説明

無線通信装置

【課題】通信品質の向上を図る。
【解決手段】無線通信装置は、測定部、測定対象選択部、記憶部および測定時間割当部を備える。測定部は、周期的な測定期間のうちの1つの測定期間を分割して測定対象基地局それぞれの電波品質を測定する。測定対象選択部は、電波品質に基づいて、測定対象基地局から1つの測定期間の次回の測定期間における測定除外基地局を決定する。記憶部は、測定部での電波品質の測定結果や測定時間などの情報を、測定対象の基地局毎に記憶して管理する。測定時間割当部は、次回の測定期間において、1つの測定期間において測定除外基地局に対して割り当てた測定時間を、該測定除外基地局以外の測定対象基地局へ割り当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を行う無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの無線通信端末で移動通信を行っているときに、無線通信端末が現在交信中の基地局であるサービング基地局(serving base station)の電波が届かないエリアへ移動すると、通信が途切れることになる。このため、無線通信端末は、移動に伴って交信先の基地局を切り替えて通信を継続する。このような、接続先の基地局の切り替えを行うことをハンドオーバと呼ぶ。
【0003】
ハンドオーバを行う場合、無線通信端末では、切り替え先の基地局であるターゲット基地局(target base station)を決定するために、交信しているサービング基地局の周辺に位置する隣接基地局の電波品質の測定を行う(以下、電波品質測定の動作のことをスキャンとも呼ぶ)。
【0004】
そして、スキャンの結果、隣接基地局の中で最も電波品質の良好な基地局をターゲット基地局に決定し、決定したターゲット基地局に対してハンドオーバを実施する。
従来技術として、複数の基地局の接続先候補の中に不適当な基地局がある場合は、該基地局の選択優先度を低下させる技術が提案されている。また、通信サービスが利用可能な周波数帯のサーチを行う際に、キャリア周波数とならない周波数はスキップしてサーチ対象から外す技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−28665号公報
【特許文献2】特開2007−116561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無線通信端末は、スキャンの精度(信頼性)を上げるために、瞬時の値ではなく、ある期間の間、スキャンを繰り返し行い、繰り返しスキャンによる評価値にもとづいて、ターゲット基地局を決定する。
【0007】
例えば、WiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)では、スキャンを繰り返し行う期間がサービング基地局から指定される。無線通信端末は、指定された期間の間、隣接基地局に対してスキャンを行って評価値を求め、その評価値にもとづきターゲット基地局を決定する。
【0008】
スキャン期間が長くなるほど、評価値の精度(信頼性)は高まるので、無線通信端末は、ハンドオーバの実行可否判断やターゲット基地局の選択を適切に行うことができる。
しかし、スキャンを行っている間は、サービング基地局との通信が中断するため、スキャン期間が長くなるほど、無線通信端末とサービング基地局との通信スループットが低下してしまうといった問題があった。
【0009】
特に隣接基地局の数が多い状況では、すべての隣接基地局に対するスキャンが完了するまで、スキャンを繰り返し実行することになる。すると、スキャン期間の時間も増加するので、通信スループットの低下が顕著になってしまう。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、短時間で高精度のスキャンを行って、通信品質の向上を図った無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、無線通信装置が提供される。この無線通信装置は、前記周期的な測定期間のうちの1つの測定期間を分割して測定対象基地局それぞれの電波品質を測定する測定部と、前記電波品質に基づいて、前記測定対象基地局から前記1つの測定期間の次回の測定期間における測定除外基地局を決定する測定対象選択部と、前記次回の測定期間において、前記1つの測定期間において前記測定除外基地局に対して割り当てた測定時間を、該測定除外基地局以外の前記測定対象基地局へ割り当てる測定時間割当部を有する。
【発明の効果】
【0012】
通信品質の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】無線通信装置の構成例を示す図である。
【図2】ネットワークの構成例を示す図である。
【図3】無線通信装置の構成例を示す図である。
【図4】記憶部で管理される管理テーブルを示す図である。
【図5】管理テーブルの登録状態を示す図である。
【図6】測定誤差幅と測定誤差の算出結果を示す図である。
【図7】動作を示すフローチャートである。
【図8】動作を示すフローチャートである。
【図9】動作を示すフローチャートである。
【図10】管理テーブルの登録状態を示す図である。
【図11】管理テーブルの登録状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は無線通信装置の構成例を示す図である。無線通信装置10は、測定部11、測定対象選択部13、記憶部14および測定時間割当部15を備える。
【0015】
測定部11は、周期的な測定期間のうちの1つの測定期間を分割して測定対象基地局それぞれの電波品質を測定する。測定対象選択部13は、電波品質に基づいて、測定対象基地局から1つの測定期間の次回の測定期間における測定除外基地局を決定する。
【0016】
記憶部14は、測定部11での電波品質の測定結果や測定時間などの情報を、測定対象の基地局毎に記憶して管理する。測定時間割当部15は、次回の測定期間において、1つの測定期間において測定除外基地局に対して割り当てた測定時間を、該測定除外基地局以外の測定対象基地局へ割り当てる。
【0017】
図2はネットワークの構成例を示す図である。ネットワーク1は、無線通信装置10が適用されるネットワークトポロジの一例である。ネットワーク1は、無線通信装置10、無線通信装置10が帰属するサービング基地局20およびサービング基地局20に隣接する隣接基地局31〜34を備える。
【0018】
次にスキャンを開始する前に無線通信装置10とサービング基地局20との間で行われる事前調整について説明する。無線通信装置10は、スキャン開始時に、サービング基地局20とネゴシエーションを行って、各種の情報を取得して記憶する。
【0019】
例えば、無線通信装置10は、現在交信中のサービング基地局20に対し、サービング基地局20の周囲に隣接基地局31〜34が存在することや、隣接基地局31〜34の中心周波数等の情報を、サービング基地局20から事前に取得して記憶しておく。
【0020】
また、無線通信装置10は、スキャン結果の精度(信頼性)を保証するスキャン期間条件(測定保証期間)を、サービング基地局20から取得する。このスキャン期間条件とは、1つの隣接基地局に対して、最小のスキャン期間を示すものであり、少なくともそのスキャン期間でスキャンを実行すれば、信頼度の高い測定結果が得られるとしたものである。
【0021】
ここでは、スキャン期間条件として、240ms以上とする。これは、1つの隣接基地局当たり、少なくとも240msの期間のスキャンを行えば、信頼度の高いスキャン結果が得られることを示している。
【0022】
また、スキャン期間条件は、スキャン終了条件としても使用することができる。すなわち、隣接基地局31〜34それぞれにおいて、スキャン開始から240ms経過した時点で、以降のスキャンを終了すると判断できる。
【0023】
さらに、スキャンのパラメータとしては、スキャンの回数と、1回当たりのスキャン期間とがあり、これらパラメータについても事前に調整して決定しておく。例えば、ネットワーク1におけるスキャンパラメータとして、スキャン回数を12回、隣接基地局31〜34を含めた1回当たりのスキャン期間を80msとする。
【0024】
これらのパラメータの値は、ネットワーク1には、サービング基地局20の周辺に隣接基地局31〜34の4局があること、およびスキャン期間条件(スキャン終了条件)が240msであることから決まるものである。
【0025】
スキャンを終了するためには、隣接基地局31〜34のそれぞれに対して、少なくとも240ms測定することになる。このため、全体で960msのスキャン期間となるが、960msをどのように分割してスキャンを行うかは、無線通信装置10とサービング基地局20との事前調整により決定する。
【0026】
例えば、上記では、スキャン回数を12回、1回当たりのスキャン期間を80msとして、960msを分割したが(960ms=12×80ms)、スキャン回数を16回、1回当たりのスキャン期間を60msとして、960msを分割してもよい(960ms=16×60ms)。
【0027】
なお、測定する電波品質は、CINR(Carrier to Interference and Noise Ratio)とする。CINRは、電波の雑音の少なさを示すもので、値が大きいほど電波品質が良好であることを示す。
【0028】
次に無線通信装置10の構成例について説明する、図3は無線通信装置の構成例を示す図である。無線通信装置10aは、測定部11、信頼性指標算出部12、測定対象選択部13、記憶部14、測定時間割当部15および測定実行判定部16を備える。
【0029】
測定部11は、測定対象選択部13から通知される、測定対象候補の隣接基地局について、電波品質(CINR)の測定を行う。また、測定時間割当部15から隣接基地局毎の測定時間が通知された場合には、通知された測定時間に従って測定を行う。CINRの測定結果および測定時間は、記憶部14に通知する。
【0030】
記憶部14は、測定部11から通知された測定結果と測定時間とを隣接基地局毎に記憶する。測定時間は、測定する毎に加算し、累積測定時間として管理する。なお、記憶部14の情報記憶の一例は図4で後述する。
【0031】
信頼性指標算出部12は、記憶部14で管理している測定結果や累積測定時間などの情報を用いて、隣接基地局毎に測定結果の信頼性を示す指標(信頼性指標)を算出する。算出した信頼性指標は、測定対象選択部13、測定時間割当部15に通知する。
【0032】
測定対象選択部13は、記憶部14で管理されている測定結果および算出された信頼性指標から、隣接基地局毎にスキャン対象としての妥当性を示す指標(妥当性指標)を算出し、妥当性指標にもとづいて次回測定の対象とする隣接基地局を決定する。また、測定対象となった隣接基地局を測定部11および測定時間割当部15等に通知する。
【0033】
測定時間割当部15は、測定対象となった隣接基地局に対して、記憶部14で記憶されている測定結果や、信頼性指標から次回スキャンにおける測定時間の割り当てを決める。そして、決められた割り当てにもとづいて、測定対象基地局毎に測定時間を割り当てる。また、割り当てた測定時間を測定部11および測定実行判定部16に通知する。
【0034】
測定実行判定部16は、測定対象の隣接基地局毎の妥当性指標の相対評価が変化するかどうかを判定し、次測定に対して相対評価が変化しないとい判定した場合は、CINRの測定を終了する(測定実行判定部16の具体的動作については後述する)。
【0035】
図4は記憶部14で管理される管理テーブルを示す図である。記憶部14は、隣接基地局の識別子、中心周波数(GHz)、電波品質(dBm)、累積測定時間(ms)、連続未測定時間(ms)、測定回数(回)を登録しておく管理テーブルを有している。
【0036】
隣接基地局31〜34が、通信に使用する中心周波数をそれぞれ2.51GHz、2.52GHz、2.53GHz、2.54GHzとした場合、管理テーブルT1−1には、隣接基地局31〜34毎に、これらの中心周波数の値が登録される。なお、隣接基地局毎に測定回数および測定していない状態が継続している時間(連続未測定時間)も合わせて管理する。
【0037】
次に無線通信装置10aの動作について詳しく説明する。無線通信装置10aでは、初回のスキャンを行う場合、すべての隣接基地局31〜34に対し、公平に等しく時間を割り当ててCINRの測定を行う。
【0038】
具体的には、合計のスキャン期間960msに対し、1つの隣接基地局当たりのスキャン回数が12回なので、隣接基地局31〜34では、全部で48回スキャンを行う。したがって、公平に時間を割り当てるので、1つの隣接基地局当たりの1スキャンのスキャン期間は20ms(=960ms÷48)となる。
【0039】
無線通信装置10aは、隣接基地局31〜34に対し、20msずつスキャンすることになり、このときの累積測定時間と、取得したCINRとを管理テーブルに登録する。
図5は管理テーブルの登録状態を示す図である。管理テーブルT1−2は、初回スキャン時の各パラメータの値が追加された登録状態を示している。初回のスキャンであるため、累積測定時間は、隣接基地局31〜34それぞれ20msである。
【0040】
また、隣接基地局31〜34のそれぞれのCINRが20dBm、12dBm、3dBm、0dBmと測定されたとして、これらの値が登録されている。なお、測定回数に1が記される。
次に2回目のスキャンを実施する。2回目のスキャン動作から、隣接基地局31〜34の中でターゲット基地局となりえる可能性が低い候補を振り落とし、ターゲット基地局となりえる可能性が高い候補を選択する制御が行われる。
【0041】
ただし、選択する際の指標として、初回のスキャンで取得したCINRの値だけで候補を選択することは望ましくない。なぜなら、20msの測定時間だけで得たCINRの電波品質であるので、その測定値だけでは信頼性が十分高いものとはいえないからである。
【0042】
したがって、無線通信装置10aでは、基地局選択の判断要因として、測定したCINRだけでなく、測定結果の信頼性を示す信頼性指標も用いる。
信頼性指標算出部12は、信頼性指標として測定誤差幅を算出する。測定誤差幅は、以下の式(1)で定義する。
【0043】
測定誤差幅=残測定時間×単位時間当たりの測定誤差幅・・・(1)
この例では、累積測定時間が240msになったときにスキャンを停止するから、残りの測定時間は(240−現段階での累積測定時間)となる。また、単位時間当たりの測定誤差幅を例えば0.05dBmとあらかじめ設定すると、式(1)は、式(1a)となる。
【0044】
測定誤差幅=(240−現段階での累積測定時間)×0.05・・・(1a)
ここでは2回目のスキャンであるから、現段階での累積測定時間は20msである。よって、式(1a)から、隣接基地局31〜34の各測定誤差幅は11dBm(=(240−20)×0.05)と算出される。
【0045】
ここで、測定誤差幅を算出するバリエーションとして以下の(A1)〜(A4)の場合について説明する。
(A1)測定誤差幅算出において測定回数を考慮する。測定回数を考慮したときの測定誤差幅の算出式は式(2)となる。
【0046】
測定誤差幅=残測定時間×単位時間当たりの測定誤差幅−残測定回数×測定1回当たりの測定誤差・・・(2)
なお、1隣接基地局当たりのスキャン期間が240ms、スキャン回数が12回なので、式(2)は式(2a)と書ける。
【0047】
測定誤差幅=(240−現段階での累積測定時間)×単位時間当たりの測定誤差幅−(12−測定回数)×測定1回当たりの測定誤差・・・(2a)
測定回数が小さいほど信頼性は低くなり、測定回数が大きいほど信頼性は高くなる。したがって、式(2)で測定誤差幅を算出することにより、測定回数によって変化する信頼性を反映させた測定誤差幅を求めることができる。
【0048】
(A2)測定誤差幅算出において連続未測定時間を考慮する。連続未測定時間を考慮したときの測定誤差幅の算出式は式(3)となる。
測定誤差幅=(残測定時間+連続未測定時間)×単位時間当たりの測定誤差幅・・・(3)
隣接基地局に対して測定していない状態が継続している時間である連続未測定時間が長いほど信頼性は低くなり、連続未測定時間が短いほど信頼性は高くなる。したがって、式(3)で測定誤差幅を算出することにより、連続未測定時間によって変化する信頼性を反映させた測定誤差幅を求めることができる。
【0049】
(A3)測定誤差幅算出において無線通信装置10aの移動速度を考慮する。移動速度を考慮したときの測定誤差幅の算出式は式(4)となる。
測定誤差幅=残測定時間×単位時間当たりの測定誤差幅×移動速度×単位速度当たりの測定誤差幅・・・(4)
無線通信装置10aの移動速度が速いと信頼性は低くなり、移動速度が遅いと信頼性は高くなる。したがって、式(4)で測定誤差幅を算出することにより、移動速度によって変化する信頼性を反映させた測定誤差幅を求めることができる。
【0050】
(A4)測定誤差幅算出においてCINRの分散を考慮する。CINRの分散を考慮したときの測定誤差幅の算出式は式(5)となる。
測定誤差幅=残測定時間×単位時間当たりの測定誤差幅×分散×単位分散当たりの測定誤差幅・・・(5)
ここで、CINRの測定時、例えば、1回目のCINRの測定値が30dBm、2回目の測定値が15dBm、3回目の測定値が45dBm、4回目の測定値が7dBmであったとする。
【0051】
このように、測定値のぶれが大きい場合、障害物による電波遮断等の伝搬環境の変動が大きいと考えられ、このような測定値のぶれは分散で表すことができる。分散が大きい場合は、障害物等により電波が遮断されて正確な測定ができていないと見なせるので信頼性が低くなり、分散が小さい場合は信頼性が高くなる。
【0052】
したがって、このように伝搬環境の変動が著しい場合は、式(5)で測定誤差幅を算出することにより、CINRの分散によって変化する信頼性を反映させた測定誤差幅を求めることができる。
【0053】
次に測定誤差幅(信頼性指標)から測定誤差(妥当性指標)を算出する処理について説明する。測定対象選択部13は、CINRの値と、上記の測定誤差幅(信頼性指標)とからCINRの測定誤差を算出する。この測定誤差は、隣接基地局31〜34それぞれのスキャン対象としての妥当性を示す指標(妥当性指標)として使用する。測定誤差は、CINR値に測定誤差幅の値を加減算した値である。
【0054】
隣接基地局31に関しては、CINRは20dBm、測定誤差幅は11dBmであるから、測定誤差は9〜31(=20±11)dBmとなる。隣接基地局32に関しては、CINRは12dBm、測定誤差幅は11dBmであるから、測定誤差は1〜23(=12±11)dBmとなる。
【0055】
また、隣接基地局33に関しては、CINRは3dBm、測定誤差幅は11dBmであるから、測定誤差は−8〜14(=3±11)dBmとなる。隣接基地局34に関しては、CINRは0dBm、測定誤差幅は11dBmであるから、測定誤差は−11〜11(=0±11)dBmとなる。
【0056】
図6は測定誤差幅と測定誤差の算出結果を示す図である。記憶部14は、管理テーブルT2によって、隣接基地局31〜34それぞれに関するCINRの測定誤差幅(dBm)およびCINRの測定誤差(dBm)を登録管理する。図6の管理テーブルT2には、上記で算出された数値結果が記されている。
【0057】
測定対象選択部13は、CINRの測定誤差を用いて、測定対象の隣接基地局を決定する。決定方法としては例えば、サービング基地局20からハンドオーバ先の候補となる基準値をあらかじめ取得しておき、以下の(a)〜(c)のような方法で測定対象を決定することができる。
【0058】
(a)測定したCINR値が基準値を超えているときは、該CINR値を有する隣接基地局を測定対象とする。
(b)測定したCINR値が基準値を超えていなくても、測定誤差が基準値を超えるときは、該CINR値を有する隣接基地局を測定対象とする。
【0059】
(c)測定したCINR値が基準値を超えず、測定誤差も基準値を超えないときは、該CINR値を有する隣接基地局を測定対象から除外する。
例えば、ハンドオーバ先の候補としての基準が、“CINRが15dBm以上”だとする。この場合、図5、図6に示す管理テーブルT1−2、T2を参照して、隣接基地局31〜34が測定対象となりうるか否かを上記の(a)〜(c)の条件を用いて判別する。
【0060】
隣接基地局31に関し、隣接基地局31のCINRは20dBmであり、基準値15dBmを超えるので、隣接基地局31は、次回スキャンの測定対象として選択される。
隣接基地局32に関し、隣接基地局32のCINRは12dBmであるが、測定誤差が1〜23dBmであり、最大が23dBmなので基準値15dBmを超える。したがって、隣接基地局32は、次回スキャンの測定対象として選択される。
【0061】
隣接基地局33に関し、隣接基地局33のCINRは3dBmであり、測定誤差は−8〜14Bmである。測定誤差の最大が14dBmとなり、基準値15dBmを超えないので、隣接基地局32は、測定対象として選択されない。
【0062】
隣接基地局34に関し、隣接基地局34のCINRは0dBmであり、測定誤差は−11〜11Bmである。測定誤差の最大が11dBmとなり、基準値15dBmを超えないので、隣接基地局34は、測定対象として選択されない。
【0063】
したがって、測定対象選択部13は、隣接基地局31、32を測定対象として選択し、隣接基地局33、34は測定対象の候補から振り落とすことになる。
ここで、測定対象の候補を選択する判断手段として、上記の判断手段(a)〜(c)以外のバリエーション(B1)〜(B4)について説明する。
【0064】
(B1)上記では基準値(15ms)を超える隣接基地局を、次回のスキャン時の測定対象候補としたが、基準値を用いずに、測定誤差を加味したCINRの高いものを選択する(例えば、CINRの上位3つの隣接基地局を選択するなど)。
【0065】
(B2)測定誤差を加味したCINRの最も高い値の隣接基地局だけにスキャン対象を絞る選択を行う。
(B3)サービング基地局20のCINRに応じて、判断方法を動的に切り替える。例えば、無線通信装置10aがサービング基地局20のサービスエリア境界に位置している場合を考える。
【0066】
無線通信装置10aが移動通信中に、サービング基地局20のCINRの受信値が、通常の運用レベルよりも小さな値になったとする。この場合、無線通信装置10aは、サービング基地局20のサービスエリア境界付近に自己が位置しているなどとみなせる。このとき、サービング基地局20との通信サービス断が生じる余裕度が低い(余裕度が低い→通信サービス断が生じる危険性が大きい)。
【0067】
したがって、通信サービス断を避けるために、即時にハンドオーバを実施することが望まれる。このような状況においては、例えば、通常時の判断手段が(a)〜(c)であったものを、判断手段(B2)に動的に切り替えて、すみやかにターゲット基地局を決定してハンドオーバを実施するものである。
【0068】
一方、サービング基地局20のCINRの受信値が通常運用レベルであり、無線通信装置10aがサービング基地局20から発せられる電波が十分に届く範囲に位置し、サービング基地局20との通信サービス断が生じる余裕度が高いとする(余裕度が高い→通信サービス断が生じる危険性が小さい)。
【0069】
このような状況では、ハンドオーバを実施する際でも時間的に余裕があるので、判断手段(B2)から、より精密な判断手段(a)〜(c)に切り替える。このように、サービング基地局20のCINRに応じて、判断手段を動的に使い分けることにより、通信サービス断を防いで、柔軟性のあるハンドオーバを実施することができる。
【0070】
(B4)無線通信装置10aの移動速度に応じて、判断手段を動的に切り替える。判断手段(B4)は、判断手段(B3)と同様な考え方である。すなわち、移動速度が大きいと、その分、サービング基地局20のサービスエリアから早く出る可能性が大きいので、ハンドオーバも短時間で実施したい。
【0071】
したがって、無線通信装置10aの移動速度が大きい場合は、例えば、通常時の判断手段が(a)〜(c)であったものを、判断手段(B2)に動的に切り替えて、すみやかにターゲット基地局を決定してハンドオーバを実施するものである。
【0072】
また、無線通信装置10aの移動速度が大きくない場合は、ハンドオーバを実施する際でも時間的に余裕があるので、判断手段(B2)から、より精密な判断手段(a)〜(c)に切り替える。このように、移動速度に応じて、判断手段を動的に使い分けことにより、通信サービス断を防いで、柔軟性のあるハンドオーバを実施することができる。
【0073】
上記のような基地局候補の選択制御を行い、その後、測定部11では、2回目のスキャンを隣接基地局31、隣接基地局32それぞれに対して実施する。また、測定時間割当部15では、この場合の測定時間を例えば、40msずつ割り当てる。
【0074】
すなわち、測定対象外とした隣接基地局33、34それぞれの予定していた測定時間20msを、測定対象の隣接基地局31、32に振り分けて、隣接基地局31、32のそれぞれの測定時間を40msとする。
【0075】
以上説明したように、無線通信装置10aは、妥当性指標にもとづいて、隣接基地局31〜34の中から、ターゲット基地局となりうる可能性の高い隣接基地局31、32を選択する。
【0076】
そして、測定対象候補から外した隣接基地局33、34に割り当てられている測定時間を、測定対象とした隣接基地局31、32に割り振り、増加した測定時間を用いて、隣接基地局31、32のスキャンを行う構成とした。
【0077】
これにより、ターゲット基地局となりうる可能性の高い隣接基地局に絞って、測定時間を効率よく割り当ててスキャンを実施するので、スキャン期間条件を早く満たすことができ、短時間でかつ信頼性の高いターゲット基地局を決定することが可能になる。
【0078】
次に上記の動作についてフローチャートを用いて説明する。図7は動作を示すフローチャートである。
〔S1〕無線通信装置10aは、サービング基地局20に対して、スキャンに関する事前調整を行う。
【0079】
〔S2〕無線通信装置10aは、1回目のスキャンを行う。
〔S3〕測定対象選択部13は、測定結果および累積測定時間を更新する。
〔S4〕測定対象選択部13は、全測定対象の隣接基地局に対して、累積測定時間がスキャン終了条件を満たしたか否かを判断する。終了条件を満たした場合は処理を終了し、そうでなければステップS5へいく。
【0080】
〔S5〕信頼性指標算出部12は、全測定対象の隣接基地局の測定誤差幅(信頼性指標)を算出する。
〔S6〕測定対象選択部13は、測定対象の隣接基地局の中から1つの隣接基地局を選択する。
【0081】
〔S7〕測定対象選択部13は、選択した隣接基地局のCINRが、ハンドオーバ先の基準値を超えているか否かを判断する。超えていればステップS9へいき、超えていなければステップS8へいく。
【0082】
〔S8〕測定対象選択部13は、CINRと測定誤差幅(信頼性指標)との加算値である測定誤差(妥当性指標)を求め、測定誤差の最大値が、ハンドオーバ先の基準値を超えているか否かを判断する。超えていればステップS9へいき、超えていなければステップS10へいく。
【0083】
〔S9〕測定対象選択部13は、次回の測定対象に該隣接基地局を含める。
〔S10〕測定対象選択部13は、全測定対象の隣接基地局に対して、ステップS7、S8の処理を実行したか否かを判断する。すべて実行した場合はステップS11へ、すべて実行していない場合は、ステップS6へ戻る。
【0084】
〔S11〕測定部11は、選択された測定対象の隣接基地局についてスキャンを行う。
次に測定時間の割り当て制御について説明する。測定時間割当部15は、スキャン対象の隣接基地局の候補が選択された際、該隣接基地局に対して測定時間を適応的に割り振る制御を行う。
【0085】
ここで、測定対象選択部13で測定対象と決定した隣接基地局31、32に対して、スキャン期間は80msである。上記では、40ms均等に割り当てるとしたが、割り当て方法として、この時間を例えば、CINRに応じた比例配分で割り当てるようにしてもよい。
【0086】
図5に示した管理テーブルT1−2から、隣接基地局31のCINRは20dBm、隣接基地局32のCINRは12dBmであるから、隣接基地局31、32に対して、測定時間を5:3に比例配分する。
【0087】
すなわち、隣接基地局31の測定時間は50ms(=(20/(20+12))×80)、隣接基地局32の測定時間は30ms(=(12/(20+12))×80)となる。
このように、スキャン対象の隣接基地局の候補を選択した際、選択された隣接基地局に対し、CINRに応じた比例配分を行う。このような測定時間の割り当てを行うことにより、ターゲット基地局になりえる可能性の高い隣接基地局に対して、信頼性の高い測定結果をより早く得ることが可能になる。
【0088】
図8、図9は動作を示すフローチャートである。図7に示した動作フローチャートのステップS10とステップS11との間に、測定時間割当部15がCINR値に応じて測定時間を比例配分する処理であるステップS11aが入る。その他の動作は図7と同様なので説明は省略する。
【0089】
なお、CINRに応じた比例配分処理以外の他のバリエーションとしては、例えば、CINR値の高い複数の上位に対して、あらかじめ固定比を設けておいて測定時間を配分してもよい。
【0090】
例えば、80msの測定時間に対し、CINR値が一番高い隣接基地局には50msを割り当て、2番目に高い隣接基地局には20msを割り当て、3番目に高い隣接基地局には10msを割り当てるというように、50ms、20ms、10msといった比率を固定的に設定しておいてもよい。
【0091】
また、CINR値が最も高い隣接基地局に対して、すべての測定時間を割り当てることもできる。例えば、隣接基地局31が最もCINR値が高く、ハンドオーバを即時に実行したいような場合は、80ms全部を隣接基地局31に割り振ってもよい。なお、上記では、CINR値を基準に配分したが、CINR値の代わりに、測定誤差を基準に上記と同様にして配分してもよい。
【0092】
次に測定時間を配分した際にスキャン終了時間を超えてしまうような場合の制御について説明する。図10は管理テーブルの登録状態を示す図である。測定対象に隣接基地局31、32が選択されて、現在の測定状況が図10のような登録内容になっているとする。今、隣接基地局31の累積測定時間が220msであり、隣接基地局32の累積測定時間が140msである。
【0093】
隣接基地局31、32に対し、次回のスキャンに測定時間を40msずつ割り当てるとすると、隣接基地局31の累積測定時間は260ms、隣接基地局32の累積測定時間は180msとなる。このとき、隣接基地局31の累積測定時間は、事前調整で取得したスキャン終了条件である240msを超えてしまう。
【0094】
したがって、このような場合は、測定時間割当部15は、超えた時間(20ms)を隣接基地局32に再割り当てする。このような再割り当てを行うことで、スキャン条件を超えた時間を有効に活用することが可能になる。
【0095】
次に測定実行判定部16の動作について説明する。測定実行判定部16は、測定対象の隣接基地局毎の妥当性指標の相対評価が変化するかどうかを判定する。そして、次測定に対して相対評価が変化しないとい判定した場合は、スキャンを終了する。
【0096】
すなわち、上位の測定対象候補と、下位の測定対象候補とが、スキャンを続けても上位と下位の順位が逆転するようなことがないと判断した場合には、その時点でスキャンを終了するとした制御を行う。以下、具体的に説明する。
【0097】
図11は管理テーブルの登録状態を示す図である。管理テーブルT1−4の登録内容から、隣接基地局31、32の測定誤差幅と測定誤差を求める。
隣接基地局31に関し、累積測定時間が220msなので、測定誤差幅は1ms(=(240−220)×0.05)となる。また、CINRが40dBmなので、測定誤差は39〜41(=40±1)dBmとなる。
【0098】
隣接基地局32に関し、累積測定時間が180msなので、測定誤差幅は3ms(=(240−180)×0.05)となる。また、CINRが24dBmなので、測定誤差は21〜27(=24±3)dBmとなる。
ここで、隣接基地局31の測定誤差の最小値(最悪値)は39dBmであり、隣接基地局32の測定誤差の最大値(最良値)は27dBmである。したがって、隣接基地局31、32が次回の測定対象である場合、現時点で、隣接基地局32における測定誤差幅を考慮したCINRが、隣接基地局31における測定誤差幅を考慮したCINRを上回ることができないことがわかる(∵(隣接基地局32の最良値27dBm)<(隣接基地局31の最悪値39dBm))。
【0099】
このような場合は、累積測定時間が240msを超えていなくてもスキャンを終了して、即時にターゲット基地局を決定してハンドオーバを実行する(この例では、隣接基地局31がターゲット基地局となる)。
【0100】
このように、上位の測定対象候補と、下位の測定対象候補とが、スキャンを続けても逆転するようなことがないと判断した場合には、スキャンを終了する。これにより、短時間でかつ高精度のハンドオーバを実施することが可能になる。
【0101】
以上説明したように、無線通信装置10では、スキャンを繰り返し実行する場合に、スキャンが完了する毎に、各隣接基地局のスキャン結果と信頼性指標とから算出した妥当性指標にもとづいて、ターゲット基地局候補の適・不適を判断する。
【0102】
そして、不適と判断した隣接基地局については以降のスキャン対象から外し、対象外とした隣接基地局のスキャンに割り当てる予定であった時間を、測定候補に選択した他隣接基地局のスキャンに割り当てる構成とした。
【0103】
これにより、短時間で精度(信頼性)の高いスキャン結果を得ることが可能になる。したがって、ハンドオーバの実行可否判断やターゲット基地局の選択を短時間で適切に行うことが可能になる。さらに、サービング基地局20との通信中断時間も短時間になるため、通信スループットの低減を大幅に抑制することができ、通信品質の向上を図ることが可能になる。
【0104】
以上、実施の形態を例示したが、実施の形態で示した各部の構成は同様の機能を有する他のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や工程が付加されてもよい。
【符号の説明】
【0105】
10 無線通信装置
11 測定部
13 測定対象選択部
14 記憶部
15 測定時間割当部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的な測定期間によって複数の基地局の電波品質を測定する無線通信装置であって、
前記周期的な測定期間のうちの1つの測定期間を分割して測定対象基地局それぞれの電波品質を測定する測定部と、
前記電波品質に基づいて、前記測定対象基地局から前記1つの測定期間の次回の測定期間における測定除外基地局を決定する測定対象選択部と、
前記次回の測定期間において、前記1つの測定期間において前記測定除外基地局に対して割り当てた測定時間を、該測定除外基地局以外の前記測定対象基地局へ割り当てる測定時間割当部を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記測定対象選択部は、前記電波品質に基づいて、前記測定対象基地局それぞれの電波品質に関する信頼性指標を求め、該信頼性指標に基づいて前記測定除外基地局を決定する
ことを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記測定対象選択部は、各測定対象基地局に対する現段階での累積測定時間に基づいて、前記信頼性指標を求めることを特徴とする請求項2記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記測定対象選択部は、前記信頼性指標を求める際にさらに端末の移動速度を用いて算出することを特徴とする請求項3記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記測定対象選択部は、前記信頼性指標測を求める際にさらに測定値の分散を用いて算出することを特徴とする請求項3記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記測定対象選択部は、前記信頼性指標測を求める際にさらに電波品質測定を行っていない期間の長さを用いて算出することを特徴とする請求項3記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記測定対象選択部は、前記電波品質の測定値がハンドオーバ先の基準値を超える場合は、前記電波品質を有する前記基地局を測定対象とし、前記測定値が前記基準値を超えない場合は、前記信頼性指標に基づいて前記測定除外基地局を決定することを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記測定対象選択部は、自己が帰属する帰属基地局の前記電波品質に応じて、基地局選択の判断基準を動的に変更することを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項9】
前記測定対象選択部は、前記帰属基地局の前記電波品質に基づいて求めた前記帰属基地局との通信断が生じる余裕度に基づいて、前記基地局選択の判断基準を動的に変更することを特徴とする請求項8記載の無線通信装置。
【請求項10】
測定対象の前記基地局毎の妥当性指標の相対評価が変化するかどうかを判定する測定実行判定部をさらに備え、前記測定実行判定部は、次測定に対して前記相対評価が変化しないと判定した場合は、前記電波品質の測定を終了することを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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