説明

焼却灰の前処理方法

【課題】前処理期間中の焼却灰の温度条件の維持管理を効果的に行なうことにより、焼却灰に含まれる塩類、重金属や有機物等の物質のうち、水に溶出が容易な状態の物質の溶出を促進し、水に溶出が難しい状態の物質については難溶化することで、焼却灰を安全性の高い状態に改質する上で有利な焼却灰の前処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、焼却灰を埋め立てる前に、あるいは、骨材、盛土材、埋め戻し材等として再利用する前に、焼却灰を前処理槽12に収容し、焼却灰に散水処理と通気処理との前処理を行なう焼却灰の前処理方法である。本発明では、前処理開始から少なくとも10日間、焼却灰の温度を20℃以上60℃以下に維持するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却灰(ボトムアッシュ:主灰、以下焼却灰とする)を最終処分場に埋め立て処分する前に、あるいは、骨材、盛土材、埋め戻し材等として再利用する前に行なう前処理技術に関し、特に、有機物や重金属、塩類などの洗い出し、または溶出の抑制に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄物最終処分場は、周辺住民にとっては、迷惑施設としてのイメージが強い。周辺環境への影響に対する不安感が根強く、処分場建設の住民合意を得ることが難しい。そのため、日本各地で、新規建設が困難になっている。
【0003】
かかるなか、最終処分場に廃棄物を埋め立てする前に、周辺環境への影響の少ない状態に、廃棄物を前以って変化(安定化)させる処理(前処理)が種々提案されている。すなわち、かかる前処理方法は、埋め立て前に、埋め立て廃棄物に含まれる有機物や塩類、重金属等を、溶出しにくい安全性の高い状態に人工的に安定化させる技術である。
【0004】
かかる技術としては、例えば、特許文献1に記載のように、埋め立て前に廃棄物を洗浄する方法がある。廃棄物を機械的に洗浄することで、廃棄物に含まれる有機物や塩類を洗い出して廃棄物を安定化するものである。また、特許文献2に記載のように、埋め立て前に廃棄物に散水および通気することで安定化を促進する方法がある。散水と通気により、廃棄物中の有機物や塩類、重金属等の洗い出し、あるいは不溶化を行なう方法である。かかる方法により、廃棄物の安定化を促進する技術である。
【0005】
また、特許文献3には、焼却灰(ボトムアッシュ、あるいはボトムアッシュと飛灰)から、重金属、ダイオキシン等の有害物を除去して、有価物として利用するシステムに関しての技術が記載されている。
しかしながら、前述の特許文献1、2に記載の如く、前処理方法では、廃棄物を機械的な洗浄で行なう場合と、散水・通気によって行なう方法とに分けられた。機械的な洗浄方法では、洗浄のための設備・動力、および比較的大量の洗浄水の処理が必要となる。一方、散水・通気による方法では、機械洗浄と比較して機械設備や洗浄水の処理負担は少ない。しかし、反面、安定化させるための前処理期間は長くなる。そのため、かかる方法では、前処理のための敷地面積の増大が付随的に発生する。
そこで、本出願人は、それらの不具合を解消するための廃棄物の処理方法について出願している(特許文献4,5、6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−59106号公報
【特許文献2】特開2006−281006号公報
【特許文献3】特開2003−53298号公報
【特許文献4】特開2008−246367号公報
【特許文献5】特開2009−131757号公報
【特許文献6】特開2009−241053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は先の出願の改良に関するものである。
本発明者らは、廃棄物である焼却灰の前処理について鋭意研究し続け、焼却灰の前処理効果および前処理期間が、前処理期間中の焼却灰の温度により影響を受けることに着目するに至った。
すなわち、季節間における気温・雰囲気温度の違いが焼却灰温度、前処理効果および前処理期間に与える影響を検討した試験結果を以下に示す。
試験方法:
試験は、幅:4m×奥行き:4m×深さ:0.4mの試験槽に焼却灰を深さ:0.3m、密度:1.3g/cmになるように搬入・敷きならしを行い、上面から散水(1.3mm/回×3回/日=4mm/日)、下面から通気(線速度:2mm/秒)を行った。雰囲気温度は成り行きとし、表1に示すように、夏期(期間平均気温:29.6℃)、秋期(期間平均気温:10.2℃)および冬期(期間平均気温:7.3℃)であった。
【0008】
【表1】

【0009】
試験結果:
図1は、夏期、秋期および冬期における前処理試験期間中の雰囲気温度(気温)および焼却灰の温度の経時変化を示す。
また、前処理効果の指標として、図2は、浸出水のEC(電気伝導度)の値を示し、図3は、浸出水に含まれるTOC(全有機態炭素)の濃度を示す。
図1に示すように、雰囲気温度が急激な変化を示した期間を除き、焼却灰の温度は雰囲気温度の変化にほぼ追従するように変化している。冬期および秋期において、試験開始直後の焼却灰温度が雰囲気温度より高い傾向が見られたが、試験開始後10日程度以降では焼却灰温度は雰囲気温度とほぼ同じ温度で推移した。
また、図2、図3に示すように、期間中の平均気温が高い期間(夏期:29.6℃)と、低い期間(冬期:7.3℃、秋期:10.2℃)浸出水のEC値およびTOC濃度の経時変化に違いが見られた。浸出水のEC値が、1.2S/m以下を示すまでの期間は夏期においては、30日前後であるのに対し、冬期では60日以上となった。TOC濃度においても同様の傾向を示していた。
【0010】
これらの結果から、前処理期間中の焼却灰温度が前処理効果および前処理期間に影響を与えることが示唆され、本発明者らは前処理期間中の焼却灰の温度により影響を受けることに着目するに至った。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものである。
季節による気温差がある地域において、前処理期間中の雰囲気温度が焼却灰の温度に影響を与える場合は、焼却灰の前処理期間や効果が季節ごとに異なる。
本発明の目的は、前処理期間中の焼却灰の温度条件の維持管理を効果的に行なうことにより、焼却灰に含まれる塩類、重金属や有機物等の物質のうち、水に溶出が容易な状態の物質の溶出を促進し、水に溶出が難しい状態の物質については難溶化することで、焼却灰を安全性の高い状態に改質する上で有利な焼却灰の前処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、焼却灰を埋め立てる前に、あるいは、骨材、盛土材、埋め戻し材等として再利用する前に、前記焼却灰を前処理槽に収容し、前記焼却灰に散水処理と通気処理との前処理を行なう焼却灰の前処理方法であって、前処理開始から少なくとも10日間、前記焼却灰の温度を20℃以上60℃以下に維持するようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記前処理槽の底面からの焼却灰の積み上げ高さを0.8m以上として積み上げ初期に前記焼却灰から発生する熱を前記前処理槽内で保持するようにしたことを特徴とする。
また、本発明は、前記積み上げられた焼却灰の上面を断熱性および透水性を有するマットで覆い前記焼却灰の温度低下を抑制するようにしたことを特徴とする。
また、本発明は、前記前処理槽は、底壁と、この底壁の周囲から起立する側壁とを有し、前記底壁および側壁に断熱性を持たせて前記焼却灰の温度低下を抑制するようにしたことを特徴とする。
また、本発明は、前記前処理槽は、底壁と、この底壁の周囲から起立する側壁とを有し、前記底壁または側壁から前記焼却灰を加熱し、前記焼却灰の温度低下を抑制するようにしたことを特徴とする。
また、本発明は、前記散水処理は、前記前処理槽の上方から散水することで行ない、前記通気処理は、前記前処理槽の底部から上方に向けて空気を流すことで行なうことを特徴とする。
また、本発明は、前処理開始から少なくとも40日間、前記焼却灰の温度を20℃以上60℃以下に維持するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前処理期間中の焼却灰の温度条件の維持管理を効果的に行なうことで、水に溶出が容易な状態の物質の溶出を促進し、水に溶出が難しい状態の物質については難溶化することができ、短期間で焼却灰のEC値、TOC濃度を低下できる。
前処理期間中の焼却灰の温度条件の維持管理を行なうに際して、積み上げ初期に焼却灰から発生する熱を前処理槽内で保持し、この熱を利用するようにすると、雰囲気温度により温度条件の維持管理のためにヒータなどに費やされるエネルギーの低減化を図る上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】前処理試験期間中の雰囲気温度(気温)および焼却灰の温度の経時変化を示す図であり、(A)、(B)、(C)はそれぞれ夏期、秋期、冬期の場合を示している。
【図2】浸出水のEC値(電気伝導度)を示す図である。
【図3】浸出水に含まれるTOC(全有機態炭素)の濃度を示す図である。
【図4】EC値およびTOC、Ca、Naの濃度分析の結果を示す図である。
【図5】実施例の前処理装置の正面図である。
【図6】実施例の前処理装置の平面図である。
【図7】実施例で使用する集水ますの説明図である。
【図8】前処理期間中の焼却灰温度と外気温度の経時変化を示す図である。
【図9】前処理期間中の浸出水のEC値の経時変化を示す図である。
【図10】前処理期間中の浸出水のTOC濃度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、例えば、焼却灰の埋め立て処理を行なう最終処分場の一部に、あるいは、焼却灰を骨材、盛土材、埋め戻し材等として再利用する箇所の一部に、前処理装置を設ける。前処理装置は、固定式のものに限定されず、移動可能なコンテナ方式など従来公知の様々な構成が採用可能である。
焼却灰を前処理槽に投入し、投入後、バックホウ等を利用して所定密度、所定層厚の撒き出しを行なう。
そして、焼却灰に散水処理と通気処理との前処理を行なうに際して、前処理開始から少なくとも10日間、焼却灰の温度を20℃以上60℃以下に維持する。
【0016】
前処理では、溶出促進と難溶化を同時に行うため、早期に浸出水水質を安定化させるために、浸出水の濃度を増加させない範囲で溶出を促進する一方で難溶化を促進する温度の設定が必要であり、温度設定を困難にしているが、以下の手順で前処理温度の設定温度の範囲を設定した。
(1)下限値の設定
従来方法(前処理温度が雰囲気温度の影響を受ける場合)の試験結果(図2および図3)では、7℃から29℃の間では、EC値、TOC濃度ともに、前処理温度が高い場合に浸出水のEC値、TOC濃度の低下が促進される傾向が見られたため、7℃から29℃の間で浸出水濃度に影響を与えない範囲での溶出促進と難溶化の効果が変化する温度が設定できると考え、浸出水の濃度に与える温度の影響と焼却灰の溶出に与える温度の影響を評価し、前処理温度の下限値を検討した。
【0017】
方法:
焼却灰50g(湿重)を1000ml容ポリエチレン容器に密封して保存し、5℃、20℃、40℃および80℃の気温を保持した恒温器内で静置した。40日間の静置後、蒸留水500mlを加えて6時間振とうし、上澄液(溶出液)について、EC、TOC、CaおよびNaの濃度分析を行った。分析結果を図4(A)〜(D)に示す。
結果の分析:
溶出を抑える温度範囲:
5℃から40℃の範囲では、EC値、Ca濃度について前処理温度が高くなるに従って低下していることを確認した。また、従来法で示した7℃から29℃の範囲では前処理温度が高くなるに従って浸出水のEC値が低下の割合が増加していることから、Ca等EC値に影響を与える塩類が難溶化していることが考えられた。これらのことから5℃から40℃の範囲では、前処理温度を高く維持することで、焼却灰からの溶出を抑える効果が期待できる。
【0018】
浸出水濃度に影響を与えない範囲で溶出を促進する温度範囲
5℃から40℃の範囲では、TOC濃度、Na濃度について前処理温度が高くなるに従って上昇していることを確認した。NaはEC値に影響を与える塩類であるが、従来法で示した7℃から29℃の範囲では前処理温度が高くなるに従って浸出水のEC値の低下の割合が増加していることから、この場合のNaの溶出の促進は浸出水の濃度に影響を与えない範囲の溶出促進であると考えられた。
また、TOCについては、5℃と比較して20℃から40℃での溶出が促進されているが、従来法で示した7℃から29℃の範囲では前処理温度が高くなるに従って浸出水のTOC濃度の低下の割合が増加していることから、この場合のTOCの溶出の促進は浸出水のTOC濃度に影響を与えない範囲での溶出促進であると考え、20℃をTOCにおいて浸出水のTOC濃度に影響を与えない範囲での溶出を促進する下限温度と考えた。
【0019】
上記の結果から、浸出水の濃度を増加させない範囲で溶出を促進しながら、難溶化を促進する温度の下限値を20℃と設定した。
【0020】
(2)上限値の設定
図4で示した溶出試験結果から、温度が高くなるに従って一部塩類の溶出を抑え、TOCの溶出を促進する効果が考えられるが、効果が現れるのは60℃以上の設定範囲であることが考えられ、設定するための投入エネルギー等を考慮すると現実的な設定ではないと考えられるため、60℃を上限とするが、前処理期間中における焼却灰の自己発熱現象の範囲(保温措置ありの場合を含め)において成り行きで前処理温度が設定されることが妥当と考えた。その場合、焼却灰が60℃を超える温度になることを拒むものではない。
【0021】
前処理における加温または断熱が必要となる温度:
上記の(1)の結果から、前処理効果を維持するために、前処理期間中の焼却灰温度が20℃を下回る場合は前処理槽の断熱や加温等により、20℃以上を維持する必要があると考えた。
【0022】
また、上記の温度管理を、前処理開始から少なくとも40日間とすると、図9、図10に示すように、40日経過後には、TOC濃度やEC値が極めて低い値となるため、それら値を低い値に安定させる上で有利となる。
ただし加温が必要な場合、効率的なエネルギー利用の観点から加温期間を40日間未満とすることを拒むものではない。例えば加温期間として開始から10日間までと設定することも可能である。すなわち、上記の温度管理を、前処理開始から少なくとも10日間と設定することも可能である。その効果の根拠として、温度が高い夏期においてEC値、TOC濃度の値が初期の10日間で大きく値を下げていることが図2、図3から分かる(グラフの点がないのは浸出水が得られなかったため)。一方、10日以降では温度が低い場合と比べてEC値、TOC濃度の低減幅は大きくは変わらない。これらのことから特に初期の温度管理、すなわち、前処理開始から少なくとも10日間の温度管理が重要であることが示されており、加温の効果がより得られるのも初期であるといえる。
【0023】
一方、埋め立て初期に焼却灰から熱が発生する。そこで、積み上げ初期に焼却灰から発生する熱を前処理槽内で保持し、この熱を利用するようにすると、雰囲気温度により温度条件の維持管理のためにヒータなどに費やされるエネルギーの低減化を図る上で有利となる。
積み上げ初期に焼却灰から発生する熱を前処理槽内で保持する態様の一つとして、前処理槽の底面からの焼却灰の積み上げ高さを0.8m以上とする。焼却灰の積み上げ高さを0.8m以上としたのは、上面からの冷却を抑制し焼却灰の温度を維持する上で有利となるためであり、積み上げ初期に焼却灰から発生する熱を前処理槽内で保持するために必要な焼却灰の層の厚さである。
ただし図8にもあるように上層から0.4mにおいても温度上昇が認められることから、上面をマットで覆う等の保温措置をとることにより、0.4m以上においても温度を維持することは可能と考えられる。ただし焼却灰の効率的な前処理を行うという観点から、ここでは積み上げ高さを0.8m以上と設定した。
【0024】
焼却灰の温度を20℃以上60℃以下に維持するため、0.8m以上の焼却灰の積み上げ高さに加え、雰囲気温度によっては、積み上げられた焼却灰の上面を断熱性および透水性を有するマットで覆い、焼却灰の温度低下を抑制する。あるいは、前処理槽の底壁および側壁に断熱性を持たせ、焼却灰の温度低下を抑制する。
このようにすると、温度条件の維持管理のためにヒータなどに費やされるエネルギーの低減化を図る上でより一層有利となる。
底壁や側壁に断熱性を持たせる場合に用いる断熱材として、従来公知の様々な材料が使用可能である。焼却灰の自己発熱を充分保持できるならば、断熱材の材質、断熱材の設置方法にはこだわらない。
雰囲気温度によってはさらに、焼却灰の温度を20℃以上60℃以下に維持するため、前処理槽の底壁または側壁から焼却灰を加熱し、焼却灰の温度低下を抑制する。
このようにして焼却灰の自己発熱を焼却灰層内で保持することで、前処理期間中の焼却灰温度を雰囲気温度以上の所望の温度範囲内、すなわち、20℃以上60℃以下に維持することが可能になり、焼却灰の前処理を効果的に進めることが可能になる。
【0025】
所定層厚に積み上げられた焼却灰に、所定の間隔をあけて間欠散水を施し、間欠散水するに当たっては、焼却灰中に通気を併せて施す。すなわち、所定密度、所定層厚に撒き出した焼却灰に、所定量の人工散水と、所定流速の通気処理を行なう。
この場合に、焼却灰層の中を下方に通過する散水の透水方向に対抗して通気を行なうと、焼却灰層を通過する透水速度の散水開始後の経時変化が小さくなり、浸出水中への溶出物の溶出量の経時変化が少なく、安定した溶出状況を確保し、信頼性の高い前処理品質の確保を図る上で有利となる。
【実施例】
【0026】
本方式の実施例を図5および図6に示す。
前処理施設10は前処理槽12、散水装置14、通気装置16、浸出水集水装置18、制御装置20を含んで構成されている。
(前処理槽12)
前処理槽12は鋼板貯留槽とした。
鋼板貯留槽は、底壁およびこの底壁の周囲から起立する側壁が全て鋼板からなる躯体を備え、鋼板貯留槽の内部には、幅4.7m×奥行7.0m×深さ4.0mの大きさの収容空間が形成されている。
前処理槽12の底壁上には幅80cm、厚さ15cmのウレタンフォームの断熱材を10cmの間を空けて敷設し、90cm間隔で幅10cmの集水兼通気溝を配置した。通気装置16および浸出水集水装置18の双方を構成する集水兼通気溝には、呼び径50Aの有孔管を用いた。集水兼通気溝の上端まで砂利を入れて有孔管の保護を図ると共に、底壁上に、砂利と集水兼通気溝からなる通水・通気層を設けた。
【0027】
(前処理槽12への焼却灰の投入)
焼却灰をバックホウで前処理槽12へ搬入して敷きならしを行なう。
焼却灰の表面から0.4m、0.8m、1.4mの深さの位置に温度センサ(熱電対)を設置しながら焼却灰を搬入し、81tを搬入した時点で完了とした。この時の通水・通気層の上面からの焼却灰の深さは1.8mであり、充填密度は1.37g/cmであった。
【0028】
(散水装置14、浸出水集水装置18)
散水は水道水栓より分岐して給水した。散水は前処理槽12の中央部に4.7m×4.7mの散水エリアを設定し、散水半径約5mで散水範囲(角度)が90度のスプリンクラーを4基、散水エリアの四隅に設置した。
散水量は一日の散水回数(散水間隔)と1回毎の散水の散水量の設定により行った。散水間隔はタイマー制御で行い、設定時間に電磁弁の開放動作をさせて散水を開始し、散水量は散水開始後から流量計の流量積算値から設定した散水量に達した時点で電磁弁の閉鎖動作を行い、散水を終了した。
浸出水は前処理槽12の底部の集水兼通気溝を経由して集水ますに集めた。集水ますは焼却灰下部からの通気を保持するために、図7に示すように、水封構造とした。
【0029】
(通気装置16)
前処理槽12の外部に設置した送風機(給気ファン)から前処理槽12の底部に設置した集水兼通気溝を構成する有孔管に外気を供給し、焼却灰層の通気を行った。
なお、散水装置14、浸出水集水装置18、通気装置16の各種動作は制御装置20により制御される。
実施例では、焼却灰層の中を下方に通過する散水の透水方向に対抗して通気を行った。散水処理に際しては、かかる通気処理を行なうことで、かかる通気処理を行わない場合に比べて、散水した水の焼却灰層を通過する透水速度の散水開始後の経時変化が小さくなる。
すなわち、焼却灰層中の重金属、有機物等の溶出物の浸透水中への溶出量は、透水速度に大きく影響されるが、散水による前処理では、上記の如く透水速度の経時変化が小さくなるため、浸出水中への溶出物の溶出量の経時変化が少なく、安定した溶出状況が確保されるのである。その結果、透水速度の経時状況による遅速の変化が抑制され、溶出量の経時変動が安定化されて、結果として信頼性の高い前処理品質の確保を図ることができる。
また、通気処理を併用することなく散水を行なうと、どうしても、透水し易い道が焼却灰層の中に形成され、その道に沿って散水が流れようとする。しかし、透水方向に対抗して下方から通気処理すると、焼却灰層の中を平均的に透水するようになり、透水箇所の不均一性が抑制される。
かかる通気処理は、散水と並行して行えばよい。あるいは、散水処理と通気処理を相前後して行なうようにしても構わない。かかる場合には、散水処理が先でも、通気処理が先でも構わないが、両処理を余り時間間隔をあけて行わないようにすることが必要である。好ましくは、相前後して、先の処理が終了後に、後の処理が引き続き行われるようにすればよい。
【0030】
(前処理施設の運転条件)
(散水条件)
散水量 1.2m/日
浸出水量 0.96m/日
浸出水量/散水量 80%
経過日数50日の時点での液固比0.6
(通気条件)
通気線速度1.8mm/秒でほぼ一定
【0031】
(効果)
(1)焼却灰温度の維持
前処理期間中の焼却灰温度と外気温度の経時変化を図8に示す。
(自己発熱現象による焼却灰温度の維持)
前処理開始後から外気温度よりも高い状態が維持されており、焼却灰の自己発熱現象による焼却灰温度の上昇が見られる。この状態は前処理開始後10日前後をピークに以降は低下し、前処理終了時まで外気温度よりも高い状態が維持されていた。従来法で示した深さ0.3mでの焼却灰温度の経時変化では夏期においても前処理開始後早い期間で外気温度とほぼ同じ傾向を示していたことから、焼却灰の埋め立て深さを大きくとることで、焼却灰の温度維持に効果があることが明らかである。
【0032】
(上層の焼却灰温度変化)
上層(深さ0.4m)と中層(深さ0.8m)の焼却灰温度の経時変化をみると、上層は従来法で示した埋め立て深さ0.3mでの温度低下ほどではないが、中層と比較して上層の温度低下が早い傾向が見られる。これは、埋め立て深さを大きくとることにより、中層から熱の移動で上層の温度低下が抑えられるが、深さ0.4m程度は外気の影響を受けることが考えられる。そのため、少なくとも焼却灰の自己発熱現象を利用して焼却灰温度を維持するには、0.8m以上の埋め立て深さが望ましいことが考えられる。
【0033】
(下層の焼却灰温度変化)
下層(深さ1.4m)と上層(深さ0.4m)の焼却灰温度の経時変化をみると、前処理開始後10日前後までは底面をウレタンフォーム(厚さ15cm)で断熱しているにもかかわらず、上層よりも温度が低い期間がみられた。これは、底面からの給気による冷却の影響が考えられたが、前処理開始後10日前後までは上昇傾向を示しており、焼却灰の自己発熱現象により発生する熱量が給気による冷却を上回っていることが考えられた。さらに、前処理開始後15日前後で上層の温度と逆転し、30日前後以降では、中層(深さ0.8m)の焼却灰温度と逆転していたことから、底部の断熱は焼却灰温度を維持・管理に有効であることが明らかである。
【0034】
(前処理効果)
(浸出水のEC値に与える効果)
前処理期間中の浸出水のEC値の経時変化を図9に示す。前処理開始後30日前後でEC値1.2S/m、40日でEC値1.0S/mを下回る値を示した。従来法で示した前処理条件とは埋め立て深さ(従来法:深さ0.3m、実施例:深さ1.8m)、初期ピークEC値(従来法:約3S/m、実施例:約4S/m)が異なるが、従来法の夏期で示した浸出水のEC値の経時変化とほぼ同じEC値の経時変化を示しており、実施例で示した埋め立ておよび前処理条件で埋め立て深さ0.3mと同等の効果を得られることが明らかである。
【0035】
(浸出水のTOC濃度に与える効果)
前処理期間中の浸出水のTOC濃度の経時変化を図10に示す。前処理開始後30日前後でTOC濃度約500mg/l、40日でTOC濃度約250mg/lを下回る値を示した。EC値の経時変化で触れたように、従来法で示した前処理条件とは埋め立て深さ(従来法:深さ0.3m、実施例:深さ1.8m)、初期ピークTOC濃度(従来法:約800mg/l、実施例:約2000mg/l)が異なるが、従来法の夏期で示した浸出水のTOC濃度の経時変化とほぼ同じTOC濃度の経時変化を示しており、前処理開始後50日において初期ピークTOC濃度の1/10程度まで低下することを確認した。
【0036】
前処理完了の判断は、最終処分場等受け入れ先の受け入れ基準を基に、浸出水による環境影響を配慮して判断の指標を採用すればよい。例えば、受け入れ基準が焼却灰の溶出値である場合は、焼却灰が受け入れ基準の溶出値を満たした時点での浸出水中の有機物や塩類濃度を表す指標を判断の指標として採用すればよい。しかし、焼却灰が受け入れ基準を満たしている場合や、受け入れ先の受け入れ基準が決められていない場合においても、受け入れ先での浸出水による環境影響を配慮して、上乗せ基準として、浸出水中の有機物や塩類濃度を表す指標を判断の指標として採用すればよい。例えば、浸出水中の有機物濃度を表す指標として、TOC濃度等を指標として判断すればよい。例えば、浸出水のTOC濃度が、100mg/lとなった時点で、前処理完了と判断すればよい。かかる判断基準に達するには、焼却灰の性質等の影響で多少の幅はあるが、大体40日から50日の間で前処理が完了することが、実験で確認された。勿論、その他の塩類濃度を表す指標としてEC値等を判断の指標として使用しても構わない。TOC濃度を判断指標として用いる有利な点は、TOC濃度を指標として用いない場合に比べて、指標物質を直接示す数値だからである。因みに、その他のEC値等を判断の指標として用いた場合には、例えば、1.0S/mの数値を基準として採用すればよい。
【0037】
上述の前処理によれば、より短期間で焼却灰のTOC濃度、EC値を低下することが可能となり、また、散水処理に用いる水の量を削減する上でも有利となる。
特に、図8に示すように、外気の温度が18℃から28℃の間で変化する地域、季節では、焼却灰を側面や底面から加熱することなく、積み上げ初期に焼却灰から発生する熱を前処理槽内で保持できるので、ヒーターなどを使うことなく焼却灰の温度を外気温度よりも高い所望の温度範囲内に維持でき、焼却灰の前処理に消費されるエネルギーの低減を図る上でも有利となる。
このようにして前処理が完了した前処理済焼却灰は、最終処分場の貯留構造物内に投下する等して、所定要領で埋め立てをし、あるいは、骨材、盛土材、埋め戻し材等として再利用される。
【符号の説明】
【0038】
10……前処理施設、12……前処理槽、14……散水装置、16……通気装置、18……浸出水集水装置、20……制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰を埋め立てる前に、あるいは、骨材、盛土材、埋め戻し材等として再利用する前に、前記焼却灰を前処理槽に収容し、前記焼却灰に散水処理と通気処理との前処理を行なう焼却灰の前処理方法であって、
前処理開始から少なくとも10日間、前記焼却灰の温度を20℃以上60℃以下に維持するようにした、
ことを特徴とする焼却灰の前処理方法。
【請求項2】
前記前処理槽の底面からの焼却灰の積み上げ高さを0.8m以上として積み上げ初期に前記焼却灰から発生する熱を前記前処理槽内で保持するようにした、
ことを特徴とする請求項1記載の焼却灰の前処理方法。
【請求項3】
前記積み上げられた焼却灰の上面を断熱性および透水性を有するマットで覆い前記焼却灰の温度低下を抑制するようにした、
ことを特徴とする請求項2記載の焼却灰の前処理方法。
【請求項4】
前記前処理槽は、底壁と、この底壁の周囲から起立する側壁とを有し、
前記底壁および側壁に断熱性を持たせて前記焼却灰の温度低下を抑制するようにした、
ことを特徴とする請求項2または3記載の焼却灰の前処理方法。
【請求項5】
前記前処理槽は、底壁と、この底壁の周囲から起立する側壁とを有し、
前記底壁または側壁から前記焼却灰を加熱し、前記焼却灰の温度低下を抑制するようにした、
ことを特徴とする請求項2乃至4に何れか1項記載の焼却灰の前処理方法。
【請求項6】
前記散水処理は、前記前処理槽の上方から散水することで行ない、
前記通気処理は、前記前処理槽の底部から上方に向けて空気を流すことで行なう、
ことを特徴とする請求項1乃至5に何れか1項記載の焼却灰の前処理方法。
【請求項7】
前処理開始から少なくとも40日間、前記焼却灰の温度を20℃以上60℃以下に維持するようにした、
ことを特徴とする請求項1乃至6に何れか1項記載の焼却灰の前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−183503(P2012−183503A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49301(P2011−49301)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】