説明

無電解メッキ廃液中残留ニッケルの回収方法

【課題】 本発明は無電解ニッケルメッキ廃液から、ニッケルイオンを、リン含有量が100mg/Kg以下の資源化が可能なニッケル化合物として回収する方法を提供する。
【解決手段】 カラムに充填された選択性重金属キレート樹脂の再生工程(A)と、無電解ニッケルメッキ廃液の調整工程(B)と、前記工程(A)で再生したキレート樹脂に、前記工程(B)で調整したニッケルメッキ廃液を接触させニッケルイオンをキレート樹脂に吸着させた後、鉱酸でニッケルを溶出するニッケルの吸着溶出工程(C)と、前記工程(C)で溶出したニッケル塩水溶液に対して1当量以上の炭酸塩または水酸化アルカリまたは蓚酸を添加することにより不溶性ニッケル化合物を沈殿させるニッケル資源化工程(D)とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解ニッケルメッキ工程から排出されるメッキ浴廃液中に残留しているニッケルイオンをニッケル資源として回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解ニッケルメッキ浴は還元剤のリン酸塩、および錯化剤のリンゴ酸等の有機酸からなるので、ニッケルメッキ反応が進行するとメッキ浴のこれら成分が老化してメッキ反応性が低下するので、メッキ反応を継続するためには新しいメッキ浴に取り替える必要がある。その結果、生じる老化したメッキ廃液は無害化して廃棄処分される。
【0003】
しかしながら、このニッケルメッキ廃液中には未だニッケルイオンが残留しており、その濃度は廃液1リットル中に数千mg/lもある。
【0004】
そこで、無電解ニッケルメッキ廃液中の残留ニッケルイオンを回収する方法が種々検討されている。
【0005】
例えば、無電解ニッケルメッキ廃液をキレート樹脂と接触させてニッケルイオンを樹脂に吸着させて廃液から分離した後、ニッケルを塩酸や硫酸で溶離し、溶離したニッケル溶液中の過剰の酸は別途用意した水酸化ニッケル等で中和し塩化ニッケルまたは硫酸ニッケル(硫酸溶離の場合)として回収し、再利用する方法(特許文献1の[0011]欄)、無電解ニッケルめっき老化液とニッケル粉末との接触により無電解めっき反応を行わせて、該老化液中のニッケルイオンをニッケル金属として分離回収する方法(特許文献2の請求項1)、又は、還元剤に次亜リン酸塩を、錯化剤に有機酸を使用した化学ニッケルめっき老化廃液に、シュウ酸を加えてpH1〜3の酸性とし、老化廃液中の有機酸と錯体化したニッケルイオンを不溶性のシュウ酸ニッケルとして沈殿させ、同時にリン含有量の少ないシュウ酸ニッケルとしてロ過回収することを特徴とする化学ニッケルめっき浴の廃液からニッケルを回収する方法(特許文献3の請求項1)等がある。
【0006】
【特許文献1】特開平11−226596 [0011]欄
【特許文献2】特開平9−176861 請求項1
【特許文献3】特開昭59−185770 請求項1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前出特許文献3に、「ニッケルめっき老化廃液からニッケルを回収する方法においては沈殿をロ過しやすくすること、回収したニッケル中にリン成分の混入をできる限り少なくすることが問題点であり重要事項である」(特許文献3の3欄31〜35行)と記載されているように、リン成分の混入を排除してニッケルを分離回収することが重要な点である。その理由は、回収したニッケル化合物中にリン成分が混入しているとニッケル資源として再生することが困難となるからである。
【0008】
しかしながら前記従来の方法では、リン成分の混入を排除して廃液中のニッケルイオンを回収する方法としては十分とは言い難い。
【0009】
即ち、前出特許文献1の方法は「キレート樹脂により吸着されたニッケルは酸による溶解によって塩化ニッケル又は硫酸ニッケル等として回収され」(特許文献1[0011]欄)再利用する方法であり、前出特許文献2の方法は「無電解ニッケルめっき老化液とニッケル粉末との接触により無電解めっき反応を行わせて、該老化液中のニッケルイオンをニッケル金属として分離回収する」(特許文献2の請求項1)方法であり、何れの方法にもニッケルを回収する方法が記述されている。しかしながら、ニッケルを回収する目的がメッキ老化廃液を無害化処理することであるから、リン成分の混入を排除してニッケルを回収することについては何の記述も示唆もない。
【0010】
一方、前出特許文献3は、ニッケルメッキ廃液からニッケルを資源として回収する方法である。しかしながら、この方法で回収できる蓚酸ニッケル中のリン含有量は「シュウ酸ニッケル中のリン濃度(P/Niのパーセント)はロ過のままの状態で0.8%、シュウ酸ニッケル1g当り100mlの水で洗浄したものは約0.1%、200mlでは約0.05%」(特許文献3:第3頁左上欄第9行〜第13行)と記載されており、リン含有量を低減できるのは0.05%(500mg/Kg)であり、未だ十分とは言い難いものである。
【0011】
そこで、本発明は、ニッケルメッキ廃液中の残留ニッケルイオンを、リンの含有量を0.1mg/Kg乃至100mg/Kgのニッケル化合物として資源回収できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0013】
即ち、本発明は、無電解ニッケルメッキ廃液から残留ニッケルイオンを回収する方法において、カラムに充填された選択性重金属キレート樹脂の再生工程(A)と、無電解ニッケルメッキ廃液の調整工程(B)と、前記工程(A)で再生したキレート樹脂に、前記工程(B)で調整したニッケルメッキ廃液を接触させニッケルイオンをキレート樹脂に吸着させた後、鉱酸でニッケルを溶出するニッケルの吸着溶出工程(C)と、前記工程(C)で溶出したニッケル塩水溶液に炭酸塩、水酸化アルカリ又は蓚酸を添加することにより不溶性ニッケル化合物を沈殿させるニッケルの回収工程(D)とからなる方法により、無電解ニッケルメッキ廃液からリン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの不溶性ニッケル化合物を回収することを特徴とする無電解メッキ廃液中残留ニッケルの回収方法である(本発明1)。
【0014】
また、本発明は、工程(A)が、選択性重金属キレート樹脂を硫酸でH型とした後、水酸化ナトリウム水溶液を用いてH型の30乃至50%をNa型に置換して、混合することにより全樹脂量の30乃至50%がNa型であるHNa混床型キレート樹脂とするキレート樹脂の再生工程である本発明1記載の回収方法である(本発明2)。
【0015】
また、本発明は、工程(B)が、原廃液に水を加えてニッケル濃度を500mg/l乃至1000mg/lの水溶液に希釈した後、鉱酸またはアルカリを用いて、pH値を4.0乃至6.0に調整するニッケルメッキ廃液の調整工程である本発明1記載の回収方法である(本発明3)。
【0016】
また、本発明は、工程(C)が、キレート樹脂にニッケルを樹脂1リットルあたり20乃至30g/l吸着させた後、水洗排水の残存リン酸イオン濃度が1.0mg/l以下となるまで押出し水洗するニッケルイオンの吸着工程と、ニッケルを吸着した前記キレート樹脂に鉱酸を用いてニッケルを溶出させてニッケル塩水溶液とする溶出工程とからなり、溶出後のキレート樹脂は樹脂再生工程(A)へリサイクルするニッケルの吸着溶出工程である本発明1記載の回収方法である(本発明4)。
【0017】
また、本発明は、工程(D)が、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該ニッケル塩の水溶液に対して1〜2当量の炭酸ナトリウムを添加して炭酸ニッケルを沈殿させ、ろ過・水洗・乾燥して、リン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの炭酸ニッケル粉としてニッケルを回収する工程である本発明1記載の回収方法である(本発明5)。
【0018】
また、本発明は、工程(D)が、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該ニッケル塩の水溶液に対して1〜2当量の水酸化ナトリウムを添加して水酸化ニッケルを沈殿させた後、該水酸化ニッケル沈殿に対して1〜2当量の炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸ガスのいずれか一種以上を添加して、水酸化ニッケルを炭酸ニッケルに転換することにより、リン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの炭酸ニッケル粉としてニッケルを回収する工程である本発明1記載の回収方法である(本発明6)。
【0019】
また、本発明は、工程(D)が、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該ニッケル塩の水溶液に対して1〜2当量の水酸化ナトリウムを添加することにより水酸化ニッケルを沈殿させ、ろ過・水洗・乾燥して、リン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの水酸化ニッケル粉としてニッケルを回収する工程である本発明1記載の回収方法である(本発明7)。
【0020】
また、本発明は、工程(D)が、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該ニッケル塩水溶液に対して1〜2当量の蓚酸を添加することにより蓚酸ニッケルを沈殿させ、ろ過・水洗・乾燥して、リン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの蓚酸ニッケル粉としてニッケルを回収する工程である本発明1記載の回収方法である(本発明8)。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法によれば、無電解ニッケルメッキ廃液から、残留ニッケルイオンをリン含有量が0.1〜100mg/kgのニッケル化合物として回収できるので、回収したニッケル化合物はリン含有量が僅少であることにより金属ニッケルへ容易に転換できる。また、本発明は、環境汚染の元であった無電解ニッケルメッキ廃液を資源化することに貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0023】
図1は本発明の無電解メッキ廃液中残留ニッケルの回収方法のフロー図である。
【0024】
カラムに充填された選択性重金属キレート樹脂の再生工程(A:PRK)と、無電解ニッケルメッキ廃液の調整工程(B:PCW)と、前記工程(A)で再生したキレート樹脂に、前記工程(B)で調整したニッケルメッキ廃液を接触させ、キレート樹脂にニッケルイオンを吸着させた後に鉱酸でニッケルを溶出するニッケルの吸着溶出工程(C:PNR)と、前記工程(C)で溶出したニッケル塩水溶液に1〜2当量の炭酸塩、水酸化アルカリ又は蓚酸を添加することにより不溶性ニッケル化合物を沈殿させるニッケルの回収・資源化工程(D:PMR)とからなる方法により、無電解ニッケルメッキ廃液からリン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの不溶性ニッケル化合物を回収する方法である。
【0025】
回収する不溶性ニッケル化合物のリン含有量を0.1mg/Kg乃至100mg/Kgとするのは、不溶性ニッケル化合物を金属ニッケルとして資源化する際に成分としてリンが存在すると資源化を妨げる(特許文献3)ことが知られており、リン含有量は可及的に低減することが要求されているからである。
【0026】
本発明によれば不溶性ニッケル化合物のリン含有量を100mg/Kg以下に低減できる。不溶性ニッケル化合物のリン含有量が100mg/Kgを超える場合には、資源化に悪影響が大きく0.1mg/Kg未満ではコストが掛かりすぎて好ましくない。不溶性ニッケル化合物のリン含有量のより好ましい範囲は1mg/Kg乃至50mg/Kgである。
【0027】
図2は選択性重金属キレート樹脂の再生工程(A)である。先ず、カラムに詰めた選択性重金属キレート樹脂全体(PRK1)を硫酸によりH型に再生した後(PRK2)、水で押出し水洗し(PRK3)、次に、水酸化ナトリウムを用いてH型の30乃至50%をNa型に変換し(PRK4)、水で押出し水洗した後(PRK5)、これら樹脂を混合・均質化することによりHNa混床型キレート樹脂に再生する(PRK6)。
【0028】
HNa混床型に再生するのはニッケルイオンの選択吸収性を増大させるためである。H型とNa型の混合割合においてNa型が50%を超えるとニッケルの吸着性が低下するので好ましくなく、また、Na型が30%未満では、樹脂中の酸性度が低下しニッケルの再生領域に近くなるため好ましくない。より好ましい混合割合は40乃至50%である。
【0029】
図3は無電解ニッケルメッキ廃液調整工程(B)である。無電解ニッケルメッキ廃液(WNM)のニッケル濃度は3000乃至6000mg/l程度である。この原廃液(PCW1)に水を加えてニッケル濃度を500乃至1000mg/lの水溶液に希釈し(PCW2)、さらに、硫酸または水酸化ナトリウムを用いて希釈液のpH値を4.0乃至6.0に調整する(PCW3)。
【0030】
希釈液のニッケル濃度が1000mg/lを超える濃度ではニッケルイオンの均一な吸着が困難となり好ましくない。500mg/l未満の濃度では設備が大型化し好ましくない。希釈液のニッケル濃度の好ましい範囲は800乃至1000mg/lである。
また、希釈液のpHを4.0乃至6.0に調整するのは、ニッケルイオンのキレート樹脂への吸着を効率良く行うためである。希釈水溶液のpH値のより好ましい範囲は4.5乃至5.5である。
【0031】
図4はニッケルイオンの吸着と溶出工程(C)である。キレート樹脂にニッケルを樹脂1リットルあたり20乃至30g吸着させた後(PNR1)、水洗排水の残存リン酸イオン濃度が1.0mg/l以下となるまで押出し水洗するニッケルイオンの吸着工程と(PNR2)、鉱酸を用いてニッケルを吸着した前記キレート樹脂からニッケルを溶出してニッケル塩水溶液とする溶出工程(PNR3)とからなり、溶出後のキレート樹脂は樹脂再生工程(A)へリサイクルする(PNR4)。
【0032】
本発明において、工程(A)で再生したHNa混床型キレート樹脂に、ニッケルを樹脂1リットルあたり20乃至30g吸着させるのは、30gを超える吸着量では、キレート樹脂の吸着飽和点に近くなり吸着効率が低下するので好ましくない。好ましい吸着量は樹脂1リットルあたり20乃至25gである。
また、ニッケルを吸着させた後、水洗排水に残存するリン酸イオン濃度が1.0mg/l以下まで押出し水洗するのは、リンの含有量を低減してニッケル資源を回収するためであり、好ましい範囲はリン酸イオン濃度が0.1乃至1.0mg/lである。
また、ニッケルを吸着したキレート樹脂からニッケルを溶出する際に用いる鉱酸は、硫酸又は塩酸が好ましく、より好ましくは硫酸である。それは、ニッケル溶出後のキレート樹脂は再生工程(A)にリサイクルしてH型に再生するのに好適であるからである。
【0033】
図5はニッケル資源を回収する工程(D)である。工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し(PMR1)、該ニッケル塩の水溶液に対して所定量の沈殿剤(炭酸塩、水酸化アルカリまたは蓚酸)を添加し、不溶性ニッケル化合物を沈殿させ(PMR2)、ろ過(FT)、水洗(WP)、ペースト化(CP)、乾燥(DR)を経て、ニッケル化合物を回収するものである(PRD)。
【0034】
本発明5の工程(D)において、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該溶液に対して1〜2当量の炭酸ナトリウムを添加するのは、ニッケル塩水溶液中の残存鉱酸を中和し、さらにニッケルイオンの全量を炭酸ニッケルとして沈殿させて回収するためである。また、炭酸ニッケルはろ過性が優れているので、定法により、ろ過・水洗・乾燥して、リン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgのニッケル化合物を資源回収するのに適している。
【0035】
本発明6の工程(D)において、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該溶液に対して1〜2当量の水酸化ナトリウムを添加して水酸化ニッケルを沈殿させた後、さらに、該水酸化ニッケル沈殿に対して1〜2当量の炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸ガスを添加するのは、水酸化ニッケルのコロイド沈殿から転化して生成した炭酸ニッケル粒子は、ニッケル塩水溶液に炭酸塩を添加して水溶液から直接生成した炭酸ニッケル粒子より大きく、粒子の結晶性および粒度の均斉性も良好であることを見出し、リン含有量を低減させる本発明の目的に適しているからである。
【0036】
本発明7の工程(D)において、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該ニッケル塩水溶液に対して1〜2当量の水酸化ナトリウムを添加するのは、ニッケル塩水溶液が工程(C)において、リン成分の含有量を1.0mg/l以下に調整してあるので、生成する水酸化ニッケルを定法により、ろ過・水洗・乾燥すれば、リン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの水酸化ニッケル粉としてニッケルを資源化して回収することができるからである。
【0037】
本発明8の工程(D)において、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該ニッケル塩水溶液に対して1〜2当量の蓚酸を添加するのは、ニッケル塩水溶液が工程(C)において、リン成分の含有量を1.0mg/l以下に調整してあるので、生成する蓚酸ニッケルを定法により、ろ過・水洗・乾燥すれば、リン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの蓚酸ニッケル粉としてニッケルを資源化して回収することができるからである。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0039】
リンの分析にはイオンクロマトグラフ(ダイオネックス社製)を用いて行った。
【0040】
実施例には下記表1に示すプリント基板製造工程より排出する無電解ニッケルメッキ廃液を用いた。
【0041】
また、選択性重金属キレート樹脂にはバイエル社製(レバチット TP−207)を用いた。
【0042】
【表1】

【0043】
<実施例1>
キレート樹脂の再生工程(A)
選択性重金属キレート樹脂5リットルをカラムに充填し(直径10cm 高さ64cm)、濃度が10重量%の硫酸を用いて、通水速度を25リットル/hrとして10リットルを通水してH型に再生した。次いで、純水35リットルを用いて押出し水洗をして、通過排液が中性になったことを確認した。次に、濃度が4重量%の水酸化ナトリウムを用いて、通水速度を25リットル/hrとして、5リットルを通水してH型樹脂の50%をNa型に置換した。次いで、純水25リットルを用いで押出し水洗した後、再生した両樹脂を撹拌混合してHNa混床型とし、選択性重金属キレート樹脂塔を作成した。
【0044】
無電解ニッケルメッキ廃液調整工程(B)
表1に示した組成の廃液を25リットル採取し、純水を用いて5倍に希釈し、5重量%水酸化ナトリウム溶液を用いてpH値を5.5に調整し、希釈水溶液を125リットル準備した。
【0045】
ニッケルイオンの吸着・溶出工程(C)
(ニッケルイオン吸着工程)
工程(A)で作成した選択性重金属キレート樹脂塔を用いて、工程(B)で準備したニッケルメッキ廃液の希釈廃液を25リットル/hrの割合で通水し、選択性重金属キレート樹脂を通過後のニッケル濃度を1mg/l以下に維持した。被処理液を全量通水した後、更に、純水35リットルを用いて通水し、被処理液の押出しと樹脂の洗浄を行い、カラム中のPOイオン、POイオンおよびリンゴ酸などの有機酸を排出した。洗浄液中のリン濃度が1mg/l以下になったことを確認して通水洗浄を終了した。
樹脂を通過した希釈液および押出洗浄水の排水は廃棄した。
【0046】
(ニッケル溶出工程)
前記ニッケルイオン吸着工程で得られたニッケルを吸着しているキレート樹脂に、濃度が10重量%の硫酸10リットルを用いて、通水速度を25リットル/hrで通水してニッケルを溶出させた。硫酸を通水後、更に、純水35リットルを用いて押出し水洗した。
硫酸によるニッケルの溶出を開始してから純水による押出し水洗が終了するまでの通水を集めて、さらに純水を用いて総量50リットルの硫酸ニッケル水溶液を調整した。
【0047】
ニッケル資源回収工程(D)
前記ニッケル溶出工程で得られた硫酸ニッケル水溶液から採取した10リットルの溶液に、濃度が10重量%炭酸ナトリウム水溶液を2.7リットル添加し、温度20℃で60分間攪拌した。溶液はpH値が約8.3で緑色の沈殿が得られた。沈殿はNo5Aろ紙を用いてろ過し、塩化バリウム液を指示薬として用いて、硫酸イオンが認めなくなるまで純水でろ過洗浄した後、温度80℃で乾燥した。生成量は74グラムであった。分析の結果、緑色の生成物はリン含有量が5mg/Kgの炭酸ニッケルであった。
【0048】
<実施例2> ニッケル資源回収工程(D)
実施例1のニッケル溶出工程で得られた硫酸ニッケル水溶液から採取した10リットルの溶液に濃度が10重量%の水酸化ナトリウム 1.7リットルを添加し、温度20℃で60分間攪拌した。溶液はpH値が約10で緑色の沈殿が得られた。
次いで、この緑色コロイド水溶液を攪拌しながら、炭酸ガスを毎分1リットルの割合で、pH値が7.0になるまで吹き込んだ。約60分後にpH値が7.0になったので炭酸ガスの吹き込みを停止した。緑色コロイドは緑色沈殿物に変化していた。この緑色の沈殿物をNo5Aろ紙を用いて、ろ過し、塩化バリウム液を指示薬として用いて、硫酸イオンが認めなくなるまで純水でろ過洗浄した後、温度80℃で乾燥した。生成量は72グラムであった。分析の結果、緑色の生成物はリン含有量が1mg/Kgの炭酸ニッケルであった。観察の結果、結晶粒子が大きく、ろ過性が良好な粒子であった。
【0049】
<実施例3> ニッケル資源回収工程(D)
実施例1のニッケル溶出工程で得られた硫酸ニッケル水溶液から採取した10リットルの溶液に、濃度が10重量%の水酸化ナトリウム 1.7リットルを添加し、温度20℃で60分間攪拌した。溶液はpH値が約10で緑色の沈殿が得られた。次いで、この緑色の沈殿物をNo5Aろ紙を用いて、ろ過し、塩化バリウム液を指示薬として用いて、硫酸イオンが認めなくなるまで純水でろ過洗浄した後、温度100℃で乾燥した。生成量は51グラムであった。分析の結果、緑色の生成物はリン含有量が6mg/Kgの水酸化ニッケルであった。
【0050】
<実施例4> ニッケル資源回収工程(D)
実施例1のニッケル溶出工程で得られた硫酸ニッケル水溶液から採取した10リットルの溶液に、濃度が10重量%の水酸化ナトリウム1.2リットルを添加しpH2に調整した。温度40℃で攪拌しながら5重量%蓚酸溶液0.7リットルを加え4時間攪拌した。緑白色の沈殿が得られた。次いで、この緑白色の沈殿物をNo5Aろ紙を用いて、ろ過し、塩化バリウム液を指示薬として用いて、硫酸イオンが認めなくなるまで純水でろ過洗浄した後、温度100℃で乾燥した。生成量は59グラムであった。分析の結果、緑白色の生成物はリン含有量が1mg/Kgの蓚酸ニッケルであった。
【0051】
<実施例5>
実施例4にて得た蓚酸ニッケル10グラムを密閉容器に入れ350℃に調整した電気炉中で2時間加熱分解させた。その結果、粉末状の灰白色の金属ニッケル3.1グラムを得た。
【0052】
<実施例6>
濃度が4重量%水酸化ナトリウム4リットルを通水してH型樹脂の40%をNa型に置換した以外<実施例1>と同様にし、キレート樹脂の再生工程(A)、無電解ニッケルメッキ廃液調整工程(B)、ニッケルイオンの吸着・溶出工程(C)を順に行って、総量50リットルの硫酸ニッケル水溶液を調整した。調整した硫酸ニッケル水溶液10リットルを用いて<実施例4>と同様にニッケル資源回収工程(D)を行った。緑白色の沈殿の生成量は58グラムであった。分析の結果、緑白色の生成物はリン含有量1.1mg/Kgの蓚酸ニッケルであった。
【0053】
<比較例1>
表1に示した組成の廃液を5リットル採取し10重量%硫酸0.05リットルを添加しpH2に調整した。温度40℃で攪拌しながら5重量%蓚酸溶液0.7リットルを加え4時間攪拌した。緑白色の沈殿が得られた。次いで、この緑白色の沈殿物をNo5Aろ紙を用いて、ろ過し、塩化バリウム液を用いて硫酸イオンを認めなくなるまで純水でろ過洗浄した後、温度100℃で乾燥した。生成量は61グラムであった。分析の結果、緑白色の生成物はリン含有量が3500mg/Kgの蓚酸ニッケルであった。
【0054】
<比較例2>
表1に示した組成の廃液を5リットル採取し純水を用いて5倍に希釈した。10重量%硫酸0.05リットルを添加しpH2に調整した。温度40℃で攪拌しながら5重量%蓚酸溶液0.7リットルを加え4時間攪拌した。緑白色の沈殿が得られた。次いでこの緑白色の沈殿物をNo5Aろ紙を用いて、ろ過し、塩化バリウム液を用いて硫酸イオンを認めなくなるまで純水でろ過洗浄した後、温度100℃で乾燥した。生成量は58グラムであった。分析の結果、緑白色の生成物はリン含有量が710mg/Kgの蓚酸ニッケルであった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の方法によれば、無電解ニッケルメッキ廃液から、残留ニッケルイオンをリン含有量が1mg/kg以下のニッケル化合物として回収できるので、回収したニッケル化合物はリン含有量が僅少であることにより金属ニッケルへ容易に転換できる効果がある。また、本発明は、環境汚染の元であった無電解ニッケルメッキ廃液を資源化することに貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明のニッケルの回収方法の概要を示す工程図
【図2】キレート樹脂の再生工程(A)を示す工程図
【図3】無電解ニッケルメッキ廃液の調整工程(B)を示す工程図
【図4】ニッケルの吸着溶出工程(C)を示す工程図
【図5】ニッケル資源化工程(D)を示す工程図
【符号の説明】
【0057】
PRK :キレート樹脂の再生工程
PRK1:キレート樹脂カラム
PRK2:H型再生工程
PRK3:押し出し、水洗工程
PRK4:Na型再生工程
PRK5:押し出し、水洗工程
PRK6:樹脂混合工程
WWR :排水処理工程
PCW :無電解ニッケルメッキ廃液調整工程
PCW1:廃液受け糟
PCW2:ニッケル濃度調整工程
PCW3:pH値調整工程
PNR :ニッケル吸着・溶出工程
PNR1:ニッケル吸着工程
PNR2:押し出し、水洗工程
PNR3:ニッケル溶出工程
PNR4:キレート樹脂回収工程
WWB :リン含有廃液処理工程
PMR :ニッケル資源化工程
PMR1:ニッケル塩水溶液の計量槽
PMR2:反応槽
PRD :ニッケル化合物
WNM :無電解ニッケルメッキ廃液
W : 水
H : 鉱酸(硫酸、塩酸)
S : 沈殿剤(炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、蓚酸)
K : 水酸化ナトリウム
KS : 選択性重金属キレート樹脂
FT : ろ過装置
WP : 水洗工程
CP : ペースト
DR : 乾燥装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解ニッケルメッキ廃液から残留ニッケルイオンを回収する方法において、カラムに充填された選択性重金属キレート樹脂の再生工程(A)と、無電解ニッケルメッキ廃液の調整工程(B)と、前記工程(A)で再生したキレート樹脂に、前記工程(B)で調整したニッケルメッキ廃液を接触させニッケルイオンをキレート樹脂に吸着させた後、鉱酸でニッケルを溶出するニッケルの吸着溶出工程(C)と、前記工程(C)で溶出したニッケル塩水溶液に炭酸塩、水酸化アルカリ又は蓚酸を添加することにより不溶性ニッケル化合物を沈殿させるニッケルの回収工程(D)とからなる方法により、無電解ニッケルメッキ廃液からリン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの不溶性ニッケル化合物を回収することを特徴とする無電解メッキ廃液中残留ニッケルの回収方法。
【請求項2】
工程(A)が、選択性重金属キレート樹脂を硫酸でH型とした後、水酸化ナトリウム水溶液を用いてH型の30乃至50%をNa型に置換して、混合することにより全樹脂量の30乃至50%がNa型であるHNa混床型キレート樹脂とするキレート樹脂の再生工程である請求項1記載の回収方法。
【請求項3】
工程(B)が、原廃液に水を加えてニッケル濃度を500mg/l乃至1000mg/lの水溶液に希釈した後、鉱酸またはアルカリを用いて、pH値を4.0乃至6.0に調整するニッケルメッキ廃液の調整工程である請求項1記載の回収方法。
【請求項4】
工程(C)が、キレート樹脂にニッケルを樹脂1リットルあたり20乃至30g/l吸着させた後、水洗排水の残存リン酸イオン濃度が1.0mg/l以下となるまで押出し水洗するニッケルイオンの吸着工程と、ニッケルを吸着した前記キレート樹脂に鉱酸を用いてニッケルを溶出させてニッケル塩水溶液とする溶出工程とからなり、溶出後のキレート樹脂は樹脂再生工程(A)へリサイクルするニッケルの吸着溶出工程である請求項1記載の回収方法。
【請求項5】
工程(D)が、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該ニッケル塩の水溶液に対して1〜2当量の炭酸ナトリウムを添加して炭酸ニッケルを沈殿させ、ろ過・水洗・乾燥して、リン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの炭酸ニッケル粉としてニッケルを回収する工程である請求項1記載の回収方法。
【請求項6】
工程(D)が、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該ニッケル塩の水溶液に対して1〜2当量の水酸化ナトリウムを添加して水酸化ニッケルを沈殿させた後、該水酸化ニッケル沈殿に対して1〜2当量の炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸ガスのいずれか一種以上を添加して、水酸化ニッケルを炭酸ニッケルに転換することにより、リン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの炭酸ニッケル粉としてニッケルを回収する工程である請求項1記載の回収方法。
【請求項7】
工程(D)が、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該ニッケル塩の水溶液に対して1〜2当量の水酸化ナトリウムを添加することにより水酸化ニッケルを沈殿させ、ろ過・水洗・乾燥して、リン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの水酸化ニッケル粉としてニッケルを回収する工程である請求項1記載の回収方法。
【請求項8】
工程(D)が、工程(C)で得たニッケル塩水溶液を計量し、該ニッケル塩水溶液に対して1〜2当量の蓚酸を添加することにより蓚酸ニッケルを沈殿させ、ろ過・水洗・乾燥して、リン含有量が0.1mg/Kg乃至100mg/Kgの蓚酸ニッケル粉としてニッケルを回収する工程である請求項1記載の回収方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−228030(P2009−228030A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72267(P2008−72267)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【出願人】(391051393)富士化水工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】