説明

焦点距離可変レンズ

【課題】 焦点距離可変レンズを小型化するとともに信頼性を高める。
【解決手段】 中空部11cが光路となる筒状の超磁歪素子11と、光路上に配置された弾力性を有する封止部材14a,14bと、封止部材14a,14bによって超磁歪素子11の中空部11cに封入された流動体15と、コイル12とを備える。コイル12に流す電流を変化させると超磁歪素子11が軸方向に変位し、流動体15にかかる圧力が変化する結果、封止部材14a,14bが変形する。このように、本発明の焦点距離可変レンズは、超磁歪素子11に与える磁界の変化によって焦点距離が変化することから、液体の移動が伴わない。このため、焦点距離可変レンズ全体を小型化することが可能となるばかりでなく、液漏れなどが生じにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焦点距離可変レンズに関し、特に、磁歪材料を利用した焦点距離可変レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、光学機器において焦点距離を可変とするためには、複数枚のレンズを用い、これらレンズ間の距離を変化させる方法が一般的である。しかしながら、この方法では、レンズを駆動するためのモータが必要であるばかりでなく、レンズの移動を考慮したスペースを設けておく必要があることから、光学機器全体を小型化することは困難であった。
【0003】
このような問題を解決する方法として、特許文献1には、液体を利用した焦点距離可変レンズが提案されている。特許文献1に記載された焦点距離可変レンズは、枠の上下に弾性膜が設けられ、これら弾性膜間に液体が充填された構造を有している。焦点距離を変化させる場合、封入調整器を用いて弾性膜間の液体量を増減させ、これにより弾性膜を膨らませる(又は縮ませる)ことによって、弾性膜の曲率を変化させる。
【特許文献1】特開平4−67001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された焦点距離可変レンズは、弾性膜間の液体量を増減させる封入調整器や、液体を移動させるためのパイプが必要であることから、焦点距離可変レンズ全体を十分に小型化することは困難である。しかも、焦点距離を変化させる際に液体の移動が伴うことから、液漏れなどが生じやすく、これを組み込む光学機器の信頼性を損なうおそれもあった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、小型化が容易であり且つ信頼性に優れた焦点距離可変レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、焦点距離可変レンズを改良すべく鋭意検討を重ねる中で、いわゆる「磁歪素子」、特に「超磁歪素子」に着目した。磁界の印加に応じて伸縮する磁歪素子は古くから知られているが、これまでの磁歪素子は変位が小さく、このため実用的に使用されることはほとんどなかった。しかしながら、近年、1500ppm〜2000ppmといった非常に変位の大きな磁歪素子(超磁歪素子)が知られるようになり、本発明者は、これを焦点距離可変レンズの駆動に応用することに思い至ったのである。
【0007】
本発明は、このような着想に基づきなされたものであって、本発明による焦点距離可変レンズは、少なくとも一部が磁歪材料からなり、中空部が光路となる筒状の磁歪素子と、少なくとも一部が前記光路上に配置された封止部材と、前記封止部材によって前記磁歪素子の前記中空部に封入された流動体と、磁界の印加によって前記磁歪素子を少なくとも軸方向に変位させる手段とを備え、前記封止部材の前記光路上に配置された部分の少なくとも一部は、前記磁歪素子の前記軸方向への変位に応じて変形可能な弾力性を有していることを特徴とする。
【0008】
本発明の焦点距離可変レンズによれば、磁歪素子に与える磁界の変化によって焦点距離が変化することから、液体の移動が伴わない。このため、焦点距離可変レンズ全体を小型化することが可能となるばかりでなく、液漏れなどが生じにくくなる。ここで「軸方向」とは、磁歪素子の中空部を貫通する方向を意味し、焦点距離可変レンズの光路となる方向と一致する。尚、本発明において「筒状」とは、貫通孔を有する形状を指し、環状又はドーナツ状などの形状も含まれる概念である。
【0009】
本発明による焦点距離可変レンズは、磁歪素子の全体が磁歪材料によって構成されていることが好ましい。これによれば、大きな変位を得ることができることから焦点距離の可変範囲が広がるばかりでなく、正しいレンズ形状を得ることができることから良好な光学特性を得ることが可能となる。
【0010】
変位させる手段は、磁歪素子の円周方向に巻回されたコイルを含んでいることが好ましい。これによれば、コイルにより生じる磁束の方向が磁歪素子の軸方向となることから、磁歪素子を主として軸方向に変位させることが可能となる。
【0011】
本発明の焦点距離可変レンズは、磁歪素子に磁気バイアスを印加する磁気バイアス印加手段をさらに備えることが好ましい。磁歪素子に磁界を印加すると通常は伸張するだけであるが、このような磁気バイアス印加手段を設ければ、磁歪素子を伸張及び収縮させることが可能となる。ここで、磁気バイアス印加手段としては、永久磁石を用いても構わないし、コイルに直流バイアス電流を印加する回路を用いても構わない。
【0012】
封止部材は、変形可能領域が磁歪素子の少なくとも一部の内径未満に設定されていることが好ましい。これによれば、磁歪素子の変位に応じた封止部材の変形量が非常に大きくなることから、焦点距離の可変範囲をより拡大することが可能となる。具体的には、磁歪素子の内壁部分に容積を拡大する窪みを設けたり、封止部材の変形可能領域を制限する固定部材を設けることによって、変形可能領域を磁歪素子の少なくとも一部の内径未満に設定することができる。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明による焦点距離可変レンズは、従来の焦点距離可変レンズのように液体の量を増減させるのではなく、筒状である磁歪素子の中空部に流動体を封入した構造を有していることから、焦点距離を変化させる際に、中空部の内部に流動体を注入したり、流動体を中空部の外部に排出させる必要がない。このため、従来必要であった封入調整器やパイプなどの機構が不要となり、焦点距離可変レンズ全体を小型化することが可能となる。しかも、焦点距離を変化させる際に液体の移動を伴わないことから、液漏れなどが生じにくく、このため、本発明による焦点距離可変レンズを組み込む光学機器の信頼性を高めることも可能となる。
【0014】
また、本発明による焦点距離可変レンズは、磁歪素子に与える磁界の変化によって焦点距離が変化することから、レンズ間の距離を変化させることによって焦点距離を変化させる一般的な機構と比べて応答速度が極めて速い。また、機械的に作動する部分を有していないことから、機械的故障などが発生しにくいという利点も有している。しかも、レンズ間の距離を変化させる機構では、その性質上、光路に沿った方向のサイズが大きくなりやすいが、本実施形態による焦点距離可変レンズでは、光路に沿った方向(=軸方向)のサイズを非常に小さくすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましいいくつかの実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10の構造を概略的に示す図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すA−A線に沿った略断面図である。
【0017】
図1(a)に示すように、本実施形態による焦点距離可変レンズ10は、いずれも筒状構造を有する超磁歪素子11、コイル12及び永久磁石13を備えており、これら超磁歪素子11、コイル12及び永久磁石13は、内側から外側へこの順に同心円状に配置されている。また、図1(b)に示すように、超磁歪素子11の一方及び他方の端面11a,11bには、それぞれ第1の封止部材14a及び第2の封止部材14bが取り付けられており、これにより閉じられた超磁歪素子11の中空部11cには、レンズの本体となる流動体15が封入されている。超磁歪素子11の中空部11cは、使用時において光路となる部分である。
【0018】
超磁歪素子11は、磁界の印加に応じて伸縮する超磁歪材料によって構成されており、使用する超磁歪材料としては、特に限定されるものではないがTb0.34−Dy0.66−Fe1.90を中心組成とする超磁歪材料等を用いることができる。超磁歪素子のサイズについては、目的とする焦点距離可変レンズ10のサイズや、目的とする焦点可変量に応じて適宜選択すれば良い。
【0019】
コイル12は、超磁歪素子11に与える磁界を変化させるために用いられ、図示しない制御回路によりコイル12に流す電流を変化させると、超磁歪素子11に与えられる磁界が変化する。コイル12は、超磁歪素子11の円周方向に巻回されており、このため、コイル12を流れる電流により生じる磁束の方向は、超磁歪素子11の軸方向となる。つまり、コイル12に流す電流を変化させると、超磁歪素子11に印加される磁界は主として軸方向に変化することになる。これにより、コイル12に流す電流を変化させることによって、超磁歪素子11を主として軸方向に変位させることが可能となる。
【0020】
永久磁石13は、超磁歪素子11に磁気バイアスを印加する磁気バイアス印加手段として機能する。超磁歪素子11は、磁界が印加されていない状態が最もサイズが小さく、磁界が強くなるにしたがって伸張する性質を有している。つまり、磁界が印加されていない状態からは超磁歪素子11を収縮させることはできず、単に、伸張させることができるのみである。したがって、超磁歪素子11を「伸縮」させるためには、通常時(ニュートラルな状態)において超磁歪素子11に所定の「磁気バイアス」を印加する必要があり、永久磁石13はかかる目的のために設けられている。
【0021】
本実施形態では、永久磁石13が超磁歪素子11に対して同心円状に配置されており、軸方向における一端13aを例えばN極、軸方向における他端13bを例えばS極とすれば、永久磁石13により生じる磁束の方向は、超磁歪素子11の軸方向となる。このため、主として軸方向に変位する超磁歪素子11に対して、効果的に磁気バイアスを与えることが可能となる。
【0022】
第1及び第2の封止部材14a,14bは、レンズの本体となる流動体15を密封する役割を果たし、使用時においては光路となることから、いずれも可視光線に対して透過率の高い材料を用いる必要がある。また、第1及び第2の封止部材14a,14bの少なくとも一方は、流動体15の圧力変化に応答して変形可能な弾力性を有している必要がある。したがって、第1及び第2の封止部材14a,14bの一方については、ガラスのように、流動体15の圧力変化に応じた変形がほとんど無い材料を用いても構わない。
【0023】
また、流動体15の漏れを防止するためには、第1及び第2の封止部材14a,14bはいずれも、流動体15や空気などを透過しない性質を有している必要がある。これは、第1及び第2の封止部材14a,14bが流動体15や空気などを透過する性質を有していると、流動体15が封止部材14a,14bを透過して外部に漏れ出したり、空気などが封止部材14a,14bを透過して内部に侵入するおそれがあるからである。流動体15が漏れ出すような場合はもちろんのこと、空気などが内部に侵入する場合にも、レンズの曲率が変わってしまうという問題が生じる。
【0024】
尚、超磁歪素子11の一方及び他方の端面11a,11bへの取り付けは、接着剤などを用いることができるが、超磁歪素子11と封止部材14a,14bの界面(接着面)を介した流動体15の漏れ出しや空気などの侵入を防止すべく、これらを透過しない接着剤などを用いて確実に接着する必要がある。
【0025】
流動体15は、レンズの本体となる部材であり、使用時においては光路となることから可視光線に対して透過率の高い材料を用いる必要がある。流動体15の材料としては、圧力や温度による体積変化の少ない液体やゲル状体の材料を用いることができ、一例として、水を用いることができる。焦点距離の可変範囲を大きくするためには、流動体15の材料として、できるだけ屈折率の高い材料を用いることが好ましい。
【0026】
以上が、本実施形態による焦点距離可変レンズ10を構成する各要素であり、図2に示すように、筒状であるコイル12の中空部12aに超磁歪素子11を挿入し、さらに、筒状である永久磁石13の中空部13cにコイル12を挿入することにより組み立てることができる。
【0027】
本実施形態による焦点距離可変レンズ10を駆動する駆動回路としては、図3に示すように、焦点距離可変レンズ10を構成するコイル12に直流電源16及び可変抵抗17を直列に接続した回路を用いることができる。このような回路を用いた場合、図示しない制御回路によって可変抵抗17の抵抗値を変化させることにより、コイル12に流れる電流を変化させることができる。
【0028】
また、本実施形態による焦点距離可変レンズ10を駆動する駆動回路としては、図4に示す回路を用いることも可能である。図4に示す回路は、焦点距離可変レンズ10を構成するコイル12に可変直流電源18及び抵抗19を直列に接続した構成を有しており、図示しない制御回路によって可変直流電源18の電圧を変化させることにより、コイル12に流れる電流を変化させることができる。
【0029】
次に、本実施形態による焦点距離可変レンズ10の動作について説明する。
【0030】
まず、通常時、つまり、超磁歪素子11に磁気バイアスのみが印加されているニュートラルな状態においては、超磁歪素子11の軸方向の長さL0はある一定の長さを保っており、これにより、第1及び第2の封止部材14a,14bの表面はほぼ平坦面となっている(図1(b)参照)。したがって、この状態で流動体15を介して光を透過させてもレンズ作用は実質的に生じない。
【0031】
しかし、コイル12に電流を流すことによって超磁歪素子11に与えられる磁界を増大させると、磁界の強さに応じて超磁歪素子11が軸方向に伸張する。図5は、この状態を示す略断面図であり、超磁歪素子11の長さがL1(>L0)に変化することによって、流動体15にかかる圧力が減少し、その結果、第1及び第2の封止部材14a,14bの表面は内側へ凹む。したがって、この状態で流動体15を介して光を透過させると、流動体15は凹レンズとして作用することになる。
【0032】
一方、コイル12に磁気バイアスを打ち消す方向の電流を流すことによって、超磁歪素子11に与えられる磁界を減少させると、磁界の減少度合いに応じて超磁歪素子11が軸方向に収縮する。図6は、この状態を示す略断面図であり、超磁歪素子11の長さがL2(<L0)に変化することによって、流動体15にかかる圧力が増大し、その結果、第1及び第2の封止部材14a,14bの表面は凸状に膨らむ。したがって、この状態で流動体15を介して光を透過させると、流動体15は凸レンズとして作用することになる。
【0033】
第1及び第2の封止部材14a,14bの曲率は、コイル12に流す電流の大きさ及び方向によって調整することが可能であり、これによって、焦点距離を可変とすることが可能となる。
【0034】
このように、本実施形態による焦点距離可変レンズ10は、従来の焦点距離可変レンズのように液体の量を増減させるのではなく、筒状の超磁歪素子11の中空部11cに流動体15を封入した構造を有していることから、焦点距離を変化させる際に、中空部11cの内部に流動体15を注入したり、流動体15を中空部11cの外部に排出させる必要がない。このため、従来必要であった封入調整器やパイプなどの機構が不要となり、焦点距離可変レンズ全体を小型化することが可能となる。しかも、焦点距離を変更する際に液体の移動を伴わないことから、液漏れなどが生じにくく、このため、本実施形態による焦点距離可変レンズ10を組み込む光学機器の信頼性を高めることも可能となる。
【0035】
また、超磁歪素子11に与える磁界の変化によって焦点距離を変化させていることから、レンズ間の距離を変化させることによって焦点距離を変化させる一般的な機構と比べても、応答速度が極めて速いという特徴を有している。また、機械的に作動する部分を有していないことから、機械的故障などが発生しにくいという利点も有している。しかも、レンズ間の距離を変化させる機構では、その性質上、光路に沿った方向のサイズが大きくなりやすいが、本実施形態による焦点距離可変レンズ10では、光路に沿った方向(=軸方向)のサイズを非常に小さくすることが可能となる。
【0036】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0037】
図7は、本発明の第2の実施形態による焦点距離可変レンズ20の構造を概略的に示す図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すB−B線に沿った略断面図である。
【0038】
図7(a),(b)に示すように、本実施形態による焦点距離可変レンズ20は、永久磁石13が超磁歪素子11に対して径方向ではなく、軸方向における片側に配置されている点において第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10と異なっている。その他は、第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10と同様であることから、同じ要素には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態においても、永久磁石13の軸方向における一端13aが例えばN極、軸方向における他端13bが例えばS極とされている。
【0039】
本実施形態では、永久磁石13が超磁歪素子11の軸方向に配置されていることから、焦点距離可変レンズ20の径方向におけるサイズをより小型化することが可能となる。尚、本実施形態では、永久磁石13を第2の封止部材14bが設けられた側に配置しているが、これを第1の封止部材14aが設けられた側に配置しても構わない。
【0040】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0041】
図8は、本発明の第3の実施形態による焦点距離可変レンズ30の構造を概略的に示す図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すC−C線に沿った略断面図である。
【0042】
図8(a),(b)に示すように、本実施形態による焦点距離可変レンズ30は、永久磁石13が超磁歪素子11の軸方向における上下両側に配置されている点において第2の実施形態による焦点距離可変レンズ20と異なっている。その他は、第2の実施形態による焦点距離可変レンズ20と同様であることから、同じ要素には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態においても、各永久磁石13の軸方向における一端13aが例えばN極、軸方向における他端13bが例えばS極とされており、2つの永久磁石13の互いに向き合う面が異なる極性となるように配置されている。
【0043】
本実施形態では、第2の実施形態と同等、焦点距離可変レンズ30の径方向におけるサイズをより小型化することが可能となるばかりでなく、上下に配置された2つの永久磁石13により、第2の実施形態に比べて超磁歪素子11に与える磁気バイアスをより均一とすることが可能となる。これにより、超磁歪素子11の伸縮のばらつきを抑制することができることから、優れた光学特性を得ることが可能となる。
【0044】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0045】
図9は、本発明の第4の実施形態による焦点距離可変レンズ40の構造を概略的に示す図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すD−D線に沿った略断面図である。
【0046】
図9(a),(b)に示すように、本実施形態による焦点距離可変レンズ40は、永久磁石13が超磁歪素子11の径方向外側及び軸方向における上下両側に一体的に配置されている点において第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10と異なっている。つまり、片側断面がコの字状の永久磁石13が用いられている。その他は、第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10と同様であることから、同じ要素には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態においては、軸方向に位置する一方の部分(図9(b)では上側)の端部13aが例えばN極、軸方向に位置する他方の部分(図9(b)では下側)の端部13bが例えばS極とされている。
【0047】
本実施形態では、永久磁石13が超磁歪素子11の径方向外側及び軸方向における上下両側に配置されていることから、第1乃至第3の実施形態に比べ、超磁歪素子11に与える磁気バイアスをより強力且つ均一とすることが可能となる。
【0048】
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
【0049】
図10は、本発明の第5の実施形態による焦点距離可変レンズ50の構造を概略的に示す図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すE−E線に沿った略断面図である。
【0050】
図10(a),(b)に示すように、本実施形態による焦点距離可変レンズ50は、永久磁石13が省略されている点において第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10と異なっている。その他は、第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10と同様であることから、同じ要素には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0051】
本実施形態では、図3又は図4に示した駆動回路によって、コイル12に所定の直流バイアス電流が流されており、かかる直流バイアス電流により生じる磁界を「磁気バイアス」として超磁歪素子11に印加している。このため、本実施形態では、超磁歪素子11に磁気バイアスを与えるための永久磁石が不要となることから、焦点距離可変レンズ50のサイズを非常に小型化することが可能となる。
【0052】
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。
【0053】
図11は、本発明の第6の実施形態による焦点距離可変レンズ60の構造を概略的に示す略断面図である。平面図については、図1(a)と同様であることから図示を省略する。
【0054】
図11に示すように、本実施形態による焦点距離可変レンズ60は、超磁歪素子11の内壁部分にコの字型の窪み11dが設けられている点において第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10と異なっている。その他は、第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10と同様であることから、同じ要素には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0055】
本実施形態では、磁歪素子11の内壁部分に設けられた窪み11dによって、超磁歪素子11の中空部11cの容積が増大している。これにより、第1及び第2の封止部材14a,14bの変形可能領域が、窪み11dが設けられた部分における超磁歪素子11の内径未満となることから、第1の実施形態と比べ、超磁歪素子11の変位に応じた第1及び第2の封止部材14a,14bの変形量がより大きくなる。したがって、本実施形態によれば、焦点距離の可変範囲をより拡大することが可能となる。
【0056】
次に、本発明の第7の実施形態について説明する。
【0057】
図12は、本発明の第7の実施形態による焦点距離可変レンズ70の構造を概略的に示す略断面図である。平面図については、図1(a)とほぼ同様であることから図示を省略する。
【0058】
図12に示すように、本実施形態による焦点距離可変レンズ70は、第1の封止部材14aが2つの固定部材71,72に挟まれ、第2の封止部材14bが2つの固定部材73,74に挟まれた構造を有している点において第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10と異なっている。その他は、第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10と同様であることから、同じ要素には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0059】
これら固定部材71〜74はいずれもドーナツ板状を有しており、その内径は超磁歪素子11の内径未満に設定されている。このため、固定部材71,72によって挟み込まれた第1の封止部材14aの変形可能領域は開口部75の径に制限され、同様に、固定部材73,74によって挟み込まれた第2の封止部材14bの変形可能領域は開口部76の径に制限されることになる。このため、超磁歪素子11の変位に応じた第1及び第2の封止部材14a,14bの変形量は非常に大きくなり、その結果、焦点距離の可変範囲をより大きく拡大することが可能となる。
【0060】
本発明は、以上説明した実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0061】
例えば、上記各実施形態では、超磁歪素子11の全体が超磁歪材料によって構成されているが、本発明において超磁歪素子11の全体が超磁歪材料によって構成することは必須でなく、超磁歪素子11の一部のみを超磁歪材料によって構成しても構わない。したがって、図13(a)〜(c)に示すように、超磁歪材料からなる部分81と超磁歪材料とは異なる材料からなる部分82とが軸方向に混在していても構わないし、図14(a)〜(c)に示すように、超磁歪材料からなる部分81と超磁歪材料とは異なる材料からなる部分82とが径方向に混在していても構わないし、図15(a),(b)に示すように、超磁歪材料からなる部分81と超磁歪材料とは異なる材料からなる部分82とが円周方向に混在していても構わない。但し、上記各実施形態のように超磁歪素子11の全体を超磁歪材料によって構成すれば、より大きな変位が得られるとともに、正しいレンズ形状が得ることができることから、この点を考慮すれば、超磁歪素子11の全体を超磁歪材料によって構成することが好ましい。
【0062】
また、上記各実施形態では、コイル12を超磁歪素子11に対して径方向外側に配置しているが、これを超磁歪素子11に対して径方向内側に配置しても構わないし、超磁歪素子11に対して軸方向に配置することも可能である。
【0063】
さらに、上記各実施形態では、永久磁石13等を用いて超磁歪素子11に磁気バイアスを与えているが、本発明において超磁歪素子11に磁気バイアスを与えることは必須でなく、これを省略しても構わない。
【0064】
また、上記実施形態では、超磁歪素子11に磁気バイアスのみが印加されているニュートラルな状態においては、第1及び第2の封止部材14a,14bの表面がほぼ平坦面となっている場合について説明したが(図1(b)参照)、ニュートラルな状態における封止部材14a,14bの形状はどのような形状であってもかまわない。すなわち、封止部材14a,14bがニュートラルな状態において凸レンズとしての形状を有し、凸レンズとしての形状の範囲内で超磁歪素子を伸張及び収縮させることにより、曲率を変化させても構わない。また、封止部材14a,14bがニュートラルな状態において凹レンズとしての形状を有し、凹レンズとしての形状の範囲内で超磁歪素子を伸張及び収縮させることにより、曲率を変化させても構わない。
【0065】
また、上記各実施形態ではいずれも超磁歪素子を用いた場合を説明したが、封止部材を変形し得る程度の変位可能なものであれば、磁歪素子も用いても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1の実施形態による焦点距離可変レンズ10の構造を概略的に示す図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すA−A線に沿った略断面図である。
【図2】焦点距離可変レンズ10の略分解斜視図である。
【図3】焦点距離可変レンズ10を駆動する駆動回路の一例を示す回路図である。
【図4】焦点距離可変レンズ10を駆動する駆動回路の別の例を示す回路図である。
【図5】超磁歪素子11を軸方向に伸張させた状態を示す略断面図である。
【図6】超磁歪素子11を軸方向に収縮させた状態を示す略断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態による焦点距離可変レンズ20の構造を概略的に示す図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すB−B線に沿った略断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態による焦点距離可変レンズ30の構造を概略的に示す図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すC−C線に沿った略断面図である。
【図9】本発明の第4の実施形態による焦点距離可変レンズ40の構造を概略的に示す図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すD−D線に沿った略断面図である。
【図10】本発明の第5の実施形態による焦点距離可変レンズ50の構造を概略的に示す図であり、(a)は略平面図、(b)は(a)に示すE−E線に沿った略断面図である。
【図11】本発明の第6の実施形態による焦点距離可変レンズ60の構造を概略的に示す略断面図である。
【図12】本発明の第7の実施形態による焦点距離可変レンズ70の構造を概略的に示す略断面図である。
【図13】超磁歪材料からなる部分81と超磁歪材料とは異なる材料からなる部分82とが軸方向に混在した超磁歪素子11の構造を示す略斜視図である。
【図14】超磁歪材料からなる部分81と超磁歪材料とは異なる材料からなる部分82とが径方向に混在した超磁歪素子11の構造を示す略斜視図である。
【図15】超磁歪材料からなる部分81と超磁歪材料とは異なる材料からなる部分82とが円周方向に混在した超磁歪素子11の構造を示す略斜視図である。
【符号の説明】
【0067】
10,20,30,40,50,60,70 焦点距離可変レンズ
11 超磁歪素子
11a,11b 超磁歪素子の端面
11c 超磁歪素子の中空部
12 コイル
12a コイルの中空部
13 永久磁石
13a 永久磁石の一方の極
13b 永久磁石の他方の極
13c 永久磁石の中空部
14a 第1の封止部材
14b 第2の封止部材
15 流動体
16 直流電源
17 可変抵抗
18 可変直流電源
19 抵抗
71〜74 固定部材
75,76 固定部材の開口部
81 超磁歪材料からなる部分
82 超磁歪材料とは異なる材料からなる部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が磁歪材料からなり、中空部が光路となる筒状の磁歪素子と、少なくとも一部が前記光路上に配置された封止部材と、前記封止部材によって前記磁歪素子の前記中空部に封入された流動体と、磁界の印加によって前記磁歪素子を少なくとも軸方向に変位させる手段とを備え、前記封止部材の前記光路上に配置された部分の少なくとも一部は、前記磁歪素子の前記軸方向への変位に応じて変形可能な弾力性を有していることを特徴とする焦点距離可変レンズ。
【請求項2】
前記磁歪素子の全体が磁歪材料によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の焦点距離可変レンズ。
【請求項3】
前記変位させる手段は、前記磁歪素子の円周方向に巻回されたコイルを含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の焦点距離可変レンズ。
【請求項4】
前記磁歪素子に磁気バイアスを印加する磁気バイアス印加手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の焦点距離可変レンズ。
【請求項5】
前記磁気バイアス印加手段は、永久磁石を含んでいることを特徴とする請求項4に記載の焦点距離可変レンズ。
【請求項6】
前記磁気バイアス印加手段は、前記コイルに直流バイアス電流を印加する回路を含んでいることを特徴とする請求項4に記載の焦点距離可変レンズ。
【請求項7】
前記封止部材は、変形可能領域が前記磁歪素子の少なくとも一部の内径未満に設定されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の焦点距離可変レンズ。
【請求項8】
前記磁歪素子の内壁部分に窪みが設けられていることを特徴とする請求項7に記載の焦点距離可変レンズ。
【請求項9】
前記封止部材の変形可能領域を制限する固定部材をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の焦点距離可変レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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