説明

無電解金属皮膜

【課題】無電解金属コーティング組成物に関し、無電解ニッケル皮膜を製造する方法およびそれにより作製される物品を提供する。
【解決手段】(a)基材を無電解ニッケル皮膜で被覆して被覆基材を用意し、(b)被覆基材を、約550℃〜約700℃の範囲の温度に約7〜約30時間加熱することを含む加熱プロトコールに付すことを含む、無電解ニッケルコーティング組成物を製造する方法、および本方法で作成される物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に無電解金属コーティング組成物に関し、より詳細には無電解ニッケル皮膜を製造する方法及びそれにより作成される物品に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解金属皮膜は、無電解金属皮膜の下にある基材の性能特性を改良するために保護皮膜が必要とされる広範囲の用途で使われている。かかる皮膜の有用性は、主として、無電解金属皮膜が配置される基材と比べて無電解金属皮膜の向上した物理的性質(例えば硬さ)にある。さらに、無電解金属皮膜は、この皮膜がないと物品を使用する環境中に存在する化学物質による腐食を受け易い場合物品を保護するために使用し得る。加えて、無電解金属皮膜は溶液を用いて基材に設置されるので、基材は種々の形状、大きさ及び穿孔(perforation)を有することができ、それでも均一な組成と厚さの皮膜を実現することができる。現在、特にニッケル−リン又はニッケル−ホウ素合金を含む皮膜の分野で、無電解金属皮膜の製造と性質に関する豊富な情報が利用可能である。
【0003】
無電解金属皮膜の分野において今日までになされた技術的成果にも関わらず、これらの皮膜の有用性を最大化するためにさらなる改良が必要とされている。一般に、無電解ニッケル皮膜は回転機械の作動中に受ける歪みに耐えるのに必要な歪み耐性をもっていない。標準的な無電解ニッケル皮膜は、皮膜が高温及び回転運動のような条件にさらされたとき、基材に対する接着力が不充分なため剥落を示す。さらに、標準的な皮膜で見られるもう1つ別の制限は、高い歪み環境に置かれたときの皮膜の亀裂の発生である。腐食感受性の基材上に配置された無電解ニッケル皮膜内の亀裂は腐食性の環境と腐食感受性の基材との間の流体連通を可能にし得るので、皮膜が亀裂の発生に抵抗することは重要である。一般に、無電解ニッケルで被覆された物品の高温熱処理の結果、皮膜の微細構造が変化し、熱処理された無電解ニッケル皮膜の歪み耐性又は耐食性が悪くなる。無電解金属皮膜の不充分な接着力及び/又は皮膜の亀裂の発生により、無電解金属皮膜を含む物品の有用な寿命が短くなるおそれがある。さらに、物品は、皮膜層による保護がないため、酸性ガス環境のような過酷な化学物質環境で腐食されかねない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】

【特許文献1】米国特許第6365227号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、向上した接着力と歪み耐性の両方を示し、基材を再度無電解金属被覆条件にする以外の手段により、殊に高速作動中に皮膜が化学物質からの保護を提供できるようにする無電解ニッケル皮膜に対するニーズがある。それ故、柔軟性で、亀裂及びピンホールのような欠陥が殆どなく、かつ下にある基材から皮膜が分離するのを妨害する頑強な無電解金属皮膜を含む物品、及びかかる物品の製造方法を提供することが有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様では、(a)基材を無電解ニッケル皮膜で被覆して被覆基材を用意し、(b)被覆基材を、約550℃〜約700℃の範囲の温度に約7〜約30時間加熱することを含んでなる加熱プロトコールに付すことを含む、無電解ニッケルコーティング組成物を製造する方法が提供される。
【0007】
本発明の別の態様では、(a)低合金鋼基材を無電解ニッケル皮膜で被覆して被覆基材を用意し、(b)被覆基材を、約550℃〜約700℃の範囲の温度に約7〜約20時間加熱することを含んでなる加熱プロトコールに付すことを含む、無電解ニッケルコーティング組成物を製造する方法が提供される。
【0008】
本発明のもう1つ別の態様では、低合金鋼基材と接触した無電解ニッケル皮膜を含んでなる組成物が提供され、この組成物は、(a)低合金鋼基材を無電解ニッケル皮膜で被覆して被覆基材を用意し、(b)被覆基材を、約550℃〜約700℃の範囲の温度に約7〜約30時間加熱することを含んでなる加熱プロトコールに付すという工程を含んでなる方法によって製造される。
【0009】
本発明のさらにもう1つ別の態様では、無電解ニッケルコーティング組成物を製造する方法が提供され、この方法は、(a)基材を第1の無電解ニッケル皮膜で被覆して第1の被覆基材を用意し、(b)第1の被覆基材を第2の無電解ニッケル皮膜で被覆して第2の被覆基材を用意し、(c)第2の被覆基材を、約550℃〜約700℃の範囲の温度に約7〜約30時間加熱することを含んでなる加熱プロトコールに付すことを含んでなる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の明細書及び特許請求の範囲では多くの用語を使用するが、意味は以下の通り定義される。
【0011】
単数の形態は、脈絡から明らかに他の意味が示されない限り複数の対象を包含する。
【0012】
「任意」又は「場合により」とは、続いて記載されている事象又は状況が起こっても起こらなくてもよいことを意味し、また、その記載はその事象が起こると起こらない場合を包含することを意味している。
【0013】
本明細書で使用する場合、用語「溶媒」は単一の溶媒又は溶媒の混合物を指すことができる。
【0014】
また、「頂部」、「底部」、「外方」、「内方」などのような用語は便宜上の単語であり、限定する用語と解釈すべきではないものと了解されたい。さらにまた、本発明の特定の特徴がある群の幾つかの要素及びそれらの組合せの少なくとも1つを含むか又はそれからなるとされている場合、その特徴はその群のそれらの要素のいずれかを個別に、又はその群の他の要素のいずれかと組み合わせて含んでもよいし又はそれからなってもよいものと理解される。
【0015】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて使用する場合、概略の言語は、その用語が関係している基本的な機能を変えることなく変化することが許容され得るあらゆる量的表現を修飾するために用いられ得る。従って、「約」のような用語によって修飾された値は指定されている正確な値に限定されない。ある場合には、概略の用語はその値を測定するための機器の精度に対応し得る。
【0016】
既に述べたように、一実施形態では、本発明は、無電解ニッケルコーティング組成物を製造する方法を提供する。この方法は、(a)基材を無電解ニッケル皮膜で被覆して被覆基材を用意し、(b)被覆基材を加熱プロトコールに付すことを含んでいる。この加熱プロトコールは、約550℃〜約700℃の範囲の温度に約10〜約30時間加熱することを含んでいる。
【0017】
本明細書で使用する場合、無電解ニッケル皮膜という用語は、基材の存在下において溶液中でニッケルイオンの化学的還元により形成された基材上のニッケル皮膜をいう。様々なかかる無電解金属皮膜が当技術分野で公知であり、無電解銅皮膜、無電解金皮膜、無電解銀皮膜、及び無電解ニッケル皮膜が包含される。一実施形態では、本発明により提供される無電解ニッケル皮膜はニッケル−リン合金被膜である。代わりの実施形態では、本発明により提供される無電解ニッケル皮膜はニッケル−ホウ素合金被膜である。さらに別の実施形態では、本発明により提供される無電解ニッケル皮膜はポリ(テトラフルオロエチレン)を含む無電解ニッケル皮膜である。
【0018】
基材は、無電解ニッケル皮膜を支持することができる任意の基材であることができるが、通例無電解ニッケル皮膜がその上に安定な皮膜を形成するのに充分な親和性を示す材料である。基材は金属のような無機材料でも、プラスチックのような有機材料でも、複合材料、例えば無機充填材を含む有機ポリマーでもよい。一実施形態では、基材は金属基材である。一実施形態では、皮膜は無電解ニッケルコーティング組成物と金属基材との間に拡散接合層を形成してもよい。かかる拡散接合層が形成されると、拡散接合層内における基材と皮膜の相互混合(intermingling)の結果並外れた性能特性を保有する無電解ニッケル皮膜が得られる。適切な金属基材の非限定例としては、鉄、クロム、ニッケル、コバルト、銅、アルミニウム、チタン、などがある。別の実施形態では、基材は鋼からなる。一実施形態では、基材は低合金鋼、例えば低合金炭素鋼からなる。
【0019】
一実施形態では、無電解ニッケルコーティング組成物はリンを含む。かかるコーティング組成物は本明細書中で無電解ニッケルリンコーティング組成物ということがある。一実施形態では、無電解ニッケルリンコーティング組成物は「高リン」無電解ニッケルコーティング組成物とみなすのに充分なリンを含んでいる。当業者には理解されるように、かかる高リン皮膜は腐食性環境に対する際立った抵抗性を提供する。別の実施形態では、無電解ニッケルコーティング組成物は「低リン」として位置付けられる。ここでも、当業者には、かかる低リン無電解ニッケルコーティング組成物の利点が認識されるであろう。一実施形態では、無電解ニッケルコーティング組成物は約1%〜約8%の範囲のリンを含む。別の実施形態では、無電解ニッケルコーティング組成物は約2%〜約5%の範囲のリンを含む。
【0020】
さらに別の実施形態では、無電解ニッケルコーティング組成物はポリ(テトラフルオロエチレン)粒子を含む。かかる無電解ニッケル複合コーティング組成物は、例えばこの無電解ニッケル複合コーティング組成物がデバイス又は機械の内部の別の運動部分と接触する場合などに、他の表面との接触点における面摩擦が低減されるため、重要である。
【0021】
既に述べたように、無電解ニッケル皮膜は通例比較的均一な厚さである。一実施形態では、無電解ニッケル皮膜は平均の厚さが約1μm〜約250μmの範囲である。別の実施形態では、無電解ニッケル皮膜の平均の厚さは約25μm〜約100μmの範囲である。さらに別の実施形態では、無電解ニッケル皮膜は約50μm〜約100μmの範囲の平均の厚さを有する。
【0022】
一実施形態では、被覆基材は多層の無電解ニッケル皮膜を含み得る。一実施形態では、被覆基材は無電解ニッケル皮膜の少なくとも2つの層を含んでいてもよい。別の実施形態では、本方法は、基材を無電解ニッケル皮膜の第1の層で被覆することを含んでおり、次に無電解ニッケル皮膜の第1の層で被覆された基材を清浄化した後、無電解ニッケルコーティング組成物の少なくとも1つ以上の追加の層を設ける。
【0023】
既に述べたように、一実施形態では、本発明は、無電解ニッケルコーティング組成物を製造する方法を提供する。この方法は、(a)基材を第1の無電解ニッケル皮膜で被覆して第1の被覆基材を用意し、(b)この第1の被覆基材を第2の無電解ニッケル皮膜で被覆して第2の被覆基材を用意し、(c)この第2の被覆基材を、約550℃〜約700℃の範囲の温度に約7〜約30時間加熱することを含む加熱プロトコールに付すことを含んでなる。一実施形態では、第2の被覆基材を前記加熱プロトコールに付すことにより、基材と1以上の無電解ニッケル皮膜層との間に拡散接合層が生成する。一実施形態では、加熱プロトコールは、第1の無電解ニッケル皮膜層を第2の無電解ニッケル皮膜層と合体させることにより、その結果第1の無電解ニッケル皮膜層と第2の無電解ニッケル皮膜層との間に検出可能な境界領域が生じない。一実施形態では、拡散接合層の厚さは、1以上の無電解ニッケル皮膜層の厚さの約1〜20%の範囲である。
【0024】
既に述べたように、本発明は、被覆基材を、本明細書で特定され本発明の一部をなす特定の加熱プロトコールに付すことを含む、無電解ニッケル組成物を製造する方法を提供する。この加熱プロトコールは被覆基材を約550℃〜約700℃の範囲の温度に加熱することを含む。一実施形態では、加熱プロトコールは基材を約600℃〜約650℃の範囲の温度に加熱することを含む。既に述べたように、加熱プロトコールは約7時間〜約30時間の範囲の時間加熱することを含む。一実施形態では、加熱は約10時間〜約25時間の範囲の時間行われる。別の実施形態では、加熱は約15時間〜約25時間の範囲の時間行われる。
【0025】
既に述べたように、本発明に従って使用される加熱プロトコールは被覆基材を初期温度から高温に加熱することを含む。一実施形態では、加熱は約5℃/分〜約20℃/分の範囲の加熱速度で行われる。別の実施形態では、加熱は約8℃/分〜約12℃/分の範囲で行われる。別の実施形態では、加熱プロトコールは被覆基材を約10℃/分の加熱速度で20時間約600℃の温度に加熱することを含む。
【0026】
一実施形態では、本発明は、本明細書に記載した方法を用いて製造された無電解ニッケルコーティング組成物で被覆された少なくとも1つの表面を含む物品を提供する。適切な物品を例示すると、限定されることはないが、ターボポンプ、タービン、例えばガスタービン、蒸気タービン、水力タービン、遠心ポンプ、高圧ポンプ用インペラ、ターボファン、流体式ギアボックス、圧縮機、油田バルブ、ローター、ローターブレード、ローターシャフト、ドライブシャフト、紙処理装置、燃料レール、ダイヤモンド旋削用の光学面、ドアノブ、台所用具、浴室設備、電気工具、機械工具、電子プリント配線板製造に使用する皮膜がある。既に述べたように、本発明により提供される無電解ニッケル皮膜は、物品内に含まれる下にある基材を、例えば磨耗及び引き裂き及び腐食から保護する役目を果たす。一実施形態では、この物品は高圧ポンプ用のインペラである。一実施形態では、物品は遠心圧縮機インペラであってもよい。別の実施形態では、物品は、内面が本発明により提供される無電解ニッケル皮膜で被覆されたパイプであってもよい。本発明により提供される無電解ニッケル皮膜を含むのが有利であるその他の物品としては、腐食保護が必要とされるバルブハウジングキャビティーのようなハウジングがある。
【0027】
一実施形態では、無電解ニッケルコーティング組成物は、熱処理の際に拡散層の形成を通じて基材に拡散接合される。
【0028】
当業者には了解されるように、本発明により提供される1つの利点は、無電解ニッケル皮膜が、有益な性質、例えば良好な耐食性、基材に対する良好な接着力及び高い柔軟性を示すことである。一実施形態では、本発明により提供される無電解ニッケル皮膜は、標準的な皮膜の性質が圧縮機インペラのような回転装置で見られる応力及び歪みに対して適当でない場合に、良好な耐食性及び高度の歪み耐性と共に基材に対する適当な接着力を示す。
【実施例】
【0029】
無電解ニッケルメッキの概要:試験試料を低合金鋼(A182F22)基材上に無電解ニッケルメッキ(EPN)して、基材の表面と接触した無電解ニッケル金属皮膜を得た。本発明により提供される無電解ニッケル皮膜は、当業者に公知の種々の手法、例えばSEM及び光学顕微鏡によって特徴付けることができる。
【0030】
試料の予備清浄化
被覆しようとする試料の損傷、引っ掻き傷、擦り傷、すり傷、錆び染みその他の欠陥を検査する。次に、試料をアセトン又はイソプロピルアルコールのような有機溶媒に浸すことにより試料を予備清浄化して、試料上に存在し得る油を除去する。予備清浄化工程ではアセトン浸漬、グリットブラスト、ブラシ掛けを伴う苛性洗浄を行い、清浄化後念入りな目視検査をし、全ての化学物質を確実に完全に除去する。試料を脱イオン水(1〜20μS)で約1分間濯ぐ。脱イオン水で濯いだ後、試料を85°Fにおいて4rpmで回転させながら市販の苛性石けん清浄化溶液(120g/L)に約10分間浸漬する。その後、試料を脱イオン水(1〜20μS)で約1分間濯ぐ。次いで、試料を室温で回転しながら塩酸溶液(30体積%、37%w/wHClストック)に約1〜5分間浸漬して表面を清浄化する。試料を再度脱イオン水で濯いで清浄化された試料を得る。
【0031】
試料表面の調製
熱処理の前に清浄な試料の化学エッチングを最適化された条件下で行って皮膜の基材に対する良好な物理的接着を促進する。化学エッチングは、シュウ酸(31.25g/L)、硫酸(濃、1.25mL/L)及び過酸化水素(35%、16.0mL/L)の溶液を用いて約25℃の温度で約10分の時間行う。化学エッチングの後エッチングされた試料を脱イオン水(1〜20μS)で約1分濯ぐ。脱イオン水で濯いだ後エッチングされた試料を超音波清浄化処理に付して、試料中に存在することがある塊(smut)を除去する。この超音波処理を水道水中室温で約5分行った後脱イオン水で濯いだ。次に、試料を、予備清浄化工程で上記したようにNaOH洗浄液及びHCl洗浄液で処理して、NaOH洗浄液及びHCl洗浄液で表面調製された試料を提供する。
【0032】
無電解ニッケルメッキ
無電解メッキ法で使用するガラス器具は新たに購入するか又は先ず最初に10%硝酸を用いて2時間60℃で処理する。次いで、このガラス器具をろ過した高純度の水で十分に濯ぎ、PARAFILMで密閉する。
【0033】
無電解メッキ溶液:清浄な三角フラスコに、ろ過した高純度の水(1000mL)、次亜リン酸ナトリウム(27g)、硫酸ニッケル(20g)及びコハク酸ナトリウム(16g)を順に入れる。磁気撹拌棒を使用しないように注意する。得られた溶液を0.6μm又はそれより細かいMilliporeフィルター(直径45mmのフィルター)に通して真空ろ過して清浄な真空フラスコに入れ、ろ過した溶液を清浄な三角フラスコに移し、PARAFILMで密閉する。
【0034】
実施例1
無電解メッキ溶液中に浸漬する前に、表面調製した試料を予熱し、冶具に固定する。無電解メッキ溶液のpHはpH5〜pH8の範囲で感受性のpH試験片を用いてモニターし、乳酸溶液の滴下添加により約pH7に維持する。水酸化ナトリウムの存在を回避して水酸化ニッケルの沈殿の形成を防止するように注意する。試料を毎分約4回転の速度で回転させ、メッキ工程の開始と同時に沈める。30秒後、メッキの開始を示す泡立ちが起こる。試料は無電解メッキ溶液中で一定の速度で回転させる。メッキ速度は、約2.5hrの時間約85℃の温度、約5.9のpHで約0.75mil/hrに維持する。設けられた皮膜の厚さは指標(通例Razorブレード又は浸漬ディスク)でモニターし、マイクロメーターを用いて測定する。皮膜の所要の厚さが得られたら、試料を取り出し、(回転させながら)濯ぎタンクに入れて無電解メッキ溶液を洗い落とし、被覆された試料を得る。
【0035】
メッキの後処理
被覆された試料を次に約72℃の温度で8〜10分の時間過酸化水素のストック溶液(5%v/v、37%)に漬けて被覆された試料上に非常に薄い酸化物の層を形成する。この被覆された試料を熱気下で袋に入れて湿気と接触しないように確保する。次に、フェロキシル試験(ASTM B733)を用いて被覆された試料の無電解ニッケルメッキに欠陥が存在しないかどうか試験する。フェロキシル試験の間深い青色がある場合は、鋼基材と塩化第二鉄試験溶液との流体連通を可能にするピンホール欠陥が無電解ニッケルメッキ皮膜に存在することを示す。
【0036】
次いで、被覆された試料を180℃の温度の空気中で約2hの時間ベーキングして試料から水素を除去する。次に、試料を本発明の一部として特定した加熱プロトコールに付す。これにより、無電解ニッケル皮膜の微細構造が変化すると共に基材と無電解ニッケル皮膜との間に拡散接合層が作り出される。すなわち、試料を真空下温度で20時間加熱する。加熱は、被覆された物品が初期温度から約600℃のコンディショニング温度(600℃)に達するまで約10℃/分の速度で加熱されるように行う。
【0037】
4点曲げ試験と標準的な丸い引張棒との両方を検査に用いて、被覆された試料の歪み耐性を測定した。歪み測定の前に、被覆された試料をフェロキシル及び染料浸透剤試験に供して、亀裂又は厚さを貫通する欠陥がないことを確認した。被覆された試料は0.1%ずつ増分しながら曲げた。各0.1%の増分後、蛍光染料浸透剤を用いて被覆された試料の亀裂を検査した。この手順は、亀裂が認められるまで続けた。表1に、4点曲げ測定による歪み耐性数を挙げる。これは、亀裂が観察されるまでに測定された最大の歪みである。但し、試料を約600℃で約20hrの時間熱処理した場合は2%の歪みでも亀裂が見られなかった。
【0038】
【表1】

表1に挙げたデータは、本発明の方法に従って調製された無電解ニッケル皮膜が、他のプロトコールを用いて調製された無電解ニッケル皮膜と比べて並外れた歪み耐性を示すことを立証している。
【0039】
被覆された試料のビッカース微小硬さ試験による硬さをASTMのE−384法に従って測定した。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

表1及び表2から観察できるように、より高い温度とより長い熱処理時間で、より低い硬度とより良好な歪み耐性が得られた。また、分かるように、600℃で持続時間20hrの加熱プロフィールで、2%より大きい歪み耐性が得られた。これは、1%未満の歪み耐性を有する比較試料よりずっと高い。
【0041】
実施例2
上記実施例1に記載したようにして、表面調製した試料(A182F22低合金鋼から作成したインペラ部品)を無電解ニッケルコーティング組成物で被覆した。表面調製した試料を無電解メッキ溶液に浸漬する前に予熱し冶具に固定する。pH5〜pH8の範囲で感受性のpH試験片を用いて無電解メッキ溶液のpHをモニターし、乳酸溶液の滴下添加により約pH7に維持する。水酸化ナトリウムの存在を回避して水酸化ニッケル沈殿の形成を防止するように注意する。メッキ工程の開始時に試料を毎分約4回転の速度で回転させ、同時に沈める。30秒の終了時、メッキの開始を示す泡立ちが起こる。試料を無電解メッキ溶液中で連続的な速度で回転させる。約1.25hrの時間、約85℃の温度、約5.9のpHでメッキ速度を約0.325mil/hrに維持する。規定の時間の終了時に、試料をメッキ浴から取り出して第1の被覆基材を得た。この第1の被覆基材の表面を回転しながら室温で塩酸(30体積%、37%w/wHClのストック)により約1〜5分処理して表面を清浄化した。清浄化した第1の被覆基材を再び脱イオン水で濯ぎ、冶具に固定した後無電解メッキ溶液約1.25hr浸漬して、2つの無電解ニッケル皮膜層を含む第2の被覆基材を得た。次に、この第2の被覆基材を、真空下約600℃の温度に約20hrの時間加熱することを含む加熱プロトコールに付した。
【0042】
皮膜の特性を金属組織学(SCM及びEDS)によって決定した。1つの試験手順では、被覆基材を切断して基材皮膜界面の断面を作り、光学顕微鏡で検査した。本発明によって得られた試験試料は、試料と無電解ニッケル皮膜との間に2〜3マイクロメートルの厚さの拡散接合層をもっていた。この拡散接合層は、EDSにより、基材に由来する鉄と無電解ニッケル皮膜に由来するニッケルの両方を含有していることが示された。
【0043】
本発明により提供される加熱プロトコールにより、基材と無電解ニッケル皮膜との間に拡散接合が作り出され、これは、皮膜の接着特性を改良することに加えて、無電解ニッケル皮膜の歪み耐性を改良する。こうして、一実施形態では、本発明は無電解ニッケル皮膜を含む被覆されたインペラを提供する。本発明の方法を用いて製造される被覆された物品は、非常に高い(20000RPM)回転速度で生じる応力に耐えるのに充分な皮膜の柔軟性を示すと考えられる。本明細書に記載した研究努力の一部として、本発明により提供された加熱プロトコールに付す前に多層の無電解ニッケル皮膜で被覆された基材は、ピンホール及び皮膜を貫通する亀裂のような皮膜を貫通する欠陥のさらにより良好な制御を提供することが観察された。
【0044】
以上の説明では、最良の実施態様を含めて本発明を開示するため、また当業者がデバイス又はシステムの作成と使用及び具体化された方法の実施を含めて本発明を実施することができるように実施例を使用した。本発明の特許性のある範囲は特許請求の範囲に規定されているが、当業者には自明の他の例を包含し得る。かかる他の例は、特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有するか、又は特許請求の範囲の文言と実質的な差違のない等価な構造要素を含む場合、特許請求の範囲に入る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基材を無電解ニッケル皮膜で被覆して、被覆基材を用意し、
(b)被覆基材を、約550℃〜約700℃の範囲の温度に約7〜約30時間加熱することを含む加熱プロトコールに付す
ことを含む、無電解ニッケルコーティング組成物の製造方法。
【請求項2】
被覆基材が多層の無電解ニッケル皮膜を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
基材が金属基材である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
基材が低合金鋼を含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
無電解ニッケルコーティング組成物がさらに約1%〜約8%の範囲のリンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法で製造される無電解ニッケルコーティング組成物。
【請求項7】
請求項1記載の方法で製造される物品。
【請求項8】
(a)低合金鋼基材を無電解ニッケル皮膜で被覆して、被覆基材を用意し、
(b)被覆基材を、約550℃〜約700℃の範囲の温度に約7〜約30時間加熱することを含む加熱プロトコールに付す
ことを含む、無電解ニッケルコーティング組成物の製造方法。
【請求項9】
(a)低合金鋼基材を無電解ニッケル皮膜で被覆して、被覆基材を用意し、
(b)被覆基材を、約550℃〜約700℃の範囲の温度に約7〜約30時間加熱することを含む加熱プロトコールに付す
工程を含む方法で製造される、低合金鋼基材と接する無電解ニッケル皮膜を含む組成物。
【請求項10】
(a)基材を第1の無電解ニッケル皮膜で被覆して、第1の被覆基材を用意し、
(b)第1の被覆基材を第2の無電解ニッケル皮膜で被覆して、第2の被覆基材を用意し、
(c)第2の被覆基材を、約550℃〜約700℃の範囲の温度に約7〜約30時間加熱することを含む加熱プロトコールに付す
ことを含む、無電解ニッケルコーティング組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−174181(P2011−174181A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35270(P2011−35270)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】