説明

焼き菓子生地用成形剤、それを用いた焼き菓子、焼き菓子の製造方法及び焼き菓子生地の成形改善方法。

【課題】小麦粉含有量に拘わらず、焼き菓子製造工程中の成形性を良好とし、風味に影響を与えず、風味素材本来の風味及び食感を生かし、歯切れが良くて歯ごたえのある砕けやすい食感を付与できる焼き菓子生地用成形剤、それを用いた焼き菓子、焼き菓子の製造方法及び焼き菓子生地の成形改善方法を提供する。
【解決手段】粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方を含有することを特徴とする焼き菓子生地用成形剤により達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッキー等の焼き菓子に対し、良好な成形性を付与する焼き菓子生地用成形剤、それを用いた焼き菓子、焼き菓子の製造方法及び焼き菓子生地の成形改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、クッキー、ビスケット、クラッカー、パイ等の焼き菓子類を製造する場合、小麦粉が主原料として用いられる。小麦粉は、加水し練ることで小麦タンパク質のグリアジンとグルテニンから、弾力性と粘着性を有するグルテンを形成する。上記焼き菓子類では、このグルテンの性質を、製造工程における焼き菓子生地の加工適性(生地の適度な伸展性や粘弾性を保ち、切れ、ダレ、べたつきを防止する等の成形性)に利用している。
従来、小麦粉を主体とした焼き菓子類では、更に高甘味度甘味料、乳化剤、ロースト小麦等を配合したり、キシラーゼ酵素処理や熱処理等した小麦粉を用いることで、焼き菓子の品質と共に、製造工程における加工適性を改良してきた。例えば、未処理小麦粉と熱処理小麦粉を特定比率で含有し、その熱処理小麦粉中の澱粉のα化度が15%以下であるビスケット類用小麦粉組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このビスケット類用小麦粉組成物は、小麦粉と、そのグルテンバイタリティを特定することで、小麦粉のグルテン形成を調整し、さくさくとした食感と、べたつきが少なくまとまり易い等の製造適性を有するビスケット類を提供するものである。
【0003】
他には、生地の軟化やべたつきを起こし難く、成型の際の作業性を良好とする目的で、加圧晶析して得られた油脂組成物を含有するクッキー製造用油脂加工食品が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
しかしながら、上記ビスケット類やクッキー類は、すべて小麦粉が主原料で、小麦粉を生地の45%以上含有する焼き菓子類であるため、小麦グルテン形成由来の成形性を保持することが前提とした上での改良発明である。前記発明を小麦粉比率を下げた焼き菓子に利用すると、生地の軟化やべたつきに対する完全な防止効果は得られず、製造工程中の成形性に大いに問題があった。
【0005】
更に、小麦粉比率を下げた焼き菓子として、小麦以外のタンパク質である大豆蛋白含有素材を含有する焼き菓子が挙げられる(例えば、特許文献3参照。)。上記焼き菓子は、分離大豆たん白、おから、豆乳粉といった大豆蛋白含有素材に、α化タピオカ澱粉及びトレハロースを組み合わせて添加するもので、生地の伸展性を高め、成形性を改良するものである。
しかしながら、小麦粉比率を下げたとはいっても、小麦粉含有量は焼き菓子生地中の40%は占めるため、小麦粉比率を40%より下げた焼き菓子を対象としたものでは、やはり製造工程中の成形性が完全に解決されたものではなかった。また、上記焼き菓子は、大豆原料を用いていても小麦粉による焼き菓子独特のサク味のある食感を持ち、大豆入り焼き菓子とは認識できない素材感のない風味や食感を有するという問題点があった。
【0006】
一方で、小麦粉を30重量%以上含有する焼き菓子であっても、高水分の風味素材等を含有することにより、焼き菓子生地中の水分含量が20重量%以上の高水分となる焼き菓子生地では、焼き菓子生地がべたつき、製造適性が悪いという問題点を有するものであった。
【0007】
また、風味素材を生かすものとして、加熱クッキング処理したさつまいも、砂糖、およびさつまいもパウダーを含有する焼き芋類似加工食品が知られており(例えば、特許文献4参照。)、さつまいもパウダーを用いることにより成形性が良くなることが開示されている。
上記特許文献4の焼き芋類似加工食品は、スチーマーで加熱調理した生のさつまいもが主原料で、最終製品の水分含量が約40重量%以上である高水分含有加工食品のため、生地段階で水分含量が極めて低いさつまいもパウダーを添加し、硬さ調整を行った後、むらさきいもパウダーによって皮膜形成をしているものに過ぎず、形状を形作るという成形性においては効果を得られるが、連続生産において、モールド成形機等への付着防止性を含む製造工程全般の連続成形性や離型性については、何ら開示も示唆もなされていない。更に、焼き芋類似加工食品は、上述の通り、最終製品の水分含量が約40重量%以上であるため、歯切れが良くて歯ごたえのある砕けやすい食感を得ることができない。
【0008】
【特許文献1】特開2000−83569号公報
【特許文献2】特開2001−252005号公報
【特許文献3】特開平11−9176号公報
【特許文献4】特開2004−16174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、小麦粉含有量に拘わらず、焼き菓子製造工程中の成形性を良好とし、風味に影響を与えず、風味素材本来の風味及び食感を生かし、歯切れが良くて歯ごたえのある砕けやすい食感を付与できる焼き菓子生地用成形剤、それを用いた焼き菓子、焼き菓子の製造方法及び焼き菓子生地の成形改善方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方を含有することを特徴とする焼き菓子生地用成形剤により上記目的を達成する。
【0011】
好ましくは、粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方が、粒子未崩壊アルファ化澱粉である。
【0012】
また、本発明は、焼き菓子生地用成形剤を含有し、水分含量が焼き菓子全体重量中0.5〜6重量%である焼き菓子により上記目的を達成する。
【0013】
更に、固体脂を含有することが好ましく、より好ましくは、風味素材を含有する。
【0014】
また、本発明は、下記工程を順次備えることを特徴とする焼き菓子の製造方法により上記目的を達成する。
(1)粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方と、その他の焼き菓子構成成分とを混練することにより、焼き菓子生地を調製する工程
(2)上記焼き菓子生地を成形する工程
(3)上記成形焼き菓子生地を焼成して、水分含量を焼き菓子全体重量中0.5〜6重量%に調整した焼き菓子を得る工程
【0015】
また、本発明は、粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方を焼き菓子生地に添加することを特徴とする焼き菓子生地の成形改善方法により上記目的を達成する。
【0016】
すなわち、本発明者らは、小麦粉の含有量に拘わらず、生地の適度な伸展性や粘弾性を保ち、切れ、ダレ、べたつきを防止して生地を所望の形状に成形すると共に、モールド型等の成形機への付着を防止して離型性を良くすることにより連続生産性を有するという、成形工程全般に亘って優れた成形性を付与する焼き菓子用原料に注目し、鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、アルファ化澱粉原料の中でも特に澱粉粒子が崩壊されていない粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方を焼き菓子生地に含有すると、小麦粉の含有量が全体重量中30%未満といった低含有量もしくは未含有で、グルテンを十分もしくは全く形成できない場合や、小麦粉の含有量が30重量%以上であっても焼き菓子生地全体が高水分値(焼き菓子生地全体重量中20重量%以上)に設定されている場合でも、製造工程中の焼き菓子生地のべたつき抑制し、連続生産性の良好な成形性が得られ、風味素材本来の風味及び食感を生かし、歯切れが良くて歯ごたえのある砕けやすい食感が付与された焼き菓子とし得ることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、小麦粉含有量に拘わらず、製造工程中の焼き菓子生地の水分が全体重量中20重量%以上の高水分焼き菓子生地であっても、生地特性を保持して所望の形態に成形でき、更には、生地のべたつきを抑制し、成形機への付着等を防止し、連続生産のための良好な成形性が得られる。従って、高水分値に設定された原料を使用することができる。
特に、小麦粉含有量が全体重量中30%未満といった低含有量もしくは未含有のような、焼き菓子生地に伸展性や粘弾性が欠如して、成形性劣化が深刻な問題となる場合であっても、焼き菓子生地に適度な成形性を付与することができる。
また、本発明によれば、粒子未崩壊アルファ化澱粉、サツマイモパウダーが焼き菓子の風味及び食感に影響を及ぼさないため、従来の焼き菓子では得られない風味素材感豊かな風味で、小麦粉由来のサクい食感とは異なる、歯切れが良くて歯ごたえのある砕けやすい新しい食感を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を詳しく説明する。
本発明の焼き菓子生地用成形剤は、粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方を含有する。
【0019】
上記粒子未崩壊アルファ化澱粉とは、澱粉粒の粒子が崩壊されていないアルファ化澱粉を意味する。
上記粒子未崩壊アルファ化澱粉は、例えば、加水し加熱糊化或いは化工処理した澱粉懸濁液を乾燥して製造される。乾燥方法として、スプレードライ製法やドラムドライ製法等が挙げられ、中でも、スプレードライ製法は、澱粉懸濁液をスプレー状態(所謂、霧状態)にして乾燥するもので、乾燥アルファ化澱粉を、すべて粒子崩壊のない澱粉粒子のまま回収できる点で好適である。また、澱粉粒の崩壊が起こりにくい高架橋処理等の化工処理方法によっても、粒子未崩壊アルファ化澱粉を高収率で回収できる点で好ましい。
【0020】
粒子未崩壊アルファ化澱粉であれば、由来原料は限定されることなく、例えば、ポテト、ワキシコーン、タピオカ等が挙げられる。製品例としては、未崩壊アルファ化澱粉のみで構成されるものとしては、松谷化学工業(株)製「パインソフトS」や「パインコード」等が、約50%の未崩壊アルファ化澱粉が占めるものとしては、松谷化学工業(株)製「パインソフトB」等が挙げられる。
【0021】
上記サツマイモパウダーは、サツマイモをパウダー化したものであり、水分含量はサツマイモパウダー全体重量中6重量%以下である。
上記サツマイモパウダーの粒度は、焼き菓子生地成形剤としての剤形に合わせて適宜設
定すればよい。
上記サツマイモパウダーは、例えば、生サツマイモを剥皮、切断等行い、蒸煮、焼成等の加熱処理後にドラムドライ製法等によって乾燥した乾燥物を粉砕して、粉体状あるいは顆粒状に製造される。製品例としては、太陽化学(株)製「粉末さつまいも−14」等が挙げられる。
【0022】
本発明における焼き菓子生地用成形剤は、上記粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方を有効成分として含有する。粒子未崩壊アルファ化澱粉、サツマイモパウダーは、単独もしくは組合せて用いてもよいが、成形性及び無味無臭のため焼き菓子の風味に影響を及ぼさない点で粒子未崩壊アルファ化澱粉を単独で用いることが好適である。なお、有効成分とは、目的とする機能が発揮される程度に上記粒子崩壊のないアルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方を含むことを意味する。
具体的な粒子未崩壊アルファ化澱粉、サツマイモパウダーの含有量は、単独で用いる場合には単独含有量が、両者を併用する場合にはその合計量が、焼き菓子生地用成形剤全体重量中、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは100%であることが、焼き菓子生地のべたつきや成形機への付着を防止して良好な成形性を十分に得ることができ、歯切れが良くて歯ごたえのある砕けやすい食感を付与できる点で望ましい。なお、粒子未崩壊アルファ化澱粉の中でも、約50%の未崩壊アルファ化澱粉からなる製品を用いる場合には、未崩壊のアルファ化澱粉の含有量が上記の範囲であるという意味である。
【0023】
本発明の焼き菓子生地用成形剤は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択した副原料を含有してもよい。副原料としては、例えば、粒子未崩壊アルファ化澱粉以外のアルファ化澱粉類や、一般的な澱粉類、化工澱粉類等が挙げられる。
【0024】
また、本発明の焼き菓子生地用成形剤の剤形は、粉末、顆粒等が挙げられ、適宜選択して設定すればよい。好ましくは、粉末剤形は、焼き菓子生地中の水分を効率的に吸収、保持する点で望ましい。
【0025】
本発明の焼き菓子生地用成形剤は、例えば次のようにして調製することができる。すなわち、粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方、及び必要に応じて副原料等を準備し、混合する。その後、適宜の剤形に成形することにより、本発明の焼き菓子生地用成形剤を得ることができる。
【0026】
次に、上記焼き菓子生地用成形剤を用いた焼き菓子について説明する。
本発明における焼き菓子とは、ショートネス性を有する焼き菓子及び干菓子類の焼き物から選ばれた少なくとも一つであって、水分が焼き菓子全体重量中0.5〜6重量%に設定されたものである。なお、水分含量は、ケット水分計で105℃30分の条件で測定したものである。
上記ショートネス性を有する焼き菓子とは、例えば、クッキー、ビスケット、クラッカー、プレッツェル、サブレ、タルト等が挙げられる。
また、干菓子類の焼き物とは、調整した生地を成形、焙焼して得られるものであり、例えば、落し焼き、ボーロ類、焼き松葉類、煎餅等が挙げられる。
【0027】
本発明の焼き菓子生地中の小麦粉含有量は、特に限定されるものではないが、小麦粉含有量が、焼き菓子生地全体重量中30重量%未満であることが、上記焼き菓子中の小麦粉グルテンが十分に成形性に作用せず、成形性が劣るという深刻な問題点を有効に解決し得る点で好ましい。特に、小麦粉が未含有である場合には、更に好ましい。
【0028】
上記焼き菓子には、焼き菓子生地用成形剤を、粒子未崩壊アルファ化澱粉、サツマイモ
パウダーの固形分換算で焼き菓子生地全体重量中、好ましくは3〜25重量%含有することが、焼き菓子生地のべたつきを抑制し、成形機への付着等を防止し、良好な成形性効果を十分に得ることができ、歯切れが良くて歯ごたえのある砕けやすい食感を付与し得る点で望ましい。特に、粒子未崩壊アルファ化澱粉単独の場合には、好ましくは3〜18重量%、更に好ましくは7〜12重量%含有することが、また、サツマイモパウダー単独の場合には、好ましくは8〜25重量%、更に好ましくは12〜20重量%含有することが望ましい。
なお、焼き菓子全体重量中の含有量に換算すると、粒子未崩壊アルファ化澱粉、サツマイモパウダーの固形分換算で焼き菓子全体重量中、好ましくは3.7〜31.7重量%であり、粒子未崩壊アルファ化澱粉単独の場合には、好ましくは3.7〜24.7重量%、更に好ましくは7.7〜18.7重量%であり、また、サツマイモパウダー単独の場合には、好ましくは10.1〜31.7重量%、更に好ましくは14.1〜26.7重量%であることが望ましい。
【0029】
本発明の焼き菓子には、更に固体脂を用いることが、食感、風味及び生地の軟化を防止して成形性を良好とする点で好適である。
上記固体脂とは、常温(25℃)で完全な液体ではない油脂を意味するが、常温では液状の液体油でも、硬化(水素添加)して固体状にした加工油脂や、固体脂と液体脂の混合油脂で半固体状のものは本発明に係る固体脂に包含される。固体脂としては、ココアバター,パーム油,やし油、マーガリン等の植物性油脂や、牛脂,ラード(豚脂),乳脂,バター等の動物性油脂、ショートニング等の動植物混合油脂等が挙げられる。好ましくは植物性固体脂が、風味素材原料の風味を損なわない点で望ましい。例えば、不二製油(株)製「パーキットY」等が挙げられる。
【0030】
上記固体脂の含有量は、焼き菓子生地全体重量中、好ましくは5〜25重量%、更に好ましくは10〜20重量%であることが、食感、風味及び成形性の点で望ましい。
【0031】
本発明の焼き菓子には、更に風味素材を含有することが、風味の点で好適である。特に、本発明においては、小麦粉含有量に拘わらず、焼き菓子生地全体の水分含量が20重量%以上の高めに設定された場合でも、良好な成形性を得ることができるので、水分を含有する風味素材を好適に用いることができる。更に、30重量%以下の小麦粉低含有量の時には、風味素材の風味及び食感の点で好ましい。
風味素材とは、各種風味素材原料を、焼成、蒸す、茹でる等の加熱処理を行い、適宜成形処理したものである。上記風味素材原料としては、栗、蓮の実等の種実類や、サツマイモ、かぼちゃ、里芋等の野菜類、えだまめ、小豆、大豆等の豆類等が挙げられる。特に栗、サツマイモ、小豆等は、素材自身のもつタンパク質や澱粉による結着性が得られ、そこから成形性が得られる点で好ましい。
風味素材の剤形としては、粉砕状、ペースト状、ミンチ状等が挙げられる。この中でも、ペースト状、ミンチ状は、素材本来の風味及び食感を付与し得る点で好適である。特に、一般的な食肉ミンチ製造機等にて、直径1〜7mmφの空隙に押出して製造された、ミンチ状素材に加工したものが、素材感豊かな食感の点で好適である。なお、ミンチ状とは、ペーストと粒が混在した状態を指す。
【0032】
上記風味素材の水分含量は、風味素材全体重量中、45〜60重量%が好ましく、更に好ましくは50〜55重量%であることが、風味及び成形機への非付着性等の成形性の点で好適である。特に、水分含量が15重量%以下の乾燥原料の場合、該原料を製造するのに2回以上必要となる加熱加工処理による品質劣化の点で、風味素材本来の風味及び食感が劣る傾向にある。
【0033】
また、風味素材の含有量は、焼き菓子生地全体重量中、好ましくは30〜65重量%、
更に好ましくは45〜55重量%であることが、風味素材原料由来の風味及び素材感豊かな食感が得られ、更には成形機への非付着性等の成形性の点で好適である。
【0034】
本発明の焼き菓子には、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択した副原料を含有してもよい。副原料としては、例えば、糖類、卵、乳製品、膨張剤、香料、着色料、乳化剤、安定剤、塩類、品質改良剤、調味料、酸味料、各種微量栄養成分、粉末茶類、乾燥果実等が挙げられる。
【0035】
上記焼き菓子生地用成形剤、固体脂、風味素材を用いて、本発明の焼き菓子は、例えば、以下のようにして製造される。
まず、焼き菓子生地用成形剤、固体脂、風味素材を準備する。そして、上記固体脂は、40℃以上に加熱して融解する。
次に、上記焼き菓子生地用成形剤、固体脂の融解物、風味素材及び必要に応じて副原料を、縦型混合ミキサーやニーダー等に投入して混練し、焼き菓子生地を調製する。ここで、焼き菓子生地の品温を10〜15℃に調整することが、含水量の多い風味素材等の品質安定化(腐敗防止)の点で好ましい。また、焼き菓子生地の水分含量は、特に限定するものではないが、一般的に成形性が劣ると考えられる焼き菓子生地全体重量中20重量%以上の高水分であっても、本発明の効果を有効に奏し得る点で好適に用いられる。
【0036】
次に、上記焼き菓子生地を成形する。成形方法は特に限定するものでなく、例えば、ロータリーモールド成形、デポジット成形、シート成形、押し出し成形、搾り出し成形等が挙げられ、生地の物性や目的とする焼き菓子の品質に合わせ適宜設定すればよい。
【0037】
次に、成形焼き菓子生地を焼成し、水分を焼き菓子全体重量中0.5〜6重量%に調整することにより焼き菓子を得る。焼成装置としては、例えば、オーブン、マイクロ波加熱装置、ホイロ、二軸エクストルーダー等従来用いられているものを適宜選択して用いればよい。
また、焼成条件は、焼成方法や焼き菓子生地の大きさ等により適宜設定すればよいが、例えば、5.0g/個の成形焼き菓子生地をオーブンで焼成する場合には、170℃で15分程度焼成すればよい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例及び比較例を用いて説明する。
【0039】
<実施例1〜18、比較例1〜6>
まず、表1〜3に記載の各原料を計量し準備した。そして、固体脂を50℃の湯煎にて融解した。
次に、上記各原料すべてをニーダーに投入後、混練してクッキー生地を調製した。この際、クッキー生地の品温は12℃であり、水分含量は各表に記載の通りである。香料は、各風味素材と同じ香料を用いた。
その後、上記生地を、モールド型が縦50×横25×4〜5mmのロータリーモールドにより成形し、160℃20分間トンネルオーブンで焼成し、各表に記載の水分(4.5%)に調整することによりクッキーを得た。但し、比較例1〜4は、モールド成形に適さない生地であったため、手でモールド型と同じ大きさに形作り、上記条件で焼成し、クッキーを得た。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
以上のようにして得られたクッキーの製造工程中の成形性について、特にクッキー生地
のべたつき及びモールド成形機の離型性を目視にて確認し、更に焼成後のクッキーの風味及び食感について専門パネラー20名で試食評価した。
その結果を合わせて表1〜3に示す。
【0044】
<実施例1〜9、比較例1〜3の評価>
評価の結果、実施例1〜9すべてのクッキーに対する評価は、総合的に良好であった。特に、実施例1、5、8及び9は、クッキー生地のべたつきが全く無く、モールド成形機からの離型性が良好で、クッキーの風味及び食感は、風味素材である栗の風味が十分感じられ、ざくざくとした歯ごたえのよい食感が得られた。
これに対し、比較例1〜3は、手で成形する前にモールド成形機で成形した時には、すべて生地がモールド型から離れない程べたつきがひどく、成形性の劣るものであった。
以上の結果より、アルファ化澱粉の中でも粒子未崩壊澱粉を用いた場合もしくはサツマイモパウダーを用いた場合、また言うまでもなく上記両者を併用した場合に限り、本発明の効果を奏することが理解できる。また、特に、粒子未崩壊アルファ化澱粉もしくはサツマイモパウダーを単独で用いる場合には、粒子未崩壊アルファ化澱粉を用いる方が、少量で効率的に効果を得ることができることが理解できる。
【0045】
<実施例10〜13、比較例4〜6の評価>
評価の結果、実施例10〜13すべてのクッキーに対する評価は、概ね良好であった。小麦粉量が多くなるに従い、小麦粉由来のサクサクした食感が感じられるようになったが、栗の素材感は感じられるものであった。
これに対し、比較例4においては、手で成形する前にモールド成形機で成形した時には、べたついてモールド型からの型離れが非常に悪く、成形性に劣るものであった。比較例5、6はモールド成形機で成形することはできたが、べたつきが生じた。更に、比較例5、6においては、素材本来である栗の風味が殆ど感じられず、食感もざくざくとした歯ごたえを感じられない物足りないものであった。
以上の結果より、小麦粉の含有量に拘わらず、20重量%以上の高水分クッキー生地の成形性にも粒子未崩壊アルファ化澱粉は効果的に作用することが理解でき、特に、小麦粉の含有量が29重量%であるクッキーは、未崩壊アルファ化澱粉が含有されている場合とされていない場合では、小麦粉含有量が35重量%であるクッキーのそれよりも、評価に対する改善度合いが高く、顕著に本発明の効果を奏していることが理解できる。
【0046】
<実施例14〜18の評価>
評価の結果、実施例14〜18全てのクッキーに対する評価は、概ね良好であった。特に、実施例18は、クッキー生地のべたつきが全く無く、モールド型からの型離れが良好で、サツマイモの風味が損なわれず、サツマイモ感を感じる食感であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方を含有することを特徴とする焼き菓子生地用成形剤。
【請求項2】
粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方が、粒子未崩壊アルファ化澱粉である請求項1記載の焼き菓子生地用成形剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の焼き菓子生地用成形剤を含有し、水分含量が焼き菓子全体重量中0.5〜6重量%である焼き菓子。
【請求項4】
更に、固体脂を含有する請求項3記載の焼き菓子。
【請求項5】
更に、風味素材を含有する請求項3又は4記載の焼き菓子。
【請求項6】
下記工程を順次備えることを特徴とする焼き菓子の製造方法。
(1)粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方と、その他の焼き菓子構成成分とを混練することにより、焼き菓子生地を調製する工程
(2)上記焼き菓子生地を成形する工程
(3)上記成形焼き菓子生地を焼成して、水分含量を焼き菓子全体重量中0.5〜6重量%に調整した焼き菓子を得る工程
【請求項7】
粒子未崩壊アルファ化澱粉及びサツマイモパウダーのうちの少なくとも一方を焼き菓子生地に添加することを特徴とする焼き菓子生地の成形改善方法。

【公開番号】特開2008−73018(P2008−73018A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258970(P2006−258970)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(393029974)クラシエフーズ株式会社 (64)
【Fターム(参考)】