説明

無電解白金めっき液、及び白金めっき製品の製造方法

【課題】無電解白金めっき液を利用することにより、ネックレスやブローチ等の装飾品、電子回路など電気部品として有用な白金めっき製品を、環境汚染を惹起せず、安全かつ効率的に製造することができる。また、無電解白金めっき液により、50nm以下の薄いめっき膜を得ることが可能であり、少量の白金により、装飾性や導電性を付与することが可能である。さらに、無電解白金めっき液から得られるめっき膜の構造は、粒径が約3〜5nmの白金微粒子の集合体であり、大きな比表面積を有するため、触媒の活性を高めることができる。
【解決手段】本発明に係る白金めっき製品の製造方法は、基材を用意する工程と、基材上に無電解めっき用触媒を付着させる工程と、触媒を付着させた基材を上記の無電解白金めっき液に浸漬させる工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に、白金の被膜を形成するために用いられる無電解白金めっき液、及び該めっき液を利用した白金めっき製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金めっき製品は、特有の美しい金属光沢を持ち、耐腐食性に優れ電気伝導度を示すことから、ネックレスやブローチ等の装飾品、電子回路等の電気部品、触媒、耐熱材料等に利用されている。
【0003】
一般に、上記の白金めっき製品は、基材が絶縁性である場合は、白金塩と還元剤による化学的な還元反応を利用し、基材表面に金属被膜を形成させる、所謂、無電解めっき法によって製造される。
【0004】
触媒として用いる白金は、主に、自動車の排気ガス浄化用に利用され、排ガス中に含まれる有害なNOx,CO等を無害な物質に浄化する作用がある。さらに、燃料電池において、水素をイオン化する効率の高い触媒としても利用されている。
【0005】
しかしながら、白金はコストが高く、また、埋蔵量が少ないという問題がある。このような少ない量の白金により装飾性、導電性、高い触媒活性を有する白金膜の製造方法が期待されている。
【0006】
一方、従来の無電解白金めっき液は、還元剤として、環境に悪影響を与えるホウ素化合物やヒドラジン等を用いるため、作業環境や排水処理への負荷が大きいという問題がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「無電解めっき基礎と応用−」電気鍍金研究会編,日刊工業新聞社(1994) pp.201-202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、安全性、環境性に優れるとともに、簡易な組成の無電解白金めっき液、及びこれを利用した無電解めっき法による白金めっき製品を簡易かつ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、白金めっき製品を得るために、安全性、環境性に優れた無電解白金めっき液について、鋭意検討を行った結果、塩化白金(IV)酸等の水溶性白金ハロゲン化塩が、アスコルビン酸により還元されて金属状の白金を生成することを知見し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る無電解白金めっき液は、アスコルビン酸と白金ハロゲン化塩を含有するものである。
【0011】
このような構成により、安全性に優れ、環境に優しい無電解白金めっき液を得ることができる。また、50nm以下の薄いめっき膜を得ることが可能であり、少量の白金により、装飾性や導電性を付与することができる。さらに、めっき液から得られるめっき膜の構造は、粒径が約3〜5nmの白金微粒子の集合体であり、比表面積が大きく、触媒としての活性を高めることができる。
【0012】
本発明に係る無電解白金めっき液は、該白金ハロゲン化塩が、塩化白金(IV)酸もしくは塩化白金(II)酸、又は、これらのナトリウム塩もしくはカリウム塩であることが好ましい。
【0013】
このような構成により、めっき処理後の排水は、これを中和するだけで無害化できるといった、安全で、環境に優しいめっき液を得ることができる。
【0014】
本発明に係る白金めっき製品の製造方法は、基材を用意する工程と、該基材上に無電解めっき用触媒を付着させる工程と、該触媒を付着させた基材を上記記載の無電解白金めっき液に浸漬させる工程と、を備えたものである。
【0015】
このような構成により、少量の白金で、装飾性、導電性、及び触媒活性を付与した高品質の白金めっき膜を、簡易かつ効率的に得ることができる。また、環境汚染を惹起せずに、安全かつ効率的に無電解白金めっき液を得ることができ、50nm以下の薄いめっき膜を得ることが可能となる。さらに、少量の白金により、装飾性や導電性を付与することができるとともに、めっき液から得られるめっき膜の構造は、粒径が約3〜5nmの白金微粒子の集合体であり、比表面積が大きく、触媒としての活性を高めることができる。
【0016】
本発明に係る白金めっき製品の製造方法は、無電解めっき用触媒が、パラジウム又は白金であることが好ましい。
【0017】
このような構成により、温和な条件下に水溶液中でめっきが進行し、容易に白金めっき製品が得られる。
【0018】
本発明に係る白金めっき製品の製造方法は、基材が成形の容易な合成樹脂であることが好ましい。
【0019】
このような構成により、繊維状、フィルム状、粉体、粒状のほか、任意の形態のめっき品が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ビタミンCとして医薬分野等で利用され、使用後も無害であるアスコルビン酸を還元剤として用いたことから、安全性に極めて優れる。また、水溶性白金塩として、塩化白金(IV)酸等、還元されて白金と塩酸に変換する水溶性の白金ハロゲン化塩を用いたことにより、めっき処理後の排水は、簡易な組成を有し、これを中和するだけで無害化でき、安全性、環境性に優れる。
【0021】
従って、無電解白金めっき液を利用することにより、ネックレスやブローチ等の装飾品、電子回路など電気部品として有用な白金めっき製品を、環境汚染を惹起せず、安全かつ効率的に製造することができる。
【0022】
さらに、本めっき液により、50nm以下の薄いめっき膜を得ることが可能であり、少量の白金により、装飾性や導電性を付与することが可能である。また、本めっき液から得られるめっき膜の構造は、粒径が約3〜5nmの白金微粒子の集合体であり、大きな比表面積を有するため、触媒として活性を高めることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ポリイミドフィルム上に作製した白金めっき膜の断面TEM像である。
【図2】図1の拡大図であり、白金微粒子の結晶に由来する格子像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態につき説明する。
本実施の形態に係る無電解白金めっき液は、アスコルビン酸と白金ハロゲン化塩を含有している。
【0025】
アスコルビン酸は、ビタミンCとして医薬分野等で利用されており、使用後も無害である。アスコルビン酸は、通常その水溶液として用いられる。
【0026】
アスコルビン酸の濃度は、特に制限されないが、1〜1000mMが好ましい。ここで、濃度が1〜1000mMであると、溶液が容易に調製でき、安全で取り扱い易いので好ましい。
【0027】
本発明に係るアスコルビン酸は、それ自体だけでなく、アスコルビン酸塩も使用することができる。アスコルビン酸塩とすることにより、溶解がより容易でめっき液のpHを上げてめっき反応を促進することができる。
【0028】
本発明に係る白金ハロゲン化塩としては、塩化白金(IV)酸、塩化白金(II)酸、臭化白金(IV)酸、臭化白金(II)酸、及びこれらのアルカリ金属(K、Na)塩が挙げられる。この中でも、好ましくは、還元されて白金と塩化水素、臭化水素に変換される水溶性白金ハロゲン化塩、より好ましくは、塩化白金(IV)酸、及び塩化白金(IV)酸塩である。塩としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属塩が好ましい。
【0029】
アスコルビン酸と白金ハロゲン化塩の使用割合は、特に制限されないが、白金ハロゲン化塩の全てを白金に還元するには、白金ハロゲン化塩に対し、アスコルビン酸をモル比で1.5以上用いることが好ましい。
【0030】
本発明に係る無電解白金めっき液は、アスコルビン酸と白金ハロゲン化塩を必須成分とするが、その機能を阻害しない範囲で、この種のめっき液に用いられる補助添加剤等を添加することができる。補助添加剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコールエーテル等の界面活性剤、ゼラチン、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー、塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調整剤等を挙げることができる。
【0031】
次に、本発明に係る無電解白金めっき液を利用して無電解めっき法により、白金めっき製品を製造する方法について説明する。
本発明に係る白金めっき製品の製造方法は、基材を用意する工程と、該基材上に無電解めっき用触媒を付着させる工程と、該触媒を付着させた基材を上記無電解めっき液に浸漬させる工程とを備えている。
【0032】
基材としては、当該技術分野において一般に用いられているものが全て使用でき、セルロース、フィブロイン、ポリエステル、ポリイミド等の合成樹脂、銅、ニッケル、鉄等の金属、アルミナ、チタニア、シリカ等の金属酸化物等が挙げられる。
また、基材の形状は、特に制限されるものではなく、粉末、繊維、フィルム、成形体のいずれであってもよいが、導電性フィルムや導電性繊維等の製品を得るために、フィルム状、繊維状としておくことが好ましい。
【0033】
用意された基材に無電解めっき用触媒を付着させる工程については、当該技術分野において公知の付着方法が適用でき、例えば、「金属コロイドの吸着とその応用、表面 24,413-419(1986)」、特開2008−19457号公報、特開2010−47828号公報等に記載された方法が用いられる。具体的には、金属コロイドを用いる方法、基材を、還元剤と触媒とからなる金属塩で順次処理する方法等が挙げられる。
【0034】
無電解めっき用触媒としては、当該技術分野において公知のものが使用できるが、触媒として高活性であるので、パラジウム又は白金を用いることが好ましい。
【0035】
付着させた基材に上記無電解めっき液に浸漬させる工程は、原料としての白金ハロゲン化塩、及び還元剤としてのアスコルビン酸を含む無電解白金めっき液中に、少量の触媒を表面に付着させた基材を浸漬することにより行われる。
【0036】
無電解白金めっき液は、処理の直前に調製することが望ましく、そのためには、例えば、白金ハロゲン化塩水溶液とアスコルビン酸水溶液を別々に作製しておき、この両者を使用直前に混合するのが好適である。無電解白金めっき液に、パラジウム又は白金を含む触媒を付与した基材を、0℃〜100℃、好ましくは、15℃〜80℃において浸漬してめっきを行う。めっきの終点は、基材が黒味の銀色に着色し、また、白金ハロゲン化塩によるめっき液の色が退色することで判断される。
【0037】
こうして得られる白金めっき被膜については、基材が合成樹脂の場合には、前もって粗化処理したり、めっき後に加熱したりすることがなくても、基材との強い密着性が得られ、粘着テープにより剥離することがない。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明の実施の形態はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
20mM塩化パラジウム(II)と、0.1M塩化ナトリウムを含む水溶液(2.5ml)を、純水で94mlに希釈し、室温下で撹拌しながら、1%塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液(1ml)および40mM水素化ホウ素ナトリウム水溶液(5ml)を順次加え、一夜放置して、暗褐色透明なパラジウムヒドロゾル(100ml)を得た。ポリイミドフィルム(カプトン、厚さ125μm、2cm×4cm)を、1M水酸化ナトリウム水溶液中に、室温下で1分間浸漬した後、水洗し、さらに、上記のパラジウムヒドロゾル中に、室温下で30分間浸漬した後、水洗し、ポリイミドフィルムの表面にパラジウムを付与した。
【0040】
次に、20mM塩化白金(IV)酸水溶液(2ml)と、80mMアスコルビン酸水溶液(2ml)を混合して得られる無電解白金めっき液中に、パラジウムを付与したポリイミドフィルムを加え、時々撹拌しながら50℃で10分間浸漬した後、水洗・乾燥し、黒味の銀色光沢を持つ白金めっきポリイミドフィルムを得た。
【0041】
上記ポリイミドフィルムは、2.9mgの白金を含み、導電性を示した。めっき被膜は粘着テープによっても剥がれることなく、良好な密着性を示した。
得られためっき膜の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察すると、図1に示すように、厚みが約50nmであり、また、数nmの白金粒子の凝集体であることがわかった。ここで、図1は、ポリイミドフィルム上に作製した白金めっき膜の断面TEM像を示す。図2は、めっき膜の高分解能TEM像であり、個々の白金微粒子の結晶構造に由来する格子像が観察された。
【0042】
これにより、本めっき液により得られる白金めっき膜は、大きさ約5nmの白金微結晶の凝集体であることが明らかになった。
【0043】
(実施例2)
20mM塩化白金(IV)酸水溶液(2.5ml)および40mMクエン酸三ナトリウム水溶液(5ml)を、純水で100mlに希釈し、2時間還流加熱した後、冷却し、黒褐色透明な白金ヒドロゾル(100ml)を得た。ポリエステル布(日本規格協会、染色堅牢度試験用白布、2cm×4cm)を、0.1%塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液中に、室温下で数秒間浸漬した後、水洗し、さらに、上記白金ヒドロゾル中に、室温下で1時間浸漬した後、水洗・乾燥し、ポリエステル布の繊維表面に白金を付与した。
【0044】
次に、20mM塩化白金(IV)酸ナトリウム水溶液(2ml)と、80mMアスコルビン酸水溶液(2ml)を混合して得られる無電解白金めっき液中に、白金を付与したポリエステル布を加え、時々撹拌しながら50℃で10分間浸漬した後、水洗・乾燥し、黒味の銀色光沢を持つ白金めっきポリエステル布を得た。
このめっき布は2.3mgの白金を含み、導電性を示した。めっき被膜は粘着テープによっても剥がれることなく、良好な密着性を示した。
【0045】
(実施例3)
20mM塩化パラジウム(II)と0.1M塩化ナトリウムを含む水溶液(2.5ml)を、純水で94mlに希釈し、蔗糖1gを溶解した後、室温下で撹拌しながら、40mM水素化ホウ素ナトリウム水溶液(5ml)を加え、暗褐色透明なパラジウムヒドロゾル(100ml)を得た。
【0046】
ポリエステルフィルム(ルミラー#100、2cm×4cm)を、0.1%塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液中に、室温下で数秒間浸漬した後、水洗し、さらに、上記パラジウムヒドロゾル中に、室温下で30分間浸漬した後、水洗し、ポリエステルフィルムの表面にパラジウムを付与した。
【0047】
次に、20mM塩化白金(IV)酸水溶液(2ml)と、80mMアスコルビン酸ナトリウム水溶液(2ml)を混合して得られる無電解白金めっき液中に、パラジウムを付与したポリエステルフィルムを加え、時々撹拌しながら、50℃で10分間浸漬した後、水洗・乾燥し、黒味の銀色光沢を持つ白金めっきポリエステルフィルムを得た。
【0048】
このポリエステルフィルムは、1.7mgの白金を含み、導電性を示した。めっき被膜は粘着テープによっても剥がれることなく、良好な密着性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸と白金ハロゲン化塩を含有することを特徴とする無電解白金めっき液。
【請求項2】
白金ハロゲン化塩が、塩化白金(IV)酸もしくは塩化白金(II)酸、又は、これらのナトリウム塩もしくはカリウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の無電解白金めっき液。
【請求項3】
基材を用意する工程と、該基材上に無電解めっき用触媒を付着させる工程と、該触媒を付着させた基材を請求項1又は2に記載の無電解白金めっき液に浸漬させる工程と、を備えたことを特徴とする白金めっき製品の製造方法。
【請求項4】
該無電解めっき用触媒が、パラジウム又は白金であることを特徴とする請求項3に記載の白金めっき製品の製造方法。
【請求項5】
基材が合成樹脂であることを特徴とする請求項3又は4に記載の白金めっき製品の製造方法。


































【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−117111(P2012−117111A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268150(P2010−268150)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】