説明

無電解Ni複合材料でめっきされた基材および方法

無電解ニッケル(Ni)めっきによって基材を耐摩耗性粒子でコーティングする諸方法。一方法は、槽内に用意されたNi塩含有処理液中に基材を浸漬するステップと、所定の大きさを有する立方窒化ホウ素(cBN)粒子を、cBNの所定の濃度を生じるように処理液に追加するステップと、基材をcBN粒子とともに処理液中に所定の時間維持するステップと、基材を取り出すステップとを含み、取り出された基材は、cBNおよびNiからなる第1の範囲内のコーティングを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される主題の諸実施形態は、耐摩耗性のコーティングで基材をめっきするための、一般には方法およびシステムに関し、より具体的には機構および技法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学および石油産業では様々な圧縮機が使用される。圧縮機の多くは処理流体をポンプでくみ上げるために使用されるが、この処理流体は圧縮機の材料を腐食し、あるいはその材料と望ましくない形の相互作用をすることがある。このため、様々な技法が圧縮機を保護するために使用される。このような方法の1つが無電解ニッケルめっき(ENP)である。
【0003】
ENPでは、基材上にニッケルリン合金コーティングを生成する。無電解ニッケルコーティングのリン含有率は4%から13%の範囲とすることができる。ENPは一般に、耐摩耗性、硬度、および摩滅防止が必要とされるエンジニアリングコーティング用途で使用される。ENPの他の用途には、油田弁、ロータ、駆動軸、電気/機械工具などが含まれうる。
【0004】
コーティングの硬度が高いために、ENPはまたサルベージ摩耗部品に使用することもできる。0.001〜0.004inのコーティングを摩耗構成要素に施すことができ、その後このコーティングは最終の寸法になるまで機械切削することもできる。その堆積断面が均一であるので、これらのコーティングは、クロムをベースとするような他の硬質摩耗コーティングには適合させるのが容易ではない、複雑な構成要素に施すことができる。
【0005】
ENPは、基材上にニッケルのコーティングを堆積するのに電流を必要としない自己触媒反応である。ENPは電解めっきとは異なり、堆積物を形成するのに溶液中に電流を通す必要がない。このめっき技法は、摩滅および摩耗を防止するために使用される。ENP技法はまた、基材を浸漬する処理液に粉末を懸濁させることによって、複合材料コーティング物を製造するのに使用することもできる。
【0006】
ENPには、電解めっきと比べていくつかの利点がある。流束密度および電力供給の問題がないENPでは、加工品形状にかかわらず均一な堆積物が得られ、また適正なめっき前触媒を用いて、非導電面に堆積することができる。
【0007】
従来のENP堆積システムを図1に関して論じる。システム10は槽12を含み、その中に専用処理液14を用意する。処理液14の組成は適用例により変わり、また多数の要素によって決まる。ファン16を、処理液14の内容物の均質な分布を維持するために設けることがある。円板であってよいコーティングすべき基材18を、処理液14中に完全に浸漬した支持体20の上に供給する。基材18上にコーティングすべき所望の材料22を処理液14に追加し、めっきしている間中、処理液中の所望の材料22をより均一に分散させ、材料の粒子を一定した攪拌状態に保つためにファン16を作動させる。所望の材料22は、Ni、P、SiC、BC、およびZrO2を含みうる。しかし、知られているENP組成物は、圧縮機スリーブ上に堆積された後の寿命が短い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第10301135号公報
【発明の概要】
【0009】
したがって、上述の問題および欠点を回避するシステムおよび方法を提供することは望ましいはずである。
【0010】
1つの例示的な実施形態によれば、無電解ニッケル(Ni)めっきによって基材を耐摩耗性粒子でコーティングする方法がある。この方法は、槽内に用意されたNi塩含有処理液中に基材を浸漬するステップと、所定の大きさを有する立方窒化ホウ素(cBN)粒子を、cBNの所定の濃度を生じるように処理液に追加するステップと、基材をcBN粒子とともに処理液中に所定の時間維持するステップと、基材を取り出すステップとを含み、取り出された基材は、cBNおよびNiからなる第1の範囲内のコーティングを有する。
【0011】
さらに別の例示的な実施形態によれば、無電解ニッケル(Ni)めっきによって基材を耐摩耗性粒子でコーティングする方法がある。この方法は、槽内に用意された処理液中に基材を浸漬するステップと、Ni塩を含むこの処理液に、所定の大きさおよび所定の濃度でもって立方窒化ホウ素(cBN)粒子を、ならびに所定の大きさおよび所定の濃度でもって六方晶BN(hBN)粒子を追加するステップと、基材をcBN粒子およびhBN粒子とともに処理液中に所定の時間維持するステップと、基材を取り出すステップとを含み、取り出された基材は、cBN、hBNおよびNiからなる第1の範囲内のコーティングを有する。
【0012】
さらに別の例示的な実施形態によれば、耐摩耗性粒子含有コーティングを含む基材があり、この耐摩耗性粒子は、無電解ニッケル(Ni)めっきによって前記基材上に堆積され、コーティングは立方窒化ホウ素(cBN)粒子を含み、このcBN粒子の半分超が6から20μmの間の大きさを有する。
【0013】
別の例示的な実施形態によえば、耐摩耗性粒子含有コーティングを含む基材があり、この耐摩耗性粒子は、無電解ニッケル(Ni)めっきによって前記基材上に堆積され、コーティングは、六方晶窒化ホウ素(hBN)粒子および立方窒化ホウ素(cBN)粒子を含み、cBN粒子は、この粒子の半分超について6から12μmの間の大きさを有し、hBN粒子は、この粒子の半分超について6から10μmの間の大きさを有する。
【0014】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、1つまたは複数の実施形態を示し、その記述と併せてこれらの実施形態を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の無電解ニッケルめっきシステムの概略図である。
【図2】Ni堆積に伴う化学反応を示す流れ図である。
【図3】例示的な一実施形態による、基材をコーティングするために使用される様々な複合材料を示す表である。
【図4】図3の様々な複合材料の金属損失を示すグラフである。
【図5】図3の様々な複合材料の平均重量損失を示すグラフである。
【図6】図3の様々な複合材料の平均摩耗率を示すグラフである。
【図7】図3の様々な複合材料の重量損失および摩耗率の数値を示す表である。
【図8】例示的な一実施形態による、図3の様々な複合材料のうちの1つ以上で基材をコーティングするシステムの概略図である。
【図9】例示的な別の実施形態による、図3の様々な複合材料のうちの1つ以上で基材をコーティングするシステムの概略図である。
【図10】例示的な一実施形態による、cBNおよびNi粒子で基材をコーティングするステップを示す流れ図である。
【図11】例示的な一実施形態による、cBN、hBNおよびNi粒子で基材をコーティングするステップを示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
例示的な諸実施形態についての以下の説明では、添付の図面を参照する。別々の図面中の同じ参照番号は、同じまたは類似の要素を特定する。以下の詳細な説明では本発明は限定されない。そうではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義されている。以下の諸実施形態は、分かりやすくするために、往復動圧縮機の術語および構造に関して論じる。しかし、次に論じられる諸実施形態は、これらのシステムに限定されのではなく、腐食性環境中で動作し、または機械的に摩耗する他の基材に適用することができる。
【0017】
本明細書全体を通して、「1つの実施形態」または「一実施形態」について言及することは、一実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造、または特性が、開示された主題の少なくとも1つの実施形態に含まれるということを表す。したがって、本明細書全体を通して様々な場所で「1つの実施形態で」または「一実施形態で」という語句が現れても必ずしも同じ実施形態を指してはいない。さらに、特定の特徴、構造または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0018】
上で論じたように、ENPコーティングが当技術分野で知られている。しかし、ENPコーティングは、コーティングが施される基材の機械的特性を強化するためのセラミック粒子(ENP複合材料)を含むことができる。ENP−Al23およびENP−SiCのようないくつかのENP複合材料もまた当技術分野で知られている。しかし、知られているENP複合材料では、望ましい強度および耐摩耗性を有するコーティングが生成されていない。
【0019】
例示的な一実施形態によれば、以下の複合材料、すなわち、炭化ケイ素(SiC)、ダイアモンド(c−C)、立方窒化ホウ素(cBN)、ならびに六方晶BN(hBN)のような自己潤滑性粒子、が従来のENPに追加されている。後で論じるように、様々な粒子サイズおよび粒子濃度が調査された。調査された新規の複合材料の一部は、他と比較して注目すべき特性を示し、その結果、機械的摩耗および/または腐食性環境に遭遇することができるコーティングが得られた。しかし、Niと他の粒子との調査すべき多数の組合せがあることが認められる。さらに、ENPに付加されるべき粒子について、ほんの数例を挙げても、多種多様の粒子サイズおよび粒子濃度に起因する厄介な問題が生じる。
【0020】
すなわち、適正なサイズおよび/または濃度の既知の粒子を従来のENPと組み合わせることは、後で論じるように、この技術が予測可能ではないので、また粒子の諸パラメータのうちの1つの小さな変化がコーティングの特性の大きな変化になりうるので、当業者にとって明らかなことではないことが認められる。
【0021】
例示的な一実施形態により、図2を参照して処理液の成分、およびこれら成分の影響を論じる。図2は、処理液14の2つの成分がニッケル塩30および還元剤32であることを示している。ニッケル塩30はコーティング堆積の材料(Ni)を供給し、還元剤はニッケルイオン還元を担う。槽12内でニッケル塩30が還元剤32と相互作用する結果、様々なNiコーティングが得られる。例えば、使用される還元剤に応じて、Ni−Pコーティング34、Ni−Nコーティング36、またはNi−Bコーティング38を得ることができる。1つの適用例では、還元剤として次亜リン酸ナトリウムだけが使用される。図2のボックス34、36、および38の中に示されるように、酸化された成分がコーティング処理中に生成される。
【0022】
各処理液は、次亜リン酸塩処理液と、ホウ素化合物および窒素化合物をベースとする処理液とに分けることができる。次亜リン酸塩処理液により、リン含有率が1重量%から15重量%までの範囲となるコーティングを生成することができる。リン含有率は処理液組成、および主に処理液のpH値に強く依存する。めっき溶液が酸性であればあるほどコーティング内のリン濃度が高くなる。温度もまた処理液の挙動に影響を及ぼし、90℃を超えないことが好ましい。処理液の組成が複雑であるので、より多くの組成物を使用して異なる結果を得ることができる。
【0023】
Ni−BコーティングおよびNi−Nコーティングは、それぞれホウ素ベースおよび窒素ベースの還元化合物を含有する各溶液から堆積することができる。このようなコーティングは摩滅および摩耗に対する良好な、Ni−P合金よりもさらに高い耐性を呈示する。しかし、これらの堆積は、例えばpHがNi−B合金堆積では8から14の間、Ni−N合金堆積では8から10の間である、アルカリ性溶液だけから生じる。
【0024】
この欠点は関連性がある。というのは、これらの条件のもとでは鋼製基材上に良好な粘着性を得ることができないからである。Ni−B層を準備するために使われる還元化合物は水素化ホウ素ナトリウムおよびジメチルアミンボランであり、Ni−N堆積用の還元化合物にはヒドラジンが使用される。
【0025】
使用できる他の添加剤は、有機リガンド、展着剤、安定化剤、pH調整剤、および/または湿潤剤である。添加剤は、無電解処理液の安定性を改善し、堆積速度を例えば10から20μm/hの間で一定に維持するために使用される。
【0026】
ENP複合材料コーティングを得るために、処理溶液にセラミック粒子の懸濁液が付加される。懸濁された粒子の一部は、成長する堆積物(コーティング)の表面に付着して、コーティングを強化する含有物を形成することができる。堆積プロセスの特性のほとんどは、セラミック材料の化学的性質とは無関係である。こうした態様は、セラミック粒子の溶液との相互作用、および成長する堆積が、静電気力および重力だけによることを考えると理解することができる。
【0027】
静電気力が粒子の表面電荷に依存し、重力が粒子の質量に比例するので、コーティング内に含まれうる粒子の大きさには限界がある。直径が30μmより大きい粒子の溶液は不安定であり、激しく攪拌された場合に沈殿する傾向がある。一方で、粒子の直径が小さい場合は、静電気力は凝結を招くことがある。このような現象により、コーティング内の粒子の分布に不均一性が生じうる。凝結は、界面活性剤を数ppmの濃度範囲で加えることによって回避することができる。
【0028】
例示的な一実施形態によれば、表1に列挙された組成および特性を有する処理液を槽12に供給し、ファン16の電源を入れて処理液を攪拌し続けた。
【0029】
後で論じるように、様々な組成物を有するセラミック粉末をこの処理液に付加した。
【0030】
【表1】

実験用の円板18を、これらの円板の上にENP複合材料堆積が得られるように処理液14の中に入れた。1つの適用例では、円板の直径は5cmである。摩耗試験中に負荷がかけられる円板の外側周辺に沿って、コーティングを施した。摩耗試験についてより具体的に述べると、めっきされた42CrMo4円板(0.50mm×10mm)を使用するブロックオンディスク構造を用いて、ENP溶液を摩耗試験した。この円板はその周辺部が、円板のコーティングに摩耗を生じさせるブロックに接触するように回転させる。ブロックと円板の間の摺動速度は1.5m/s、接触負荷は80Nとしてよい。他の値を用いてもよい。10,000mの距離を計数した後、すなわち円板が10,000を円板の周辺長で割ったものに等しい回数だけ回転した後に、摩耗を測定する。摩耗は、2500mごとに試料の金属損失を測定して評価する。めっき溶液ごとに3つの試料を試験する。試験する前に、コーティングは空気炉の中において400℃で4時間、時効硬化させることができる。例えばP含有率が7%未満である場合は、熱処理を行う必要がない。
【0031】
円板の厚さは1cmとすることができ、摩耗を加えるブロックと円板の間の接触部の厚さは約8mmとすることができる。ブロックと円板の間の接触部で、0.1μmのアルミナ懸濁液40mlと蒸留水40mlの中に120メッシュのコランダム80gを分散させることによって、摩滅を摺動摩耗試験に追加する。ブロック材料(例えば、42CrM04鋼)に、例えば急冷および焼き戻しの熱処理をする。円板の大きさはコーティングを施す能力に関係があるとは考えられず、同じコーティングを、例えば大きさが10cmから10m程度の大型の圧縮機に堆積することができる。例示的な諸実施形態で用いた摩耗試験については、後でさらに論じる。
【0032】
以下のコーティングを堆積し調査した。最初に、42CrM04鋼基材上にNi−PおよびNi−P複合材料のコーティングを堆積した。これらのコーティングは、厚さが100μmまでであった。基材を処理液中に入れておく時間によって、より薄いまたは厚いコーティングを得ることができる。ENP−アルミナの堆積は、5g/lから20g/lの範囲にある濃度の溶液を使用して実施することができる。各体積濃度は、1μmのαアルミナ粒子の懸濁液を各コーティング内に用いて得られ、20g/l、10g/lおよび5g/lの懸濁液についてそれぞれ15.8体積%、9.3体積%および8.6体積%であることが分かっている。堆積したコーティングは、セラミック含有物の均質な分散を呈示する。コーティングの硬度は、100g負荷で約980ヌープであることが分かった。ヌープは、非常にもろい材料または薄いシートで特に用いられる、機械的硬度に関するヌープ硬さ試験の単位であり、試験では小さな押し込みしか作らなくてよい。ヌープ試験は、試験材料の研磨面にピラミッド形のダイアモンド先端を既知の力で指定の滞留時間押し込むことによって実施され、その結果生じた押し込みが顕微鏡を用いて測定される。HClを30重量%含有する溶液中に試料(円板)を60秒未満浸すことによって、基材表面の脱酸を行うことができる。
【0033】
図3に示された異なる大きさおよび異なる濃度の粒子を用いて、ENP Si−Cコーティングの堆積を実施した。図3は列40で、基材上に堆積される材料の化学組成を示す。列42は、堆積される粒子の大きさを示す。列44は、堆積される粒子の濃度を示す。この濃度は、基材上に堆積される前の処理液中の粒子の濃度を指す。列46は潤滑粒子の大きさを示し、列48は潤滑粒子の濃度を示す。
【0034】
コーティング内に埋め込まれたSiC粒子の量をENP溶液中のSiC粒子濃度の関数として測定した。検査した範囲のSiC濃度(例えば20、40および80g/l)およびメッシュ(例えば1500、1000および600)では、埋め込まれたセラミック粒子は、粒子メッシュおよびENP処理液の内容物の影響をわずかに受ける。ここでメッシュは、当技術分野ではメッシュの1(リニア)インチ当たりの開口の数であることが知られている。粒子の大きさが増すと、埋め込まれた粒子の濃度が高くなる。
【0035】
1つの例示的な実施形態では、すべてのENP−SiCコーティングを上記の準備プロトコルに従って準備した。最もよく機能するコーティング(SiC、600メッシュ、20g/l)では、10,000m試験で80mgの重量損失を示した。重量損失とは、摩耗によるコーティングおよび/または基材損失の量のことである。厚さに関しては、10,000m試験での平均損失は10から15μmの間の範囲にあることが分かった。
【0036】
1つの例示的な実施形態で、プローブの耐摩耗性に大きな影響を及ぼすことが分かったパラメータは、セラミックの粒径である。大きさをメッシュ1000から600に変更すると、耐摩耗性が4倍に増加する。このような根拠で、耐摩耗性を改善するために粒子メッシュをさらに400まで大きくすることを試みた。しかし、粒径を大きくすると堆積される粒子の重量が増大して、均質なコーティングを堆積することが困難な作業になる。この条件のもとで堆積した試料には、試料表面に沿った粒子分布に大きな差異が見える。
【0037】
次に、様々な試料に対し実施した摩耗試験のいくつかのパラメータについて論じる。加えた負荷は、調査したすべての試料で同じであり、80Nに設定した。試料と相対的な負荷の摺動速度は1.5m/sであった。各試験試料に対し4回の重量測定を実施した。これらの測定点は、2500m、5000m、7500mおよび10000mであった。図4は、検討した様々な試料およびその化学組成をX軸に、摩耗による金属損失をY軸に記した表である。図4に示された試料は約400℃で約4時間、時効硬化させた。
【0038】
使用した各試料についてはまた表で、セラミック材料の粒径、およびセラミック材料の処理液中の濃度もX軸に記してある。図4に示された棒には、金属損失をmgで表す数字が記載されている。望まれるENP複合材料は、金属損失が60mg未満のものであることが認められる。これらの複合材料は、ENP+cBN(10〜20μm、20g/l)、ENP+cBN(6〜12μm、20g/l)、ENP+cBN(6〜12μm、20g/l)+hBN(10g/l)、ENP+cBN(6〜12μm、20g/l)+hBN(20g/l)、ENP+cBN(6〜12μm、20g/l)+hBN(40g/l)、およびENP+cBN(6〜12μm、10g/l)である。これらの試料の金属損失は、重量に関しては従来の炭化タングステン/コバルト(88WC12Co)コーティング(基材上に吹き付けられる)の4分の1であり、厚さに関してはその約2分の1である。というのは、WC−Co密度はENPの2倍であるからである。
【0039】
図5および図6は、検討した試料の平均重量損失および摩耗率をグラフで示す。図7は、検討したすべての試料の重量損失および摩耗率を表形式で示す。最もよく機能するコーティングは、粒径が6〜12μmおよび10〜20μmのENP−cBNコーティングである。溶液中の粒子の最良濃度は20g/l(0.0015mg/m)であり、それに続くのは10g/l(0.0035mg/m)および40g/l(0.0105mg/m)であった。40g/l溶液で堆積されるとより効果的になったアルミナ粒子の場合は別として、堆積懸濁液中の粉末濃縮による摩耗率の増加が、調査したすべての材料で起きた。しかし、アルミナ粒子は、基材の耐摩耗性を向上させるのに、炭化ケイ素、立方窒化ホウ素およびダイアモンドほどには効果的でないようである。最良のアルミナベースENP複合材料コーティングで得られた摩耗率は、BNベースのコーティングよりも10倍以上高い。
【0040】
ENP−SiC 20g/l、600メッシュ複合材料コーティングでは、0.008mg/mの摩耗率を呈示する中位の性能が得られた。この摩耗率は、10g/lおよび20g/lのBNコーティングよりも高いが、40g/lのBNコーティングよりは低い。ダイアモンド複合材料コーティングもまた調査したが、cBNベースのコーティングよりも低い性能を呈示した。
【0041】
潤滑剤としてhBNを追加することもまた検討した。試験は、cBN粉末が最もよく機能するコーティングであることが分かったので、6〜12μmのcBN粉末を含有する10g/lおよび20g/lの濃度のhBNを付加して実施した。しかし、このような付加物は、耐摩耗性の大幅な向上をもたらさなかった。むしろ、摩耗率は、おそらくは軟らかいhBN粉末が消費されるために、単純なEN−cBNコーティングよりもわずかに高くなる(0.0022mg/m)ことが分かった。さらに、対向ブロックの耐性にも向上が見られなかった。耐摩耗性に関する最良のコーティングは、20g/l、6〜12μmのcBNにより得られるものであることが判明した。大きさが6〜12μmの粒子を含むコーティングは、そのコーティング内のありとあらゆる粒子がこの示された範囲内の大きさを有することを示唆するものではないことに留意されたい。例示的な一実施形態によれば、コーティング内の半分超の粒子は、示された範囲内の大きさを有し、他の粒子は、示された範囲よりも大きいまたは小さい対応する大きさを有しうる。しかし、別の例示的な実施形態によれば、粒子の90%超は、所与の範囲内の大きさを有すると考えられる。
【0042】
特に形状が複雑で、例えば容易にアクセスできない表面を有する圧縮機および付随する配管の特定分野では、上で論じたコーティングを堆積することは有用で効果的であることが判明した。単純なENPコーティングは、通常は試料形状の影響を受けず、コーティング厚さは均一になる。しかし、セラミック懸濁液を使用することは単純なENPコーティングとは異なるとともに、粉末を均質に懸濁させておくために粒子を強制的に対流させる必要がある。
【0043】
したがって、例示的な一実施形態によれば、図8に示されるように、コーティングを受け取るようにファンを基材18の中に通すことによって、または図9に示されるように、ポンプ90で流体を基材18の内側部分を通るように強制的に移動させることによって、流体の流れが維持される。1つの実施形態では、粒子供給源92を設けて所望の材料22の粒子を、これらの粒子が堆積プロセスで消費されるのと同時に供給することができる。粒子供給源92は、所望の材料を継続して、かつ/または一定して供給するように構成することができる。2つ以上のタイプの粒子が処理液に供給される場合では、2つ以上の粒子供給源92を使用することができる。例示的な一実施形態によれば、基材18は所定の時間、処理液14の中に浸漬しておき、その時間は、堆積すべき所望のコーティングの厚さによって決まる。堆積コーティングの厚さは2から500μmの間とすることができ、好ましい厚さは50から200μmの間である。
【0044】
例示的な一実施形態に従って、無電解ニッケル(Ni)めっきによって基材を耐摩耗性粒子でコーティングするステップが図10に関して論じられる。図10に示される方法は、槽内に用意された処理液中に基材を浸漬するステップ1000と、所定の大きさを有する立方窒化ホウ素(cBN)粒子を、Ni塩を含む処理液にcBNの所定の濃度を得るように追加するステップ1002と、基材をcBN粒子とともに処理液中に所定の時間維持するステップ1004と、cBNおよびNiからなる第1の範囲内のコーティングを有する基材を取り出すステップ1006とを含む。第1の範囲は、50から200μmの間とすることができる。
【0045】
例示的な別の実施形態に従って、無電解ニッケル(Ni)めっきによって基材を耐摩耗性粒子でコーティングするステップが図11に関して論じられる。図11に示された方法は、槽内に用意された処理液中に基材を浸漬するステップ1100と、Ni塩を含む処理液に、立方窒化ホウ素(cBN)および六方晶BN(hBN)の所定の大きさおよび所定の濃度をそれぞれ有するcBN粒子およびhBN粒子を追加するステップ1102と、基材をcBN粒子およびhBN粒子とともに処理液中に所定の時間維持するステップ1104と、cBN、hBNおよびNiからなる第1の範囲のコーティングを有する基材を取り出すステップ1106とを含む。第1の範囲は、50から200μmの間とすることができる。両方法で、コーティングされた基材を処理液から取り出した後に、熱処理を例えば約4時間、約400℃で施すことができる。適用例およびPの含有率に応じて、他の値を用いることもできる。
【0046】
任意選択のステップには、基材が処理液中にある間、処理液およびcBN粒子を継続して攪拌するステップと、圧縮機の部品である基材のコーティングを約4時間、約400℃の温度で熱処理するステップと、ファンを圧縮機部品の中に通すステップとが含まれうる。
【0047】
開示された例示的な諸実施形態は、無電解Niめっきによって基材を耐摩耗性粒子でコーティングするためのシステム、基材および方法を提示する。本明細書は、本発明を限定するものではないことを理解されたい。それどころか、例示的な諸実施形態は、添付の特許請求の範囲で定義された本発明の趣旨および範囲に含まれる代替形態、修正形態および等価物を包含するものである。さらに、例示的な諸実施形態についての詳細な説明では、特許請求された本発明の包括的な理解が得られるように、多くの具体的な細部が示されている。しかし、当業者には、様々な実施形態をこのような具体的な細部がなくても実践できることが理解されよう。
【0048】
例示的な本実施形態の特徴および要素は、諸実施形態で特定の組合せの形で説明されているが、各特徴または要素は、諸実施形態の他の特徴および要素を伴わずに単独で、あるいは本明細書で開示された他の特徴および要素を伴って、または伴わずに様々な組合せの形で用いることができる。
【0049】
書面の本明細書は、開示された主題の諸例を用いて、任意のデバイスまたはシステムを作ることおよび使用すること、ならびに組み込まれた任意の方法を実施することを含め、当業者が主題を実践することを可能にする。主題の特許性がある範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者に想起される他の諸例を含みうる。このような他の例は、特許請求の範囲内にあるものである。
【符号の説明】
【0050】
10 システム
12 槽
14 処理液
16 ファン
18 基材
20 支持体
22 所望の材料
30 ニッケル塩
32 還元剤
34 Ni−Pコーティング
36 Ni−Nコーティング
38 Ni−Bコーティング
40、42、44、46、48 列
90 ポンプ
92 粒子供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解ニッケル(Ni)めっきによって基材を耐摩耗性粒子でコーティングする方法であって、
槽内に用意されたNi塩含有処理液中に前記基材を浸漬するステップと、
所定の大きさを有する立方窒化ホウ素(cBN)粒子を、cBNの所定の濃度を生じるように前記処理液に追加するステップと、
前記基材を前記cBN粒子とともに前記処理液中に所定の時間維持するステップと、
cBNおよびNiからなる第1の範囲内のコーティングを有する前記基材を取り出すステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記所定の大きさが、前記cBN粒子の半分超について6から20μmの間であり、前記所定の濃度が18から25g/lの間であり、前記第1の範囲が50から200μmの間である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記所定の大きさが、前記cBN粒子の半分超について6から20μmの間であり、前記所定の濃度が約8から15g/lの間であり、前記第1の範囲が50から200μmの間である、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記基材をコーティングしながら追加のcBN粒子を前記処理液に供給して、前記基材上に堆積するcBN粒子を補うステップをさらに含む、請求項1乃至3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
無電解ニッケル(Ni)めっきによって基材を耐摩耗性粒子でコーティングする方法であって、
槽内に用意されたNi塩含有処理液中に前記基材を浸漬するステップと、
前記処理液に、所定の大きさおよび所定の濃度を有する立方窒化ホウ素(cBN)粒子、ならびに所定の大きさおよび所定の濃度を有する六方晶BN(hBN)粒子を追加するステップと、
前記基材を前記cBN粒子およびhBN粒子とともに前記処理液中に所定の時間維持するステップと、
cBN、hBNおよびNiからなる第1の範囲内のコーティングを有する前記基材を取り出すステップとを含む、方法。
【請求項6】
前記cBN粒子の前記所定の大きさが、前記cBN粒子の半分超について6から12μmの間であり、前記処理液中の前記cBN粒子の前記所定の濃度が18から25g/lの間であり、前記hBN粒子の前記所定の大きさが、前記hBN粒子の半分超について6から10μmの間であり、前記処理液中の前記hBN粒子の前記所定の濃度が8から45g/lの間であり、前記第1の範囲が50から200μmの間である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記cBN粒子の前記所定の大きさが、前記cBN粒子の半分超について6から12μmの間であり、前記処理液中の前記cBN粒子の前記所定の濃度が8から15g/lの間であり、前記hBN粒子の前記所定の大きさが、前記hBN粒子の半分超について6から10μmの間であり、前記処理液中の前記hBN粒子の前記所定の濃度が8から15g/lの間であり、前記第1の範囲が50から200μmの間である、請求項5または請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記基材をコーティングしながら追加のcBN粒子およびhBN粒子を前記処理液に供給して、前記基材上に堆積する粒子を補うステップをさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
基材であって、
無電解ニッケル(Ni)めっきによって前記基材上に堆積された耐摩耗性粒子を含むコーティングを備え、前記コーティングが立方窒化ホウ素(cBN)粒子を含み、前記cBN粒子の半分超が6から20μmの間の大きさを有する、基材。
【請求項10】
基材であって、
無電解ニッケル(Ni)めっきによって前記基材上に堆積された耐摩耗性粒子を含むコーティングを備え、前記コーティングが六方晶窒化ホウ素(hBN)粒子および立方窒化ホウ素(cBN)粒子を含み、前記cBN粒子が、この粒子の半分超について6から12μmの間の大きさを有し、前記hBN粒子が、この粒子の半分超について6から10μmの間の大きさを有する、基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−512335(P2013−512335A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540423(P2012−540423)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068163
【国際公開番号】WO2011/064276
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(505347503)ヌオーヴォ ピニォーネ ソシエタ ペル アチオニ (112)
【Fターム(参考)】