説明

無電解めっき浴における錯化剤濃度の測定

無電解コバルト又はニッケルめっき浴中のクエン酸塩錯化剤の濃度を、遊離フッ化物イオンの微量濃度を含有する無電解めっき浴のサンプルを、硝酸ランタン標準液で滴定することにより判定する。滴定の間、Laイオンは最初に優先的にクエン酸塩錯化剤と、その後フッ化物イオンと反応し、遊離フッ化物イオン濃度を低減させる。滴定の終点は、遊離フッ化物イオンにおける実質的減少により示唆され、フッ化物イオン特異電極(ISE)を介して検出される。本方法は、他の錯化剤の分析に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
技術分野
本発明は、析出特性制御を与える手段としての、無電解めっき浴中の錯化剤の分析に関する。
【0002】
背景技術
めっき浴は、回路板、半導体チップ、及びデバイスパッケージを含む、種々の部品上に、様々な金属(例えば、銅、ニッケル、及び金)を析出させるために電子産業によって幅広く使用されている。電気めっき浴及び無電解めっき浴の両方が使用されている。電気めっきについては、部品及び対電極を、電着可能な金属のイオンを含有する電気めっき浴と接触させ、その金属を、負電位を対電極の関連部分に印加することによって電着する。無電解めっきについては、浴は、触媒の存在下で金属イオンを化学的に還元して金属の析出層を形成する還元剤をも収容する。析出された金属はそれ自体触媒として働くので、無電解析出は、一旦開始させると、外部からの電位印加を必要としないで進行する。
【0003】
電子産業は、半導体集積回路(IC’s)用の基本的な金属被膜法として、デバイスのスイッチング速度を増し、エレクトロマイグレーション耐性を高めるために、アルミニウムから銅へと推移している。銅のICチップを製作するための先端の工業技術は、「ダマシン(Damascene)」法である(例えば、P. C. Andricacos, Electrochem. Soc. Interface, Spring 1999, p. 32; Chow 等に係る U. S. Patent 4,789, 648; Ahmad 等に係る U. S. Patent 5,209, 817 参照)。この方法は、関連する微細な特質を完全に満たすのに、電気銅めっきに依存している。
【0004】
ダマシン法では、現在行われているように、典型的にはニ酸化ケイ素であるチップの絶縁物質中で、バイアスとトレンチをエッチングするが、低い誘電率を有する物質が開発中である。例えば、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)、又は窒化タングステン(WN)等のバリヤー層をトレンチとバイアスとの側壁及び底に、典型的には反応スパッタリングによって蒸着し、絶縁物質中へのCuマイグレーション及び装置性能の劣化を防ぐ。バリヤー層上に、典型的にはスパッタリングによって薄い銅シード層を蒸着し、伝導性の向上と良好な接着性をもたらす。次に、銅をトレンチとバイアスに電着する。外表面上、すなわちトレンチとバイアスとの外側に析出した銅を機械化学研磨(CPM)によって除去する。キャップ層又はクラッド層(例えば、TiN、TaN、又はWN)を、露出した銅回路に適用して銅の酸化及びマイグレーションを抑制する。「デュアルダマシン」法は、トレンチとバイアスとの両方において同時に析出することを伴う。本明細書では、「ダマシン」という用語は「デュアルダマシン」法をも包含する。
【0005】
無電解析出コバルト及びニッケルをベースとするダマシンバリヤー層は現在研究中である[e.g., Kohn et al., Mater. Sci. Eng. A302, 18 (2001)]。そのような金属物質は、窒化金属バリヤー材料と比べて高い導電性を有し、そのため銅シード層を使用せずに銅をバリヤー層に直接電着することができる。高いバリヤー層伝導性はまた、所与の断面積の回路トレースの総括的な抵抗を減少させる。加えて、無電解析出は、超微細なトレンチ及びバイアス内においてさえ高い絶縁保護コーティングを提供し、そのためコーティングの総括的な厚さを最小化することができる。ダマシンバリヤー析出について研究されている無電解コバルト及びニッケル浴は典型的には、耐熱金属(例えば、タングステン、モリブデン又はレニウム)も含まれ、この耐熱金属はコバルト又はニッケルと同時析出し、有効なバリヤー特性を保持する最高温度を上昇させる。
【0006】
無電解コバルト及びニッケル浴には、典型的には次亜リン酸塩(HPO)を還元剤として使用し、リンを析出層に導入する。同時析出されたリンは析出層の粒子サイズ及び結晶化度を減少させ(電着と比較して)、それが析出層のバリヤー特性を向上させる傾向にある。別の還元剤には、例えばボラン、ジメチルアミンボラン(DMAB)が含まれる。ボランを還元剤として使用すると、析出層にボロンを導入する。ダマシンバリヤー層の無電解析出の典型的な浴は、0.1M塩化又は硫酸コバルト、0.2M次亜リン酸ナトリウム、0.03Mタングステン酸ナトリウム、0.5Mクエン酸ナトリウム、0.5Mホウ酸、及び界面活性剤少量を含む。そのようなCo(W、P)浴は、典型的には、pH約9で85〜95℃にて作動し、また有機添加物も含んでよい。
【0007】
酸化ケイ素等の誘電物質上、又は銅等の無電解工程には十分に触媒作用をしない金属上でのコバルト及びニッケルの無電解析出には、触媒金属のシード層を通常用いる。典型的には、触媒パラジウムを、塩化パラジウム及びフッ化物イオンを含有する酸性活性化剤溶液中に部分的に浸漬することによって析出させる。フッ化物イオンは、基板上の表面酸化物の溶解を引き起こす傾向にあり、それで、パラジウムの置換層が形成される。代わりには、無電解析出された金属、コバルト又はニッケルのシード層をスパッタリングによって適用してもよい。
【0008】
近年、2種の還元剤を用いるCo(W、P)の浴として、ダマシン銅回路上へのCo(W、P)のキャップ層の直接析出が報告された[T. Itabashi, N. Nakano and H. Akahoshi, Proc. IITC 2002, p. 285-287]。この事例では、無電解析出を、比較的低濃度で存在する、より活性の還元剤(DMBA)によって開始する。DMBA還元剤が部品表面で消耗するに従い、無電解析出を活性の弱い還元剤(次亜リン酸塩)によって維持し、良好な析出層特性を提供する。
【0009】
無電解めっき浴の成分の濃度についての精密な制御が、許容され得る析出層特性を提供する上で必要である。ある成分を標準的な分析技術によって検出することができる一方で、他の成分の濃度を測定する上で特殊な方法が必要となる。金属電着率測定に基づく無電解めっき浴中の還元剤の濃度を測定する方法が米国特許出願第10/288,989(Pavlovら)(2002年11月6日出願)に記載されている。
【0010】
無電解めっき浴中の錯化剤濃度の測定は、還元剤及び緩衝剤の存在によって複雑化する。還元剤は、レドックス反応を基礎とする分析を干渉する傾向にあるのに対し、緩衝剤は酸−塩基滴定に干渉する傾向にある。加えて、無電解めっき浴で用いる錯化剤は通常、弱い錯化剤(例えば、クエン酸イオン)であり、その濃度は、錯滴定によっては容易に測定することはできない。したがって、金属塩溶液を用いる滴定によって「遊離の」錯化剤の濃度を判定し、別個の分析によって錯化した種の濃度を判定する従来のアプローチは、無電解めっき浴中で用いる比較的弱い錯化剤については使用することができない。そのような2部分析は、別々の分析についての測定誤差が拡大するので、どのような場合においても好ましくない。無電解めっき浴中のクエン酸イオン等の錯化剤の濃度を精確に測定する方法が必要とされている。
【0011】
フッ化物及び塩化物イオンを未知の溶液に添加しかつ硝酸鉛を用いて滴定することによる種々のアニオン種(硫酸塩、クロム酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩及びヘキサシアノ鉄酸塩)の分析が先行技術文献[C. E. Efstathiou and P. Hadjiioannou, Analytica Chimica Acta 109, 319 (1979)]に記載されている。この事例では、滴定剤中のPb2+イオンが対象のアニオンと、消費されるまで反応し、次に添加した塩化物及びフッ化物イオンと反応することによってPbClFを沈殿させる。滴定終点はフッ化物イオン濃度の減少が合図となるが、その濃度の減少はフッ化物イオン特異電極によって検出する。この場合、有機溶媒(例えば、アセトン、エタノール、プロパン−2−オール)を未知の溶液に添加すると、PbClFの沈殿を増進させ、終点をはっきりさせる。
【0012】
この先行技術の方法は無電解めっき浴中の錯化剤の分析には適用されてはいないが、その適用について大きな不利がある。特に、鉛は毒性金属であり、そのため、Pb2+イオンを試薬として使用すると、安全性及び環境問題を生じる。もう一つの不都合な点は、PbClFの沈殿物は、反応容器から除去しにくいので、分析と分析との間のリンスに必要な時間を著しく長くし、並びに/或いは相互汚染による測定誤差を導く。加えて、沈殿反応を増進させ、滴定終点をはっきりさせるために使用する有機溶媒も、安全性及び環境という観点からは好ましくない。
【0013】
発明の開示
発明の要約
本発明は、無電解めっき浴中の錯化剤の濃度を判定するための方法を提供する。この方法では、無電解めっき浴のサンプル及び低濃度の遊離したフッ化物イオンを含む試験液を、錯化剤(例えば、クエン酸イオン)により比較的強い錯体を形成する傾向を有する種類の錯化金属イオン(例えば、La3+イオン)を含有する滴定液で滴定する。錯化金属イオンを試験液に添加するにつれ、錯化金属イオンは、消費されるまで、優先的に錯化剤と反応し、次に遊離フッ化物イオンと反応し、試験液中の遊離フッ化物イオン濃度を減少させる。滴定終点は遊離フッ化物イオン濃度の実質的な減少で示されるが、この実質的減少はフッ化物イオン特異電極(ISE)によって検出する。無電解析出金属のイオンよりも、実質的により強く錯化金属イオンを錯化する錯化剤について、本発明の方法は錯化剤の総濃度をもたらす。
【0014】
本発明の方法は、ダマシン銅回路用のバリヤー及びキャップ層を析出するために使用される種類の無電解コバルト及びニッケル浴で典型的に用いるクエン酸錯化剤の濃度を分析するのに特に有用である。分析は迅速に行うことができ、許容され得る金属析出を確実にする上で必要となる錯化剤濃度の精密な制御を可能にする。必要とする分析が唯一回だけであり、それで、測定誤差が最小限にする。分析のための危険な試薬は不必要で、沈殿物も伴わないので、分析の間のすすぎを容易にし、相互汚染を最小限にする。
【0015】
本発明の更なる特徴及び利点は、後述の詳細な説明から、添付図面とひとまとめにして考えれば、当業者に明らかになると思う。
【0016】
発明の詳細な説明
この明細書で使用する技術用語は当業者にとって一般に既知である。試験液中の「分析物」種の濃度を判定する「滴定」は、分析物種と反応する所定の(既知の)濃度の「滴定剤」種を含有する滴定液の(試験液に対する)標準的な添加を伴う。分析物の濃度は、滴定についての「当量点」に到達するのに要する滴定液の容量から判定される。当量点は、滴定剤との反応による、試験液中の分析物の実質的に完全な消費と一致する。理想的には、当量点は滴定の「終点」であるが、実際には検出可能な終点の効果をもたらすために、滴定剤のかなりの過剰量が必要となることがある。「標準的な添加」という用語は一般に、既知の容量の第1の溶液を既知の容量の第2の溶液へ添加することを意味し、「容量画分」は、第1の溶液を第2の溶液へ添加することから生じる溶液の総容量で、第1の溶液を割った容量である。記号「M」はモル濃度を意味する。データは従来、曲線又は点として処理されるが、データは、特にコンピュータによって表化して直接使用することもできるので、「曲線」又は「プロット」という用語は表化したデータを含む。
【0017】
本発明は、無電解めっき浴中の錯化剤の濃度を判定するための方法を提供する。この方法では、無電解めっき浴のサンプル及び少濃度の遊離したフッ化物イオンを含む試験液を、錯化剤により比較的強い錯体を形成する傾向を有する種類の所定濃度の錯化金属イオンを含有する滴定液で滴定する。錯化金属イオンを試験液に添加するに従って、錯化金属イオンは、消費されるまで、優先的に錯化剤と反応し、次に遊離フッ化物イオンと反応する。滴定終点は試験液中の遊離フッ化物イオン濃度の実質的な減少で示される。めっき浴中の錯化剤の濃度は、滴定液中の錯化金属イオンの濃度、及び滴定終点に到達するのに要する滴定液の容量割合から計算する。無電解析出金属のイオンよりも強く錯化金属イオンを錯化する錯化剤については、本発明の方法は、総錯化剤濃度をもたらす。滴定終点は、フッ化物イオン特異電極を使用して、試験液中の遊離フッ化物イオン濃度をモニターすることによって判定する。遊離フッ化物イオン濃度と比例する電位を示すそのような電極は、市販されている。
【0018】
好ましい錯化金属イオンは、他の金属イオンと比べて並外れて強い陰イオン錯体を形成する傾向を有するランタンイオン(La3+)である。La3+イオンは低電気活性を有しており、LaFが高い不溶性を有しているので、フッ化物イオン特異電極により、明らかな終点を与える。使用可能な別の錯化金属には、Fe3+、Hg2+及びCe4+イオンが含まれる。錯化金属イオンとともに使用する対イオンは好ましくは、非錯化性又はごく弱い錯化性であるので、錯化剤分析への妨害が最小化される。好ましい錯化金属対イオンには、例えば、硝酸塩(NO)及び過塩素酸塩(ClO)が含まれるが、他の対イオンを使用してもよい。錯化金属イオンは所定の(既知の)濃度で滴定液中に存在しており、その濃度は広範囲に変更することができる。錯化金属イオン濃度は好ましくは、処理するのが難しいほど滴定剤容量が過剰になるのを避けながら、錯化剤に対して良好な感応性を与えるように選ばれる。無電解コバルト及びニッケル浴に用いる典型的な滴定液は、脱イオン水中に溶解した0.1M La(NOである。錯化金属イオン濃度についての好適な濃度は、無電解めっき浴中の錯化剤の濃度を含む種々の分析上の考慮すべき事項に応じて0.01〜1.0Mの範囲とすることができる。
【0019】
フッ化物イオンは、めっき浴で使用する錯化剤が消費された後でのみ錯化金属イオンと実質的に錯化する非常に弱い錯化剤であるので、滴定終点指標として使用する。フッ化物イオンとともに使用する対イオンは好ましくは、錯化金属イオンと比べて劣った錯化剤であるので、錯化剤分析への妨害は最小化される。好適なフッ化物イオンにはアルカリ金属イオン(Li、Na、K、Rb及びCs)が含まれるが、他の対イオンを使用してもよい。典型的には、フッ化物を、脱イオン水に溶解したNaF塩として試験液に添加する。
【0020】
試験液中の遊離フッ化物イオン濃度は好ましくは、最適で明確な滴定終点及び当量点と終点との間の良好な対応を与える所定値である。所定の遊離フッ化物濃度は、フッ化物イオン特異電極によって容易に検出可能なほど充分に大きくするべきであるが、その濃度は、遊離フッ化物イオン濃度の小さな変化が、ISE電位における容易に測定できる変化を生み出さないほど大きくするべきではない。所定の遊離フッ化物濃度は好ましくは、0.5〜500mg/Lである。比較的大きな遊離フッ化物濃度については、当量点と終点との間の相違について滴定容量を修正することも必要である。
【0021】
滴定終点に対応する遊離フッ化物濃度の実質的な減少はより明確にすることができ、添加した滴定液の容量に対するフッ化物イオン特異電極電位の電位差滴定曲線を微分することによって精確に規定することができる。1階微分曲線は滴定剤容量に対する電極電位の最大変化率に対応するピークを示しており、このピークを滴定終点として使用することができる。1階微分曲線のピークの位置を、2階微分であって、それについてのピーク値がゼロになるところをとることによってより正確に判定することができる。データ点間又はゼロ値の2階微分への外挿を含むこれらの数学的操作はコンピュータによって容易に処理することができる。場合によっては、2ないし3個の点のみを有する較正曲線を使用してもよい。
【0022】
本発明の方法は、他の金属(例えば、タングステン、モリブデン、又はレニウム)をそれから同時析出する錯化剤を含む、無電解コバルト及びニッケル浴中の錯化剤の濃度を測定する上で特に有用である。そのような浴は典型的には、クエン酸塩(クエン酸ナトリウムとして添加)を主要錯化剤として用いるが、乳酸塩、コハク酸塩、ヒドロキシ酢酸塩、アミノ酢酸塩、マロン酸塩、エチレンジアミン、及びエチレンジアミンテトラ酢酸塩を含む他の錯化剤の濃度を判定するためにも使用してよい。本方法は、他の金属、例えば、銅、金、パラジウム及び白金をめっきするための無電解浴中の錯化剤を分析するためにも使用することが可能である。
【0023】
錯化剤分析への妨害を最小化するためには、めっき浴のサンプルの他の成分の濃度の実質的な変動を避けるべきである。例えば、無電解コバルト浴中のpH及びコバルトイオン濃度の変動が、クエン酸塩の分析結果に影響を与えるのを見出した。好ましくは、浴中のpH及びコバルトイオン濃度は、クエン酸塩分析に関して、実質的に一定値に維持する。代わって、めっき浴サンプル中のpH及びコバルトイオン濃度を、クエン酸塩分析に先立って調整してもよい。錯化剤分析のためにpHを一定に維持する別のアプローチは、典型的には緩衝液を添加することによって試験液を緩衝することである。9程度の目標pHを有する無電解コバルト浴について、好適な緩衝液は、NHOH溶液の添加によって目標pHに調整した0.1M NHClである。種々の緩衝液を使用してもよい。干渉種の濃度における変動の影響を最小化する同様の手法を、他のめっき浴及び他の錯化剤の分析に使用することができる。
【0024】
発明の最良の実施形態
本発明の好ましい実施形態においては、無電解コバルト又はニッケルめっき浴におけるクエン酸錯化剤(C3+)濃度を、少濃度のNaF(0.5〜500mg/L)を含有する無電解めっき浴のサンプルを0.1M La(NO滴定液で滴定することによって判定する。滴定液を試験液(遊離フッ化物イオンを含有するめっき浴サンプル)に添加するにつれ、La(NOがクエン酸ナトリウム(Na)と反応してクエン酸ランタン(LaC)及び硝酸ナトリウム(NaNO)を形成する(下記式の通り)。
La(NO+Na=LaC+3NaNO
当量点に到達後、硝酸ランタンはフッ化ナトリウム(NaF)との反応を開始してフッ化ランタン(LaF)を形成し(下記式の通り)、
La(NO+3NaF=LaF+3NaNO
これにより、フッ化物がNaF種においてよりもLaF種においてはるかに強く錯化するため、遊離フッ化物濃度を低下させる。滴定終点の合図となる遊離フッ化物濃度の減少を、フッ化物イオン特異電極によって検出する。無電解めっき浴中のクエン酸イオン濃度を、滴定液中のLa(NOの濃度及び滴定終点に到達するのに要する滴定液の容量割合から計算する。
【0025】
本発明の錯化剤分析について、無電解めっき浴中の他の構成要素の濃度を好ましくは、浴供給者が推奨する範囲内に維持し、そうして他の浴化学種からの干渉を最小限とすることを確実にする。滴定の間、試験液を撹拌して錯化金属イオンと錯化剤(及び遊離フッ化物イオン)との間の実質的に完全な反応を確実にすべきである。液の撹拌は、手による撹拌、モーター駆動羽根による撹拌、磁気撹拌、超音波撹拌を含む任意の好適な手段によって提供し得る。各々の標準的な添加後、充分な時間をとって撹拌し、均質な溶液を用意すべきである。滴定は典型的には周囲温度で行われるが、温度は決定的パラメータではない。
【0026】
錯化剤分析に関するめっき浴のpHの変動の影響を最小化する好ましい手法は緩衝化した試験液を利用することであり、それは、めっき浴サンプルを脱イオン水で希釈し、緩衝液を添加することによって調製してもよい。緩衝液のpHは好ましくは、めっき浴の目標pHと同じである。pH9で操作する無電解コバルトめっき浴中のクエン酸の分析については、好適な緩衝液は、NHOH溶液の添加によって目標pHに調整した0.1M NHClである。そのようなクエン酸分析についての好適な結果は、めっき浴サンプル0.5〜1.0mLを脱イオン水50〜100mLに添加することによって、並びに緩衝液約5mL(及び0.1M NaF溶液0.1mL)を添加することによって調製する試験液を用いて得られる。
【0027】
本発明の有効性を、0.1M硫酸コバルト、0.2M次亜リン酸ナトリウム、0.03Mタングステンナトリウム、0.5Mホウ酸、界面活性剤少量、及び種々の濃度のクエン酸ナトリウムを含有する無電解コバルト浴の分析によって実証した。0.1M La(NO滴定液による滴定の前に、フッ化ナトリウム14mg/Lをめっき浴サンプル(1.0mL容量)に添加した。モーター駆動撹拌機を使用して、溶液を均質化した。コンピュータ制御下で、滴定を行った。
【0028】
図1は、クエン酸ナトリウム錯化剤50、60及び70g/Lを含有する試験液に添加した0.1M La(NO滴定液の容量に対するフッ化物ISE電位の電位差滴定曲線を示す。試験液中のクエン酸ナトリウム濃度が増加するにつれ、フッ化物イオン特異電極の電位の実質的な増加を生み出すには、より大きな容量の滴定液を要することが明白である。
【0029】
図2は、クエン酸ナトリウム錯化剤50、60及び70g/Lを含有する試験液に添加した0.1M La(NO滴定液容量に対する図1の曲線の数学的微分を示す。微分曲線中のピークは、電位差滴定曲線中の最大勾配に相当し、クエン酸滴定についての信頼性の高い終点を与える。
【0030】
表1は、低濃度(50mg/L)、標準濃度(60mg/L)及び高濃度(70mg/L)のクエン酸ナトリウム錯化剤を含有するように構成した無電解Co(W、P)浴に関する一連の測定10回についてのクエン酸塩滴定結果を示す。相対標準偏差はそれぞれ、1.18%、0.88%及び0.38%であった。
【0031】
【表1】

【0032】
本発明の好ましい実施形態を、上記に図示及び説明してきた。しかし、変更及び追加の実施形態は、疑いなく当業者にとって明白であるだろう。更に、同等の構成要素を本明細書で図示及び説明したものと代替してもよく、部分又は前後関係を逆転させるか、或いはそうでなければ交換してもよく、また本発明のある特徴を他の特徴と独立に利用してもよい。したがって、代表的実施形態は包括的というよりもむしろ例示的なものと考えるべきであるが、添付の特許請求の範囲は本発明の範囲全体をより良く示している。
【0033】
産業上の利用可能性
本発明の方法は、ダマシン銅回路についてのバリヤー及びキャップ層を析出させるために使用される種類の無電解コバルト及びニッケル浴で典型的に用いるクエン酸錯化剤の濃度を分析する際に特に有用である。分析は迅速に行うことができ、許容され得る金属析出を確実にするために必要となる錯化剤濃度の精確な制御を可能にする。唯一回の分析のみを要するため、測定誤差が最小限に抑えられる。分析のための危険な試薬は不必要で、沈殿物も伴わないので、分析と分析との間のリンスを容易にし、二次汚染を最小限にする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、クエン酸ナトリウム錯化剤50、60及び70g/Lを含有する試験液に添加した0.1M La(NO滴定液の容量に対するフッ化物ISE電位の電位差滴定曲線を示す。
【図2】図2は、クエン酸ナトリウム錯化剤50、60及び70g/Lを含有する試験液に添加した0.1M La(NO滴定液の容量に対する図1の曲線の数学的微分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解めっき浴のサンプル及び所定濃度のフッ化物イオンを含む試験液を用意する工程と、
所定濃度の錯化金属イオンを含む滴定液で試験液を滴定する工程と、
試験液中のフッ化物イオン濃度の実質的減少を、フッ化物イオン特異電極によって検出する工程と、
無電解めっき浴中の錯化剤濃度を、試験液中のフッ化物イオン濃度の実質的減少を生じるのに要する試験液の容量割合から計算する工程と、を含む、
無電解めっき浴中の錯化剤の濃度を判定する方法。
【請求項2】
無電解めっき浴が、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、レニウム、銅、金、パラジウム、白金、及びそれらの合金からなる群より選択される金属を析出させるために使用される種類のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
錯化剤が、クエン酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、ヒドロキシ酢酸塩、アミノ酢酸塩、マロン酸塩、エチレンジアミン、及びエチレンジアミンテトラ酢酸塩からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
フッ化物イオンの所定濃度が、0.5〜500mg/Lの範囲にある数値を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
錯化金属イオンの所定濃度が、0.01〜1.0Mである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
錯化金属イオンが、La3+、Fe3+、Hg2+及びCe4+イオンからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
試験液中のフッ化物イオン濃度の実質的減少を検出する工程が、添加した滴定液の容量に対するフッ化物イオン特異電極電位の滴定曲線を生成させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
試験液中のフッ化物イオン濃度の実質的減少を検出する工程が更に、滴定曲線の1階微分をとる工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
試験液中のフッ化物イオン濃度の実質的減少を検出する工程が更に、滴定曲線の2階微分をとる工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
試験液が更に緩衝液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
無電解めっき浴のサンプル及び所定濃度のフッ化物イオンを含む試験液を用意する工程と、
所定濃度のLa3+イオンを含む滴定液で試験液を滴定する工程と、
試験液中のフッ化物イオン濃度の実質的減少を、フッ化物イオン特異電極によって検出する工程と、
無電解めっき浴中の錯化剤濃度を、試験液中のフッ化物イオン濃度の実質的減少を生じるのに要する試験液の容量割合から計算する工程と、を含む、
無電解めっき浴中の錯化剤の濃度を判定する方法。
【請求項12】
無電解めっき浴が、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、レニウム、銅、金、パラジウム、白金、及びその合金からなる群より選択される金属を析出するために使用される種類のものである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
錯化剤が、クエン酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、ヒドロキシ酢酸塩、アミノ酢酸塩、マロン酸塩、エチレンジアミン、及びエチレンジアミンテトラ酢酸塩からなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
フッ化物イオンの所定濃度が0.5〜500mg/Lの範囲にある数値である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
La3+イオンの所定濃度が0.01〜1.0Mである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
試験液中のフッ化物イオン濃度における実質的減少を検出する工程が、添加した滴定液の容量に対するフッ化物イオン特異電極電位の滴定曲線を生成させる工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
試験液中のフッ化物イオン濃度の実質的減少を検出する工程が更に、滴定曲線の1階微分をとる工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
試験液中のフッ化物イオン濃度における実質的減少を検出する工程が更に、滴定曲線の2階微分をとる工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
試験液が更に緩衝液を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
無電解めっき浴のサンプル及び所定濃度のフッ化物イオンを含む試験液を用意する工程と、
所定濃度のLa3+イオンを含む滴定液で試験液を滴定する工程と、
試験液中のフッ化物イオン濃度における実質的減少を、フッ化物イオン特異電極によって検出する工程と、
無電解めっき浴中のクエン酸塩錯化剤の濃度を、試験液中のフッ化物イオン濃度における実質的減少を生み出すのに要する試験液の容量割合から計算する工程と、を含む、
無電解めっき浴中のクエン酸塩錯化剤の濃度を判定する方法。
【請求項21】
無電解めっき浴が、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、レニウム、銅、金、パラジウム、白金、及びその合金からなる群より選択される金属を析出させるために使用される種類のものである、請求項11に記載の方法。
【請求項22】
無電解コバルト又はニッケルめっき浴のサンプル、及び所定濃度のフッ化物イオンを含む試験液を用意する工程と、
所定濃度のLa3+イオンを含む滴定液で試験液を滴定する工程と、
試験液中のフッ化物イオン濃度における実質的減少を、フッ化物イオン特異電極によって検出する工程と、
無電解めっき浴中のクエン酸塩錯化剤の濃度を、試験液中のフッ化物イオン濃度における実質的減少を生じるのに要する試験液の容量割合から計算する工程と、を含む、
無電解コバルト又はニッケルめっき浴中のクエン酸塩錯化剤の濃度を判定する方法。
【請求項23】
無電解コバルト又はニッケルめっき浴のサンプル、緩衝液、及び所定濃度のフッ化物イオンを含む試験液を用意する工程と、
所定濃度のLa3+イオンを含む滴定液で試験液を滴定する工程と、
試験液中のフッ化物イオン濃度の実質的減少を、フッ化物イオン特異電極によって検出する工程と、
無電解めっき浴中のクエン酸錯化剤の濃度を、試験液中のフッ化物イオン濃度における実質的減少を生じるのに要する試験液の容量割合から計算する工程と、を含む、
無電解コバルト又はニッケルめっき浴中のクエン酸錯化剤の濃度を判定する方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−517186(P2007−517186A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533777(P2006−533777)
【出願日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/018816
【国際公開番号】WO2004/113866
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(504131884)
【氏名又は名称原語表記】SHALYT,Eugene
【出願人】(504131862)
【氏名又は名称原語表記】PAVLOV,Michael
【出願人】(504131909)
【氏名又は名称原語表記】BRATIN,Peter
【出願人】(504131851)
【氏名又は名称原語表記】KOGAN,Alex
【出願人】(504131873)
【氏名又は名称原語表記】PERPICH,Michael,James
【Fターム(参考)】