説明

無電解メッキ処理装置および無電解メッキ処理方法

【課題】半導体ウエハの電極品質および作業性を両立させる。
【解決手段】本発明は、遮光筐体10内部の処理室10AでシリコンウエハWに無電解メッキ処理を施して電極を形成する無電解メッキ処理装置1に関する。無電解メッキ処理装置1では、処理室10Aは、シリコンウエハWへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である可視光を照射可能な処理室用ライト12を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解メッキ処理装置および無電解メッキ処理方法に関し、より詳細には、半導体ウエハに電極を形成する無電解メッキ処理装置および無電解メッキ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スパッタリング法などに使用される高価な真空装置や、フォトリソグラフィなどに使用される高価な作画装置を用いることなく、半導体ウエハに電極を安価かつ高精度に形成する方法として、無電解メッキ処理方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シリコンウエハに電極を形成する無電解メッキ処理方法として、金より安価なニッケルにてメッキ処理を行い、さらに、その表面に薄い金メッキ処理を施す方法が開示されている。
【0004】
ところが、特許文献1の無電解メッキ処理方法では、能動素子などの光起電力を生じ得る被メッキ物が形成されたシリコンウエハに電極を形成する場合、形成される電極の高さにバラツキが生じるという問題があった。すなわち、光に曝されたシリコンウエハの内部に発生した光起電力の影響で、堆積するメッキ厚が不均一となり、その結果、形成される電極の厚み、或いは、高さにバラツキが生じるという問題があった。
【0005】
この問題に対して、特許文献2には、光起電力を取り除いた状態で無電解メッキ処理を施す方法が開示されている。
【0006】
図6(a)は、特許文献2に記載の無電解メッキ処理方法を実施する装置101の外観を示す斜視図であり、図6(b)は、図6(a)に示される装置101の内部構成を示す透視図である。図6(a)および図6(b)に示されるように、特許文献2に記載のメッキ処理方法よれば、装置101が備える遮光筐体110の内部において、完全な遮光状態でシリコンウエハWに無電解メッキ処理を実行する。これにより、光起電力の影響が排除されるため、シリコンウエハWに形成される電極の高さを均一にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−237267号公報(2001年8月31日公開)
【特許文献2】特開2000−150422号公報(2000年5月30日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の無電解メッキ処理方法では、完全な遮光状態で無電解メッキ処理を施すことで光起電力の影響を排除することができる反面、以下に示す課題を有している。
【0009】
例えば、無電解メッキ処理実行時に設備トラブルが発生した場合、受光による光起電力の発生を制限するためには、遮光筐体110の遮光状態を維持したまま設備の復旧作業を行う必要がある。従って、赤外線スコープなどの器具を別途使用する必要があり、作業性が著しく低下してしまう。
【0010】
一方、作業性の観点から遮光筐体110の遮光状態を一度解除して作業した場合、光に曝されたシリコンウエハWの内部に光起電力が発生するため、形成される電極の高さにバラツキが生じてしまう。
【0011】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、半導体ウエハの電極品質および作業性を両立させた無電解メッキ処理装置および無電解メッキ処理方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る無電解メッキ処理装置は、上記課題を解決するために、遮光筐体内部の処理室で半導体ウエハに無電解メッキ処理を施して電極を形成する無電解メッキ処理装置において、上記処理室は、上記半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である第1の可視光を照射可能な第1の光源を備えることを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る無電解メッキ処理方法は、上記課題を解決するために、遮光状態に維持された処理室で半導体ウエハに無電解メッキ処理を施して電極を形成する無電解メッキ処理方法において、上記半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である可視光を、上記半導体ウエハに照射する照射ステップを含むことを特徴としている。
【0014】
上記発明によれば、遮光状態に維持された遮光筐体内部の処理室は、半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である第1の可視光を照射可能な第1の光源を備えている。このため、例えば、無電解メッキ処理実行時に設備トラブルが発生した場合、第1の光源によって第1の可視光を照射することにより、従来のように、赤外線スコープなどの器具を別途使用する、或いは、設備の復旧作業のために遮光状態を解除することなく、処理室を可視化して設備の復旧作業を目視で行うことが可能になる。これにより、作業性を向上させることができる。
【0015】
また、第1の可視光は、半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下になるように制御されている。このため、第1の可視光を照射した場合であっても、半導体ウエハに形成される電極の高さバラツキを抑制することができるので、電極品質を確保することが可能である。
【0016】
以上のように、上記発明によれば、半導体ウエハの電極品質および作業性を両立させた無電解メッキ処理装置および無電解メッキ処理方法を実現することができる。
【0017】
また、本発明に係る無電解メッキ処理装置では、上記第1の可視光は、波長が500nm以上、780nm以下であり、照度が0lx超、10lx以下であることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る無電解メッキ処理方法では、上記可視光は、波長が500nm以上、780nm以下であり、照度が0lx超、10lx以下であることが好ましい。
【0019】
上記発明によれば、第1の可視光(可視光)は、波長が500nm以上、780nm以下であり、照度が0lx超、10lx以下に制御されている。
【0020】
処理室を可視化するには、第1の可視光の波長は、可視光領域である380nm以上、780nm以下の範囲にある必要がある。一方、半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力を所定値以下に制限するためには、第1の可視光はできるだけ長波長である方が好ましい。ここで、波長と光エネルギーとの相関関係は、可視光領域のうち波長が500nm以上になると、ほぼ安定領域に入る。そこで、第1の可視光の波長の下限値として、500nmを選定し、第1の可視光の波長を、500nm以上、780nm以下の範囲に選定した。
【0021】
また、半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力を所定値以下にして、半導体ウエハに形成される電極の高さバラツキを抑制するには、照度はできるだけ低く設定することが好ましい。ここで、照度と電極の高さバラツキ幅との相関関係は、照度が10lx以下になると、電極のバラツキ幅が±2%以下となる。そこで、第1の可視光の照度の上限値として、10lxを選定し、第1の可視光の照度を、0lx超、10lx以下の範囲に選定した。
【0022】
このように、波長を500nm以上、780nm以下、照度を0lx超、10lx以下に制御することにより、半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である第1の可視光を実現することができる。
【0023】
また、本発明に係る無電解メッキ処理装置では、上記第1の光源は、波長および照度を調整可能であることが好ましい。
【0024】
上記発明によれば、第1の光源は、波長および照度を調整可能であるため、必要に応じて、第1の可視光とは異なる波長または照度の可視光を照射することが可能となる。
【0025】
これにより、第1の光源は、処理室における処理状況に応じて、最適な可視光を照射することができる。
【0026】
また、本発明に係る無電解メッキ処理装置では、上記第1の光源は、上記第1の可視光よりも照度の高い第2の可視光を照射可能であることが好ましい。
【0027】
上記発明によれば、第1の光源は、第1の可視光よりも照度の高い第2の可視光を照射可能である。メンテナンス作業時など、無電解メッキ処理が実行されていないとき、半導体ウエハは処理室に未だ搬入されておらず、光起電力の発生を考慮する必要はない。このため、第1の光源に第1の可視光よりも照度の高い第2の可視光を照射させることで、処理室をより明るく照らすことができる。
【0028】
これにより、無電解メッキ処理装置のメンテナンス作業時などにおける作業性を向上させることができる。
【0029】
また、本発明に係る無電解メッキ処理装置では、遮光状態に維持され、上記処理室の内部を観察可能な前室を備え、上記前室は、上記半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である第3の可視光を照射可能な第2の光源を備えていることが好ましい。
【0030】
上記発明によれば、前室から処理室の内部を観察可能であるため、例えば、第1の可視光を照射しながら無電解メッキ処理を実行すれば、無電解メッキ処理の進捗状況、或いは、設備状態などを目視で監視することができる。これにより、設備トラブルの早期発見および早期対応が可能になる。
【0031】
また、遮光状態に維持された前室に備えられた第2の光源は、半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である第3の可視光を照射可能である。従って、無電解メッキ処理実行時に、第3の可視光が前室から処理室へ入射した場合であっても、半導体ウエハに発生する光起電力を所定値以下に制限することができる。これにより、半導体ウエハの電極品質の低下を防止することができる。
【0032】
また、本発明に係る無電解メッキ処理装置では、上記第3の可視光は、波長が500nm以上、780nm以下であり、照度が0lx超、10lx以下であることが好ましい。
【0033】
上記発明によれば、第3の可視光は、波長が500nm以上、780nm以下、照度が0lx超、10lx以下に制御されている。このため、第3の可視光が前室から処理室へ入射した場合であっても、半導体ウエハに発生する光起電力を所定値以下に制限することができる。
【0034】
これにより、半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である第3の可視光を実現することができる。
【0035】
また、本発明に係る無電解メッキ処理装置では、上記半導体ウエハは、シリコンからなることが好ましい。
【0036】
上記発明によれば、シリコンウエハの電極品質および作業性を両立させた無電解メッキ処理装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0037】
以上のように、本発明に係る無電解メッキ処理装置は、遮光筐体内部の処理室で半導体ウエハに無電解メッキ処理を施して電極を形成する無電解メッキ処理装置において、上記処理室は、上記半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である第1の可視光を照射可能な第1の光源を備えるものである。
【0038】
また、本発明に係る無電解メッキ処理方法は、遮光状態に維持された処理室で半導体ウエハに無電解メッキ処理を施して電極を形成する無電解メッキ処理方法において、上記半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である可視光を、上記半導体ウエハに照射する照射ステップを含む方法である。
【0039】
それゆえ、半導体ウエハの電極品質および作業性を両立させた無電解メッキ処理装置および無電解メッキ処理方法を実現することにある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る無電解メッキ処理装置の構成を示す断面図である。
【図2】波長と光エネルギーとの相関関係を示すグラフである。
【図3】照度と電極の高さバラツキ幅との相関関係を示すグラフである。
【図4】本実施形態に係る無電解メッキ処理装置が備える処理室用ライトが照射する光の波長および照度の制御の一例を示すグラフである。
【図5】本実施形態に係る無電解メッキ処理方法の流れを示すフローチャートである。
【図6】(a)は、従来の無電解メッキ処理方法を実施する装置の外観を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示される装置の内部構成を示す透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明に係る無電解メッキ処理装置の一実施形態について図1〜図5に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、本実施形態では、本発明に係る無電解メッキ処理装置によって、シリコン基板上に所定の電子回路が形成されたPN接合などの構造を有するシリコンウエハに電極を形成する場合について説明する。
【0042】
(無電解メッキ処理装置の構成)
図1は、本実施形態に係る無電解メッキ処理装置1の構成を示す断面図である。図1に示されるように、無電解メッキ処理装置1は、装置全体を覆う遮光筐体10と、遮光筐体10の内部に配置された複数の処理槽20と、複数の処理槽20に対応させてシリコンウエハWを搬送する搬送ユニット30とを備えている。また、遮光筐体10の内部は、仕切り板11によって処理室10Aと前室10Bとに区分されている。処理室10Aには、処理室用ライト(第1の光源)12が備えられており、同様に、前室10Bには前室用ライト(第2の光源)13が備えられている。
【0043】
遮光筐体10は、外部からの光を遮断する遮光性の材料からなる外面を有しており、このため、処理室10Aおよび前室10Bは遮光状態に維持されている。
【0044】
仕切り板11は、遮光筐体10の内部を処理室10Aと前室10Bとに区分しており、遮光筐体10の外面と同じ遮光性の材料からなる。仕切り板11には、スライド式に開閉可能な内部ゲート(図示省略)が設けられており、当該内部ゲートを介して処理室10Aと前室10Bとの出入りが可能になっている。また、仕切り板11には、前室10Bから処理室10Aの内部を観察することができるように開閉式の観察窓が設けられている。
【0045】
処理室10Aは、シリコンウエハWに対して無電解メッキ処理を施す部屋であり、処理槽20および搬送ユニット30などが配設されている。
【0046】
前室10Bは、外光や汚染空気が外部から処理室10Aに直接侵入することを防止する部屋であり、前室10Bには、装置外部に通じる外部ゲート(図示省略)が設けられている。内部ゲートと外部ゲートとは同時に開かない構造になっており、外部ゲート開放時に外部から前室10Bに侵入した外光や汚染空気が、処理室10Aに侵入することを防止することが可能である。これにより、処理室10Aを清浄な状態に保つことができる。
【0047】
また、前室10Bからは、仕切り板11に設けられた観察窓を介して処理室10Aの内部を観察することができ、処理室10Aで実行される無電解メッキ処理の進捗状況、或いは、設備状態を監視することができる。
【0048】
処理室用ライト12は、照射する光の波長および照度を調整可能な光源であり、例えば、LEDなどを好適に用いることができる。処理室用ライト12は、無電解メッキ処理時、或いは、メンテナンス作業時など、処理室における作業内容に応じて最適な光を照射するために、照射する光の波長および照度を適宜変更することができる。
【0049】
例えば、処理室用ライト12は、無電解メッキ処理実行時において、シリコンウエハWにおける光起電力の発生を所定値以下に制限しつつ、無電解メッキ処理の進捗状況、或いは、搬送ユニット30などの動作状態(設備状態)を可視化する可視光(第1の可視光)を照射する。
【0050】
一方、処理室用ライト12は、メンテナンス作業時において、作業性を向上させるために、無電解メッキ処理実行時よりも相対的に照度の高い可視光(第2の可視光)を照射する。なお、処理室用ライト12が照射する光の波長および照度の調整についての詳細は後述する。
【0051】
前室用ライト13は、処理室用ライト12と同様に、照射する光の波長および照度を調整可能な光源であり、LEDなどを好適に用いることができる。前室用ライト13は、シリコンウエハWへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である可視光(第3の可視光)を照射可能であり、本実施形態では、処理室用ライト12と波長および照度を同調させた光を照射するように制御されている。従って、処理室10Aおよび前室10Bには、同一の波長および照度の光が処理室用ライト12または前室用ライト13によってそれぞれ照射される。
【0052】
複数の処理槽20は、シリコンウエハWを水洗いするための水槽、希硝酸槽、水酸化ナトリウム槽、ジンケート処理(Zn置換メッキ)を行うためのジンケート槽、無電解メッキ処理を施すためのNi槽、および、無電解メッキ処理を施すためのAu槽などを含んでいる。複数の処理槽20は、一列に並べられて、処理室10Aに配設された載置台14に載置されている。
【0053】
搬送ユニット30は、複数の処理槽20に対してシリコンウエハWを槽間搬送して無電解メッキ処理を施すものである。搬送ユニット30は、シリコンウエハWを保持するホルダ31と、ホルダ31を昇降可能に垂下する搬送アーム32と、搬送アーム32の水平方向の移動をガイドするガイドレール33と、ガイドレール33を支持する支持部34とを備えている。
【0054】
支持部34は、複数の処理槽20が載置された載置台14に突設されており、一列に並べて載置された複数の処理槽20の上方を、ホルダ31が水平移動するようにガイドレール33を支持している。このため、シリコンウエハWを保持したホルダ31を複数の処理槽20の上方で水平移動させて、所定の処理槽20の直上で停止するように制御することができる。また、搬送アーム32は、ホルダ31を昇降可能に垂下しているおり、これにより、ホルダ31に保持されたシリコンウエハWを槽間搬送して所定の処理槽20に浸漬させることができる。
【0055】
このように、無電解メッキ処理装置1は、シリコンウエハWに無電解メッキ処理を施す遮光筐体10の内部の処理室10Aに、照射する光の波長および照度を調整可能な処理室用ライト12を備え、処理室用ライト12は、作業内容に応じて、照射する光の波長および照度を適宜変更する構成である。
【0056】
ここで、シリコンウエハWの電極品質と作業性とを両立させためには、無電解メッキ処理実行時において処理室用ライト12から照射される光は、光起電力の発生の制限および処理室10Aの可視化という2つの条件を同時に満たす必要がある。
【0057】
すなわち、無電解メッキ処理実行時において処理室用ライト12から照射される光が強すぎると、シリコンウエハWに光起電力が発生して、形成される電極の高さにバラツキが生じる。このため、シリコンウエハWの電極品質を確保することができない。
【0058】
一方、無電解メッキ処理実行時において処理室用ライト12から照射される光が弱すぎると、処理室10Aの可視化を実現することができない。これでは、無電解メッキ処理実行時に設備トラブルが発生した場合、従来のように、赤外線スコープなどの器具を別途使用して設備の復旧作業を行う必要があり、作業性が低下する。また、処理室10Aにおける無電解メッキ処理の進捗状況、或いは、搬送ユニット30などの動作状態を外部から監視することができないため、設備トラブルの発見、対応に遅れが生じる。
【0059】
そこで、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、光起電力の発生の制限および処理室10Aの可視化という2つの条件を同時に満たし得る波長および照度の最適な範囲を見出すに至った。以下、照射する光の波長および照度について説明する。
【0060】
(照射光の波長および照度)
まず、無電解メッキ処理実行時において照射する光の波長の範囲について説明する。
【0061】
図2は、波長と光エネルギーとの相関関係を示すグラフである。図2では、横軸が波長(nm)、縦軸が光エネルギー(eV)をそれぞれ示している。
【0062】
まず、処理室10Aを可視化するには、処理室用ライト12から照射される光の波長は、可視光領域である380nm以上、780nm以下の範囲にある必要がある。一方、図2に示されるように、シリコンウエハWに用いられるシリコン(Si)は、波長1060nm以下の光に感応して光起電力を発生させるが、光起電力の発生の誘引となる光エネルギーは、照射する光の波長が長くなるにつれて減少する傾向にある。
【0063】
従って、可視光領域のうち、できるだけ長波長側の光を照射すれば、光起電力の発生を極力抑えながら、処理室10Aの可視化を実現することができる。
【0064】
ここで、波長が500nm以上になると、波長と光エネルギーとの相関関係は、ほぼ安定領域に入り、シリコンウエハWにおける価電子帯から伝導帯への電子の励起が制限される。そこで、無電解メッキ処理実行時において、処理室用ライト12が照射する光の波長の下限値として500nmを選定した。また、波長の上限値として、可視光領域の最大波長である780nmを選定した。
【0065】
このようにして、無電解メッキ処理実行時において、処理室用ライト12が照射する光の波長を500nm以上、780nm以下の範囲に選定した。なお、波長が500nmの光は、例えば、フォトレジストの感応防止領域として認知されており、その安全性も立証されている。
【0066】
次に、無電解メッキ処理時において照射する光の照度の範囲について説明する。
【0067】
図3は、波長500nm付近にピーク値を有する照明下での照度と電極の高さバラツキ幅との相関関係を示すグラフである。図3では、横軸が照度(lx)、縦軸が照度に依存する電極の高さバラツキ幅(±%)をそれぞれ示している。
【0068】
図3に示されるように、照射する光の照度が低くなるにつれて、電極の高さバラツキ幅は抑制される傾向にある。
【0069】
ここで、照度と電極の高さバラツキ幅との相関関係は、照度が10lx以下になると、ほぼ安定領域に入り、形成される電極のバラツキ幅は±2%以下となる。そこで、無電解メッキ処理実行時において、処理室用ライト12が照射する光の照度の上限値として10lxを選定した。
【0070】
一方、無電解メッキ処理実行時において、処理室用ライト12が照射する光の照度の下限値は、処理室10Aの可視化という条件に満たすためには少なくとも0より大きい値である必要がある。
【0071】
このようにして、無電解メッキ処理実行時において、処理室用ライト12が照射する光の照度を0lx超、10lx以下の範囲に選定した。
【0072】
以上のように、無電解メッキ処理実行時において、処理室用ライト12が照射する光の波長を500nm以上、780nm以下、照度を0lx超、10lx以下に調整することにより、シリコンウエハWにおける光起電力の発生を所定値以下に制限しつつ、処理室10Aの可視化を実現することができる。
【0073】
図4は、本実施形態に係る無電解メッキ処理装置1が備える処理室用ライト12が照射する光の波長および照度の制御の一例を示すグラフである。図4では、横軸が波長(nm)、縦軸が照度(lx)をそれぞれ示している。図4において、領域Aは、処理室用ライト12が無電解メッキ処理時に照射する光の波長および照度の範囲を示しており、領域Bは、処理室用ライト12がメンテナンス作業時に照射する光の波長および照度の範囲を示している。
【0074】
図4に示されるように、無電解メッキ処理装置1では、処理室用ライト12は、無電解メッキ処理時において、波長を500nm以上、780nm以下、照度を0lx超、10lx以下の範囲内に制御した光を照射する。これにより、無電解メッキ処理実行時において、光起電力の発生を所定値以下に制限しつつ、処理室10Aを可視化することができる。
【0075】
一方、メンテナンス作業時など、無電解メッキ処理を実行していないときは、シリコンウエハWは処理室10Aに未だ搬入されておらず、光起電力の発生を考慮する必要はない。このため、処理室用ライト12は、メンテナンス作業の作業性を向上させるために、波長および照度を変更した光を照射する。例えば、無電解メッキ処理実行時よりも相対的に高い照度の光を照射することで、メンテナンス作業の作業性を向上させることができる。なお、処理室用ライト12は、メンテナンス作業時において、例えば、波長が可視光領域である380nm以上、780nm以下、照度が5lx以上、500lx以下の範囲の光を照射する。
【0076】
(無電解メッキ処理方法の流れ)
次に、無電解メッキ処理装置1を用いて、シリコンウエハW上に予め形成されたAl電極を核として、このAl電極上に無電解メッキ処理によりバンプ電極を形成する無電解メッキ処理方法の流れについて説明する。なお、ここでは、無電解メッキ処理の全工程に亘って処理室用ライト12を点灯させて、無電解メッキ処理の進捗状況、或いは、設備状態を監視可能にする場合について説明する。
【0077】
図5は、本実施形態に係る無電解メッキ処理方法の流れを示すフローチャートである。図5に示されるように、まず、処理室10Aを可視化するために処理室用ライト12を点灯する(処理室用ライト照射ステップ:S1)。或いは、すでに処理室用ライト12が点灯している場合には、処理室用ライト12から照射される光の波長および照度を所定の範囲に変更する。具体的には、処理室用ライト12から照射される光の波長および照度を、図4に示される領域Aの波長および照度に調整する。このとき、前室10Bが備える前室用ライト13から照射される光についても、図4に示される領域Aの波長および照度に調整する。
【0078】
次に、シリコンウエハWをホルダ31に収納して、しばらく放置することにより光起電力を除去(除電)、或いは、減少させる(光起電力除去ステップ:S2)。パッケージングされていない剥き出しの状態にあるシリコンウエハWは、処理室10Aに搬入された時点において、光起電力が発生した状態にある。そこで、シリコンウエハWをホルダ31に収納した状態でしばらく放置することにより、発生した光起電力を除去、或いは、減少させることができる。
【0079】
次に、シリコンウエハWのAl電極の表面に自然に形成された自然酸化膜を酸処理により除去する(酸化膜除去ステップ:S3)。具体的には、シリコンウエハWを、まず水槽に浸漬して水洗いした後、希硝酸槽および水酸化ナトリウム槽に適宜繰り返して浸漬する。そして、再び水槽に浸漬して水洗いすることにより、Al電極の表面に形成された酸化膜を除去する。
【0080】
次に、シリコンウエハWをジンケート槽に浸漬して、ジンケート処理(Zn置換メッキ)を行う(ジンケート処理ステップ:S4)。
【0081】
次に、シリコンウエハWをNi槽に浸漬して、ジンケート処理された上にNi無電解メッキ処理を施す(Ni無電解メッキ処理ステップ:S5)。
【0082】
最後に、シリコンウエハWをAu槽に浸漬して、Ni無電解メッキ処理された上にAu無電解メッキ処理を施す(Au無電解メッキ処理ステップ:S6)。
【0083】
これにより、Al電極を核としてこの上にNiおよびAuの析出金属を生成させ、一様な厚さあるいは高さの金属膜、すなわち、バンプ電極を形成することができる。
【0084】
このように、無電解メッキ処理方法によれば、光起電力の発生を所定値以下に制限する照明下で、S2〜S6が実行される。このため、無電解メッキ処理の進捗状況、或いは、設備状態を目視で監視することが可能である。従って、無電解メッキ処理実行中に設備トラブルが発生した場合あっても、設備トラブルの早期発見および早期対応が可能になる。
【0085】
また、無電解メッキ処理実行時に設備トラブルが発生した場合、処理室10Aは可視化されているため、設備の復旧作業を目視で行うことが可能になる。これにより、作業性を向上させることができる。
【0086】
さらに、前室用ライト13は、処理室用ライト12と同様に、図4に示される領域Aの波長および照度に調整された光を照射するため、前室10Bから処理室10Aへ前室用ライト13の光が入射した場合であっても、シリコンウエハWに発生する光起電力を所定値以下に制限することができる。これにより、形成される電極にバラツキが生じることを抑制して、シリコンウエハWの電極品質の低下を防止することができる。
【0087】
なお、ここでは、無電解メッキ処理の進捗状況、或いは、搬送ユニット30などの動作状態を監視可能にするために、無電解メッキ処理の全工程に亘って処理室用ライト12を点灯させる場合について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、設備トラブル発生時など、必要に応じて処理室用ライト12を点灯する処理室用ライト照射ステップを実行する構成であってもよい。この場合、遮光状態でシリコンウエハWに対して無電解メッキ処理が施されるため、シリコンウエハWにおける光起電力の発生をより制限することができる。これにより、シリコンウエハWに形成される電極の高さバラツキを抑制して、電極品質を向上させることができる。
【0088】
(実施形態の総括)
以上のように、本発明は、遮光筐体10内部の処理室10AでシリコンウエハWに無電解メッキ処理を施して電極を形成する無電解メッキ処理装置1において、処理室10Aは、シリコンウエハWへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である第1の可視光を照射可能な処理室用ライト12を備える構成である。
【0089】
このため、例えば、無電解メッキ処理実行時に設備トラブルが発生した場合、処理室用ライト12を点灯させることにより、従来のように、設備の復旧作業のために赤外線スコープなどの器具を別途使用する、或いは、遮光状態を解除することなく、処理室10Aを可視化して設備の復旧作業を目視で行うことが可能になる。このため、作業性を向上させることができる。
【0090】
また、処理室用ライト12から照射される光は、シリコンウエハWへの照射時に発生する光起電力が所定値以下なるように制御されている。このため、処理室用ライト12を点灯させたとしても、シリコンウエハWに形成される電極の高さバラツキを抑制することができるので、電極品質を確保することが可能である。
【0091】
それゆえ、本実施形態によれば、シリコンウエハWの電極品質および作業性を両立させた無電解メッキ処理装置1を実現することができる。
【0092】
なお、本実施形態では、処理室用ライト12として、照射する光の波長および照度を適宜変更可能な光源を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、処理室用ライト12として、シリコンウエハWへの照射時に発生する光起電力を所定値以下に制限可能な波長および照度に固定された可視光を照射する光源を用いてもよい。
【0093】
また、本実施形態では、半導体ウエハとしてシリコンウエハWを用いた場合について説明したが、本発明はこれの限定されない。シリコンウエハ以外にも、例えば、シリコンカーバイド(SiC)ウエハ、ガリウムヒソ(GaAs)ウエハ、ガリウムリン(GaP)ウエハ、ガリウムナイトライド(GaN)ウエハなど、光に曝されることによって光起電力を生じる半導体ウエハを用いることができる。
【0094】
また、本実施形態では、単一の遮光筐体10の内部に仕切り板11を設けることによって、処理室10Aと前室10Bとに区分しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、遮光筐体10とは異なる遮光部材を連設することによって、前室10Bを形成してもよい。
【0095】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、無電解メッキ処理によってシリコンウエハに電極を形成する場合に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 無電解メッキ処理装置
10 遮光筐体
10A 処理室
10B 前室
11 仕切り板
12 処理室用ライト(第1の光源)
13 前室用ライト(第2の光源)
20 処理槽
30 搬送ユニット
W シリコンウエハ(半導体ウエハ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮光筐体内部の処理室で半導体ウエハに無電解メッキ処理を施して電極を形成する無電解メッキ処理装置において、
上記処理室は、上記半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である第1の可視光を照射可能な第1の光源を備えることを特徴とする無電解メッキ処理装置。
【請求項2】
上記第1の可視光は、波長が500nm以上、780nm以下であり、照度が0lx超、10lx以下であることを特徴とする請求項1に記載の無電解メッキ処理装置。
【請求項3】
上記第1の光源は、波長および照度を調整可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の無電解メッキ処理装置。
【請求項4】
上記第1の光源は、上記第1の可視光よりも照度の高い第2の可視光を照射可能であることを特徴とする請求項3に記載の無電解メッキ処理装置。
【請求項5】
遮光状態に維持され、上記処理室の内部を観察可能な前室を備え、
上記前室は、上記半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である第3の可視光を照射可能な第2の光源を備えていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の無電解メッキ処理装置。
【請求項6】
上記第3の可視光は、波長が500nm以上、780nm以下であり、照度が0lx超、10lx以下であることを特徴とする請求項5に記載の無電解メッキ処理装置。
【請求項7】
上記半導体ウエハは、シリコンからなることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の無電解メッキ処理装置。
【請求項8】
遮光状態に維持された処理室で半導体ウエハに無電解メッキ処理を施して電極を形成する無電解メッキ処理方法において、
上記半導体ウエハへの照射時に発生する光起電力が所定値以下である可視光を、上記半導体ウエハに照射する照射ステップを含むことを特徴とする無電解メッキ処理方法。
【請求項9】
上記可視光は、波長が500nm以上、780nm以下であり、照度が0lx超、10lx以下であることを特徴とする請求項8に記載の無電解メッキ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−31453(P2012−31453A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170343(P2010−170343)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】