説明

焼き込み用フィリング材

【課題】製菓・製パン等に使用され、パン等の外生地にて包餡後、あるいは生地にトッピング後、焼成、フライ等の加熱時に突沸せず安定で、しかも包餡した際には外生地との間に空洞が発生せず、あるいは、トッピングした場合には吹きこぼれがなく一体化する、ソフトでなめらかな食感を与えるフィリング材の提供。
【解決手段】少なくとも一部が液晶状態の乳化剤を添加することを特徴とするフィリング材を用いて製菓・製パンする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製菓・製パン等に使用され、パン等の外生地にて包餡後、あるいは生地にトッピング後、焼成、フライ等の加熱時に突沸せず安定で、しかも包あんした際には外生地との間に空洞が発生せず、また、トッピングした場合には吹きこぼれがなく一体化する、ソフトでなめらかな食感を与えるフィリング材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製菓・製パン等における焼込用途のフィリング材としては、調理済みフィリング類、焼き込み調理フィリング類、ジャム類、カスタードクリーム、フラワーペースト類、あん類等が広く知られている。しかしながら、このようなフィリング材を生地で包餡した場合、焼成、フライ等の加熱後の外生地(パン等)とフィリング材との間に、フィリング材中の急激な水分蒸発、即ち突沸による空洞の発生が避けられず、見た目のボリューム感も失せて商品価値が低下する。さらに、フィリング材自体が硬くなったり、ざらついた粉っぽい食感に変化するため、空洞現象とともに、商品価値を大きく低下させている。また、生地にトッピングした場合においてもフィリング材と同様、トッピング材が突沸することにより生地上から吹きこぼれたり、気泡が多数発生したりするため、見た目も悪く、商品価値を大きく低下させるだけでなく、焼成時のオーブン、鉄板を汚したりして生産性も損なう恐れもある。特にこのような突沸現象は、糖類の含有量が少ないフィリング類で顕著であった。この原因としては、糖類が多量に配合できないためにフィリング類の保水性が低く、焼成等の加熱時に水分を離してしまい突沸が起こりやすくなっているものと考えられる。例えば、ポテトやツナをボディとするようなフィリング、サルサ味、ピザ風味に代表されるチリソースをベースとするフィリング、グラタンベースのフィリングなどのいわゆる調理済みフィリング類、或いは焼き込み調理パン、焼き込み調理ドーナツに用いられる焼き込み調理フィリング類では突沸が顕著であり、生地にて包餡して焼成、フライ等の加熱後に大きな空洞が発生したり、生地上にトッピングして焼成中に吹きこぼれたりして生産性、商品価値を大きく低下させていた。このような問題を解決するため、蛋白質0.1〜15重量%、澱粉0.1〜15重量%、乳化剤0.02〜1重量%を必須成分として配合する事で、加熱・焼成時に突沸しないことが開示されているが(特許文献1)この方法では出来上がったパンの空洞や吹き零れ防止効果が不十分のうえ、乳化剤特有の風味がでてしまい、出来上がった製品は満足のいく品質の物が得られない。また、小麦粉、油脂及び水を必須成分とする積層生地からなるパン用生地配合材で、形状が薄片状であることを特徴としており、フラワーペーストやジャムを生地で巻き込んで焼成すると空洞ができてしまうのを抑制することが開示されているが(特許文献2)、これはパン生地側に工夫がなされており、フィリング材に対するアプローチではない。
【特許文献1】特開2002−330702号公報
【特許文献2】特開平6−149755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
焼込用途のフィリング材において、とりわけ、肉類、魚介類、野菜類、果物類等の具材を含んだ調理済みフィリング類、焼き込み調理フィリング類においては焼成・加熱時の突沸を防止し、空洞発生や吹きこぼれがなく、しかもソフトで滑らかな食感を満足させる製品は、未だ得られていないのが現状である。本発明は、かかる実情に鑑み、上記問題を解消したフィリング材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、風味の観点から通常使用されない乳化剤に着眼し、鋭意検討した結果、食品中の澱粉に作用しやすい液晶状態の乳化剤として、とりわけグリセリン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルをそれぞれ特定量配合することにより、フィリング材の本来の風味を損なうことなく保水性・乳化安定性を向上することができ、そのことが焼成・加熱時におけるフィリング材からの急激な水分蒸発、即ち突沸を抑制することにつながって空洞化や吹きこぼれ防止ができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明の第1は、少なくとも一部が液晶状態の乳化剤を添加することを特徴とするフィリング材に関する。好ましい実施態様は、乳化剤の添加量が、フィリング材全体中0.001重量%〜0.5重量%である事を特徴とする上記記載のフィリング材に関する。好ましい実施形態は、ルーを含むことを特徴とする上記記載のフィリング材に関する。より好ましくは、ルーの添加量が、フィリング材全体中2.0重量%〜15.0重量%である事を特徴とする上記記載のフィリング材、に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のフィリング材を用いれば、包餡した食品において焼成・加熱時に突沸することを防止でき、空洞発生や吹きこぼれがなく、しかもソフトでなめらかな食感を満足させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明のフィリング材とは、パン類等の生地に、挟んだり、内包したり、凹部に入れたり、載せたり、或いは塗布するものを言い、所謂トッピング材も包含する。そして、パン類等の生地と共に加熱・焼成するものである。
【0008】
本発明の、少なくとも一部が液晶状態の乳化剤とは、水溶液中にニート状もしくはゲル状に分散し、ヘキサゴナル構造、キュービック構造、ラメラ構造または逆ヘキサゴナル構造の何れかの構造を有することをいい、フィリング材原料に乳化剤を添加する際、その乳化剤が前記構造を一部有していればよい。
【0009】
本発明における乳化剤の種類としては、グリセリン脂肪酸モノエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステルが挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。中でも、グリセリン脂肪酸モノエステル及び/又はショ糖脂肪酸エステルを用いることが好ましい。前記の少なくとも一部が液晶状態の乳化剤の添加量は、フィリング材全体中、0.001〜0.5重量%が好ましい。より好ましくは、フィリング材全体中、0.01〜0.2重量%である。乳化剤の添加量が0.001重量%より少ないと、空洞や吹きこぼれを抑える効果が弱くなる場合がある。逆に0.5重量%より多いと、得られたフィリング材に、乳化剤の好ましくない風味が感じられる場合がある。
【0010】
本発明のフィリング材には、ルーを含有することが好ましく、フィリング材中のルーの添加量は、フィリング材全体中、2.0〜15.0重量%が好ましい。より好ましくは、フィリング材全体中、3.0〜10.0重量%である。ルーの添加量が2.0重量%より少ないと、空洞や吹きこぼれを抑える効果が弱くなる場合がある。逆に15.0重量%より多いと、得られたフィリングの食感が、糊っぽくなり口溶けが悪く、ジューシー感が損なわれる場合がある。
【0011】
本発明は、前記したように、フィリング材を生地で包餡した場合、焼成、フライ等の加熱後の外生地(パン等)とフィリング材との間に、フィリング材中の急激な水分蒸発、即ち突沸による空洞の発生が避けられず、見た目のボリューム感も失せて商品価値が低下する課題を解決したものであるが、このような突沸現象は、糖類の含有量が少ないフィリング類で顕著であり、フィリング材全体中の糖類の含有量は、0.1重量%〜5.0重量%であれば効果が顕著である。ここで糖類としては、水飴、砂糖、ぶどう糖、液糖、乳糖、ソルビット等が例示できる。
【0012】
本発明の調理パン(包餡タイプ:惣菜ドーナツ)の製造例を以下に例示する。ただし、これに限定されるものではない。まず、所定の温度で所定量の水飴と水を混合させた後、攪拌しながら所定量の乳化剤を徐々に添加して分散させる。そして、必要に応じてさらに昇温させてから、別の乳化剤を添加し、さらに攪拌しながら所定の温度まで昇温させた後攪拌を終了し、その後所定の温度で所定の時間冷蔵して、少なくとも一部が液晶状態の乳化剤を得る。そして、所定量の前記乳化剤を、他の材料と共に混合撹拌し、一般的な製造方法でフィリング材を得る。
【0013】
本発明の調理パン(包餡タイプ:惣菜ドーナツ)は、量販店やコンビニエンスストアやパン屋等で販売される。
【実施例】
【0014】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0015】
<トッピングしたグラタンフィリング材の食感評価>
実施例5〜6、比較例3で得た焼き込み調理パンをポリエチレン製袋に密封して20℃にて1日放置した後、8人のパネラーによる官能検査にてフィリング材の食感を評価した。その際の評価基準は以下の通りである。◎:ソフトでなめらかな食感、○:ややソフトでなめらかな食感、△:ややぼそついた食感、×:ぼそぼそした食感で、なめらかさが無い。
【0016】
<トッピングしたグラタンフィリング材の外観評価>
実施例5〜6、比較例3で得た焼き込み調理パンをポリエチレン製袋に密封して20℃にて1日放置した後、8人のパネラーにより外観を目視で評価した。その際の評価基準は以下の通りである。◎:生地とフィリング材がぴったりとくっついており、吹き零れが認められない、○:吹き零れが殆ど認められない、△:吹き零れが認められるが、さほど多いとは感じない、×:非常に大きな吹き零れが認められ、商品性がかなり低い。
【0017】
<包餡したカレーピロシキ風フィリング材の食感評価>
実施例7〜8、比較例4で得た焼き込み調理パンをポリエチレン製袋に密封して20℃にて1日放置した後、8人のパネラーによる官能検査にてフィリング材の食感を評価した。その際の評価基準は以下の通りである。◎:ソフトでなめらかな食感○:ややソフトでなめらかな食感△:ややぼそついた食感×:ぼそぼそした食感で、なめらかさが無い。
【0018】
<包餡したカレーピロシキ風フィリング材の包餡状態評価>
実施例7〜8、比較例4で得た焼き込み調理パンをポリエチレン製袋に密封して20℃にて1日放置した後、8人のパネラーによりフィリング材とパン生地の間の空洞の出来具合を目視で評価した。その際の評価基準は以下の通りである。◎:生地とフィリング材がぴったりとくっついており、空隙が認められない、○:空隙が殆ど認められない、△:空隙が認められるが、さほど大きいとは感じない、×:非常に大きな空隙が認められ、商品性がかなり低い。
【0019】
(製造例1) 少なくとも一部が液晶状態の乳化剤の作製
表1に示した配合に従って、40℃以下で所定量の水飴(商品名:「MS500」、昭和産業(株)製)と水を混合させた後、所定量のショ糖脂肪酸エステル(商品名:「リョートーシュガーエステルS−1170」、三菱化学フーズ(株)製)を攪拌しながら徐々に添加して分散させた。攪拌しながら60℃まで昇温させたのち、所定量のグリセリン脂肪酸エステル(商品名:「エマルジーMS」、理研ビタミン(株)製)を添加し、さらに攪拌しながら70℃まで昇温させた後攪拌を終了し、その後10℃で30分間冷蔵して、本発明の少なくとも一部が液晶状態の乳化剤を得た。
【0020】
【表1】

【0021】
(製造例2) 少なくとも一部が液晶状態の乳化剤の作製
表1に示した配合に従って、原材料の分量だけを変更した以外は、製造例1と同様に少なくとも一部が液晶状態の乳化剤を作製した。
【0022】
(実施例1) 焼き込みパン用グラタンフィリング材
表2に示す配合に従って、製造例1で得た乳化剤を含む原材料を順に混合し、耐熱性の1kg袋に充填した後ボイル加熱殺菌(85℃、60分間)を行い、グラタンフィリング材を得た。
【0023】
【表2】

【0024】
(実施例2) 焼き込みパン用グラタンフィリング材
製造例2で得た乳化剤を用いた以外は、実施例1と同様にしてグラタンフィリング材を得た。
【0025】
(比較例1) 焼き込みパン用グラタンフィリング材
乳化剤としてグリセリン脂肪酸モノエステル(商品名:「エマルジーMS」理研ビタミン(株)製)、ショ糖脂肪酸エステル(商品名:「リョートーシュガーエステルS−1170」三菱化学フーズ(株)製を用い、さらに水飴と水を加えた以外は、実施例1と同様にしてグラタンフィリング材を得た。
【0026】
(実施例3) 焼き込みパン用カレーピロシキ風フィリング材
表3に示した配合に従って、製造例1で得た乳化剤を含む原材料を順に混合し、耐熱性の1kg袋に充填した後ボイル加熱殺菌(85℃、60分間)を行い、カレーピロシキ風フィリング材を得た。
【0027】
【表3】

【0028】
(実施例4) 焼き込みパン用カレーピロシキ風フィリング材
製造例2で得た乳化剤を用いた以外は実施例3と同様にしてカレーピロシキ風フィリング材を得た。
【0029】
(比較例2) 焼き込みパン用カレーピロシキ風フィリング材
乳化剤としてグリセリン脂肪酸モノエステル(商品名:「エマルジーMS」理研ビタミン(株)製)、ショ糖脂肪酸エステル(商品名:「リョートーシュガーエステルS−1170」三菱化学フーズ(株)製を用い、さらに水飴と水を加えた以外は、実施例3と同様にしてカレーピロシキ風フィリング材を得た。
【0030】
(実施例5〜6、比較例3) 焼き込み調理パン(グラタンフィリング材トッピング)
表4に示す生地配合に従い、常法に従って70%中種法でパン生地を作製し、得られたパン生地50g当たり、実施例1〜2、及び、比較例1で得られた焼き込み用フィリング材を30gの割合でトッピングした後、ホイロに入れて40℃で50分間発酵させた後、オーブンにより220℃にて12分間焼成し、グラタンフィリング材をトッピングした調理パンを得た。得られた調理パンの評価結果は表5に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
(実施例7〜8、比較例4) 焼き込み調理パン(カレーピロシキ風フィリング材包餡)
実施例5〜6及び比較例3で使用したパン生地50g当たり、実施例3〜4、及び、比較例2で得られた焼き込み用フィリング30gの割合で、包餡機(商品名:CN−200型、レオン自動機(株)製)を使用して包餡成型した後、ホイロに入れて40℃で50分間発酵させた後、オーブンにより220℃にて12分間焼成し、調理パンを得た。得られた調理パンをポリエチレン製袋に密封して20℃にて1日放置した後包丁にて半分に切断し、生地とフィリング材との空隙の大きさ及び外観、フィリング材の食感を評価した。その評価結果は表6に示す。
【0034】
【表6】

【0035】
表5の結果から明らかなように、少なくとも一部が液晶状態の乳化剤(実施例1〜2)を添加したフィリングを用いた実施例5、6の焼き込み調理パン用フィリングと、少なくとも一部が液晶状態の乳化剤を添加しないフィリング(比較例3)を用いた焼き込み調理パン用フィリング材を比較すると、実施例5、6は明らかに食感が優れており、得られたパンの吹き零れ度合いも少ない。これに対し、液晶状態ではない乳化剤を添加した比較例3の焼き込み調理パン用フィリングは明らかに食感が劣っており、液晶状態の乳化剤量が最も多い実施例5、6の焼き込み調理フィリングが、明らかに食感が優れていた。
【0036】
表6の結果から明らかなように、少なくとも一部が液晶状態の乳化剤(実施例1〜2)を添加したフィリングを用いた実施例7〜8の焼き込み調理パン用フィリングと、少なくとも一部が液晶状態の乳化剤を添加しないフィリング(比較例4)を用いた焼き込み調理パン用フィリング材を比較すると、実施例7〜8は明らかに食感が優れており、得られたパンの空洞度合いも少ない。これに対し、液晶状態ではない乳化剤を添加した比較例4の焼き込み調理パン用フィリングは明らかに食感が劣っており、液晶状態の乳化剤量が最も多い実施例7、8の焼き込み調理フィリングが、明らかに食感が優れていた

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が液晶状態の乳化剤を添加することを特徴とするフィリング材。
【請求項2】
乳化剤の添加量が、フィリング材全体中0.001重量%〜0.5重量%であることを特徴とする請求項1記載のフィリング材。
【請求項3】
ルーを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のフィリング材。
【請求項4】
ルーの添加量が、フィリング材全体中2.0重量%〜15.0重量%であることを特徴とする請求項3記載のフィリング材。

【公開番号】特開2006−271289(P2006−271289A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97046(P2005−97046)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】