説明

無線通信制御方法、無線通信制御装置及び無線通信システム

【課題】高精度の基地局間同期や通信端末の構成の複雑化を回避することができるとともに、通信端末でのスループットの向上を図りつつ周波数の利用効率を高めることができる無線通信制御方法、無線通信制御装置及び無線通信システムを提供する。
【解決手段】協調制御対象の周波数F1を用いた無線送信のタイミングが互いに重複する複数のセル又は複数のセクタを含む協調制御エリアAを設定し、協調制御エリアAに在圏する複数の通信端末M1〜M3のそれぞれのスループットを加算した総合的なスループットを高めるように、協調制御エリアA内の複数のアンテナのそれぞれから送信する協調制御対象の周波数F1の無線送信の許可及び停止を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセルごとに又はセルを分割した複数のセクタごとに設けられたアンテナから通信端末に送信されるセル方式の無線通信を制御する無線通信制御方法、無線通信制御装置及び無線通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セル方式の無線通信システムにおいて、セル境界やその近傍での通信品質を向上させる方法として、互いに隣接するセル間で同一周波数を用いないように同一周波数の繰り返し距離を遠くにする方法が一般である。
また、最も周波数利用効率が高くできる1セル繰り返し(隣接セルで同一周波数を繰り返す)では、隣接するセルからの同一周波数の電波による干渉が厳しいため、一般には、送信信号をコード拡散するCDMA(Code Division Multiple Access)方式や冗長ビットを付加する誤り訂正符号化方法が採用されている。
また、隣接する複数のセルの境界及びその近傍における干渉を回避するために、セル境界に位置する通信端末(移動局)に対して、互いに隣接する複数の基地局が協調して、同一周波数を用いて同一信号をタイミングを合わせて送信するように基地局間で協調通信制御を行う方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の同一周波数の繰り返し距離を遠くにする方法では、セル境界やその近傍での通信品質は向上するが、周波数利用効率が低くなるという問題点がある。
また、上記従来のCDMA方式でも、1セル繰り返しを行う場合にはセル境界において隣接する他のセルの基地局からの送信信号が強くなるため、コード拡散率を上げるなどの対処を行わなければ復号誤りが発生しやすくなり、通信品質が低下するという問題点がある。
また、上記従来の誤り訂正符号化方法では、付加する冗長ビットが多いほど同一周波数の干渉に対する耐力が増してセル境界での通信品質は向上するが、その分、周波数の利用効率が低くなるという問題点がある。
また、上記従来の基地局間で協調通信制御を行う方法では、同一信号を基地局間で共有して同時送信する必要があることから、高精度の基地局間同期や同時送信制御技術が不可欠となり、基地局間の協調通信制御が非常に複雑になる。また、通信端末(移動局)でも複数の基地局から送信された信号を同時受信して処理する必要があり、通信端末(移動局)の構成が複雑になるという問題点がある。
【0004】
なお、上記各問題点は、通常のセル方式の無線通信システムだけでなく、1セルを複数のセクタ(例えば、3セクタや6セクタ)に分割し各セクタに独立した個別のアンテナから無線送信するセクタセル構成の無線通信システムにおいて、セクタ境界やその近傍での通信品質を向上させようとする場合にも同様に発生し得るものである。
【0005】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、高精度の基地局間同期や通信端末の構成の複雑化を回避することができるとともに、通信端末でのスループットの向上を図りつつ周波数の利用効率を高めることができる無線通信制御方法、無線通信制御装置及び無線通信システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る無線通信制御方法は、複数のセルごとに又はセルを分割した複数のセクタごとに設けられたアンテナから通信端末に送信されるセル方式の無線通信を制御する無線通信制御方法であって、協調制御対象の周波数を用いた無線送信のタイミングが互いに重複する複数のセル又は複数のセクタを含む協調制御エリアを設定し、前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれのスループットを加算した総合的なスループットを高めるように、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのそれぞれから送信する前記協調制御対象の周波数の無線送信の許可及び停止を制御することを特徴とするものである。
【0007】
前記無線通信制御方法において、前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれにおける前記協調制御対象の周波数の無線送信に対する通信品質に基づいて、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのすべてから前記協調制御対象の周波数の無線送信を行う第1の無線通信制御状態と前記協調制御エリア内の複数のアンテナの一部から前記協調制御対象の周波数の無線送信を行わない少なくとも一つの第2の無線通信制御状態とを含む複数種類の無線通信制御状態それぞれについて、前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれのスループットを加算した総合的なスループットを推定し、前記複数種類の無線通信制御状態の中で前記推定した総合的なスループットが最も大きい無線通信制御状態になるように、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのそれぞれから送信する前記協調制御対象の周波数の無線送信の許可及び停止を制御してもよい。
また、前記無線通信制御方法において、前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれが前記協調制御対象の周波数の電波を受信したときの受信電力及び通信品質の情報を取得し、前記複数の通信端末について取得した受信電力及び通信品質の情報に基づいて、前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて前記複数の通信端末それぞれのスループットを推定し、前記複数の通信端末のスループットの推定結果に基づいて、前記総合的なスループットを推定してもよい。
また、前記無線通信制御方法において、前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末のうち指定された一部の通信端末が前記協調制御対象の周波数の電波を受信したときの受信電力及び通信品質の情報を取得し、前記一部の通信端末以外の他の通信端末が前記協調制御対象の周波数の無線送信を受信したときの通信品質の情報を取得し、前記一部の通信端末について取得した受信電力及び通信品質の情報と前記他の通信端末について取得した通信品質の情報とに基づいて、前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて前記複数の通信端末それぞれのスループットを推定し、前記複数の通信端末のスループットの推定結果に基づいて、前記総合的なスループットを推定してもよい。
また、前記無線通信制御方法において、前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて、前記複数の通信端末それぞれのスループットの推定値に調整係数をかけた値を、前記総合的なスループットの推定に用いてもよい。
また、前記無線通信制御方法において、予め設定された所定周期で、前記協調制御エリアにおける前記無線送信の許可及び停止の制御を定期的に行ってもよい。
また、前記無線通信制御方法において、前記複数の通信端末のいずれかにおける前記協調制御対象の周波数の無線送信に対する通信品質が低下したタイミングに、前記協調制御エリアにおける前記無線送信の許可及び停止の制御を行ってもよい。
また、前記無線通信制御方法において、前記協調制御対象の周波数は、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのそれぞれから送信可能な互いに異なる複数の周波数であり、前記複数の周波数ごとに、前記協調制御エリアにおける前記無線送信の許可及び停止の制御を行ってもよい。
【0008】
本発明に係る無線通信制御装置は、複数のセルごとに又はセルを分割した複数のセクタごとに設けられたアンテナから通信端末に送信されるセル方式の無線通信を制御する無線通信制御装置であって、協調制御対象の周波数を用いた無線送信のタイミングが互いに重複する複数のセル又は複数のセクタを含む協調制御エリアを設定された協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれのスループットを加算した総合的なスループットを高めるように、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのそれぞれから送信する前記協調制御対象の周波数の無線送信の許可及び停止を制御する制御手段を備えたことを特徴とするものである。
前記無線通信制御装置において、前記制御手段は、前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれにおける前記協調制御対象の周波数の無線送信に対する通信品質に基づいて、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのすべてから前記協調制御対象の周波数の無線送信を行う第1の無線通信制御状態と前記協調制御エリア内の複数のアンテナの一部から前記協調制御対象の周波数の無線送信を行わない少なくとも一つの第2の無線通信制御状態とを含む複数種類の無線通信制御状態それぞれについて、前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれのスループットを加算した総合的なスループットを推定し、前記複数種類の無線通信制御状態の中で前記推定した総合的なスループットが最も大きい無線通信制御状態になるように、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのそれぞれから送信する前記協調制御対象の周波数の無線送信の許可及び停止を制御してもよい。
また、前記無線通信制御装置において、前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれが前記協調制御対象の周波数の電波を受信したときの受信電力及び通信品質の情報を取得する情報取得手段を備え、前記制御手段は、前記複数の通信端末について取得した受信電力及び通信品質の情報に基づいて、前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて前記複数の通信端末それぞれのスループットを推定し、前記複数の通信端末のスループットの推定結果に基づいて、前記総合的なスループットを推定してもよい。
また、前記無線通信制御装置において、前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末のうち指定された一部の通信端末が前記協調制御対象の周波数の電波を受信したときの受信電力及び通信品質の情報を取得し、前記一部の通信端末以外の他の通信端末が前記協調制御対象の周波数の無線送信を受信したときの通信品質の情報を取得する情報取得手段を備え、前記制御手段は、前記一部の通信端末について取得した受信電力及び通信品質の情報と前記他の通信端末について取得した通信品質の情報とに基づいて、前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて前記複数の通信端末それぞれのスループットを推定し、前記複数の通信端末のスループットの推定結果に基づいて、前記総合的なスループットを推定してもよい。
また、前記無線通信制御装置において、前記制御手段は、前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて、前記複数の通信端末それぞれのスループットの推定値に調整係数をかけた値を、前記総合的なスループットの推定に用いてもよい。
また、前記無線通信制御装置において、前記制御手段は、予め設定された所定周期で、前記協調制御エリアにおける前記無線送信の許可及び停止の制御を定期的に行ってもよい。
また、前記無線通信制御装置において、前記制御手段は、前記複数の通信端末のいずれかにおける前記協調制御対象の周波数の無線送信に対する通信品質が低下したタイミングに、前記協調制御エリアにおける前記無線送信の許可及び停止の制御を行ってもよい。
また、前記無線通信制御装置において、前記協調制御対象の周波数は、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのそれぞれから送信可能な互いに異なる複数の周波数であり、前記制御手段は、前記複数の周波数ごとに、前記協調制御エリアにおける前記無線送信の許可及び停止の制御を行うことを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る無線通信システムは、複数のセルごとに又はセルを分割した複数のセクタごとに設けられたアンテナから通信端末に無線送信されるセル方式の無線通信システムであって、前記無線通信制御装置のいずれかと、その無線通信制御装置で無線送信の許可及び停止が制御される複数の無線送信装置と、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、協調制御エリアに含まれる複数のセル又はセクタにおいて互いに重複するタイミングで同一の協調制御対象の周波数を用いた無線送信が行うことができるので、複数のセル又は複数のセクタにおける周波数の利用効率を高めることができる。また、この協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれのスループットを加算して得られる総合的なスループットを高めるように、協調制御エリア内の複数のアンテナのそれぞれから送信する協調制御対象の周波数の無線送信の許可及び停止が制御される。このように協調制御エリアに在圏する複数の通信端末について総合的なスループットを高める制御により、高精度の基地局間同期や通信端末の構成の複雑化を回避しつつ、協調制御エリアに含まれる複数のセル又はセクタにおける総合的なスループットの向上を図ることができる。以上のように、本発明によれば、高精度の基地局間同期や通信端末の構成の複雑化を回避することができるとともに、通信端末でのスループットの向上を図りつつ周波数の利用効率を高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る無線通信システムの構成の一例を模式的に示す説明図。
【図2】本実施形態の無線通信システムにおける基地局の要部構成の一例を示すブロック図。
【図3】協調制御装置で実行される協調制御の一例を示すフローチャート。
【図4】本発明を適用可能なセクタセル構造の一例を模式的に示す説明図。
【図5】同無線通信システムに用いられる基地局の要部構成を示すブロック図。
【図6】本発明を適用可能なセクタセル構造の他の例を模式的に示す説明図。
【図7】同無線通信システムに用いられる基地局の要部構成を示すブロック図。
【図8】本発明を適用可能なセクタセル構造の更に他の例を模式的に示す説明図。
【図9】同無線通信システムに用いられる基地局の要部構成を示すブロック図。
【図10】協調制御装置で実行される協調制御の他の例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る無線通信システムの構成の一例を模式的に示す説明図である。本実施形態に係る無線通信システム10では、協調制御対象の任意の周波数F1を用いた無線送信のタイミングが互いに重複する複数のセル(図示の例では3つのセルC1〜C3)を含む協調制御エリアAが設定されている。そして、その協調制御エリアAにおいて、自セルに在圏する移動局である通信端末(以下「端末」という。)M1〜M3それぞれに隣接セルから送信される同一周波数F1の干渉の状況に応じて、各セルC1〜C3の基地局B1〜B3それぞれの送信の許可及び停止を制御できる構成となっている。図示の例は、3つのセルC1〜C3のうちセルC1、C3の基地局B1、B3それぞれの送信が許可され、残りのセルC2の基地局B2の送信が停止するように制御されている例である。
【0013】
なお、図示の例では、協調制御エリアAに含まれるセル及び基地局がそれぞれ3つである場合について説明するが、協調制御エリアAに含まれるセル及び基地局はそれぞれ2つ又は4つ以上であってもよい。また、図示の例では、各セルC1〜C3に1台の端末が在圏しているが、各セルC1〜C3に複数台の端末が在圏してもよい。また、上記基地局B1〜B3は、3GPP(Third Generation Partnership Project)の仕様においては「NodeB」と呼ばれたり、更に、LTE(Long Term Evolution)の仕様では発展型のNodeBとして「eNodeB(evolved Node B)」と呼ばれたりする場合がある。また、無線通信システム10は、複数の基地局B1〜B3からの信号を受信可能な端末M1〜M3を含んでもよい。また、端末M1〜M3は、通信サービスの利用者によって使用されるためユーザ装置(UE:User Equipment)と呼ばれる場合があり、移動可能なものであるため移動局と呼ばれる場合もあり、また、無線機と呼ばれる場合もある。端末M1〜M3は、携帯電話機等の移動通信端末であってもよい。また、上記セルC1〜C3はそれぞれ、互いに大きさが異なるマクロセル、マイクロセル、フェムトセル、ピコセル等の各種セルのいずれかであってもよい。
【0014】
上記各セルの基地局の送信の許可及び停止を制御する協調制御装置100は、協調制御エリアA内の複数のセルC1〜C3それぞれに設けられた基地局B1〜B3と、図示しない通信回線を介して通信できるように接続されている。
【0015】
協調制御装置100は、協調制御エリアAに在圏する複数の端末M1〜M3それぞれのスループットを加算した総合的なスループットを高めるように、協調制御エリアA内の複数の基地局B1〜B3のアンテナのそれぞれから送信する協調制御対象の周波数F1の無線送信の許可及び停止を制御する。
【0016】
また、上記無線送信の許可及び停止のより具体的な制御例では、協調制御装置100は、協調制御エリアAに在圏する複数の端末M1〜M3それぞれにおける協調制御対象の周波数F1の無線送信に対する通信品質の情報を取得する。そして、協調制御装置100は、その取得した端末M1〜M3における通信品質の情報に基づき、複数種類の無線通信制御状態それぞれについて協調制御エリアAに在圏する複数の端末M1〜M3それぞれのスループットを加算した総合的なスループットを推定する。上記複数種類の無線通信制御状態は、協調制御エリアA内の複数の基地局B1〜B3のアンテナのすべてから協調制御対象の周波数F1の無線送信を行う第1の無線通信制御状態と、協調制御エリアA内の複数の基地局B1〜B3のアンテナの一部から協調制御対象の周波数F1の無線送信を行わない少なくとも一つの第2の無線通信制御状態とを含む。協調制御装置100は、上記複数種類の無線通信制御状態の中で総合的なスループットの推定値が最も大きい無線通信制御状態になるように、協調制御エリアA内の複数の基地局B1〜B3のアンテナのそれぞれから送信する協調制御対象の周波数F1の無線送信の許可及び停止を制御する。
【0017】
図2は、本実施形態の無線通信システムにおける基地局の要部構成の一例を示すブロック図である。図2において、基地局200(図1のB1〜B3)は、基地局内制御装置210と、互いに異なる複数の送信周波数F1〜Fn(n:基地局が送信に使用可能な周波数の最大個数)ごとに設けられた複数の無線送信装置220(S1〜Sn)と、アンテナ230とを備えている。基地局内制御装置210は、端末B1〜B3におけるスループットを推測するための周波数毎の通信品質(例えば、SINR:Signal-to-Interference and Noise power Ratio)の情報を協調制御装置100に送信するように制御する。ここで、基地局内制御装置210は、上記通信品質の情報とともに、基地局から送信された電波の受信電力の情報を、協調制御装置100に送信するように制御してもよい。また、基地局内制御装置210は、協調制御装置100から周波数毎の協調制御情報(送信停止の有無)を受信し、無線送信装置220における無線送信のオン/オフを制御する。また、複数の無線送信装置220はそれぞれ、図示しないベースバンド信号処理装置で生成された信号に基づいて所定の周波数F1〜Fn及び送信電力の高周波信号を生成し、アンテナ230に送る。
【0018】
上記構成の無線通信システムに用いる協調制御装置100のハードウェアは、例えば、有線伝送路インターフェース部、制御手段としての信号処理装置などで構成される。これらのハードウェア構成のうち、有線伝送路インターフェース部は各基地局200内の基地局内制御装置210と通信する手段として機能する。また、信号処理装置は、所定の制御プログラムが実行されることにより、協調制御エリアの決定、協調制御エリア内の各端末における通信品質や受信電力の情報の受信、協調制御エリア内の基地局に対する周波数毎の協調制御情報(送信停止の有無)の生成及び送信などを行うように制御する。
【0019】
また、上記構成の無線通信システムに用いる基地局のハードウェアは、例えば、アンテナ、送信増幅器、受信増幅器、無線信号処理部、ベースバンド信号処理部、有線伝送路インターフェース部、信号処理装置などで構成される。これらのハードウェア構成のうち、送信増幅器及び無線信号処理部は前述の無線送信装置220に対応し、有線伝送路インターフェース部は協調制御装置100と通信する手段として機能し、また、受信増幅器及び無線信号処理部は端末と通信する手段として機能する。信号処理装置は、例えばマイクロプロセッサで構成され、前述の基地局内制御装置210として機能し、予め組み込まれた所定の制御プログラムに基づいて各部を制御する。特に、信号処理装置は、所定の制御プログラムが実行されることにより、協調制御装置100から周波数毎の協調制御情報(送信停止の有無)を受信し、その協調制御情報に基づいて、無線送信装置220(送信増幅器及び無線信号処理部)における無線送信のオン/オフを制御する。
【0020】
図3は、上記協調制御装置100で実行される協調制御の一例を示すフローチャートである。なお、図3の例では、協調制御対象の周波数が任意の一つの場合について示しているが、協調制御対象の周波数が複数の場合は、その複数の周波数それぞれについて図3の制御が実行される。
【0021】
図3において、協調制御装置100は、まず、複数のセル及び基地局を含む協調制御エリアを決定する(S101)。ここでは、協調制御エリア内の基地局をB1、B2、−−−、Bnとする。また、協調制御対象の同一周波数を使用する各セルに在圏する端末(移動局)をM1、M2、−−−、Mnとする。ここで、基地局Bnの添え字nは、協調制御エリア内の基地局の総数であり、端末Mnの添え字nは、協調制御エリア内で協調制御対象の周波数を使用して基地局と通信する端末の総数である。
【0022】
次に、協調制御装置100は、上記すべての基地局B1、B2、−−−、Bnから協調制御対象の同一周波数を用いた送信を行った場合について、協調制御エリア内の各セルの端末M1、M2、−−−、Mnのスループットを推定し、各端末のスループットの推定値を加算して協調制御エリアの総合的なスループット(以下、「トータルスループット」という。)CTを算出する(S102)。
【0023】
上記トータルスループットCTは、例えば次のように各端末の「SINR」と「シャノン容量」とを用いて算出することができる。まず、端末M1、M2、−−−、MnそれぞれのSINR:Γiは、下記の(1)式で推定することができる。ここで、式中のEiiは、端末Miが在圏するセルの基地局Biから受信した電波の受信電力であり、Noはノイズの受信電力であり、Eikは端末Miが在圏するセルに隣接するセルの基地局Bkから受信した電波の受信電力であり、αkは基地局からの送信の有無を指定するための調整係数である。すべての基地局B1、B2、−−−、Bnから送信される(1)式では、調整係数αkはすべて1である(αk=1)。
【数1】

【0024】
なお、上記調整係数αkは、特別な端末についてSINR(通信品質)又はスループットを強調したい場合に利用することができる。例えば、SINR(通信品質)又はスループットを強調したい端末に対応する調整係数αkに1よりも大きな値を設定する。
【0025】
上記トータルスループットとしてのシャノン容量CTは、上記端末M1、M2、−−−、MnそれぞれのSINR:Γiを用いて算出した各端末のシャノン容量Ciを加算することにより、次の(2)式に示すように算出することができる。
【数2】

【0026】
次に、協調制御装置100は、トータルスループットの最大推定値CT’maxの初期化(CT'max=0)を行い(S103)、その後、上記協調制御対象の同一周波数について基地局B1、B2、−−−、Bnからの送信の1つまたは複数を停止した場合の端末M1、M2、−−−、MnのスループットC1、C2、−−−、Cn及びそれらを加算したトータルスループットCT'を推定する(S104)。
【0027】
図3の例において、上記基地局の送信停止制御を仮定した場合の各端末のSINR及びトータルスループットCT’の推定は、例えば次のアルゴリズムで行うことができる。
まず、協調制御エリア内の基地局を一つ又は複数の組合わせを順次選択する。ここで、各組合わせは互いに異なる複数種類の無線通信制御状態それぞれに対応する。この複数種類の無線通信制御状態は、協調制御エリア内の複数の基地局のアンテナのすべてから協調制御対象の周波数の無線送信を行う第1の無線通信制御状態と、協調制御エリア内の複数の基地局のアンテナの一部から協調制御対象の周波数の無線送信を行わない複数の第2の無線通信制御状態とを含む。次に、上記選択した基地局からの送信の停止を仮定し、送信されている基地局のセルに在圏する端末についてSINRの値を推定し、そのSINRの推定値に基づいて各端末のスループットCi’を推定する。次に、各端末のスループットCi’の推定値を加算してトータルスループット(CT’)を推定する。ここで、トータルスループットの推定値CT’が、トータルスループットの最大推定値CT’maxよりも大きい場合は、そのトータルスループットの推定値でトータルスループットの最大推定値CT'maxを更新する。
【0028】
上記トータルスループットの算出値CTの場合と同様に、例えば次のように「SINR」と「シャノン容量」とを用いて推定することができる。まず、端末M1、M2、−−−、MnそれぞれにおけるSINR:Γi’は、下記の(3)式で推定することができる。ここで、式中のEii、No、Eik及びαkについては、上記(1)式の場合と同様である。但し、(3)式において、上記選択された基地局については送信が停止されるので係数αkに0が設定され(αk=0)、上記選択された基地局以外の基地局については送信されるので係数αkに1が設定される(αk=1)。
【数3】

【0029】
なお、上記(3)式の調整係数αkについても、特別な端末についてSINR(通信品質)またスループットを強調したい場合に利用することができる。例えば、SINR(通信品質)またスループットを強調したい端末に対応する調整係数αkに1よりも大きな値を設定する。
【0030】
上記各組合せの場合のトータルスループットとしてのシャノン容量CT’の推定値は、上記端末M1、M2、−−−、MnそれぞれのSINR:Γi’を用いて、次の(4)式のように推定することができる。
【数4】

【0031】
次に、協調制御装置100は、上記協調制御エリア内の基地局のすべての組合わせについて上記トータルスループットの推定が終了したら(S105でYes)、上記すべての基地局B1、B2、−−−、Bnから協調制御対象の同一周波数を用いた送信を行った場合のトータルスループットの算出値CTと、トータルスループットの最大推定値CT’maxとを比較する(S106)。
【0032】
ここで、上記トータルスループットの最大推定値CT’maxがトータルスループットの算出値CTよりも大きい場合、すなわち、CT<CT'となる場合(S106でYes)は、そのトータルスループットの最大推定値CT'maxを実現するように、協調制御エリアに含まれる基地局B1、B2、−−−、Bnの送信の許可及び停止を制御する協調制御を実行する(S107)。この協調制御は、基地局毎に送信をオン/オフするだけの制御であることから、制御は非常に簡易である。また、端末は、従来通りの受信であることから特別の機能追加等を必要としない。
【0033】
一方、上記トータルスループットの最大推定値CT’maxがトータルスループットの算出値CT以下の場合、すなわち、CT≧CT'となる場合(S106でNo)は、上記協調制御を実行しない(S108)。
【0034】
次に、図1の無線通信システムのように協調制御エリアAが3つのセルC1〜C3及び基地局B1〜B3を含む場合について、上記図3の協調制御(送信停止制御)を適用した具体例について説明する。
【0035】
図1の無線通信システムにおいて、協調制御協調制御(送信停止制御)なしの場合、すなわちすべての基地局B1〜B3から送信する場合、各端末M1、M2、M3それぞれのSINR:Γ1、Γ2、Γ3の値、及びそれらを用いて算出した各端末のスループットとしてのシャノン容量C1、C2、C3の値は、次の(5)式〜(10)式のように推定することができる。
【数5】

【数6】

【数7】

【数8】

【数9】

【数10】

【0036】
上記協調制御協調制御(送信停止制御)なしの場合のトータルスループット(シャノン容量)CTは、上記各端末のシャノン容量C1、C2、C3の値を加算して、CT=2.96となる。
【0037】
一方、図1の無線通信システムにおいて、基地局B2からの送信を停止する協調制御(送信停止制御)ありの場合、各端末M1、M2、M3それぞれのSINR:Γ1’、Γ2’、Γ3’の値、及びそれらを用いて算出した各端末のスループット(シャノン容量)C1’、C2’、C3’の値は、次の(11)式〜(16)式のように推定することができる。
【数11】


【数12】


【数13】


【数14】


【数15】


【数16】


上記協調制御協調制御(送信停止制御)ありの場合のトータルスループット(シャノン容量)CT’は、上記各端末のスループット(シャノン容量)C1’、C2’、C3’の値を加算して、CT=6.6となる。
【0038】
協調制御装置100は、上記協調制御協調制御(送信停止制御)なし及びありの場合のトータルスループット(シャノン容量)CT及びCT’の推定結果から、CT(=2.96)<CT’(=6.6)となるので、図1の無線通信システムにおいて基地局B2からの送信を停止し、他の基地局B1、B3からの送信はそのまま許可するように制御する。
【0039】
次に、セルを分割した複数のセクタ毎にアンテナを設けて送信するセクタセル構成の無線通信システムに本発明を適用した場合の実施形態について説明する。
【0040】
図4は、本発明を適用可能な無線通信システムのセクタセル構造の一例を模式的に示す説明図であり、図5は、その無線通信システムに用いられる基地局の要部構成を示すブロック図である。本例において、協調制御エリアAに含まれる複数のセルC1、C2、C3はそれぞれ、水平面内指向性アンテナ231、232、233により3つのセクタに分割された3セクタ構成である。図4において、セルC1はセクタS11〜S13で構成され、セルC2はセクタS21〜S23で構成され、セルC3はセクタS31〜S33で構成されている。各セルの基地局において、上記3セクタそれぞれに送信する無線送信装置S1、S2、S3は、同一の基地局装置内に設置されている。無線送信装置S1、S2、S3はそれぞれ、ベースバンド信号処理装置240で生成された信号に基づいて同一周波数及び送信電力の高周波信号を生成し、アンテナ231、232、233に送る。また、複数のセルC1、C2、C3の基地局B1、B2、B3に対して共通に一つの協調制御装置100が設けられ、協調制御装置100と複数の基地局B1、B2、B3ごとに設けられている基地局内制御装置210とは、通信回線300を介して通信できるように接続されている。本例の場合、図4中の破線で示すセル境界及びセクタ境界並びにそれらの近傍に在圏する端末が、複数のアンテナから同一周波数の電波を受信する場合でも、協調制御エリアAにおけるトータルスループットの向上を図りつつ、周波数の利用効率を高めることができる。
【0041】
図6は、本発明を適用可能な無線通信システムのセクタセル構造の他の例を模式的に示す説明図であり、図7は、その無線通信システムに用いられる基地局の要部構成を示すブロック図である。なお、図4及び図5と共通する部分については同じ符号を付し、それらの説明は省略する。
本例において、協調制御エリアAは、セルC1の3つのセクタS11、S12、S13を含むように決定されている。また、協調制御装置100は、各基地局200内に設けられている。
本例の場合、図6中の破線で示すセクタ境界及びその近傍に在圏する端末が、複数のアンテナから同一周波数の電波を受信する場合でも、協調制御エリアAにおけるトータルスループットの向上を図りつつ、周波数の利用効率を高めることができる。
特に、本例では、協調制御装置100及び基地局内制御装置210が各基地局200内に設けられているので、協調制御装置100と基地局内制御装置210との間の通信回線御及び通信プロトコルが不要となる。従って、無線通信システム全体の構成が簡易になる。
【0042】
図8は、本発明を適用可能な無線通信システムのセクタセル構造の他の例を模式的に示す説明図であり、図9は、その無線通信システムに用いられる基地局の要部構成を示すブロック図である。なお、図4及び図5と共通する部分については同じ符号を付し、それらの説明は省略する。
【0043】
図8及び9に示す例において、協調制御エリアAは、互いに隣接するセルC1の3つのセクタS11とセルC2のセクタS22とセルC3のセクタS33とを含むように決定されている。
【0044】
また、上記協調制御エリアA内のセクタS11、S22及びS33に送信する信号を生成するベースバンド信号処理装置240及び無線送信装置220(S1,S2,S3)等を備えた基地局200(B1)は、セルC1内又は他の任意の場所に設けることができる。同様に、セクタS21、S42及びS53に送信する信号を生成する基地局200(B2)は、セルC2内又は他の任意の場所に設けることができ、セクタS31、S52及びS63に送信する信号を生成する基地局200(B3)は、セルC3内又は他の任意の場所に設けることができる。また、協調制御装置100は、各基地局200(B1,B2,B3)内に設けられている。
【0045】
基地局B1と各セクタS11、S22及びS33への送信に用いるアンテナ231、232、233とは、いわゆる光張り出し技術(Radio on Fiber 装置/Remote Radio Header)を用いて接続されている。例えば、セクタS11へ送信するようにセルC1の中央部に設けられたアンテナ231には、基地局200(B1)の無線送信装置220(S1)から、電気信号を光信号に変換する電気/光変換器(E/O変換器)251、光伝送媒体である光ファイバ311、光信号を電気信号に変換する光/電気変換器(O/E変換器)271及び高周波増幅器261を介して接続されている。また、セクタS22へ送信するようにセルC2の中央部に設けられたアンテナ232には、基地局200(B1)の無線送信装置220(S2)から、電気/光変換器252、光ファイバ312、光/電気変換器272及び高周波増幅器262を介して接続されている。また、セクタS33へ送信するようにセルC3の中央部に設けられたアンテナ233には、基地局200(B1)の無線送信装置220(S3)から、電気/光変換器253、光ファイバ313、光/電気変換器273及び高周波増幅器263を介して接続されている。光ファイバ311,312,313としては、例えば光アクセス網等を利用することができる。
【0046】
本例の場合、図6中の破線で示すセル境界及びその近傍に在圏する端末が、複数のアンテナから同一周波数の電波を受信する場合でも、協調制御エリアAにおけるトータルスループットの向上を図りつつ、周波数の利用効率を高めることができる。
特に、本例の協調制御によってスループットの向上を図ることができるセル間境界領域(図8中の破線の楕円の領域X12,X23,X31)は、「従来のセクタセル構成」におけるアンテナから遠いセル間境界領域と等価にすることができる。従って、「従来のセクタセル構成」においてセクタ間協調を行う場合に比べて、より大きなスループット向上効果が期待できる。
また、本例では、協調制御装置100及び基地局内制御装置210が各基地局200内に設けられているので、協調制御装置100と基地局内制御装置210との間の通信回線御及び通信プロトコルが不要となる。従って、無線通信システム全体の構成が簡易になる。
【0047】
なお、上記各実施形態において、協調制御エリアに在圏する端末M1、M2、−−−、Mnは、協調制御エリア内の各基地局B1、B2、−−−、Bnの受信電力Eik(k=1,2,−−−,n)を測定するとともに、通信品質情報であるSINR:Γi(i=1,2,−−−,n)を測定してもよい。各端末Mi(i=1,2,−−−,n)は、上記測定した受信電力Eik及びSINR:Γiのデータを定期的に、当該端末が在圏するセルの基地局に送信する。協調制御装置100は、各端末Mi(i=1,2,−−−,n)から送信された受信電力Eik及びSINR:Γiの情報を各基地局から受信して取得することができる。ここで、各端末MiにおけるSINR:Γiは次の(17)式で計算される。式中のIiは協調制御エリア以外にある基地局から送信された電波による干渉電力である。
【数17】

【0048】
上記情報を取得した協調制御装置100は、協調制御エリア内のすべての基地局B1、B2、−−−、Bnからの送信を停止しない場合について、各端末MiにおけるスループットCi及び協調制御エリアにおけるトータルスループットCTを推定する。例えば、スループットとしてシャノン容量を用いる場合は、次の(18)式及び(19)式を用いて、上記スループットCi及びトータルスループットCTを推定することができる。
【数18】


【数19】

【0049】
なお、上記(18)式及び(19)式中の調整係数aiは、特別な端末MiについてスループットCiを強調したい場合に利用することができる。例えば、スループットCiを強調したい端末に対応する調整係数aiに1よりも大きな値を設定する。
【0050】
更に、協調制御装置100は、基地局B1、B2、−−−、Bnからの送信の1つまたは複数を停止した場合の各端末M1、M2、−−−、MnにおけるSINR(通信品質):Γ1’、Γ2’、−−−、Γn’及びスループットC1’、C2’、−−−、Cn’を推定する。この各端末MiにおけるスループットCi’に基づいて、協調制御エリアにおけるトータルスループットCT’を推定する。例えば、スループットとしてシャノン容量を用いる場合は、次の(20)式〜(22)式を用いて、上記SINR(通信品質):Γi’、スループットCi’及びトータルスループットCT’を推定することができる。
【数20】


【数21】


【数22】

【0051】
なお、上記(21)式及び(22)式中の調整係数aiについても、特別な端末MiについてスループットCi’を強調したい場合に利用することができる。例えば、スループットCi’を強調したい端末に対応する調整係数aiに1よりも大きな値を設定する。
【0052】
また、前述の協調制御エリアにおける各端末のSINR(通信品質)及びスループットは、以下に示すように簡易的に推定してもよい。
端末Miが短い周期で定期的に協調制御エリア内の各基地局からの受信電力Eik(k=1,2,−−−,n)及びSINR(通信品質):Γiを測定し、その測定された情報を協調制御装置に送信することは、非常に大きな負荷となる。そこで、各端末から協調制御装置への情報送信を削減するために、上記受信電力Eikの情報を取得する端末、すなわち協調制御装置が上記受信電力Eikの情報を取得する端末を制限する。
例えば、協調制御エリアに在圏する複数の端末のうち予め指定された一部の端末(詳細測定が指示されていない端末)Miは、定期的に、その端末が在圏するセル(自局エリア)でのSINR(通信品質):Γiだけを測定し、その測定結果の情報を、当該セルの基地局及び協調制御装置に送信する(簡易測定)。
一方、前記一部の端末以外の他の端末(詳細測定が指示されている端末)Miは、協調制御エリア内の各基地局の受信電力Eik(k=1,2,−−−,n)及びSINR(通信品質):Γiを測定し、その測定結果の情報を、当該セルの基地局及び協調制御装置に送信する(詳細測定)。
協調制御装置は、上記詳細測定が指示されている端末Miについては、その端末Miから取得した受信電力Eik及びSINR(通信品質):Γiの情報に基づいて、次の(23)式及び(24)式に示すように、1つまたは複数を停止した場合のSINR:Γi’を推定し、スループットCi’(シャノン容量)を推定する。
【数23】


【数24】

【0053】
また、協調制御装置は、上記詳細測定が指示されていない端末Miについては、その端末Miから取得したSINR(通信品質):Γiの情報に基づいて、次の(25)式に示すようにスループットCi(シャノン容量)を推定する。
【数25】

【0054】
協調制御装置は、上記(24)式及び(25)式で推定した各端末のスループットに基づいて、下記の(26)式に示すように、協調制御エリア内の基地局B1、B2、−−−、Bnからの送信の1つまたは複数を停止した場合のトータルスループットCT’(シャノン容量)を近似的に推定することができる。なお、(26)式において、n1は、上記詳細測定が指示された端末Miの数である。また、上記(24)式〜(26)式中の調整係数ai及びai’も、特別な端末MiについてスループットCi、Ci’を強調したい場合に利用することができる。通常は、調整係数ai、ai’に1が設定されるが、例えば、スループットCi、Ci’を強調したい端末に対応する調整係数ai、ai’に1よりも大きな値を設定する。
【数26】

【0055】
また、上記各実施形態において、協調制御エリアにおける無線送信の許可及び停止を制御する協調制御を実行するタイミングは、予め設定した周期で定期的に行ってもよいが、このタイミングに限定されるものではない。
【0056】
例えば、図10に示すように、協調制御エリア内の複数の端末のいずれか通信品質が低下したタイミングに、上記協調制御を実行してもよい。
図10において、協調制御装置100は、複数のセル及び基地局を含む協調制御エリアを決定し(S201)、協調制御エリア内の各端末から通信品質情報(SINR及び受信電力)を受信する。そして、協調制御装置100は、協調制御エリア内の通信品質が低下した端末から通信品質情報を受信する(S202)と、そのタイミングで上記協調制御でトータルスループットが改善するか否か、すなわち前述の判定式CT<CT’maxを満たすか否かを判断する(S203)。ここで、トータルスループットが改善すると判断した場合(S203でYes)は、上記協調制御が実行され(S204)、トータルスループットが改善しないと判断した場合(S203でNo)は上記協調制御が実行されない(S205)。
【0057】
以上、本実施形態によれば、協調制御エリアAに含まれる複数のセル又はセクタにおいて互いに重複するタイミングで同一の協調制御対象の周波数F1を用いた無線送信が行うことができるので、複数のセル又は複数のセクタにおける周波数の利用効率を高めることができる。また、この協調制御エリアAに在圏する複数の端末それぞれのスループットを加算して得られるトータルスループットを高めるように、協調制御エリアA内の複数のアンテナのそれぞれから送信する周波数F1の無線送信の許可及び停止が制御される。この制御により、高精度の基地局間同期や端末の構成の複雑化を回避しつつ、協調制御エリアAに含まれる複数のセル又はセクタにおけるトータルスループットCTの向上を図ることができる。
特に、本実施形態によれば、協調制御エリアAに在圏する複数の端末それぞれにおける通信品質(SINR)に基づいて、協調制御エリアA内の複数のアンテナのすべてから周波数F1の無線送信を行う第1の無線通信制御状態と、協調制御エリアA内の複数のアンテナの一部から周波数F1の無線送信を行わない少なくとも一つの第2の無線通信制御状態とを含む複数種類の無線通信制御状態それぞれについて、協調制御エリアに在圏する複数の端末それぞれのスループットCi、Ci’を加算したトータルスループットCT、CT’を推定し、その複数種類の無線通信制御状態の中でトータルスループットが最も大きい無線通信制御状態になるように、協調制御エリアA内の複数のアンテナのそれぞれから送信する周波数F1の無線送信の許可及び停止を制御している。このように予め複数種類の無線通信制御状態を想定してトータルスループットCT、CT’を推定して制御することにより、協調制御エリアAに含まれる複数のセル又はセクタにおけるトータルスループットCTをより確実に向上させることができる。
また、本実施形態によれば、協調制御エリアAに在圏する複数の端末それぞれが周波数F1の電波を受信したときの受信電力及び通信品質(SINR)の情報を取得し、その複数の端末について取得した受信電力及び通信品質(SINR)の情報に基づいて、前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて複数の端末それぞれのスループットCi、Ci’を推定し、その複数の端末のスループットの推定結果Ci、Ci’に基づいてトータルスループットCT、CT’を推定している。このように協調制御エリアA内の各端末の受信電力及び通信品質(SINR)の情報を取得して用いることにより、スループットCi、Ci’としてシャノン容量を算出することができるため、スループットCi、Ci’の推定が容易になる。
また、本実施形態によれば、協調制御エリアAに在圏する複数の端末のうち指定された一部の端末(詳細測定が指示されている端末)が周波数F1の電波を受信したときの受信電力及び通信品質(SINR)の情報を取得し、前記一部の端末以外の他の端末(詳細測定が指示されていない端末)が周波数F1の無線送信を受信したときの通信品質(SINR)の情報を取得し、前記一部の端末について取得した受信電力及び通信品質(SINR)の情報と前記他の端末について取得した通信品質(SINR)の情報とに基づいて、前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて複数の端末それぞれのスループットCi、Ci’を推定し、その複数の端末のスループットCi、Ci’の推定結果に基づいてトータルスループットCT、CT’を推定している。このように協調制御エリアAに在圏する複数の端末のうち詳細測定が指示されていない端末については、通信品質(SINR)の情報のみを測定させて取得することができるため、通信の負荷を低減することができる。
また、本実施形態によれば、前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて、複数の端末それぞれのスループットの推定値に調整係数αi、aiをかけた値をトータルスループットの推定に用いることにより、特定の端末のスループットCi、Ci’を強調してトータルスループットCT、CT’を推定することができる。
また、本実施形態によれば、予め設定された所定周期で、協調制御エリアAにおける無線送信の許可及び停止の制御を定期的に行うことにより、当該制御の実行タイミングの判断が容易になる。
また、本実施形態によれば、協調制御エリアAに在圏する複数の通信端末のいずれかにおける周波数F1の無線送信に対する通信品質が低下したタイミングに、協調制御エリアAにおける無線送信の許可及び停止の制御を行うことにより、通信の負荷の低減を図りつつ、協調制御エリアAのトータルスループットを向上させることができる。
【0058】
なお、上記各実施形態では、協調制御対象の周波数が単一の周波数である場合について説明したが、本発明は、協調制御対象の周波数が互いに異なる複数の周波数である場合にも同様に適用することができる。この場合、協調制御装置100は、複数の周波数ごとに、前記協調制御エリアにおける無線送信の許可及び停止の制御を実行する。
また、上記各実施形態では、上記スループット及びトータルスループットそれぞれを示すパラメータとしてシャノン容量を用いた場合について説明したが、本発明は、シャノン容量以外のパラメータをスループット及びトータルスループットとして用いた場合にも同様に適用できる。
また、上記各実施形態では、上記端末の通信品質としてSINRを用いた場合について説明したが、本発明は、SINR以外のパラメータを通信品質として用いた場合にも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
100 協調制御装置
200 基地局
210 基地局内制御装置
220 無線送信装置
230 アンテナ
231,232,233 アンテナ
240 ベースバンド信号処理装置
251,252,253 電気/光変換器(E/O変換器)
261,262,263 高周波増幅器
271,272,273 光/電気変換器(O/E変換器)
300 通信回線
311,312,313 光ファイバ
A 協調制御エリア
B1,B2,B3 基地局
C1,C2,C3 セル
M1,M2,M3 端末(移動局)
S11,S12,S13 セクタ
S21,S22,S23 セクタ
S31,S32,S33 セクタ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0060】
【特許文献1】特開2002−027534号公報
【特許文献2】特開2009−171382号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルごとに又はセルを分割した複数のセクタごとに設けられたアンテナから通信端末に送信されるセル方式の無線通信を制御する無線通信制御方法であって、
協調制御対象の周波数を用いた無線送信のタイミングが互いに重複する複数のセル又は複数のセクタを含む協調制御エリアを設定し、
前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれのスループットを加算した総合的なスループットを高めるように、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのそれぞれから送信する前記協調制御対象の周波数の無線送信の許可及び停止を制御することを特徴とする無線通信制御方法。
【請求項2】
請求項1の無線通信制御方法において、
前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれにおける前記協調制御対象の周波数の無線送信に対する通信品質に基づいて、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのすべてから前記協調制御対象の周波数の無線送信を行う第1の無線通信制御状態と前記協調制御エリア内の複数のアンテナの一部から前記協調制御対象の周波数の無線送信を行わない少なくとも一つの第2の無線通信制御状態とを含む複数種類の無線通信制御状態それぞれについて、前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれのスループットを加算した総合的なスループットを推定し、
前記複数種類の無線通信制御状態の中で前記推定した総合的なスループットが最も大きい無線通信制御状態になるように、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのそれぞれから送信する前記協調制御対象の周波数の無線送信の許可及び停止を制御する
ことを特徴とする無線通信制御方法。
【請求項3】
請求項2の無線通信制御方法において、
前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれが前記協調制御対象の周波数の電波を受信したときの受信電力及び通信品質の情報を取得し、
前記複数の通信端末について取得した受信電力及び通信品質の情報に基づいて、前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて前記複数の通信端末それぞれのスループットを推定し、
前記複数の通信端末のスループットの推定結果に基づいて、前記総合的なスループットを推定することを特徴とする無線通信制御方法。
【請求項4】
請求項2の無線通信制御方法において、
前記協調制御エリアに在圏する複数の通信端末のうち指定された一部の通信端末が前記協調制御対象の周波数の電波を受信したときの受信電力及び通信品質の情報を取得し、
前記一部の通信端末以外の他の通信端末が前記協調制御対象の周波数の無線送信を受信したときの通信品質の情報を取得し、
前記一部の通信端末について取得した受信電力及び通信品質の情報と前記他の通信端末について取得した通信品質の情報とに基づいて、前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて前記複数の通信端末それぞれのスループットを推定し、
前記複数の通信端末のスループットの推定結果に基づいて、前記総合的なスループットを推定することを特徴とする無線通信制御方法。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかの無線通信制御方法において、
前記複数種類の無線通信制御状態それぞれについて、前記複数の通信端末それぞれのスループットの推定値に調整係数をかけた値を、前記総合的なスループットの推定に用いることを特徴とする無線通信制御方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの無線通信制御方法において、
予め設定された所定周期で、前記協調制御エリアにおける前記無線送信の許可及び停止の制御を定期的に行うことを特徴とする無線通信制御方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかの無線通信制御方法において、
前記複数の通信端末のいずれかにおける前記協調制御対象の周波数の無線送信に対する通信品質が低下したタイミングに、前記協調制御エリアにおける前記無線送信の許可及び停止の制御を行うことを特徴とする無線通信制御方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかの無線通信制御方法において、
前記協調制御対象の周波数は、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのそれぞれから送信可能な互いに異なる複数の周波数であり、
前記複数の周波数ごとに、前記協調制御エリアにおける前記無線送信の許可及び停止の制御を行うことを特徴とする無線通信制御方法。
【請求項9】
複数のセルごとに又はセルを分割した複数のセクタごとに設けられたアンテナから通信端末に送信されるセル方式の無線通信を制御する無線通信制御装置であって、
協調制御対象の周波数を用いた無線送信のタイミングが互いに重複する複数のセル又は複数のセクタを含む協調制御エリアを設定された協調制御エリアに在圏する複数の通信端末それぞれのスループットを加算した総合的なスループットを高めるように、前記協調制御エリア内の複数のアンテナのそれぞれから送信する前記協調制御対象の周波数の無線送信の許可及び停止を制御する制御手段を備えたことを特徴とする無線通信制御装置。
【請求項10】
複数のセルごとに又はセルを分割した複数のセクタごとに設けられたアンテナから通信端末に無線送信されるセル方式の無線通信システムであって、
請求項9の無線通信制御装置と、その無線通信制御装置で無線送信の許可及び停止が制御される複数の無線送信装置と、を備えたことを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−209679(P2012−209679A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72539(P2011−72539)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(501440684)ソフトバンクモバイル株式会社 (654)
【Fターム(参考)】