説明

焼入れ装置及び焼入れ方法

本発明は、焼入れ装置であって、焼入れガスを循環させるためのファン車9を有する、焼入れガスを充填可能な室2、特に焼入れ室及び/又は流路が設けられており、ファン車9に、該ファン車を駆動するために室2の外側に配置された駆動モータ15が配属されている形式のものに関する。このような形式の焼入れ装置において、本発明の構成では、駆動モータ15は、無接触式に働くクラッチを介してトルクを伝達するようにファン車9と連結されている。本発明はさらに、焼入れ方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載された形式の、被焼入れ部材、特に金属製のワークを焼入れする焼入れ装置、すなわち焼入れ装置であって、焼入れガスを循環させるためのファン車を有する、焼入れガスを充填可能な室、特に焼入れ室及び/又は流路が設けられており、ファン車に、該ファン車を駆動するために室の外側に配置された駆動モータが配属されている形式のものに関する。本発明はまた、請求項9の上位概念部に記載された形式の焼入れ方法であって、すなわち被焼入れ部材、特に金属製のワークを、焼入れガスを用いて焼入れする焼入れ方法であって、焼入れガスを、駆動モータによって駆動されるファン車を用いて循環させる形式の焼入れ方法に関する。
【0002】
例えば高い硬度又は十分な耐摩耗性のような、規定された材料特性を生ぜしめるために、金属製のワークは熱処理を施される。この処理効果のために重要なことは、特に、ワークを先行する加熱の後で冷却する速度である。そのために必要な焼入れプロセスもしくは急速冷却プロセスのためには、水、オイル又は焼入れガスを使用することが公知である。焼入れ液の代わりに焼入れガスを使用することの主たる利点は、被焼入れ部材を焼入れ後にクリーニングする必要がなく、しかもロットにおいて高い焼入れ均一性を得ることができることにある。
【0003】
上に述べた焼入れプロセスのために使用される焼入れ装置は、例えばEP1154024B1に記載されている。この公知の装置は、焼入れガスによって満たされる室を有しており、この室は、被焼入れ部材を収容するための焼入れ室と、焼入れガス循環路を形成するための流路とによって形成されている。焼入れ室は、焼入れガスを満たされている状態においてではなく、通常、真空下において被焼入れ部材の装入及び排出を行う。公知の焼入れ装置では、流路の内部において焼入れガス流を形成するために、ファン車が設けられており、このファン車は、焼入れガスによって満たされる室の外側に配置された電動機を用いて駆動される。この駆動モータのモータ軸は流路の外壁を貫通するので、焼入れガスを満たされる室を気密にシールするためには、構造上かなりのコストを必要とする。
【0004】
別の公知の焼入れ装置では、駆動モータはファン車と一緒に、非気密性を回避するために、焼入れガスを満たされる室の内部に配置されている。この公知の構成には、駆動モータが真空内では始動不能であるという問題がある。それというのは、さもないと駆動モータの巻線において、駆動モータを損傷するおそれのある電気的なフラッシュオーバー(電弧)が発生してしまうからである。このことは、焼入れ率を高めるために必要な高出力のファンが、公称回転数を得るために本来の焼入れ時間に比べて長い始動時間を必要とする場合に、問題である。駆動モータの始動は、真空雰囲気下における焼入れ室への被焼入れ部材の装入中において既に開始されるのではなく、焼入れ室が焼入れガスによって満たされた後で初めて行われるので、この全始動時間が本来の焼入れ時間に加算されることになり、これは、サイクル時間もしくは作業工程時間に対して不都合である。全体として、上記のような欠点によって、液体を用いた焼入れとの比較において、被焼入れ部材の焼入れは長い時間を要することになる。それというのは、液体を用いた焼入れの場合には、焼入れされる部材を液浴に浸漬した直後に最大の焼入れ強度が得られるからである。焼入れガスを満たされる室の内部に駆動モータが配置されている公知の焼入れ装置において減じられる焼入れ速度は、サイクル時間に対して影響するのみならず、延長された焼入れ時間に基づいて、ワーク組織の品質に対して、ひいては部材特性に対しても影響を与える。
【0005】
発明の開示
本発明の課題は、一方ではシール性に関する問題を回避することができ、かつ他方では、ファンのための高出力の駆動モータの始動を、焼入れガスによる室への充填前に、特に真空状態における室において可能にする、焼入れ装置を提供することである。本発明の別の課題は、ファン駆動モータの運転を、ファン車を有する室内における雰囲気とは無関係に可能にする、方法を提供することである。
【0006】
焼入れ装置に対する前記課題は、請求項1の特徴部記載の構成によって解決された。すなわちこの課題を解決するために本発明による焼入れ装置では、冒頭に述べた形式の焼入れ装置において、駆動モータは、無接触式に働くクラッチを介してトルクを伝達するようにファン車と連結されている。
【0007】
また前記方法に関する課題は、請求項9の特徴部記載の方法によって解決された。すなわちこの課題を解決するために本発明による方法では、冒頭に述べた形式の焼入れ方法において、ファン車を駆動モータによって無接触式に駆動するようにした。
【0008】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項に記載されており、本発明の枠内においては、明細書、請求項及び/又は図面に開示された特徴のうちの少なくとも2つから成る、すべての組合せが可能である。
【0009】
本発明は、有利にはスタンダード電動機として形成された、少なくとも1つのファン車用の駆動モータの運転を、ファン車を収容する室内における圧力状態及び雰囲気とは無関係に実施できるのは、この室の外側に駆動モータが配置されている場合だけである、という認識に基づいている。従来技術では駆動モータのモータ軸が室壁を貫通しているので、従来技術には必然的にシール性の問題がある。この問題を回避するために本発明では、従来技術におけるように駆動モータをファン車と機械式に連結するのではなく、無接触式に連結している。言い換えれば駆動モータ及びファン車には、クラッチが配属されていて、このクラッチは、該クラッチによって無接触式に駆動モータからファン車にトルクを伝達できるように、構成されている。この構成によって、駆動系もしくは動力伝達系の機械式の構成部材が室壁を貫通する必要がなくなり、ひいてはシール性に関する問題がなくなる。焼入れガスを満たすことができ、有利には真空にすることができる室の外部に、駆動モータを配置することに基づいて、さらに、高出力の駆動モータを、焼入れガスによって室が満たされる前に既に始動させることができ、有利には、駆動モータが本来の焼入れプロセスの開始時に、つまり通常、室が焼入れガスによって完全に満たされている時に、既にその公称回転数になるように、早期に始動させることができる。上記コンセプトに基づいて形成された焼入れ装置の別の利点としては、特別にシールされたモータを使用する必要がなく、比較的安価なスタンダード電動機を使用できる、ということがある。本発明による焼入れ装置の特に有利な実施形態では、駆動トルクを駆動モータからファン車に伝達可能なクラッチは、室の壁を通してトルク伝達が可能なマグネットクラッチとして形成されている。
【0010】
特に有利な実施形態では、マグネットクラッチは、駆動モータ有利には駆動モータのモータ軸と機械式に結合された第1のロータと、該第1のロータによって無接触式に駆動可能でファン車と機械式に結合された第2のロータとを有しており、この場合第2のロータはファン車と一緒に、焼入れガスを充填可能な室内に配置されている。
【0011】
第1の択一的な構成では、駆動モータと機械式に結合されたロータは、インナロータであり、このインナロータは、無接触式に駆動される第2のロータによって半径方向外側において取り囲まれていて、回転運動する磁界によって回転運動させられる。
【0012】
しかしながらまた逆のバリエーションも可能である。この場合には第2のロータ、つまり無接触式に駆動されるロータがインナロータであり、このインナロータが、第1のロータ(アウタロータ)によって半径方向外側において取り囲まれている。このような実施形態の方が、第1の構成に比べて有利である。
【0013】
本発明の別の有利な実施形態では、ファン車は焼入れ室内に、つまり被焼入れ部材が直に供給される室内に、配置されている。択一的な実施形態では、ファン車は、流れ技術的に焼入れ室に接続されている流路内に配置されている。流路を設けることは、自由選択可能なことであり、つまり焼入れ装置を、流路なしの焼入れ室として構成する実施形態も可能であり、つまり焼入れガスがもっぱら焼入れ室内においてファン車を用いて循環されるようになっている実施形態も可能である。
【0014】
焼入れ装置の特に有利な実施形態では、ファン車を有する室を焼入れガスによって満たす手段が設けられている。特に有利には、この手段は、室に開口するガス供給管路を有しており、このガス供給管路は、焼入れガスによって満たされた圧力タンクから延びている。
【0015】
さらに、焼入れ装置を排気するための手段が設けられていると有利である。この排気手段は有利には、焼入れ室に負圧を供給できるように、つまり室内において真空を生ぜしめることができるように、形成されている。
【0016】
また特に有利な構成では、ファン車を有する室内に熱交換器が配置されており、この熱交換器は、ファン車を用いて循環される焼入れガスによって擦過されて、焼入れガスから所望のように熱を奪う。
【0017】
既に述べたように本発明はまた、焼入れ装置を使用して、焼入れガスを用いて、被焼入れ部材、特に金属製のワークを焼入れする焼入れ方法に関する。本発明による方法では、被焼入れ部材と焼入れガスとの間における良好な熱伝達を実現するために、ファン車を用いて焼入れガスが加速される。そして本発明による方法の特徴は、ファン車を駆動モータによって無接触式に、特にマグネットクラッチを使用して、駆動することにある。これにより、トルクを、壁を貫いて伝達すること、ひいては駆動モータを、ファン車を有する室の外に配置することが可能になる。
【0018】
本発明の方法において、室がなお焼入れガスによって満たされていない間に、駆動モータを始動及び/又は運転すると、特に有利である。このような方法は、駆動モータが、焼入れガスによって満たされる室内に配置されていない場合には、シールされていないスタンダード駆動モータを用いて可能である。
【0019】
次に図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】焼入れ装置の1実施形態を概略的に示す図である。
【0021】
図1には、焼入れ装置の1実施形態が示されているが、この焼入れ装置1は、図示の実施例ではただ1つの室2を有しており、この室2には焼入れガスを注入することができる。EP1154024B1に開示されているような、焼入れガスを注入することができる、流路の形をした室が存在しているのではないが、しかしながら必要な場合にはこのような室を設けることは可能である。
【0022】
室2は、耐圧シール作用をもって閉鎖可能な供給ドア3を有しており、この供給ドア3を通して室2(ここでは焼入れ室)に被焼入れ部材4を供給することができる。図示の実施形態では鋼製部材から成っている被焼入れ部材4は、そのために供給フレーム5の上に配置されており、この供給フレーム5は適宜な搬送装置を用いて真空雰囲気下で室2内に搬入され、次いで焼入れ工程の後で再び室2から搬出可能である。
【0023】
通常のように供給ドア3の前には、被焼入れ部材4の先行する熱処理のために、炉(図示せず)が設けられている。
【0024】
室2内には焼入れガス供給管路6が開口しており、この焼入れガス供給管路6を介して、圧力ガス容器7から焼入れガスを室2内に導入することができる。室2を焼入れガスによって満たすために、単に弁8を、有利には自動的に開放するだけでよい。
【0025】
室2における圧力が、焼入れガスを満たされた後で約20バールまでの値であると、有利である。
【0026】
室2の内部には、ファン車(送風車)9が回転可能に支承されて配置されており、このファン車9は軸10の一方の端部に配置されていて、この軸10は反対側の端部に、マグネットクラッチ12の第2のロータ11(ここではインナロータ)を有している。軸10は第2のロータ11を備えた側で、室2の突出部(Ausstuelpung)13内に進入していて、この突出部13は、半径方向外側において、マグネットクラッチ12の第1のロータ14(ここではアウタロータ)によって取り囲まれている。第1のロータ14は第2のロータ11に対して(半径方向で)間隔をおいて配置されていて、駆動モータ15の回転時にトルクを、室2の壁16を通して、正確には室2の突出部13の壁16を通して、無接触式に第2のロータ11に伝達し、その結果第2のロータ11は一緒に回転し、これによってファン車9は回転させられる。第1のロータ14は、スタンダード電動機として形成された駆動モータ15のモータ軸17の端部に相対回動不能に配置されている。この場合に重要なことは、駆動モータ15が室2の壁16の外側に配置されている、つまり通常の空気雰囲気中に配置されているということであり、このような配置形式によって駆動モータ15は、室雰囲気及び室内圧とは無関係に運転されることができる。
【0027】
図1からさらに分かるように、室2の内部には熱交換器18が配置されており、この熱交換器18は、ファン車9を用いて循環された焼入れガスから熱を奪うために働く。
【0028】
以下においては、有利な焼入れ工程について詳しく述べる。最初に供給ドア3が開放され、被焼入れ部材4を載せた供給フレーム5が、有利には真空下にある室2内に導入される。有利には、上記供給過程中に既に駆動モータ15は始動させられる。供給ドア3の閉鎖後に室2には焼入れガス供給管路6を介して、焼入れ圧の焼入れガスで満たされる。駆動モータ15、ひいてはファン車9は、焼入れガスの充填過程終了時には既に、回転数が上昇して公称回転数に達しており、その結果充填過程の終了直後には、完全な焼入れ強度(Abschreckintensitaet)が得られる。所定の焼入れ時間経過後に、焼入れガスは周囲に放出されるか又は、コンプレッサ(図示せず)を介して圧力ガス容器7に戻され、供給ドア3は、焼入れされた被焼入れ部材4を載せた供給フレーム5を取り出すために開放される。有利には次いで、室2に負圧が供給される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼入れ装置であって、焼入れガスを循環させるためのファン車(9)を有する、焼入れガスを充填可能な室(2)、特に焼入れ室及び/又は流路が設けられており、ファン車(9)に、該ファン車を駆動するために室(2)の外側に配置された駆動モータ(15)が配属されている形式のものにおいて、
駆動モータ(15)は、無接触式に働くクラッチを介してトルクを伝達するようにファン車(9)と連結されていることを特徴とする焼入れ装置。
【請求項2】
クラッチはマグネットクラッチ(12)として形成されている、請求項1記載の焼入れ装置。
【請求項3】
マグネットクラッチ(12)は、駆動モータ(15)と機械式に結合された第1のロータ(14)と、該第1のロータ(14)によって無接触式に駆動可能でファン車(9)と機械式に結合された第2のロータ(11)とを有している、請求項2記載の焼入れ装置。
【請求項4】
第1のロータ(14)は、インナロータとして形成された第2のロータ(11)を半径方向外側において取り囲むアウタロータとして形成されている、請求項3記載の焼入れ装置。
【請求項5】
第2のロータ(11)は、インナロータとして形成された第1のロータ(14)を半径方向外側において取り囲むアウタロータとして形成されている、請求項3記載の焼入れ装置。
【請求項6】
ファン車(9)を有する室(2)内に、被焼入れ部材(4)が配置可能である、請求項1から5までのいずれか1項記載の焼入れ装置。
【請求項7】
室(2)を焼入れガスによって満たす手段が設けられている、請求項1から6までのいずれか1項記載の焼入れ装置。
【請求項8】
室(2)内に熱交換器(18)が配置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の焼入れ装置。
【請求項9】
有利には請求項1から8までのいずれか1項記載の焼入れ装置(1)を使用して、焼入れガスを用いて、被焼入れ部材(4)、特に金属製のワークを焼入れする焼入れ方法であって、焼入れガスを、駆動モータ(15)によって駆動されるファン車(9)を用いて循環させる焼入れ方法において、
ファン車(9)を駆動モータ(15)によって無接触式に駆動することを特徴とする焼入れ方法。
【請求項10】
室(2)がなお焼入れガスによって満たされていない間に、駆動モータ(15)を始動及び/又は運転する、請求項9記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−515262(P2012−515262A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545647(P2011−545647)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066202
【国際公開番号】WO2010/081587
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】