒除去処理における前記一次溶媒除去工程及び/又は前記二次溶媒除去工程の条件を調整すればよい。具体的には、一次溶媒除去工程は、前記のように、金型を回転したまま5〜60分間、40〜150℃の熱風を金型内に通過させることにより、実施されるが、前記特性を満足するように無端ベルト1を形成するには、この一次溶媒除去工程を以下の条件で行うのが好適である。
【0052】
加熱温度:100〜180℃
加熱時間:10〜60分間
温度上昇速度:1〜10℃/分
冷却時の温度降下速度:1〜30℃/分
【0053】
一方、二次溶媒除去工程は、前記のように、110〜350℃に10〜120分間加熱して、実施されるが、前記特性を満足するように無端ベルト1を形成するには、この一次溶媒除去工程を以下の条件で行うのが好適である。
【0054】
加熱温度:150〜280℃
加熱時間:60〜240分間
温度上昇速度:1〜10℃/分
冷却時の温度降下速度:5〜30℃/分
【0055】
このようにして、前記特性を満足する表面領域を有する無端ベルト基体が作製される。作製された無端ベルト基体を金型から取り出し、放冷する。なお、金型ごと無端ベルト基体を放冷すると、金型と無端ベルト基体との熱膨張率の差により、無端ベルト基体を脱型することができる。脱型した円筒状の無端ベルト基体における両側端部を除去し、所定幅に裁断して、無端ベルト1が製造される。無端ベルト基体を切断する切断機は、無端ベルト基体の切断開始点と切断終了点とが略一致するように、切断することができる装置であればよい。
【0056】
このようにして製造される無端ベルト1は前記特性を満足する表面領域を有している。したがって、この発明に係る無端ベルトによれば、表面クラックの発生が長期間にわたって効果的に防止されるから、画像形成装置の無端ベルトとして装着されると、高精細な画像を長期間にわたって形成することに大きく貢献することができる。
【0057】
この発明に係る無端ベルトは、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、前記無端ベルト1は、無端ベルト1の蛇行防止部材を備えていないが、この発明において、無端ベルトの少なくとも一方の端部近傍に、無端ベルトの円周方向に延在する桿状、軌条状及び帯状等の細長い形状をなした蛇行防止部材を備えていてもよい。
【0058】
次に、この発明に係る無端ベルト1を備えた画像形成装置(以下、この発明に係る画像形成装置と称することがある。)の一例を、図2を参照して、説明する。この画像形成装置10は、中間転写方式のタンデム型カラー画像形成装置である。中間転写方式のタンデム型カラー画像形成装置10は従来公知の画像形成装置と基本的に同様に構成されているが、この発明に係る無端ベルト1が中間転写ベルト7として装着されている。
【0059】
図2に示されるように、中間転写ベルト7は、二本の支持ローラ42、テンションローラ43及び対向ローラ44に張架されている。そして、対向ローラ44の設置位置近傍に、対向ローラ44と二次転写ローラ45と電極ローラ46とを備えて成る二次転写部40が配置されている。
【0060】
また、図2に示されるように、画像形成装置10は、中間転写ベルト7上に四種の現像ユニットB、C、M及びYが直列に配置されている。現像ユニットBは、感光体等の像担持体11Bと帯電ローラ12Bと露光手段13Bと現像ローラ23B及び筐体21Bを備えた現像手段20Bと転写ローラ14Bとクリーニングブレード15Bとを備えている。現像ユニットBには黒色現像剤が収納されている。なお、現像ユニットC、M及びYは、現像ユニットBと同様に構成され、シアン現像剤22C、マゼンタ現像剤22M及び黄色現像剤22Yが収納されている。
【0061】
図2に示されるように、画像形成装置10における記録体16の搬送方向下流には、定着ベルトとしての無端ベルト35を備えた定着手段30が配置されている。この定着装置30は、開口を有する筐体34内に、定着ローラ31と支持ローラ33と定着ベルト35と加圧ローラ32とを備えて成る圧力熱定着装置である。なお、定着手段30は、熱ローラ定着装置、加熱定着装置、圧力定着装置等が採用されてもよい。
【0062】
画像形成装置10は、次のようにして画像を形成する。まず、現像ユニットBによって、像担持体11Bの表面に静電潜像が黒色現像剤22Bで現像剤像として可視化され、この現像剤像が中間転写ベルト7上に転写される(一次転写)。続いて、現像ユニットC、M及びYによって中間転写ベルト7に現像剤像が転写され、カラー像が形成される。カラー像は中間転写ベルト7の回転によって二次転写部40に至り、二次転写部40に搬送された記録体16上に転写される(二次転写)。次いで、カラー像が顕像化された記録体16は定着手段30に搬送され、カラー像が永久画像として定着される。このようにして記録体16にカラー画像が形成される。なお、画像形成装置10を用いてカラー画像を形成する場合について説明したが、モノクロ画像を形成する場合には中間転写ベルト7に一次転写された現像剤像を直ちに記録体16に二次転写して定着手段30に搬送すればよい。
【0063】
この発明に係る無端ベルト1を備えた画像形成装置(以下、この発明に係る画像形成装置と称することがある。)の別の一例を、図3を参照して、説明する。この画像形成装置50は、中間転写方式のマルチパス型カラー画像形成装置である。この中間転写方式のマルチパス型カラー画像形成装置50は従来公知の画像形成装置と基本的に同様に構成されているが、この発明に係る無端ベルト1が中間転写ベルト7として装着されている。
【0064】
図3に示されるように、中間転写ベルト7は、二本の支持ローラ42、テンションローラ43及び対向ローラ44に張架されている。そして、対向ローラ44の設置位置近傍に、対向ローラ44と二次転写ローラ45と電極ローラ46とを備えて成る二次転写部40が配置されている。
【0065】
また、図3に示されるように、画像形成装置50は、四種の現像ユニットB、C、M及びYを内蔵した現像手段20を備えている。現像手段20に内蔵された現像ユニットB、C、M及びYは帯電手段、露光手段等(図3において図示しない。)を内蔵し、それぞれ、黒色現像剤、シアン現像剤、マゼンタ現像剤及び黄色現像剤を収納している。なお、現像手段20は、現像手段20の外部であって像担持体11の近傍に帯電手段、露光手段等が配置されていてもよい。
【0066】
図3に示されるように、画像形成装置50における記録体16の搬送方向下流には定着手段30が配置されている。定着装置30は画像形成装置10の定着装置30と同様に構成されている。
【0067】
画像形成装置50は、次にようにして画像を形成する。まず、現像手段20の現像ユニットBによって、像担持体11の表面に静電潜像が黒色現像剤22Bで現像剤像として可視化され、中間転写ベルト7上に転写される(一次転写)。続いて、像担持体11及び中間転写ベルト7が1回転して、現像ユニットC、M及びYによって中間転写ベルト7に各現像剤像が重畳転写され、カラー像が形成される。カラー像は中間転写ベルト7の回転によって二次転写部40に至り、二次転写部40に搬送された記録体16上に転写される(二次転写)。次いで、カラー像が顕像化された記録体16は定着手段30に搬送され、カラー像が永久画像として定着される。このようにして、記録体16にカラー画像が形成される。なお、画像形成装置50を用いてカラー画像を形成する場合について説明したが、モノクロ画像を形成する場合には中間転写ベルト7に一次転写された現像剤像を直ちに記録体16に二次転写して定着手段30に搬送すればよい。
【0068】
この画像形成装置10及び50によれば、中間転写ベルト7として無端ベルト1が装着されているから、長期間にわたって中間転写ベルト7が走行し続けてもまた停止し続けても、中間転写ベルト7の表面にクラックが実質的に発生しない。したがって、これらの画像形成装置によれば、高精細な画像を長期間にわたって形成することができる。
【0069】
画像形成装置10及び50は、電子写真方式の画像形成装置とされているが、この発明において、画像形成装置10及び50は、電子写真方式には限定されず、例えば、静電方式の画像形成装置であってもよい。画像形成装置10及び50は、例えば、複写機、ファクシミリ、プリンター等の画像形成装置とされる。
【実施例】
【0070】
(実施例1)
反応容器内で、当量のトリメリット酸無水物と4,4′−ジアミノジフェニルメタンとをN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、これを加熱して、固形分濃度(実質的全閉環のポリアミドイミド)28質量%の芳香族ポリアミドイミド溶液を得た。この溶液に、N,N−ジメチルアセトアミドをさらに加え、固形分濃度15質量%、固形分の比重1.2のポリアミドイミド溶液を調製した。このポリアミドイミド溶液に、導電性付与剤として酸化処理カーボンブラック(商品名「プリンテックス150T」、Degussa社製、pH5.8、揮発分10.0%)をポリアミドイミド溶液と導電性付与剤との合計100質量%に対して15質量%となるように配合し、ポットミルで24時間混合分散し、樹脂組成物混合溶液を得た。成形に使用する金型は、内径226mm、外径246mm、長さ400mmの大きさを有し、金型内面はポリッシングにより鏡面研磨されている。この金型両端の開口部に、リング状の蓋(内径170mm、外径250mm)をそれぞれ嵌合して、金型を閉塞し、調製した混合溶液を1000rpmの速度で回転する金型内周に190g注入した。
【0071】
次いで、金型を同速度で回転させて、溶液をレベリングし、熱風乾燥機により金型周囲の温度を130℃に保ち、この状態を60分間保持した(このときの温度上昇速度は6℃/分であった。)。その後、金型の回転を停止し、50℃の環境下に6時間放置した(このときの温度降下速度は5℃/分であった。)。次いで、金型ごと190℃のオーブンに50分間投入した(このときの温度上昇速度は6℃/分であった。)。次いで、金型をオーブンから取り出し、金型の温度が1分間あたり12℃下がるように、金型に冷風を当てて冷却し、金型の温度が25℃になった時点で、金型と無端ベルト成形体の熱膨張差を利用して、無端ベルト成形体を金型から脱型した。無端ベルト成形体の両端部をそれぞれカットして240mmの幅とし、外径226mm、厚さ約100μmを有する実施例1の無端ベルトを製造した。
【0072】
(実施例2)
実施例1における熱風乾燥機による乾燥工程の到達温度及び保存時間を、100℃、30分間に変更し、さらに、冷風による金型の冷却工程における金型の温度降下速度を1分間あたり5℃となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の無端ベルトを製造した。
(実施例3)
実施例1における冷風による金型の冷却工程における金型の温度降下速度を1分間あたり8℃となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の無端ベルトを製造した。
【0073】
(比較例1)
実施例1における熱風乾燥機による乾燥工程の到達温度を150℃に変更し、さらに、冷風による金型の冷却工程における金型の温度降下速度を1分間あたり0.5℃となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の無端ベルトを製造した。
【0074】
(比較例2)
実施例1における熱風乾燥機による乾燥工程の到達温度を100℃に変更し、さらに、冷風による金型の冷却工程における金型の温度降下速度を1分間あたり35℃となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の無端ベルトを製造した。
【0075】
(弾性率の測定)
前記測定装置を用いて前記条件及び前記方法に準拠して、製造した各無端ベルトの表面領域における深さ(X)と弾性率(Y)との関係を表した一次近似式Y=aX+bを求めた。その結果を第1表に示す。第1表に示されるように、実施例1〜3の無端ベルトにおける前記一次近似式Y=aX+bの変数aは前記範囲内にあったのに対して、比較例1及び2の無端ベルトにおける前記一次近似式Y=aX+bの変数aは前記範囲外であった。
【0076】
【表1】

【0077】
(クラックの発生の有無方法)
従来の試験条件よりも厳しい条件下で、下記のようにして耐久性試験を実施した後に各無端ベルトの表面にクラックが発生したか否かを目視で確認した。その結果、実施例1〜3の無端ベルトはいずれもクラックの発生が確認できなかったが、比較例1の無端ベルトは表面に小さいクラックが確認され、比較例2の無端ベルトにもクラックの発生が確認された。
【0078】
耐久性試験は、図4に示されるベルト装置90を用いて実施した。このベルト装置90は、図4に示されるように、中心軸間距離dが392.5mmに調整された駆動ローラ91と従動ローラ92とを備えて成る。前記駆動ローラ91は、外径46mm、長さ400mmを有するステンレス鋼製軸体(図4において図示しない。)の外周面に、シリコーンゴムを硬化してなる弾性層(外径50mm、長さ400mm、表面状態研磨、十点平均粗さRz5.0μm)を備えて成り、前記従動ローラ92は、外径46mm、長さ400mmを有するステンレス鋼製軸体(図4において図示しない。)の外周面に、シリコーンゴムを硬化してなる弾性層(外径50mm、長さ400mm、表面状態研磨、十点平均粗さRz5.0μm)を備えて成る。実施例1〜3並びに比較例1及び2と同様にして、幅300mm、内周径942mm、厚さ0.1mmの無端ベルトをそれぞれ製造した。
【0079】
製造した各無端ベルトを駆動ローラ91と従動ローラ92とに張架し、張架された無端ベルト1Aにかかる張力を50N(テンションゲージによる測定値)に調整した。この状態で、駆動ローラ91を100rpmの速度で回転させて、無端ベルト1Aを50,000回回転させて、耐久性試験を実施した。
【符号の説明】
【0080】
1、1A 無端ベルト
7 無端ベルト(中間転写ベルト)
35 無端ベルト(定着ベルト)
10、50 画像形成装置
11、11B、11C、11M、11Y 像担持体
12B、12C、12M、12Y 帯電ローラ
13B、13C、13M、13Y 露光手段
14、14B、14C、14M、14Y 転写ローラ
15B、15C、15M、15Y クリーニングブレード
16 記録体
20、20B、20C、20M、20Y 現像手段
21B、21C、21M、21Y、34 筐体
22B、22C、22M、22Y 現像剤
23B、23C、23M、23Y 現像ローラ
30 定着装置
31 定着ローラ
32 加圧ローラ
33 定着ベルト支持ローラ
40 二次転写部
42 支持ローラ
43 テンションローラ
44 対向ローラ
45 二次転写ローラ
46 電極ローラ
B、C、M、Y 現像ユニット
90 ベルト装置
91 駆動ローラ
92 従動ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から厚さ方向10μmまでの深さを有する表面領域において、前記深さ(X)と弾性率(Y)との関係を表した一次近似式Y=aX+bにおける変数aが−2.6〜−0.6の範囲にあることを特徴とする無端ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載の無端ベルトを備えてなることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−249906(P2010−249906A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96794(P2009−96794)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】