説明

無線伝送システム、電子機器

【課題】メモリカードと電子機器との間の信号伝送を高速・大容量で実現する。
【解決手段】電子機器101Aは、伝送対象のベースバンド信号を信号生成部107でミリ波に変換し、伝送路結合部108で誘電体伝送路9Aに結合させる。メモリカード201Hは、誘電体伝送路9Aを介して伝送されたミリ波を誘電体伝送路9Aと結合された伝送路結合部208で受信し、信号生成部207でベースバンド信号に戻す。誘電体伝送路9Aは、メモリカード201Hとスロット構造4Aの装着構造である凸形状構成198に設け、それと位置整合させて伝送路結合部108のアンテナ136を配置する。メモリカード201Hには凸形状構成198と対応する凹形状構成298を設け、その位置に整合させて伝送路結合部208のアンテナ236を配置する。メモリカード201Hの凹形状構成298は既存カードと同一形状にすることで既存カードとの形状互換性を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線伝送システムと電子機器に関する。詳細には、一方の電子機器が他方の(たとえば本体側の)電子機器に装着されたときの両電子機器間の信号伝送の仕組みに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、一方の電子機器が他方の電子機器に装着された状態で信号伝送を行なうことがある。たとえば、中央演算処理装置(CPU)や不揮発性の記憶装置(たとえばフラッシュメモリ)などが内蔵されたいわゆるICカードやメモリカードを代表例とするカード型の情報処理装置を本体側の電子機器に装着可能(着脱自在)にしたものがある(特許文献1,2参照)。一方(第1)の電子機器の一例であるカード型の情報処理装置を以下では「カード型装置」とも称する。本体側となる他方(第2)の電子機器を以下では単に電子機器とも称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−195553号公報
【特許文献2】特開2007−299338号公報
【0004】
本体側の電子機器にカード型装置を装着することで、データの持出しや記憶容量の増大や付加機能の追加など、機能拡張を実現できる利点がある。
【0005】
ここで、電子機器とカード型装置との電気的な接続をとる場合、従来の仕組みでは、電子機器にカード型装置をコネクタ(電気的な接続手段)を介して装着することで実現している。たとえば、メモリカードと電気的なインタフェースの接続を行なうために、メモリカードには端子部が設けられるとともに電子機器にはスロット構造(装着構造の一例)が設けられ、メモリカードを電子機器のスロット構造に挿入しての端子部同士を接触させる。電気配線により信号インタフェースをとるという考え方である。なお、スロット構造は、メモリカードに対する固定手段の機能も持っている。
【0006】
そして、一般的には、端子部やスロット構造を始めとする筐体形状や信号インタフェースには規格があり、その規格に従って両者の電気的かつ機械的なインタフェースが画定されるようになっている。
【0007】
たとえば、特許文献1(段落19、図2〜5)には、コントローラLSI21の内部にカードインタフェース21fが設けられ、カードインタフェース21fが複数の信号ピン(端子部に相当)を介して電子機器と接続されることが示されている。
【0008】
また、特許文献2(段落42、図1,3,5など))には、規格化された筐体19の決められた箇所で外部機器(電子機器に相当)と接続するための配線パターンと導電ビアを介して接続した外部接続端子24(端子部に相当)が設けられることが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、スロット構造の端子部を介して電気的接触(つまり電気配線)により電子機器とカード型装置との間で信号伝送を行なう場合、次のような問題がある。
【0010】
1)電気配線による信号伝送では、伝送速度・伝送容量には限界がある。たとえば、電気配線で高速信号伝送を実現する手法として、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)が知られており、その仕組みを適用することが考えられる。しかしながら、最近のさらなる伝送データの大容量高速化に伴い、消費電力の増加、反射などによる信号歪みの影響の増加、不要輻射の増加、などが問題となる。たとえば、映像信号(撮像信号を含む)やコンピュータ画像などの信号を機器内で高速(リアルタイム)に伝送する場合にLVDSでは限界に達してきている。
【0011】
2)伝送データの高速化の問題に対応するため、配線数を増やして、信号の並列化により一信号線当たりの伝送速度を落とすことが考えられる。しかしながら、この対処では、入出力端子の増大に繋がってしまい、プリント基板やケーブル配線の複雑化や半導体チップサイズの拡大などの弊害が起こる。
【0012】
3)電気配線を用いた場合は、配線がアンテナとなって、電磁界障害の問題が起き、その対策のために、電子機器やカード型装置の構成が複雑化する弊害が起こる。高速・大容量のデータを配線で引き回す場合には、電磁界障害が顕著に問題となる。また、カード型装置において端子をむき出しにする場合には静電気破壊の問題がある。
【0013】
このように、電子機器とカード型装置の信号を電気配線で伝送するには、依然として解決しなければならない難点がある。
【0014】
ここでは、カード型装置と本体側の電子機器との間での電気配線を用いた信号伝送における問題点を説明したが、これらの問題点は、カード型装置との関係に限らない。一方の電子機器が他方の電子機器に装着されたときの両電子機器間において、電気配線を用いて信号伝送を行なう場合にも同様のことが言える。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、一方の電子機器が他方の電子機器に装着された状態で信号伝送を行なう場合において、前述の1)〜3)の問題点の少なくとも1つを解消しつつ、映像信号やコンピュータ画像などの高速性・大容量性が求められる信号を電気配線によらずに伝送することのできる新たな仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様においては、第1の電子機器と第2の電子機器で無線伝送システムを構成する。そして、第2の電子機器の装着構造に第1の電子機器が装着された状態(換言すると両者が比較的近距離に配置された状態)での両電子機器の間では、伝送対象の信号をミリ波信号に変換してから、このミリ波信号をミリ波信号伝送路を介して伝送するようにする。本発明の「無線伝送」とは、伝送対象の信号を電気配線ではなくミリ波で伝送することを意味する。
【0017】
第1の電子機器と第2の電子機器のそれぞれには、ミリ波信号伝送路を挟んで、送信部と受信部が対となって組み合わされて配置される。両電子機器間の信号伝送は片方向(一方向)のものでもよいし双方向のものでもよい。
【0018】
たとえば、第1の電子機器が送信側となり第2の電子機器が受信側となる場合、第1の電子機器に送信部が配置され第2の電子機器に受信部が配置される。第2の電子機器が送信側となり第1の電子機器が受信側となる場合には、第2の電子機器に送信部が配置され第1の電子機器に受信部が配置される。
【0019】
送信部は、たとえば、伝送対象の信号を信号処理してミリ波の信号を生成する送信側の信号生成部(伝送対象の電気信号をミリ波の信号に変換する信号変換部)と、ミリ波の信号を伝送する伝送路(ミリ波信号伝送路)に送信側の信号生成部で生成されたミリ波の信号を結合させる送信側の信号結合部を備えるものとする。好ましくは、送信側の信号生成部は、伝送対象の信号を生成する機能部と一体であるのがよい。
【0020】
たとえば、送信側の信号生成部は変調回路を有し、変調回路が伝送対対象の信号を変調する。送信側の信号生成部は変調回路によって変調された後の信号を周波数変換してミリ波の信号を生成する。原理的には、伝送対対象の信号をダイレクトにミリ波の信号に変換することも考えられる。送信側の信号結合部は、送信側の信号生成部によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路に供給する。
【0021】
一方、受信部は、たとえば、ミリ波信号伝送路を介して伝送されてきたミリ波の信号を受信する受信側の信号結合部と、受信側の信号結合部により受信されたミリ波の信号(入力信号)を信号処理して通常の電気信号(伝送対対象の信号)を生成する受信側の信号生成部(ミリ波の信号を伝送対象の電気信号に変換する信号変換部)を備えるものとする。好ましくは、受信側の信号生成部は、伝送対対象の信号を受け取る機能部と一体であるのがよい。たとえば、受信側の信号生成部は復調回路を有し、ミリ波の信号を周波数変換して出力信号を生成し、その後、復調回路が出力信号を復調することで伝送対対象の信号を生成する。原理的には、ミリ波の信号からダイレクトに伝送対対象の信号に変換することも考えられる。
【0022】
つまり、第1の電子機器と第2の電子機器との間の信号インタフェースをとるに当たり、伝送対象の信号に関して、ミリ波信号により接点レスで伝送する(電気配線での伝送でない)ようにする。好ましくは、少なくとも信号伝送(特に高速伝送が要求されるもの)に関しては、ミリ波信号による通信インタフェースにより接点レスで伝送するようにする。要するに、第1の電子機器と第2の電子機器の間において装着構造を介して電気的接触(電気配線)によって行なわれていた信号伝送をミリ波信号により行なうものである。ミリ波帯で信号伝送を行なうことで、Gbpsオーダーの高速信号伝送を実現することができるようになるし、ミリ波信号の及ぶ範囲を制限でき(その理由は実施形態で説明する)、この性質に起因する効果も得られる。
【0023】
高速伝送が要求されないものに関しても、ミリ波信号による通信インタフェースにより非接触(接点レス)で伝送するようにしてもよい。好ましくは、第1の電子機器側で使用する電力に関しても無線による伝送を行なうとよい。無線による電力伝送としてはたとえば、電磁誘導方式、電波受信方式、共鳴方式の何れかを採り得るが、位置ズレや既存回路への干渉や効率などを考慮した場合、好ましくは共鳴方式(特に磁場の共鳴現象を利用する方式)を採用するのがよい。
【0024】
ここで、各信号結合部は、第1の電子機器と第2の電子機器がミリ波信号伝送路を介してミリ波の信号が伝送可能となるようにするものであればよい。たとえばアンテナ構造(アンテナ結合部)を備えるものとしてもよいし、アンテナ構造を具備せずに結合をとるものであってもよい。
【0025】
「ミリ波の信号を伝送するミリ波信号伝送路」は、空気(いわゆる自由空間)であってもよいが、好ましくは、ミリ波信号を伝送路中に閉じ込めつつミリ波信号を伝送させる構造を持つものがよい。その性質を積極的に利用することで、電気配線のように、ミリ波信号伝送路の引回しを任意に確定することができる。たとえば、ミリ波信号伝送可能な誘電体素材で構成されたもの(誘電体伝送路やミリ波誘電体内伝送路と称する)や、伝送路を構成し、かつ、ミリ波信号の外部放射を抑える遮蔽材が設けられその遮蔽材の内部が中空の中空導波路がよい。
【0026】
因みに、空気(いわゆる自由空間)の場合、各信号結合部はアンテナ構造をとることになり、そのアンテナ構造によって近距離の空間中を信号伝送することになる。一方、誘電体素材で構成されたものとする場合は、アンテナ構造をとることもできるが、そのことは必須でない。
【0027】
好ましくは、各信号結合部とミリ波信号伝送路の構成を、第1の電子機器が装着される第2の電子機器に設けられている装着構造に適用するのがよい。たとえば、規格によっては、装着構造の形状・位置などについても規格化されている場合がある。この場合、その装着構造の部分に各信号結合部とミリ波信号伝送路の構成を適用することで、既存の第1の電子機器(たとえばカード型装置)との互換性を確保(担保)する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一態様によれば、第1の電子機器が第2の電子機器に装着された状態で信号伝送を行なう場合に、電気配線では実現困難な伝送速度・伝送容量の信号インタフェースを実現できる。その際、電気配線により接続をとる場合のように多配線を必要としないので、筐体形状や構造が複雑化することがない。また、ミリ波帯を使用するので電気配線によらずに信号伝送ができ、機器内の他の電気配線に対して妨害を与えずに済む。
【0029】
端子数が多いコネクタおよび信号配線に依存することなく、一方向または双方向に、ミリ波の信号で、簡単かつ安価な構成で、第1の電子機器と第2の電子機器の間の信号インタフェースを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態の無線伝送システムの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
【図1A】第1実施形態の無線伝送システムにおける信号の多重化を説明する図である。
【図2】比較例の信号伝送システムの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
【図2A】比較例の信号伝送システムに適用されるメモリカードの概要を説明する図である。
【図3】第2実施形態の無線伝送システムの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
【図4】第3実施形態の無線伝送システムの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
【図5】第4実施形態の無線伝送システムの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
【図6】第5実施形態の無線伝送システムの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
【図6A】空間分割多重の適正条件を説明する図である。
【図7】第6実施形態の無線伝送システムの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
【図8】第7実施形態の無線伝送システムの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
【図9】本実施形態のミリ波伝送構造の第1例を説明する図である。
【図10】本実施形態のミリ波伝送構造の第2例を説明する図である。
【図11】本実施形態のミリ波伝送構造の第3例を説明する図である。
【図12】本実施形態のミリ波伝送構造の第4例を説明する図である。
【図13】本実施形態のミリ波伝送構造の第5例を説明する図である。
【図14】本実施形態のミリ波伝送構造の第6例を説明する図である。
【図15】本実施形態のミリ波伝送構造の第7例を説明する図である。
【図16】本実施形態のミリ波伝送構造の第8例を説明する図である。
【図17】本実施形態のミリ波伝送構造の第9例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。各機能要素について実施形態別に区別する際には、A,B,C,…などのように大文字の英語の参照子を付して記載する。また、適宜、各機能要素を細分化して区別するべく参照子“_@”を付して記載することもある。特に区別しないで説明する際にはこれらの参照子を割愛して記載する。図面においても同様である。
【0032】
説明は以下の順序で行なう。
1.無線伝送システム:第1実施形態(誘電体伝送路)
2.無線伝送システム:第2実施形態(自由空間伝送路)
3.無線伝送システム:第3実施形態(誘電体伝送路+自由空間伝送路)
4.無線伝送システム:第4実施形態(低速信号もミリ波伝送)
5.無線伝送システム:第5実施形態(空間分割多重)
6.無線伝送システム:第6実施形態(第4実施形態+電力も無線伝送)
7.無線伝送システム:第7実施形態(第5実施形態+電力も無線伝送)
8.ミリ波伝送構造:第1例(誘電体伝送路)
9.ミリ波伝送構造:第2例(自由空間伝送路)
10.ミリ波伝送構造:第3例(複数系統のミリ波信号伝送路が同一基板面に配置)
11.ミリ波伝送構造:第4例(複数系統のミリ波信号伝送路が異なる基板面に配置)
12.ミリ波伝送構造:第5例(アンテナがズレて配置)
13.ミリ波伝送構造:第6例(既存カードとの形状互換性)
14.ミリ波伝送構造:第7例(中空導波路)
15.ミリ波伝送構造:第8例(装着構造の変形例)
16.ミリ波伝送構造:第9例(電子機器の変形例)
【0033】
<無線伝送システム:第1実施形態>
図1〜図2Aは、第1実施形態の無線伝送システムにおける信号インタフェースを説明する図である。ここで、図1は、第1実施形態の無線伝送システム1Aの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。図1Aは、第1実施形態の無線伝送システム1Aにおける信号の多重化を説明する図である。図2〜図2Aは、本実施形態の無線伝送システムにおける信号インタフェースに対する比較例を説明する図である。ここで、図2は、比較例の信号伝送システム1Zの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。図2Aは、比較例の信号伝送システム1Zに適用されるメモリカード201Zの概要を説明する図である。
【0034】
[機能構成:第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態の無線伝送システム1Aは、電子機器101Aとカード型の情報処理装置の一例であるメモリカード201Aがミリ波信号伝送路9を介して結合されミリ波帯で信号伝送を行なうように構成されている。伝送対象の信号を広帯域伝送に適したミリ波帯域に周波数変換して伝送するようにする。電子機器101Aは、スロット構造を具備した第2の電子機器の一例であり、メモリカード201Aは、第1の電子機器の一例である。
【0035】
電子機器101Aは、メモリカード201Aの読取・書込み機能を持つものであるが、機器本体に備えられるカード読取書込み装置であってもよいし、カード読取書込み装置としてデジタル記録再生装置、地上波テレビ受像機、携帯電話機、ゲーム機、コンピュータなどの電子機器本体と組み合わせて使用されるものでもよい。また、カード読取書込み装置のスロット構造とメモリカード201Aのコネクタ構造が一致しない場合に使用されるいわゆる変換アダプタであってもよい。
【0036】
電子機器101Aとメモリカード201Aの間のスロット構造4A(装着構造)は、電子機器101Aに対して、メモリカード201Aの着脱を行なう構造であり、ミリ波信号伝送路9の接続手段と、電子機器101Aとメモリカード201Aの固定手段の機能を持つ。スロット構造4Aとメモリカード201Aには、メモリカード201Aの装着状態を嵌合構造により規定する位置規定部として凹凸形状の構造を持つ。
【0037】
電子機器101Aにはミリ波帯通信可能な半導体チップ103が設けられ、メモリカード201Aにもミリ波帯通信可能な半導体チップ203が設けられている。
【0038】
第1実施形態は、ミリ波帯での通信の対象となる信号を、高速性や大容量性が求められる信号のみとし、その他の低速・小容量で十分なものや電源など直流と見なせる信号に関してはミリ波信号への変換対象としない。これらミリ波信号への変換対象としない信号(電源を含む)については、後述の比較例と同様に、LSI機能部104,204から電気配線で端子まで引き延ばし、電子機器101Aとメモリカード201Aの双方の端子を介した機械的な接触で電気的な接続をとるようにする。なお、ミリ波に変換する前の元の伝送対象の電気信号を纏めてベースバンド信号と称する。
【0039】
ミリ波信号への変換対象とする高速性や大容量性が求められるデータとしては、たとえば、映画映像やコンピュータ画像などのデータ信号が該当する。このようなデータを、搬送周波数が30GHz〜300GHzのミリ波帯の信号に変換して高速に伝送することでミリ波伝送システムを構築する。本体側として機能する電子機器101Aとしては、たとえば、デジタル記録再生装置、地上波テレビ受像機、携帯電話機、ゲーム機、コンピュータ、通信装置などが含まれる。
【0040】
[電子機器]
電子機器101Aは、基板102上に、ミリ波帯通信可能な半導体チップ103と伝送路結合部108が搭載されている。半導体チップ103は、LSI機能部104と信号生成部107(ミリ波信号生成部)を一体化したシステムLSI(Large Scale Integrated Circuit)である。図示しないが、LSI機能部104と信号生成部107を一体化しない構成にしてもよい。別体にした場合には、その間の信号伝送に関しては、電気配線により信号を伝送することに起因する問題が懸念されるので、一体的に作り込んだ方が好ましい。
【0041】
LSI機能部104は、アプリケーション機能部105とメモリカード制御部106を具備する。信号生成部107と伝送路結合部108はデータの双方向性を持つ構成にする。このため、信号生成部107には送信側の信号生成部と受信側の信号生成部を設ける。伝送路結合部108は、送信側と受信側に各別に設けてもよいが、ここでは送受信に兼用されるものとする。
【0042】
なお、第1実施形態の「双方向通信」は、ミリ波の伝送チャネルであるミリ波信号伝送路9が1系統(一芯)の一芯双方向伝送となる。この実現には、時分割多重(TDD:Time Division Duplex)を適用する半二重方式と、周波数分割多重(FDD:Frequency Division Duplex :図1A)、符号分割多重などが適用される。
【0043】
時分割多重の場合、送信と受信の分離を時分割で行なうので、電子機器101からメモリカード201への信号伝送とメモリカード201から電子機器101への信号伝送を同時に行なう「双方向通信の同時性(一芯同時双方向伝送)」は実現されず、一芯同時双方向伝送は、周波数分割多重や符号分割多重で実現される。
【0044】
周波数分割多重は、図1A(1)に示すように、送信と受信に異なった周波数を用いるので、ミリ波信号伝送路9の伝送帯域幅を広くする必要がある。
【0045】
半導体チップ103を直接に基板102上に搭載するのではなく、インターポーザ基板上に半導体チップ103を搭載し、半導体チップ103を樹脂(たとえばエポキシ樹脂など)でモールドした半導体パッケージを基板102上に搭載するようにしてもよい。すなわち、インターポーザ基板はチップ実装用の基板をなし、インターポーザ基板上に半導体チップ103が設けられる。インターポーザ基板には、一定範囲(2〜10程度)の比誘電率を有したたとえば熱強化樹脂と銅箔を組み合わせたシート部材を使用すればよい。
【0046】
半導体チップ103は伝送路結合部108と接続される。伝送路結合部108は、たとえば、アンテナ結合部やアンテナ端子やマイクロストリップ線路やアンテナなどを具備するアンテナ構造が適用される。なお、アンテナをチップに直接に形成する技術を適用することで、伝送路結合部108も半導体チップ103に組み込むようにすることもできる。
【0047】
アプリケーション機能部105は、電子機器101Aの主要なアプリケーション制御を司るもので、たとえば、相手方に送信したい画像や音声データなどを処理する回路や相手方から受信した画像や音声データを処理する回路が含まれる。
【0048】
メモリカード制御部106は、アプリケーション機能部105からの要求に対して、たとえば、データのリードライト制御など、メモリカード201Aに対する論理的制御を行なう。
【0049】
信号生成部107(電気信号変換部)は、メモリカード制御部106の論理制御データをミリ波信号に変換し、ミリ波信号伝送路9を介した信号伝送制御を行なう。
【0050】
具体的には、信号生成部107は、送信側信号生成部110および受信側信号生成部120を有する。送信側信号生成部110と伝送路結合部108で送信部が構成され、受信側信号生成部120と伝送路結合部108で受信部が構成される。
【0051】
送信側信号生成部110は、入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成するために、多重化処理部113、パラレルシリアル変換部114、変調部115、周波数変換部116、増幅部117を有する。なお、変調部115と周波数変換部116は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
【0052】
受信側信号生成部120は、伝送路結合部108によって受信したミリ波の電気信号を信号処理して出力信号を生成するために、増幅部124、周波数変換部125、復調部126、シリアルパラレル変換部127、単一化処理部128を有する。周波数変換部125と復調部126は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
【0053】
パラレルシリアル変換部114とシリアルパラレル変換部127は、メモリカード201Aがパラレル伝送用の複数のデータ信号を使用するパラレルインタフェース仕様のものである場合に備えられ、シリアルインタフェース仕様のものである場合には不要である。
【0054】
多重化処理部113は、メモリカード制御部106からの信号の内で、ミリ波帯での通信の対象となる信号が複数種(Nとする)ある場合に、時分割多重、周波数分割多重、符号分割多重などの多重化処理を行なうことで、複数種の信号を1系統の信号に纏める。第1実施形態の場合、高速性や大容量性が求められる複数種の信号をミリ波での伝送の対象として、1系統の信号に纏める。高速性や大容量性が求められる複数種の信号としては、先ずデータ信号が該当し、さらにクロック信号も該当する。
【0055】
なお、時分割多重や符号分割多重の場合には、多重化処理部113はパラレルシリアル変換部114の前段に設けられ、1系統の信号に纏めてパラレルシリアル変換部114に供給すればよい。時分割多重の場合、複数種の信号_@(@は1〜N)について時間を細かく区切ってパラレルシリアル変換部114に供給する切替スイッチを設ければよい。符号分割多重の場合には、複数種の信号_@を区別する符号を重畳しそれらを纏める回路を設ければよい。
【0056】
一方、周波数分割多重の場合には、図1A(2)に示すように、それぞれ異なる周波数帯域F_@の範囲の周波数に変換してミリ波の信号を生成する必要がある。このため、たとえば、パラレルシリアル変換部114、変調部115、周波数変換部116、増幅部117を複数種の信号_@の別に設け、各増幅部117の後段に多重化処理部113として加算処理部を設けるとよい。そして、周波数多重処理後の周波数帯域F_1+…+F_Nのミリ波の電気信号を伝送路結合部108に供給するようにすればよい。
【0057】
図1A(2)から分かるように、複数系統の信号を周波数分割多重で1系統に纏める周波数分割多重では伝送帯域幅を広くする必要がある。図1A(3)に示すように、複数系統の信号を周波数分割多重で1系統に纏めることと、送信と受信に異なった周波数を用いる全2重方式と併用する場合は伝送帯域幅を一層広くする必要がある。
【0058】
パラレルシリアル変換部114は、パラレルのデータ信号をシリアルのデータ信号に変換して変調部115に供給する。変調部115は、送信対象信号を変調して周波数変換部116に供給する。変調部115としては、振幅・周波数・位相の少なくとも1つをベースバンド信号で変調するものであればよく、これらの任意の組合せの方式も採用し得る。たとえば、アナログ変調方式であれば、たとえば、振幅変調(AM:Amplitude Modulation )とベクトル変調がある。ベクトル変調として、周波数変調(FM:Frequency Modulation)と位相変調(PM:Phase Modulation)がある。デジタル変調方式であれば、たとえば、振幅遷移変調(ASK:Amplitude shift keying)、周波数遷移変調(FSK:Frequency shift keying)、位相遷移変調(PSK:Phase shift keying)、振幅位相変調がある。振幅位相変調には、たとえば、直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)がある。
【0059】
周波数変換部116は、変調部115によって変調された後の送信対象信号を周波数変換してミリ波の電気信号を生成して増幅部117に供給する。ミリ波の電気信号とは、概ね30GHz〜300GHzの範囲のある周波数の電気信号をいう。「概ね」と称したのは、本実施形態でのミリ波通信による効果が得られる程度の周波数であればよく、下限は30GHzに限定されず、上限は300GHzに限定されないことに基づく。
【0060】
周波数変換部116としては様々な回路構成を採り得るが、たとえば、混合回路(ミキサー回路)と局部発振器とを備えた構成を採用すればよい。局部発振器は、変調に用いる搬送波(キャリア信号、基準搬送波)を生成する。混合回路は、パラレルシリアル変換部114からの信号で局部発振器が発生するミリ波帯の搬送波と乗算(変調)してミリ波帯の変調信号を生成して増幅部117に供給する。
【0061】
増幅部117は、周波数変換後のミリ波の電気信号を増幅して伝送路結合部108に供給する。増幅部117には図示しないアンテナ端子を介して双方向の伝送路結合部108に接続される。
【0062】
伝送路結合部108は、送信側信号生成部110によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路9に送信するとともに、ミリ波信号伝送路9からミリ波の信号を受信して受信側信号生成部120に出力する。
【0063】
伝送路結合部108は、アンテナ結合部で構成される。アンテナ結合部は伝送路結合部108(信号結合部)の一例またはその一部を構成する。アンテナ結合部とは、狭義的には半導体チップ内の電子回路と、チップ内またはチップ外に配置されるアンテナを結合する部分をいい、広義的には、半導体チップとミリ波信号伝送路を信号結合する部分をいう。
【0064】
たとえば、アンテナ結合部は、少なくともアンテナ構造を備える。また、時分割多重で送受信を行なう場合には、伝送路結合部108にアンテナ切替部(アンテナ共用器)を設ける。
【0065】
アンテナ構造は、ミリ波信号伝送路9を共有するメモリカード201A側の結合部における構造をいい、ミリ波帯の電気信号をミリ波信号伝送路9に結合させるものであればよく、アンテナそのもののみを意味するものではない。たとえば、アンテナ構造には、アンテナ端子、マイクロストリップ線路、アンテナを含み構成される。アンテナ切替部を同一のチップ内に形成する場合は、アンテナ切替部を除いたアンテナ端子とマイクロストリップ線路が伝送路結合部108を構成するようになる。
【0066】
アンテナは、ミリ波の信号の波長λ(たとえば600μm程度)に基づく長さを有しており、ミリ波信号伝送路9に結合される。アンテナは、パッチアンテナの他に、プローブアンテナ(ダイポールなど)、ループアンテナ、小型アパーチャ結合素子(スロットアンテナなど)が使用される。
【0067】
電子機器101A内にメモリカード201Aを収容した状態において、電子機器101A側のアンテナとメモリカード201A側のアンテナとが対向配置される場合は無指向性のものでよい。平面的にズレて配置される場合には指向性を有するものとするか、または反射部材を利用して進行方向を基板の厚さ方向から平面方向に変化させる、平面方向に進行させる誘電体伝送路を設けるなどの工夫をするのがよい。
【0068】
送信側のアンテナはミリ波の信号に基づく電磁波をミリ波信号伝送路9に輻射する。また、受信側のアンテナはミリ波の信号に基づく電磁波をミリ波信号伝送路9から受信する。マイクロストリップ線路は、アンテナ端子とアンテナとの間を接続し、送信側のミリ波の信号をアンテナ端子からアンテナへ伝送し、また、受信側のミリ波の信号をアンテナからアンテナ端子へ伝送する。
【0069】
アンテナ切替部はアンテナを送受信で共用する場合に用いられる。たとえば、ミリ波の信号を相手方である第2通信装置200A側に送信するときは、アンテナ切替部がアンテナを送信側信号生成部110に接続する。また、相手方である第2通信装置200A側からのミリ波の信号を受信するときは、アンテナ切替部がアンテナを受信側信号生成部120に接続する。アンテナ切替部は半導体チップ103と別にして基板102上に設けているが、これに限られることはなく、半導体チップ103内に設けてもよい。送信用と受信用のアンテナを別々に設ける場合はアンテナ切替部を省略できる。
【0070】
ミリ波の伝搬路であるミリ波信号伝送路9は、自由空間伝送路でもよいが、好ましくは、導波管、伝送線路、誘電体線路、誘電体内などの導波構造で構成し、ミリ波帯域の電磁波を効率よく伝送させる特性を有するものとする。たとえば、第1実施形態のミリ波信号伝送路9は、一定範囲の比誘電率と一定範囲の誘電正接を持つ誘電体素材を含んで構成された誘電体伝送路9Aにしている。
【0071】
「一定範囲」は、誘電体素材の比誘電率や誘電正接が、本実施形態の効果を得られる程度の範囲であればよく、その限りにおいて予め決められた値のものとすればよい。つまり、誘電体素材は、本実施形態の効果が得られる程度の特性を持つミリ波信号を伝送可能なものであればよい。誘電体素材そのものだけで決められず伝送路長やミリ波の周波数とも関係するので必ずしも明確に定められるものではないが、一例としては次のようにする。
【0072】
誘電体伝送路内にミリ波の信号を高速に伝送させるためには、誘電体素材の比誘電率は2〜10(好ましくは3〜6)程度とし、その誘電正接は0.00001〜0.01(好ましくは0.00001〜0.001)程度とすることが望ましい。このような条件を満たす誘電体素材としては、たとえば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、シリコーン系、ポリイミド系、シアノアクリレート樹脂系からなるものが使用できる。誘電体素材の比誘電率とその誘電正接のこのような範囲は、特段の断りのない限り、本実施形態で同様である。なお、ミリ波信号を伝送路に閉じ込める構成のミリ波信号伝送路9としては、誘電体伝送路の他に、伝送路の周囲が遮蔽材で囲まれその内部が中空の中空導波路としてもよい。
【0073】
伝送路結合部108には受信側信号生成部120が接続される。受信側信号生成部120は、伝送路結合部108によって受信したミリ波の電気信号を信号処理して出力信号を生成するために、増幅部124、周波数変換部125、復調部126、シリアルパラレル変換部127、単一化処理部128を有する。なお、周波数変換部125と復調部126は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
【0074】
増幅部124は、伝送路結合部108に接続され、アンテナによって受信された後のミリ波の電気信号を増幅して周波数変換部125に供給する。周波数変換部125は、増幅後のミリ波の電気信号を周波数変換して周波数変換後の信号を復調部126に供給する。復調部126は、周波数変換後の信号を復調してベースバンドの信号を取得しシリアルパラレル変換部127に供給する。
【0075】
シリアルパラレル変換部127は、シリアルの受信データをパラレルの出力データに変換して単一化処理部128に供給する。
【0076】
単一化処理部128は、多重化処理部113と対応するもので、1系統に纏められている信号を複数種の信号_@(@は1〜N)に分離する。第1実施形態の場合、たとえば、1系統の信号に纏められている複数本のデータ信号を各別に分離してメモリカード制御部106に供給する。
【0077】
なお、周波数分割多重により1系統に纏められている場合には、周波数多重処理後の周波数帯域F_1+…+F_Nのミリ波の電気信号を受信して周波数帯域F_@別に処理する必要がある。このため、図1A(2)に示すように、増幅部224、周波数変換部225、復調部226、シリアルパラレル変換部227を複数種の信号_@の別に設け、各増幅部224の前段に単一化処理部228として周波数分離部を設けるとよい。そして、分離後の各周波数帯域F_@のミリ波の電気信号を対応する周波数帯域F_@の系統に供給するようにすればよい。
【0078】
このように半導体チップ103を構成すると、入力信号をパラレルシリアル変換して半導体チップ203側へ伝送し、また半導体チップ203側からの受信信号をシリアルパラレル変換することにより、ミリ波変換対象の信号数が削減される。
【0079】
なお、電子機器101Aとメモリカード201Aの間の元々の信号伝送がシリアル形式の場合には、パラレルシリアル変換部114およびシリアルパラレル変換部127を設けなくてもよい。
【0080】
[メモリカード]
メモリカード201Aは、概ね電子機器101Aと同様の機能構成を備える。各機能部には200番台の参照子を付し、電子機器101Aと同様・類似の機能部には電子機器101Aと同一の10番台および1番台の参照子を付す。送信側信号生成部210と伝送路結合部208で送信部が構成され、受信側信号生成部220と伝送路結合部208で受信部が構成される。
【0081】
電子機器101Aと違う点は、アプリケーション機能部105をメモリ機能部205に置き換え、メモリカード制御部106をメモリ制御部206に置き換えている点である。
【0082】
メモリ機能部205は、たとえばフラッシュメモリやハードディスクにより提供される不揮発性の記憶媒体である。
【0083】
メモリ制御部206は、電子機器101A側からの論理制御データに対応して、メモリ機能部205に対し、データのリードライト制御を行なう。
【0084】
信号生成部207(電気信号変換部、ベースバンド信号生成部)は、ミリ波信号伝送路9を介して受信されるメモリカード制御部106側からの論理制御データを示すミリ波信号を元の論理制御データ(ベースバンド信号)に変換しメモリ制御部206に供給する。
【0085】
メモリカード201Aは、主にフラッシュメモリを内蔵する着脱式の半導体記録媒体であり、電子機器101Aからのデータリードライトを行なう。形状は規格化されていない任意のものでもよいし規格化されたものでもよい。様々な規格があることは周知の通りである。無規格品・規格品に関わらず、メモリカードの容量の増大に伴い、インタフェースの高速化が求められている。
【0086】
ここで、入力信号を周波数変換して信号伝送するという手法は、放送や無線通信で一般的に用いられている。これらの用途では、どこまで通信できるか(熱雑音に対してのS/Nの問題)、反射やマルチパスにどう対応するか、妨害や他チャンネルとの干渉をどう抑えるかなどの問題に対応できるような比較的複雑な送信器や受信器などが用いられている。これに対して、本実施形態で使用する信号生成部107,207は、放送や無線通信で一般的に用いられる複雑な送信器や受信器などの使用周波数に比べて、より高い周波数帯のミリ波帯で使用され、波長λが短いため、周波数の再利用がし易く、近傍で多くのデバイス間での通信をするのに適したものが使用される。
【0087】
[復調機能部]
周波数変換部125と復調部126は、様々な回路構成を採用し得るが、たとえば受信したミリ波信号(の包絡線)振幅の二乗に比例した検波出力を得る自乗検波回路を用いることができる。
【0088】
ここで、周波数分割多重方式により多チャンネル化を実現する場合、自乗検波回路を用いる方式では、次のような難点がある。先ず、この方式による多チャンネル化には、自乗検波回路では、受信側の周波数選択のためのバンドパスフィルタを前段に配置する必要があるが、急峻なバンドパスフィルタを小型に実現するのは容易ではない。また、自乗検波回路は、感度的に不利であるし、周波数分割多重方式による多チャンネル化では、搬送波の周波数変動成分の影響を受けるため、送信側の搬送波の安定度についても要求仕様が厳しく、変調方式は周波数変動の影響を無視できるようなもの(たとえばOOK:On-Off-Keying )などに限られる。
【0089】
また、発振回路については、次のような難点がある。ミリ波でデータを伝送するに当たり、送信側と受信側に、屋外の無線通信で用いられているような通常の手法を用いようとすると、搬送波に安定度が要求され、周波数安定度数がppm(parts per million )オーダー程度の安定度の高いミリ波の発振器が必要となる。安定度の高いミリ波の発振器をシリコン集積回路(CMOS:Complementary Metal-oxide Semiconductor )上に実現しようとした場合、通常のCMOSで使われるシリコン基板は絶縁性が低いため、容易にQの高いタンク回路が形成できず、実現が容易でない。たとえば、CMOSチップ上のインダクタンスを形成した場合、そのQは30〜40程度になってしまう。
【0090】
したがって、通常、無線通信で要求されるような安定度の高い発振器を実現するには、CMOS外部に低い周波数で水晶振動子などで高いQのタンク回路を設け、逓倍器してミリ波帯域へ上げるという手法を採らざるを得ない。しかし、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)などの配線による信号伝送をミリ波による信号伝送に置き換える機能を実現するのに、このような外部タンクを全てのチップに設けることは好ましくない。
【0091】
このような問題に対する対処としては、周波数変換部125と復調部126は、注入同期(インジェクションロック)方式を採用するとよい。注入同期方式にする場合には、送信側からミリ波帯に変調された信号と合わせて、変調に使用した搬送信号と対応する受信側での注入同期の基準として使用される基準搬送波も送出する。基準搬送信号は、典型的には変調に使用した搬送信号そのものであるが、これに限定されず、たとえば変調に使用した搬送信号と同期した別周波数の信号(たとえば高調波信号)でもよい。
【0092】
受信器側では局部発振器を設け、送られてきた基準搬送波成分を局部発振器に注入同期させ、この出力信号を用いて送られてきた伝送対象信号を復元する。たとえば、受信信号は局部発振器に入力され基準搬送波との同期が行なわれる。基準搬送波と受信信号は混合回路に入力され乗算信号が生成される。この乗算信号は低域通過フィルタで高域成分の除去が行なわれることで送信側から送られてきた入力信号の波形(ベースバンド信号)が得られる。
【0093】
このように注入同期を利用することにより、受信側の局部発振器はQの低いものでもよく、また、送信側の基準搬送波の安定度についても要求仕様を緩めることができるため、より高い搬送周波数でも、簡潔に受信機能を実現し得るようになる。受信側の局部発振器により送信側の基準搬送波に同期した信号を再生して混合回路に供給し同期検波を行なうので、混合回路の前段にバンドパスフィルタ(周波数選択フィルタ)を設けなくてもよくなる。また、受信器側では、CMOS構成の半導体チップの外部にタンク回路を用いることなく、半導体チップ上にタンク回路を設けて受信側の局部発振器を構成することができる。送信側から送られてきた基準搬送信号成分を受信側の局部発振器に供給して注入同期させて得られる出力信号を用いて、送られてきたミリ波変調信号を復調し、送信された入力信号を復元することができる。
【0094】
[接続と動作:第1実施形態]
第1実施形態のスロット構造4Aは、図1に示すように、電子機器101A側の信号生成部107および伝送路結合部108とメモリカード201A側の信号生成部207および伝送路結合部208と、ミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)に寄与する。伝送路結合部108と伝送路結合部208の間に誘電体伝送路9Aを具備するのである。
【0095】
なお、本実施形態では、従来の電気配線を利用した信号インタフェースとは異なり、前述のようにミリ波帯で信号伝送を行なうことで高速性と大容量に柔軟に対応できるようにしている。たとえば、第1実施形態では、高速性や大容量性が求められる信号のみをミリ波帯での通信の対象としており、電子機器101Aおよびメモリカード201Aは、低速・小容量の信号用や電源供給用に、従前の電気配線によるインタフェース(端子・コネクタによる接続)を一部に備えることになる。クロック信号や複数本のデータ信号は、ミリ波での信号伝送の対象となるので、端子を取り外すことができる。
【0096】
信号生成部107は、メモリカード制御部106から入力された入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成する。信号生成部107には、たとえば、マイクロストリップライン、ストリップライン、コプレーナライン、スロットラインなどの伝送線路で伝送路結合部108に接続され、生成されたミリ波の信号が伝送路結合部108を介してミリ波信号伝送路9としての誘電体伝送路9Aに供給される。
【0097】
伝送路結合部108は、アンテナ構造を有し、伝送されたミリ波の信号を電磁波に変換し、電磁波を送出する機能を有する。伝送路結合部108はミリ波信号伝送路9である誘電体伝送路9Aと結合されており、誘電体伝送路9Aの一方の端部に伝送路結合部108で変換された電磁波が供給される。誘電体伝送路9Aの他端にはメモリカード201A側の伝送路結合部208が結合されている。誘電体伝送路9Aを電子機器101A側の伝送路結合部108とメモリカード201A側の伝送路結合部208の間に設けることにより、誘電体伝送路9A内にはミリ波帯の電磁波が伝搬するようになる。
【0098】
誘電体伝送路9Aにはメモリカード201A側の伝送路結合部208が結合されている。伝送路結合部208は、誘電体伝送路9Aの他端に伝送された電磁波を受信し、ミリ波の信号に変換して信号生成部207に供給する。信号生成部207は、変換されたミリ波の信号を信号処理して出力信号を生成しメモリ機能部205へ供給する。
【0099】
ここでは電子機器101Aからメモリカード201Aへの信号伝送の場合で説明したが、メモリカード201Aのメモリ機能部205から読み出されたデータを電子機器101Aへ伝送する場合も同様に考えればよく、双方向にミリ波の信号を伝送できる。
【0100】
[機能構成:比較例]
図2に示すように、比較例の信号伝送システム1Zは、電子機器101Zとメモリカード201Zが電気的インタフェース9Zを介して結合され信号伝送を行なうように構成されている。電子機器101Zには電気配線を介して信号伝送可能な半導体チップ103Zが設けられ、メモリカード201Zにも電気配線を介して信号伝送可能な半導体チップ203Zが設けられている。第1実施形態のミリ波信号伝送路9を電気的インタフェース9Zに置き換えた構成である。
【0101】
メモリカード201Zは、電子機器101Zからのデータリードライトを行なうもので、様々な規格がある。容量の増大に伴い、インタフェースの高速化が求められているが、たとえば、ある規格品においては、8端×60MHzのパラレル伝送により、480Mbpsの物理伝送レートが実現されている。
【0102】
このメモリカード201Zを利用する場合、一般的に、電子機器101Zは、メモリカード201Zと電気的インタフェース9Zの接続を行なうために、スロット構造を有する。スロット構造は、メモリカード201Zに対する固定手段の機能も持つ。
【0103】
電気配線を介して信号伝送を行なうため、電子機器101Zには信号生成部107および伝送路結合部108に代えて電気信号変換部107Zが設けられ、メモリカード201Zには信号生成部207および伝送路結合部208に代えて電気信号変換部207Zが設けられている。
【0104】
電子機器101Zにおいて、電気信号変換部107Zは、メモリカード制御部106の論理制御データに対し、電気的インタフェース9Zを介した電気信号伝送制御を行なう。
【0105】
一方、メモリカード201Zにおいて、電気信号変換部207Zは、電気的インタフェース9Zを介してアクセスされ、メモリカード制御部106から送信された論理制御データを得る。
【0106】
電子機器101Zとメモリカード201Zの間のスロット構造4Zは、電子機器101Zに対して、メモリカード201Zの着脱を行なう構造であり、電気的インタフェース9Zの接続手段と、電子機器101Zとメモリカード201Zの固定手段の機能を持つ。
【0107】
図2A(2)に示すように、スロット構造4Zは、筺体190の一部に弾性材199(たとえばバネ機構)が設けられ、電子機器101Z側の筺体190に、メモリカード201Zを開口部192から挿抜して固定可能な構成となっている。電子機器101Zとメモリカード201Zは、嵌合構造として、凹凸の形状構成を具備する。何れに凹形状構成を設け、何れに凸形状構成を設けるかは任意である。ここでは、図2A(2)に示すように、電子機器101Zの筺体190に凸形状構成198Z(出っ張り)を設け、図2A(1)に示すように、メモリカード201Zの筐体290に凹形状構成298Z(窪み)を設けている。つまり、図2A(3)に示すように、筺体190において、メモリカード201Zの挿入時に、凹形状構成298Zの位置に対応する部分に凸形状構成198Zが設けられている。
【0108】
図2A(1)に示すように、基板202の一辺には、筐体290の決められた箇所で外部機器としての電子機器101Zと接続するための接続端子280(信号ピン)が、筐体290の決められた位置に設けられている。接続端子280は、配線パターンや導電ビアを介して電気信号変換部207Zと接続されている。メモリカード201Zの接続端子280と対応するように、電子機器101Zには、接続端子280と接続される接続部180(コネクタ)が設けられる。電子機器101Zの筺体190にメモリカード201Zが挿入されたとき、接続部180のコネクタピンと接続端子280が機械的に接触されることで電気的な接続がとられるようになっている。これにより、メモリカード201Zが電子機器101Zと接続され、たとえば、電力供給や入出力信号の伝達がなされる。
【0109】
ここで、電気的インタフェース9Zを採用する比較例の信号伝送システム1Zでは、次のような問題がある。
【0110】
i)伝送データの大容量・高速化が求められるが、電気配線の伝送速度・伝送容量には限界がある。
【0111】
ii)伝送データの高速化の問題に対応するため、配線数を増やして、信号の並列化により一信号線当たりの伝送速度を落とすことが考えられる。しかしながら、この対処では、入出力端子の増大に繋がってしまう。その結果、プリント基板やケーブル配線の複雑化、コネクタ部や電気的インタフェース9Zの物理サイズの増大などが求められ、それらの形状が複雑化し、これらの信頼性が低下し、コストが増大するなどの問題が起こる。
【0112】
iii)映画映像やコンピュータ画像等の情報量の膨大化に伴い、ベースバンド信号の帯域が広くなるに従って、EMC(電磁環境適合性)の問題がより顕在化してくる。たとえば、電気配線を用いた場合は、配線がアンテナとなって、アンテナの同調周波数に対応した信号が干渉される。また、配線のインピーダンスの不整合などによる反射や共振によるものも不要輻射の原因となる。共振や反射があると、それは放射を伴い易く、EMI(電磁誘導障害)の問題も深刻となる。このような問題を対策するために、電子機器の構成が複雑化する。
【0113】
iv)EMCやEMIの他に、反射があると受信側でシンボル間での干渉による伝送エラーや妨害の飛び込みによる伝送エラーも問題となってくる。
【0114】
v)端子をむき出しにする場合、静電気破壊の問題がある。
【0115】
これに対して、第1実施形態の無線伝送システム1Aは、比較例の電気信号変換部107Z,207Zを、信号生成部107,207と伝送路結合部108,208に置き換えることで、電気配線ではなくミリ波で信号伝送を行なうようにしている。メモリカード制御部106からメモリ制御部206に対する論理制御データは、ミリ波信号に変換され、ミリ波信号は伝送路結合部108,208間を誘電体伝送路9Aを介して伝送する。
【0116】
無線伝送のため、配線形状やコネクタの位置を気にする必要がないため、レイアウトに対する制限があまり発生しない。ミリ波による信号伝送に置き換えた信号については配線や端子を割愛できるので、EMCやEMIの問題から解消されるし、静電気破壊の問題からも解消される。一般に、電子機器101Aやメモリカード201A内部で他にミリ波帯の周波数を使用している機能部は存在しないため、EMCやEMIの対策が容易に実現できる。
【0117】
特に、第1実施形態では、ミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込める構成を取っているので、電波の放射や干渉を抑え、伝送効率の向上を効果的に図ることができる。すなわち、ミリ波信号は誘電体伝送路9A内を特定のモードにより伝送するので、減衰および放射を抑えたミリ波信号伝送を行なうことが可能となる。また、ミリ波の外部放射を抑える、EMC対策がより楽になるなどの利点も得られる。
【0118】
また、スロット構造4Aにメモリカード201Aを装着した状態での無線伝送であり、固定位置間や既知の位置関係の信号伝送であるため、次のような利点が得られる。
【0119】
1)送信側と受信側の間の伝搬チャネル(導波構造)を適正に設計することが容易である。
【0120】
2)送信側と受信側を封止する伝送路結合部の誘電体構造と伝搬チャネル(ミリ波信号伝送路9の導波構造=誘電体伝送路9A)を併せて設計することで、自由空間伝送(第2例の自由空間伝送路9B)より、信頼性の高い良好な伝送が可能になる。
【0121】
3)無線伝送を管理するコントローラ(本例ではメモリカード制御部106)の制御も一般の無線通信のように動的にアダプティブに頻繁に行なう必要はないため、制御によるオーバーヘッドを一般の無線通信に比べて小さくすることができる。その結果、小型、低消費電力、高速化が可能になる。
【0122】
4)製造時や設計時に無線伝送環境を校正し、個体のばらつきなどを把握すれば、そのデータを参照して伝送することでより高品位の通信が可能になる。
【0123】
5)反射が存在していても、固定の反射であるので、小さい等価器(等化器)で容易にその影響を受信側で除去できる。等価器の設定も、プリセットや静的な制御で可能であり、実現が容易である。
【0124】
また、ミリ波通信であることで、次のような利点が得られる。
【0125】
a)ミリ波通信は通信帯域を広く取れるため、データレートを大きくとることが簡単にできる。
【0126】
b)伝送に使う周波数が他のベースバンド信号処理の周波数から離すことができ、ミリ波とベースバンド信号の周波数の干渉が起こり難く、後述の空間分割多重を実現し易い。
【0127】
c)ミリ波帯は波長が短いため、波長に応じてきまるアンテナや導波構造を小さくできる。加えて、距離減衰が大きく回折も少ないため電磁シールドが行ない易い。
【0128】
d)通常の無線通信では、搬送波の安定度については、干渉などを防ぐため、厳しい規制がある。そのような安定度の高い搬送波を実現するためには、高い安定度の外部周波数基準部品と逓倍回路やPLL(位相同期ループ回路)などが用いられ、回路規模が大きくなる。しかしながら、ミリ波では(特に固定位置間や既知の位置関係の信号伝送との併用時は)、ミリ波は容易に遮蔽でき、外部に漏れないようにでき、安定度の低い搬送波を伝送に使用することができ、回路規模の増大を抑えることができる。安定度を緩めた搬送波で伝送された信号を受信側で小さい回路で復調するのには、注入同期方式を採用するのが好適である。
【0129】
なお、電気配線を無線化しUWB(Ultra Wide Band )により伝送するという手法が提案されている。たとえば、特許文献1には、メモリカードへ無線インタフェースを適用する点が記載されている。通信には、2.4GHz帯や5GHz帯を使用するIEEE802.11a/b/gなどの規格が適用される。しかしながら、メモリカードに2.4GHz帯や5GHz帯の無線インタフェースを適用し、電気的インタフェースを介して電子機器からのデータアクセスを行なうとともに、無線インタフェースを介して異なる電子機器からのデータアクセスを行なうもので、第1実施形態の仕組みとは異なる。
【0130】
特許文献2には、特許文献1の仕組みを発展させ、各種規格の複数の周波数帯域に対応したアンテナパターンをカードの平面上に単独または複数で設けることが記載される。電気的インタフェースを排除し無線アクセスのみで構成する、つまり、無線インタフェースのみを持つメモリカードの構成についても言及している。しかしながら、特許文献2には、従来の電気インタフェースを代替することについては触れられておらず、第1実施形態の仕組みとは異なる。
【0131】
また、特許文献1,2のように、IEEE802.11a/b/gなどのUWBを適用する規格に従ったのでは、搬送周波数が低くたとえば映像信号を伝送するような高速通信に向かないし、アンテナが大きくなるなど、サイズ上の問題がある。さらに、伝送に使う周波数が他のベースバンド信号処理の周波数に近いため干渉し易いし、後述の空間分割多重ができ難いという問題点がある。
【0132】
<無線伝送システム:第2実施形態>
図3は、第2実施形態の無線伝送システムにおける信号インタフェースを説明する図である。ここで、図3は、第2実施形態の無線伝送システム1Bの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
【0133】
第2実施形態は、ミリ波信号伝送路9を実質的な自由空間とするものである。「実質的な自由空間」とは、電子機器101Bやメモリカード201Bの筐体も誘電体であるが、この部分を無視すると、両者間でミリ波信号が自由空間の伝送路(自由空間伝送路9B)を介して伝送されることを意味する。
【0134】
機能構成的には、第1実施形態の誘電体伝送路9Aを自由空間伝送路9Bに置き換えただけであり、その他の点は第1実施形態と同様であるので、その他の点については説明を割愛する。
【0135】
自由空間伝送路9Bを適用した場合、ミリ波信号をミリ波信号伝送路9に閉じ込める構成とはならない。しかしながら、ミリ波帯の波長は空気中で約1mm〜10mmと短い。したがって、ミリ波は減衰し易く、回り込みが起こり難いし、電波の指向性を特定の方向に絞って電波に指向性を持たせることが容易である。誘電体伝送路9Aなどを用いて閉じ込める構成としなくても、伝送効率の向上を図ることができるし、ミリ波による信号伝送に置き換えた信号については配線や端子を割愛できるので、EMCやEMIや静電気破壊の問題から解消される。第2実施形態の仕組みでは、誘電体伝送路9Aを構成しなくでも済むので製造が容易で第1実施形態よりも低コストになる。
【0136】
<無線伝送システム:第3実施形態>
図4は、第3実施形態の無線伝送システムにおける信号インタフェースを説明する図である。ここで、図4は、第3実施形態の無線伝送システム1Cの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
【0137】
第3実施形態は、ミリ波信号伝送路9として、第1実施形態の誘電体伝送路9Aと第2実施形態の自由空間伝送路9Bの双方を適用したものである。機能構成的には、第1実施形態と第2実施形態を組み合わせただけであるので、その他の点については説明を割愛する。
【0138】
第3実施形態の仕組みは、ミリ波信号伝送路9として2系統が存在することになり、考え方としては、後述の第5実施形態の「空間分割多重」の一例にも該当する。図では、誘電体伝送路9Aと自由空間伝送路9Bをそれぞれ1系統設けているが、それぞれは2系統以上であってもよい。
【0139】
第1・第2実施形態の対比から推測されるように、伝送効率の向上を効果的に図る上では自由空間伝送路9Bよりも誘電体伝送路9Aを適用する方が好ましい。しかしながら、複数(N本とする)の伝送チャネル(ミリ波信号伝送路9_N)を用意する場合に、構造的に誘電体伝送路9Aを複数箇所に設けることが困難になる場合もあり得る。このような場合、第3実施形態の仕組みでは、誘電体伝送路9Aを設けることができない伝送チャネルについては自由空間伝送路9Bを適用することで、複数の伝送チャネルへの対応が可能となる。
【0140】
<無線伝送システム:第4実施形態>
図5は、第4実施形態の無線伝送システムにおける信号インタフェースを説明する図である。ここで、図5は、第4実施形態の無線伝送システム1Dの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。
【0141】
第4実施形態は、高速性や大容量性が求められる信号に加えて、その他の低速・小容量で十分な信号も、ミリ波帯での通信の対象となる信号とし、電源に関してのみミリ波信号への変換対象としない。その他の低速・小容量で十分な信号としては、たとえばコマンド信号やバスステート信号(シリアルインタフェース仕様の場合)、アドレス信号やその他の各種制御信号(パラレルインタフェース仕様の場合)などが該当する。
【0142】
第4実施形態の仕組みによれば、電源を除いて、全ての信号がミリ波で伝送される。ここでは、第1実施形態に対する変形例で示しているが、第2・第3実施形態に対しても同様の変形が可能である。
【0143】
ミリ波信号への変換対象としない電源については、前述の比較例と同様に、LSI機能部104,204から電気配線で端子まで引き延ばし、電子機器101Aとメモリカード201Aの双方の端子を介した機械的な接触で電気的な接続をとるようにする。
【0144】
機能構成的には、ミリ波信号への変換対象とする信号が第1〜第3実施形態と異なるだけであるので、その他の点については説明を割愛する。
【0145】
<無線伝送システム:第5実施形態>
図6〜図6Aは、第5実施形態の無線伝送システムにおける信号インタフェースを説明する図である。ここで、図6は、第5実施形態の無線伝送システム1Eの信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。図6Aは、「空間分割多重」の適正条件を説明する図である。
【0146】
第5実施形態は、複数組の伝送路結合部108,208の対を用いることで、複数系統のミリ波信号伝送路9を備える点に特徴を有する。複数系統のミリ波信号伝送路9は、空間的に干渉しないように設置され、同一周波数で同一時間に通信を行なうことができるものとする。本実施形態では、このような仕組みを空間分割多重と称する。伝送チャネルの多チャネル化を図る際に、空間分割多重を適用しない場合は周波数分割多重を適用して各チャネルでは異なる搬送周波数を使用することが必要になるが、空間分割多重を適用すれば、同一の搬送周波数でも干渉の影響を受けずに伝送できるようになる。
【0147】
「空間分割多重」とは、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間において、複数系統のミリ波信号伝送路9を形成するものであればよく、自由空間中に複数系統のミリ波信号伝送路9を構成することに限定されない。たとえば、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間が誘電体素材(有体物)から構成されている場合に、その誘電体素材中に複数系統のミリ波信号伝送路9を形成するものでもよい。また、複数系統のミリ波信号伝送路9のそれぞれも、自由空間であることに限定されず、誘電体伝送路や中空導波路などの形態を採ってよい。
【0148】
空間分割多重では、同一周波数帯域を同一時間に使用することができるため、通信速度を増加できるし、また、電子機器101からメモリカード201への信号伝送と、メモリカード201から電子機器101への信号伝送を同時に行なう双方向通信の同時性を担保できる。特に、ミリ波は、波長が短く距離による減衰効果を期待でき、小さいオフセット(伝送チャネルの空間距離が小さい場合)でも干渉が起き難く、場所により異なった伝搬チャネルを実現し易い。
【0149】
図6に示すように、第5実施形態の無線伝送システム1Eは、ミリ波伝送端子、ミリ波伝送線路、アンテナなどを具備する伝送路結合部108,208をN系統有するとともに、ミリ波信号伝送路9をN系統有する。それぞれには、参照子“_@”(@は1〜N)を付す。これにより、送受信に対するミリ波伝送を独立して行なう全二重の伝送方式が実現できる。
【0150】
電子機器101Eは、多重化処理部113および単一化処理部128を取り外し、メモリカード201Eは、多重化処理部213および単一化処理部228を取り外している。この例では、電源供給を除く全ての信号をミリ波で伝送する対象にしている。
【0151】
各系統の搬送周波数は同一でもよいし異なっていてもよい。たとえば、誘電体伝送路9Aの場合はミリ波が内部に閉じこめられるのでミリ波干渉を防ぐことができ、同一周波数でも全く問題ない。自由空間伝送路9Bの場合は、自由空間伝送路9B同士がある程度隔てられていれば同一でも問題ないが、近距離の場合には異なっていた方がよい。
【0152】
たとえば、図6A(1)に示すように、自由空間の伝播損失Lは、距離をd、波長をλとして“L[dB]=10log10((4πd/λ)2)…(A)”で表すことができる。
【0153】
図6Aに示すように、空間分割多重の通信を2種類考える。図では送信器を「TX」、受信器を「RX」で示している。参照子「_101」は電子機器101側であり、参照子「_201」はメモリカード201側である。図6A(2)は、電子機器101に、2系統の送信器TX_101_1,TX_101_2を備え、メモリカード201に、2系統の受信器RX_201_1,RX_201_2を備える。つまり、電子機器101側からメモリカード201側への信号伝送が送信器TX_101_1と受信器RX_201_1の間および送信器TX_101_2と受信器RX_201_2の間で行なわれる。つまり、電子機器101側からメモリカード201側への信号伝送が2系統で行なわれる態様である。
【0154】
一方、図6A(3)は、電子機器101に、送信器TX_101と受信器RX_101を備え、メモリカード201に、送信器TX_201と受信器RX_201を備える。つまり、電子機器101側からメモリカード201側への信号伝送が送信器TX_101と受信器RX_201の間で行なわれ、メモリカード201側から電子機器101側への信号伝送が送信器TX_201と受信器RX_101の間で行なわれる。送信用と受信用に別の通信チャネルを使用する考え方で、同時に双方からデータの送信(TX)と受信(RX)が可能な全二重通信(Full Duplex )の態様である。
【0155】
ここで、指向性のないアンテナを使用して、必要DU[dB](所望波と不要波の比)を得るために必要なアンテナ間距離d1と空間的なチャネル間隔(具体的には自由空間伝送路9Bの離隔距離)d2の関係は、式(A)より、“d2/d1=10(DU/20)…(B)”となる。
【0156】
たとえば、DU=20dBの場合は、d2/d1=10となり、d2はd1の10倍必要となる。通常は、アンテナにある程度の指向性があるため、自由空間伝送路9Bの場合であっても、d2をもっと短く設定することができる。
【0157】
たとえば、通信相手のアンテナとの距離が近ければ、各アンテナの送信電力は低く抑えることができる。送信電力が十分低く、アンテナ対同士が十分離れた位置に設置できれば、アンテナ対の間での干渉は十分低く抑えることができる。特に、ミリ波通信では、ミリ波の波長が短いため、距離減衰が大きく回折も少ないため、空間分割多重を実現し易い。たとえば、自由空間伝送路9Bであっても、空間的なチャネル間隔(自由空間伝送路9Bの離隔距離)d2を、たとえば、アンテナ間距離d1の5〜6倍程度に設定することができる。
【0158】
ミリ波閉込め構造を持つミリ波信号伝送路9の場合、内部にミリ波信号を閉じこめて伝送できるので、空間的なチャネル間隔(自由空間伝送路9Bの離隔距離)d2を、たとえばアンテナ間距離d1の2〜3倍程度にして、チャネル間隔を近接させることができる。
【0159】
たとえば、双方向通信を実現するには、空間分割多重の他に、第1実施形態で説明したように時分割多重を行なう方式、周波数分割多重、符号分割多重などが考えられる。
【0160】
第1実施形態では、1系統の誘電体伝送路9Aを有し、データ送受信を実現する方式として、時分割多重により送受信を切り替える半二重方式、周波数分割多重や符号分割多重により送受信を同時に行なう全二重方式の何れかが採用される。
【0161】
ただし、時分割多重の場合は、送信と受信とを並行して行なうことができないという問題がある。また、図1Aに示したように、周波数分割多重の場合は、ミリ波信号伝送路9の帯域幅を広くしなければならないという問題がある。
【0162】
これに対して、第5実施形態の無線伝送システム1Eでは、複数の信号伝送系統(複数チャネル)において、搬送周波数の設定を同一にでき、搬送周波数の再利用(複数チャネルで同一周波数を使用すること)が容易になる。ミリ波信号伝送路9の帯域幅を広くしなくてもデータの送受信を同時に実現できる。
【0163】
N種のベースバンド信号に対してミリ波信号伝送路9がN系統の場合に、双方向の送受信を行なうには、送受信に関して時分割多重や周波数分割多重を適用すればよい。また、2N系統のミリ波信号伝送路9を使用すれば、双方向の送受信に関しても別系統のミリ波信号伝送路9を使用した(全て独立の伝送路を使用した)伝送を行なうことができる。つまり、ミリ波帯での通信の対象となる信号が複数種ある場合に、時分割多重、周波数分割多重、符号分割多重などの多重化処理を行なわなくても、それらを各別のミリ波信号伝送路9で伝送することもできる。
【0164】
<無線伝送システム:第6実施形態>
図7は、第6実施形態の無線伝送システムにおける信号インタフェースを説明する図である。ここで、図7は、第6実施形態の無線伝送システム1Fの信号インタフェースを機能構成面から説明する図であり、第4実施形態に対する変形例である。
【0165】
第6実施形態の無線伝送システム1Fでは、高速性や大容量性が求められる信号やその他の低速・小容量で十分なものをミリ波で伝送する第4実施形態をベースに、パワー伝送を要する電源に関しても無線で伝送する。つまり、メモリカード201Fが使用する電力を無線により電子機器101Fから供給する仕組みを追加している。
【0166】
電子機器101Fは、メモリカード201Fにて使用される電力を無線で供給する電力供給部174を備える。電力供給部174の仕組みについては後述する。
【0167】
メモリカード201Fは、電子機器101F側から無線で伝送されてきた電源電圧(電源電力)を受け取る電力受取部278を備える。電力受取部278の仕組みについては後述するが、何れの方式でも、電力受取部278は、メモリカード201F側で使用する電源電圧を生成し、それを半導体チップ203などに供給する。
【0168】
機能構成的には、電力も無線で伝送する点が第4実施形態と異なるだけであるので、その他の点については説明を割愛する。電力伝送を無線で実現する仕組みとしては、たとえば、電磁誘導方式、電波受信方式、共鳴方式の何れかを採用する。この方法を用いれば、電気配線や端子を介したインタフェースが完全に不要となり、ケーブルレスのシステム構成にできる。電源を含む全ての信号を、電子機器101Fからメモリカード201Fへ無線で伝送できるようになる。因みに、スロット構造4の部分以外の所で無線で電力伝送を行なう際の結合路を構築してよい。
【0169】
たとえば、電磁誘導方式は、コイルの電磁結合と誘導起電力を利用する。図示を割愛するが、電力を無線で供給する電力供給部174(送電側、1次側)には、1次コイルを設け、この1次コイルを比較的高い周波数で駆動する。電力供給部174より無線で電力を受け取る電力受取部278(受電側、2次側)には、1次コイルと対向する位置に2次コイルを設けるとともに、整流ダイオード、共振および平滑用のコンデンサなどを設ける。たとえば、整流ダイオードと平滑用のコンデンサで整流回路を構成する。
【0170】
1次コイルを高周波数で駆動すると、1次コイルと電磁結合された2次コイルに誘導起電力が発生する。この誘導起電力に基づき、整流回路により直流電圧を作り出す。この際、共振効果を利用して受電効率を高めるようにする。
【0171】
電磁誘導方式を採用する場合には、電力供給部174と電力受取部278の間を近接させ、その間(具体的には1次コイルと2次コイルの間)には他の部材(特に金属)が入り込まないようにするとともに、コイルに対して電磁遮蔽を採る。前者は、金属が加熱されるのを防止するためであり(電磁誘導加熱の原理による)、後者は他の電子回路への電磁障害対策のためである。電磁誘導方式は。伝送可能な電力が大きいが、前述のように送受間を近接(たとえば1cm以下)させる必要がある。
【0172】
電波受信方式は、電波のエネルギを利用するもので、電波を受信することで得られる交流波形を、整流回路により直流電圧に変換するものである。周波数帯によらず(たとえばミリ波でもよい)電力を伝送できる利点がある。図示を割愛するが、電力を無線で供給する電力供給部174(送信側)には、ある周波数帯の電波を送信する送信回路を設ける。電力供給部174より無線で電力を受け取る電力受取部278(受信側)には、受信した電波を整流する整流回路を設ける。送信電力にもよるが、受信電圧は小さく、整流回路に使用する整流ダイオードとしては順方向電圧ができるだけ小さなもの(たとえばショットキーダイオード)を使用するのが好ましい。なお、整流回路の前段に共振回路を構成して、電圧を大きくしてから整流するようにしてもよい。一般的な野外での使用における電波受信方式においては送信電力の多くが電波として拡散するため電力伝送効率が低くなるが、伝送範囲を制限できる構成(たとえば閉込め構造のミリ波信号伝送路)と組み合わせることで、その問題を解消できると考えられる。
【0173】
共鳴方式は、2つの振動子(振り子、音叉)が共振する現象と同じ原理を応用するもので、電磁波でなく電場または磁場の一方での近接場における共鳴現象を利用する。固有振動数が同じ2つの振動子の一方(電力供給部174に相当)を振動させた場合に、他方(電力受取部278に相当)の振動子に小さな振動が伝達されるだけで、共鳴現象により大きく揺れ始める現象を利用するのである。
【0174】
電場での共鳴現象を利用する方式の場合は、電力を無線で供給する電力供給部174(送電側)と、電力供給部174より無線で電力を受け取る電力受取部278(受電側)の双方には、誘電体を配置し、両者間で電場の共鳴現象が発生するようにする。アンテナには、誘電率が数10〜100超で(一般的なものより非常に高い)、誘電損失ができるだけ小さい誘電体を使用することと、特定の振動モードをアンテナに励起させることが肝要となる。たとえば、円板のアンテナを使用する場合、円板の周りの振動モードがm=2または3のとき結合が最も強い。
【0175】
磁場での共鳴現象を利用する方式の場合は、電力を無線で供給する電力供給部174(送電側)と、電力供給部174より無線で電力を受け取る電力受取部278(受電側)の双方には、LC共振器を配置し、両者間で磁場の共鳴現象が発生するようにする。たとえば、ループ型のアンテナの一部をコンデンサの形状にし、ループ白身のインダクタンスと合わせてLC共振器にする。Q値(共鳴の強さ)を大きくすることができ、電力が共鳴用アンテナ以外に吸収される割合が小さい。そのため、磁場を利用する方式である点で電磁誘導方式と似通ってはいるが、電力供給部174と電力受取部278の間を電磁誘導方式よりも離した状態で数kWの伝送も可能である点で全く異なる方式である。
【0176】
共鳴方式の場合は、電場、磁場の何れの共鳴現象を利用するかに拘らず、電磁場の波長λとアンテナとなる部品の寸法(電場では誘電体の円板の半径、磁場ではループの半径)、送電可能な最大距離(アンテナ間距離D)がおおよそ比例する。換言すると、振動させる周波数と同じ周波数の電磁波の波長λ、アンテナ間距離D、アンテナ半径rの比をほぼ一定に保つことが肝要となる。また、近接場での共鳴現象であるため、波長λはアンテナ間距離Dよりも十分に大きくし、アンテナ半径rはアンテナ間距離Dより小さ過ぎないようにすることが肝要となる。
【0177】
電場の共鳴方式は、磁場よりも送電距離が短く、発熱が少ないが、障害物があると電磁波による損失が大きくなる。磁場の共鳴方式は、人間などの誘電体の静電容量の影響を受けず、電磁波による損失が少なく、電場よりも送電距離が長い。電場の共鳴方式の場合は、ミリ波帯よりも低周波を使用する場合は回路基板側で使用している信号との干渉(EMI)を考慮する必要があるし、また、ミリ波帯を使用する場合は信号に関してのミリ波信号伝送との間での干渉を考慮する必要がある。磁場の共鳴方式の場合は、基本的に電磁波でのエネルギ流出は少ないし、波長もミリ波帯と異なるようにできるので、回路基板側やミリ波信号伝送との間での干渉問題から解放される。
【0178】
基本的には、電磁誘導方式、電波受信方式、共鳴方式の何れも本実施形態に採用し得るのであるが、各方式の特徴を考慮して、位置ズレや既存回路への干渉や効率などを考慮した場合、磁場の共鳴現象を利用する共鳴方式を採用するのがよい。たとえば、電磁誘導方式の電力供給効率は、1次コイルの中心軸と2次コイルの中心軸が一致している場合が最大であり、軸ズレがあると効率が低下する。換言すると、1次コイルと2コイルの位置合わせ精度が電力伝送効率に大きく影響を与える。位置ズレを考えた場合、電磁誘導方式の採用は難点がある。電波受信方式や電場による共鳴方式ではEMI(干渉)を考慮する必要がある。その点、磁場による共鳴方式では、これらの問題から解放される。
【0179】
なお、電磁誘導方式、電波受信方式、共鳴方式の各方式については、たとえば、下記の参考文献1,2を参照するとよい。
参照文献1:“Cover Story 特集 ついに電源もワイヤレス”、日経エレクトロニクス2007年3月26日号、日経BP社、p98−113
参照文献2:“論文 電力を無線伝送する技術を開発,実験で60Wの電球を点灯”、日経エレクトロニクス2007年12月3日号、日経BP社、p117−128
【0180】
<無線伝送システム:第7実施形態>
図8は、第7実施形態の無線伝送システムにおける信号インタフェースを説明する図である。ここで、図8は、第7実施形態の無線伝送システム1Gの信号インタフェースを機能構成面から説明する図であり、第5実施形態に対する変形例である。
【0181】
第7実施形態は、第5実施形態の仕組みをベースにして、さらに、パワー伝送を要する電源に関しても無線で伝送する点に特徴を有する。つまり、メモリカード201Gが使用する電力を無線により電子機器101Gから供給する仕組みを追加している。
【0182】
電源、つまり電力を無線で伝送する仕組みは、第6実施形態で説明したように、電磁誘導方式、電波受信方式、共鳴方式の何れかを採用する。ここでも、第6実施形態と同様に、磁場による共鳴方式を採用した構成で示している。
【0183】
電子機器101Gは、メモリカード201Gにて使用される電力を無線で供給する電力供給部174を備える。電力供給部174としては、磁場による共鳴方式を採用するべく、LC共振器を有する。
【0184】
メモリカード201Gは、電子機器101G側から無線で伝送されてきた電力を受け取る電力受取部278を備える。電力受取部278としては、磁場による共鳴方式を採用するべく、LC共振器を有する。
【0185】
機能構成的には、電力伝送の系統と信号伝送の系統を備える点が第5実施形態と異なるだけであるので、その他の点については説明を割愛する。この方法を用いれば、電気配線や端子を介したインタフェースが完全に不要となり、ケーブルレスのシステム構成にできる。メモリカード201Gに電池を備える場合の寿命や交換の問題から解放される。
【0186】
<ミリ波伝送構造:第1例>
図9は、メモリカード201とスロット構造4を持つ電子機器101との(以下「本実施形態の」と記す)ミリ波伝送構造の第1例を説明する図である。第1例は、第1実施形態の無線伝送システム1Aの機能構成を実現するミリ波伝送構造の適用例である。
【0187】
電子機器101Aとメモリカード201Aの間のスロット構造4Aは、電子機器101Aに対して、メモリカード201Aの着脱を行なう構造であり、電子機器101Aとメモリカード201Aの固定手段の機能を持つ。
【0188】
図9(2)に示すように、スロット構造4Aは、電子機器101A側の筺体190に、メモリカード201A(その筐体290)を開口部192から挿抜して固定可能な構成となっている。筺体190の開口部192とは反対側(外側)の一面に基板102が支持材191により取り付けられている。
【0189】
スロット構造4Aのメモリカード201Aの端子との接触位置には受け側のコネクタが設けられる。ミリ波伝送に置き換えた信号についてはコネクタ端子(コネクタピン)が不要である。
【0190】
なお、電子機器101A側(スロット構造4A)において、ミリ波伝送に置き換えた信号についてもコネクタ端子を設けておくことが考えられる。この場合、スロット構造4Aに挿入されたメモリカード201が第1例のミリ波伝送構造が適用されていない従前のものの場合には、従前のように電気配線により信号伝送を行なえる。
【0191】
電子機器101Aとメモリカード201Aは、嵌合構造として、凹凸の形状構成を具備する。ここでは、図9(2)に示すように、電子機器101Aの筺体190に円筒状の凸形状構成198A(出っ張り)を設け、図9(1)に示すように、メモリカード201Aの筐体290に円筒状の凹形状構成298A(窪み)を設けている。つまり、図9(3)に示すように、筺体190において、メモリカード201Aの挿入時に、凹形状構成298Aの位置に対応する部分に凸形状構成198Aが設けられている。
【0192】
このような構成により、スロット構造4Aに対するメモリカード201Aの装着時に、メモリカード201Aの固定と位置合せを同時に行なうようにしている。なお、凹凸形状の嵌合にガタがあっても、アンテナ136,236が遮蔽材(囲い:導体144)の外に出ないような大きさに設定すればよく、凹凸形状構成の平面形状は、図のように円形であることは必須ではなく、三角や四角など任意である。
【0193】
たとえば、メモリカード201Aの構造例(平面透視および断面透視)が図9(1)に示されている。メモリカード201Aは、基板202の一方の面上に信号生成部207(ミリ波信号変換部)を具備する半導体チップ203を有する。半導体チップ203には、ミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)と結合するためのミリ波送受信端子232が設けられている。基板202の一方の面上には、ミリ波送受信端子232と接続された基板パターンによるミリ波伝送路234とアンテナ236(図ではパッチアンテナ)が形成されている。ミリ波送受信端子232、ミリ波伝送路234、およびアンテナ236で、伝送路結合部208が構成されている。
【0194】
パッチアンテナは、法線方向の指向性が鋭くないので、アンテナ136,236はオーバーラップ部分の面積がある程度大きくとれていれば多少ズレて配置されても、受信感度には影響を受けない。ミリ波通信においては、ミリ波の波長が数mmと短いため、アンテナも小型で数mm角オーダーとなり、小型のメモリカード201内のような狭い場所にも簡単に設置が可能である。パッチアンテナの場合、基板中での波長をλgとした場合、一辺の長さはλg/2と表される。たとえば、比誘電率が3.5の基板102,202で、60GHzのミリ波信号を使用する場合、λgは2.7mm程度になり、パッチアンテナの一辺は1.4mm程度になる。
【0195】
なお、アンテナ136,236を半導体チップ103,203内に形成する場合は、たとえば逆F型など、さらに小型のアンテナが求められる。因みに、逆F型アンテナは、無指向性であり、換言すると、基板の厚さ(法線)方向だけではなく平面方向にも指向性を持つので、ミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)との結合をとる伝送路結合部108,208に反射板を設けるなどの工夫をすることで伝送効率を向上させるのがよい。
【0196】
筐体290は、基板202を保護するための覆いであり、少なくとも凹形状構成298Aの部分は、ミリ波信号伝送可能な比誘電率を有した誘電体素材を含む誘電体樹脂で構成される。凹形状構成298Aの誘電体素材には、たとえば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系などからなる部材が使用される。筺体290の少なくとも凹形状構成298Aの部分の誘電体素材もミリ波誘電体伝送路を構成するようになる。
【0197】
筐体290において、アンテナ236と同一面に凹形状構成298Aが形成される。凹形状構成298Aは、スロット構造4Aに対するメモリカード201Aの固定を行なうとともに、スロット構造4Aが具備する誘電体伝送路9Aとのミリ波伝送の結合に対する位置合せを行なう。
【0198】
基板202の一辺には、筐体290の決められた箇所で電子機器101Aと接続するための接続端子280(信号ピン)が、筐体290の決められた位置に設けられている。第1実施形態の場合、メモリカード201Aは、低速・小容量の信号用や電源供給用に、従前の端子構造を一部に備えることになる。クロック信号や複数本のデータ信号は、ミリ波での信号伝送の対象となるので、図中に点線で示すように、端子を取り外している。
【0199】
電子機器101Aの構造例(平面透視および断面透視)が図9(2)に示されている。電子機器101Aは、基板102の一方(開口部192側)の面上に信号生成部107(ミリ波信号変換部)を具備する半導体チップ103を有する。半導体チップ103には、ミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)と結合するためのミリ波送受信端子132が設けられている。基板102の一方の面上には、ミリ波送受信端子132と接続された基板パターンによるミリ波伝送路134とアンテナ136(図ではパッチアンテナ)が形成されている。ミリ波送受信端子132、ミリ波伝送路134、およびアンテナ136で、伝送路結合部108が構成されている。
【0200】
筺体190には、スロット構造4Aとして、メモリカード201Aが挿抜される開口部192が形成されている。
【0201】
筺体190には、メモリカード201Aが開口部192に挿入されたときに、凹形状構成298Aの位置に対応する部分に、誘電体伝送路9Aを構成するように凸形状構成198Aが形成されている。本例では、凸形状構成198A(誘電体伝送路9A)は、誘電体導波管142を筒型の導体144内に形成することで構成されており、伝送路結合部108のアンテナ136に対して誘電体導波管142の中心が一致するように固定的に配置される。凹凸の嵌合構造に、アンテナ136,236間の結合を強化する構造として誘電体導波管142を設けている。なお、誘電体導波管142(誘電体伝送路9A)を設けることは必須ではなく、筺体190,290の誘電体素材のままでミリ波信号伝送路9が構成されるようにしておいてもよい。
【0202】
誘電体導波管142の径、長さ、素材などのパラメータは、ミリ波信号を効率よく伝送可能なように決定される。素材としては、前述のように、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、シリコーン系、ポリイミド系、シアノアクリレート樹脂系からなるものなど、比誘電率が2〜10(好ましくは3〜6)程度、誘電正接が0.00001〜0.01(好ましくは0.00001〜0.001)程度の誘電体素材を用いるのがよい。ミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めることで、伝送効率の向上を図ることができ、ミリ波の信号伝送が不都合なく行なえる。素材を適正に選択することで、導体144を設けなくてもよい場合もある。
【0203】
導体144の径は、メモリカード201Aの凹形状構成298Aの径に対応するように構成される。導体144は、誘電体導波管142内に伝送されるミリ波の外部放射を抑える遮蔽材としての効果もある。
【0204】
電子機器101Aのスロット構造4A(特に開口部192)にメモリカード201Aが挿入されたときの構造例(断面透視)が図9(3)に示されている。図示のように、スロット構造4Aの筺体190は開口部192からのメモリカード201Aの挿入に対し、凸形状構成198A(誘電体伝送路9A)と凹形状構成298Aが凹凸状に接触するようなメカ構造を有する。凹凸構造が嵌合するときに、アンテナ136,236が対向するとともに、その間にミリ波信号伝送路9として誘電体伝送路9Aが配置される。
【0205】
以上の構成によって、メモリカード201Aとスロット構造4Aの固定が行なわれる。また、アンテナ136,236の間で、ミリ波信号を効率よく伝送するように、ミリ波伝送の結合に対する誘電体伝送路9Aの位置合わせが実現される。
【0206】
つまり、電子機器101Aにおいては、凸形状構成198Aの部分に伝送路結合部108(特にアンテナ結合部)が配置され、メモリカード201Aにおいては、凹形状構成298Aの部分に伝送路結合部208(特にアンテナ結合部)が配置されるようにしている。凹凸が合致したときに、伝送路結合部108,208のミリ波伝送特性が高くなるように配置するのである。
【0207】
このような構成により、スロット構造4Aに対するメモリカード201Aの装着時に、メモリカード201Aの固定とミリ波信号伝送に対する位置合せを同時に行なうことが可能となる。メモリカード201Aにおいては、誘電体伝送路9Aとアンテナ236の間に筐体290を挟むが、凹形状構成298Aの部分の素材が誘電体素材であるのでミリ波の伝送に大きな影響を与えるものではない。この点は、誘電体導波管142を凸形状構成198Aの部分に設けずに筺体190の誘電体素材のままとしておいた場合でも同様で、各筐体190,290の誘電体素材によりアンテナ136,236間にミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)が構成される。
【0208】
このように、第1例のミリ波伝送構造によれば、メモリカード201Aがスロット構造4Aに装着されたときに、伝送路結合部108,208(特にアンテナ136,236)間に誘電体導波管142を具備する誘電体伝送路9Aを介在させる構成を採用している。ミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めることで高速信号伝送の効率向上を図ることができる。
【0209】
考え方としては、カード装着用のスロット構造4Aの嵌合構造(凸形状構成198,凹形状構成298)の部分以外の所でアンテナ136とアンテナ236を対向させるようにミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)を形成することもできる。しかしながらこの場合は位置ズレによる影響がある。それに対して、カード装着用のスロット構造4Aの嵌合構造にミリ波信号伝送路9を設けることで位置ズレによる影響を確実に排除できる。
【0210】
<ミリ波伝送構造:第2例>
図10は、本実施形態のミリ波伝送構造の第2例を説明する図である。第2例は、第2実施形態の無線伝送システム1Bの機能構成を実現するミリ波伝送構造の適用例である。
【0211】
第2実施形態の無線伝送システム1Bでは、ミリ波信号伝送路9を自由空間伝送路9Bにしているので、ミリ波伝送構造も、自由空間伝送路9Bに対応する対処がなされている。具体的には、メモリカード201Bは、図10(1)に示すように、第1例のミリ波伝送構造と同様のものである。
【0212】
これに対して、電子機器101Bは、図10(2)に示すように、凸形状構成198Aが、筺体190の一部をなす凸形状構成198Bに変形されている。凸形状構成198B(自由空間伝送路9B)は、筺体190の凹形状構成298Bと対応する位置に円筒状の出っ張りを設けることで形成すればよい。凸形状構成198Bの凹形状構成298Bと対応する部分の厚さは、筺体190のその他の部分の厚さと同程度にするのがよい。出っ張り部分の周囲に導体144を設けると後述の第7例の中空導波路と似通った構造になる。何れの場合でも、伝送路結合部108のアンテナ136に対して円筒状の出っ張りの内径の中心が一致するように配置される。その他は第1例のミリ波伝送構造と同じである。
【0213】
筺体190は、少なくとも凸形状構成198Bの部分が、ミリ波信号伝送可能な比誘電率を有した誘電体素材を含む誘電体樹脂で構成される。凸形状構成198Bの誘電体素材には、たとえば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系などからなる部材が使用される。筺体190の少なくとも凸形状構成198Bの部分の誘電体素材もミリ波誘電体伝送路を構成するようになる。凸形状構成198Bと凹形状構成298Bとでミリ波信号に対する自由空間伝送路9Bが形成される。
【0214】
このような構成により、スロット構造4Bに対するメモリカード201Bの装着時に、メモリカード201Bの固定とミリ波信号伝送に対する位置合せを同時に行なうことが可能となる。アンテナ136,236の間に筺体190,290を挟むが、凸形状構成198Bおよび凹形状構成298Bの部分の素材がともに誘電体であるのでミリ波の伝送に大きな影響を与えるものではない。図中に点線で示すように、凸形状構成198Bの凹形状構成298Bと対応する部分の厚さを筺体190のその他の部分の厚さと同程度にすれば、その影響をより確実に小さくできる。
【0215】
<ミリ波伝送構造:第3例>
図11は、本実施形態のミリ波伝送構造の第3例を説明する図である。第3例は、第5実施形態の無線伝送システム1Eの機能構成を実現するミリ波伝送構造の適用例である。
【0216】
第5実施形態の無線伝送システム1Eでは、複数組の伝送路結合部108,208の対を用いることで、複数系統のミリ波信号伝送路9を備えるようにしているので、ミリ波伝送構造も、複数系統のミリ波信号伝送路9に対応する対処がなされている。スロット構造4E_1およびメモリカード201E_1において、ミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)、ミリ波送受信端子232、ミリ波伝送路234、アンテナ136,236を複数系統有する。スロット構造4E_1およびメモリカード201E_1において、アンテナ136,236は同一の基板面に配置され、水平に並べられる。これにより、送受信に対するミリ波伝送を独立して行なう全二重の伝送方式を実現する。
【0217】
たとえば、電子機器101E_1の構造例(平面透視および断面透視)が図11(2)に示されている。半導体チップ103には、ミリ波信号伝送路9_1,9_2(誘電体伝送路9A_1,9A_2)と結合するためのミリ波送受信端子132_1,132_2が離れた位置に設けられている。基板102の一方の面上には、ミリ波送受信端子132_1,132_2と接続されたミリ波伝送路134_1,134_2とアンテナ136_1,136_2が形成されている。ミリ波送受信端子132_1、ミリ波伝送路134_1、およびアンテナ136_1で、伝送路結合部108_1が構成され、ミリ波送受信端子132_2、ミリ波伝送路134_2、およびアンテナ136_2で、伝送路結合部108_2が構成されている。
【0218】
また、筺体190には、凸形状構成198E_1として、アンテナ136_1,136_2の配置に対応して、2系統の円筒状の誘電体導波管142_1,142_2が平行して配置される。2系統の誘電体導波管142_1,142_2は、一体の導体144内に円筒状に形成され、誘電体伝送路9A_1,9A_2を構成する。導体144により、2系統の誘電体伝送路9A_1,9A_2間のミリ波干渉を防ぐ。
【0219】
メモリカード201E_1の構造例(平面透視および断面透視)が図11(1)に示されている。基板202上の半導体チップ203には、複数(図では2)系統のミリ波信号伝送路9_1,9_2(誘電体伝送路9A_1,9A_2)と結合するためのミリ波送受信子232_1,232_2が離れた位置に設けられている。基板202の一方の面上には、ミリ波送受信端子232_1,232_2と接続されたミリ波伝送路234_1,234_2とアンテナ236_1,236_2が形成されている。ミリ波送受信端子232_1、ミリ波伝送路234_1、およびアンテナ236_1で、伝送路結合部208_1が構成され、ミリ波送受信端子232_2、ミリ波伝送路234_2、およびアンテナ236_2で、伝送路結合部208_2が構成されている。
【0220】
メモリカード201E_1では、電子機器101E_1側の凸形状構成198E_1(導体144)の断面形状に対応した凹形状構成298E_1が筐体290に構成される。凹形状構成298E_1は、第1例のミリ波伝送構造と同様に、スロット構造4E_1に対するメモリカード201E_1の固定を行なうとともに、スロット構造4E_1が具備する誘電体伝送路9A_1,9A_2とのミリ波伝送の結合に対する位置合せを行なう。
【0221】
ここでは、ミリ波信号伝送路9_1,9_2の双方を誘電体伝送路9Aにしているが、たとえば、ミリ波信号伝送路9_1,9_2の何れか一方を自由空間伝送路や中空導波路にしてもよいし、双方を自由空間伝送路や中空導波路にしてもよい。
【0222】
第3例のミリ波伝送構造によれば、第5実施形態の無線伝送システム1Eを実現できるので、空間分割多重によって、同一周波数帯域を同一時間に使用することができるため、通信速度を増加できるし、信号伝送を同時に行なう双方向通信の同時性を担保できる。複数系統のミリ波信号伝送路9_1,9_2(誘電体伝送路9A_1,9A_2)を構成することにより、全二重の伝送が可能となり、データ送受信の効率化を図ることができる。
【0223】
<ミリ波伝送構造:第4例>
図12は、本実施形態のミリ波伝送構造の第4例を説明する図である。第4例は、第3例と同様に、第5実施形態の無線伝送システム1Eの機能構成を実現するミリ波伝送構造の適用例である。
【0224】
第3例との違いは、複数系統のミリ波信号伝送路が異なる基板面に配置される点である。詳しくは、メモリカード201E_2においてアンテナ236は基板202の各面に対向して配置され、それに対応してスロット構造4E_2は、アンテナ136が開口部192の両側の内面に設けられた各別の基板102上に各別に配置される。第4例でも、送受信に対するミリ波伝送を独立して行なう全二重の伝送方式を実現する。
【0225】
たとえば、メモリカード201E_2の構造例(平面透視および断面透視)が図12(1)に示されている。半導体チップ203には、ミリ波信号伝送路9_1,9_2(誘電体伝送路9A_1,9A_2)と結合するためのミリ波送受信端子232_1,232_2が基板202の両面で概ね対向するように設けられている。平面透視では分かり難いが、断面透視から理解されるように、半導体チップ203とミリ波送受信端子232_2はスルーホールパターン231で接続される。
【0226】
基板202の一方(半導体チップ203が配置されている側)の面上には、ミリ波送受信端子232_1と接続されたミリ波伝送路234_1とアンテナ236_1が形成されている。基板202の他方の面上には、ミリ波送受信端子232_2と接続されたミリ波伝送路234_2とアンテナ236_2が形成されている。平面透視では分かり難いが、断面透視から理解されるように、ミリ波伝送路234_1,234_2およびアンテナ236_1,236_2もそれぞれ基板202の表裏の概ね対向する位置に配置されている。
【0227】
基板202がたとえばガラスエポキシ樹脂製の場合、当該基板も誘電体でありミリ波が伝送される性質を持ち表裏で干渉し合うことが想定される。このような場合には、基板202のミリ波伝送路234_1,234_2およびアンテナ236_1,236_2に対応する内層には、たとえば接地層を配置するなどして表裏のミリ波干渉を防ぐのがよい。つまり、嵌合構造に、アンテナ素子間のアイソレーションを強化する構造を設ける。
【0228】
ミリ波送受信端子232_1、ミリ波伝送路234_1、およびアンテナ236_1で、伝送路結合部208_1が構成され、ミリ波送受信端子232_2、ミリ波伝送路234_2、およびアンテナ236_2で、伝送路結合部208_2が構成されている。
【0229】
筐体290のアンテナ136_1と対応する面側の位置に凹形状構成298E_2a が形成され、また、筐体290のアンテナ136_2と対応する面側の位置に凹形状構成298E_2b が形成される。つまり、筐体290の表裏のアンテナ236_1,236_2と対応する位置に凹形状構成298E_2a ,298E_2b が形成される。
【0230】
電子機器101E_2の構造例(平面透視および断面透視)が図12(2)に示されている。第4例では、メモリカード201E_2の表裏から各別に発せられるミリ波信号を受信するように、筺体190の開口部192とは反対側(外側)の両側の面にそれぞれ基板102_1,102_2が支持材191により取り付けられる。
【0231】
基板102_1の一方(開口部192側)の面上に半導体チップ103_1を有する。半導体チップ103_1には、誘電体伝送路9A_1と結合するためのミリ波送受信端子132_1が設けられている。基板102_1の一方の面上には、ミリ波送受信端子132_1と接続されたミリ波伝送路134_1とアンテナ136_1が形成されている。ミリ波送受信端子132_1、ミリ波伝送路134_1、およびアンテナ136_1で、伝送路結合部108_1が構成されている。
【0232】
基板102_2の一方(開口部192側)の面上に半導体チップ103_2を有する。半導体チップ103_2には、誘電体伝送路9A_2と結合するためのミリ波送受信端子132_2が設けられている。基板102_2の一方の面上には、ミリ波送受信端子132_2と接続されたミリ波伝送路134_2とアンテナ136_2が形成されている。ミリ波送受信端子132_2、ミリ波伝送路134_2、およびアンテナ136_2で、伝送路結合部108_2が構成されている。
【0233】
また、筺体190には、アンテナ136_1の配置位置に対応する部分に、誘電体伝送路9A_1を構成するように凸形状構成198E_2a が形成され、また、アンテナ136_2の配置位置に対応する部分に、誘電体伝送路9A_2を構成するように凸形状構成198E_2b が形成されている。凸形状構成198E_2a ,198E_2b (誘電体伝送路9A_1,9A_2)はそれぞれ、誘電体導波管142_1,142_2を筒型の導体144_1,144_2内に形成することで構成されており、伝送路結合部108_1,108_2のアンテナ136_1,136_2に対して誘電体導波管142_1,142_2の中心が一致するように固定的に配置される。
【0234】
メモリカード201E_2の凹形状構成298E_2a は電子機器101E_2側の凸形状構成198E_2a (導体144_1)の断面形状に対応するように構成される。凹形状構成298E_2a は、スロット構造4E_2に対するメモリカード201E_2の固定を行なうとともに、スロット構造4E_2が具備する誘電体伝送路9A_1とのミリ波伝送の結合に対する位置合せを行なう。
【0235】
メモリカード201E_2の凹形状構成298E_2b は電子機器101E_2側の凸形状構成198E_2a (導体144_2)の断面形状に対応するように構成される。凹形状構成298E_2b は、スロット構造4E_2に対するメモリカード201E_2の固定を行なうとともに、スロット構造4E_2が具備する誘電体伝送路9A_2とのミリ波伝送の結合に対する位置合せを行なう。
【0236】
ここでは、ミリ波信号伝送路9_1,9_2の双方を誘電体伝送路9Aにしているが、たとえば、ミリ波信号伝送路9_1,9_2の何れか一方を自由空間伝送路や中空導波路にしてもよいし、双方を自由空間伝送路や中空導波路にしてもよい。
【0237】
第4例のミリ波伝送構造でも、第5実施形態の無線伝送システム1Eを実現できるので、空間分割多重によって、同一周波数帯域を同一時間に使用することができるため、通信速度を増加できるし、信号伝送を同時に行なう双方向通信の同時性を担保できる。複数系統の誘電体伝送路9Aを構成することにより、全二重の伝送が可能となり、データ送受信の効率化を図ることができる。第4例は、レイアウト上の制約から基板の同一面に複数のアンテナを配置するスペースを確保できないときに有効な手法である。
【0238】
<ミリ波伝送構造:第5例>
図13は、本実施形態のミリ波伝送構造の第5例を説明する図である。第5例は、電子機器101J内にメモリカード201Jを収容した状態において、電子機器101J側のアンテナ136とメモリカード201J側のアンテナ236が、両者のオーバーラップ部分が全くない位に平面的に大きくズレて配置される場合である。ここでは、第1例に対する変形例で示すが、第2〜第4例についても、第5例を同様に適用し得る。
【0239】
たとえば、メモリカード201J側のアンテナ236は凹形状構成298Jの位置に配置されるが、電子機器101J側のアンテナ136は凸形状構成198Jの位置に配置されない場合で説明する。メモリカード201Jの構造例(平面透視および断面透視)が図13(1)に示されているが、第1例と全く同じである。
【0240】
電子機器101Jの構造例(平面透視および断面透視)が図13(2)に示されており、第1例とはミリ波信号伝送路9が異なる。電子機器101Jは、基板102の一方の面上に設けられた半導体チップ103には、ミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9J)と結合するためのミリ波送受信端子132が設けられている。基板102の一方(開口部192側)の面上には、ミリ波送受信端子132と接続されたミリ波伝送路134とアンテナ136が形成されている。ミリ波送受信端子132、ミリ波伝送路134、およびアンテナ136で、伝送路結合部108が構成されている。
【0241】
筺体190には、メモリカード201Aが開口部192に挿入されたときに、凹形状構成298Jの位置に対応する部分に、誘電体伝送路9Jの一部を構成するように凸形状構成198Jが形成されている。
【0242】
電子機器101Jのスロット構造4J(特に開口部192)にメモリカード201Jが挿入されたときの構造例(断面透視)が図13(3)に示されている。図示のように、スロット構造4Jの筺体190は開口部192からのメモリカード201Jの挿入に対し、凸形状構成198Jと凹形状構成298Jが凹凸状に接触するようなメカ構造を有する。
【0243】
ここで、第5例では、図13(2)および図13(3)に示すように、第1例とは異なり、凸形状構成198Jの部分にアンテナ136が配置されず、そこからアンテナ136,236がオーバーラップしない位にズレた位置にアンテナ136が配置されている。凸形状構成198Jの部分からアンテナ136が配置されている部分までを繋ぐように誘電体伝送路9Jが基板102の面に沿って筺体190の壁面に設けられている。
【0244】
たとえば、誘電体伝送路9Jは、筺体190に設けられた領域画定用の貫通部(または溝部)を設ける。貫通部は筺体190の表面に沿って設け、メモリカード201Jをスロット構造4Jにした状態において、アンテナ136とアンテナ236の実装領域の間を結ぶように加工する。そして、貫通部(または溝部)に筺体190の誘電体素材よりもミリ波信号を効率よく伝送可能な(ミリ波信号を伝送し易い)誘電体素材143を充填する。この場合にも第1例のように誘電体伝送路9Jの周囲を導体144で囲んでもよい。または、筺体190の誘電体素材のままで、メモリカード201Jをスロット構造4Jにした状態において、アンテナ136とアンテナ236の実装領域の間の周囲を導体144で囲むだけにしてもよい。これらの構造によって、誘電体導波管に類似した誘電体伝送路9Jを構成できるようになる。
【0245】
なお、基板102の材質を選択することで、基板102にミリ波信号伝送路9に沿ってガイド(たとえばバイアホール群で形成する)を設けることで、基板102の誘電体素材そのもので誘電体伝送路9Aを形成することもできる。たとえば、比帯域(=信号帯域/動作中心周波数)が10%〜20%程度であれば、ミリ波信号伝送路9は、共振構造などを利用しても容易に実現できる場合が多い。一定範囲の比誘電率および誘電正接を有した誘電体素材を使用し、その比誘電率および誘電正接tanδを有した誘電体素材にすることで、ミリ波信号伝送路9を損失のある誘電体伝送路9Aとして構成できる。
【0246】
たとえば、搬送周波数が増加してもあまり伝送損失が増加しない誘電体導波管線路は、反射波が増加する傾向にある。この反射波を低減しようとすると誘電体導波管線路の構造が複雑化する。ミリ波信号を高速に伝送する場合、反射波が伝送エラーの原因になり得る。一方、ミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)として、損失(誘電正接)が比較的大きい(たとえばtanδ≧0.01)ものを使用することで、その問題を解消できる。損失が大きい誘電体素材は反射も減衰する。しかも、基板102に設けるガイドにより誘電体伝送路9Aのある局所的な範囲のみにより高速通信処理が可能となる。一定範囲の比誘電率およびtanδ(たとえば0.01以上)を有する誘電体素材の局所的な範囲以外は、減衰が大きくなり、誘電体素材以外への妨害を大きく減らすことができる。
【0247】
アンテナ構造としては、たとえば、ロッドアンテナなどのように基板102,202に対して平面方向に指向性を有するものを使用するのが好ましい。また、基板102,202に対して厚み方向に指向性を有するものを使用する場合には、好ましくは、基板102,202に対して平面方向に進行方向を変化させる仕組みを講じるのがよい。
【0248】
たとえばアンテナ136,236をパッチアンテナにする場合、好ましくは、パッチアンテナとの対応として、筺体190の壁面に設けた誘電体伝送路9Jを構成する誘電体素材143の送信側と受信側に反射器194_1,194_2を各々実装する(埋め込む)のがよい。たとえば、電子機器101J側のアンテナ136(パッチアンテナ)から輻射した電磁波が先ず筺体190(誘電体素材143)の厚み方向に進行し、その後、送信側の反射器194_1で面方向かつ誘電体伝送路9J(誘電体素材143)の凸形状構成198Jの方向に反射する。これにより、電磁波が筺体190の平面方向に進行し、受信側の反射器194_2に到達すると凸形状構成198の厚み方向に反射して、メモリカード201Jのアンテナ236(パッチアンテナ)に到達する。メモリカード201J側を送信側とする場合は、これと逆の経路でミリ波が伝達される。
【0249】
このような構成により、スロット構造4Jに対するメモリカード201Jの装着時に、メモリカード201Jの固定とミリ波信号伝送に対する位置合せを同時に行なうことが可能となる。第5例のミリ波伝送構造でも、伝送路結合部108,208(特にアンテナ136,236)間に誘電体導波管を構成する誘電体伝送路9Jを介在させる構成を採用している。アンテナ136,236が対向して配置されない場合でも、ミリ波信号を誘電体伝送路9Jに閉じ込めることで高速信号伝送の効率向上を図ることができる。
【0250】
アンテナ236は凹形状構成298Jからズレずに配置されアンテナ136が凸形状構成198Jからズレて配置される場合で説明したが、逆のズレ方の配置の場合や、双方が凹凸形状構成に対してズレて配置される場合でも、第5例の手法を同様に適用できる。
【0251】
第5例は、スロット構造4Jに対するメモリカード201Jの装着時において、レイアウト上の制約から、位置固定用の凸形状構成198J、凹形状構成298の位置にアンテナ136,236を配置するスペースを確保できないときに有効な手法である。
【0252】
<ミリ波伝送構造:第6例>
図14は、本実施形態のミリ波伝送構造の第6例を説明する図である。第6例は、既存の(業界標準の規格に従った)メモリカードの固定構造に第1例〜第5例のミリ波伝送構造を適用する。つまり、本実施形態のアンテナ結合部とミリ波信号伝送路との構成を、既存のメモリカードおよびスロット構造に適用されている固定構造に適用するのである。既存のメモリカード201に形成されている凹形状構成(くぼみ構造)にアンテナ結合部を構成するとともに、電子機器101側は、くぼみ構造に対応したスロット構造に誘電体伝送路を構成する。以下では、代表して第1例のミリ波伝送構造を適用する例で説明する。
【0253】
メモリカード201Kの構造例(平面透視および断面透視)が図14(1)に示されている。形状的には既存のものと同じであり、メモリカード201Kの背面には、電子機器101K側のスロット構造4Kとの固定を行なうためのほぼ半円状の凹形状構成298Kが設けられている。これに対して第1例を適用して、基板202上の凹形状構成298Kと対応する位置(真下)にアンテナ236を配置する。
【0254】
メモリカード201Kが着脱される電子機器101Kの構造例(平面透視および断面透視)が図14(2)に示されている。メモリカード201Kに対応したスロット構造4Kは、ばね構造を有している。筺体190の開口部192とは反対側(外側)の一面に基板102が支持材191により取り付けられている。
【0255】
スロット構造4Aのメモリカード201の端子との接触位置には受け側のコネクタが設けられる。第6実施形態を適用しない既存のメモリカード201そののもとの下位互換性を維持するため、既存のものと同じようにコネクタ端子を設けるようにする。ミリ波伝送に置き換えた信号についてもコネクタ端子を設けておくことで、スロット構造4Kに挿入されたメモリカード201が第6例のミリ波伝送構造が適用されていない既存のものの場合には、従前のように電気配線により信号伝送を行なえる。もちろん、既存のものとの下位互換性の維持のためのインタフェースを搭載せず、第6例のメモリカード201Kにのみ対応する、いわゆる「レガシーフリー(legacy free )にしてもよい。
【0256】
既存のものが挿入されたのか第6実施形態のメモリカード201Kが挿入されたのかの判定は、両端子の接続判定を行なう仕組みを用いればよい。たとえば、既存のメモリカード201に挿入(除去)を検出する端子が備わっている場合には通常通りその端子で検知すればよいし、そのような端子が備わっていない場合にはデータやクロックの端子について、電子機器101K(スロット構造4K)側の端子とメモリカード201側の端子の電気的な接続がとられているかを微弱電流で判定する手法を用いればよい。もちろん、両端子の接続判定はこのような手法に限らず、公知の種々の方法があり、それらを任意に採用できる。これらの点は、第1例〜第5例についても同様に適用できることである。
【0257】
スロット構造4K(開口部192)にメモリカード201Kを挿入した際に、基板102上のアンテナ236と対向する位置にアンテナ136を固定配置する。また、アンテナ136,236の間には、凹形状構成298Kと嵌合する円筒形の凸形状構成198Kを、ミリ波信号伝送路9として円筒形の誘電体伝送路9Kを構成するように形成する。
【0258】
凸形状構成198K(誘電体伝送路9K)は、筺体190の誘電体素材よりもミリ波信号を効率よく伝送可能な(ミリ波信号を伝送し易い)誘電体素材を円筒状に形成することで構成される。第1例とは異なり、誘電体素材の周囲には導体144が配置されていないが、誘電体導波管に類似した誘電体伝送路9Kを構成できるようになる。
【0259】
誘電体伝送路9Kは、メモリカード201Kのスロット構造4K(開口部192)への挿入時に、たとえば、ばね構造により、挿入方向に可動するようになっている。凹形状構成298Kと凸形状構成198K(誘電体伝送路9K)の位置が合うと、凹形状構成298Kに凸形状構成198K(誘電体伝送路9K)が嵌合するようになっている。
【0260】
電子機器101Kのスロット構造4K(特に開口部192)にメモリカード201Kが挿入されたときの凸形状構成198および凹形状構成298の部分の構造例(平面透視および断面透視)が図14(3)に示されている。図示のように、スロット構造4Kの筺体190は開口部192からのメモリカード201Kの挿入に対し、凸形状構成198K(誘電体伝送路9K)と凹形状構成298Kが凹凸状に接触するようなメカ構造を有する。凹凸構造が嵌合するときに、アンテナ136,236が対向するとともに、その間にミリ波信号伝送路9として誘電体伝送路9Kが配置される。
【0261】
以上の構成によって、メモリカード201Kとスロット構造4Kの固定が行なわれる。また、アンテナ136,236の間で、ミリ波信号を効率よく伝送するように、ミリ波伝送の結合に対する誘電体伝送路9Kの位置合わせが実現される。
【0262】
このように、第6例のミリ波伝送構造によれば、既存のメモリカード201Kの形状を変えることなく、ミリ波によるデータの伝送方式をメモリカード201Kの使用においてに実現できる。既存のメモリカードに対して形状の互換性を確保しつつ、本実施形態のミリ波通信による高速・大容量のデータ通信が実現できる。メモリカード201Kに設けられたスロット構造4Aとの固定用の凹形状構成298Kに第1例〜第5例のミリ波伝送構造に適用して、メモリカードKの固定と併せて、ミリ波信号伝送路9によりミリ波帯での高速・大容量対応のデータ通信を行なえるようになる。
【0263】
<ミリ波伝送構造:第7例>
図15は、本実施形態のミリ波伝送構造の第7例を説明する図である。第7例は、誘電体伝送路9Aを、周囲が遮蔽材で囲まれ内部が中空の中空導波路9Lに変形するものである。以下では、代表して第1例への変形例で説明する。
【0264】
メモリカード201Lの構造例(平面透視および断面透視)が図15(1)に示されているが、第1例と全く同じである。
【0265】
電子機器101Lの構造例(平面透視および断面透視)が図15(2)に示されており、第1例とは異なり、ミリ波信号伝送路9が誘電体伝送路9Aから中空導波路9Lに置き換えられている。
【0266】
凸形状構成198L(中空導波路9L)は、筒型の導体144内を空洞(中空〜状態に形成することで構成されており、伝送路結合部108のアンテナ136に対して導体144の空洞中心が一致するように固定的に配置される。
【0267】
導体144の径は、メモリカード201Lの凹形状構成298Lの径に対応するように構成される。アンテナ136,236を取り囲む形で導体144の囲いが取り付けらる。凹凸形状の嵌合にガタがあっても、アンテナ136,236が遮蔽材(導体144)の外に出ないような大きさに設定すればよく、凹凸形状構成の平面形状は、図のように円形であることは必須ではなく、三角や四角など任意である。
【0268】
このような構造の中空導波路9Lは、囲いによってミリ波が中空導波路9Lの中に閉じ込められるため、ミリ波の伝送損失が少なく効率的に伝送できる、ミリ波の外部放射を抑える、EMC対策がより楽になるなどの利点が得られる。
【0269】
なお、中空導波路9Lとしては、周囲が遮蔽材で囲まれ内部が中空の構造であればよく、ここで示したような基板上の導体144で囲いを形成する構造に限定されない。たとえば、比較的厚めの基板に穴(貫通でもよいし貫通させなくてもよい)を開けて、その穴の壁面を囲いに利用するように構成してもよい。この場合、穴の側壁は導電体で覆われていてもよいし、覆われてなくてもよい。後者の場合は、基板と空気の比誘電率の比によって、ミリ波は反射され穴の中に強く分布することになる。穴を貫通させる場合には、信号生成部107,207を収容した半導体チップ103,203の裏面にアンテナ136,236を配置する(取り付ける)とよい。穴を貫通させずに途中で止める場合は、穴の底にアンテナ136,236を設置すればよい。
【0270】
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で前記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0271】
また、前記の実施形態は、クレーム(請求項)に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。前述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組合せにより種々の発明を抽出できる。実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0272】
たとえば、前述のミリ波伝送構造の各例では、カード型の情報処理装置(カード型装置)を第1の電子機器の一例とし、本体側となる第2の電子機器に装着構造の一例としてスロット構造が設けられる例で説明したが、これらに限定されない。たとえば、カード型装置が装着される装着構造は、スロット構造であることに限定されない。また、たとえば、前述のミリ波伝送構造の各例では、カード型の情報処理装置(カード型装置)を第1の電子機器の一例として説明したが、本体側となる第2の電子機器の装着構造に装着される第1の電子機器はカード型装置に限定されない。以下、これらの変形例について説明する。
【0273】
<ミリ波伝送構造:第8例>
図16は、本実施形態のミリ波伝送構造の第8例を説明する図であり、特に、装着構造の変形例を説明するものである。電子機器101Hは、その筺体190の一部が、カードを載置する平面状の台(載置台5Hと称する)として機能するように構成されている。載置台5Hは、メモリカード201Hが装着される装着構造の一例である。その規定位置にメモリカード201Hが載置された状態が、前記の各例の「装着」の状態と同じものとなる。つまり、このような態様も、第1の電子機器(この例ではメモリカード201H)が第1の電子機器(この例では電子機器101H)の装着構造に装着されたものとなる。
【0274】
載置台5Hの下部の筺体190内には、たとえばミリ波伝送構造の第1例(図9)と同様に、半導体チップ103が収容されており、ある位置にはアンテナ136が設けられている。アンテナ136と対向する筺体190の部分には、内部の伝送路が誘電体素材で構成された誘電体伝送路9Aとし、その外部が導体144で囲まれた誘電体導波管142が設けられている。なお、誘電体導波管142(誘電体伝送路9A)を設けることは必須ではなく、筺体190の誘電体素材のままでミリ波信号伝送路9が構成されるようにしておいてもよい。これらの点は前述の他の構造例と同様である。
【0275】
筺体190には、メモリカード201Hの載置位置を規定するべく、メモリカード201Hの置かれる位置を規定する壁面が形成されるようにする。たとえば、メモリカード201Hの1つの角201aを規定するべく、載置位置の筐体190に角101aをなす2つの辺縁101b,101cが立ち上がって壁面をなしている。メモリカード201Hが載置台5Hに置かれるときにはその壁面(辺縁101b,101c)に突き当てられること(壁面突当て方式と称する)を原則とする。
【0276】
このような構成により、載置台5Hに対するメモリカード201Hの搭載(装着)時に、メモリカード201Hのミリ波信号伝送に対する位置合せ行なうことが可能となる。アンテナ136,236の間に筐体290(や190)を挟むが、誘電体素材であるのでミリ波の伝送に大きな影響を与えるものではない。
【0277】
このように、第8例のミリ波伝送構造においては、メモリカード201Hが載置台5Hの規定位置に装着されたときに、伝送路結合部108,208(特にアンテナ136,236)間に誘電体伝送路9Aを介在させる構成を採用している。ミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めることで高速信号伝送の効率向上を図ることができる。
【0278】
嵌合構造という考え方を採っていないが、壁面突当て方式により、位置ズレによる影響を載置台5Hの角101aに突き当てられるように置かれたときに、アンテナ136とアンテナ236が対向するようにしているので、位置ズレによる影響を確実に排除できる。
【0279】
図示を割愛するが、載置台5Hの下部に複数のアンテナ136を平面状に併設し、本番の信号伝送に先立ち、メモリカード201Hのアンテナ236から検査用のミリ波信号を送出し、最も受信感度の高いアンテナ136を選択するようにしてもよい。こうすることで、システム構成は若干複雑になるが、メモリカード201Hの載置台5Hへの載置位置(装着位置)を気にしなくてもよくなる。
【0280】
<ミリ波伝送構造:第9例>
図17は、本実施形態のミリ波伝送構造の第9例を説明する図であり、特に、電子機器の変形例を説明するものである。無線伝送システム1Kは、第1の電子機器の一例として携帯型の画像再生装置201Kを備えるとともに、画像再生装置201Kが搭載される第2の電子機器の一例として画像取得装置101Kを備えている。画像取得装置101Kには、第8例と同様に、画像再生装置201Kが搭載される載置台5Kが筐体190の一部に設けられている。なお、載置台5Kに代えて、第1〜第7例のようにスロット構造4にしてもよい。
【0281】
画像取得装置101Kは概ね直方体(箱形)の形状をなしており、もはやカード型とは言えない。画像取得装置101Kとしては、たとえば動画データを取得するものであればよく、たとえばデジタル記録再生装置や地上波テレビ受像機が該当する。画像再生装置201Kには、アプリケーション機能部205として、画像取得装置101K側から伝送されてくる動画データを記憶する記憶装置や、記憶装置から動画データを読み出して表示部(たとえば液晶表示装置や有機EL表示装置)にて動画を再生する機能部が設けられる。構造的には、メモリカード201を画像再生装置201Kに置き換え、電子機器101を画像取得装置101Kに置き換えたと考えればよい。
【0282】
載置台5Kの下部の筺体190内には、たとえばミリ波伝送構造の第1例(図9)と同様に、半導体チップ103が収容されており、ある位置にはアンテナ136が設けられている。アンテナ136と対向する筺体190の部分には、内部の伝送路が誘電体素材で構成された誘電体伝送路9Aとし、その外部が導体144で囲まれた誘電体導波管142が設けられている。なお、誘電体導波管142(誘電体伝送路9A)を設けることは必須ではなく、筺体190の誘電体素材のままでミリ波信号伝送路9が構成されるようにしておいてもよい。これらの点は前述の他の構造例と同様である。なお、第8例で説明したように、複数のアンテナ136を平面状に併設し、本番の信号伝送に先立ち、画像再生装置201Kのアンテナ236から検査用のミリ波信号を送出し、最も受信感度の高いアンテナ136を選択するようにしてもよい。
【0283】
載置台5Kに搭載される画像再生装置201Kの筺体290内には、たとえばミリ波伝送構造の第1例(図9)と同様に、半導体チップ203が収容されており、ある位置にはアンテナ236が設けられている。アンテナ236と対向する筺体290の部分は、誘電体素材によりミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)が構成されるようにしてある。これらの点は前述の他の構造例と同様である。
【0284】
このような構成により、載置台5Kに対する画像再生装置201Kの搭載(装着)時に、画像再生装置201Kのミリ波信号伝送に対する位置合せ行なうことが可能となる。アンテナ136,236の間に筐体190,290を挟むが、誘電体素材であるのでミリ波の伝送に大きな影響を与えるものではない。
【0285】
このように、第9例のミリ波伝送構造においては、画像再生装置201Kが載置台5Kの規定位置に装着されたときに、伝送路結合部108,208(特にアンテナ136,236)間に誘電体伝送路9Aを介在させる構成を採用している。ミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めることで高速信号伝送の効率向上を図ることができる。
【0286】
嵌合構造という考え方を採っていないが、第8例と同様の壁面突当て方式により、位置ズレによる影響を載置台5Kの角101aに突き当てられるように置かれたときに、アンテナ136とアンテナ236が対向するようにしているので、位置ズレによる影響を確実に排除できる。
【符号の説明】
【0287】
1…無線伝送システム、101…電子機器、102…基板、103…半導体チップ、104…LSI機能部、105…アプリケーション機能部、106…メモリカード制御部、107…信号生成部、108…伝送路結合部、110…送信側信号生成部、113…多重化処理部、114…パラレルシリアル変換部、115…変調部、116…周波数変換部、117…増幅部、120…受信側信号生成部、124…増幅部、125…周波数変換部、126…復調部、127…シリアルパラレル変換部、128…単一化処理部、132…ミリ波送受信端子、134…ミリ波伝送路、136…アンテナ、142…誘電体導波管、144…導体(遮蔽材)、174…電力供給部、190…筺体、192…開口部、198…凸形状構成、201…メモリカード、202…基板、203…半導体チップ、205…メモリ機能部、206…メモリ制御部、207…信号生成部、208…伝送路結合部、232…ミリ波送受信端子、234…ミリ波伝送路、236…アンテナ、278…電力受取部、290…筐体、298…凹形状構成、4…スロット構造、9…ミリ波信号伝送路、9A,9J…誘電体伝送路、9B…自由空間伝送路、9L…中空導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電子機器と前記第1の電子機器が装着される装着構造を具備した第2の電子機器を備え、
前記第1の電子機器が前記第2の電子機器の前記装着構造に装着されたときに、前記第1の電子機器と前記第2の電子機器の間でミリ波帯での情報伝送が可能なミリ波信号伝送路が形成され、
前記第1の電子機器と前記第2の電子機器の間では、伝送対象の信号をミリ波信号に変換してから、このミリ波信号を前記ミリ波信号伝送路を介して伝送する
無線伝送システム。
【請求項2】
前記ミリ波信号伝送路は、ミリ波信号を伝送路中に閉じ込めつつミリ波信号を伝送させる構造を持つ
請求項1に記載の無線伝送システム。
【請求項3】
前記ミリ波信号伝送路は、ミリ波信号を伝送可能な特性を持つ誘電体素材で構成されている誘電体伝送路である
請求項2に記載の無線伝送システム。
【請求項4】
前記誘電体素材の外周にミリ波信号の外部放射を抑える遮蔽材が設けられている
請求項3に記載の無線伝送システム。
【請求項5】
前記ミリ波信号伝送路は、伝送路を構成し、かつ、ミリ波信号の外部放射を抑える遮蔽材が前記伝送路を囲むように設けられ、前記遮蔽材の内部の前記伝送路が中空の中空導波路である
請求項2に記載の無線伝送システム。
【請求項6】
前記装着構造は、前記第1の電子機器の装着状態を嵌合構造により規定する位置規定部を有し、
前記第1の電子機器は、前記装着構造側の前記位置規定部と対応する位置規定部を有し、
前記ミリ波信号伝送路は、前記装着構造または前記第1の電子機器における前記位置規定部に形成されている
請求項1〜5の内の何れか一項に記載の無線伝送システム。
【請求項7】
前記第1の電子機器の筐体の形状は、業界標準の規格に従ったものであり、
前記第1の電子機器の前記位置規定部と前記装着構造における前記位置規定部は、前記業界標準の規格に従って形成されているものが使用される
請求項6に記載の無線伝送システム。
【請求項8】
前記第1の電子機器は、ミリ波信号を前記ミリ波信号伝送路に結合させる伝送路結合部として、前記第1の電子機器の前記位置規定部でミリ波信号を前記ミリ波信号伝送路と結合させるパッチアンテナを有し、
前記第2の電子機器は、ミリ波信号を前記ミリ波信号伝送路に結合させる伝送路結合部として、前記装着構造の前記位置規定部でミリ波信号を前記ミリ波信号伝送路と結合させるパッチアンテナを有する
請求項6または7に記載の無線伝送システム。
【請求項9】
前記第1の電子機器の前記伝送路結合部の前記パッチアンテナと前記第2の電子機器の前記伝送路結合部の前記パッチアンテナが対向し、かつ、各パッチアンテナの中心と前記ミリ波信号伝送路の中心が一致するように配置されている
請求項8に記載の無線伝送システム。
【請求項10】
前記装着構造に前記業界標準の規格に従った前記第1の電子機器が装着されたときには、前記第1の電子機器と前記第2の電子機器の間では、電気的な接続により伝送対象の信号の伝送を行なう
請求項7に記載の無線伝送システム。
【請求項11】
前記第1の電子機器と前記第2の電子機器のそれぞれは、
送受信タイミングを時分割で切り替える切替部を有し、
1系統の前記ミリ波信号伝送路を使用して半二重による双方向の伝送を行なう
請求項1〜10の内の何れか一項に記載の無線伝送システム。
【請求項12】
前記第1の電子機器と前記第2の電子機器は、
送信のミリ波信号の周波数と受信のミリ波信号の周波数を異ならせ、
1系統の前記ミリ波信号伝送路を使用して全二重による双方向の伝送を行なう
請求項1〜10の内の何れか一項に記載の無線伝送システム。
【請求項13】
前記第1の電子機器と前記第2の電子機器は、
送信のミリ波信号の周波数と受信のミリ波信号の周波数を同じにして、
送信と受信に各別の前記ミリ波信号伝送路を使用して全二重による双方向の伝送を行なう
請求項1〜10の内の何れか一項に記載の無線伝送システム。
【請求項14】
前記第1の電子機器と前記第2の電子機器は、
複数の伝送対象の信号を時分割処理により1系統に纏めて伝送を行なうための多重化処理部および単一化処理部を有する
請求項1〜13の内の何れか一項に記載の無線伝送システム。
【請求項15】
前記第1の電子機器と前記第2の電子機器は、
複数の伝送対象の信号に関してミリ波信号の周波数をそれぞれ異ならせて伝送を行なうための多重化処理部および単一化処理部を有する
請求項1〜13の内の何れか一項に記載の無線伝送システム。
【請求項16】
前記第1の電子機器と前記第2の電子機器は、
複数の伝送対象の信号に関してミリ波信号の周波数を同じにし、
前記複数の伝送対象の信号に各別の前記ミリ波信号伝送路を使用して伝送を行なう
請求項1〜13の内の何れか一項に記載の無線伝送システム。
【請求項17】
他の電子機器が装着されたとき、前記他の電子機器との間でミリ波帯での情報伝送が可能なミリ波信号伝送路を構成する装着構造と、
前記他の電子機器に送る伝送対象の信号からミリ波信号を生成する送信側の信号生成部および前記信号生成部で生成されたミリ波信号を前記ミリ波信号伝送路に結合させる送信側の伝送路結合部、
および/または、
前記ミリ波信号伝送路と結合され前記他の電子機器からのミリ波信号を受け取る受信側の伝送路結合部および前記伝送路結合部からのミリ波信号から前記伝送対象の信号を生成する受信側の信号生成部、
を備えている電子機器。
【請求項18】
前記ミリ波信号伝送路は、ミリ波信号を伝送路中に閉じ込めつつミリ波信号を伝送させる構造を持つ
請求項17に記載の電子機器。
【請求項19】
装着対象の電子機器に送る伝送対象の信号からミリ波信号を生成する送信側の信号生成部および前記信号生成部で生成されたミリ波信号をミリ波信号が伝送可能なミリ波信号伝送路に結合させる送信側の伝送路結合部、
および/または、
前記ミリ波信号伝送路と結合され前記装着対象の電子機器からのミリ波信号を受け取る受信側の伝送路結合部および前記伝送路結合部からのミリ波信号から前記伝送対象の信号を生成する受信側の信号生成部、
を備えている電子機器。
【請求項20】
筐体の形状は業界標準の規格に従ったものであり、
前記装着対象の電子機器側の装着構造の位置規定部と対応する位置規定部が前記業界標準の規格に従って設けられており、
前記伝送路結合部は、前記装着対象の電子機器の装着構造に装着されたときに、前記位置規定部でミリ波信号を前記ミリ波信号伝送路と結合させるように構成されている
請求項19に記載の電子機器。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図2A】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図6A】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−22640(P2011−22640A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164507(P2009−164507)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】