説明

無線通信システム

【課題】移動局間の通信に影響を与えることなく、通信中の移動局を基地局との通信に強制的に引き込むことができる無線通信システムを提供する。
【解決手段】移動局端末においてキャリア受信の有無を判定する場合に、キャリア成分の強さのみで受信ありと判断するのではなく、通信中の受信周波数チャネルf2内の通信に使用していない帯域のノイズ成分の強さと比較することでキャリア成分の強さが十分に強くなった場合に受信ありと判断する。基地局は、移動局間で直接通信中の移動局に対して、その通信で使用中の受信周波数チャネルf2内の通信に使用されていない帯域を用いて妨害波を送信することで、所望波の受信無しと判断させ、基地局の送信周波数チャネルf1に切り替えさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基地局および複数の移動局を備え、移動局間の直接通信と、基地局から移動局に対して一斉通信等を行う無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、移動局間で直接通信を行っている移動局を基地局との通信に強制的に引き込むには、次のような2つの手法がある。1つは、移動局間通信で用いられている周波数と同じ周波数で基地局から送信し、音声等で強制的に割り込む。もう1つは、移動局間通信を行っている移動局側で、基地局の送信周波数を一定間隔でスキャンし、基地局が送信していないかを監視する手法である。
【0003】
なお、移動局間で直接通信を行っている移動局に対して基地局から妨害信号を送信することで移動局間通信を強制的に終了させる手法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2007−53572公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、基地局が移動局間通信と同じ周波数で送信すると、受信側で音声等が混ざって出力されるため、移動局間通信よりも電界が微弱である場合には聞き取ることができない。また、移動局間通話を行っている移動局が、基地局からの送信の有無を監視するために基地局の送信周波数に切り替えると、その間移動局からの通信が途切れてしまうという問題がある。
【0005】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、移動局間の通信に影響を与えることなく、通信中の移動局を基地局との通信に強制的に引き込むことができる無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためにこの発明に係る無線通信システムは、基地局と、前記基地局に第1の無線周波数チャネルを介して接続可能な複数の移動局とを備え、前記複数の移動局は、さらに前記第1の無線周波数チャネルと異なる第2の無線周波数チャネルを介して通信範囲内にある他の移動局との間で無線信号を送受信する無線通信システムであって、前記基地局は、前記移動局間で通信中の移動局に対して接続しようとする場合に、前記移動局間での通信に使用中の第2の無線周波数チャネル内の通信に使用されていない帯域を用いてその通信を終了させるための妨害波を送信する手段を具備し、前記移動局は、前記他の移動局との間で前記第2の無線周波数チャネルを用いて通信中に、当該第2の無線周波数チャネルのキャリア成分の受信レベルと前記通信に使用されていない帯域の妨害波の受信レベルとをそれぞれ検出する手段と、前記検出されたキャリア成分の受信レベルと妨害波の受信レベルとの差または比を求める手段と、前記求められた差または比が予め定められた閾値より小さいか否かを判定する手段と、前記判定において前記求められた差または比が前記閾値より小さいと判定された場合に、前記第1の無線周波数チャネルを用いて前記基地局との間の通信路を確立する処理を実行する手段とを具備することを特徴とする。
【0007】
上記構成では、移動局端末においてキャリア受信の有無を判定する場合に、キャリア成分の強さのみで受信ありと判断するのではなく、通信中の無線周波数チャネル内の通信に使用していない帯域のノイズ成分の強さと比較することでキャリア成分の強さが十分に強くなった場合に受信ありと判断する。一方、基地局は、移動局間で直接通信中の移動局に対して、その通信で使用中の無線周波数チャネル内の通信に使用されていない帯域を用いて妨害波を送信することで、所望波の受信無しと判断させ、基地局との通信に強制的に切り替えさせるようにする。
【0008】
このようにすることで、移動局において、移動局間の通話と基地局からの音声等とが混ざって聞き取れないことや、基地局の使用する周波数チャネルをスキャンする間に移動局からの通信が途切れてしまうことがない。よって、移動局同士で直接通信中の移動局であってもその通信を乱すことなく、優先的に基地局との通信に移行させることが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
したがってこの発明によれば、移動局間の通信に影響を与えることなく、通信中の移動局を基地局との通信に強制的に引き込むことができる無線通信システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、この発明に係る無線通信システムの一実施形態を示す概略構成図である。
この無線通信システムは、基地局無線装置1および複数の移動局端末2−1、2−2を備える。図1において、移動局端末2−1と移動局端末2−2との間では、無線周波数チャネルf2を用いて直接通信を行う。基地局無線装置1は、移動局端末2−1,2−2に対して無線周波数チャネルf1を用いて一斉通信等を行う。これに対し、移動局端末2−1,2−2は、無線周波数チャネルf2を用いて基地局無線装置1に向けてその応答を送信する。
【0011】
図2は、移動局端末2−1,2−2に設けられる無線装置の受信系統を示す図である。なお、移動局端末2−1,2−2は、同一構成であるため、移動局端末2−1を例にとって説明する。
受信系統は、アンテナ21、受信部22、復調モジュール23、受信制御部24、分周器25、基準信号発振器26、および受信シンセサイザ27を備える。アンテナ21に到来した無線信号は、受信部22により受信され、復調モジュール23で処理できる低い周波数に変換される。変換された信号は、復調モジュール23において復調処理され復号される。また、復調モジュール23は、上記復調処理の際にキャリア成分および通信に使用していない帯域の受信レベルを検出し、これらを比較することでキャリア成分が十分に大きい場合にのみ受信があることを表すノイズスケルチ(NSQ)信号を受信制御部24に出力する。
【0012】
受信制御部24には、CPU(Central Processing Unit)等が用いられる。受信制御部24は、上記ノイズスケルチ信号にしたがって受信周波数チャネルを決定し、そのチャネルに応じた分周比を求めて分周器25に与える。分周器25は、基準信号発振器26から供給される基準信号を上記与えられた分周比に基づいて分周する。受信シンセサイザ27は、受信制御部24により指定された受信周波数チャネルに対応する搬送波を発生する。
【0013】
図3は、基地局無線装置1に設けられる送信系統を示す図である。送信系統は、アンテナ31、送信部32、変調モジュール33、送信制御部34、分周器35、基準信号発振器36、および送信シンセサイザ37を備える。送信制御部34は、送信周波数チャネルを切り替え、送信周波数チャネルに応じた分周比を求めて分周器35に与える。分周器35は、基準信号発振器36から供給される基準信号を上記与えられた分周比に基づいて分周する。送信シンセサイザ37は、送信制御部34により指定された送信周波数チャネルに対応する搬送波を発生する。送信部32は、変調モジュール33により変調された無線信号を送信シンセサイザ37により発生された搬送波にのせてアンテナ31から送信する。
【0014】
ここで、図4に、基地局から送信される変調波形モデルの一例を示す。センター周波数f0を中心に6.25KHz(±3.126KHz)の帯域が当該チャネルの周波数帯域となる。キャリア周波数fcは、センター周波数f0から1.7KHz低い周波数を基準に±180Hzの帯域(図4中A)の中で最も強い成分とする。音声帯域は、キャリア周波数fcから0.3〜3.4KHz大きい周波数帯域とする。
【0015】
次にこのように構成された無線通信システムの動作について説明する。図5は、この無線通信システムの送受信動作を示すタイミングチャートである。
【0016】
図5に示すように、移動局端末2−1は、移動局間通信用の無線周波数チャネルf2と基地局受信用の無線周波数チャネルf1とを交互にスキャンし、受信信号があるとそのチャネルを受信チャネルに固定して通信を行う。移動局端末2−1は、通信範囲内に存在する移動局端末2−2からの受信信号を検知すると、受信周波数を無線周波数チャネルf2に固定し移動局間の直接通信を行っている。
【0017】
この状態で、基地局無線装置1は、移動局間通信を強制的に終了させ基地局との通信に引き込みたい場合、無線周波数チャネルf2内の通信に使用されていない周波数帯域を用いて移動局間通信を終了させるための妨害を送信する。すなわち、図3に示した送信系統において、送信制御部34から分周器35へ妨害波の周波数データを設定する。これにより、移動局直接通信中の無線周波数チャネル内の使用していない帯域(例えば、図4中BまたはC)に一定時間妨害波を送信する。
【0018】
図6は、移動局端末2−1の受信処理の手順とその内容を示すフローチャートである。
図6において、移動局端末2−1は、移動局間通信用の無線周波数チャネルf2に受信周波数を固定して移動局端末2−2との間で直接通信を開始する(ステップS6a)。復調モジュール23は、受信部22で受信された信号から一定間隔でキャリア成分の受信レベルとチャネルf2内の通信に使用されていない周波数帯域の妨害波の受信レベルとをそれぞれ検出する。検出されたキャリア成分の受信レベルと通信に使用されていない周波数帯域の受信レベルとの比を求める(ステップS6b)。復調モジュール23は、この比が予め決められた閾値より小さいか否かを判定する(ステップS6c)。この比が予め決められた閾値以上であると判定された場合には、キャリア成分が妨害波より十分強いレベルであると判断し、移動局間通信用の無線周波数チャネルf2を用いて移動局端末2−2との間の直接通信を継続して行う。
【0019】
ステップS6cにおいて、上記求められた比が予め決められた閾値より小さいと判定された場合には、キャリア成分と妨害波の強さがほとんど変わらないレベルであると判断し、移動局端末2−2からの所望波の受信が無いものと判定する(ステップS6d)。受信制御部24は、基地局無線装置1の送信周波数をスキャンするタイミングで、分周器25に基地局受信用の無線周波数チャネルf1を設定する(ステップS6e)。
【0020】
なお、上記図6では、検出されたキャリア成分の受信レベルと通信に使用されていない周波数帯域の受信レベルとの比によって、所望波の受信の有無を判定したが、単純に両者の差によって判断するようにしてもよい。
【0021】
以上述べたように上記実施形態では、移動局端末においてキャリア受信の有無を判定する場合に、キャリア成分の帯域(図4中A)の信号の強さのみで判断するのではなく、当該通信で使用中の無線周波数チャネルf2内の使用していない帯域(図4中BまたはC)の信号の強さとの比により判断する。図4において、移動局端末は、Aの成分がBまたはCの成分より十分強い場合のみ所望波を受信していると判断し、Aの成分とBまたはCの成分の強さがほとんど変わらない場合には、受信していないと判断する。移動局端末の有するこの機能を利用して、基地局は、移動局間で通信中の移動局に対して接続しようとする場合に、移動局間通信で使用中の無線周波数チャネルf2内の通信に使用していない帯域(図4中BまたはC)に妨害波を送信する。これにより、移動局端末に所望波を受信していないと判断させ、基地局との通信用の無線周波数チャネルf1に強制的に切り替えさせるようにする。
【0022】
このようにすることで、移動局において、移動局間の通話と基地局からの音声等とが混ざって聞き取れないことや、基地局受信用の無線周波数チャネルをスキャンする間に移動局からの通信が途切れてしまうことがない。よって、移動局同士で直接通信中の移動局であってもその通信を乱すことなく、優先的に基地局との通信に移行させることが可能となる。
【0023】
したがって上記実施形態によれば、移動局間の通信に影響を与えることなく、通信中の移動局を基地局との通信に強制的に引き込むことができる無線通信システムを提供することができる。
【0024】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明に係る無線通信システムの一実施形態を示す概略図。
【図2】図1に示す移動局端末に設けられる無線装置の受信系統を示す図。
【図3】図1に示す基地局無線装置の送信系統を示す図。
【図4】基地局から送信される変調波形モデルの一例を示す図。
【図5】図1に示す無線通信システムの送受信タイミングチャート。
【図6】移動局端末における受信処理の手順とその内容を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0026】
1…基地局無線装置、2−1,2−2…移動局端末、21…アンテナ、22…受信部、23…復調モジュール、24…受信制御部、25…分周器、26…基準信号発振器、27…受信シンセサイザ、31…アンテナ、32…送信部、33…変調モジュール、34…送信制御部、35…分周器、36…基準信号発振器、37…送信シンセサイザ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局と、前記基地局に第1の無線周波数チャネルを介して接続可能な複数の移動局とを備え、前記複数の移動局は、さらに前記第1の無線周波数チャネルと異なる第2の無線周波数チャネルを介して通信範囲内にある他の移動局との間で無線信号を送受信する無線通信システムであって、
前記基地局は、
前記移動局間で通信中の移動局に対して接続しようとする場合に、前記移動局間での通信に使用中の第2の無線周波数チャネル内の通信に使用されていない帯域を用いてその通信を終了させるための妨害波を送信する手段
を具備し、
前記移動局は、
前記他の移動局との間で前記第2の無線周波数チャネルを用いて通信中に、当該第2の無線周波数チャネルのキャリア成分の受信レベルと前記通信に使用されていない帯域の妨害波の受信レベルとをそれぞれ検出する手段と、
前記検出されたキャリア成分の受信レベルと妨害波の受信レベルとの差または比を求める手段と、
前記求められた差または比が予め定められた閾値より小さいか否かを判定する手段と、
前記判定において前記求められた差または比が前記閾値より小さいと判定された場合に、前記第1の無線周波数チャネルを用いて前記基地局との間の通信路を確立する処理を実行する手段と
を具備することを特徴とする無線通信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate