説明

無電解金めっき液及び無電解金めっき方法

【課題】 低温であっても十分な析出速度を発揮し、皮膜外観が良好であり、且つ、めっき液の安定性が特に優れた無電解金めっき液を提供すること。
【解決手段】 金塩と、下記一般式(1)で表される還元剤と、重金属塩と、ポリエチレングリコール系化合物と、を含む無電解金めっき液。


[式(1)中、Rは水酸基又はアミノ基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に水酸基、アミノ基、水素原子又はアルキル基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解金めっき液及び無電解金めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高温、高アルカリ性無電解金めっき液に代わる、中性及び低温で使用可能な無電解金めっき液が近年開発されている。かかる無電解金めっき液は、めっき可能なレジストや電子部品の使用範囲を広げることを目的として開発されたものである。ところが、既に実用化されている無電解金めっき液ではめっき液の安定性が不十分であり、めっき付き回り性も十分とはいえない。
【0003】
このような安定性低下の原因としては、(1)無電解金めっき液自体の安定性が不十分であること、及び(2)めっき処理による不純物金属混入により液安定性が低下すること、の2つが想定されている。そこで、これらの観点からめっき液を改良する試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、シアン化合物を使用することなく、中性付近での無電解金めっきを実現するために、還元剤としてアスコルビン酸を使用することが開示されている。また、特許文献2、3には、めっき処理による不純物金属混入の抑制や液安定性向上のために、無電解金めっき液にメルカプトベンゾチアゾ−ル系化合物の金属隠蔽剤を添加する手法が提案されている。
【0005】
特許文献4には、無電解金めっき液の還元剤としてヒドラジン化合物を使用することが記載されている。このめっき液によると、上記のアスコルビン酸を使用しためっき液と比較して、低濃度で実用的な析出速度が得られるとされている。また、特許文献5には、ベンゾトリアゾール系化合物の金属隠蔽剤を無電解金めっき液に添加する改良が提案されている。これにより、めっき処理による不純物金属混入の抑制や液安定性の向上が可能となるとされている。また、特許文献5に記載の金属隠蔽剤は、上記メルカプトベンゾチアゾール系隠蔽剤よりも無電解金めっき液における使用可能な濃度範囲が広く実用的であるとされている。
【0006】
一方、特許文献6には、還元剤にチオ尿素又はフェニル系化合物を使用した無電解金めっき液が開示されている。この特許文献6には、チオ尿素が低濃度で金を還元できる旨、示されている。また、特許文献7には、無電解金めっき浴の還元剤にチオ尿素化合物及びフェニル化合物の両方を使用する方法が記載されている。このめっき液を使用すれば、チオ尿素の副生成物がフェニル化合物系還元剤で還元されるため、液安定性が向上するとされている。更に、特許文献8には、無電解金めっき液にベンゾトリアゾール系化合物の金属隠蔽剤を添加することが提案されている。この手法によれば、上記めっき液への不純物金属混入の抑制や液安定性向上を図ることができるとされている。
【特許文献1】特開平1−191782号公報
【特許文献2】特開平4−350172号公報
【特許文献3】特開平6−145997号公報
【特許文献4】特開平3−215677号公報
【特許文献5】特開平4−314871号公報
【特許文献6】特許第2972209号明細書
【特許文献7】特開平3−104877号公報
【特許文献8】特開平9−157859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の無電解金めっき液には以下のような問題が存在する。特許文献1に記載されたアスコルビン酸による還元は、還元効率が低く、実用析出速度を確保するために、アスコルビン酸ナトリウムを高い濃度になるように配合する。そのため、無電解金めっき液の安定性が不十分となる。また、特許文献2、3で提案されたメルカプトベンゾチアゾ−ル系化合物の金属隠蔽剤は、無電解金めっき液における使用管理範囲が非常に狭く(0.1〜5ppm)、作業効率が低い。この金属隠蔽剤の無電解金めっき液への添加量が多くなると、析出速度が極端に低くなり、めっき付き回り不良が発生するという問題がある。
【0008】
一方、特許文献4に記載のように還元剤としてヒドラジン化合物を使用すると、ヒドラジン化合物自体の安定性が低く、無電解金めっき液の安定性が確保できないという問題がある。また、ベンゾトリアゾール系化合物の金属隠蔽剤を添加する改良が試みられた特許文献5に記載の無電解金めっき液は、上述のように、還元剤であるヒドラジン自体の安定性が低いため、実用には不十分である。
【0009】
さらに、特許文献6、7に開示された無電解金めっき液は、チオ尿素の副生成物をフェニル化合物系還元剤で還元することで、液安定性の向上を図ったものであるが、結果的には、チオ尿素の副生成物を完全に元の還元剤に戻すことが困難である。このため、残留副生成物がめっき付き回り不良や不安定化の原因となり、十分なめっき液の安定性を保持できない場合がある。また、フェニル化合物系還元剤は、中性(pH7〜7.5)において還元力が小さいため実用的な析出速度が得られ難い。さらにフェニル化合物系還元剤は、弱アルカリ性領域(pH9.0付近)で、めっき浴による皮膜外観が悪い上に、めっき処理中に液が分解する問題がある。そして、特許文献8で提案されたベンゾトリアゾール系化合物の金属隠蔽剤を添加した無電解金めっき液であっても、実用面において安定性にまだ改善の余地があり、中性且つ低温でもより優れた析出速度を有するめっき液が求められている。
【0010】
本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、液温60〜80℃程度の低温であっても十分な析出速度を発揮し、皮膜外観が良好であり、且つ、めっき液の安定性が特に優れた無電解金めっき液、及びこれを用いた無電解金めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、更なるめっき液の特性向上を目指して検討した結果、フェニル化合物系還元剤を含む無電解金めっき液に重金属塩を添加することにより、金めっきの析出速度が向上し、また皮膜外観を大幅に改善できるという知見を得た。しかしながら、本発明者らは、重金属塩を添加することによって、めっき液の安定性が若干低下することも同時に見出した。
【0012】
そして、更に鋭意研究を重ねた結果、特定の還元剤、重金属塩及び安定剤を組み合わせた無電解金めっき液により、上記目的が達成可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、金塩と、下記一般式(1)で表される還元剤と、重金属塩と、ポリエチレングリコール系化合物とを含む無電解金めっき液を提供する。
【化1】


ここで、式(1)中、Rは水酸基又はアミノ基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に水酸基、アミノ基、水素原子又はアルキル基を示す。
【0014】
本発明の無電解金めっき液は、金塩と組み合わせる還元剤として上記一般式(1)で表される化合物を採用し、析出速度促進剤として重金属塩を併用し、更に安定剤としてポリエチレングリコール系化合物を含んでいる。これにより、本発明の無電解金めっき液は、低温であっても十分な析出速度を発揮し、皮膜外観が良好であり、且つ、めっき液の安定性が特に優れるものとなる。
【0015】
また、上記一般式(1)で表される還元剤は、下記一般式(2)で表される還元剤を含むことが好ましい。かかる化学構造の還元剤を使用することにより、金の析出速度及びめっき液の安定性がより優れるものとなる。
【化2】


ここで、式(2)中、R21は水酸基又はアミノ基を示し、R22は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。
【0016】
本発明における重金属塩は、タリウム塩、鉛塩、砒素塩、アンチモン塩、テルル塩及びビスマス塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の重金属塩を含むことが好ましく、タリウム塩であることが特に好ましい。重金属塩として上記化合物を用いると、金の析出速度を更に速めることができる。
【0017】
また、本発明におけるポリエチレングリコール系化合物は、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種のポリエチレングリコール系化合物を含むことが好ましい。ポリエチレングリコール系化合物がかかる化合物である場合、めっき液の安定性が特に向上する。
【0018】
本発明の無電解金めっき液は、錯化剤を更に含むことが好ましく、pH緩衝剤を更に含むことが好ましく、金属イオン隠蔽剤を更に含むことが好ましい。無電解金めっき液がこのような成分を含有することにより、めっき液の安定性が更に優れるようになる。
【0019】
本発明の無電解金めっき液はpHが5〜10であることが好ましい。無電解金めっき液のpHが上記範囲である場合には、様々な被めっき体に対して中性且つ低温での無電解金めっきが可能となる。したがって、めっき可能なレジストや電子部品の使用範囲を広げることが可能となる。
【0020】
本発明は更に、上述の無電解金めっき液に浸漬した被めっき体の表面に金皮膜を形成させる工程を有する無電解金めっき方法を提供するものである。本発明の無電解金めっき方法によって、液温60〜80℃程度の低温であっても十分な析出速度を発揮し、且つ皮膜外観よくめっきを行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の無電解金めっき液及び無電解金めっき方法によれば、液温60〜80℃程度の低温であっても十分な析出速度を発揮し、皮膜外観が良好であり、且つ、めっき液の安定性が特に優れた無電解金めっき液を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本発明の無電解金めっき液は、金塩、還元剤、重金属塩、及びポリエチレングリコール系化合物を含有するものである。まず、これらの成分について詳細に説明する。
【0023】
(金塩)
本発明の無電解金めっき液に使用可能な金塩は特に限定されない。金塩はシアン系金塩と非シアン金塩とに区別される。シアン系金塩としては、例えば、シアン化第一金カリウム及びシアン化第二金カリウムが例示できる。非シアン系金塩としては、例えば、塩化金酸塩、亜硫酸金塩、チオ硫酸金塩、及びチオリンゴ酸金塩が挙げられる。これらの金塩は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
上記金塩としては、非シアン系金塩である亜硫酸金塩及びチオ硫酸金塩が好ましい。非シアン系金塩は、シアン系金塩と比較して、概して毒性が低いため、取り扱いがより容易となる。
【0025】
また、金塩の含有量は、無電解金めっき液中の金濃度が1〜10g/Lとなるように調整されることが好ましい。金濃度が1g/L未満である場合は、金の析出反応速度が低下し金が析出し難くなる傾向にある。また、金濃度が10g/Lを超える場合は、無電解金めっき液の安定性が低下すると共に、金使用量の増加につながるため、経済的に好ましくない。更に、同様の観点から、金塩の含有量は、金濃度が2〜5g/Lの範囲となるように調整されることがより好ましい。
【0026】
(還元剤)
本発明の無電解金めっき液において用いる還元剤は、下記一般式(1)で表される化合物(以下「化合物I」という。)である。
【0027】
【化3】

【0028】
化合物Iにおいて、Rは水酸基又はアミノ基、R、R及びRはそれぞれ独立に水酸基、アミノ基、水素原子又はアルキル基を示す。アルキル基としては直鎖又は分岐状の炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、直鎖又は分岐状の炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。そのようなアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基及びt−ブチル基が挙げられる。
【0029】
化合物Iの具体例としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、p−クレゾール、o−エチルフェノール、p−エチルフェノール、t−ブチルフェノール、o−アミノフェノール、p−アミノフェノール、ヒドロキノン、カテコール、ピロガロール、メチルヒドロキノン、アニリン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−トルイジン、p−トルイジン、o−エチルアニリン及びp−エチルアニリンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0030】
めっき液の安定性及び金の析出速度の観点からは、化合物Iで表される化合物は、下記一般式(2)で表される化合物(以下「化合物II」という)を含むことが好ましい。
【0031】
【化4】

【0032】
化合物IIにおいて、2つのR21は水酸基又はアミノ基を示し、R22は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。このアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基及びt−ブチル基が挙げられる。化合物IIの具体例としては、p−フェニレンジアミン、メチルヒドロキノン及びヒドロキノンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0033】
上記還元剤の含有量は、無電解金めっき液の全容量を基準として0.5〜50g/Lであると好ましい。還元剤の含有量が0.5g/L未満であると、実用的な析出速度を得るのが困難となる傾向にある。また、還元剤の含有量が50g/Lを超えると、めっき液の安定性は低下する傾向にある。同様の観点から、還元剤の含有量は、2〜10g/Lであることがより好ましく、2〜5g/Lであることが特に好ましい。
【0034】
(重金属塩)
更に、本発明の無電解金めっき液は重金属塩を含む。析出速度を更に促進し、皮膜外観を一層改善する観点から、重金属塩は、タリウム塩、鉛塩、砒素塩、アンチモン塩、テルル塩及びビスマス塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0035】
ここで、タリウム塩としては、例えば、硫酸タリウム塩、塩化タリウム塩、酸化タリウム塩及び硝酸タリウム塩等の無機化合物塩、並びに、マロン酸二タリウム塩等の有機錯体塩が挙げられる。また、鉛塩としては、硫酸鉛塩及び硝酸鉛塩等の無機化合物塩、並びに酢酸鉛等の有機錯体塩が挙げられる。
【0036】
砒素塩としては、亜砒素塩、砒酸塩及び三酸化砒素等の無機化合物塩並びに有機錯体塩が挙げられる。アンチモン塩としては、酒石酸アンチモニル塩等の有機錯体塩、並びに塩化アンチモン塩類、オキシ硫酸アンチモン塩及び三酸化アンチモン等の無機化合物塩が挙げられる。
【0037】
テルル塩としては、亜テルル酸塩及びテルル酸塩等の無機化合物塩並びに有機錯体塩が挙げられる。また、ビスマス塩としては、硫酸ビスマス(III)、塩化ビスマス(III)及び硝酸ビスマス(III)等の無機化合物塩、並びにシュウ酸ビスマス(III)などの有機錯体塩が挙げられる。
【0038】
本発明の無電解金めっき液に用いる重金属塩は、タリウム塩(好ましくはタリウム無機化合物又はタリウム有機錯体塩)を用いることが好ましい。重金属塩として、タリウム塩を用いることにより、金の析出速度を更に速めることができる。
【0039】
上述した重金属塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。重金属塩の含有量は、質量基準で無電解金めっき液の全量に対して1〜100ppmであると好ましく、1〜10ppmであるとより好ましい。重金属塩の含有量が1ppm未満であると、析出速度の向上効果が低下する傾向がある。また、重金属塩の含有量が100ppmを超えると、めっき液安定性が悪くなる傾向がある。
【0040】
(ポリエチレングリコール系化合物)
本発明の無電解金めっき液は、ポリエチレングリコール系化合物を更に含む。フェニル化合物系還元剤及び重金属塩を含む無電解金めっき液中に、ポリエチレングリコール系化合物を更に含有させた無電解金めっき液は、液温60〜80℃程度の低温であっても十分な析出速度が得られ、皮膜外観も良好である上、めっき液の安定性が特に優れるようになる。
【0041】
上述のポリエチレングリコール系化合物はエーテル型、エステル型、エーテル・エステル型等のいずれであってもよい。ポリエチレングリコール系化合物であれば、上述の一定の効果を得ることができる。特に有効なポリエチレングリコール系化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールジメチルエーテル及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルが例示される。
【0042】
本発明のポリエチレングリコール系化合物は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。ポリエチレングリコール系化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、2000以下の低分子量であることが好ましく、1000以下の低分子量であることが更に好ましい。この重量平均分子量が2000を超える場合、ポリエチレングリコール系化合物の含有量が少なくても析出速度が容易に低下する傾向にある。このため、管理範囲が狭くなり析出速度を安定に保つことが困難になる傾向にある。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されかつ標準ポリスチレンの検量線を使用して換算されたものである。
【0043】
また、ポリエチレングリコール系化合物の含有量は、質量基準で無電解金めっき液の全量に対して1〜500ppmであることが好ましく、1〜30ppmであることがより好ましく、1〜10ppmであることが特に好ましい。ポリエチレングリコール系化合物の含有量が1ppm未満の場合には、無電解金めっき液の安定性向上効果が小さくなり、濃度管理が困難になる傾向にある。また、ポリエチレングリコール系化合物の含有量が10ppmを超えると、析出速度が遅くなり、めっき付き回り不良の抑制効果が低下し、皮膜外観が良好ではなくなる傾向がある。
【0044】
ポリエチレングリコール系化合物の重量平均分子量が200以下の低分子量である場合、本発明による効果をより有効に発揮するために、その含有量は、無電解金めっき液の全質量を基準として5ppm以上であることが好ましい。また、ポリエチレングリコール系化合物の重量平均分子量が1000以上の高分子量である場合、その含有量は0.1〜1ppm程度の少量であっても、本発明による効果を十分奏することができる。
【0045】
本発明の無電解金めっき液には、上述した金塩、還元剤、重金属塩及びポリエチレングリコール系化合物に加えて、錯化剤、pH緩衝剤及び金属イオン隠蔽剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、これらの全てを含有することがより好ましい。以下、これらの成分について説明する。
【0046】
(錯化剤)
本発明の無電解金めっき液には、錯化剤を含有させることが好ましい。当該成分を含有させることにより、金イオン(Au)が安定的に錯体化されて、Auの不均化反応(3Au→Au3++2Au)の発生を低下させ、液がより安定に保たれる。錯化剤は1種類のみを用いてもよく2種類以上を用いてもよい。好適な錯化剤としては、例えば、シアン化ナトリウム及びシアン化カリウム等のシアン系錯化剤、並びに、亜硫酸塩、チオ硫酸塩及びチオリンゴ酸塩等の非シアン系錯化剤が挙げられる。
【0047】
安全性及び使い易さの観点から、上述の錯化剤のうち、亜硫酸塩又はチオ硫酸塩が特に好ましい。錯化剤の含有量は、無電解金めっき液の全容量を基準として1〜200g/Lであることが好ましい。錯化剤の含有量が1g/L未満である場合、金錯化力が低下し、安定性が低下する傾向がある。錯化剤の含有量が200g/Lを超えると、めっき液の安定性は向上するが、液中で再結晶化が発生し、経済的に負担となる。同様の観点から、錯化剤の含有量は20〜50g/Lとすることがより好ましい。
【0048】
(pH緩衝剤)
本発明の無電解金めっき液には、pH緩衝剤を含有させることが好ましい。pH緩衝剤を含有させることにより、析出速度を所望の値に調整すること、及びめっき液のpHを一定に保つことができる。pH緩衝剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好適なpH緩衝剤としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、硼酸塩、クエン酸塩及び硫酸塩が挙げられる。これらの中では、硼酸塩及び/又は硫酸塩が特に好ましい。
【0049】
pH緩衝剤の含有量は、無電解金めっき液の全容量を基準として1〜100g/Lであることが好ましい。pH緩衝剤の含有量が1g/L未満であると、pHの緩衝効果が低下し、めっき液の状態が変化しやすくなる傾向にある。また、pH緩衝剤の含有量が100g/Lを超えると、めっき液中で再結晶化が進行する傾向がある。同様の観点から、pH緩衝剤の含有量は20〜50g/Lであることがより好ましい。
【0050】
(金属イオン隠蔽剤)
本発明の無電解金めっき液には、金属イオン隠蔽剤を含有させることが好ましい。当該成分を含有させることにより、以下の効果が得られる。すなわち、この無電解金めっき液を用いた作業中に、めっき装置の錆や金属破片などが持ち込まれたり、あるいは、被めっき物の付き回り不足により下地金属がめっき液中に混入したりする。その結果、銅、ニッケル、鉄等の不純物イオンが無電解めっき液中に混入することがある。このような不純物イオンが混入すると、めっき液の異状反応が進行して、めっき液の分解が発生する場合がある。しかし、無電解金めっき液中に金属イオン隠蔽剤を含有させることで、このような異状反応の抑制が可能となり、めっき液の分解を低減することができる。
【0051】
金属イオン隠蔽剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物を好適に用いることができる。ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、ベンゾトリアゾールナトリウム、ベンゾトリアゾールカリウム、テトラヒドロベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール及びニトロベンゾトリアゾール等が例示できる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0052】
金属イオン隠蔽剤の含有量は、無電解金めっき液の全容量を基準として0.5〜100g/Lであることが好ましい。金属イオン隠蔽剤の含有量が0.5g/L未満であると、不純物の隠蔽効果が少なく、液安定性が低下する傾向がある。一方、金属イオン隠蔽剤の含有量が100g/Lを超えると、めっき液中で再結晶化が生じる場合がある。同様の観点並びにコスト低減の観点からは、金属イオン隠蔽剤の含有量は2〜10g/Lであることがより好ましい。
【0053】
本発明の無電解金めっき液には、本発明による上記目的を達成できる範囲内において、上述の各成分の他、通常の無電解金めっき液に含まれる各種成分を含んでもよい。ただし、本発明の無電解金めっき液は、チオ尿素化合物を含まないことが好ましい。チオ尿素化合物を含まなければ、チオ尿素を含んだ場合と比較して、本発明による無電解金めっき液の液安定性が向上すると共に、めっき付き回り性もより良好なものとなる。
【0054】
(無電解金めっき液のpH)
本発明の無電解金めっき液のpHは5〜10であることが好ましい。無電解金めっき液のpHが5未満であると、めっき液が錯化剤を含む場合に錯化剤である亜硫酸塩やチオ硫酸塩が分解し、毒性の亜硫酸ガスが発生する虞がある。pHが10を超える場合、めっき液の安定性が低下する傾向がある。還元剤の析出効率を向上させ、速い析出速度を得るためには、無電解金めっき液のpHは8〜10とすることがより好ましい。
【0055】
(無電解金めっき方法)
次に、本発明の無電解金めっき方法の好適な実施形態について説明する。本実施形態の無電解金めっき方法は、上述した本発明の無電解金めっき液に被めっき体を浸漬する工程と、浸漬した該被めっき体の表面に金皮膜を形成させる工程とを有するものである。
【0056】
上述の無電解金めっき方法において、無電解金めっき液のpHは5〜10に調整されることが好ましく、8〜10に調整されることがより好ましい。また、金皮膜を形成させる工程において、無電解金めっき液の液温は50〜95℃であることが好ましく、65〜70℃であることがより好ましい。該工程での無電解金めっき液の液温が50℃未満である場合は、金皮膜の析出速度が遅くなり、金皮膜の形成効率が低下する傾向にある。また、液温が95℃を超えると液安定性が低下する傾向がある。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0059】
(試料の作成)
めっき試験用サンプル板には3cm×3cm×0.3mmの圧延銅板を使用した。まず、サンプル板表面の錆や有機物等を除去するために、50℃に調整された酸性脱脂液CLC−5000(日立化成工業(株)製、商品名)にサンプル板を3分間浸漬した。更に、余分な界面活性剤を除去するために、そのサンプル板を50℃の純水で1分間湯洗した。続いて、水洗処理を1分間行った。そして、表面の形状を均一化するために、サンプル板を過硫酸アンモニウム溶液(120g/L)に室温で3分間浸漬してソフトエッチング処理を行った後、1分間の水洗処理を実施した。更に、表面の酸化銅を除去するために、サンプル板を硫酸(10%)に室温で1分間浸漬し、その後、水洗処理を1分間行った。そして、置換パラジウムめっき液であるSA−100(日立化成工業(株)製、商品名)に室温でサンプル板を5分間浸漬した後、水洗処理を1分間行った。
【0060】
次に、置換パラジウムめっき後のサンプル板を無電解Ni−Pめっき液であるNIPS−100(日立化成工業(株)製、製品名)に85℃で、25分間浸漬して、5μm程度の膜厚を有するニッケル−リンの合金めっき皮膜を形成した後、水洗処理を1分間行った。次いで、サンプル板を置換金めっき液であるHGS−500(日立化成工業(株)製、製品名)に85℃で10分間浸漬して、0.05〜0.1μm程度の膜厚の金めっき皮膜を形成させた後、水洗処理を1分間行った。こうして、無電解金めっき液の各種特性を評価するための試料を得た。
【0061】
無電解金めっき液の各種特性を評価する方法は下記のとおりである。
【0062】
(無電解金めっき液安定性評価方法)
無電解金めっき液の安定性評価に用いるめっき槽には、PP(ポリプロピレン製)樹脂製の1Lビーカーを使用した。また、評価に用いるめっき槽は、めっき槽内に付着している不純物を予め除去したものを使用した。めっき槽からの不純物除去方法を以下に説明する。まず、めっき槽内を常温の王水(1:3=硝酸:塩酸、50%に純水で希釈)で6時間以上洗浄した。その後、水洗、純水洗を順次、十分に行い、80℃で乾燥させた。
【0063】
無電解金めっき液の安定性は、3つの条件下において評価した。まず、上述の方法で不純物を除去しためっき槽に、後述のようにして調整した無電解金めっき液を注入した。次いで、その無電解金めっき液の温度を65℃に設定して1時間放置した。その直後の無電解金めっき液の安定性を評価した。次に、無電解金めっき液を所定温度に調整した後に、上述の試料をその無電解金めっき液に浸漬した。そして、0.36dm/Lのめっき負荷で1時間(65℃)めっき処理を行い、試料の表面上に無電解金めっき皮膜を形成した。その直後の無電解金めっき液の安定性を評価した。次に、試料を取り出した後、その無電解金めっき液を自然冷却し、そのまま室温で無電解金めっき液を1日放置した。その直後の無電解金めっき液の安定性を評価した。
【0064】
無電解金めっき液の安定性の評価は、めっき槽の底面の全面積に対して、異常析出物(金)が覆った底面の面積の割合を数値化して行った(これを「槽内異常析出発生面積(%)」とする。)。この数値が小さい程、無電解金めっき液の安定性が高いことになる。評価基準は表1に示す通りである。
【表1】

【0065】
(皮膜外観及びめっき付き回り性評価方法)
上述のようにして形成された無電解金めっき皮膜の外観(これを「皮膜外観」とする。)は、その色により評価した。電解金めっき皮膜(膜厚0.5μm相当)に近い外観を「レモンイエロー」とした。また、それよりも濃い色である場合を「褐色」とした。めっき付き回り性については、めっき端部を顕微鏡(20〜50倍相当)で目視観察して評価した。めっき付き回り不良が認められる場合を「あり」、認められない場合を「なし」とした。
【0066】
(無電解金めっき液の調製及び評価)
(実施例1〜4)
表2に示す組成となるように各成分をイオン交換水中に配合し、実施例1〜4の無電解金めっき液を調製した。実施例1〜4では、還元剤であるヒドロキノンの含有量を、無電解金めっき液の全容量に対して5g/Lと一定にした。また、重金属塩として硝酸タリウムを用い、その含有量はタリウムイオン濃度が質量基準(以下同様)で1ppmとなるように調整した。
【0067】
また、ポリエチレングリコール系化合物として、実施例1では重量平均分子量200のポリエチレングリコールを3ppm、実施例2では重量平均分子量1000のポリエチレングリコールを0.5ppm用いた。また、実施例3ではポリエチレングリコールジメチルエーテルを、実施例4ではポリエチレングリコールモノメチルエーテルをそれぞれ3ppm用いた。
【0068】
実施例1〜4で得られた無電解金めっき液について、上述した評価方法に基づいて、無電解金めっき液安定性、皮膜外観及びめっき付き回り性を評価した。また、併せて金めっき皮膜の析出速度を測定した。これらの結果を表3に示す。また、めっき処理時のpH、めっき負荷及びめっき液温度も表3に示す。
【0069】
【表2】


【表3】

【0070】
(実施例5〜9)
表4に示す組成となるように各成分をイオン交換水中に配合し、実施例5〜9の無電解金めっき液を調製した。実施例5〜9では、還元剤であるヒドロキノンの含有量を、無電解金めっき液の全容量に対して5g/Lと一定にした。また、重金属塩として硝酸タリウムを用い、その含有量はタリウムイオン濃度が1ppmとなるように調整した。
【0071】
また、実施例5〜9では、ポリエチレングリコール系化合物として重量平均分子量200のポリエチレングリコールを用いた。また、ポリエチレングリコールの含有量は、実施例5〜9で、それぞれ1、3、6、12及び24ppmとなるように調整した。
【0072】
実施例5〜9で得られた無電解金めっき液について、上述した評価方法に基づいて、無電解金めっき液安定性、皮膜外観及びめっき付き回り性を評価した。また、併せて金めっき皮膜の析出速度を測定した。これらの結果を表5に示す。また、めっき処理時のpH、めっき負荷及びめっき液温度も表5に示す。
【0073】
実施例5〜9の無電解金めっき液では、ポリエチレングリコール(重量平均分子量200)の含有量を実施例1の2〜8倍に増やすことで、析出速度が徐々に低下した。しかしながら、ポリエチレングリコールの含有量が24ppmと高い場合であっても、1.21μm/hrと速い析出速度を確保できた。
【0074】
【表4】


【表5】

【0075】
(実施例10〜14)
表6に示す組成となるように各成分をイオン交換水中に配合し、実施例10〜14の無電解金めっき液を調製した。実施例10〜14は、還元剤であるヒドロキノンの含有量を、無電解金めっき液の全容量に対して5g/Lと一定にした。また、重金属塩として硝酸タリウムを用い、その含有量はタリウムイオン濃度が1ppmとなるように調整した。
【0076】
また、実施例10〜14では、ポリエチレングリコール系化合物として重量平均分子量1000のポリエチレングリコールを用いた。また、ポリエチレングリコールの含有量は、実施例10〜14で、それぞれ0.25、0.5、1、3、及び5ppmとなるように調整した。
【0077】
実施例10〜14で得られた無電解金めっき液について、上述した評価方法に基づいて、無電解金めっき液安定性、皮膜外観及びめっき付き回り性を評価した。また、併せて金めっき皮膜の析出速度を測定した。これらの結果を表7に示す。また、めっき処理時のpH、めっき負荷及びめっき液温度も表7に示す。
実施例10〜14の無電解金めっき液では、ポリエチレングリコール(重量平均分子量1000)の含有量を実施例2の2〜10倍に増やすことで、析出速度が徐々に低下した。しかしながら、ポリエチレングリコールの含有量が5ppmと高い場合であっても、0.85μm/hrと速い析出速度を確保できた。
【0078】
【表6】


【表7】

【0079】
(実施例15〜19)
表8に示す組成となるように各成分をイオン交換水中に配合し、実施例13〜16の無電解金めっき液を調製した。実施例15〜19では、還元剤であるヒドロキノンの含有量を、無電解金めっき液の全容量に対して5g/Lと一定にした。また、重金属塩として硝酸タリウムを用い、その含有量はタリウムイオン濃度が1ppmとなるように調整した。
【0080】
また、実施例13〜16では、ポリエチレングリコール系化合物としてポリエチレングリコールジメチルエーテルを用いた。また、ポリエチレングリコールジメチルエーテルの含有量は、実施例13〜16で、それぞれ1、3、6、12及び24ppmとなるようにした。
【0081】
実施例13〜16で得られた無電解金めっき液について、上述した評価方法に基づいて、無電解金めっき液安定性、皮膜外観及びめっき付き回り性を評価した。また、併せて金めっき皮膜の析出速度を測定した。これらの結果を表9に示す。また、めっき処理時のpH、めっき負荷及びめっき液温度も表9に示す。
【0082】
実施例13〜16の無電解金めっき液では、ポリエチレングリコールジメチルエーテルの含有量を実施例3の2〜8倍に増やすことで、析出速度が徐々に低下した。しかしながら、ポリエチレングリコールジメチルエーテルの含有量が24ppmと高い場合であっても、0.72μm/hrと速い析出速度を確保できた。
【0083】
【表8】


【表9】

【0084】
(比較例1〜4)
表10に示す組成となるように各成分をイオン交換水中に配合し、比較例1〜4の無電解金めっき液を調製した。比較例1〜4の無電解金めっき液は、ポリエチレングリコール系化合物及び重金属塩を含有しないものとした。また、比較例1の無電解金めっき液には還元剤であるヒドロキノンを添加せず、また、比較例2〜4の無電解金めっき液には、それぞれヒドロキノンを、その含有量が無電解金めっき液の全容量に対してそれぞれ1、3及び5g/Lになるように添加した。
【0085】
比較例1〜4で得られた無電解金めっき液について、上述した評価方法に基づいて、無電解金めっき液安定性、皮膜外観及びめっき付き回り性を評価した。また、併せて金めっき皮膜の析出速度を測定した。これらの結果を表11に示す。また、めっき処理時のpH、めっき負荷及びめっき液温度も表11に示す。
【0086】
還元剤であるヒドロキノンを添加しなかった比較例1の無電解金めっき液では、サンプル板を1時間めっき液中に浸漬しても、金めっき皮膜の膜厚はほとんど増加せず、析出が進行しない結果となった。一方、還元剤としてヒドロキノンを添加した比較例2〜4の無電解金めっき液では、ヒドロキノンの添加量を1、3及び5g/Lと増加させるに従い、析出速度が増加した。特にヒドロキノンを5g/L含有する比較例4の無電解金めっき液を用いると、析出速度は0.152μm/hrと、還元剤を添加しない場合の2.5倍を示した。しかしながら、この析出速度は一般的な無電解金めっき液(約0.2〜1.0μm/hr又はこれ以上)と比較して遅い結果となっている。このため、パッケージ基板等のワイヤボンディング基板に適用すると、生産性が悪くなると考えられる。
【0087】
【表10】


【表11】

【0088】
(比較例5〜9)
表12に示す組成となるように各成分をイオン交換水中に配合し、比較例5〜9の無電解金めっき液を調製した。比較例5〜9の無電解金めっき液は、ポリエチレングリコール系化合物を含有しないものとした。また、これらの無電解金めっき液には、還元剤であるヒドロキノンを、その含有量が無電解金めっき液の全容量に対して5g/Lとなるように添加した。更に、比較例5〜8の無電解金めっき液には重金属塩を添加しなかった。また、比較例9の無電解金めっき液には重金属塩として硝酸タリウムをタリウムイオンの濃度が1ppmになるように添加した。なお、比較例5〜7の無電解金めっき液は、1NのNaOH水溶液を用いて、金めっき液のpHがそれぞれ、8、9及び10となるよう調整した。
【0089】
比較例5〜9で得られた無電解金めっき液について、上述した評価方法に基づいて、無電解金めっき液安定性、皮膜外観及びめっき付き回り性を評価した。また、併せて金めっき皮膜の析出速度を測定した。これらの結果を表13に示す。また、めっき処理時のpH、めっき負荷及びめっき液温度も表13に示す。
【0090】
比較例5の無電解金めっき液(pH8)を用いると、皮膜外観は良好で、めっき付き回り不良は生じなかったが、析出速度が0.36μm/hrと低い結果となった。また、比較例6及び7の無電解金めっき液(pH9、10)を用いると、析出速度が比較例5に対して著しく増加したものの、槽内に異常析出が発生する結果となった。また、めっき付き回り不良も発生しなかったが、皮膜外観は褐色の外観不良となった。
【0091】
比較例8の無電解金めっき液を用いて、pH9、めっき浴温度80℃の条件でめっきを行ったところ、皮膜外観が褐色の外観不良となり、めっき液の安定性も悪く、加温中にめっき槽内全面に異常析出が発生した。
【0092】
比較例9の無電解金めっき液は、比較例6の無電解金めっき液に重金属塩として硝酸タリウムをタリウムイオン濃度で1ppmになるよう加えたものである。その結果、析出速度が増加した。また、皮膜外観は均一なレモンイエローで、めっき付き回り不良の発生もなく良好であった。しかし、めっき前の加温中に槽内の一部に異常析出が発生し、さらにめっき中に異常析出が促進されて、実用上適用困難な結果となった。
【0093】
【表12】


【表13】

【0094】
(比較例10〜12)
表14に示す組成となるように各成分をイオン交換水中に配合し、比較例10〜12の無電解金めっき液を調製した。比較例10〜12の無電解金めっき液は、重金属炎を添加しない以外は実施例5、10、15と同様の組成であった。
【0095】
比較例10〜12で得られた無電解金めっき液について、上述した評価方法に基づいて、無電解金めっき液安定性、皮膜外観及びめっき付き回り性を評価した。また、併せて金めっき皮膜の析出速度を測定した。これらの結果を表15に示す。また、めっき処理時のpH、めっき負荷及びめっき液温度も表15に示す。重金属塩(タリウムイオン)を添加しなかった比較例10〜12では、重金属塩を添加した実施例5、10、及び15に比べて析出速度が低下した。また、めっき外観については、褐色の外観不良となった。
【0096】
【表14】


【表15】

【0097】
(比較例13〜16)
表16に示す組成となるように各成分をイオン交換水中に配合し、比較例13〜16の無電解金めっき液を調製した。比較例13、14は還元剤にチオ尿素、アリルチオ尿素を使用した。また、比較例15、16は比較例13、14と同様の組成に安定剤として重量平均分子量1000のポリエチレングリコールを添加した組成とした。
【0098】
比較例13〜16で得られた無電解金めっき液について、上述した評価方法に基づいて、無電解金めっき液安定性、皮膜外観及びめっき付き回り性を評価した。また、併せて金めっき皮膜の析出速度を測定した。これらの結果を表17に示す。また、めっき処理時のpH、めっき負荷及びめっき液温度も表17に示す。還元剤にチオ尿素、アリルチオ尿素を使用した場合、十分な析出速度が得られなかった。無電解金めっき液の安定性についても、比較例14では、めっき中は安定であったが、めっき後1日経過すると異常析出が発生し、めっき液が不安定になった。更に、比較例14の組成に安定剤として重量平均分子量1000のポリエチレングリコールを1ppm添加した比較例16の組成でも、安定剤の効果は小さく、1日経過後には多量の異常析出が発生して、液が分解してしまった。
【0099】
【表16】


【表17】

【0100】
(比較例17〜20)
表18に示す組成となるように各成分をイオン交換水中に配合し、比較例17〜20の無電解金めっき液を調製した。比較例17、18は還元剤にチオ尿素、アリルチオ尿素を使用し、還元促進剤にヒドロキノンを使用した。また、比較例19、20は比較例17、18と同様の組成に安定剤として重量平均分子量1000のポリエチレングリコールを添加した組成とした。
【0101】
比較例17〜20で得られた無電解金めっき液について、上述した評価方法に基づいて、無電解金めっき液安定性、皮膜外観及びめっき付き回り性を評価した。また、併せて金めっき皮膜の析出速度を測定した。これらの結果を表19に示す。また、めっき処理時のpH、めっき負荷及びめっき液温度も表19に示す。還元剤にチオ尿素、アリルチオ尿素を使用し、還元促進剤にヒドロキノンを使用した場合、皮膜外観は良好であったが、めっき付き回り不良が発生した。また、無電解金めっき液の安定性についても、比較例17、18では、めっき中は安定であったが、めっき後1日経過すると異常析出が発生して、めっき液が不安定になった。更に、比較例17、18の組成に安定剤として重量平均分子量1000のポリエチレングリコールを1ppm添加した比較例19、20の組成でも、安定剤の効果は小さかった。
【0102】
【表18】


【表19】

【0103】
以上の結果から、本発明の無電解金めっき液においては、ポリエチレングリコール系化合物を添加することによって、めっき液の安定性を大幅に向上させることが可能であることがわかった。また、本発明の無電解金めっき液は、低い温度条件(60〜70℃)において実用的な析出速度でめっきを行うことが可能であった。更に、めっき後の皮膜外観も均一なレモンイエローで、めっき付き回り不良も発生しなかった。
【0104】
すなわち、本発明の無電解金めっき液は、液温60〜80℃程度の低温であっても十分な析出速度を発揮し、皮膜外観が良好であり、かつ、めっき液の安定性が特に優れており、適用できる材料や電子部品等の範囲は大幅に拡大されることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金塩と、下記一般式(1)で表される還元剤と、重金属塩と、ポリエチレングリコール系化合物と、を含む無電解金めっき液。
【化1】


[式(1)中、Rは水酸基又はアミノ基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に水酸基、アミノ基、水素原子又はアルキル基を示す。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表される還元剤が、下記一般式(2)で表される還元剤を含む、請求項1記載の無電解金めっき液。
【化2】


[式(2)中、R21は水酸基又はアミノ基を示し、R22は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。]
【請求項3】
前記重金属塩が、タリウム塩、鉛塩、砒素塩、アンチモン塩、テルル塩及びビスマス塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の重金属塩を含む、請求項1又は2記載の無電解金めっき液。
【請求項4】
前記重金属塩がタリウム塩を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の無電解金めっき液。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコール系化合物が、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種のポリエチレングリコール系化合物を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の無電解金めっき液。
【請求項6】
錯化剤を更に含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の無電解金めっき液。
【請求項7】
pH緩衝剤を更に含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の無電解金めっき液。
【請求項8】
金属イオン隠蔽剤を更に含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の無電解金めっき液。
【請求項9】
pHが5〜10である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の無電解金めっき液。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の無電解金めっき液に浸漬した被めっき体の表面に金皮膜を形成させる工程を有する無電解金めっき方法。