説明

焼入装置

【課題】ワークが収容されているバスケットを流れる焼入油の流速を速めることが可能となる焼入装置を提供する。
【解決手段】焼入油を貯留する油槽1を備え、焼入温度に加熱にしたワークを収容したバスケット10を焼入油に浸漬して急冷する。昇降籠20に搭載したバスケット10の直下で焼入油を取り入れる入口開口部30を有しているダクト3と、焼入油を入口開口部30から取り入れさせ焼入油をバスケット10の上から下へと流す下降流を生じさせるスクリュ4とを備えている。ダクト3は、バスケット10の下端面に接近した位置まで上へと延び上端部が入口開口部30となる延長筒部35と、この延長筒部35の外周から外側に延び、昇降籠20の脇を下方へ流れ昇降籠20の下に達した焼入油が入口開口部30に流れ込むのを阻止する遮断部材36とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品の焼入処理に用いられる焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部品(ワーク)を焼入する方法として、焼入温度に加熱した金属部品を油(焼入油)に浸漬して急冷する方法があり、このための装置として、焼入油を貯留した油槽を備えたものがある。つまり、焼入温度に加熱した金属部品をバスケットに収納し、このバスケットを油槽内の焼入油に浸漬して金属部品を急冷している。
また、このような焼入装置では、従来、油槽内にダクトを設置し、このダクト内でスクリュを回転させ、焼入油を油槽内で循環させているものがある。
【0003】
油槽内で焼入油を循環させて金属部品を急冷する場合、その態様として、金属部品を収容しているバスケットに対して焼入油を下から上へと流すように循環させるものがある。しかし、この場合、金属部品が小さく軽量であると、焼入油の流れ(上昇流)によって当該金属部品が噴き上げられ、バスケットからこぼれ落ちるおそれがある。
そこで、金属部品を収容しているバスケットに対して焼入油を上から下へと流すように循環させる焼入装置がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような焼入装置において、金属部品に対する焼入性を向上させるために、焼入油を循環させるその流速を速めるのが好ましい。つまり、金属部品の周囲で焼入油の流速が遅くなって焼入油が滞留すると、金属部品の冷却に時間を要し、所望の品質を得ることができない場合がある。
【0006】
なお、特許文献1に記載の装置は、ダクトの内側に、金属部品を収容しているバスケットを配置する構成であるため、ダクトの断面積を巨大化させる必要がある。この場合、スクリュ部分における焼入油の流速を速めても、バスケットの周囲では、断面積(流通面積)が大きくなるため流速が遅くなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、ワークが収容されているバスケットを流れる焼入油の流速を速めることが可能となる焼入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、焼入油を貯留する油槽を備え、焼入温度に加熱したワークを収容したバスケットを前記焼入油に浸漬して当該ワークを急冷する焼入装置であって、前記バスケットを搭載する昇降籠を有し、当該昇降籠を前記油槽の上方位置と前記油槽内の下位置との間を昇降させる昇降装置と、前記下位置にある前記昇降籠に搭載した前記バスケットの直下で前記焼入油を取り入れる開口部を有しているダクトと、前記焼入油を前記開口部から取り入れ前記焼入油を前記バスケットの上から下へと流す下降流を生じさせるスクリュとを備え、前記ダクトは、前記下位置にある前記昇降籠に搭載した前記バスケットの下端面に接近した位置まで上へと延び上端部が前記開口部となる延長筒部と、前記延長筒部の外周から外側に延び、前記昇降籠の脇を下方へ流れ当該昇降籠の下に達した前記焼入油が前記開口部に流れ込むのを阻止する遮断部材とを有していることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、下位置にある昇降籠に搭載したバスケットの直下で開口しているダクトの開口部から、スクリュにより焼入油を吸い込ませて、焼入油をバスケットの上から下へと流す下降流を生じさせることができる。そして、ダクトが有している延長筒部は、昇降籠に搭載したバスケットの下端面に接近した位置まで上へと延び、その上端部が前記開口部であるため、ワークが収容されたバスケットと、ダクトの開口部との間が狭くなる。このため、開口部から、バスケットの周囲を流れた焼入油を効率良く取り入れることができ、バスケットの周囲を流れる焼入油の流速を速めることができる。
【0010】
さらに、バスケットの周囲(ワークの周囲)を流れた焼入油ではなく、昇降籠の脇を下方へ流れ昇降籠の下に達した焼入油が、ダクトの前記開口部に流れ込むのを遮断部材が阻止するため、この開口部からは、バスケットの周囲を流れる焼入油を、主として取り入れることができ、バスケットの上から下へと流れる焼入油の流速を速めることができる。
このように、バスケットの上から下へと流れる焼入油の流速が速くなることで、ワークを急冷することができ、焼入性を向上させることが可能となる。
【0011】
また、前記昇降籠は、上下方向に開口している下枠及び上枠と、前記下枠と前記上枠とを上下連結している連結部材と、前記下枠の上方で前記バスケットを載せるために設けられ前記下降流を通過可能とする開口を有した載置部とを有し、前記延長筒部は、前記下枠に下から上へと挿入状態となって、前記バスケットを載せている前記載置部の下端面に接近した位置まで上へと延びており、前記遮断部材は、前記下枠と、当該下枠に挿入状となっている前記延長筒部との間を塞いでいるのが好ましい。
この構成により、ワークを収容したバスケットと、ダクトの開口部との間の隙間を小さくすることができ、また、昇降籠の脇を下方へ流れ昇降籠の下に達した焼入油が、ダクトの開口部に流れ込むのを遮断部材によって阻止することができる。
【0012】
また、前記焼入装置は、前記バスケットの側方を全周にわたって囲む壁部材を備えているのが好ましい。
この場合、昇降籠の脇からバスケット側へ焼入油が侵入するのを防ぎ、バスケット及びその周囲における焼入油の流速の低下を防ぐことが可能となる。さらに、バスケットの上から下へと焼入油が流れる下降流を整流することができ、バスケットの周囲の焼入油の流れが安定し、バスケットに収容したワークの焼入処理後の品質を均一化することが可能となる。
【0013】
また、前記ダクトは、前記開口部から取り入れた下降流の焼入油を、前記油槽の下部で上昇流へと転じさせる曲管部と、当該曲管部と連続し上昇流となる焼入油を上に導く直管部とを有し、前記直管部は、前記下位置にある前記昇降籠の上端面と同じ高さ位置又は当該上端面よりも低い位置で開口しているのが好ましい。
この場合、直管部を流れた焼入油を、昇降籠の上端面と同じ高さ又は当該上端面よりも低い位置で油槽内に開放することができ、この昇降籠に搭載したバスケットの上から下へと焼入油が流れる下降流を、生じさせやすくしている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の焼入装置によれば、ワークを収容したバスケットの上から下へと流れる焼入油の流速を速くすることができるので、当該ワークを急冷し、焼入性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】焼入装置の実施の一形態を示す概略図であり、正面から見た断面図である。
【図2】油槽及びその内部を説明する斜視図である。
【図3】油槽及びその内部を説明する正面図である。
【図4】油槽及びその内部を説明する平面図である。
【図5】昇降籠の下枠及びダクトの入口管部を説明する説明図である。
【図6】急冷して得た製品(ナット)の品質テスト結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔1.焼入装置の全体構成について〕
図1は、焼入装置の実施の一形態を示す概略図であり、正面から見た断面図である。この焼入装置は、焼入油7を貯留している油槽1と、昇降籠20を有している昇降装置2とを備えている。昇降装置2は、昇降籠20を油槽1の上方位置Uと油槽1内の下位置Dとの間を昇降させる。図1では、下位置Dにある昇降籠20を破線で示している。昇降籠20内には、上下重ねた複数のバスケット10が搭載される。
【0017】
バスケット10は、網状の矩形トレイからなり、このバスケット10に、焼入温度に加熱したワークWが多数収容される。ワークWは金属部品であり、本実施形態ではナット(材質はS45C)である。このバスケット10を上下重ねた状態として、上方位置Uにある昇降籠20へ搬入し、複数のバスケット10を搭載した昇降籠20を下位置Dに降下させ、高温状態にあるワークWを、焼入油7に浸漬して急冷する。
【0018】
焼入装置は、油槽1内にダクト3を備えている。さらに、このダクト3内にスクリュ(プロペラ)4が設けられており、ワークWを冷却する際、スクリュ4の回転によって焼入油7を油槽1内で循環させることができる。
【0019】
〔2.焼入装置の各部の構成について〕
図2は、油槽1及びその内部を説明する斜視図であり、昇降籠20が下位置Dに降下した状態である。図3はその正面図であり、図4はその平面図である。なお、本実施形態では、図4の平面図において、油槽1のほぼ中央に沈められるバスケット10を中心として、後述のダクト3の直管部34,34が設けられている方向を左右方向とし、これに直交する水平方向(図4では上下の方向)を前後方向とする。そして、油槽1の高さ方向が上下方向である。
【0020】
昇降装置2は、昇降籠20、昇降籠20をガイドするガイドレール26、昇降籠20を吊り下げているガイドロッド27、及び、このガイドロッド27を引き上げる駆動部28を備えている。駆動部28はモータ(図示せず)を備えており、図外の制御装置からの制御信号に基づいてモータを回転させ、ガイドロッド27を引き上げ又は引き下げて昇降籠20をガイドレール26に沿って上下昇降させる。ガイドレール26は前後左右に合計4本設置されており、図2に示しているように、前後のガイドレール26,26は、その下端部において、前後方向に長い桁部材29によって連結されている。
【0021】
図2において、昇降籠20は、上下方向に開口している上枠22と、上下方向に開口している下枠21と、上枠22と下枠21とを上下連結している連結部材23と、複数のバスケット10を載せるための載置部24とを有している。載置部24は、下枠21の上方に設けられている。
【0022】
上枠22は、矩形に構成された外枠部材22aと、この外枠部材22aの内側に十字状に配置された内枠部材22bとを有して格子形状であり、外枠部材22aと内枠部材22bとの間が開口している。昇降籠20の上方にある焼入油は、この外枠部材22aを通過して、昇降籠20の内側に容易に流れることができる。
【0023】
下枠21は、上枠22と同様に、矩形に構成された外枠部材21aを有しており、この外枠部材21aの内側はすべて開口している。図3に示しているように、昇降籠20が下位置Dに降下した状態で、当該昇降籠20の下枠21は、前記ガイドレール26を連結している前記桁部材29と、ほぼ同じ高さ位置にある。
【0024】
この下枠21の上方に、載置部24が設けられている。本実施形態の載置部24は、複数本のローラ24aからなる。図2と図3とに示しているように、ローラ24aが水平に並べられており、その両端部が、前後の前記連結部材23,23間に設置された側壁25,25に回転自在に取り付けられている。
このように、載置部24は、複数本のローラ24aが等間隔に並べられて構成されていることから、これらローラ24a上に、重ねられたバスケット10を載置することができる(図3参照)。そして、この載置部24では、隣り合うローラ24a間が開口した形態となり、このローラ24a間の各開口によって、焼入油7(後述する焼入油7の下降流)は、載置部24を容易に通過することができる。
【0025】
また、図1において、昇降籠20が上方位置Uにある状態で、これらローラ24aは、図外の他の搬送ローラと水平方向に連続した配置となり、これら搬送ローラ及びローラ24aによって、バスケット10を、昇降籠20内へ搬入したり、昇降籠20外へ搬出したりする作業が容易となる。
【0026】
図3において、前記ダクト3は、油槽1の中央下層部に位置する入口管部32と、この入口管部32から左右に分岐していると共に分岐後に180°の曲がり部を有した曲管部33,33と、この曲管部33,33それぞれから上方へ延びている直管部34,34とを備えている。本実施形態では、入口管部32及び曲管部33は断面矩形であるが、直管部34は断面円形である。
【0027】
入口管部32の上端が、焼入油7を取り入れる入口開口部30である。そして、直管部34の上端が、焼入油7を放出する出口開口部31である。入口開口部30は油槽1の中央下層部で上向きに開口しており、出口開口部31は、油槽1の左右両側の中層部から上層部の範囲で上向きに開口している。
【0028】
このダクト3内に、撹拌モータ40(図1参照)によって回転駆動するスクリュ4が設けられている。スクリュ4は、直管部34,34内にそれぞれ配置されており、回転することにより、直管部34,34内で焼入油を下から上へと強制的に流す機能を有している。このスクリュ4により、油槽1内の焼入油を前記入口開口部30から吸い込ませ、油槽1の中央上層部にある焼入油7を、バスケット10の上から下へと流す下降流を生じさせることができる。また、本実施形態では、撹拌モータ40によって回転する1本のロッド41に、上下2つのスクリュ4が設けられている。また、スクリュ4の回転中心と直管部34の中心とは一致している。
【0029】
前記ダクト3及び前記スクリュ4によれば、油槽1の中央下層部において入口開口部30から焼入油を取り入れ可能となり、さらに、昇降籠20を下位置Dとした状態で、載置部24に載せた複数のバスケット10の直下で、入口開口部30は焼入油を取り入れることができる。そして、入口開口部30から取り入れた下降流の焼入油7を、油槽1の下層部で前記曲管部33によって上昇流へと転じさせ、上昇流となる焼入油7を、曲管部33と連続している前記直管部34によって上方へ導くことができる。そして、直管部34の出口開口部31から、焼入油7を油槽1内に開放することができ、再びこの焼入油7は、バスケット10の上から下へと流れる下降流となる。このように、ダクト3及びスクリュ4によれば、油槽1内で焼入油7を循環させることができる。
【0030】
ダクト3についてさらに説明する。図5は、昇降籠20の下枠21及びダクト3の入口管部32を説明する説明図である。ダクト3は、上記のように入口管部32を有しており、この入口管部32の上端が、焼入油7を取り入れる入口開口部30である。この入口管部32は、曲管部33,33から上に延長された部分であり上端部が入口開口部30となる延長筒部35と、遮断部材36とを有している。延長筒部35は、上下方向を筒中心とする直線状の角パイプであり、遮断部材36は、この延長筒部35の外周から水平方向外側に延びた板状の部材である。
【0031】
延長筒部35(入口開口部30)の開口断面形状は、バスケット10の外周輪郭形状とほぼ同じ、又は、僅かに大きい程度であり、また、このバスケット10の外周輪郭形状(□A)よりも、昇降籠20の下枠21(外枠部材21a)の内周輪郭形状(□B)は、大きい。
そこで、延長筒部35は、昇降籠20の下枠21に下から上へと挿入状態となって、バスケット10を載せているローラ24aの下端面24bに接近した位置まで上へと延びている。これにより、延長筒部35の上端(入口開口部30)は、水平に並んだローラ24aに接近した状態にある。
【0032】
そして、上記のとおり、昇降籠20の下枠21(外枠部材21a)の内周輪郭形状(□B)は、バスケット10の外周輪郭形状(□A)よりも大きい。したがって、この下枠21と、この下枠21に挿入状となっている延長筒部35との間には、周方向に隙間δが形成される。そこで、この下枠21と、この下枠21に挿入状となっている延長筒部35との間を、前記遮断部材36によって塞いでいる。この遮断部材36によれば、昇降籠20の脇を下方へ流れ当該昇降籠20の下に達した焼入油7が、前記隙間δを通じて入口開口部30に流れ込むのを阻止することができる。
【0033】
以上の本実施形態に係る焼入装置によれば、バスケット10の直下で開口しているダクト3の入口開口部30から、スクリュ4により焼入油7を吸い込ませて、バスケット10の上から下へと焼入油7を流す下降流を生じさせることができる。そして、ダクト3が有している延長筒部35は、ローラ24aに載せたバスケット10の下端面10aに接近した位置まで上へと延びており、当該延長筒部35の上端部が前記入口開口部30であることで、ワークWが収容されたバスケット10の下端面10aと、ダクト3の入口開口部30との間が狭くなる。このため、入口開口部30から、バスケット10の周囲を上から下へと流れた焼入油7を、効率良く取り入れることができ、バスケット10の周囲を上から下へと流れる焼入油7の流速を速めることができる。
【0034】
さらに、バスケット10の周囲(ワークの周囲)を流れた焼入油7ではなく、昇降籠20の脇を下方へ流れ当該昇降籠20の下に達した焼入油7が、前記隙間δ(図5参照)を通じてダクト3の入口開口部30に流れ込むのを遮断部材36が阻止する。このため、入口開口部30からは、バスケット10の周囲を上から下へと流れる焼入油7を、主として取り入れることができ、バスケット10の周囲を上から下へと流れる焼入油7の流速を速めることができる。
このように、バスケット10の上から下へと流れる焼入油7の流速が速くなることで、当該バスケット10に収容したワークWを急冷することができ、焼入性を向上させることが可能となる。
【0035】
また、本実施形態では、図2に示しているように、昇降籠20の左右両側には、上記のとおり側壁25が設けられており、昇降籠20内に搭載したバスケット10を左右両側から覆った状態にある。さらに、図2及び図4に示しているように、昇降籠20が下位置Dにある状態で、当該昇降籠20内に搭載したバスケット10を前方から覆う前壁6が設けられている。本実施形態では、前壁6として仕切り板を、油槽1内に固定状態で設置し、昇降籠20が下位置Dに降下すると、この仕切り板が、昇降籠20内にあるバスケット10を前方から覆う構成としている。これにより、昇降籠20が上方位置Uにある状態で、昇降籠20の前方において、バスケット10を前記ローラ24aによって出し入れすることができる。なお、前壁6の変形例として、前壁6を昇降籠20の下枠21から立設させた仕切り板としてもよい。この場合、昇降籠20に対してバスケット10を上下方向から出し入れする。
さらに、前記側壁25と前記前壁6との間を塞ぐように、縦長の壁16が設けられている。この縦長の壁16は板状の部材であり、前壁6に取り付けられている。
【0036】
さらに、昇降籠20が下位置Dにある状態で、当該昇降籠20内に設置したバスケット10を後方から覆う後壁5が設けられている(図4参照)。本実施形態では、後壁5は、油槽1の周壁(後壁)の一部からなる。すなわち、昇降籠20は、左右方向では中央であるが、前後方向については後ろ寄りの位置に偏って配置されており、昇降籠20が下位置Dに降下すると、昇降籠20の後方近傍に、油槽1の周壁(後壁5)が存在している。
【0037】
このように、左右の側壁25,25、前壁6、縦長の壁16,16、及び、後壁5によって、昇降籠20内に存在しているバスケット10の側方を、全周にわたって囲む壁部材を構成している。
この壁部材によれば、昇降籠20の脇からバスケット10側へ焼入油7が侵入するのを防ぐことができ、バスケット10及びその周囲における焼入油7の流速の低下を防止することが可能となる。さらに、この壁部材によれば、バスケット10の上から下へと焼入油7が流れる下降流を整流することができる。つまり、壁部材を整流板とすることができる。この結果、バスケット10の周囲の焼入油7の流れが安定し(流速が均一となり)、バスケット10に収容したワークWの焼入処理後の品質を均一化することが可能となる。
【0038】
さらに、本実施形態に係る焼入装置では、図3に示しているように、ダクト3の直管部34は、下位置Dにある昇降籠20の上端面20aとほぼ同じ高さ位置(又は、当該上端面20aよりも低い位置)で開口しており、その開口(出口開口部31)から上昇流にある焼入油7を放出することができる。このため、直管部34を流れてきた焼入油7を、昇降籠20の上端面20aと同じ高さ(又は上端面20aよりも低い位置)で油槽1内に開放することができ、開放された焼入油7は、直ぐに油槽1の中央上層部に流れ、当該焼入油7がバスケット10の上から下へと流れる下降流を生じさせやすくしている。
【0039】
また、図2に示しているように、ダクト3(直管部34)内には、整流板18が設けられている。整流板18はダクト3(直管部34)内の流路を分割するように設けられており、分割することで焼入油7の流速の均一性を向上させる。分割数は任意であるが、好ましいのは4分割である。つまり、90度ピッチで板部材が4枚設けられており、十字型の整流板18を構成している。また、この整流板18とスクリュ4との距離が離れていれば、整流板18の高さ寸法は様々な値とすることができる。
【0040】
また、図4に示しているように、昇降籠20の上枠22の内枠部材22bには、焼入油7を通過させるための孔19が形成されている。孔19は上下方向に貫通しており、内枠部材22bに複数形成されている。この内枠部材22aによれば、昇降籠20(上枠22)の剛性を高めつつ、内枠部材22bはバスケット10の直上に位置するが、この孔19によって焼入油7の昇降籠20内への取り込みを阻害しないようにすることが可能となる。
【0041】
〔3.テスト結果〕
図6は、前記実施形態に係る焼入装置により、高温状態(約870℃)にあるワークWを、油槽1の焼入油に浸漬して急冷して得た製品(ナット)の、品質テスト結果を示す図である。この品質テストでは、8段に重ねたバスケット10を昇降籠20に搭載し、油槽1内の下位置Dへ降下させ、油冷を5分行い、その後、油槽1の上方に引き上げ、サンプルとして複数のナットを取り出し、硬さ測定を行った。なお、各バスケット10には多数(数百個)のボルトが収容されている。また、このテスト(油冷)を3回実施している。
【0042】
図6(a)の各表の左欄は、8段に重ねたバスケット10の各段を意味しており、各表の上欄に記載の「右後」「中央」「左前」はそれぞれ、各バスケット10におけるサンプル(ナット)の位置を示している(図6(b)参照)。そして、バスケット10ごとの各位置に存在しているナットのテスト結果(硬さ)を表中(図6(a))に示している。
【0043】
テスト良否の基準は、硬さ(HRC)が「53」以上である。図6(a)のテスト結果によれば、3回のテスト(油冷)とも、各段の各位置から抽出されたボルトは、前記基準を満足している。すなわち、8段に重ねたバスケット10のうち、上下方向及び平面方向とも、適切な流速を有する焼入油7によって急冷されていることを意味しており、しかも、その流速に偏りがなく、ほぼ均一の硬さ(HRC)を有することができている。
【0044】
本発明の焼入装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。前記油槽1を、バッチ炉(図示せず)によって加熱したワークWを急冷するために用いてもよく、または、連続炉(図示せず)によって加熱したワークWを急冷するために用いてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 油槽
2 昇降装置
3 ダクト
4 スクリュ
5 後壁
6 前壁
7 焼入油
10 バスケット
10a 下端面
16 縦長の壁
20 昇降籠
20a 上端面
21 下枠
22 上枠
23 連結部材
24 載置部
24b 下端面
25 側壁
30 入口開口部(開口部)
33 曲管部
34 直管部
35 延長筒部
36 遮断部材
D 下位置
U 上方位置
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼入油を貯留する油槽を備え、焼入温度に加熱にしたワークを収容したバスケットを前記焼入油に浸漬して当該ワークを急冷する焼入装置であって、
前記バスケットを搭載する昇降籠を有し、当該昇降籠を前記油槽の上方位置と前記油槽内の下位置との間を昇降させる昇降装置と、
前記下位置にある前記昇降籠に搭載した前記バスケットの直下で前記焼入油を取り入れる開口部を有しているダクトと、
前記焼入油を前記開口部から取り入れ前記焼入油を前記バスケットの上から下へと流す下降流を生じさせるスクリュと、を備え、
前記ダクトは、
前記下位置にある前記昇降籠に搭載した前記バスケットの下端面に接近した位置まで上へと延び上端部が前記開口部となる延長筒部と、
前記延長筒部の外周から外側に延び、前記昇降籠の脇を下方へ流れ当該昇降籠の下に達した前記焼入油が前記開口部に流れ込むのを阻止する遮断部材と、
を有していることを特徴とする焼入装置。
【請求項2】
前記昇降籠は、上下方向に開口している下枠及び上枠と、前記下枠と前記上枠とを上下連結している連結部材と、前記下枠の上方で前記バスケットを載せるために設けられ前記下降流を通過可能とする開口を有した載置部と、を有し、
前記延長筒部は、前記下枠に下から上へと挿入状態となって、前記バスケットを載せている前記載置部の下端面に接近した位置まで上へと延びており、
前記遮断部材は、前記下枠と、当該下枠に挿入状となっている前記延長筒部との間を塞いでいる請求項1に記載の焼入装置。
【請求項3】
前記バスケットの側方を全周にわたって囲む壁部材を備えている請求項1又は2に記載の焼入装置。
【請求項4】
前記ダクトは、前記開口部から取り入れた下降流の焼入油を、前記油槽の下部で上昇流へと転じさせる曲管部と、当該曲管部と連続し上昇流となる焼入油を上に導く直管部と、を有し、
前記直管部は、前記下位置にある前記昇降籠の上端面と同じ高さ位置又は当該上端面よりも低い位置で開口している請求項1から3のいずれか一項に記載の焼入装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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