説明

無細胞蛋白質合成システムを用いる膜蛋白質を含むプロテオリポソームの形成

本発明は膜蛋白質を含むプロテオリポソームを得るための方法に関する。この方法は脂質ベシクルがin vitro無細胞蛋白質転写/翻訳システムの反応培地中でインキュベートされることに特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は天然のコンフォメーションおよび活性な形態でリポソームの脂質層内に組み込まれる膜蛋白質を生成するための新規で効果的な技術に関する。
【0002】
本発明に係る方法は、最適化された無細胞翻訳システムにおける蛋白質発現技術の使用に基づく。単一段階の反応において、1つまたは複数の関心ある組換え膜蛋白質は、活性なプロテオリポソームを直接生成するために、特に植物起源である規定された脂質二重層内に組み込まれる。
【0003】
この方法は様々な起源の様々な構造および機能を有する膜蛋白質に使用可能である。
【0004】
この技術は治療上のまたはワクチンとしての使用のためのプロテオリポソームを生成するための効果的で迅速な手段である。
【背景技術】
【0005】
最近様々な種のゲノムのシークエンシングの結果に基づき、蛋白質発現システムをバイオテクノロジーに応用することについて関心が増加してきている。組換え蛋白質の発現に基づく予想され得る応用は、構造的および機能的研究のため、ベクター化された治療上の薬剤蛋白質の発現のため、および蛋白質/蛋白質および蛋白質/薬剤相互作用の研究のための蛋白質マイクロプレートの開発のための大量の可溶性蛋白質の迅速な生成に関する可能性を含む。
【0006】
古典的な真核生物またはバクテリアのベクターシステムは組換え蛋白質生成のために広く使用される。これらシステムは強力な技術を表す一方、これらの特徴点のいくつかは利便性を制限する。例えば、これらシステムでは構造的な研究のために機能的な膜蛋白質を適度な量得ることは困難であり、さらに細胞毒性な蛋白質の生成は不可能である。
【0007】
これら蛋白質過剰発現システムは広く使用されているにも関わらず、これらを最適化することは必須と思われる。しかしながら生きている宿主生物の細胞機能の修正無しにこの最適化を達成することは困難に見える。
【0008】
蛋白質生成のための非常に興味深く魅力的な代替手段は、無細胞転写/翻訳システムの使用である(非特許文献9、12、13、14)。これらin vitro蛋白質合成システムはウサギの網状赤血球、バクテリア(Escherichia coli)の溶解物または麦の胚芽を本質的に使用する。
【0009】
これらin vitroシステムの利点の1つは、生きている生物において、従って古典的in vivoシステムにおいて発現できない細胞毒性な膜蛋白質、レギュレーターまたは不安定な蛋白質を合成する能力である。それ以上に、これら無細胞システムの他の利点は(pH、レドックス電位、イオン強度等のような)反応の各パラメーターが生成される標的蛋白質に依存して修正可能である完全に開いたシステムであることである。これらシステムに加えるに、結果として生じる組換え蛋白質はその反応の主要な生成物を表す。
【0010】
現在、多くの研究者は構造的および機能的研究のための手段としてこれら合成システムを選択している。それにも関わらず、現在これらは大規模な蛋白質生成のため選択される方法ではない(非特許文献5、14)。
【0011】
多数の最近の研究はこれら無細胞システムにおける蛋白質生成を改良するための方法を記述している。ゆえに修正されたエネルギー性混合物上(非特許文献1)または新しい反応物システム上(非特許文献4)で改良された大腸菌(E. coli)溶解物(非特許文献3)を使用して研究は報告されてきた。それにも関わらず、これら研究で蛋白質生成におけるそれに続く増量の直接的な証拠を提供したものは無い。それらの生成の他に、それらが作用する部位への蛋白質の輸送も非常に困難である。
【0012】
使用可能な送達システムの間でリポソームは、特にプロテオリポソームの形態における蛋白質のため、細胞内への高分子の送達のための良好な候補として同定されてきた。リポソームは細胞毒性ではないという利点を有し、広い範囲の生理活性分子(蛋白質、DNA、リボザイム等)を特異的に輸送および送達可能である。これらはまた分子を分解から保護し、これらの組成物は容易に修正可能である(非特許文献10)。
【0013】
様々な研究が抗原やトキシンのような可溶性蛋白質、薬剤または核酸の輸送のためのリポソームの使用を既に報告している。膜蛋白質の場合、プロテオリポソームの生成は少なくとも二段階の反応、すなわち膜蛋白質の生成とそれからそれのリポソームへの組み込みを必要とする。(非特許文献8)。凝集する傾向を有する蛋白質の場合、更なる中間の変性/再生段階が必要である。それ以上に出願者の知識において、リポソームを使用する膜蛋白質の輸送を試みた研究は無い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Calhoun KA, Swartz JR. (2005) Energizing cell-free protein synthesis with glucose metabolism. Biotechnol Bioeng, 90(5), 606-613.
【非特許文献2】Douce R, Holtz RB, Benson AA. (1973) Isolation and properties of the envelope of spoinach chloroplasts. J Biol Chem. 548(20):7215-22.
【非特許文献3】Kim DM, Swartz JR. (2000) Prolonging cell-free protein synthesis by selective reagent additions. Biotechnol Prog, 16(3), 385-390.
【非特許文献4】Kim TW, Kim DM, Choi CY. (2006) Rapid production of milligram quantities of proteins in a batch cell-free protein synthesis system. J Biotechnol, 124(2):373-80.
【非特許文献5】Lamla T., Mammeri K. and Erdmann VA (2001) The cell-free protein biosynthesis: applications and analysis of the system. Acta Biochim Pol. 48(2):453-65.
【非特許文献6】Lasic DD (1997) in Liposomes in gene delivery. CRC Press LLC
【非特許文献7】Liguori L, Marques B, Villegas-Mendez A, Rothe R and JL Lenormand (2007), Production of membrane proteins using cell-expression system. Expert Rev Proteomics. 4(1):79-90.
【非特許文献8】Rigaud JL, (2002) Membrane proteins: functional and structural studies using reconstituted proteoliposomes and 2-D crystals. Braz. J. Med. Biol. Res. 35(7):753-766.
【非特許文献9】Ryabova LA, Morozov Iyu and Spirin AS (1998) Continuous-flow cell-free translation, transcription-translation, and replication-translation systems. Methods Mol Biol. 77:179-93.
【非特許文献10】Service RF, (2005) Nanotechnology takes aim at cancer. Science 310(5751), 1132-1134.
【非特許文献11】Spirin AS (2002): in Cell-free translations systems. Springer, 3-20.
【非特許文献12】Spirin AS (2004) High-throughput cell-free systems for synthesis of functionally active proteins. Trends Biotechnol 22: 538-545
【非特許文献13】Swartz JR (2003) Cell-Free Protein Expression: A Springer Press, Springer Berlin, Heidelberg, New York.
【非特許文献14】Swartz JR (2006) Developing cell-free biology for industrial applications. J Ind Microbiol Biotechnol. 33(7): 476-85.
【非特許文献15】Templeton NS, Lasic DD, Grederick PM, Strey HH, Roberts DD and Pavlakis GN (1997) Improved DNA:liposome complexs for increased systemic delivery and gene expression. Nature Biotech. 15(7): 647-652.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
既に述べたように、膜蛋白質は凝集していない活性な形態で過剰生産することが特に困難な蛋白質である。同時に、膜蛋白質は生物の総蛋白質のおよそ30%を表し、必須な生物学的過程に関与する。これらの生物学的な活動の脱調節は、癌や遺伝性疾患において発生するだけでなく、バクテリアおよびウイルス感染に対する細胞の最初の応答の1つでもある。
【0016】
しかしながら、これら蛋白質の固有の生化学的性質のため、膜蛋白質および機能的なプロテオリポソームを生成するための方法は規定することが特に困難である。膜蛋白質の研究において主要な難題の1つは、古典的な過剰発現技術を使用して十分な量の組換え蛋白質を得ることである。
【0017】
それゆえ膜蛋白質の機能的および構造的研究は、一方はこの低い生成収量により、他方はこれらの高い疎水性アミノ酸含有量によりこれら蛋白質が不溶性形態で主に得られることにより制限される。これら研究を実行するためには、膜蛋白質は変性および再生されなくてはならず、一定の場合ではリポソームに組み込まれなくてはならない。これらの段階は制限的で長く、大量の未変性な形態の膜蛋白質は得られない。直面する困難さの証拠として、今日までに120のみの膜蛋白質の構造が決定されている。
【0018】
したがって大量に活性な形態で膜蛋白質を生成するための信頼性が有り簡素なシステムについての継続的な要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第一の態様において、したがって本発明は膜蛋白質を含むプロテオリポソームを得るための方法に関する。この方法は、反応培地に加えられる脂質ベシクルの存在下で無細胞システムを使用してin vitroで膜蛋白質を合成することにより得られるプロテオリポソームにより特徴付けられる。
【0020】
したがってこの方法から直接得られる生成物は天然の活性な形態である膜蛋白質を含むプロテオリポソームである。
【0021】
「膜蛋白質を含む」とはプロテオリポソームが少なくとも1つの膜蛋白質を含むことを意味する。単一のプロテオリポソームにおいていくつか異なる形態の組換え膜蛋白質を同時に生成し組み込むことも可能である。
【0022】
したがって、生成されパッケージされた膜蛋白質は何れの起源でもよい:標的とされる多数の応用のため、本発明に係るプロテオリポソームに組み込まれる膜蛋白質は哺乳動物またはヒト起源に利点がある。(異なる形態の)様々な膜蛋白質が各プロテオリポソームにおいて含まれる場合、それらは異なる起源であり得る。
【0023】
同様に本出願人は、このシステムは1つまたは複数の膜貫通領域を有する膜蛋白質についても機能し、したがってこれらの構造や生化学的な複雑さとは関係ない事を示した。加えて、例えばチャネル、受容体、プロまたは抗アポトーシス蛋白質等について、これらの機能とは無関係に機能的な膜蛋白質を得ることが可能である。
【0024】
前に述べたように、本発明に係る方法は、真核生物の膜蛋白質およびより格別には1つまたは複数の膜貫通領域を有する哺乳動物の膜蛋白質(受容体、プロアポトーシス蛋白質、酵素等)、バクテリアだけでなく植物または哺乳動物起源のポリン、またはウイルスのエンベロープ蛋白質のような、様々な起源の蛋白質の発現を可能とする。これら蛋白質の変異したまたは切断された形態もこの発現システムにより発現されてよく、それらが少なくとも1つの疎水性領域を含む限り脂質ベシクルに組み込まれてよい。
【0025】
本発明は、第一にin vitro蛋白質合成システムを選択し、第二にプロテオリポソームの形態にある膜蛋白質を提示することを選択するという、自明ではなかった選択肢を本出願人が選択したことに由来する結果である。際立つことに、本発明は非常に満足のゆく量および質的結果が伴う単一段階で実施される。
【0026】
ゆえに無細胞過剰発現のシステムは、活性で可溶性な形態でのそれらの合成が改良されること、およびプロテオリポソームを形成するためのリポソームへの単一段階でのそれらの直接的な取り込みの両方を可能にする膜蛋白質の生成のために開発され最適化されてきた。
【0027】
慣例では、1つまたは複数の組換え膜蛋白質は無細胞蛋白質合成システム(転写/翻訳)を使用してin vitroで合成される。これらシステムは当業者に周知であり、例えばRoche Applied Scienceにより販売されているRTSシステム(Rapid Translation System)100HYまたは500HYは市場で入手可能である。
【0028】
そのようなシステムにおいて関心のある蛋白質は、前記蛋白質または蛋白質断片をコードする、配列がクローン化されたプラスミドから合成される。
【0029】
一般的にこれら配列は、アルファヘリックスに1つまたは複数の膜貫通領域を有する膜蛋白質、またはポリンタイプのベータシートを形成する膜蛋白質、または脂質二重層と結合する疎水性領域を含む膜蛋白質をコードするオープンリーディングフレームを含む相補的DNAに相当する。
【0030】
本発明によると、2つの異なる膜蛋白質を含むプロテオリポソームを合成することは可能である。慣例では、各蛋白質は異なるプラスミドから別個に生成され得る。代わりにおよび好ましい方法では、2つの蛋白質をコードする2つの配列を同一のプラスミドに配置可能であり、利点として単一のプロモーターから発現可能である。
【0031】
本発明のために使用可能である無細胞蛋白質発現システムは何れの特定の供給源にも制限されず、小麦の胚芽、大腸菌(E. coli)溶解物、ウサギ網状赤血球またはアフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞を含み得る。利点のため、生物学的抽出物は大腸菌(E. coli)溶解物である。
【0032】
本発明によると脂質ベシクルは、蛋白質合成の間または好ましくは後者の開始前であっても、どちらかで反応培地に加えられる。この脂質付加は好ましくは反応培地mlあたり数ミリグラムの濃度で、一般的には0.5から10mg/mlの間で行われる。
【0033】
反応培地に脂質を加えることは既知であるが、新しく合成された蛋白質の可溶性を上昇させる目的で使用される溶解物、すなわち一般的に大腸菌(E. coli)由来の脂質、と同じタイプのアプリオリである。他方、本出願人の知識ではプロテオリポソームを形成する目的で脂質ベシクルを加えることは記述または提案すらされたことはなかった。
【0034】
脂質ベシクルは当業者に既知であるプトロコルを使用して調整されSUV(Small Unilamellar Vesicles)として知られている(非特許文献6、15)、およそ100nmの直径を有する球形の脂質二重層である。
【0035】
これら脂質ベシクルは反応培地に導入される前に界面活性剤で処理されてよい。
【0036】
第一の特徴点によると、使用される脂質ベシクルは天然起源であり、好ましくは植物起源、特に好ましくはホウレンソウ由来である。
【0037】
好ましい実施態様において、脂質ベシクルはホウレンソウの葉緑体の脂質から得られる。それゆえ、これは本質的にアニオンでありジアシルグリセロールの誘導体である脂質の混合物である(非特許文献2)。本発明の記述で、チラコイドリポソームは単一段階でのプロテオリポソーム形成のための優れた一般的な材料であることが明らかになった。
【0038】
あるいは、脂質ベシクルは合成起源、すなわち合成脂質から生成されるリポソームでもよい。
【0039】
好ましい実施態様によると、および特に合成脂質の場合では、本発明で使用されるリポソームはポリエチレングリコール(PEG)またはN‐カルボニル‐メトキシ‐ポリエチレングリコール2000のようなPEGの誘導体(官能化されたPEG)の分子を有する。
【0040】
慣例として、PEG分子またはPEG誘導体は脂質ベシクルを形成する脂質に接合されてよい。
【0041】
本実施態様は、本発明の状況において、本方法から得られるプロテオリポソームがin vivoで関心ある膜蛋白質の輸送および放出可能であることが示されている限り、特に興味を持たれる。PEGの存在は膜蛋白質のin vitroでの合成を全く妨害せず、リポソームにおけるそれらの組み込みおよび活性も妨害しない一方、in vivoにおけるそれらの安定性を増加させる。
【0042】
利点のため、本発明に係る方法で使用される脂質ベシクルはリン脂質およびアポリポプロテイン(PAP)を含む粒子ではない。
【0043】
反応を最適化するため、下記リストから選択される化合物が単独または組み合わせで加えられ得る:(陽性、陰性、または両性の)界面活性剤、シャペロン、酸化還元対、炭化水素ポリマー、プロテアーゼインヒビター、天然または合成脂質。最後のものは反応において最初に界面活性剤で処理される、または直接使用される。界面活性剤のDDMは、脂質二重層において膜蛋白質の一方向性の挿入を促進するため、特に推奨される。
【0044】
本方法の最後では、反応培地の群の大部分はプロテオリポソームで形成される。これらプロテオリポソームは何れか既知の技術手段により、特に非連続スクロース密度勾配で精製されてよい。銀染色による評価によると、組換えプロテオリポソームを含む分画は本段階の最後では最低90%の純度である。
【0045】
従って得られるプロテオリポソームは天然のコンフォメーションで変性および/または再生段階無しの膜蛋白質を含む。本方法は、開始時の反応培地ミリリットルあたり数百マイクログラムの純粋な機能的膜蛋白質を得ることを可能にする。
【0046】
従って本発明の他の特徴点は、天然の機能的なコンフォメーションで脂質二重層に組み込まれる膜蛋白質を含むプロテオリポソームにも関する。本発明で使用される方法を通じて、プロテオリポソームの非常に均一な群が得られることは注目されるはずである。
【0047】
プロテオリポソームを形成する脂質二重層の性質は、反応培地に加えられる脂質ベシクルの性質と直接関連する。したがって利点のため、脂質二重層は天然起源、より効果的には植物起源である。好ましい実施態様において、プロテオリポソームはホウレンソウの葉緑体由来の脂質を含む。
【0048】
あるいは、プロテオリポソームは合成脂質を含んでもよい。
【0049】
好ましい実施態様によると、本発明に係るプロテオリポソームはポリエチレングリコール(PEG)またはN‐カルボニル‐メトキシ‐ポリエチレングリコール2000のようなPEGの誘導体(官能化されたPEG)を有している。
【0050】
本発明に係るプロテオリポソームは多くの応用のため使用されてよい:
‐ミニ細胞として直接使用可能である。
‐組み込まれた膜蛋白質の酵素活性の試験またはそれらの構造的分析のために使用可能である。
‐細胞膜または核膜、ミトコンドリアまたは一定のオルガネラに対する膜蛋白質の目標が定められた放出のためのベクターとして使用可能である。したがってこれらプロテオリポソームは(例えば抗腫瘍分子のような、薬剤としての治療上の膜蛋白質)膜蛋白質形質導入ベクターとして、またワクチン開発のため未変性のエピトープを含む抗原の提示のためのベクターとしても使用可能である。
【0051】
特に構造的または機能的研究を実施するために、そのような膜蛋白質を再生させるためおそらく脂質を排除することによりin vitroでプロテオリポソームを破壊することもまた予想可能である。
【0052】
本発明の別の特徴点は、1つまたは複数の関心ある蛋白質を含むプロテオリポソームを得るためのキットを提供することである。そのようなキットは少なくとも以下のものより成る:
‐関心ある膜蛋白質の遺伝子または遺伝子群が組み込まれている無細胞蛋白質合成システム;
‐上記のような脂質ベシクル。
【0053】
本明細書は本発明の様々な効果、および本技術の以前の状態と比較して本発明から導かれる進歩を強調する。事実、機能的および構造的研究のため十分な量の膜蛋白質を得ることは何年もの間難題を表してきた。過剰発現の古典的システムでこの問題に解答を提供したものはない。逆に、膜蛋白質の高い疎水性アミノ酸含有量は、それらの行動の研究を可能にするために、再生させてから様々な段階で脂質への組み込みを必要とする不溶性組換え蛋白質の生成を導いた。
【0054】
本発明およびこれから導かれる効果は以下に続く実施例および添付された図により良好に説明されている。しかしながら、これら実施例は決して網羅的ではない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は脂質ベシクルの存在下または不在化におけるEnvウイルス蛋白質(A)およびアズキ葉緑体ポリンOEP24(B)の発現を示す。蛋白質OEP24の多量体は矢印により示される。
【図2】図2は組換えプロテオリポソームの分析を説明する。(A)スクロース密度勾配でのプロテオリポソームの精製。(B)精製された組換えプロテオリポソームの電子顕微鏡分析。(C)スクロース密度勾配の各種分画のSDS-PAGEゲル分析および硝酸銀染色。
【図3】図3はN末端(左)またはC末端(右)ヒスチジン標識を含むヒトgp91-phox蛋白質各種切断形態の各種添加物存在下または不在下における発現を示す。
【図4】図4は(A)1つの膜貫通領域および(B)4つの膜貫通領域のヒトgp91-phox蛋白質の切断形態を含む組換えプロテオリポソームの活性測定を示す。組換えプロテオリポソームジアホラーゼの酵素活性はINTやNBTのような基質の存在下でおよび細胞質因子の存在下または不在下で測定された。
【図5】図5はOEP24蛋白質を含むプロテオリポソームの塩化カリウムに対する透過性を示す。プロテオリポソームの混濁度における変化は400nmで塩化カリウム存在下で測定された。
【図6】図6はVDAC蛋白質(LV)またはBak蛋白質(LB)またはVDACおよびBak蛋白質(LVB)を含む組換えプロテオリポソームのプロアポトーシス活性を示す。脂質ベシクル(L)単独ではコントロールとしての役割を果たす。組換えプロテオリポソームのプロアポトーシス活性は、in vitroでプロテオリポソームとの相互作用後の精製されたミトコンドリアからのシトクロムCの放出を研究することにより、またはin vivoでヒト大腸癌細胞HCT116におけるプロテオリポソームとの相互作用および内在化の後にカスパーゼ9および7またはPARP蛋白質の切断を測定することにより測定された。
【図7】図7はp53wt蛋白質(HCT116p53+/+)またはp53遺伝子欠損(HCT116p53-/-)を含むヒト大腸癌細胞における内在化後のVDACおよび/またはBak蛋白質(LV、LBおよびLVB)を含む組換えプロテオリポソームの活性を示す。細胞生存はプロテオリポソームを細胞の接触下に置き24時間後または48時間後に測定された。リポソーム単独(CL)およびドキソルビシン(Dx)は誘導されるアポトーシスのネガティブおよびポジティブコントロールとしてそれぞれ使用された。
【図8】図8はプロテオリポソームの形質導入および内在化の後の、ヒト大腸癌細胞(HCT116)における外因性のVDACおよびBak膜蛋白質の免疫蛍光像を示す。外因性のVDACおよびBak蛋白質は抗ヒスチジン抗体の使用により、ミトコンドリアでの蛋白質の共局在はMitotrackerでの染色により明らかになった。内因性のVDACおよびBak蛋白質はVDAC1およびBak蛋白質に対して向けられた特異的な抗体により明らかになった。
【実施例】
【0056】
材料および方法
1‐発現ベクターの作製:
関心ある膜蛋白質をコードする相補的DNAを含み、プロモーター配列、T7タイプターミネーター配列、および最初のメチオニンコドンから5から8塩基対の間に位置するRBS(リボソーム結合部位)を含むPCR生成物が蛋白質合成のためのマトリックスとして使用され得る。それにも関わらず、プロモーター領域、T7タイプターミネーター領域およびRBSを含む原核生物発現ベクターが一般的に好まれるであろう。例えば、ベクターはpET(Novagen)またはpIVEX(Roche Applied Science)でよい。
【0057】
2つの膜蛋白質を共発現させる場合、これら蛋白質をそれぞれコードする各々の相補的DNAが、第二のRBS配列の下流に第二の相補的DNAを含み縦一列で挿入される。それから共発現はモノシストロン法により起こる。各々の関心ある膜蛋白質のため、蛋白質のN末端側またはC末端側のいずれかに標識が同期して導入され、したがって相補的DNAあたり2つのコンストラクトを与える。これら標識は何れの起源(NusA、GST、MBP等)も、より特別には6または8のヒスチジン残基(6X-His or 8X-His) が可能である。蛋白質上のこれら標識の位置は、蛋白質発現およびこれの安定性と可溶性の両方に主要な影響を与え得る。得られる各コンストラクトは標識との融合だけではなくDNA配列の完全性を確認するためにシークエンス反応により検証される。
【0058】
VDAC、Bak、OEP24およびgp91-phoxの相補的DNAはPCR技術により、発現ベクターのpIVEX2.3MCS、pIVEX2.4NdeI(Roche Applied Science)および/またはpet15bpet30b(Novagen)において、適切な制限酵素による切断と同期する直接的な組み込みを可能にするフォワードおよびリバースプライマーの組み合わせを使用して増幅される。gp91-phoxの切断形態をコードするコンストラクトは下記で記述されるようなプライマー中の制限部位を組み込む、同一のクローニング戦略を使用する:
フォワードプライマー:
Gp91phox90のための5’GGAATTCCATATGGTTCGAAGACAACTGGACAGG3’(配列番号1)、Gp91phox195のための5’GGAATTCCATATGAAAACCATCCGGAGGTCTTAC3’(配列番号2)、Gp91phox221のための5’GGAATTCCATATGATCCATGGAGCTGAACGAA3’(配列番号3)、Gp91phox233のための5’GGAATTCCATATGGCAGAGAGTTTGGCTGTG3’(配列番号4)および5’側にNdeI認識部位を含むGp91phox285のための5’GGAATTCCATATGTTTTGGCGATCTCAACAGA3’(配列番号5)
リバースプライマー:
N末端部位で標識するための5’GCGTTACTCGAGTCATGGAAGAGACAAGTTAGAAG3’(配列番号6)またはC末端側に位置する標識のための5’GCGTTACTCGAGGAAGTTTTCCTTGTTGAAAATG3’(配列番号7)。これらプライマーはXhoI制限部位を含む。
【0059】
2‐脂質ベシクルの調製
A−無処置の葉緑体の調製
葉緑体はいくらか修正したDouceおよびJoyard(1982)により記述された方法に従い調製される。葉緑体はホウレンソウ(Spinacia loeracea L.)の葉から抽出される。葉は選別され葉脈が除去され、それから洗浄される。そのようにして得られる葉は、色素体中に存在する貯蔵澱粉を枯渇させるため、低温室で一晩置かれる。(2lの混合培地:スクロース0.33M、ソディウムピロフォスフェート30mM、BSA1g/l、pH7.8に対しておよそ2kgの)葉は4℃で2から3秒間、ブレンダー(Waring Blendorタイプ、4lボリューム)で微細に切断される。ホモジェネートは4重のガーゼおよび50μmのメッシュブロッティングで濾過される。濾液は4℃で10分間1200gで遠心分離される。沈殿は洗浄培地(スクロース0.33M、MOPS/NaOH20mM、pH7.8)で丁寧に希釈される。この葉緑体が豊富な懸濁液は50μmのメッシュブロッティング布で濾過される。葉緑体外の異物および破壊された葉緑体を排除するため、懸濁液はパーコールの非連続密度勾配(パーコール40%[(v/v)]、スクロース0.33M、MOPS/NaOH20mM、pH7.8およびパーコール80%[(v/v)]、スクロース0.33M、MOPS/NaOH20mM、pH7.8)上に置かれ、20分間3000gで遠心分離される。無処置の葉緑体はパーコール40%[(v/v)]と80%[(v/v)]の層の間の境界面に位置し、一方非葉緑体性の成分および破壊された葉緑体はパーコール40%[(v/v)]の層の上に残る。パーコールを排除するため、無処置の葉緑体は6から7倍量の洗浄培地で希釈され、5分間4000gで遠心分離される。沈殿は洗浄培地中で回収され、50μmのメッシュブロッティング布で濾過されてから5分間3000gで遠心分離される。
【0060】
B-チラコイドの精製
チラコイドはいくらか修正したDouceら(非特許文献2)により記述されたプロトコールに従い精製される。無処置の葉緑体は低張培地(MgCl2 4mM、MOPS/NaOH 10mM、pH7.8)中に入れられる。低張培地の体積は葉緑体の体積よりおよそ10倍大きい。従って最終的なスクロース濃度は0.1Mより低くなるまで激しく減少する。破壊された葉緑体の懸濁液はスクロースの非連続密度勾配(MgCl2緩衝液 4mM、MOPS/NaOH 10mM、pH7.8におけるスクロース0.6Mおよび0.93M)上に置かれ、1時間72000gで遠心分離される。遠心分離後、3つの分画が得られる:葉緑体の可溶性酵素(ストロマ)を含む密度勾配の上層、本質的にチラコイドを含む緑の沈殿、および0.6Mおよび0.93Mのスクロース層の境界面に位置する葉緑体包膜。
【0061】
C-シリカカラムでのクロマトグラフィーによる脂質の精製
葉緑体包膜およびチラコイド包膜の脂質組成物は類似しており、より多量に得られるため後者が使用されてきた。脂質全体はいくらか修正したBlighおよびDyer(1959)により記述された方法に従い抽出される。チラコイドは洗浄緩衝液または蒸留水中で可溶化され、それから懸濁液は4℃で10分間1000gで遠心分離される。沈殿は3分の1の体積のCHCl3および3分の1の体積の蒸留水が加えられたCHCl3/MeOH(1/2)で可溶化される。溶液は4℃で一晩置かれる。(濃緑色で脂質および色素を含む)有機相は回収され、それからアルゴン下で乾燥のため蒸発させられ、純粋なCHCl3中で可溶化される。この溶液は色素を排除するためにDorneら(1987)により記述されたようにシリカゲルカラム上に置かれる。カラムは先に大量のCHCl3を使用して洗浄され、石英ウールで栓をされる。(325メッシュより小さい)シリカは純粋なCHCl3で溶解される。CHCl3がゲルの頂点に到着した時に溶液は置かれる。透明な溶出液が得られるまで、カラムと同じ体積のCHCl3が(色素を排除するために)加えられる。それから全てのCHCl3が溶出され、CHCl3/アセトン(990/10)混合物がモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)を溶出させるために使用される。溶出液は回収され、アルゴン下で乾燥のために蒸発させられ、CHCl3/MeOH(1/2)混合液で可溶化される。それからメタノールが加えられる(ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)、スルフォキノヴォシルジアシルグリセロール(SQDG)およびトリガラクトシルジアシルグリセロール(TGDG)の溶出)。溶出液は回収され、アルゴン下で乾燥のために蒸発させられ、CHCl3/MeOH(1/2)混合液で可溶化される。試料は再び蒸発させられ、3mlのCHCl3/MeOH(1/2)混合液で再可溶化され、-20℃でアルゴン下に保たれる。
【0062】
D-脂質ベシクルの形成および精製
脂質はアルゴン下で蒸発させられ、DEPC(ジエチルピオカルボネート)処理されたまたはヌクレアーゼフリーの水で再懸濁される。脂質はSUV(小単層ベシクル)を含む均一な懸濁液を形成するため、ソニファイ(Branson Sonifer 250、サイクル0.5および強度80)1分間を3回される。懸濁液は一様な大きさの脂質ベシクル(リポソーム)の懸濁液を得るために0.2μmの膜で濾過される。
【0063】
3-膜蛋白質の発現
膜蛋白質は無細胞発現システムで合成される。このシステムはSpirin(非特許文献11)またはLiguori(非特許文献7)により記述されるように大腸菌(Echerichia coli)溶解物に基づく。反応はバッチフォーマット(Eppendorff管またはマルチウェルプレート中)またはカップ中(Roche Applied ScienceからのRTS500HYシステム)のどちらかで実施される。
【0064】
反応の組成物は下記のとおり:
‐大腸菌(E. coli)溶解物(RTSシステム[Roche Applied Science]、RiNAシステム[Quiagen]、またはExpresswayシステム[Invitrogen])
‐エネルギー性培地
‐メチオニンを除く全てのアミノ酸
‐メチオニン
‐非イオン性または両性の界面活性剤
‐GroEまたはDnaKシャペロン
‐炭化水素ポリマー(NV10[Novexin])
‐プロテアーゼインヒビター(例えばProtease Inhibitor Tablet[Roche Applied Science])。
【0065】
これらは膜蛋白質をコードするプラスミドDNAまたはPCR生成物の存在下で混合される。反応物は水槽またはProteomaster(Roche Applied Science)中で12から48時間20℃で攪拌(180rpmから990rpm)されながらインキュベートされる。プロテオリポソームの単一段階での形成の場合、一度反応混合物が作製されるとチラコイド脂質ベシクルは0.6mg/mlから10mg/mlの間で変動する濃度で反応混合物に加えられる。それから反応培地/脂質ベシクル混合物は穏やかに均質化される。2つの膜蛋白質を共発現させる場合、(等モル量の)2つの発現ベクターまたはT7プロモーターに依存するモノシストロン法での共発現ベクターが反応体積に加えられ、リポソームの存在下または不在下で上記のようにインキュベートされる。反応物は既に記述されるようにインキュベートされる。
【0066】
4-プロテオリポソームの精製
バッチまたはカップ中の無細胞合成の間に生成されるプロテオリポソームは非連続スクロース密度勾配上で精製される。反応混合物は最初に4℃で20分間13,000rpmで遠心分離され、それから上清が除去されプロテオリポソームを含む沈殿(緑の沈殿)は反応体積と等しい体積のTris-HCl50mM、pH7.2で再懸濁される。最懸濁された試料は60%スクロース(1から6mlのスクロース)および25%スクロース(1から6mlのスクロース)層の間に置かれる。それからシステム全体は10%スクロース(0.4から2mlのスクロース)層で注意深く覆われる。4℃で1時間200,000gで遠心分離した後に、密度勾配の最上部から0.1から1mlの分画が収集され、リポソームに組み込まれた膜蛋白質の最終蛋白質濃度および純度を決定するためにウェスタンブロッティング、銀および/またはクーマジーブルー染色により分析される。各分画に含まれる膜蛋白質の活性は酵素反応(gp91-phoxの切断形態の場合)または哺乳動物細胞に形質導入された後の蛋白質の機能分析(BakおよびVDAC蛋白質の場合)のどちらかにより試験される。高い純度のプロテオリポソームを含む分画はまとめられ、哺乳動物細胞における形質導入実験で試験される。
【0067】
5-プロテオリポソームに含まれる膜蛋白質の細胞形質導入
精製されたプロテオリポソームは組換え膜蛋白質を哺乳動物細胞中に形質導入する能力について試験された。精製されたプロテオリポソームは1x106の細胞中に0.6μMから1.5μMの濃度で直接加えられ、分析前に37℃、5%CO2で6、12または24時間インキュベートされる。外因性組換え膜蛋白質の細胞上の位置は膜蛋白質に特異的な抗体または抗ヒスチジン抗体を使用する免疫蛍光法により検出される。組換え膜蛋白質の活性は、特にBakおよびVDACは、インキュベーション後にアポトーシスに関与する蛋白質(カスパーゼ3、7、9、8、PARP、p53等)を活性化することにより、細胞の生存力を決定することにより(MTT、アネキシンV試験等)試験された。
【0068】
結果
1-チラコイド脂質存在下での膜蛋白質発現
チラコイド脂質の膜蛋白質合成に与える影響について決定するために、チラコイド脂質ベシクル存在下または不在下でin vitro発現反応が実施される(図1Aおよび1B)。最終体積が25、50または100μlでのバッチ反応が開始時の濃度10mg/mlの脂質ベシクル(リポソーム)存在下で実施される。加えられるリポソームの体積は合成反応体積(vol/vol)と少なくとも等しい。合成反応におけるリポソームの最終濃度は0.6mg/mlから5mg/mlに変動し得る。リポソームは一度反応混合液が作製されると、反応培地に加えられる。興味深いことに、脂質の存在はin vitro発現システムの転写および翻訳機構に干渉しない(図1)。大腸菌(E. coli)溶解物に基づくin vitro発現システムは、ウイルスエンベロープ蛋白質(Env蛋白質、図1A)、植物蛋白質(ポリンOEP24、図1B)、バクテリア(結果は示されない)または哺乳動物膜蛋白質(ポリンVDACおよびミトコンドリアプロアポトーシス蛋白質BAK、図2C)のような様々な起源の蛋白質を合成し得る。それ以上に、例えばそれらは新たに合成された膜蛋白質の崩壊に対する保護を提供し(Env蛋白質、図1A)、多量体の形成(ポリンOEP24、図1Bおよびミトコンドリア蛋白質VDACおよびBAK、図2C)、膜蛋白質の共発現(図2C)、またはシャペロンおよび界面活性剤のような添加物の不在下でさえ行う蛋白質の機能の保持(ミトコンドリア蛋白質VDACおよびBAK、図6および7およびgp91-phox、図4)を可能にするため、脂質ベシクルの付加は特定の膜蛋白質の合成およびそれらの構造にポジティブな効果をもたらす。
【0069】
2-リポソームおよび添加物存在下での膜蛋白質の生成
一定の膜蛋白質の構造的な複雑さにより、(アルファヘリックス領域のような)種々の膜貫通領域を含む膜蛋白質の可溶性および活性な形態での合成は、天然のコンフォメーションの維持およびリポソームの脂質二重層内への一方向または二方向性の組み込みを可能とする更なる化学成分を必要とする。膜蛋白質についての様々な研究は、イオン性、非イオン性、または両性の界面活性剤が膜蛋白質を抽出および/または再可溶化するために必要であることを示してきた。それからこれら界面活性剤はプロテオリポソーム形成の最終段階の間に透析、除去クロマトグラフィー、希釈またはポリスチレンビーズの付加により排除される。
非イオン性(n-ドデシル ベータ-D-マルトシド[DDM]、n-オクチル ベータ-D-グルコピラノシド[β-OG]、n-チオオクチル ベータ-D-グルコピラノシド[β-thioOG]、ノニルフェニル‐ポリエチレン‐グリコール[NP40]、ポリオキシエチレン‐(23)‐ラウリル‐エーテル[Brij-35]、ポリオキシエチレン‐(8)‐ラウリル‐エーテル[C12E8]、ポリオキシエチレン‐ソルビタン‐モノラウレート20[Tween20]、n‐デシル‐β‐D‐マルトシド[DM])および両性(3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンサルフォネート[CHAPS]、Zwittergent 3-14、ラウリルジメチルアミンオキシド[LDAO])界面活性剤の効果は、チラコイドリポソームにおいて膜蛋白質の発現、可溶化および組み込みに関して試験されてきた。それゆえ様々な連続した実験は界面活性剤のみの存在下および/またはシャペロン(DNAK、GroE)、酸化還元対(GSH/GSSG)、炭化水素ポリマー(NV10、Novexin)およびプロテアーゼインヒビター(図3)存在下でヒト蛋白質gp91-phoxの各種切断形態について実施されてきた。臨界ミセル濃度に近い濃度(0.12mMの理論的臨界ミセル濃度に対して0.2mM)で使用されるn-ドデシル ベータ-D-マルトサイド[DDM]を除き、全ての界面活性剤はそれらの臨界ミセル濃度(CMC)より高い濃度で反応培地に加えられる。図3で示されるように、これら界面活性剤は膜蛋白質の発現について様々な効果を有する。例えば、CHAPSおよびβ‐OGは、β‐OG についてはコンストラクトgp91phox221-C、CHAPSについてはgp91phox221-C、gp91phox233-Nおよび233-C、gp91phox285-Nを除き、gp91-phoxの切断形態の発現に関してネガティブな効果をもたらす。対照的に、界面活性剤のNP40、Thio-OGおよびDDMは、蛋白質のN末端でヘクサ‐ヒスチジン標識を含むコンストラクトに関して、殆どのgp91-phoxの切断形態の発現を刺激する(図3)。これらの結果は、非イオン性界面活性剤の付加が1つまたは複数のアルファヘリックス膜貫通領域を有する膜蛋白質の合成に適合すること、およびこれらはプロテオリポソーム形成のための合成反応において加えられ得ることを示唆する。
【0070】
1つまたは複数のアルファヘリックス膜貫通領域を有する膜蛋白質を合成する実験はプロテオリポソーム形成のために界面活性剤およびリポソーム存在下で実施された。前述の結果は、CMCに近い濃度の界面活性剤DDMが主要な場合においてgp91-phox蛋白質の各種切断形態の発現および可溶性を刺激したことを示した。それゆえ界面活性剤DDMはプロテオリポソーム形成実験において好んで選択された。生化学的性質のため、DDMは脂質二重層内への膜蛋白質の一方向的な組み込みを容易にすることもまた示されてきた。1つまたは複数のアルファヘリックス膜貫通領域を含むgp91-phox蛋白質の切断形態はDDMおよび脂質ベシクル存在下で生成された。それからプロテオリポソームはスクロース密度勾配上で精製され、精製されたプロテオリポソームを含む分画のジアホラーゼ活性はNBTまたはINT存在下で試験された。
【0071】
3-in vitroシステムで合成されたプロテオリポソームの機能的活性
gp91-phox蛋白質の各種切断形態を含むプロテオリポソームの酵素活性は、電子受容体としての2つの基質存在下で決定された:ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)およびインドニトロテトラゾリウム(INT)。可溶性であるgp91-phox蛋白質の切断形態とは異なり、プロテオリポソームは細胞質因子およびアラキドン酸無しではNADPHおよびFAD依存性酵素活性を有する(図4)。例えば、2つの補因子存在下におけるgp91phox-221C蛋白質を含むプロテオリポソームのジアホラーゼ活性は、NBT還元については7.8mol/min/molおよびINTについては5.5mol/min/molの基礎活性を有する(図4Aおよび4B)。これらの値は可溶性蛋白質のそれに近く、プロテオリポソームが十分に機能的であることを示す。gp91phox-221Cを含む組換えプロテオリポソーム10ナノモルを細胞質抽出液およびアラキドン酸と共にインキュベーションすることは、NBTについては7倍、INTについては10倍蛋白質の還元活性を増加させる(図4Aおよび4B)。それゆえにこれらの結果は脂質ベシクルに含まれる組換え膜蛋白質が細胞質因子およびアラキドン酸の付加により刺激可能である基本的な酵素活性を有することを示す。
【0072】
ポリンOEP24を含むプロテオリポソームの活性を決定するために、400nmでの吸光度の相違を測定することにより活性試験が実施された(図5)。OEP24を含むまたは含まない脂質ベシクルは最初に10mMのTris-Hepes、pH7.0および10mMのKClを含む溶液中で平衡化された。400nmでの吸光度が15秒間測定され、それから浸透圧調節物質(最終的に250mMのKCl)が培地に加えられた。吸光度における変動は2分間を通して一定期間ごとに測定された。KCl存在下では、空の脂質ベシクル(OEP24無し)は浸透圧ショックによる400nmでの吸光度の変化を示した。膜蛋白質OEP24を含むプロテオリポソームは400nmでの吸光度の変化を示さず、このことは加えられた浸透圧調節物質に対して脂質ベシクルは透過性であることを示す(図5)。これら結果はOEP24蛋白質が十分に活性であり、大部分が一方向性で脂質二重層に組み込まれていることを示す。
【0073】
プロアポトーシス性のBakおよび/またはVDAC蛋白質を含むプロテオリポソームはシトクロムcの放出を測定するため精製されたミトコンドリアの存在中に入れられた。図6Aで示されているように、Bakおよび/またはVDAC蛋白質を含むプロテオリポソームはコントロールのリポソームと比較すると上清中へのシトクロムcの大量放出を誘導する。これらの結果は組換えプロテオリポソームがミトコンドリアの外部膜と直接相互作用することおよびシトクロムcの放出を誘導することを示す。これら全ての結果は、単一段階での合成が、ポジティブな方向で様々な複雑さの膜蛋白質を含む十分に機能的なプロテオリポソーム標本を迅速に生成することを証明する。
【0074】
4-in vitroで形成されたプロテオリポソームの治療上の応用の例
応用の実施例は図6B、6C、6D、7および8にて示される。脂質ベシクルに挿入されたBakおよびVDAC蛋白質のin vivoでのプロアポトーシス活性を測定するために、ヒト大腸癌細胞(HCT116)が組換えプロテオリポソーム存在下で24および48時間インキュベートされる。外因性膜蛋白質の位置は免疫蛍光法(図8)により確認され、プロアポトーシス活性はカスパーゼ経路の刺激(図6B、6Cおよび6D)または細胞生存力の測定(図7)のどちらかにより測定される。これらの結果は、組換えプロテオリポソームはミトコンドリア外膜に対する治療上関心のある膜蛋白質の特異的な放出および標的細胞におけるアポトーシス誘導が可能であることを示す。同一の方法で、プロテオリポソームは切断形態のgp91-phoxの細胞質膜への放出が可能である(結果は示されない)。
【0075】
結論として、1つまたは複数の膜蛋白質を含む組換えプロテオリポソームの単一段階での形成は、治療上または抗原性の目的のための膜蛋白質放出のためベクター開発、膜蛋白質と相互作用する化学薬剤のスクリーニング、膜蛋白質の構造的および機能的研究、および膜蛋白質の迅速な合成のためのキットのセットアップのための選択肢である方法を表してよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜蛋白質の合成が反応培地において脂質ベシクル存在下で蛋白質合成の無細胞システムを使用して行われることを特徴とする膜蛋白質を含むプロテオリポソームを得るための方法。
【請求項2】
脂質ベシクルがポリエチレングリコール(PEG)分子またはその誘導体を有し、有利には合成脂質に接合していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脂質ベシクルが植物起源の脂質を含み、有利にはホウレンソウの葉緑体由来であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の方法を使用して得られる、脂質二重層内に組み込まれた天然のコンフォメーションの膜蛋白質を含むプロテオリポソーム。
【請求項5】
ポリエチレングリコール(PEG)分子またはその誘導体を有し、有利には合成脂質に接合していることを特徴とする請求項4に記載のプロテオリポソーム。
【請求項6】
脂質が植物起源の脂質二重層を形成し、有利にはホウレンソウ由来であることを特徴とする請求項4または5に記載のプロテオリポソーム。
【請求項7】
膜蛋白質が哺乳動物の蛋白質であり、有利にはヒト起源であることを特徴とする請求項4から6の何れか一項に記載のプロテオリポソーム。
【請求項8】
医薬品またはワクチンとしての使用のための請求項4から7の何れか一項に記載のプロテオリポソーム。
【請求項9】
ミニ細胞としての請求項4から7の何れか一項に記載のプロテオリポソームのin vitroでの使用。
【請求項10】
請求項1から3の何れか一項に記載の方法を実施するため、または無細胞蛋白質および脂質ベシクル合成システムを含む請求項4から7の何れか一項に記載のプロテオリポソームを合成するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−524488(P2010−524488A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504808(P2010−504808)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050757
【国際公開番号】WO2008/152262
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(502298435)ユニヴェルシテ・ジョセフ・フーリエ (9)
【Fターム(参考)】