説明

無電解めっき装置及び磁気回転伝動機構

【課題】欠陥の少ない均質なめっき被膜を基板表面に均一な膜厚で形成することを可能とした無電解めっき装置を提供する。
【解決手段】基板Wの中心孔に挿通されて複数の基板Wを吊り下げた状態で支持する複数の支持ロッド3と、複数の支持ロッド3を互いに平行且つ周方向に並べた状態で支持する支持輪4と、支持輪4の中心部に取り付けられた回転軸5と、回転軸5を回転駆動する回転駆動機構9とを備え、回転駆動機構9は、めっき浴槽1とは隔離された空間を形成するケーシング16内に配置された駆動側のマグネット19と、回転軸5側に取り付けられた被動側のマグネット20とを磁気的に結合させることによって、回転軸5を回転駆動するための駆動力を駆動側から被動側へと伝動する磁気回転伝動機構13を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心孔を有する円盤状の基板をめっき浴槽内のめっき液に浸漬することによって、この基板表面にめっき被膜を形成するための無電解めっき装置、並びに、そのような無電解めっき装置に用いて好適な磁気回転伝動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブに用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特に、MRヘッドやPRML技術の導入以来、面記録密度の上昇は更に激しさを増し、近年ではGMRヘッドやTuMRヘッドなども導入され、1年に約1.5倍ものペースで増加を続けている。
【0003】
これらの磁気記録媒体については、今後更に高記録密度を達成することが要求されており、そのために磁気記録層の高保磁力化、高信号対雑音比(SNR)、及び高分解能を達成することが要求されている。
【0004】
また、近年では線記録密度の向上と同時にトラック密度の増加によって面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。このため、磁気記録媒体に用いられる基板に対して今まで以上に平滑性が高く傷の少ない基板が求められている。
【0005】
このような磁気記録媒体用基板(ディスク基板)としては、主に、アルミニウム合金基板とガラス基板が用いられている。このうち、アルミニウム合金基板は、ガラス基板に比べ靱性が高く、製造が容易である特徴を有し、比較的径の大きい磁気記録媒体に用いられている。
【0006】
また、アルミニウム合金基板は、一般的には次の工程によって製造される。先ず、厚さ2mm以下程度のアルミニウム合金板をドーナツ状に打ち抜き加工して所望の寸法の基板にする。次に、打ち抜かれた基板に対して内外径の面取り加工、データ面の旋削加工を施した後、旋盤加工後の表面粗さやうねりを下げるために、砥石による研削加工を行う。その後、表面硬さの付与と表面欠陥抑制の目的から、基板表面に無電解NiPめっきを施す。
【0007】
この無電解NiPめっきを施す際は、欠陥の少ない均質な被膜を基板表面に均一な膜厚で形成することが求められる。すなわち、基板表面に無電解NiPめっきを施した後は、NiPめっき被膜の表面を研磨する工程が設けられているものの、このNiPめっき被膜に欠陥や、膜厚・膜質のバラツキ等があると、研磨面に凹凸が生じたり、また基板に反りが生じたりするからである。
【0008】
また、無電解NiPめっきを施す際は、基板表面にNiPめっき被膜を量産性良く成膜することが求められている。このため、めっき治具に基板を複数枚セットし、これをめっき槽内の取付け台に装着した後、この取付け台を介してめっき治具を自転又は自公転させながら、複数枚の基板に対して無電解NiPめっきを施す装置が用いられている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0009】
しかしながら、従来の無電解めっき装置では、上述しためっき治具をめっき浴槽内のめっき液に浸漬した状態で自転又は自公転させる構成のため、このめっき治具の摺動部分に摩耗が発生することによって、このとき発生した摩耗粉等がめっき処理中に基板に付着し、基板表面にノジュールと呼ばれる欠陥を発生させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−100614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、欠陥の少ない均質なめっき被膜を基板表面に均一な膜厚で形成することを可能とした無電解めっき装置、並びに、そのような無電解めっき装置に用いて好適な磁気回転伝動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 中心孔を有する円盤状の基板をめっき浴槽内のめっき液に浸漬することによって、この基板表面にめっき被膜を形成するための無電解めっき装置であって、
前記基板の中心孔に挿通されて複数の基板を吊り下げた状態で支持する複数の支持ロッドと、
前記複数の支持ロッドを支持する支持部材と、
前記支持部材に取り付けられた回転軸と、
前記回転軸を回転駆動する回転駆動機構とを備え、
前記回転駆動機構は、前記めっき浴槽とは隔離された空間を形成するケーシング内に配置された駆動側のマグネットと、前記回転軸側に取り付けられた被動側のマグネットとを磁気的に結合させることによって、前記回転軸を回転駆動するための駆動力を駆動側から被動側へと伝動する磁気回転伝動機構を有することを特徴とする無電解めっき装置。
(2) 前記磁気回転伝動機構は、前記駆動側と前記被動側とで同一の極性を有して互いに反発し合う第1のマグネットと、前記第1のマグネットの周囲に並んで配置されて前記駆動側と前記被動側とで異なる極性を有して互いに吸引し合う第2のマグネットとを有することを特徴とする前項(1)に記載の無電解めっき装置。
(3) 前記第2のマグネットは、互いに異なる極性を有するマグネットを周方向に交互に並べて配置してなることを特徴とする前項(2)に記載の無電解めっき装置。
(4) 前記支持部材は、前記複数の支持ロッドを互いに平行且つ周方向に並べた状態で支持することを特徴とする前項(1)〜(3)の何れか一項に記載の無電解めっき装置。
(5) 前記複数の支持ロッドを前記めっき浴槽内のめっき液に浸漬する位置と、前記めっき槽上に取り出す位置との間で昇降操作する昇降機構を備えることを特徴とする前項(1)〜(4)の何れか一項に記載の無電解めっき装置。
(6) 前記回転軸を回転自在に支持する軸受部材を備え、
前記回転軸の前記軸受部材と対向する外周面に設けられたマグネットと、前軸受部材の前記回転軸と対向する内主面に設けられたマグネットとが互いに同一の極性を有して反発することにより、前記軸受部材が前記回転軸を非接触状態で回転自在に支持することを特徴とする前項(1)〜(5)の何れか一項に記載の無電解めっき装置。
(7) 駆動側のマグネットと被動側のマグネットとを磁気的に結合させることによって駆動力を駆動側から被動側へと伝動する磁気回転伝動機構であって、
前記駆動側と前記被動側とで同一の極性を有して互いに反発し合う第1のマグネットと、前記第1のマグネットの周囲に並んで配置されて前記駆動側と前記被動側とで異なる極性を有して互いに吸引し合う第2のマグネットとを有することを特徴とする磁気回転伝動機構。
(8) 前記第2のマグネットは、互いに異なる極性を有するマグネットを周方向に交互に並べて配置してなることを特徴とする前項(7)に記載の磁気回転伝動機構。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明では、めっき浴槽とは隔離された空間を形成するケーシング内に配置された駆動側のマグネットと、回転軸側に取り付けられた被動側のマグネットとを磁気的に結合させることによって、回転軸を回転駆動するための駆動力を駆動側から被動側へと伝動することから、この部分での摩耗の発生を防止し、摩耗粉等がめっき液中に混入して基板に付着し、基板表面にノジュール等の欠陥が発生することを未然に防止することが可能である。したがって、本発明によれば、欠陥の少ない均質なめっき被膜を基板表面に均一な膜厚で形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明を適用した無電解めっき装置の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、めっき治具を軸線方向から見た平面図である。
【図3】図3は、めっき治具の要部を拡大して示す断面図である。
【図4】図4は、駆動側及び被動側のマグネットの構成を示す平面図である。
【図5】図5は、磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図6】図6は、磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明を適用した無電解めっき装置は、例えば図1に示すように、中心孔を有する円盤状のアルミニウム合金基板(以下、単に基板という。)Wをめっき浴槽1内のめっき液Lに浸漬し、この基板Wに対して無電解NiPめっきを施すことによって、基板Wの表面にNiPめっき被膜を形成するためのものである。
【0016】
具体的に、この無電解めっき装置は、樹脂製のめっき浴槽1内のめっき液Lに複数の基板Wを浸漬させるためのめっき治具2を備えている。このめっき治具2は、図1及び図2に示すように、基板Wの中心孔に挿通されて複数の基板Wを自重により吊り下げた状態で支持する複数の支持ロッド3と、複数の支持ロッド3を互いに平行且つ周方向に並べた状態で支持する支持輪(支持部材)4と、支持輪4の中心部に取り付けられた回転軸5とを有している。また、めっき治具2は、回転軸5の長手方向の両側に一対の支持輪4が取り付けられると共に、一対の支持輪4の互いに対向する面に複数の支持ロッド3が互いに平行且つ周方向に並んだ状態で片持ち状に取り付けられた構造を有している。
【0017】
そして、このめっき治具2は、一対の支持輪4の外側に配置された一対の軸受部材6を介して回転軸5の長手方向の両側が回転自在に支持されている。また、一対の軸受部材6は、互いに平行に並ぶ一対の鉛直アーム7の先端側に保持されており、回転軸5は、これら一対の鉛直アーム7によって吊り下げた状態で支持されている。また、一対の鉛直アーム7の基端側は、めっき浴槽1上に回転軸5と平行に配置された水平ロッド8に取り付けられている。
【0018】
なお、支持ロッド3は、例えばピーク材(PEEK:ポリエーテルエーテルケトン)などからなり、この支持ロッド3を切削加工することによって、その外周面には、基板Wの内周部が係合される溝部(図示せず。)が全周に亘って設けられている。また、溝部は、支持ロッド3の長手方向に一定の間隔で複数並んで設けられている。これにより、複数の基板Wを長手方向に平行に並べた状態で支持することができる。また、このような溝部に基板Wの内周部が当接されることによって、基板Wを安定的に保持することが可能である。
【0019】
なお、複数の支持ロッド3を支持する支持部材としては、上述した支持輪3のような構成に限らず、例えば回転軸5から放射状に延びる複数のスポークに、上記支持ロッド3が互いに平行且つ周方向に並べた状態で取り付けられた構成とすることも可能である。
【0020】
無電解めっき装置は、めっき治具2の回転軸5を回転駆動する回転駆動機構9を備えている。この回転駆動機構9は、駆動モータ10と、この駆動モータ10の駆動力を回転軸5へと伝動するドライブシャフト11、ベルト伝動機構12、及び磁気回転伝動機構13とを有している。
【0021】
このうち、駆動モータ10は、水平ロッド8に取り付けられている。ドライブシャフト11は、水平ロッド8と平行に配置されて、一対の鉛直アーム7の基端側に設けられたベアリング14を介して回転自在に支持されている。また、駆動モータ10の駆動軸に設けられたギアと、ドライブシャフト11に設けられたギアとが噛合されることによって、駆動モータ10がドライブシャフト11を回転駆動する。
【0022】
ベルト伝動機構12は、ドライブシャフト14の両端に設けられた駆動プーリ15と、めっき浴槽1とは隔離された空間を形成するケーシング16内に配置された被動プーリ17とを有して、これら駆動プーリ15と被動プーリ17とが無端ベルト18を介して連結された構造を有している。そして、このベルト伝動機構12は、ドライブシャフト11が回転駆動されることによって、駆動プーリ15側から被動プーリ17側へと駆動力を伝達する。
【0023】
磁気回転伝動機構13は、ケーシング16内の被動プーリ17に取り付けられた駆動側のマグネット19と、回転軸5両端に取り付けられた被動側のマグネット20とを有し、これら駆動側のマグネット19と被動側のマグネット20とを磁気的に結合させることによって、回転軸5を非接触状態で回転駆動する。
【0024】
無電解めっき装置は、めっき治具2(複数の支持ロッド3)をめっき浴槽1内のめっき液Lに浸漬する位置と、めっき槽1上に取り出す位置との間で昇降操作する昇降機構(図示せず。)を備えている。なお、この昇降機構については、本発明において特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。
【0025】
以上のような構造を有する無電解めっき装置では、回転軸5が回転することによって、複数の基板Wを吊り下げた状態で支持する複数の支持ロッド3が回転しながら、めっき浴槽1内のめっき液Lに複数の基板Wが浸漬された状態で、これら複数の基板Wに対して無電解NiPめっきが施される。
【0026】
このとき、複数の支持ロッド3が回転軸5を中心に回転(公転)するのに併せて、これら支持ロッド3の各溝部に係合された基板Wが支持ロッド3の軸回りに回転(自転)することになる。そして、無電解NiPめっきが施された基板Wの表面には、NiPめっき被膜が形成されることになる。
【0027】
ところで、本発明を適用した無電解めっき装置では、図3に拡大して示すように、めっき浴槽1とは隔離された空間を形成するケーシング16内に配置された駆動側のマグネット19と、回転軸5側に取り付けられた被動側のマグネット20とを磁気的に結合させることによって、回転軸5を非接触状態で回転駆動することから、この部分での摩耗の発生を防止することができる。
【0028】
具体的に、駆動側及び被動側のマグネット19,20は、図4に示すように、駆動側と被動側とで同一の極性(N極−N極又はS極−S極)を有して互いに反発し合う第1のマグネット19a,20aと、第1のマグネット19a,20aの周囲に並んで配置されて駆動側と被動側とで異なる極性(N極−S極又はS極−N極)を有して互いに吸引し合う第2のマグネット19b,20bとを有している。さらに、第2のマグネット19b,20bは、互いに異なる極性を有するマグネットを周方向に交互に並べて配置してなる。
【0029】
これにより、駆動側のマグネット19と被動側のマグネット20との間の隙間dを狭くした場合でも、これら駆動側のマグネット19と被動側のマグネット20との間で、互いの第2のマグネット19b,20bを磁気的に吸引させながら、互いの第1のマグネット19a,20aを磁気的に反発させることによって、駆動側のマグネット19と被動側のマグネット20との接触を防止しながら、回転軸5を非接触状態で回転駆動することが可能である。
【0030】
また、本発明を適用した無電解めっき装置では、図3に拡大して示すように、回転軸5の軸受部材6と対向する外周面に設けられた外周側マグネット21と、軸受部材6の回転軸5と対向する内周面に設けられた内周側マグネット22とが互いに同一の極性(N極−N極又はS極−S極)を有して反発することによって、軸受部材6が回転軸5を非接触状態で回転自在に支持している。
【0031】
具体的に、外周側マグネット21及び内周側マグネット22には、例えばNd−Fe−B系や、Sm−Co系などの磁力の大きい希土類焼結磁石を用いることができ、腐食を防止するため、これらマグネット21,22の表面を樹脂で覆うことが好ましい。
【0032】
これにより、本発明では、回転軸5と軸受部材6との対向部分での摩耗の発生を防止し、摩耗粉等がめっき液L中に混入して基板Wに付着し、この基板Wの表面にノジュール等の欠陥が発生することを未然に防止することが可能である。
【0033】
したがって、本発明によれば、欠陥の少ない均質なめっき被膜を基板Wの表面に均一な膜厚で形成することが可能であり、基板Wの表面にNiPめっき被膜を量産性良く形成することが可能である。
【0034】
(磁気記録媒体)
次に、本発明の無電解めっき装置によって表面にNiPめっきが施された非磁性基板を用いて製造される磁気記録媒体の具体的な構成について、例えば図5に示すディスクリート型の磁気記録媒体30を例に挙げて詳細に説明する。
なお、以下の説明において例示される磁気記録媒体30はほんの一例であり、本発明を適用して製造される磁気記録媒体は、そのような構成に必ずしも限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0035】
この磁気記録媒体30は、図5に示すように、上記NiPめっきが施された非磁性基板31の両面に、軟磁性層32と、中間層33と、磁気記録パターン34aを有する記録磁性層34と、保護層35とが順次積層された構造を有し、更に最表面に潤滑剤膜36が形成された構造を有している。また、軟磁性層32、中間層33及び記録磁性層34によって磁性層37が構成されている。なお、図10においては、非磁性基板31の片面のみを図示するものとする。
【0036】
非磁性基板31は、上述したAl−Mg合金などのAlを主成分としたアルミニウム合金基板の表面に、下地層としてNiPめっき被膜を形成したものである。また、非磁性基板31の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5nm以下であり、さらに好ましくは0.1nm以下である。
【0037】
軟磁性層32は、磁気ヘッドから発生する磁束の基板面に対する垂直方向成分を大きくするために、また情報が記録される垂直磁性層4の磁化の方向をより強固に非磁性基板1と垂直な方向に固定するために設けられている。この作用は、特に記録再生用の磁気ヘッドとして垂直記録用の単磁極ヘッドを用いる場合に、より顕著なものとなる。
【0038】
軟磁性層32としては、例えば、Feや、Ni、Coなどを含む軟磁性材料を用いることができる。具体的な軟磁性材料としては、例えば、CoFe系合金(CoFeTaZr、CoFeZrNbなど。)、FeCo系合金(FeCo、FeCoVなど。)、FeNi系合金(FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど。)、FeAl系合金(FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど。)、FeCr系合金(FeCr、FeCrTi、FeCrCuなど。)、FeTa系合金(FeTa、FeTaC、FeTaNなど。)、FeMg系合金(FeMgOなど。)、FeZr系合金(FeZrNなど。)、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金、FeB系合金などを挙げることができる。
【0039】
中間層33は、磁性層の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善することができる。このような材料としては、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものが好ましい。特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金が好ましく、またこれらの合金を多層化してもよい。例えば、基板側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を採用することが好ましい。
【0040】
例えば、Ni系合金であれば、Niを33〜96at%含む、NiW合金、NiTa合金、NiNb合金、NiTi合金、NiZr合金、NiMn合金、NiFe合金の中から選ばれる少なくとも1種類の材料からなることが好ましい。また、Niを33〜96at%含み、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cのうち少なくとも1種又は2種以上を含む非磁性材料であってもよい。この場合、中間層33としての効果を維持し、磁性を持たない範囲とするため、Niの含有量は33at%〜96at%の範囲とすることが好ましい。
【0041】
中間層33の厚みは、多層の場合は合計の厚みで、5〜40nmとすることが好ましく、より好ましくは8〜30nmである。中間層33の厚みが上記範囲にあるとき、直磁性層の垂直配向性が特に高くなり、且つ記録時における磁気ヘッドと軟磁性層との距離を小さくすることができるため、再生信号の分解能を低下させることなく記録再生特性を高めることができる。
【0042】
磁性層37は、面内磁気記録媒体用の水平磁性層でも、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。また、磁性層37は、主としてCoを主成分とする合金から形成することが好ましく、例えば、CoCrPt系、CoCrPtB系、CoCrPtTa系の磁性層や、これらにSiOや、Cr等の酸化物を加えたグラニュラ構造の磁性層を用いることができる。
【0043】
垂直磁気記録媒体の場合には、例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる軟磁性層32と、Ru等からなる中間層33と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層34とを積層したものを利用できる。また、軟磁性層32と中間層33との間にPt、Pd、NiCr、NiFeCrなどからなる配向制御膜を積層してもよい。
【0044】
一方、面内磁気記録媒体の場合には、磁性層37として、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものを利用できる。
【0045】
磁性層37の厚みは、3nm以上20nm以下、好ましくは5nm以上15nm以下とし、使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。また、磁性層37は、再生の際に一定以上の出力を得るのにある程度以上の膜厚が必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。磁性層37は、通常はスパッタ法により薄膜として形成する。
【0046】
グラニュラ構造の磁性層37としては、少なくとも磁性粒子としてCoとCrを含み、磁性粒子の粒界部に少なくともSi酸化物、Cr酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Co酸化物、Ta酸化物、Ru酸化物の中から選ばれる少なくとも1種又は2種以上を含むものが好ましい。具体的には、例えば、CoCrPt−Si酸化物、CoCrPt−Cr酸化物、CoCrPt−W酸化物、CoCrPt−Co酸化物、CoCrPt−Cr酸化物−W酸化物、CoCrPt−Cr酸化物−Ru酸化物、CoRuPt−Cr酸化物−Si酸化物、CoCrPtRu−Cr酸化物−Si酸化物などを挙げることができる。
【0047】
グラニュラ構造を有する磁性結晶粒子の平均粒径は、1nm以上、12nm以下であることが好ましい。また磁性層中に存在する酸化物の総量は、3〜15モル%であることが好ましい。また、グラニュラ構造ではない磁性層としては、CoとCrを含み、好ましくはPtを含む磁性合金を用いた層が例示できる。
【0048】
また、この磁気記録媒体30は、記録磁性層34に形成された磁気記録パターン34aが磁気特性が改質された領域(例えば、非磁性領域又は記録磁性層34に対して80%程度保磁力が低下した領域)38によって磁気的に分離されてなる、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体である。
【0049】
また、ディスクリート型の磁気記録媒体30は、その記録密度を高めるために、記録磁性層34のうち、磁気記録パターン34aの幅L1を200nm以下、改質領域38の幅L2を100nm以下とすることが好ましい。また、この磁気記録媒体30のトラックピッチP(=L1+L2)は、300nm以下とすることが好ましく、記録密度を高めるためにはできるだけ狭くすることが好ましい。
【0050】
保護層35には、磁気記録媒体において通常使用される材料を用いればよく、そのような材料として、例えば、炭素(C)、水素化炭素(HXC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質材料や、SiO、Zr、TiNなどを挙げることができる。また、保護層35は、2層以上積層したものであってもよい。保護層35の厚みは、10nmを越えると、磁気ヘッドと磁性層37との距離が大きくなり、十分な入出力特性が得られなくなるため、10nm未満とすることが好ましい。
【0051】
潤滑剤膜36は、例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などのフッ素系潤滑剤や、炭化水素系潤滑剤、これらの混合物等からなる潤滑剤を保護層35上に塗布することにより形成することができる。また、潤滑剤膜36の膜厚は、通常は1〜4nm程度である。
【0052】
また、潤滑剤を生成する未精製潤滑剤としては、化学的に安定で、低摩擦で、低吸着性を有するものが好適に用いられる。具体的には、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含むパーフルオロポリエーテル系潤滑剤などのフッ素樹脂系潤滑剤を用いることが好ましい。
【0053】
パーフルオロポリエーテル系潤滑剤としては、1種類のパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を用いてもよいし、環状トリフォスファゼン系潤滑剤とパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を組み合わせた潤滑剤や、末端基にホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル化合物と末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物をと組み合わせた潤滑剤を用いてもよい。
【0054】
パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含む潤滑剤としては、例えばSolvay Solexis社製のFomblin Z−DOL、Fomblin Z−TETRAOL(商品名)等が挙げられる。また、環状トリフォスファゼン系潤滑剤としては、DowChemical社製のX−1p(商品名)などが挙げられる。また、末端基にホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル化合物としては、松村石油研究所(MORESCO)社製のMORESCO PHOSPHAROLA20H−2000(商品名)などが挙げられる。
【0055】
続いて、このようにして得られた潤滑剤を溶媒に溶解し、塗布方法に適した濃度を有する塗布溶液(液体潤滑剤)とする。ここで用いる溶媒としては、上述した潤滑剤を希釈する溶剤と同じく、フッ素系溶媒などが用いられる。
【0056】
その後、このようにして得られた塗布溶液を保護層上に塗布する。塗布工程には、ディッピング法(ディップコート法)を用いる。ディップコート法は、塗布溶液をディップコート装置の浸漬槽に入れ、この浸漬槽に保護層までの各層が形成された非磁性基板を浸漬し、その後、浸漬槽から非磁性基板を所定の速度で引き上げて非磁性基板の保護層上の表面に均一な膜厚の潤滑剤膜を形成する方法である。
【0057】
(磁気記録再生装置)
次に、本発明を適用した磁気記録再生装置(HDD)について説明する。
本発明を適用した磁気記録再生装置は、例えば図6に示すように、上記磁気記録媒体30と、上記磁気記録媒体30を回転駆動する回転駆動部51と、上記磁気記録媒体30に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド52と、磁気ヘッド52を上記磁気記録媒体30の径方向に移動させるヘッド駆動部53と、磁気ヘッド52への信号入力と磁気ヘッド52から出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理系54とを備えている。
【0058】
この磁気記録再生装置では、上記ディスクリートトラック型の磁気記録媒体30を用いることにより、この磁気記録媒体30に磁気記録を行う際の書きにじみをなくし、高い面記録密度を得ることが可能である。すなわち、上記磁気記録媒体30を用いることで記録密度の高い磁気記録再生装置を構成することが可能となる。また、上記磁気記録媒体30の記録トラックを磁気的に不連続に加工したことによって、従来はトラックエッジ部の磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができる。これにより十分な再生出力と高いSNRを得ることができるようになる。
【0059】
さらに、磁気ヘッド52の再生部をGMRヘッド又はTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても十分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録再生装置を実現することができる。また、この磁気ヘッド52の浮上量を0.005μm〜0.020μmの範囲内とし、従来より低い高さで浮上させると、出力が向上して高い装置SNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録再生装置を提供することができる。
【0060】
さらに、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせるとさらに記録密度を向上でき、例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも十分なSNRが得られる。
【0061】
なお、本発明は、磁気的に分離された磁気記録パターンMPを有する磁気記録媒体に対して幅広く適用することが可能であり、磁気記録パターンを有する磁気記録媒体としては、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターンがトラック状に配置されたメディア、その他、サーボ信号パターン等を含む磁気記録媒体を挙げることができる。本発明は、この中でも磁気的に分離された磁気記録パターンが磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体に適用することが、その製造における簡便性から好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0063】
(実施例1)
実施例1では、先ず、外形65mm、内径20mm、厚さ1.25mmのアルミニウム合金(Al−Mg合金)製のディスク基板を用意し、このディスク基板に対して、アルカリ脱脂、酸エッチング、ジンケート処理を順次行った。
【0064】
次に、このディスク基板に対して、硫酸ニッケル(25g/リットル)、次亜リン酸ナトリウム(30g/リットル)、クエン酸ナトリウム(30g/リットル)、乳酸ナトリウム(10g/リットル)、グリシン(30g/リットル)からなるめっき液(硫酸及び苛性ソーダでpH4.6に調節し、90℃に加温したもの)Lを用いて、無電解NiPめっきを施した。
【0065】
この無電解NiPめっきには、上記図1に示す無電解めっき装置を用いた。なお、めっき浴槽1の大きさは、縦60cm、横60cm、深さ60cmである。めっき治具2は、直径25cmの支持輪4には、回転軸5を中心に6本の支持ロッド3が取り付けられている。各支持ロッド3には、幅1.4mmの溝部が6.35mm間隔で25個設けられている。すなわち、1本の支持ロッド3には、25枚のディスク基板を吊り下げることが可能である。
【0066】
そして、回転軸5を3分/回の速度で回転させながら、めっき浴槽1内のめっき液Lに基板Wを90分間浸漬させることによって、この基板Wの表面にP濃度が21原子%、膜厚が15μmのNiPめっき被膜を形成した。
【0067】
その結果、実施例1では、10000枚の基板Wに対して無電解NiPめっきを施したところ、直径0.4μm以上のノジュールが観察された基板は、10000枚中1枚であった。
【0068】
(比較例1)
比較例1では、上記図1に示す無電解めっき装置において、上述した磁気回転伝動機構13の代わりに、ピーク材からなるギアを介して回転軸5を回転駆動する構成とした。
【0069】
その結果、比較例1では、10000枚の基板Wに対して無電解NiPめっきを施したところ、直径0.4μm以上のノジュールが観察された基板は、10000枚中36枚であった。
【符号の説明】
【0070】
1…めっき浴槽 2…めっき治具 3…支持ロッド 4…支持輪(支持部材) 5…回転軸 6…軸受部材 7…鉛直アーム 8…水平ロッド 9…回転駆動機構 10…駆動モータ 11…ドライブシャフト 12…ベルト伝動機構 13…磁気回転伝動機構 14…ベアリング 15…駆動プーリ 16…ケーシング 17…被動プーリ 18…無端ベルト 19…駆動側のマグネット 19a…第1のマグネット 19b…第2のマグネット 20…被動側のマグネット 20a…第1のマグネット 20b…第2のマグネット 21…外周側マグネット 22…内周側マグネット
30…磁気記録媒体 31…非磁性基板 32…軟磁性層 33…中間層 34…記録磁性層 34a…磁気記録パターン 35…保護層 36…潤滑膜 37…磁性層 38…改質領域
51…回転駆動部 52…磁気ヘッド 53…ヘッド駆動部 54…記録再生信号処理系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心孔を有する円盤状の基板をめっき浴槽内のめっき液に浸漬することによって、この基板表面にめっき被膜を形成するための無電解めっき装置であって、
前記基板の中心孔に挿通されて複数の基板を吊り下げた状態で支持する複数の支持ロッドと、
前記複数の支持ロッドを支持する支持部材と、
前記支持部材に取り付けられた回転軸と、
前記回転軸を回転駆動する回転駆動機構とを備え、
前記回転駆動機構は、前記めっき浴槽とは隔離された空間を形成するケーシング内に配置された駆動側のマグネットと、前記回転軸側に取り付けられた被動側のマグネットとを磁気的に結合させることによって、前記回転軸を回転駆動するための駆動力を駆動側から被動側へと伝動する磁気回転伝動機構を有することを特徴とする無電解めっき装置。
【請求項2】
前記磁気回転伝動機構は、前記駆動側と前記被動側とで同一の極性を有して互いに反発し合う第1のマグネットと、前記第1のマグネットの周囲に並んで配置されて前記駆動側と前記被動側とで異なる極性を有して互いに吸引し合う第2のマグネットとを有することを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき装置。
【請求項3】
前記第2のマグネットは、互いに異なる極性を有するマグネットを周方向に交互に並べて配置してなることを特徴とする請求項2に記載の無電解めっき装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記複数の支持ロッドを互いに平行且つ周方向に並べた状態で支持することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の無電解めっき装置。
【請求項5】
前記複数の支持ロッドを前記めっき浴槽内のめっき液に浸漬する位置と、前記めっき槽上に取り出す位置との間で昇降操作する昇降機構を備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の無電解めっき装置。
【請求項6】
前記回転軸を回転自在に支持する軸受部材を備え、
前記回転軸の前記軸受部材と対向する外周面に設けられたマグネットと、前軸受部材の前記回転軸と対向する内主面に設けられたマグネットとが互いに同一の極性を有して反発することにより、前記軸受部材が前記回転軸を非接触状態で回転自在に支持することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の無電解めっき装置。
【請求項7】
駆動側のマグネットと被動側のマグネットとを磁気的に結合させることによって駆動力を駆動側から被動側へと伝動する磁気回転伝動機構であって、
前記駆動側と前記被動側とで同一の極性を有して互いに反発し合う第1のマグネットと、前記第1のマグネットの周囲に並んで配置されて前記駆動側と前記被動側とで異なる極性を有して互いに吸引し合う第2のマグネットとを有することを特徴とする磁気回転伝動機構。
【請求項8】
前記第2のマグネットは、互いに異なる極性を有するマグネットを周方向に交互に並べて配置してなることを特徴とする請求項7に記載の磁気回転伝動機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate