説明

無線基地局配置方法

【課題】実際に無線基地局を設置する地域の状況に応じて、多くの無線端末局と通信可能な無線基地局の設置場所を事前に推測する。
【解決手段】サービスエリア内に複数の無線基地局を配置して無線端末局と通信を行う無線通信システムの無線基地局配置方法において、各無線基地局が形成する無線セルの各地点で、周囲に存在する全ての無線基地局に対する見通しの有無を地形データおよび高さデータに基づいて計算し、少なくとも1つの無線基地局と見通しのある地点が最大になる無線基地局の位置を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サービスエリア内に複数の無線基地局を配置して無線端末局と通信を行う無線通信システムにおいて、複数の無線基地局の各無線セルでサービスエリアを隙間なく覆うための無線基地局の位置を決める無線基地局配置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信の電波伝搬は地形・建物等の影響を受けるために、無線基地局から電波が届いて通信可能な領域(無線セル)は一般に複雑な形状になる。
ここで、無線基地局と見通しがある地点は無線基地局との通信が可能であり、障害物(例えば建物)に遮られて無線基地局と見通しがない地点は無線基地局との通信ができないものとする。
【0003】
このとき、図8に示すように、起伏のない平面大地の上に高さh1の無線基地局を設置し、同じ平面大地の上に高さh2の障害物が無線基地局から距離d1,d2の位置にあるとすると(d1<d2)、同じ高さの障害物であっても無線基地局から離れるに従って無線基地局と見通しのない領域は広がる。
このため、無線基地局からの距離に応じて見通しのある領域が徐々に減少し、かつ無線セルの端(セル端)にいくに従って見通しのある領域は放射状に広がる。
この様子を図9に示す。
【0004】
また、高い障害物の数が多いほど見通しは遮られやすくなり、無線基地局から距離が遠くになるに従って無線基地局と見通しがある領域は減少する。
すなわち、図10に示すように、低層の障害物がある低層エリアよりも中高層の障害物がある中高層エリアの方が、障害物による見通しのない領域が相対的に大きくなる。
ここで、小さい円は見通し率αの境界を示し、大きい円は見通し率β(β<α)の境界を示す。
低層エリアよりも中高層エリアの方が、見通し率α,βの領域は狭くなり、かつセル端にいくに従って見通しのある領域は急激に減少する。
【0005】
以上の特性を有する無線セルであるが、サービスエリア内に複数の無線基地局が配置される場合には、無線端末局は少なくとも1つの無線基地局との間に見通しがあればよいので、等価的に見通し率が改善する。
複数の無線セルが互いに重複して配置された場合の見通し率を、少なくとも1つの無線基地局を見通せる確率とすると、k個の無線セルが重複した場合の見通し率は統計的なモデルを用い、k個の無線セルが重複した場合の見通し率=[1−(無線基地局1から見通しがない確率)・(無線基地局2から見通しがない確率)・・・(無線基地局kから見通しがない確率)]で与えられる。
【0006】
従来の無線基地局配置方法では、上式から無線セル半径と無線基地局間相互の間隔を検討し、任意の地点の見通し率が少なくとも所定値以上になるように、無線基地局間相互の距離を算出し、無線基地局を設置している。
【非特許文献1】奥村善久、進士昌明監修、「移動通信の基礎」初版、コロナ社、昭和61年10月1日発行、pp.188−201
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の無線基地局配置方法では、統計的なモデルを設定して見通し率を計算している。
この場合、実際に無線基地局を設置する地域の状況を考慮に入れることができず、無線基地局の設置場所の最適化が困難になっていた。
【0008】
本発明は、実際に無線基地局を設置する地域の状況に応じて、多くの無線端末局と通信可能な無線基地局の設置場所を事前に推測し、サービスエリア内で無線基地局と通信可能な無線端末局数を増加させることが無線基地局配置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、サービスエリア内に複数の無線基地局を配置して無線端末局と通信を行う無線通信システムの無線基地局配置方法において、各無線基地局が形成する無線セルの各地点で、周囲に存在する全ての無線基地局に対する見通しの有無を地形データおよび高さデータに基づいて、前記各地点と前記無線基地局とを結ぶ直線上に障害物が無ければ見通し有とし、障害物があれば見通し無しとして計算し、少なくとも1つの無線基地局と見通し有の地点数が最大になる無線基地局の位置を算出する。
【0010】
請求項2に記載の発明は、サービスエリア内に複数の無線基地局を配置して無線端末局と通信を行う無線通信システムの無線基地局配置方法において、各無線基地局が形成する無線セルの外周部分の各地点で、周囲に存在する全ての無線基地局に対する見通しの有無を地形データおよび高さデータに基づいて、前記各地点と前記無線基地局とを結ぶ直線上に障害物が無ければ見通し有とし、障害物があれば見通し無しとして計算し、少なくとも1つの無線基地局と見通し有の地点数が最大になる無線基地局の位置を算出する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無線基地局配置方法は、無線基地局を設置する地域の地形データおよび高さデータを用いた計算により、無線セルの各地点から少なくとも1つの無線基地局と見通しがある地点が最大になる無線基地局の位置を近似により推定することができる。
これにより、実際に無線基地局を設置する地域の特性を考慮して無線基地局の位置を最適化することができ、無線基地局と通信可能な無線端末局の数を増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の無線基地局配置方法の基本原理を示す。
ここでは、2つの無線基地局が形成する各無線セルを重ね合わせた地域において、一方の無線基地局を移動させたときに、少なくとも1つの無線基地局と見通しがある地点が増える様子を示す。
【0013】
図1(1) は、2つの無線基地局が形成する各無線セルを重ね合わせた地域において、各無線基地局(AP)から見通しのある地域が重複しており、少なくとも1つの無線基地局と見通しがある地点の割合が低い状態を示す。
図1(2) は、一方の無線基地局の位置を少し移動することにより、各無線基地局から見通しのある地域の重複を少なくし、少なくとも1つの無線基地局と見通しがある地点の割合が増加する状態を示す。
このように、無線基地局の設置場所に応じて、少なくとも1つの無線基地局と見通しがある地点の割合が異なる。
【0014】
図2は、本発明の無線基地局配置方法の第1の実施形態を示す。
まず、各無線基地局(AP)の初期位置を決める(S11)。
次に、固定の無線基地局と移動する無線基地局を決める(S12)。
次に、移動する無線基地局の設置位置候補をn個決める(S13)。
次に、移動する無線基地局の第1の設置位置において、図3に示すように各無線基地局が形成する無線セル内の各地点で、少なくとも1つの無線基地局との見通しがあるか否かを計算する(S14)。
なお、この計算では、無線基地局を配置する地域の地形データおよび高さデータを入力した計算機を用いて行われる。
【0015】
次に、移動する無線基地局を第2の設置位置にずらし、同様に各無線基地局の無線セル内の各地点で少なくとも1つの無線基地局との見通しがあるか否かを計算する(S15,S16,S14)。
この計算を無線基地局を移動させながらn回繰り返し、最後に少なくとも1つの無線基地局と見通しがある地点の割合が最大になる無線基地局の位置を選択する(S17)。
【0016】
図4は、本発明の無線基地局配置方法の第2の実施形態を示す。
まず、各無線基地局(AP)の初期位置を決める(S21)。
次に、固定の無線基地局と移動する無線基地局を決める(S22)。
次に、移動する無線基地局の設置位置候補をn個決める(S23)。
次に、移動する無線基地局の第1の設置位置において、図5に示すように各無線基地局が形成する無線セルの2つの外周線で囲まれた領域の各地点で、少なくとも1つの無線基地局との見通しがあるか否かを計算する(S24)。
【0017】
次に、移動する無線基地局を第2の設置位置にずらし、同様に各無線基地局が形成する無線セルの2つの外周線で囲まれた領域の各地点で、各地点で少なくとも1つの無線基地局との見通しがあるか否かを計算する(S25,S26,S24)。
この計算を無線基地局を移動させながらn回繰り返し、最後に少なくとも1つの無線基地局と見通しがある地点の割合が最大になる無線基地局の位置を選択する(S27)。
本実施形態では、見通しの有無を計算する領域を無線セルの外周部に限定することにより、計算時間の短縮を図ることができる。
【0018】
図6は、本発明の無線基地局配置方法の第3の実施形態を示す。
まず、各無線基地局(AP)の初期位置を決める(S31)。
次に、固定の無線基地局と移動する無線基地局を決める(S32)。
次に、移動する無線基地局の設置位置候補をn個決める(S33)。
次に、移動する無線基地局の第1の設置位置において、各無線基地局が形成する無線セル内の2地点で、少なくとも1つの無線基地局との見通しがあるか否かを計算する(S34)。
この計算方法を図6(2) に示す。
【0019】
図6(2) および図7に示すように、無線基地局を中心として円周1および円周2に向かって線を引き、円周1および円周2上にある2つの地点を決め(S41)、2地点における見通しの有無を計算する(S42) 。
この2つの地点でともに見通しがあると計算されれば、その間にある他の地点も見通しがあると推定する(S43)。
また、この2つの地点でともに見通しがないと計算されれば、その間にある他の地点も見通しがないと推定する(S44)。
また、この2つの地点の一方に見通しがあると計算されれば、その2つの地点の間隔を狭めて再計算を行う(S45)。
【0020】
次に、移動する無線基地局を第2の設置位置にずらし、同様に各無線基地局が形成する無線セル内の2地点で、少なくとも1つの無線基地局との見通しがあるか否かを計算する(S35,S36,S34)。
この計算を無線基地局を移動させながらn回繰り返し、最後に少なくとも1つの無線基地局と見通しがある地点の割合が最大になる無線基地局の位置を選択する(S37)。
本実施形態では、見通しの有無について無線セルの2地点から推定することにより、計算時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の無線基地局配置方法の基本原理を示す図。
【図2】本発明の無線基地局配置方法の第1の実施形態の処理手順を示すフローチャート。
【図3】本発明の無線基地局配置方法の第1の実施形態の計算範囲を示す図。
【図4】本発明の無線基地局配置方法の第2の実施形態の処理手順を示すフローチャート。
【図5】本発明の無線基地局配置方法の第2の実施形態の計算範囲を示す図。
【図6】本発明の無線基地局配置方法の第3の実施形態の処理手順を示すフローチャート。
【図7】本発明の無線基地局配置方法の第3の実施形態の計算範囲を示す図。
【図8】基地局からの距離と見通しの関係を示す図。
【図9】基地局からの見通し範囲を示す図。
【図10】基地局からの見通し範囲を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サービスエリア内に複数の無線基地局を配置して無線端末局と通信を行う無線通信システムの無線基地局配置方法において、
前記各無線基地局が形成する無線セルの各地点で、周囲に存在する全ての無線基地局に対する見通しの有無を地形データおよび高さデータに基づいて、前記各地点と前記無線基地局とを結ぶ直線上に障害物が無ければ見通し有とし、障害物があれば見通し無しとして計算し、少なくとも1つの無線基地局と見通し有の地点数が最大になる無線基地局の位置を算出することを特徴とする無線基地局配置方法。
【請求項2】
サービスエリア内に複数の無線基地局を配置して無線端末局と通信を行う無線通信システムの無線基地局配置方法において、
前記各無線基地局が形成する無線セルの外周部分の各地点で、周囲に存在する全ての無線基地局に対する見通しの有無を地形データおよび高さデータに基づいて、前記各地点と前記無線基地局とを結ぶ直線上に障害物が無ければ見通し有とし、障害物があれば見通し無しとして計算し、少なくとも1つの無線基地局と見通し有の地点数が最大になる無線基地局の位置を算出することを特徴とする無線基地局配置方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−191699(P2006−191699A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107159(P2006−107159)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【分割の表示】特願2003−25803(P2003−25803)の分割
【原出願日】平成15年2月3日(2003.2.3)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】