説明

無線通信システム、送信側装置及びそれらに用いる送信空間ダイバーシチ方法

【課題】 拡散符号が少なくなることなく、符号化による冗長ビットの発生を招くことなく、送信空間ダイバーシチを実現可能な無線通信システムを提供する。
【解決手段】 無線通信システムは、送信側装置(1)において複数の送信アンテナ(14,15)から送信した信号を、受信側装置(2)にて複数の送信アンテナ(14,15)各々からの信号を分解する。送信側装置(1)は、複数の送信アンテナ(14,15)から送信する信号を同一の拡散符号を使用して拡散する拡散処理手段(11)と、当該拡散符号の自己相関特性から算出した遅延値を基に複数の送信アンテナ(14,15)から送信する信号の送信時間をずらして送信するための遅延手段(13)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信システム、送信側装置及びそれらに用いる送信空間ダイバーシチ方法に関し、特に送信空間ダイバーシチを実現する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイバーシチとは、例えば複数のアンテナから送信した無線信号について、受信側で受信した無線信号を合成してノイズを除去したりすることによって、通信の質や信頼性の向上を図る技術である。
【0003】
無線空間において、送信空間ダイバーシチを実現するためには、各送信アンテナから送信された信号を受信側で分解する必要がある。この信号を分解する方法としては、それぞれのアンテナから異なる拡散符号を使用して送信する方法(例えば、特許文献1参照)や送信信号を符号化する方法(例えば、特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−253925号公報
【特許文献2】特開2005−012357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述した送信空間ダイバーシチを実現する方法では、信号を分解する方法として、異なる拡散符号を使用する場合に、使用できる拡散符号が少なくなるという問題があり、送信信号を符号化する場合に、符号化による冗長ビットが発生するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は上記の問題点を解消し、拡散符号が少なくなることなく、符号化による冗長ビットの発生を招くことなく、送信空間ダイバーシチを実現することができる無線通信システム、送信側装置及びそれらに用いる送信空間ダイバーシチ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による無線通信システムは、送信側装置において複数の送信アンテナから送信した信号を、受信側装置にて前記複数の送信アンテナ各々からの信号を分解する無線通信システムであって、
前記送信側装置は、前記複数の送信アンテナから送信する信号を同一の拡散符号を使用して拡散する拡散処理手段と、当該拡散符号の自己相関特性から算出した遅延値を基に前記複数の送信アンテナから送信する信号の送信時間をずらして送信するための遅延手段とを備えている。
【0008】
本発明による送信側装置は、上記に記載の送信側装置の手段を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明による送信空間ダイバーシチ方法は、送信側装置において複数の送信アンテナから送信した信号を、受信側装置にて前記複数の送信アンテナ各々からの信号を分解する無線通信システムに用いる送信空間ダイバーシチ方法であって、
前記送信側装置が、前記複数の送信アンテナから送信する信号を同一の拡散符号を使用して拡散する拡散処理処理と、当該拡散符号の自己相関特性から算出した遅延値を基に前記複数の送信アンテナから送信する信号の送信時間をずらして送信するための遅延処理とを実行している。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記のような構成及び動作とすることで、拡散符号が少なくなることなく、符号化による冗長ビットの発生を招くことなく、送信空間ダイバーシチを実現することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態による無線通信システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に用いる拡散符号の自己相関特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。まず、本発明による無線通信システムの概略について説明する。本発明による無線通信システムは、送信側において、同一の拡散符号を使用するが、それぞれの送信時間をずらすことにより、受信側で各送信アンテナからの信号の分解を目指している。
【0013】
本発明による無線通信システムは、移動体通信システムや無線LAN(Local Area Network)システム等に適用することができる。移動体通信システムの場合は、送信側が基地局となり、受信側が移動体端末となる。また、無線LANシステムの場合は、送信側が親局(アクセスポイント)となり、受信側が子局となる。
【0014】
本発明による無線通信システムの動作について、以下説明する。
【0015】
本発明による無線通信システムでは、拡散符号としてM系列[最大周期シフトレジスタ(Maximum length shift register)系列]を使用する。本発明による無線通信システムでは、M系列のある拡散符号において、自己相関特性を取得しておく。
【0016】
本発明による無線通信システムでは、自己相関特性において、「1×delay〜(送信アンテナ数−1)×delay」のところで、「自己相関値が全て−1となるdelay値」を求める。自己相関特性からの「自己相関値が全て−1となるdelay値」の算出は、アンテナ数に応じて順次演算していくことで容易に算出することができるので、その説明については省略する。
【0017】
例えば、delay値が「22」であれば、各送信アンテナにおいて、片方のアンテナからはdelayなしとして送信し、もう一方のアンテナからは、22chip分delayして送信する。
【0018】
受信アンテナにおいて、信号を逆拡散する際には、delayを予め報知された「1×delay〜(送信アンテナ数−1)×delay」ずつ遅らせて行う。上記の例の場合は、受信信号に対して、delayなしで逆拡散するとともに、22chip分delayして逆拡散する。その後に、逆拡散した二つの信号を合成する。
【0019】
これによって、本発明では、それぞれのアンテナから異なる拡散符号を使用して送信する方法や送信信号を符号化する方法を用いることなく、送信空間ダイバーシチを実現することができる。よって、本発明では、異なる拡散符号を使用する場合の使用できる拡散符号が少なくなるという問題、送信信号を符号化する場合の符号化による冗長ビットが発生するという問題を解決することができる。
【0020】
図1は本発明の実施の形態による無線通信システムの構成例を示すブロック図である。図1において、本発明の実施の形態による無線通信システムは、図示せぬ親局側に配設された無線送信回路1と、図示せぬ子局側に配設された無線受信回路2とから構成されている。
【0021】
無線送信回路1は、拡散処理部11と、遅延制御部12と、遅延回路13と、送信アンテナ14,15とを備えて構成されており、無線受信回路2は、受信アンテナ21と、逆拡散処理部22,24と、遅延回路23と、合成回路25とを備えて構成されている。尚、遅延制御部12は、拡散符号(拡散コード)と遅延値とをさせて保持する遅延テーブル121を備えている。
【0022】
無線送信回路1の拡散処理部11は、無線受信回路2に送信する信号を予め設定された拡散符号にて拡散し、遅延制御部12は、拡散処理部11にて用いた拡散符号に対応する遅延値を遅延テーブル121から取出して遅延回路13に設定する。
【0023】
拡散処理部11で拡散された信号は、送信アンテナ14からそのまま送信されるとともに、遅延回路13にて遅延制御部12が設定した遅延値だけ遅らせて送信アンテナ15から送信される。
【0024】
無線受信回路2の受信アンテナ21は、送信アンテナ14,15から送信された信号を受信し、受信した信号を逆拡散処理部22と遅延回路23とにそれぞれ出力する。逆拡散処理部22は、入力された信号を無線送信回路1で使用される拡散符号に基づいて逆拡散を行い、逆拡散した信号を合成回路25に出力する。
【0025】
遅延回路23は、入力された信号を無線送信回路1で使用される拡散符号に対応する遅延値だけ遅らせて逆拡散処理部24に出力する。逆拡散処理部22は、遅延回路23から入力された信号を無線送信回路1で使用される拡散符号に基づいて逆拡散を行い、逆拡散した信号を合成回路25に出力する。合成回路25は、逆拡散処理部22,24でそれぞれ逆拡散された信号を合成して出力する。
【0026】
図2は本発明の実施の形態に用いる拡散符号の自己相関特性を示す図である。これら図1と図2とを参照して本発明の実施の形態による無線通信システムでの送信空間ダイバーシチの実現について説明する。
【0027】
まず、本実施の形態では、拡散符号としてM系列を使用し、そのM系列のある拡散符号において、自己相関特性を取得しておく。本実施の形態では、自己相関特性において、「1×delay〜(送信アンテナ数−1)×delay」のところで、「自己相関値が全て−1となるdelay値」を求め、その「delay値」をある拡散符号と対応付けて遅延テーブル121に保持しておく。
【0028】
これら「delay値」及び拡散符号は、予め無線受信回路2側に報知しておき、遅延回路23に設定しておく。尚、報知方法としては、無線送信回路1と無線受信回路2との間に複数の経路が存在する場合には、送信空間ダイバーシチを実現する経路以外の経路にて報知する方法がある。また、他の報知方法としては、電子メール等を用いる方法も考えられる。
【0029】
さらに、遅延テーブル121に保持されている対応表と同じ対応表を無線受信回路2に報知しておき、送信空間ダイバーシチを実現する場合に、拡散符号のみを報知する方法も考えられる。無線受信回路2側では、少なくとも上記の方法のうちのいずれかにて、「delay値」と拡散符号とを予めしっているものとする。
【0030】
ここで、図2に示す例では、送信アンテナ数を「2」とした場合の拡散符号の自己相関特性を示しており、「delay値」が「22」の時に拡散符号の自己相関値が全て−1となる。
【0031】
自己相関特性からの「自己相関値が全て−1となるdelay値」の算出は、アンテナ数に応じて順次演算していくことで容易に算出することができるので、その説明については省略する。
【0032】
例えば、送信アンテナ数を「2」とした場合は、上記のように、図2に示す自己相関特性から、「delay値」が「22」の時に拡散符号の自己相関値が全て−1となる。また、送信アンテナ数を「3」とした場合は、図2に示す自己相関特性から、「delay値」が「22」、「44」の時に拡散符号の自己相関値が全て−1となる。
【0033】
例えば、上記のように、「delay値」が「22」であれば、各送信アンテナにおいて、片方のアンテナ(送信アンテナ14)からは「delayなし」として送信し、もう一方のアンテナ(送信アンテナ15)からは、「22chip分delay」して送信する。
【0034】
受信アンテナ21において、信号を逆拡散する際には、「delay」を「1×delay〜(送信アンテナ数−1)×delay」ずつ遅らせて逆拡散を行う。
【0035】
上記の例の場合は、受信アンテナ21における受信信号に対して、逆拡散処理部22にて「delayなし」で逆拡散するとともに、逆拡散処理部24にて「22chip分delay」して逆拡散する。その後、合成回路25は、逆拡散処理部22,24にてそれぞれ逆拡散した二つの信号を合成する。
【0036】
これによって、本実施の形態では、それぞれのアンテナ(送信アンテナ14,15)から異なる拡散符号を使用して送信する方法や送信信号を符号化する方法を用いることなく、送信空間ダイバーシチを実現することができる。
【0037】
よって、本実施の形態では、異なる拡散符号を使用する場合の使用できる拡散符号が少なくなるという問題、送信信号を符号化する場合の符号化による冗長ビットが発生するという問題を解決することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、上記の本実施の形態において親局と子局とからなる無線通信システムに適用する場合について説明しているが、移動体通信システムや無線LANシステム等にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 無線送信回路
2 無線受信回路
11 拡散処理部
12 遅延制御部
13,23 遅延回路
14,15 送信アンテナ
21 受信アンテナ
22,24 逆拡散処理部
25 合成回路
121 遅延テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信側装置において複数の送信アンテナから送信した信号を、受信側装置にて前記複数の送信アンテナ各々からの信号を分解する無線通信システムであって、
前記送信側装置は、前記複数の送信アンテナから送信する信号を同一の拡散符号を使用して拡散する拡散処理手段と、当該拡散符号の自己相関特性から算出した遅延値を基に前記複数の送信アンテナから送信する信号の送信時間をずらして送信するための遅延手段とを有することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記送信側装置は、前記拡散符号と当該拡散符号の自己相関特性から算出した遅延値とを対応付けて保持する遅延テーブルと、前記拡散処理手段で用いる拡散符号に対応する遅延値を前記遅延テーブルから取出して前記遅延手段に設定する遅延制御手段を含むことを特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記送信側装置は、前記拡散符号としてM系列を使用し、前記M系列のある拡散符号において自己相関特性を取得しておき、当該自己相関特性から算出した遅延値を前記遅延テーブルに保持することを特徴とする請求項2記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記自己相関特性において、「1×delay〜(送信アンテナ数−1)×delay」のところで「自己相関値が全て−1となるdelay値」を求め、当該「delay値」を前記遅延値とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか記載の無線通信システム。
【請求項5】
上記の請求項1から請求項4のいずれかに記載の送信側装置の手段を含むことを特徴とする送信側装置。
【請求項6】
送信側装置において複数の送信アンテナから送信した信号を、受信側装置にて前記複数の送信アンテナ各々からの信号を分解する無線通信システムに用いる送信空間ダイバーシチ方法であって、
前記送信側装置が、前記複数の送信アンテナから送信する信号を同一の拡散符号を使用して拡散する拡散処理処理と、当該拡散符号の自己相関特性から算出した遅延値を基に前記複数の送信アンテナから送信する信号の送信時間をずらして送信するための遅延処理とを実行することを特徴とする送信空間ダイバーシチ方法。
【請求項7】
前記送信側装置に、前記拡散符号と当該拡散符号の自己相関特性から算出した遅延値とを対応付けて保持する遅延テーブルを配設し、
前記送信側装置が、前記拡散処理処理で用いる拡散符号に対応する遅延値を前記遅延テーブルから取出して前記遅延処理に設定する遅延制御処理を実行することを特徴とする請求項6記載の送信空間ダイバーシチ方法。
【請求項8】
前記送信側装置が、前記拡散符号としてM系列を使用し、前記M系列のある拡散符号において自己相関特性を取得しておき、当該自己相関特性から算出した遅延値を前記遅延テーブルに保持することを特徴とする請求項7記載の送信空間ダイバーシチ方法。
【請求項9】
前記自己相関特性において、「1×delay〜(送信アンテナ数−1)×delay」のところで「自己相関値が全て−1となるdelay値」を求め、当該「delay値」を前記遅延値とすることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか記載の送信空間ダイバーシチ方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−171865(P2011−171865A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31920(P2010−31920)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】