説明

無線ICタグ

【課題】堅牢で信頼性の高い無線ICタグを提供する。
【解決手段】両端が開放された金属筒1と、無線用ICチップ10と、前記無線用ICチップ10に電気接続された端子部を有する整合ループ回路5の配線を形成した印刷配線板2から成る無線ICタグであり、前記印刷配線板2を前記金属筒1の内部に設置し、前記金属筒1の内面に前記整合ループ回路5の配線の一部を接近させて電磁結合させ、前記整合ループ回路5により前記金属筒1を含むアンテナインピーダンスを前記無線用ICチップ10に整合した無線ICタグを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線ICタグに関する発明であって、無線用ICチップを電気接続した金属パターン層を金属筒内に設置した、遠距離通信の無線ICタグである。例えばUHF帯の周波数(953MHz帯(プラス/マイナス)2MHz)を動作周波数とする。
【背景技術】
【0002】
堅牢型無線ICタグとして、従来は、特許文献1のように、無線用ICチップ部分とアンテナを樹脂でモールドしたものが提案されていた。この技術は、無線用ICチップを樹脂で完全に覆うことで、無線用ICチップに対する衝撃を少なくできる。また、特許文献2のように、無線用ICチップとループ回路がパッケージされた回路チップ部分と、アンテナ部分とを直流的には切り離した回路にし、電磁界結合で回路チップ部分とアンテナ部分を交流的に結合させたものが提案されていた。この技術は、回路チップ部分とアンテナ部分が直流的には電気接続していないので、回路チップ部分とアンテナ部分の接続がストレスで切断されて切り離される不具合が発生しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−42087号公報
【特許文献2】特開2009−75687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、樹脂モールドで多層構造を形成するため構造が複雑になり製造コストがかかる問題があり、また、樹脂モールドする際に無線用ICチップに加わる荷重により無線用ICチップが破損し易い問題があった。また、モールドする樹脂の誘電率のバラツキにより特性が変わってしまうので、モールドする樹脂の誘電率を厳密に管理しなければならない問題もあった。更に、モールドする樹脂の誘電体損失(tanδ)によって放射利得が下がってしまう問題があった。
【0005】
また、特許文献2の技術では、パッケージした無線用ICチップ部分は堅牢化されるが、アンテナ部分は堅牢化していないため、アンテナ部分に上から荷重が加わるとアンテナ部分が破損する恐れがあった。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題を解決し堅牢で信頼性の高い無線ICタグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、両端が開放された金属筒と、無線用ICチップと、前記無線用ICチップに電気接続された端子部を有する整合ループ回路の配線を形成した印刷配線板から成る無線ICタグであり、前記印刷配線板を前記金属筒の内部に設置し、前記金属筒の内面に前記整合ループ回路の配線の一部を接近させて電磁結合させ、前記整合ループ回路により前記金属筒を含むアンテナインピーダンスを前記無線用ICチップに整合したことを特徴とする無線ICタグである。
【0008】
また、本発明は、上記の無線ICタグであって、前記印刷配線板に、前記整合ループ回路と電磁結合するICタグアンテナ部を形成したことを特徴とする無線ICタグである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、両端が開放された金属筒1と、無線用ICチップ10と、無線用ICチップ10に電気接続された端子部10aと10bを有する整合ループ回路5の配線を形成した印刷配線板2から成る無線ICタグを、印刷配線板2を金属筒1の内部に設置し、金属筒1の内面に整合ループ回路5の配線の一部を接近させて電磁結合させることで整合ループ回路5によって、無線用ICチップ10と、金属筒1を含むアンテナ系との間のインピーダンスを整合した無線ICタグが得られ、アンテナとして動作する金属筒1により印刷配線板2が保護された堅牢で信頼性の高い無線ICタグが得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るRFIDの斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るRFIDの金属筒の円筒の軸に垂直な断面の構造を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の図1のA部の拡大図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の変形例1の印刷配線板の部分の拡大図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るRFIDの斜視図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の金属筒の金属面と整合ループ回路との配置と電磁界を説明する図5のA部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態を図1から図3を参照して説明する。図1は、本実施形態の斜視図を示し、図2は、図1の金属筒1の中心軸に垂直な断面図を示し、図3は、図2のA部拡大図である。
【0012】
(無線ICタグの構成)
第1の実施形態の無線ICタグは、ダイポール型無線ICタグを用いる。図1に示すように、本実施形態の無線ICタグは、両端が開放されて内部に空間がある金属筒1を用いる。両端が開放された金属筒1は、無線ICタグの使用する周波数の電磁界の半波長(λ/2)の長さで、内径が約10mmの円筒状又は四角断面の筒である。その金属筒1の開放された両端で外部の空間が金属筒1の内部の空間につながり、内部の空間は外気で満たされている。その金属筒1の内部の空間内に、図2のように、厚さ1mmから1.6mmのエポキシ樹脂などの有機樹脂の基板のインレット(印刷配線板)2を設置する。
【0013】
印刷配線板2は、その面上に、あるいは内層に、図1のように、銅などの金属パターン層3により金属筒1の中心軸の位置に配置したダイポールアンテナ型の無線ICタグアンテナ部4と、その中間部分に直列に挿入したループ状の整合ループ回路5を形成する。そのループ状の整合ループ回路5の配線の両端に無線用ICチップ10の端子部を電気接続して無線用ICチップ10を設置する。無線用ICチップ10の端子部10aと10bに電気接続する部分以外の金属パターン層3にはソルダーレジストのパターンを被覆して金属パターン層3を保護する。図1には円筒状の金属筒1を示したが、金属筒1の形状は円筒に限らず、断面が四角あるいは任意の多角形の金属筒1が利用可能である。
【0014】
図2に金属筒1の円筒の軸に垂直な断面図を示す。金属筒1の開口端からインレット(印刷配線板)2を挿入し、金属筒1の内側に設けた切り込み部分1aに印刷配線板2を圧入によって差し込んで保持するか又は印刷配線板2を切り込み部分1aに嵌め込んで接着して固定する。そのインレット(印刷配線板)2の面には金属パターン層3が形成されている。金属筒1への印刷配線板2の装着方法は、金属筒1の開口端から印刷配線板2を挿入する方法に限定されず、金属筒1を縦割で2つの部分に分割して形成しておき、金属筒1の2つの部分の間に印刷配線板2を挟み込んで固定しても良い。このように金属筒1内に無線用ICチップ10を実装した印刷配線板2を収納することで、印刷配線板2が金属筒1で保護された堅牢で信頼性の高い無線ICタグが得られる効果がある。
【0015】
金属筒1は、厚さが0.2mmから1mmの銅や銅合金、アルミニウム、ニッケル、鉄合金などの金属を円筒状又は四角断面の筒などの筒状に形成する。金属筒1に流れる電流は表皮効果によって薄い表面層に偏って流れるため、金属筒1の厚さは表皮効果の厚さ(銅の場合は、1GHzの周波数で約2μm)以上あれば高周波電流を流すには十分な厚さである。金属筒1の長さは無線ICタグの使用する周波数の電磁界の半波長(λ/2)の長さ(使用する電磁界の周波数が955MHzの場合は(λ/2)=157mm)にする。金属筒1としてアルミ管を用いる場合は、その重量を軽くすることができる効果がある。金属筒1として強鉄、鋼などを用いる場合は金属筒1の強度をあげることができる効果がある。この金属筒1の内面に印刷配線板2の面に形成した金属パターン層3のループ状の整合ループ回路5の配線を接近させるが、金属筒1と整合ループ回路5が接近するほど両者が強く電磁結合する。そして、整合ループ回路5とICタグアンテナ部4と金属筒1とによりアンテナ系が構成される。
【0016】
印刷配線板2の面上にICタグアンテナ部4と整合ループ回路5を形成する金属パターン層3は、20μm以下の厚みの圧延箔、蒸着、又は導電性塗料の印刷の何れか又はこれらの組合せによって形成する。ダイポール型のICタグアンテナ部4の中心位置にICタグアンテナ部4に整合ループ回路5を一体に接続して形成する。整合ループ回路5はループ状の配線で形成し、ループ状の整合ループ回路5の配線の両端に無線用ICチップ10の端子部10a、10bを電気接続する。ループ状の整合ループ回路5の寸法を調整することで、無線用ICチップ10のインピーダンスZiとアンテナインピーダンスZaを整合させる。
【0017】
図3に、図1のA部の拡大図を示す。ループ状の整合ループ回路5の両端に無線用ICチップ10の端子部10aと10bをACP(Anisotropic Conductive Paste:異方導電性ペースト)又はハンダ付けで電気接続する。そして、図3のように、金属筒1の中心軸近くのICタグアンテナ部4に接続する整合ループ回路5のループ状の配線を金属筒1の内側の表面に接近させて整合ループ回路5を金属筒1と電磁結合させる。
【0018】
(変形例1)
変形例1の構成として、図4のように、整合ループ回路5とICタグアンテナ部4とを直流的には切り離す構造にする。すなわち、以上の実施形態では、整合ループ回路5をICタグアンテナ部4の中央部分に直接に電気接続して結合させていたのを、変形例1では、直接には接続しないが、整合ループ回路5をICタグアンテナ部4に接近させることで、両者を電磁結合させる。この変形例1の構造も、整合ループ回路5は、ICタグアンテナ部4に近接配置することでICタグアンテナ部4と電磁結合して交流的には回路を接続させることができる。
【0019】
(第1の実施形態の無線ICタグの動作)
UHF帯の周波数を使用する無線ICタグの動作周波数fは953MHz(プラス/マイナス)2MHzと高周波である。このため、図3のように金属筒1の金属面が金属パターン層3と直流的には接続していなくてもUHF帯の周波数において交流的に結合する。金属筒1の金属面と金属パターン層3との間の間隙が狭い程この結合が強くなる。そして、金属筒1の金属面が金属パターン層3と交流的に結合すると、以下のメカニズムにより共振周波数が低くなる。
【0020】
先ず、ICタグアンテナ部4単独での共振周波数は、ICタグアンテナ部4が持つ自己インダクタンスと浮遊容量とのLC共振回路の共振周波数である。ここで、金属筒1がI
Cタグアンテナ部4に接近すると、ICタグアンテナ部4の共振に関与する実効的インダクタンスは、その自己インダクタンスにICタグアンテナ部4と金属筒1との相互インダクタンスMが加わったインダクタンスになり、ICタグアンテナ部4の実効的なインダクタンスが大きくなる。それにより、ICタグアンテナ部4の共振周波数が低下する。金属筒1の共振周波数についても、ICタグアンテナ部4が金属筒1に接近すると、同様にして、金属筒1の共振に関与する実効的インダクタンスは、その金属筒1の自己インダクタンスに、ICタグアンテナ部4との相互インダクタンスMが加わったインダクタンスになり、金属筒1の実効的なインダクタンスが大きくなる。それにより、金属筒1の共振周波数が低下する。こうして、総体のアンテナ系の共振周波数が低下する。
【0021】
具体的には、先ず、使用する電磁界の半波長(λ/2)に合わせて製作した金属筒1の表面に定在波の電流が流れる。図3のように、金属筒1の内面に、ループ状の整合ループ回路5の配線を接近させて配置し、金属筒1の中心軸にはダイポール型のICタグアンテナ部4の配線を配置する。定在波によって金属筒1の外側の面とともに内側の面にも電流Iが流れる。金属筒1の内側の面に流れる電流Iが生じる磁界Hは金属筒1の内側の面に近い整合ループ回路5のループ状の配線と結合して、整合ループ回路5に誘導電流Iを流す。こうして、定在波によって金属筒1の内側の面に流れる電流Iと整合ループ回路5に流れる電流Iとが電磁結合する。
【0022】
また図3のように金属筒1の中心軸の位置に配置したダイポールアンテナ型のICタグアンテナ部4に流れる電流Iは、定在波によって金属筒1の内表面に生じる電流Iとは逆方向に流れる。そのICタグアンテナ部4に流れる電流Iと金属筒1内に流れる電流Iとが打ち消し合うため、ICタグアンテナ部4自体は電波を放射しない。また、金属筒1の電流Iの発生する磁界がループ状の整合ループ回路5と電磁結合して整合ループ回路5に電流Iが流れ、その電流IがICタグアンテナ部4に電流Iを発生する。整合ループ回路5とICタグアンテナ部4で構成されるアンテナ系の共振周波数は、整合ループ回路5のループ状の配線と金属筒1の内側面との距離が近づくと低い周波数にずれる。このため、共振周波数の調整が必要になるが、ICタグアンテナ部4のアンテナ長を調整することで簡単に調整できる。
【0023】
ここで、無線用ICチップ10のインピーダンスをZiと定義し、整合ループ回路5とICタグアンテナ部4と金属筒1によって形成されるアンテナインピーダンスをZaと定義する。すなわち、無線用ICチップ10の端子部10aと10bの側から、整合ループ回路5の配線の両端間のインピーダンスとして観測するアンテナ系の入力インピーダンスをZaと定義すると、無線用ICチップ10のインピーダンスZi及びアンテナインピーダンスZaは、下記式で表すことが出来る。
(式1) Zi = Zi(re) + j×Zi(im)
(式2) Za = Za(re) + j×Za(im)
そして、下記条件を満足若しくは下記条件に近づけるように設計することで、無線用ICチップ10とアンテナインピーダンスを整合させて、無線用ICチップ10とアンテナとの間で信号を伝送できる。
(式3) Zi(re) = Za(re)
(式4) Zi(im) = −Za(im)
【0024】
この金属筒1とICタグアンテナ部4と整合ループ回路5からなるアンテナ系は、ICタグアンテナ部4のアンテナ長を調整することで、アンテナインピーダンスZaの虚数成分を調整できる。ここで、アンテナインピーダンスZaは、整合ループ回路5の接続する無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスである。ICタグアンテナ部4のアンテナ長が短くなると、ICタグアンテナ部4のインダクタンスが小さくなり、アンテナインピーダンスZaの虚数成分が小さくなる。こうして
、アンテナインピーダンスZaの虚数成分を調整して、式4を満足させるように無線用ICチップ10のインピーダンスZiの虚数成分に整合させることができる。この調整によりアンテナ系の実数成分が変わり、それにより少しマッチング損失を生じるが、その損失は、従来技術でICタグアンテナ部4を樹脂内に埋め込んだ場合の誘電体損失に比べると十分に小さい。
【0025】
また、整合ループ回路5の金属筒1の金属面との距離を調整することで、金属筒1と整合ループ回路5の電磁結合の結合係数を調整して金属筒1からの電磁界放射の量を調整することができる。それにより、無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaの実数成分が調整される。ここで、金属パターン層3のICタグアンテナ部4が金属筒1と交流的に誘導結合してICタグアンテナ部4と金属筒1との間に相互インダクタンスが発生することで、ICタグアンテナ部4に流れる電流を金属筒1の内側の金属面に流れる電流が打ち消す関係になる。このため、ICタグアンテナ部4からは直接には電磁界を放射せず、電磁界は金属筒1の外側の金属面に流れる電流によって放射される。こうして、アンテナインピーダンスZaの実数成分を調整して、式3を満足させるように、無線用ICチップ10のインピーダンスZiの実数成分に整合させることができる。その際に、電磁結合の結合係数を変化させても、アンテナインピーダンスZaの虚数成分はあまり変化しないので、アンテナインピーダンスZaの虚数成分と実数成分を独立に調整することができ、インピーダンスの調整が容易である効果がある。
【0026】
950MHzで使用するある無線用ICチップ10の複素インピーダンスZiは、20Ω−j×183Ω(jは虚数単位)であった。この場合は、無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaを20Ω+j×183Ωにすれば、式3と式4が満足され、インピーダンスが整合する。950MHzでインピーダンスの虚部を183Ωとする場合に、アンテナ系のこのインピーダンスの虚数成分は、主に整合ループ回路5の自己インダクタンスから成り、その自己インダクタンスの値は31nHである。
【0027】
アンテナインピーダンスZaの実数成分を無線用ICチップ10のインピーダンスZiの実数成分に近づけてインピーダンスを整合する適切な電気的結合の大きさを調整することで、無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaの実部を、無線用ICチップ10の複素インピーダンスの実部の値の20Ωに合わせる。なお、インピーダンスの実部については、それが理想的な値の数倍あるいは数分の1であっても金属筒1をアンテナとして動作させることができるので、整合ループ回路5と金属筒1の内側の金属面との間の距離については、金属筒1毎に厳密に調整しないでも実用上支障が無い。
【0028】
このようにして、ICタグアンテナ部4のアンテナ長を調整し、整合ループ回路5と金属筒1の内面との距離を調整することで、無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaを無線用ICチップ10のインピーダンスZiに整合させ、無線用ICチップ10から金属筒1に効率良く電力を供給させて金属筒1から電磁波を放射させることができる。本実施形態の無線ICタグの通信距離は金属筒1の長さに比例し、金属筒1の長さが半波長(λ/2)で約157mmの場合には、最大通信距離として3m程度まで、無線ICタグのリーダ/ライタと通信することが可能である。
【0029】
本実施形態の無線ICタグは、金属筒1内部に無線用ICチップ10とそれに接続する整合ループ回路5とICタグアンテナ部4を装荷するため、無線ICタグの堅牢化を図ることができる効果がある。無線ICタグは無線用ICチップ10の部分が外力の影響を受けやすく、曲げや衝撃に弱い。本実施形態の無線ICタグは、無線用ICチップ10の部
分を金属筒1内に装荷することにより、外力の影響を排除することができる効果がある。また、本実施形態の無線ICタグは、その金属筒1の内部に設置する印刷配線板2の周囲が空気で構成され、従来の特許文献1のように金属パターン層3に形成したアンテナの配線をモールド樹脂で覆っていないため、特許文献1の場合にあったモールド樹脂の誘電体損失の影響が無いという効果がある。
【0030】
本実施形態の無線ICタグの使用用途としては、金属用建材、搬送用台車(金属取手部分)などに組み立て前からこの無線ICタグを組み込んでおき、この無線ICタグをリーダ/ライタと通信させることで、それらの製品の盗難防止・管理用に使うことができる。
【0031】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態を図5と図6を参照して説明する。図5は、本実施形態の斜視図を示し、図6は、図5のA部拡大図である。
【0032】
(構成)
第2の実施形態の無線ICタグは、マイクロストリップアンテナ型ICタグを用いる。図5に示すように、金属筒1の中の有機樹脂あるいはセラミックス製の印刷配線板2の面上に、あるいは内層に、金属パターン層3で整合ループ回路5のみから成るマイクロストリップアンテナが形成されている。金属筒1の中心軸に垂直な断面の構造は第1の実施形態の図2と同様に形成する。
【0033】
図6に、図5のA部拡大図を示す。印刷配線板2の面に形成する金属パターン層3は、図6に示すように、ループ状の整合ループ回路5の配線のパターンが、金属筒1の中心軸に対して非対象に形成されている。具体的には、金属筒1の中心軸近くに設置する無線用ICチップ10の端子部10aと10bに接続するループ状の整合ループ回路5の配線のパターンが金属パターン層3に形成されている。整合ループ回路5の配線のパターンは、金属筒1の中心軸近くで無線用ICチップ10の端子部10a及び10bに接続する細幅部分5aと、金属筒1の内壁に接近させた配線の中間部分である幅広部分5bとに形成する。すなわち、整合ループ回路5の配線のパターンは、金属筒1内に、その中心軸に対して非対称に配置する。
【0034】
このループ状の整合ループ回路5は、細幅部分5aの幅を狭くするか、その長さを長くすることでインダクタンスを大きくすることができる。そのインダクタンスによるインピーダンスの虚数成分は、整合ループ回路5の接続する無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaの虚数成分とほぼ同じにする。こうして配線の細幅部分5aの長さと線幅を調整することで、アンテナインピーダンスZaの虚数成分を調整する。
【0035】
また、整合ループ回路5の幅広部分5bと金属筒1の内側の面との距離を調整することで、金属筒1と整合ループ回路5の電気的結合の結合度合いを調整でき、それにより、金属筒1からの電磁界放射の量が決まり、無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaの実数成分が変わる。これにより、アンテナインピーダンスZaの実数成分を調整することができる。整合ループ回路5の幅広部分5bと金属筒1との距離を調整することでは、アンテナインピーダンスZaの虚数成分はあまり変化しないので、アンテナインピーダンスZaの虚数成分と実数成分を独立に調整することができ、インピーダンスの調整が容易である効果がある。
【0036】
(第2の実施形態の無線ICタグの動作)
先ず、使用する電磁界の半波長(λ/2)に合わせて製作した金属筒1の表面に定在波の電流が流れる。定在波によって金属筒1の外側の面とともに内側の面にも電流Iが流
れる。金属筒1の内側の面に流れる電流Iが生じる磁界Hは金属筒1の内側の面に近い整合ループ回路5のループ状の配線の中間部分である幅広部分5bと結合して、整合ループ回路5に誘導電流Iを流す。こうして、定在波によって金属筒1の内側の面に流れる電流Iと整合ループ回路5に流れる電流Iとが電磁結合する。整合ループ回路5の配線のパターンの両端の細幅部分5aは無線用ICチップ10の端子部10a及び10bに接続する。
【0037】
これらを以下のように調整することで、アンテナインピーダンスZaの虚数成分と実数成分を調整して、アンテナインピーダンスZaを無線用ICチップ10のインピーダンスZiと整合させる。無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaの虚数成分は、主に整合ループ回路5の形状により定まる。整合ループ回路5の形状が小さくなると電流経路長も短くなるため、整合ループ回路5のインダクタンス(L)とインピーダンスの虚数成分(X=ωL)が小さくなり、無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaの虚数成分もそうなる。また、整合ループ回路5の配線の細幅部分5aの線幅を狭くすると、そのインピーダンスの虚数成分を大きくできる。
【0038】
950MHzでの複素インピーダンスZiが20Ω−j×183Ω(jは虚数単位)である無線用ICチップ10を用いる場合は、無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaを20Ω+j×183Ωにしてインピーダンスを整合させる。
【0039】
厚さ10μmのアルミニウムの金属膜パターンで形成した整合ループ回路5の細幅部分5aの線幅を1mmにして、幅部分13の長さを200mm、160mm、150mmとしてインピーダンスの虚部を測定したところ、それぞれ、214Ω、183Ω、150Ωであった。そのため、線幅が1mmで長さが160mmの細幅部分5aを有する整合ループ回路5を用いることで、インピーダンスの虚部を整合できる。950MHzでインピーダンスの虚部が183Ωとなる整合ループ回路5の自己インダクタンスは31nHである。整合ループ回路5の他の形として、縦8mmで横32mmで長さ80mmの1巻きのループ状の整合ループ回路5を用いることもできる。この場合の整合ループ回路5の長さは先の例の半分であるが、線幅を1mmより十分細い0.1mm程度の幅にして単位長さあたりのインダクタンスを大きくした細幅部分5aを設けることで31nHの自己インダクタンスを得ることができる。
【0040】
また、整合ループ回路5の金属筒1の金属面との距離を調整することで、金属筒1と整合ループ回路5の電気的結合の結合度合いを調整でき、それにより、金属筒1からの電磁界放射の量が決まり、無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaの実数成分が変わる。これにより、インピーダンスを調整する。整合ループ回路5のインピーダンスを無線用ICチップ10のインピーダンスに近づけて整合する適切な電気的結合の大きさは金属筒1のアンテナとしての放射効率に合わせて調整することで、無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaの実部を、無線用ICチップ10の複素インピーダンスの実部の値の20Ωに合わせる。
【0041】
このようにして、整合ループ回路5の細幅部分5aの長さと線幅、そして、整合ループ回路5の金属筒1の金属面との距離を調整して無線用ICチップ10の端子部10aと10bから観測されるアンテナインピーダンスZaを無線用ICチップ10のインピーダンスZiに整合させることで、無線用ICチップ10から金属筒1に効率良く電力を供給させて金属筒1から電磁波を放射させることができる。
【符号の説明】
【0042】
1・・・金属筒
1a・・・切り込み部分
2・・・インレット(印刷配線板)
3・・・金属パターン層
4・・・ICタグアンテナ部
5・・・整合ループ回路
5a・・・細幅部分
5b・・・幅広部分
10・・・無線用ICチップ
10a、10b・・・無線用ICチップの端子部
H・・・磁界
・・・金属筒の内側の面に流れる電流
・・・整合ループ回路5に流れる電流
・・・ICタグアンテナ部に電流
Za・・・アンテナインピーダンス
Zi・・・無線用ICチップのインピーダンス
λ/2・・・電磁界の半波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開放された金属筒と、無線用ICチップと、前記無線用ICチップに電気接続された端子部を有する整合ループ回路の配線を形成した印刷配線板から成る無線ICタグであり、前記印刷配線板を前記金属筒の内部に設置し、前記金属筒の内面に前記整合ループ回路の配線の一部を接近させて電磁結合させ、前記整合ループ回路により前記金属筒を含むアンテナインピーダンスを前記無線用ICチップに整合したことを特徴とする無線ICタグ。
【請求項2】
請求項1記載の無線ICタグであって、前記印刷配線板に、前記整合ループ回路と電磁結合するICタグアンテナ部を形成したことを特徴とする無線ICタグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−118911(P2012−118911A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270219(P2010−270219)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】