説明

無線通信システム、端末装置、中継機および無線通信方法

【課題】中継機を用いた無線通信において、消費される電力を、より一層、抑制する。
【解決手段】無線通信における中継機であるアクセスポイント2に制御部20、タイマー21、RF回路22および無線通信制御部23を設ける。省電力モードにおいて、タイマー21からの信号に応じて、無線通信制御部23は、所定の周期ごとにRF回路22をON状態にする一方で、所定の時間が経過した時点で、ON状態のRF回路22をOFF状態に切り替えて、RF回路22における消費電力を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線による通信において消費される電力を抑制する技術に関する。より詳細には、中継機と端末装置との間の無線通信において、当該中継機の消費電力を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の端末装置が、中継機を介して、無線LAN等の無線通信により情報通信を行う無線通信システムが知られている。一方で、無線通信システムにおける省電力化についても様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、アクセスポイントからのビーコン信号に同期して、ホストに内蔵されている無線LANデバイスの電源をONにするとともに、自分宛の着信の有無を確認し、自分宛の着信があったときにのみホストの電源をONとする技術が記載されている。このような技術によれば、自分宛の着信がない間、当該ホストの電源は常にOFF状態となるため、ホストにおける消費電力を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−180115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記の従来技術は、ホスト(端末装置)における消費電力を抑制する技術であり、アクセスポイント(中継機)の消費電力を抑制することについては考慮されていないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、中継機を用いた無線通信において、消費される電力を、より一層、抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、端末装置と中継機との間で無線による通信を行う無線通信システムであって、前記端末装置は、前記中継機との間で、前記無線による通信を行うとともに、前記無線による通信の開始要求を送信する第1通信手段を備え、前記中継機は、前記端末装置との間で、前記無線による通信を行う第2通信手段と、前記中継機の動作モードを、通常モードと、少なくとも前記通常モードにおける消費電力よりも前記中継機の消費電力が抑制された状態となる省電力モードとの間で切り替える切替手段とを備え、前記切替手段は、前記省電力モードにおいて、少なくとも前記端末装置から送信された開始要求を前記第2通信手段が受信できる状態となる第1モードと、前記第2通信手段に対して無線による通信を禁止する第2モードとを切り替えることを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明に係る無線通信システムであって、前記端末装置は、前記無線による通信の開始要求を複数回送信するように前記第1通信手段を制御する第1制御手段をさらに備え、前記第1制御手段は、前記複数回送信される開始要求のうち連続する2つの開始要求について、先の開始要求が送信されてから、後の開始要求が送信されるまでの待ち時間が、前記先の開始要求に対する前記中継機からの応答時間よりも短い時間となるように前記第1通信手段を制御することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3の発明は、請求項1または2の発明に係る無線通信システムであって、前記切替手段は、前記第1モードにおいて、前記端末装置から送信された開始要求を前記第2通信手段が受信した後に、前記省電力モードを前記通常モードに切り替えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明に係る無線通信システムであって、前記第2モードにおいて、前記第2通信手段は、前記端末装置から送信される情報を受信したか否かについての監視を停止することを特徴とする。
【0010】
また、請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明に係る無線通信システムであって、前記第2モードにおいて、前記第2通信手段は、ビーコン信号の送信を停止することを特徴とする。
【0011】
また、請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの発明に係る無線通信システムであって、前記中継機は、前記切替手段による前記第1モードと前記第2モードとの切り替えタイミングを制御する第2制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7の発明は、請求項6の発明に係る無線通信システムであって、前記第2制御手段は、前記第1モードと前記第2モードとが周期的に切り替わるように、前記切り替えタイミングを制御することを特徴とする。
【0013】
また、請求項8の発明は、中継機との間で無線による通信を行う端末装置であって、前記中継機との間で、前記無線による通信を行うとともに、前記無線による通信の開始要求を送信する通信手段と、前記無線による通信の開始要求を複数回送信するように前記通信手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記複数回送信される開始要求のうち連続する2つの開始要求について、先の開始要求が送信されてから、後の開始要求が送信されるまでの待ち時間が、前記先の開始要求に対する前記中継機からの応答時間よりも短い時間となるように前記第1通信手段を制御することを特徴とする。
【0014】
また、請求項9の発明は、端末装置との間で無線による通信を行う中継機であって、前記端末装置との間で、前記無線による通信を行う通信手段と、前記中継機の動作モードを、通常モードと、少なくとも前記通常モードにおける消費電力よりも前記中継機の消費電力が抑制された状態となる省電力モードとの間で切り替える切替手段とを備え、前記切替手段は、前記省電力モードにおいて、少なくとも前記端末装置から送信された開始要求を前記通信手段が受信できる状態となる第1モードと、前記通信手段に対して無線による通信を禁止する第2モードとを切り替えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項10の発明は、端末装置と中継機との間の無線による通信を実現する無線通信方法であって、(a) 前記中継機の動作モードを、通常モードから、少なくとも前記通常モードにおける消費電力よりも前記中継機の消費電力が抑制された状態となる省電力モードに切り替える工程と、(b) 前記中継機の動作モードが前記省電力モードであるときにおいて、前記中継機の動作モードを、前記中継機が少なくとも前記端末装置から送信される前記無線による通信の開始要求を受信できる状態となる第1モードと、前記中継機に対して前記無線による通信を禁止する第2モードとを切り替える工程と、(c) 複数回送信される前記無線による通信の開始要求のうち連続する2つの開始要求について、先の開始要求が送信されてから、後の開始要求が送信されるまでの待ち時間が、前記先の開始要求に対する前記中継機からの応答時間よりも短い時間となるように、前記無線による通信の開始要求を複数回送信する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1ないし7に記載の発明は、中継機が、動作モードを、通常モードと、少なくとも通常モードにおける消費電力よりも当該中継機の消費電力が抑制された状態となる省電力モードとの間で切り替えるとともに、当該省電力モードにおいて、少なくとも端末装置から送信された開始要求を受信できる状態となる第1モードと、無線による通信を禁止する第2モードとを切り替えることにより、省電力モードの第2モードにおいて、無線による通信が禁止されるため、その間の消費電力が通常モードに比べて抑制される。したがって、中継機の消費電力を抑制することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は第2モードにおいて、第2通信手段は、端末装置から送信される情報を受信したか否かについての監視を停止することにより、受信情報の有無を確認するために必要な電力を抑制できる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、第2モードにおいて、第2通信手段は、ビーコン信号の送信を停止することにより、ビーコン信号を送信するために必要な電力を抑制できる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、切替手段による第1モードと第2モードとの切り替えタイミングを制御する第2制御手段をさらに備えることにより、柔軟、かつ、効率的な切り替えを行うことができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、第1モードと第2モードとが周期的に切り替わるように、切り替えタイミングを制御することにより、切り替えタイミングを容易に制御できる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、複数回送信される開始要求のうち連続する2つの開始要求について、先の開始要求が送信されてから、後の開始要求が送信されるまでの待ち時間が、先の開始要求に対する中継機からの応答時間よりも短い時間とすることにより、通信相手となる中継機の消費電力を抑制することができる。
【0022】
請求項9に記載の発明は、端末装置との間で、無線による通信を行う通信手段と、中継機の動作モードを、通常モードと、少なくとも通常モードにおける消費電力よりも当該中継機の消費電力が抑制された状態となる省電力モードとの間で切り替える切替手段とを備え、切替手段は、省電力モードにおいて、少なくとも端末装置から送信された開始要求を通信手段が受信できる状態となる第1モードと、通信手段に対して無線による通信を禁止する第2モードとを切り替えることにより、省電力モードの第2モードにおいて、通信手段による無線による通信が禁止されるため、その間の通信手段における消費電力が通常モードに比べて抑制される。したがって、中継機の消費電力を抑制することができる。
【0023】
請求項10に記載の発明は、中継機の動作モードを、通常モードから、少なくとも通常モードにおける消費電力よりも中継機の消費電力が抑制された状態となる省電力モードに切り替える工程と、中継機の動作モードが省電力モードであるときにおいて、中継機の動作モードを、中継機が少なくとも端末装置から送信される無線による通信の開始要求を受信できる状態となる第1モードと、中継機に対して無線による通信を禁止する第2モードとを切り替える工程と、複数回送信される無線による通信の開始要求のうち連続する2つの開始要求について、先の開始要求が送信されてから、後の開始要求が送信されるまでの待ち時間が、先の開始要求に対する中継機からの応答時間よりも短い時間となるように、無線による通信の開始要求を複数回送信する工程とを有することにより、省電力モードの第2モードにおいて、中継機による無線による通信が禁止されるため、その間の中継機における消費電力が通常モードに比べて抑制される。したがって、中継機の消費電力を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る無線通信システムを示す図である。
【図2】本発明に係る中継機として構成されるアクセスポイントのブロック図である。
【図3】本発明に係る端末装置のブロック図である。
【図4】本発明に係る無線通信方法における端末装置の動作を示す流れ図である。
【図5】本発明に係る無線通信方法におけるアクセスポイントの動作を示す流れ図である。
【図6】省電力モードにおける無線通信処理を示す流れ図である。
【図7】省電力モード中のアクセスポイントが通常モードに移行する際の通信シーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付の図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0026】
<1. 実施の形態>
図1は、本発明に係る無線通信システム1を示す図である。本実施の形態における無線通信システム1は、アクセスポイント2および端末装置3を備え、アクセスポイント2と端末装置3との間で無線による通信(例えば無線LAN)を行うシステムとして構成されている。本実施の形態では、アクセスポイント2と端末装置3との間の無線による通信として、WiFi(Wireless Fidelity)規格を採用する例で説明するが、もちろん、無線の方式はこれに限定されるものではない。
【0027】
また、図1に示すように、アクセスポイント2には、通信ケーブル9が接続されており、図示しない外部装置またはネットワークとの間で有線による通信が可能な状態で接続されている。ただし、無線通信システム1は、必ずしも通信ケーブル9に接続されている必要はなく、少なくともアクセスポイント2と端末装置3との間で無線による通信を実現するシステムとして構成されていればよい。すなわち、アクセスポイント2は必ずしも端末装置3と他の装置との間の通信を中継する装置である必要はなく、アクセスポイント2が端末装置3の最終的な通信相手としての構成および機能を備えていてもよい。
【0028】
図2は、本発明に係る中継機として構成されるアクセスポイント2のブロック図である。本実施の形態におけるアクセスポイント2は、制御部20、タイマー21、RF回路22、無線通信制御部23およびインタフェース24を備えている。
【0029】
なお、アクセスポイント2は、操作者が操作することによりアクセスポイント2に対して各種の情報を入力することが可能となる操作部(キーやボタン等)や、操作者に各種の情報を提供する出力部(LEDやランプ、液晶パネル、スピーカ等)等を備えていてもよい。
【0030】
また、詳細は後述するが、アクセスポイント2の動作モードとしては、通常モードと、少なくとも通常モードにおける消費電力よりもアクセスポイント2の消費電力が抑制された状態となる省電力モードとが定義される。
【0031】
図2において図示を省略しているが、制御部20は、主に演算装置および記憶装置から構成される。なお、制御部20が備える演算装置は1つの装置に限定されるものではなく、複数の装置が並列的に協働して動作するものであってもよい。また、記憶装置は、必要に応じて、ROMやRAMあるいはハードディスク、バッファ等の様々な記憶媒体から構成され、アクセスポイント2の機能を実現するために必要なプログラムやデータ等(例えばBIOSやOS、アプリケーションプログラム、設定データ等)を記憶する機能を有している。
【0032】
これにより、制御部20は、演算装置が記憶装置に格納されたプログラムに従って動作することにより、アクセスポイント2の備える各構成を制御する機能を有する。すなわち、制御部20は、一般的なコンピュータとしての構成および機能を有している。なお、制御部20の動作については、逐次、後述する。
【0033】
タイマー21は、図示しない発振回路等を備えており、制御部20からの制御信号によってセットされるタイマー値に基づいて、当該タイマー値の示す時間を計測して、無線通信制御部23に信号を伝達する。タイマー21から出力される信号は、主にアクセスポイント2の動作モードを切り替えるタイミングを無線通信制御部23に報知するために使用されるが、詳細は後述する。
【0034】
詳細は図示しないが、RF回路22は、信号を電波に変換するとともに受信した電波を信号に変換するアンテナや、アンテナにより受信した電波を検出する検波回路、電波信号を情報に変換する回路、各種信号を増幅する回路等を備えており、端末装置3との間で無線による通信を行う機能を有している。
【0035】
具体的には、RF回路22は、無線通信制御部23から伝達された情報に応じて、先述のアンテナから電波を放出することにより、当該情報を端末装置3に向けて送信する。また、端末装置3から放出された電波を、先述のアンテナで受信し、受信した電波信号を適宜情報に変換して無線通信制御部23に伝達する。
【0036】
また、RF回路22は、無線通信制御部23からの信号に応じて、ON/OFFされる。以下、RF回路22をON/OFFするために、無線通信制御部23から伝達される信号を「ON/OFF信号」と総称する。さらに、RF回路22をON状態(起動状態)に切り替えるためのON/OFF信号を単に「ON信号」と称し、RF回路22をOFF状態(停止状態)に切り替えるためのON/OFF信号を単に「OFF信号」と称する。
【0037】
RF回路22がON状態(起動状態)のとき、アクセスポイント2は、少なくとも無線による情報の受信が可能な状態となる。一方、RF回路22がOFF状態のとき、RF回路22は無線による通信が不可能な状態となり、無線による情報の送信のみならず、受信もできない状態となる。
【0038】
逆に言えば、RF回路22がOFF状態となると、RF回路22は、端末装置3から何らかの情報を受信したか否かについての監視を停止することになる。したがって、例えば、端末装置3が送信した電波を検出するための検波回路が停止される。これにより、受信情報の有無を確認するために必要な電力(検波回路の消費電力)を抑制できる。
【0039】
また、RF回路22がOFF状態において、RF回路22は、情報(例えば、定期的に送信されるビーコン信号等)の送信を停止する。これにより、情報の送信に必要な電力(例えば電波を送出するために消費する電力)を抑制できる。したがって、RF回路22がOFF状態のとき、アクセスポイント2における消費電力は、少なくともRF回路22がON状態のときに比べて抑制される。
【0040】
本実施の形態におけるアクセスポイント2では、作動中の動作モードが通常モードにおいてRF回路22をOFF状態にすることはなく、省電力モードにおいてのみRF回路22をOFF状態とする。したがって、省電力モードでは、少なくともRF回路22がOFF状態となる期間についてON状態のときに比べて消費電力が抑制されるため、RF回路22がON状態である通常モードよりも省電力モードにおける消費電力の方が抑制される。
【0041】
言い換えれば、本発明において、ある瞬間(例えば、省電力モードにおいてRF回路22がON状態のとき)において、通常モードと省電力モードとは消費電力に差がない場合もありうる。したがって、省電力モードにおいて、「少なくとも通常モードにおける消費電力よりもアクセスポイント2の消費電力が抑制された状態となる」とは、省電力モードにおけるすべての期間について、通常モードにおけるあらゆる状態の消費電力よりも、「消費電力が抑制された状態となる」ことまで限定する意味ではない。例えば、単位時間当たりの平均の消費電力について、省電力モードの方が通常モードよりも「抑制された状態となる」場合等を含むものである。
【0042】
無線通信制御部23は、制御部20、タイマー21およびRF回路22から伝達される情報(信号)に応じて、アクセスポイント2の動作モードを切り替えるとともに、RF回路22を制御する機能を有している。また、制御部20から端末装置3に向けて送信する情報を取得した場合はRF回路22に当該情報を送信させる一方で、RF回路22により受信された情報を制御部20に伝達する機能も有している。
【0043】
本実施の形態におけるアクセスポイント2では、RF回路22および無線通信制御部23が、いわゆる通信モジュール(WiFiモジュール)を構成している。
【0044】
インタフェース24は、通信ケーブル9をアクセスポイント2に接続するためのコネクタや端子等である。これにより、アクセスポイント2は、有線通信が可能となっており、通信ケーブル9に接続された外部装置と端末装置3との間の通信を中継する機能を有している。
【0045】
図3は、本発明に係る端末装置3のブロック図である。図3に示すように、端末装置3は、制御部30、タイマー31、RF回路32、無線通信制御部33、操作部34および表示部35を備えている。詳細は以下に説明するが、端末装置3は、アクセスポイント2との間で無線による通信が可能なコンピュータとして構成されている。
【0046】
詳細は図示しないが、制御部30は、主に演算装置および記憶装置から構成される。なお、制御部30が備える演算装置は1つの装置に限定されるものではなく、複数の装置が並列的に協働して動作するものであってもよい。また、記憶装置は、必要に応じて、ROMやRAMあるいはハードディスク、バッファ等の様々な記憶媒体から構成され、端末装置3の機能を実現するために必要なプログラムやデータ等(例えばBIOSやOS、アプリケーションプログラム、設定データ等)が格納されている。
【0047】
制御部30は、演算装置が記憶装置に格納されたプログラムに従って動作することにより、端末装置3の備える各構成を制御する機能を有する。なお、制御部30の動作については、逐次、後述する。
【0048】
タイマー31は、図示しない発振回路等を備えており、無線通信制御部33からの制御信号に応じて起動し、必要な時間を計測して、無線通信制御部33に信号を伝達する。本実施の形態における無線通信制御部33は、タイマー31を起動する際に、タイマー値t1とタイマー値t2とを計時するようにセットする。
【0049】
タイマー値t1とは、起動中のタイマー31が無線通信制御部33に対して要求送信信号を送出する時間間隔を示すパラメータである。詳細は後述するが、タイマー31からタイマー値t1ごとに無線通信制御部33に伝達される信号は、RF回路32が、アクセスポイント2に対して、無線による通信の開始要求(以下、「プローブ要求」と称する。)を送信するタイミングを決定するために用いられる。以下の説明では、プローブ要求を送信させるタイミングを決定するために、タイマー値t1が経過するごとに、タイマー31から無線通信制御部33に伝達される信号を「要求送信信号」と称する。
【0050】
また、タイマー値t2とは、タイマー31が連続して起動される最大時間を示すパラメータである。詳細は後述するが、タイマー31からタイマー値t2ごとに無線通信制御部33に伝達される信号は、1つの通信チャネルについて監視を停止するタイミングを決定するために用いられる。以下の説明では、1つの通信チャネルについて監視を停止するタイミングを決定するために、タイマー値t2が経過したときに、タイマー31から無線通信制御部33に伝達される信号を「監視停止信号」と称する。
【0051】
これにより無線通信制御部33がタイマー31を起動すると、起動されたタイマー31は、途中で停止させられない限り、起動してからの経過時間がタイマー値t2となるまでの間、タイマー値t1が経過するごとに(すなわち周期t1で)、要求送信信号を出力する。そして、起動してからの経過時間がタイマー値t2となると、タイマー31は、無線通信制御部33に監視停止信号を出力して、起動を停止する。なお、タイマー値t1およびタイマー値t2は、予め設定データとして記憶装置に格納しておくことができる。
【0052】
RF回路32は、アクセスポイント2のRF回路32と同等の構成を備えており、アクセスポイント2との間で無線による通信を行う機能を有している。具体的には、RF回路32は、無線通信制御部33から伝達された情報に応じて、図示しないアンテナから電波を放出することにより、当該情報をアクセスポイント2に向けて送信する。また、アクセスポイント2から放出された電波を、先述のアンテナで受信し、受信した電波信号を情報に変換して無線通信制御部33に伝達する。
【0053】
無線通信制御部33は、制御部30およびタイマー31から伝達される情報(信号)に応じて、RF回路32を制御する機能を有している。また、制御部30からアクセスポイント2に向けて送信する情報を取得した場合はRF回路32に当該情報を送信させる一方で、RF回路32により受信された情報を制御部30に伝達する機能も有している。
【0054】
特に、本実施の形態における無線通信制御部33は、要求送信信号がタイマー31から入力されるたびに、RF回路32に対して、アクセスポイント2に向けて、プローブ要求を送信させる。
【0055】
操作部34は、例えば、各種ボタン類や、キーボード、マウス、コントローラ、ジョイスティック等が該当し、操作者が端末装置3に対して、何らかの情報を入力する際に使用される。なお、操作部34はこれらに限定されるものではなく、例えば、画像によって情報が入力される場合には、撮像カメラやスキャナ等も操作部34として機能する。
【0056】
表示部35は、例えば、液晶パネルや液晶ディスプレイ、CRT、LED、ランプ等が該当し、操作者に対して各種の情報を提供する機能を有している。
【0057】
以上が本実施の形態における無線通信システム1の構成および機能の説明である。次に、無線通信システム1のアクセスポイント2と端末装置3との間で行われる無線通信方法について説明する。
【0058】
図4は、本発明に係る無線通信方法における端末装置3の動作を示す流れ図である。なお、図4では、端末装置3がアクセスポイント2に対して情報を送信する動作のみ図示しており、端末装置3が情報を受信する動作やその他のアプリケーションを実行する動作等は省略する。また、本実施の形態において、端末装置3のRF回路32によって特定の情報の送信が完了してから、当該特定の情報を受信したアクセスポイント2により送信される当該特定の情報に対する応答が端末装置3によって受信されるまでの時間を、いわゆる「レスポンスタイムT」と称する。
【0059】
まず、端末装置3の制御部30は、動作中に、アクセスポイント2に向けて情報(送信情報)を送信する必要が生じた場合(ステップS1においてYes)、当該送信情報を無線通信制御部33に伝達する。
【0060】
このとき、アクセスポイント2との間で、リンクが張られている(WiFi通信に関するネゴシエーションが成立している)場合(ステップS2においてYes)、無線通信制御部33は、制御部30から伝達された送信情報をRF回路32に伝達する。これにより、RF回路32は、当該送信情報をアクセスポイント2に向けて送信する(ステップS3)。
【0061】
ステップS2が実行されるときにおいて、端末装置3とアクセスポイント2との間のリンクが切断されている場合(ステップS2においてNo)、無線通信制御部33はタイマー31を起動し、タイマー値t1,t2をセットする(ステップS4)。これと並行して、無線通信制御部33は、RF回路32に対して、最初のプローブ要求を送信させる(ステップS5)。
【0062】
ステップS5を実行すると、無線通信制御部33は、タイマー31からの監視停止信号と要求送信信号とを監視しつつ(ステップS6,S7)、アクセスポイント2からの応答を監視する(ステップS9)。より詳細には、タイマー31からの割り込み信号(タイマー値t1,t2の経過を知らせる信号)と、RF回路32からの受信割り込み信号とを待つ状態となる。
【0063】
監視停止信号(タイマー値t2が経過したことを報知する信号)が入力されるまでの間に、タイマー31から要求送信信号(すなわち、タイマー値t1が経過したことを報知する信号)が入力されると、無線通信制御部33はステップS7においてYesと判定する。そして、無線通信制御部33は、要求送信信号が入力されたタイミングに応じて、アクセスポイント2に向けてプローブ要求を送信するようにRF回路32を制御する。これにより、RF回路32は、プローブ要求をアクセスポイント2に向けて送信する(ステップS8)。
【0064】
先述のように、本実施の形態における端末装置3では、タイマー31が起動中において、タイマー値t1ごとに、要求送信信号が無線通信制御33に入力される。したがって、タイマー31が起動中である限り、端末装置3からは、周期t1でプローブ要求が送信されることとなる。
【0065】
このように構成する場合、端末装置3は、新たなプローブ要求を送信するまでの間に、先のプローブ要求の送信を完了しておかなければならない。したがって、1つのプローブ要求の送信を完了するのに要する時間(以下、「送出時間st」と称する。)よりも周期t1が長くなるように、周期t1を決定する必要がある。
【0066】
すなわち、タイマー値t1は、「st<t1」となるように、プローブ要求の情報量や通信速度等に応じて、その値が予め決定されている。なお、以下の説明では、プローブ要求の送信が完了してから、次のプローブ要求の送信を開始するまでの時間を「送信待ち時間wt」と称する。すなわち、本実施の形態では、t1=st+wtの関係が成立し、周期t1の間に確実にプローブ要求の送信を完了させるためには、wt≠0であることが好ましい。
【0067】
また、監視停止信号が入力されるまでの間にRF回路32から受信割り込み信号(すなわち、アクセスポイント2からの応答を受信したことを報知する信号)が入力されると、無線通信制御部33はステップS9においてYesと判定する。そして、無線通信制御部33は、アクセスポイント2からの応答があった旨を制御部30に伝達し、制御部30はタイマー31の起動を停止させる(ステップS10)。すなわち、ステップS10が実行される場合には、タイマー31は、ステップS4が実行されることによって起動されてから、タイマー値t2が経過する前に、起動を停止させられることとなる。
【0068】
ステップS10の処理と並行して、無線通信制御部33は、WiFi通信の通常の手順に従ってアクセスポイント2との間の通信ネゴシエーションを行い(ステップS13)、アクセスポイント2との間のリンクを張る。これにより、端末装置3とアクセスポイント2との間のリンクが確立されると、先述のステップS3が実行される。すなわち、無線通信制御部33からRF回路32に送信情報が伝達され、当該送信情報がアクセスポイント2に向けて送信される。
【0069】
一方、タイマー31から監視停止信号が入力されると、無線通信制御部33はステップS6においてYesと判定する。このとき、タイマー31は、タイマー値t2が経過したことによって、起動を停止する(ステップS11)。
【0070】
次に、無線通信制御部33は、プローブ要求に対するアクセスポイント2からの応答があったか否かを判定する(ステップS12)。
【0071】
そして、ステップS10においてYesと判定すると、無線通信制御部33は、先述のステップS13を実行することにより、アクセスポイント2との間のリンクを張る。これにより、端末装置3とアクセスポイント2との間のリンクが確立されると、先述のステップS3が実行される。すなわち、無線通信制御部33からRF回路32に送信情報が伝達され、当該送信情報がアクセスポイント2に向けて送信される。
【0072】
なお、ステップS12が実行されるときにおいて、アクセスポイント2からの応答がない場合(ステップS12においてNo)、無線通信制御部33は、アクセスポイント2からの応答がなかった通信チャネル(これまでプローブ要求を送信していた通信チャネル)を他の通信チャネルに切り替える(ステップS14)。そして、無線通信制御部33は、ステップS4に戻って処理を繰り返す。すなわち、再び、タイマー31を起動し(ステップS4)、新たな通信チャネルを使用してプローブ要求を送信させる(ステップS5)。
【0073】
なお、図4において図示を省略しているが、無線通信制御部33は、ステップS12において、最後のプローブ要求の送信を完了してからの経過時間が、レスポンスタイムTに対して充分な時間となるまで、アクセスポイント2からの応答を待ってからNoと判定する。以下、無線通信制御部33がステップS12において応答待ちを行う時間を「応答待ち時間WT」と称する。
【0074】
このように、アクセスポイント2との間のリンクが確保されていない状況では、無線通信制御部33は、ステップS6ないしS9を実行することにより、RF回路32に複数回のプローブ要求を送信させる。そして、このようなプローブ要求の送信はタイマー値t2の間継続され、これに対する応答がない場合、無線通信制御部33は、順次、通信チャネルを切り替えつつスキャンする。
【0075】
以上が、無線通信方法における主に端末装置3の動作である。次に、無線通信方法におけるアクセスポイント2の動作について説明する。
【0076】
図5は、本発明に係る無線通信方法におけるアクセスポイント2の動作を示す流れ図である。なお、図5では、アクセスポイント2から端末装置3に対してアクセスを要求する動作については省略する。
【0077】
まず、アクセスポイント2の電源が投入されると、制御部20は所定の初期設定(図示せず)を実行する。この処理と並行して、無線通信制御部23がアクセスポイント2の動作モードを省電力モードに切り替えるとともに(ステップS21)、当該動作モードをさらに省電力モードのうちの第2モードに切り替える(ステップS22)。第2モードとは、省電力モードにおいて、RF回路22に対して無線による通信を禁止する動作モードである。
【0078】
無線通信制御部23は、ステップS22において、RF回路22に向けてOFF信号を出力することにより、RF回路22をOFF状態とし、これにより、RF回路22の通信を禁止する。以後、RF回路22がON状態にされるまでの間、RF回路22における電力消費は抑制された状態となる。
【0079】
ステップS22が実行され、動作モードが省電力モードの第2モードに設定されると、制御部20が、タイマー21を起動し、タイマー21にタイマー値t3をセットする(ステップS23)。
【0080】
次に、アクセスポイント2の動作モードが省電力モードか否かを判定し(ステップS24)、省電力モードの場合は省電力モードにおける無線通信処理を実行する(ステップS25)。
【0081】
図6は、省電力モードにおける無線通信処理を示す流れ図である。省電力モードにおいて、無線通信制御部23は、タイマー21からの割り込み信号と、RF回路22によるプローブ要求の受信割り込み信号を監視している(ステップS31,S34,S37)。
【0082】
省電力モードにおいて、タイマー21からタイマー値t3が経過したことを報知する信号が入力されると、無線通信制御部23はステップS31においてYesと判定し、動作モードを第1モードに切り替える(ステップS32)。
【0083】
第1モードとは、省電力モードにおいて、少なくとも端末装置3から送信されたプローブ要求をRF回路22が受信できる状態となる動作モードである。なお、第1モードにおいて、必ずしもRF回路22の全ての機能が回復される必要はなく、少なくともプローブ要求を受信して、その旨を無線通信制御部23に伝達できる状態となればよい。
【0084】
ステップS32において、無線通信制御部23は、RF回路22に対してON信号を出力し、RF回路22を起動させる。これにより、アクセスポイント2は、少なくとも端末装置3からのプローブ要求を受信することが可能な状態に遷移する。
【0085】
ステップS32が実行されると、制御部20は、タイマー21に対して、タイマー値t4をセットする(ステップS33)。このように、動作モードが第1モードに切り替えられたときに、タイマー21はタイマー値t4の計時を開始する。
【0086】
なお、制御部20は、ステップS32,S33が実行されるときにおいて、タイマー21に対して、タイマー値t3の計時を停止させるのではなく、リセットする。したがって、後述するステップS40が実行されるまで、無線通信制御部23には、タイマー21から周期的にタイマー値t3が経過したことを報知する信号が入力される。すなわち、タイマー値t3は、省電力モードにおいて、第2モードを第1モードに切り替える周期を示すパラメータである。
【0087】
省電力モードにおいて、タイマー21からタイマー値t4が経過したことを報知する信号が入力されると、無線通信制御部23はステップS34においてYesと判定し、動作モードを第2モードに切り替える(ステップS35)。また、無線通信制御部23は、ステップS35において、ステップS22と同様に、RF回路22に向けてOFF信号を出力することにより、RF回路22をOFF状態とする。これにより、RF回路22の通信が再び禁止される。
【0088】
ステップS35が実行されると、制御部20は、タイマー21に対して、タイマー値t4の計時を停止させる(ステップS36)。
【0089】
このように、本実施の形態におけるアクセスポイント2では、ステップS32により動作モードが第1モードに切り替えられたときに、ステップS33によりタイマー値t4の計時が開始される。そして、タイマー値t4が経過したとき(ステップS34においてYes)、ステップS35により動作モードが第2モードに切り替えられ、ステップS36によりタイマー値t4の計時が停止される。すなわち、タイマー値t4は、省電力モードにおける第1モード(プローブ要求を受信することが可能なモード)の継続時間を示すパラメータである。
【0090】
なお、先述のように、省電力モードにおける第2モードでは、RF回路22はOFF状態であり、端末装置3からのプローブ要求を受信することはできない。したがって、RF回路22が当該プローブ要求を受信した場合とは、動作モードが第1モードのときに限定される。
【0091】
逆に言えば、アクセスポイント2は省電力モードにおいて、第1モードと第2モードとが周期的に交互に切り替わり、その1周期の間にタイマー値t4の間(第1モードの継続時間)しかプローブ要求を受信することができない。したがって、第1モードの継続時間の間に確実にプローブ要求を受信させるためには、アクセスポイント2における第1モードの継続時間の間に、端末装置3が少なくとも1回はプローブ要求を送信するようにプローブ要求の送信間隔(タイマー値t1)を決定しておくことが好ましい。すなわち、タイマー値t1<タイマー値t4であることが好ましい。
【0092】
省電力モードにおいて、RF回路22が端末装置3からのプローブ要求を受信すると、RF回路22は、他の受信情報の場合と同様に、当該プローブ要求を無線通信制御部23に伝達する。無線通信制御部23は、RF回路22から伝達された情報がプローブ要求であれば、これに応じてステップS37においてYesと判定し、動作モードを通常モードに切り替える(ステップS38)。さらに、無線通信制御部23は、プローブ要求に対する応答(ACK)を送信するようにRF回路22を制御する。これにより、RF回路22が端末装置3に向けて応答を送信し、通信ネゴシエーションが開始される(ステップS39)。
【0093】
アクセスポイント2においてステップS39が実行されるとき、端末装置3ではアクセスポイント2から送信された応答が受信されることによりステップS9(またはステップS12)においてYesと判定され、ステップS13(通信ネゴシエーション)が実行される。これにより、アクセスポイント2と端末装置3との間のリンクが確立される。
【0094】
ステップS39の処理と並行して、制御部20は、タイマー21に対して、タイマー値t3,t4の計時を停止させるとともに、タイマー値t5の計時を開始させる(ステップS40)。
【0095】
以上が図5に示すステップS25(省電力モードにおける無線通信処理)の説明である。一旦、アクセスポイント2の動作モードが省電力モードに設定されると、ステップS38が実行されて動作モードが通常モードに切り替えられ、ステップS24においてNoと判定されるまで、ステップS24,S25の処理が繰り返される。
【0096】
一方、動作モードを通常モードに切り替えると、無線通信制御部23はステップS24においてNoと判定し、通常モードにおける無線通信処理を実行する(ステップS26)。なお、通常モードにおける無線通信処理は、例えば、WiFi規格におけるの通常の処理として実行できるため、説明を省略する。
【0097】
ただし、アクセスポイント2は、通常モードにおいて、RF回路22により、端末装置3との間の情報の送受信がされたか否かを監視している(ステップS27)。そして、何らかの情報の送受信がされた場合、ステップS27においてYesと判定し、制御部20は、タイマー21に対して、タイマー値t5をリセットする(ステップS28)。すなわち、タイマー21は、ステップS28が実行されるたびに、その時点からタイマー値t5の計時を開始する。
【0098】
さらに、無線通信制御部23は、通常モードにおいて、タイマー21から、タイマー値t5の経過を報知する信号を監視している(ステップS29)。そして、当該信号が入力されると(ステップS29においてYes)、無線通信制御部23は、その旨を制御部20に伝達する。これにより、制御部20は、タイマー21に対して、タイマー値t5の計時を停止させる(ステップS30)。
【0099】
ステップS30の処理と並行して、無線通信制御部23は端末装置3との間のリンクを切断し、アクセスポイント2はステップS21に戻って、処理を繰り返す。すなわち、ステップS21が実行され、無線通信制御部23により動作モードが省電力モードに切り替えられる。
【0100】
このように、本実施の形態におけるアクセスポイント2は、端末装置3との間の情報の送受信がタイマー値t5に示される時間行われないと、ステップS21を実行して、通常モードを終了し、動作モードを省電力モードに切り替える。
【0101】
なお、アプリケーションプログラムの実行上、タイマー値t5の間に端末装置3に対して送信情報を準備できない場合(タイマー値t5が経過してもリンクを確保しておきたい場合等)、アクセスポイント2の制御部20は、適宜、タイマー21に対して、タイマー値t5をリセットするように構成してもよい。一方、端末装置3がリンクを確保しておきたい場合は、タイマー値t5が経過する前に、何らかの情報(リンク維持要求情報)をアクセスポイント2に向けて送信すれば、これをアクセスポイント2が受信することによってタイマー値t5がリセットされる。
【0102】
以上が、無線通信方法における主にアクセスポイント2の動作である。次に、本発明に係る無線通信方法において、省電力モード中のアクセスポイント2を通常モードに起動する際の通信シーケンスについて説明する。
【0103】
図7は、省電力モード中のアクセスポイント2が通常モードに移行する際の通信シーケンスを示す図である。なお、図7における横軸は「時間経過」を示す。また、プローブ要求の情報量を49[byte]、無線通信速度を6[Mbps]とし、st=65.3[μsec]、wt=27.6[μsec]、t1=92.9[μsec]、t2=t3=100[msec]、t4=100[μsec]の場合を例示する。
【0104】
図7において、砂地ハッチで示す各部分は、端末装置3が各プローブ要求を送信している期間(送出時間st)を示している。図7に示すプローブ要求PR1とプローブ要求PR2とは、複数回送信されるプローブ要求(プローブ要求PR1ないしPRn)のうちの連続する2つのプローブ要求である。連続するプローブ要求PR1,PR2について、先の開始要求であるプローブ要求PR1が送信されてから、後の開始要求であるプローブ要求PR2が送信されるまでの待ち時間は、既に説明したように、送信待ち時間wtである。
【0105】
また、図7において、斜線ハッチで示す部分はアクセスポイント2において情報の受信が可能な状態となる期間を示している。既に説明したように、アクセスポイント2では、省電力モードにおいて、周期t3で、タイマー値t4の間だけ第1モードとなり、情報の受信が可能な期間となる。
【0106】
アクセスポイント2と端末装置3との間のリンクが確立されていない状態(省電力モード)では、アクセスポイント2と端末装置3との間の同期は保たれていない。すなわち、端末装置3がプローブ要求の送信を開始した時点におけるアクセスポイント2の状態は不定である。
【0107】
図7に示すプローブ要求PR1,PR2は、アクセスポイント2における動作モードが省電力モードの第2モード中に送信されている。このようなタイミングで送信されたプローブ要求PR1,PR2は、アクセスポイント2において受信されず、アクセスポイント2から応答が返されることはない。したがって、これらのプローブ要求によっては、動作モードが通常モードに切り替えられることはなく、アクセスポイント2と端末装置3との間の通信ネゴシエーションは開始されない。
【0108】
一方、省電力モードの第1モード中に送信されたプローブ要求PRnは、アクセスポイント2によって正常に受信される。これによって、図7に示すように、省電力モードが通常モードに切り替えられる。なお、動作モードが通常モードに切り替えられた後は、タイマー21におけるタイマー値t3,t4の計時が停止されるので、通常モード中に第1モードが第2モードに切り替えられることはなく、プローブ要求PRnを受信中のRF回路22がOFF状態に切り替えられることはない(受信可能状態が継続される)。
【0109】
図7から明らかなように、本実施の形態におけるアクセスポイント2では、省電力モードにおいて、RF回路22は、t3=100[msec]の間中、t4=100[μsec]の間しか起動されない。すなわち、RF回路22の起動時間は、省電力モード中のほぼ0.1%となり、消費電力が抑制される。
【0110】
このように、無線通信システム1のアクセスポイント2では、タイマー値t3に対して、タイマー値t4が小さいほど、消費電力が抑制される。しかしながら、既に説明したように、st<t1<t4であることが必要であるため、通信速度とプローブ要求の情報量とに応じて決まるプローブ要求の送出時間stにより、タイマー値t4は無限に小さくすることはできない。一方で、可能な限りタイマー値t4を小さくすると、送出時間stは固定であるため、送信待ち時間wtの値が小さくなる。
【0111】
本実施の形態では、図7から明らかなように、wt<Tとなっている。図7に示すレスポンスタイムTは、プローブ要求PRnに対するアクセスポイント2の応答時間を示している。しかし、この応答時間は、どのプローブ要求に対してもほぼ一定であり、全てのプローブ要求に対する応答時間はレスポンスタイムTといえる。
【0112】
このように、本実施の形態における端末装置3では、複数回送信されるプローブ要求のうち連続する2つのプローブ要求について、先に送信されたプローブ要求が送信されてから、後のプローブ要求が送信されるまでの送信待ち時間wtが、先に送信されたプローブ要求に対するアクセスポイント2からのレスポンスタイムTよりも短い時間となるようにRF回路32が制御されている。
【0113】
なお、最後に送信されるプローブ要求PRnを除く全てのプローブ要求における送出待ち時間wtについて、wt<Tの関係が成立するとは、プローブ要求を送信した端末装置3は、実質的には当該プローブ要求に対する応答を待たずに、次のプローブ要求を続けて送信することを意味する。
【0114】
既に説明したように、アクセスポイント2が省電力モードにおいて、アクセスポイント2と端末装置3との間の同期はとられていない。したがって、最初のプローブ要求PR1を送信したときが、アクセスポイント2において動作モードが第1モードである場合も、当然、あり得る。その場合、プローブ要求PR1に対する応答がアクセスポイント2から送信されることになるが、この応答は、端末装置3が少なくともプローブ要求PR2を送信した後に受信される。
【0115】
以上のように、本実施の形態における無線通信システム1は、端末装置3とアクセスポイント(中継機)2との間で無線による通信を行うシステムであって、端末装置3は、アクセスポイント2との間で、無線による通信を行うとともに、無線による通信の開始要求であるプローブ要求を送信するRF回路32を備え、アクセスポイント2は、端末装置3との間で、無線による通信を行うRF回路22と、アクセスポイント2の動作モードを、通常モードと、少なくとも通常モードにおける消費電力よりもアクセスポイント2の消費電力が抑制された状態となる省電力モードとの間で切り替える無線通信制御部23とを備え、無線通信制御部23は、省電力モードにおいて、少なくとも端末装置3から送信されたプローブ要求をRF回路22が受信できる状態となる第1モードと、RF回路22に対して無線による通信を禁止する第2モードとを切り替える。これにより、省電力モードの第2モードにおいて、RF回路22による無線による通信が禁止されるため、その間のRF回路22における消費電力が通常モードに比べて抑制される。したがって、アクセスポイント2の消費電力を抑制することができる。
【0116】
第2モードにおいて、RF回路22は、端末装置3から送信される情報を受信したか否かについての監視を停止することにより、受信情報の有無を確認するために必要な電力を抑制できる。
【0117】
また、第2モードにおいて、RF回路22は、ビーコン信号の送信を停止することにより、ビーコン信号を送信するために必要な電力を抑制できる。
【0118】
<2. 変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0119】
例えば、上記実施の形態では、アクセスポイント2の制御部20と無線通信制御部23とを別々の構成として説明し、RF回路22および無線通信制御部23がいわゆる通信モジュールを構成する例について説明した。しかし、制御部20が無線通信制御部23の構成および機能を兼ね備えていてもよい。あるいは、無線通信制御部23が制御部20の一部の機能を有するように構成し、例えば、タイマー21を制御してもよい。
【0120】
また、上記実施の形態における端末装置3は、タイマー値t1を一定としており、これにより、プローブ要求は周期t1で送信され、プローブ要求はほぼ完全に周期的に送信されることとなる。しかしながら、タイマー値t1は、必ずしも一定である必要はなく、プローブ要求がアクセスポイント2に効率的に受信されるように、無線通信制御部33によって適宜制御(例えばタイマー値t1を周期的に変更するように制御)されてもよい。
【0121】
また、上記実施の形態に示した各工程は、あくまでも例示であって、同様の効果が得られるならば、適宜、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0122】
1 無線通信システム
2 アクセスポイント
20,30 制御部
21,31 タイマー
22,32 RF回路
23,33 無線通信制御部
3 端末装置
9 通信ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末装置と中継機との間で無線による通信を行う無線通信システムであって、
前記端末装置は、
前記中継機との間で、前記無線による通信を行うとともに、前記無線による通信の開始要求を送信する第1通信手段を備え、
前記中継機は、
前記端末装置との間で、前記無線による通信を行う第2通信手段と、
前記中継機の動作モードを、通常モードと、少なくとも前記通常モードにおける消費電力よりも前記中継機の消費電力が抑制された状態となる省電力モードとの間で切り替える切替手段と、
を備え、
前記切替手段は、前記省電力モードにおいて、少なくとも前記端末装置から送信された開始要求を前記第2通信手段が受信できる状態となる第1モードと、前記第2通信手段に対して無線による通信を禁止する第2モードとを切り替えることを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムであって、
前記端末装置は、前記無線による通信の開始要求を複数回送信するように前記第1通信手段を制御する第1制御手段をさらに備え、
前記第1制御手段は、前記複数回送信される開始要求のうち連続する2つの開始要求について、先の開始要求が送信されてから、後の開始要求が送信されるまでの待ち時間が、前記先の開始要求に対する前記中継機からの応答時間よりも短い時間となるように前記第1通信手段を制御することを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無線通信システムであって、
前記切替手段は、前記第1モードにおいて、前記端末装置から送信された開始要求を前記第2通信手段が受信した後に、前記省電力モードを前記通常モードに切り替えることを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の無線通信システムであって、
前記第2モードにおいて、前記第2通信手段は、前記端末装置から送信される情報を受信したか否かについての監視を停止することを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の無線通信システムであって、
前記第2モードにおいて、前記第2通信手段は、ビーコン信号の送信を停止することを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の無線通信システムであって、
前記中継機は、前記切替手段による前記第1モードと前記第2モードとの切り替えタイミングを制御する第2制御手段をさらに備えることを特徴とする無線通信システム。
【請求項7】
請求項6に記載の無線通信システムであって、
前記第2制御手段は、前記第1モードと前記第2モードとが周期的に切り替わるように、前記切り替えタイミングを制御することを特徴とする無線通信システム。
【請求項8】
中継機との間で無線による通信を行う端末装置であって、
前記中継機との間で、前記無線による通信を行うとともに、前記無線による通信の開始要求を送信する通信手段と、
前記無線による通信の開始要求を複数回送信するように前記通信手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記複数回送信される開始要求のうち連続する2つの開始要求について、先の開始要求が送信されてから、後の開始要求が送信されるまでの待ち時間が、前記先の開始要求に対する前記中継機からの応答時間よりも短い時間となるように前記通信手段を制御することを特徴とする端末装置。
【請求項9】
端末装置との間で無線による通信を行う中継機であって、
前記端末装置との間で、前記無線による通信を行う通信手段と、
前記中継機の動作モードを、通常モードと、少なくとも前記通常モードにおける消費電力よりも前記中継機の消費電力が抑制された状態となる省電力モードとの間で切り替える切替手段と、
を備え、
前記切替手段は、前記省電力モードにおいて、少なくとも前記端末装置から送信された前記無線による通信の開始要求を前記通信手段が受信できる状態となる第1モードと、前記通信手段に対して無線による通信を禁止する第2モードとを切り替えることを特徴とする中継機。
【請求項10】
端末装置と中継機との間の無線による通信を実現する無線通信方法であって、
(a) 前記中継機の動作モードを、通常モードから、少なくとも前記通常モードにおける消費電力よりも前記中継機の消費電力が抑制された状態となる省電力モードに切り替える工程と、
(b) 前記中継機の動作モードが前記省電力モードであるときにおいて、前記中継機の動作モードを、前記中継機が少なくとも前記端末装置から送信される前記無線による通信の開始要求を受信できる状態となる第1モードと、前記中継機に対して前記無線による通信を禁止する第2モードとを切り替える工程と、
(c) 複数回送信される前記無線による通信の開始要求のうち連続する2つの開始要求について、先の開始要求が送信されてから、後の開始要求が送信されるまでの待ち時間が、前記先の開始要求に対する前記中継機からの応答時間よりも短い時間となるように、前記無線による通信の開始要求を複数回送信する工程と、
を有することを特徴とする無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−146964(P2011−146964A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6656(P2010−6656)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(591128453)株式会社メガチップス (322)
【Fターム(参考)】