説明

無電解メッキが施された成形物の製造方法

【課題】無電解メッキ処理や電解メッキ処理を行った後、電解メッキ層や無電解メッキ層を除去することなく、容易に凹部及び/又は凸部に無電解メッキが施された成形物を製造する方法を提供する。
【解決手段】疎水性の非導電性部材上に、少なくとも表面が親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部を設けた後、当該凹部及び/又は凸部に触媒を付着させ、無電解メッキを行う。また、独立した凹部が形成された型に親水性樹脂を満たし、型と少なくとも表面が疎水性の非導電性部材を接触させ、疎水性の非導電性部材上に親水性樹脂からなる独立した凸部を転写した後、当該凸部に触媒を付着させ、無電解メッキを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解メッキ可能な処理を非導電性部材の凹部及び/又は凸部に無電解メッキを施してなる成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解メッキ法は、プラスチック、セラミックス、紙、ガラス、繊維などの非導電性基材表面を導電性表面に変えることができる工業的手法として広く用いられている。特に、非導電性基材表面に電解メッキを施す際に、電解メッキの前処理として非導電性基材上に無電解メッキが施されている。そして、このような無電解メッキは、良導体に直接、電解メッキを行うより、均一に金属薄膜層を設けることができることから、平面のみならず、立体成形品に対して行われることも多くある。
【0003】
また、部分的に金属薄膜層を形成させる方法として、電解メッキを施した後、マスキング処理、エッチング処理などを行い不必要な金属薄膜層を除去する方法や、無電解メッキを用いて導電層を形成した後、マスキング処理や、エッチング処理など行い不必要な導電層を除去する方法が行われている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−9122号公報(背景技術)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような方法では、不必要な金属薄膜層や導電層を形成しなくてはならず、コストが高くなってしまう。また、残すべき金属薄膜層や導電層が、露光・感光処理を行う際に、本来の形状より線が細るといった問題があり、特に、凹部及び/又は凸部が小さく、細かくなるほど再現性を得ることが難しいといった問題がある。
【0006】
そこで、本発明者は、エッチングによる金属薄膜層や導電層の除去を行うことなく容易に、凹部及び/又は凸部に無電解メッキが施された成形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の凹部及び/又は凸部に無電解メッキされた成形物の製造方法は、少なくとも表面が疎水性の非導電性部材上に、少なくとも表面が親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部を設けた後、当該凹部及び/又は凸部に触媒を付着させ、無電解メッキを行うことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の凸部に無電解メッキが施された成形物の製造方法は、独立した凹部が形成された型に親水性樹脂を満たし、型と少なくとも表面が疎水性の非導電性部材を接触させ、疎水性の非導電性部材上に親水性樹脂からなる独立した凸部を転写した後、当該凸部に触媒を付着させ、無電解メッキを行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成形物の製造方法によれば、少なくとも表面が疎水性の非導電性部材上に、少なくとも表面が親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部を設けた後、当該凹部及び/又は凸部に触媒を付着させ、無電解メッキを行うことから、無電解メッキ処理や電解メッキ処理をした後にマスキング処理や、エッチング処理が不要であり、凹部及び/又は凸部のエッジ部分が細ることなく、再現性がよく、電気的な不良が起こりにくい、凹部及び/又は凸部に無電解メッキされた成形物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の凹部及び/又は凸部に無電解メッキされた成形物(以下、「成形物」という場合もある)の製造方法について説明する。本発明の凹部及び/又は凸部に無電解メッキされた成形物の製造方法は、少なくとも表面が疎水性の非導電性部材上に、少なくとも表面が親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部を設けた後、当該凹部及び/又は凸部に触媒を付着させ、無電解メッキを行うことを特徴とするものである。以下、本発明の成形物の製造方法の実施の形態について説明する。
【0011】
疎水性の非導電性部材としては、ポリエステル、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル、液晶ポリマー(LCP)、ポリオレフィン、セルロース変性樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フッ素樹脂などのプラスチックなどのそれ自体が疎水性の非導電性材料を使用することができる。これらの中でも、メッキ形成後に非導電性材料側から良好な金属光沢を観察するという点で、プラスチックなどの透明材料が好適に使用できる。また、親水性や導電性の部材表面に、上述した疎水性の非導電性材料で処理したものやフッ素処理したものであってもよい。
【0012】
疎水性の非導電性部材は、表面の純水に対する接触角が70度以上が好ましく、90度以上がさらに好ましい。疎水性の度合いをこのような範囲とすることにより、触媒をより付着させにくくすることができ、無電解メッキを施した際に、メッキ層が形成されることを防止することができる。
【0013】
少なくとも表面が疎水性の非導電性部材上に、少なくとも表面が親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部を設ける方法は、以下の二つの方法があげられる。
【0014】
まず、疎水性の非導電性部材を金型などで成型して、独立した凹部及び/又は凸部を形成した後、凹部及び/又は凸部の表面に親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部を設ける手段があげられる。すなわち、独立した凹部及び/又は凸部を疎水性の非導電性材料を用いて成型した場合、凹部及び/又は凸部は疎水性であるため、このままでは無電解メッキに対して触媒活性を有する金属微粒子(触媒)を付着させることができない。そのため、独立した凹部及び/又は凸部に親水性樹脂からなる樹脂膜を形成することが必要となる。親水性樹脂からなる樹脂膜を凹部及び/又は凸部に形成する方法としては、親水性樹脂として親水性感光性樹脂を用いて樹脂膜を成型体一面に形成し、マスキング処理及びエッチング処理を行い凹部分及び/又は凸部分に親水性樹脂からなる樹脂膜を残す方法や、親水性樹脂からなる樹脂膜を凹部及び/又は凸部に部分的に印刷する方法などを用いることができる。
【0015】
樹脂膜を構成する親水性感光性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂などの親水性樹脂に感光性の基が導入されたものを用いることができる。
【0016】
このような親水性樹脂からなる樹脂膜は、樹脂膜を構成する樹脂などの材料を適当な溶媒に溶解させた塗布液を、公知の塗工法により非導電性基材上に塗布し、乾燥することなどにより形成することができる。
【0017】
また、親水性樹脂からなる樹脂膜を凹部及び/又は凸部に部分的に印刷する方法では、スクリーン印刷やインクジェット記録方法などを用いることができる。樹脂膜を構成する親水性樹脂としては、親水性の(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、親水性のポリエステル系樹脂、親水性のポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂などを用いることができる。また、これら親水性樹脂以外に、疎水性樹脂を含有させることもできる。これらの親水性樹脂及び疎水性樹脂は、溶出を防ぐため非水溶性であることが好ましい。
【0018】
親水性樹脂からなる樹脂膜は、樹脂膜を構成する樹脂を、スクリーン印刷やインクジェット記録方法に適したインクとして調整し、それぞれの印刷方法を用いて樹脂膜を形成したい凹部及び/又は凸部に部分的に印刷することにより形成することができる。
【0019】
このような親水性樹脂を用いて、親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部を設けることにより、無電解メッキや電解メッキを施した後に、無電解メッキや電解メッキされた部分を除去する必要がないため、経済的である。そして、無電解メッキや電解メッキされた後、露光・感光処理を行わないため、露光によるメッキ細りが発生することがないといった効果を得ることができる。また、メッキを施したい部分を粗面化して、触媒を埋め込むなどを行う方法を用いた場合には、粗面化によって光沢感や透明感が失われてしまうが、本発明においては、粗面化を行わずに無電解メッキを施すことができるため、光沢感や透明感をもたせることができる。
【0020】
次に、少なくとも表面が疎水性の非導電性部材上に、親水性樹脂からなる独立した凸部を設ける手段があげられる。具体的には、スクリーン印刷やインクジェット記録方法を用いることや、凸部を反転させた型を用いて、疎水性の非導電性部材上に転写させて、凸部を形成することにより、独立した凸部を形成することができる。これらの方法の中でも、任意の形状の凸部を形成しやすいことや凸部の高さを出しやすいことから、凸部を反転させた型を用いて、疎水性の非導電性部材上に転写させる方法が好ましい。
【0021】
凸部を反転させた型を用いて、疎水性の非導電性部材上に転写させる方法としては、凸形状と対照的な形状(凹形状)を備えた型を作製し、当該部分を凸形状を構成する親水性樹脂で満たし、その上に疎水性の非導電性部材を重ね合わせた後、親水性樹脂を硬化させ、非導電性部材ごと型から取りだす方法などがある。
【0022】
独立した凸部を形成する方法に用いられる親水性樹脂としては、親水性の(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、親水性のポリエステル系樹脂、親水性のポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂などを用いることができる。また、これら親水性樹脂以外に、疎水性樹脂を含有させることもできる。これらの親水性樹脂及び疎水性樹脂は、溶出を防ぐため非水溶性であることが好ましい。特に、触媒を付着させるときの触媒液や無電解メッキなどのメッキ浴に浸漬する際に親水性樹脂が溶出することを防止させるため、親水性電離放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。このような親水性電離放射線硬化型樹脂としては、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレートなどがあげられる。
【0023】
このような親水性樹脂により形成された凸部表面の純水に対する接触角は、触媒付着性を良好にするために、60度以下とすることが好ましく、さらに55度以下とすることがより好ましい。
【0024】
また、親水性樹脂と疎水性の非導電性部材の間に、下引き処理をしてもよい。このような下引き処理としては、親水性樹脂としてポリビニルブチラール系樹脂を用いる場合には、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物を用いることができる。
【0025】
このような親水性樹脂からなる独立した凸部を設けることにより、マスキング処理やエッチング処理、露光・感光処理などを行わずに、触媒を付着させて、無電解メッキを施すことができ、工程数を減らすことができる。さらに、無電解メッキや電解メッキされた部分を除去する必要がないため、経済的である。そして、無電解メッキや電解メッキされた後、露光・感光処理を行わないため、露光によるメッキ細りが発生することがないといった効果を得ることができる。
【0026】
本願において独立した凹部及び/又は凸部とは、基準となる面より、凹形状や凸形状が形作られているものをいい、半円柱、半球状、三角錐、四角錐、三角柱、四角柱などがあげられる。
【0027】
このように親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部を設けた後、当該凹部及び/又は凸部に触媒を付着させ、無電解メッキを行う。
【0028】
無電解メッキに対して触媒活性を有する金属微粒子(触媒)は、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、スズ、イリジウム、オスミウム、白金などを単独又は混合して用いることができる。これら触媒はコロイド溶液として用いることが好ましい。触媒のコロイド溶液を製造するには、触媒を含有する水溶性塩を水に溶解させ、界面活性剤を加えて激しく撹拌しながら還元剤を添加する方法が一般的であるが、他の公知の方法を用いてもよい。親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部に触媒を付着させるには、この触媒のコロイド溶液を用いて、感受性化処理(センジタイジング)、活性化処理(アクチベーティング)を順次行う方法、あるいはキャタライジング、アクセレーティングを順次行う方法があげられる。本発明では、親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部を形成させていることから、独立した凹部及び/又は凸部にのみ触媒を付着させることができ、触媒付着工程を極めて短時間で済ますことができ、また、短時間のため親水性樹脂からなる樹脂膜が触媒液に溶出することを防止することができる。
【0029】
なお、親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部に触媒を付着させる前に、親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部に対して、酸/アルカリ洗浄で脱脂処理を行うことが好ましい。
【0030】
また、一般的には、親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部に触媒を付着させる前に、脱脂処理の他にさらにコンディショニングやプレディップという工程を行うことも必要に応じて行うことができる。
【0031】
親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部に触媒を付着させた後は、無電解メッキを行う。無電解メッキは例えば、メッキすべき金属の水溶性化合物(通常は金属塩)、錯化剤、pH調整剤、還元剤およびメッキ助剤を含む無電解メッキ浴中に、触媒を付着させた無電解メッキ形成材料を浸漬することにより行うことができる。浴組成、温度、pH、浸漬時間などの諸条件を調整することにより、無電解メッキの厚みを調整することができる。
【0032】
無電解メッキのメッキ用金属としては、無電解銅、無電解ニッケル、無電解銅・ニッケル・リン合金、無電解ニッケル・リン合金、無電解ニッケル・ホウ素合金、無電解コバルト・リン合金、無電解金、無電解銀、無電解パラジウム、無電解スズなどがあげられる。
【0033】
錯化剤、pH調整剤、メッキ助剤、還元剤は従来公知のものを使用することができる。
【0034】
以上により、独立した凹部及び/又は凸部に無電解メッキが施された成形物を製造することができる。
【0035】
無電解メッキが施された後は、必要に応じて電解メッキを行う。電解メッキは、無電解メッキが形成された成形物を、公知の電解メッキ浴に浸漬して通電することにより行うことができる。電流密度や通電時間を調整することにより、電解メッキの厚みを調整することができる。
【0036】
以上のように、無電解メッキあるいは無電解メッキおよび電解メッキが形成された成形物は、プリント配線板、電磁波シールド部材、面状発熱体、帯電防止シート、アンテナ、装飾物などに用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
【0038】
[実施例1]
凹形状を有する型に下記成分の親水性樹脂を流し込み、厚み100μmのポリカーボネートフィルムを重ね合わせた後、紫外線を照射し親水性樹脂を硬化させ、型から取り出して、親水性樹脂からなる独立した凸部が設けられた成形物を得た。
【0039】
<親水性樹脂処方>
・エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート 20部
・ポリエチレングリコールジアクリレート 20部
・開始剤 1部
【0040】
実施例1の独立した凸部が設けられた成形物に、下記の(1)〜(4)の工程を行い、凸部に無電解メッキ、電解メッキを施した。
【0041】
(1)脱脂処理:アルカリ水溶液を用いて180秒脱脂処理を行った。
(2)触媒付与:触媒浴としてパラジウムおよびスズ混合のコロイド溶液を用い、感受性化処理を180秒、活性化処理を30秒順次行った。
(3)無電解メッキ:下記組成の無電解メッキ浴を用い、浴温60℃、浸漬時間15分の条件で無電解メッキを行った。
<無電解メッキ浴>
・硫酸銅五水和物 0.03M
・EDTA四水和物 0.24M
・ホルマリン 0.20M
・ジピリジル 10ppm
・界面活性剤 100ppm
(4)電解メッキ:電解メッキ浴として硫酸銅メッキ浴(キューブライトTHプロセス:在原ユージライト社)を用い、約30μmの厚みとなるまで電解メッキを行った。
【0042】
実施例1の凸部に無電解メッキが施された成形物は、マスキング処理やエッチング処理を行うことなく、凸部だけに無電解メッキ層を形成することができ、その後もマスキング処理やエッチング処理を行うことなく、凸部だけに電解メッキ層を形成することができた。また、メッキ層は均一に形成されているものであり、メッキのエッジ部分の形状追従性も良好であり、メッキ部分が細ることがないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が疎水性の非導電性部材上に、少なくとも表面が親水性樹脂からなる独立した凹部及び/又は凸部を設けた後、当該凹部及び/又は凸部に触媒を付着させ、無電解メッキを行うことを特徴とする凹部及び/又は凸部に無電解メッキが施された成形物の製造方法。
【請求項2】
独立した凹部が形成された型に親水性樹脂を満たし、型と少なくとも表面が疎水性の非導電性部材を接触させ、疎水性の非導電性部材上に親水性樹脂からなる独立した凸部を転写した後、当該凸部に触媒を付着させ、無電解メッキを行うことを特徴とする凸部に無電解メッキが施された成形物の製造方法。

【公開番号】特開2008−285723(P2008−285723A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131942(P2007−131942)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】