説明

焼却炉から発生するガスの処理方法

【課題】焼却炉から発生するガスの処理方法であって、廃棄物の再資源化と共にそれに必要な薬剤コストの低減化が図られた処理方法を提供する。
【解決手段】焼却炉から発生するガスを塩酸と接触させ、当該ガス中の重金属および塩素分を溶解して回収する酸洗浄工程、酸洗浄工程から排出される洗浄廃液に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、当該洗浄廃液中の重金属を水酸化物として沈殿させて除去する重金属除去工程、重金属除去工程で得られた粗塩水を陽イオン交換樹脂と接触させ、ナトリウム以外の金属成分が除去された塩水を回収する塩水精製工程、塩水精製工程で回収された塩水を電気分解し、水酸化ナトリウム水溶液と塩素を生成させる電解工程、電解工程で得られた水酸化ナトリウム水溶液を前記の重金属除去工程に再利用する水酸化ナトリウム循環工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却炉から発生するガスの処理方法に関し、詳しくは、廃棄物の再資源化とそれに必要な薬剤のコスト低減を図った上記ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、公害防止技術の進歩により、焼却炉から発生するガスの処理方法の一つとして、廃棄物の再資源化を目的とした方法の提案が種々なされている。その一例として、「サーモセレクト方式ガス化溶融プロセス」と称される方法がある。この方法は、(1)プレス・ 脱ガスチャンネル((a)ごみ(廃棄物)の圧縮、(b)乾燥・ 熱分解)、(2)高温反応炉・ 均質化炉((c)ガス化溶融、(d)スラグ均質化、(e)ガス改質)、(3)ガス精製((f)ガス急冷(急冷・酸洗浄・アルカリ洗浄)、(g)ガス精製(除塵・脱硫・除湿))、(4)水処理((h)水処理・ 塩製造装置)の4ステップから構成されている(非特許文献1)。また、この方法の改良についても種々の提案がなされている(特許文献1〜3)。斯かる方法によれば、廃棄物は、精製ガス、水砕スラッグ、メタル、金属水酸化物、硫黄、混合塩などに変換され、資源としての再利用が可能である。
【0003】
【非特許文献1】まてりあ第41巻第11号(2002)第770〜774頁
【特許文献1】特開2002−363577号公報
【0004】
ところで、上記のガス精製の際の酸洗浄やアルカリ洗浄には塩酸や水酸化ナトリウムが使用され、また、上記の水処理には鉄や亜鉛などを水酸化物として回収するために水酸化ナトリウムが使用される。従って、上記の様な薬剤の一種でもが同一プロセス内で調達できれば薬剤コストが低減でき、工業的に有利である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、焼却炉から発生するガスの処理方法であって、廃棄物の再資源化と共にそれに必要な薬剤コストの低減化が図られた処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、焼却炉から発生するガスを塩酸と接触させ、当該ガス中の重金属および塩素分を溶解して回収する酸洗浄工程、酸洗浄工程から排出される洗浄廃液に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、当該洗浄廃液中の重金属を水酸化物として沈殿させて除去する重金属除去工程、重金属除去工程で得られた粗塩水を陽イオン交換樹脂と接触させ、ナトリウム以外の金属成分が除去された塩水を回収する塩水精製工程、塩水精製工程で回収された塩水を電気分解し、水酸化ナトリウム水溶液と塩素を生成させる電解工程、電解工程で得られた水酸化ナトリウム水溶液を前記の重金属除去工程に再利用する水酸化ナトリウム循環工程を包含することを特徴とする、焼却炉から発生するガスの処理方法に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、焼却炉から発生するガスを処理して無公害化を図るに際し、廃棄物の再資源化と共にそれに必要な薬剤コストの低減化が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を添付図面に基づき説明する。図1は、本発明の好ましい態様の一例を示すプロセスフローシートである。図2は、本発明における電解工程の一例を示すプロセスフローシートである。図3は、本発明における塩酸工程の他の一例を示すプロセスフローシートである。
【0009】
先ず、本発明で処理対象とされるガスについて説明する。本発明においては、各種の焼却炉から発生するガスを対象とし得る。焼却炉に投入される廃棄物としては、塩素を含有する都市ごみや産業廃棄物などが代表的である。また、特に、ガス化溶融炉を使用した前述の「サーモセレクト方式ガス化溶融プロセス」から発生するガスが好適である。上記のプロセスは概略次の様に行われる。
【0010】
すなわち、廃棄物はプレス機で圧縮された後、乾燥熱分解工程で間接加熱により加熱乾留されて高温反応炉内に送られる。高温反応炉の下部にはバーナーが配置され、このバーナーによって炉内に燃料ガスと酸素とが導入され、この酸素ガスが乾留物中の炭素をガス化し、一酸化炭素と二酸化炭素が生成する。また、高温水蒸気が存在する場合には炭素と水蒸気とによる水性ガス反応が生じて一酸化炭素と水素とが生成される。更に、有機化合物は熱分解して一酸化炭素と水素が生成する。上記の反応の結果、高温反応炉の塔頂部から粗合成ガスが排出される。
【0011】
一方、高温反応炉下部で生成した溶融物は高温反応炉から均質化炉へ流れ出る。この溶融物には炭素や微量の重金属などが含まれており、均質化炉において炭素は十分な酸素と水蒸気によってガス化されて二酸化炭素、一酸化炭素および水素を生成する。均質化炉において金属溶融物は比重が大きいため、スラグの下部に溜まる。溶融物は水砕システムへ流れ落ちて冷却固化され、メタル−スラグの混合物は磁選によりメタルとスラグとに分離される。
【0012】
図1に例示した本発明の処理方法は、酸洗浄工程(1)、重金属除去工程(2)、カルシウム分除去工程(3)、塩濃縮工程(4)、晶析工程(5)、固液分離工程(6)、塩水精製工程(7)、ヨウ素除去工程(8)、電解工程(9)、EDC製造工程(10)、
熱分解工程(11)、塩酸製造工程(12)、水酸化ナトリウム循環工程(13)、塩酸循環工程(14)を包含する。
【0013】
酸洗浄工程(1)においては、焼却炉から発生するガスを塩酸と接触させ、当該ガス中の重金属および塩素分を溶解して回収する。ガスと塩酸との接触は、各種の気液接触装置を使用して行なうことが出来る。この際、気液接触装置として、塩酸を噴射する急冷装置を使用し、ガスの温度を約1200℃から約70℃まで急速冷却するならば、ダイオキシン類の生成を阻止することが出来る。一般にガス中にはカルシウム分やヨウ素が含まれており、洗浄廃液中には、鉄、亜鉛、鉛などの重金属と塩酸の他に、カルシウム分やヨウ素が溶解することとなる。酸洗浄されたガスは、必要に応じて更に酸洗浄を施された後にアルカリ洗浄され、残存する塩化水素ガス等の酸性ガスが中和除去される。次いで、脱硫洗浄装置でガス中の硫化水素が硫黄に転換されて硫黄ケーキとして排出される。次いで、合成ガスは低温除湿工程で水分を除去された後、精製された燃料ガスとして利用される。
【0014】
重金属除去工程(2)においては、酸洗浄工程(1)から排出される洗浄廃液に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、当該洗浄廃液中の重金属を水酸化物として沈殿させて除去する。この操作は例えば次の様にpHを異なられて金属種毎に選択分離することも出来る。
【0015】
鉄分を分離する場合は、過酸化水素などの酸化剤の存在下に水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを4〜7に調節する。酸化剤を使用する理由は次の通りである。すなわち、廃棄物を還元熱処理した場合、洗浄廃液中の鉄分の形態は第一鉄イオン(Fe2+)であり、このままではアルカリ性にしないと沈殿分離することが出来ず、鉄分を選択的に分離することが 出来ないが、酸化処理すると、第一鉄イオン(Fe2+)が第二鉄イオン(Fe3+)となり、酸性であるpH5レベルで沈殿除去することが可能となり、後の工程で、亜鉛イオン(Zn2+)を水酸化ナトリウムで金属水酸化物として析出分離回収することにより、金属水酸化物の亜鉛濃度を高くすることが可能になるからである。
【0016】
酸化剤で、第一鉄イオンを第二鉄イオンに酸化するに際しては、溶液の酸化還元電位を測定することにより、過剰に酸化剤を添加しない様に制御するのが好ましい。これは、ヨウ素イオンが酸化されてヨウ素酸イオンに転換しない様にするためである。制御する酸化還元電位の範囲は、通常400mV以下、好ましくは100〜300mVである
【0017】
また、塩水がアルカリ性である場合においては、ヨウ素イオンがヨウ素酸イオンに転換する可能性が高い。従って、アルカリ性領域で処理を行う場合にも、酸化還元電位を測定し、酸化剤が過剰にならない様に制御するのが好ましい。制御する酸化還元電位の範囲は、通常400mV以下、好ましくは300mV以下である。
【0018】
亜鉛を分離する場合、水酸化鉄が分離された分離水に更に水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8〜12に調節する。これにより、亜鉛イオンを水酸化亜鉛として選択的に析出させることが出来る。
【0019】
なお、上記の水酸化鉄の選択分離は、亜鉛や鉛の純度を向上させるために行うものであるが、鉄分を含有した形で亜鉛や鉛を含む山元還元用の精錬原料を得る場合には、酸化鉄の選択分離は省略することが出来る。アンモニアが混在する場合には、重金属がアンモニア錯体を形成しているため、アンモニア除去した後、上記の処理を行うことが好ましい。また、残存している重金属を更に除去するために重金属用のイオン交換樹脂で処理してもよい。上記の何れの場合も、重金属除去工程(2)においては、洗浄廃液中の塩酸が水酸化ナトリウムで中和される結果、塩(NaCl)が生成する。この塩は粗塩水として次工程に供される。
【0020】
カルシウム分除去工程(3)においては、粗塩水中のカルシウムイオンを炭酸ガス及び/又は炭酸イオンと反応させて沈殿除去する。この工程は必要に応じて設けられる。炭酸イオンの生成には重炭酸ソーダー等を使用することが出来る。
【0021】
なお、重金属除去工程(2)(特に水酸化亜鉛として選択的に析出させた場合)やカルシウム分除去工程(3)で塩水のpHが高めに設定された場合は、塩酸などによって中和した後に、次の工程の処理が行われる。
【0022】
濃縮工程(4)、晶析工程(5)及び固液分離工程(6)は、塩水精製工程(7)に付帯する任意の工程である。塩水精製工程(7)は、重金属除去工程(2)やカルシウム分除去工程(3)の直後の粗塩水に対して適用することが出来るが、上記の3つの工程を設けることにより、塩水精製工程(7)におけるイオン交換樹脂(RIE)処理の負荷を軽減することが出来、また、塩水精製工程(7)は回分方式で行なう場合は、固形分として回収された塩の保存や搬送が容易であり好都合である。濃縮工程(4)、晶析工程(5)及び固液分離工程(6)の各工程は、従来公知の単位操作に従って行なうことが出来る。濃縮工程(4)としては、蒸発の他、逆浸透膜、電気透析などの方法も採用し得る。
【0023】
塩水精製工程(7)においては、粗塩水を陽イオン交換樹脂と接触させ、ナトリウム以外の金属成分が除去された塩水を回収する。陽イオン交換樹脂としては、特に制限されず、通常の純水製造に採用されているイオン交換樹脂から適宜選定される。また、ゲル型またはマクロポーラス型の何れであってもよい。例えば、市販の強酸性陽イオン交換樹脂としては、三菱化学社製の「ダイヤイオン」(登録商標)SKシリーズ、PKシリーズ、HPKシリーズ等が挙げられる。
【0024】
陽イオン交換樹脂による処理は、流動床または固定床の何れでも可能であり、バッチ処理でも連続でも可能である。また、処理後の陽イオン交換樹脂の再生は常法に従って行なうことが出来る。
【0025】
ヨウ素除去工程(8)においては、塩水中のヨウ素を除去する。この工程は必要に応じて設けられるが、後述の電解工程(9)がイオン交換膜法で行われる場合は次の様な意義がある。すなわち、ヨウ素は電解セルの効率低下の原因となるため、ヨウ素濃度0.2mg/リットル以下の低濃度までヨウ素を除去するのが好ましい。なお、濃縮工程(4)、晶析工程(5)及び固液分離工程(6)の存在は、ヨウ素除去工程(8)に対しても塩水精製工程(7)の場合と同様の上記の利点が得られる。斯かる利点は、焼却炉の近傍に設けられる酸洗浄工程(1)及び重金属除去工程(2)とは別サイトに設けられた電解工程(9)にヨウ素除去工程(8)を付帯させる場合に顕著である。
【0026】
本発明において、ヨウ素除去工程(8)は、酸化還元電位が400mV(SHE)以下となる様に調節した塩水を陰イオン交換樹脂と接触させる方法で行なうのが好ましい。
【0027】
従来、アルカリ金属水溶液中に含まれるヨウ素イオンを除去する方法として、ヨウ素を次亜塩素酸塩等の活性塩素で過ヨウ素酸塩まで酸化し、次いでこの過ヨウ素酸塩を塩基性媒体中で沈殿除去する方法(特公平6−88777号公報)、活性塩素によってヨウ素イオンを酸化してヨウ素にし、このヨウ素を塩基性ハロゲン化陰イオン交換樹脂で除去する方法(特開平7−237919号公報)、塩化ナトリウム溶液中のヨウ素を分子状態のヨウ素に酸化し、予め酸化した活性炭のベッドでヨウ素を吸着し除去する方法(特公平7−91666号公報)が知られている。
【0028】
しかしながら、上記の方法では、前記の様な低濃度までヨウ素を除去するのは困難である。ところが、酸化還元電位が400mV(SHE)以下となる様に調節した塩水をイオン交換樹脂と接触させる方法によれば、前記の様な低濃度までヨウ素を除去することが出来る。斯かる方法は、塩素およびヨウ素を含む廃棄物を酸素が不足する状況で熱処理し、還元雰囲気ガスを水溶液に接触させ、塩化ナトリウムで中和させて塩水とした場合、ヨウ素の形態は、ヨウ素酸ではなく、ヨウ素イオンの形態であるとの新規な知見に基づいて完成されたものである。
【0029】
陰イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂または弱塩基性陰イオン交換樹脂を使用することが出来るが、好ましくは強塩基性陰イオン交換樹脂である。強塩基性陰イオン交換樹脂は、4級アンモニウム塩基を交換基として有する樹脂であり、I型(トリメチルアンモニウム基)、II型(ジメチルエタノールアンモニウム基)の何れであってもよい。また、ゲル型またはマクロポーラス型の何れであってもよい。市販品としては、例えば、三菱化学製の「ダイヤイオン」(登録商標)SA10シリーズ、SA20シリーズ、PA300シリーズ、PA400シリーズ、「ダイヤイオン」(登録商標)NSA100等が挙げられる。
【0030】
陰イオン交換樹脂による処理は、流動床または固定床の何れでも可能であり、バッチ処理でも連続でも可能である。また、処理後の陰イオン交換樹脂の再生は、ヨウ素イオン(I)をヨウ素酸イオン(IO)まで酸化可能な酸化性化合物を含む水溶液を使用する方法が好ましい。すなわち、常法に従って水酸化ナトリウム水溶液などを使用した再生方法では再生効率が悪い(ヨウ素イオン(I)の脱着効率が低い)が、ヨウ素イオン(I)を酸化してヨウ素酸イオン(IO)に変換することにより再生効率を高めることが出来る。
【0031】
上記の酸化性化合物としては、過ヨウ素酸塩(MIO)、次亜塩素酸塩(MClO)、過塩素酸(MClO)等が挙げられる。過ヨウ素酸塩を使用した場合、それ自体によって新たなヨウ素イオンの混入を引き起こす可能性があるため、再使用前に入念な洗浄が必要となる。従って、上記の中では次亜塩素酸塩または過塩素酸塩が好ましい。酸化性化合物には、塩(例えばNaCl)、酸(例えば塩酸)、アルカリ(例えばNaOH)が共存していてもよい。例えば、後述する電解工程から排出される淡塩水には、次亜塩素酸ナトリウムが含有されておりこれを利用することが出来る。また、塩水中に含まれた塩素をアルカリ水に導入して次亜塩素酸塩を製造した塩水を使用することも出来る。
【0032】
酸化性化合物の濃度は、樹脂に吸着したヨウ素イオンに対して通常モル当量以上であり、具体的には、通常1〜10000ppm、好ましくは10〜1000ppmである。酸化性化合物の濃度が低すぎる場合は、脱着時間が長くなり、廃水量が増え、経済性が低下し、高すぎる場合は樹脂自体の劣化が促進する。塩基性イオン交換樹脂に酸化性化合物の水溶液を流通させる際、空間速度SVは、通常0.1〜100h−1、好ましくは0.2〜30h−1である。なお、常法に従い、再生後に洗浄が行われるが、洗浄液としては、ヨウ素イオンが除去された塩水を使用するのが好ましい。
【0033】
電解工程(9)においては、塩水を電気分解し、水酸化ナトリウム水溶液と塩素を生成させる。斯かる工程それ自体は公知であり、電解工程(9)で使用される電解槽(90)は、イオン交換膜から成る隔膜(91)により陰極室と陽極室とに分けられており、導管(92)から塩水が供給され、陰極室で生成した水酸化ナトリウム水溶液と水素ガスとはそれぞれ導管(93)と(94)から排出され、陽極室で生成した塩素ガスは導管(95)から排出され、淡塩水は導管(96)から排出される。なお、符号(97)は水酸化ナトリウム水溶液の押出水用の導管である。また、塩水導管(92)から飽和塩水が供給された場合、通常、その中の塩化ナトリウムの約50重量%及び水の20重量%が消費され、残りが導管(96)から排出される淡塩水となる。なお、ここで、電気分解に供される塩水の少なくとも一部として前記塩水精製工程(7)で得られた塩水を使用すると、更に資源の有効活用を図ることが出来て好ましい。
【0034】
前述の通り、上記の淡塩水の中には次亜塩素酸ナトリウムが含有されている。従って、導管(96)から排出される淡塩水の一部は、導管(98)を通し、前述の陰イオン交換樹脂の再生工程(図示)せずに供給され、残部は、配管(99)を通して次亜塩素酸ナトリウム分解工程(A)に供給された後、配管(100)を通して塩水濃度調節工程(B)に供給され、導管(92)を通して電解槽(90)に循環される。次亜塩素酸ナトリウム分解工程(A)において、次亜塩素酸ナトリウムは公知の方法に従い塩素と水酸化ナトリウムに分解される。また、塩水濃度調節工程(B)において塩化ナトリウムの濃度調節が行われる。この際、必要に応じて原塩を添加してもよい。また、必要ならば不純物の除去などを行なってもよい。
【0035】
EDC製造工程(10)、熱分解工程(11)及び塩酸製造工程(12)においては、電解工程(9)で得られた塩素を塩酸に転換する。図示した例は、塩化ビニルモノマー(VCM)との併産プロセスである。VCMは、エチレンジクロライド(EDC)の熱分解により得られ、直接塩素化法とオキシ塩素化法とを組み合せて製造するのが一般的である。
【0036】
図1に示した例は、公知の方法による直接塩素化法の例であり、EDC製造工程(10)にてエチレンと前記の塩素からエチレンジクロライド(EDC)を合成し、熱分解工程(11)にてEDCを塩化ビニルモノマー(VCM)と塩化水素(HCl)とに分解する。そして、塩酸製造工程(12)において、水に塩化水素を吸収溶解させて塩酸を製造する。通常、得られた塩酸は低濃度であり、例えば塩化カルシウムの存在下に蒸留して濃度35重量%の塩酸を得る。なお、上記の塩化ビニルモノマー(VCM)は、図3に示す精留工程(14)にて処理されて製品VCMとなり、ポリ塩化ビニル(PVC)製造用の原料に供される。
【0037】
図3に示した例は、公知の方法による直接塩素化法とオキシ塩素化法との併用例であり、上記と同様にして熱分解工程(11)にてEDCを塩化ビニルモノマー(VCM)と塩化水素(HCl)とに分解した後、得られた塩化水素をオキシ塩素化法の原料に使用する。すなわち、EDC製造工程(13)にてエチレンと塩化水素と酸素(又は空気)からエチレンジクロライド(EDC)を合成する。その後は、上記と同様に、熱分解工程(11)にてEDCを塩化ビニルモノマー(VCM)と塩化水素(HCl)とに分解する。そして、塩化水素はオキシ塩素化法の原料として循環使用される。
【0038】
上記の場合、塩酸は次の様にして製造される。精留工程(14)から塩素を含有するVCM廃液を回収し、液中燃焼工程(15)で処理して塩化水素(HCl)を取得し、塩酸製造工程(16)において、水に塩化水素を吸収溶解させて塩酸を製造する。その後、前記と同様に濃縮して濃度35重量%の塩酸を得る。
【0039】
本発明は、前記の様な各工程を包含し、酸洗浄工程(1)、重金属除去工程(2)、塩水精製工程(7)及び電解工程(9)の4工程を必須とするが、その最大の特徴は、
電解工程(9)で得られた水酸化ナトリウム水溶液を重金属除去工程(2)に再利用する水酸化ナトリウム循環工程(13)を包含する点にある。斯かる構成により、本願発明は、重金属除去工程(2)で必要な水酸化ナトリウム水溶液を自己調達することが出来、薬剤コストの低減化を図ることが出来る。上記の他、電解工程(9)で得られた水酸化ナトリウム水溶液は、好ましい態様として設けられるカルシウム分除去工程(3)にも利用することが出来る。
【0040】
また、本発明の好ましい態様においては、水酸化ナトリウム循環工程(13)の他、電解工程(9)で得られた塩素を塩酸に転換する塩酸製造工程(12)及び/又は(16)と、塩酸製造工程(12)及び/又は(16)で得られた塩酸を酸洗浄工程(1)に再利用する塩酸循環工程(14)とを有する。斯かる好ましい態様によれば、酸洗浄工程(1)で必要な塩酸を自己調達することが出来、薬剤コストの一層の低減化を図ることが出来る。しかも、廃棄物の再資源化に必要な薬剤コストの自己調達が図られてプロセス全体を高度にクローズド化することが出来る。なお、上記の他、塩酸製造工程(12)及び/又は(16)で得られた塩酸は、重金属除去工程(2)(特に水酸化亜鉛として選択的に析出させた場合)やカルシウム分除去工程(3)で塩水のpHが高めに設定された場合の中和にも利用することが出来る。
【0041】
図1に例示したプロセスの場合、ヨウ素除去工程(8)は、固液分離工程(6)と
塩水精製工程(7)との間に設けられているが、例えば、カルシウム分除去工程(3)や固液分離工程(6)の直後に設けてもよい。同様に、塩水精製工程(7)も、図1に例示した場所に限定されず、ヨウ素除去工程(8)と共に又は別個にカルシウム分除去工程(3)や固液分離工程(6)の直後に設けてもよい。そして、ヨウ素除去工程(8)と塩水精製工程(7)とを前後に組み合せて設ける場合、これらの前後関係は任意に選択することが出来る。また、電解工程(9)で得られた塩素を塩酸に転換する塩酸製造工程(12)としては、EDC製造工程(10)を採用せず、直接に塩素を塩酸に転換する工程を採用してもよい。
【実施例】
【0042】
本発明は上記の様にして実施されるが、本発明におけるヨウ素除去工程およびヨウ素除去工程で使用された陰イオン交換樹脂の再生工程についての参考例を以下に示す。
【0043】
参考例1及び2:
塩素および少量のヨウ素を含む都市ごみをガス化改質し、水素と一酸化炭素を主体とする発生ガスを塩酸で洗浄した。ヨウ素はヨウ素イオンの形態で存在した。洗浄液に過酸化水素を添加し、第一鉄イオンを第二鉄イオンとし、水酸化ナトリウムを添加し、pHを5レベルに調節し、鉄分を水酸化第二鉄として除去した。得られた溶液の酸化還元電位は190mVであった。更に、pHを9レベルとして重金属を除去した後、pHを10レベルとし、カルシウムイオンを二酸化炭素により炭酸カルシウムとして除去した。得られた溶液の酸化還元電位は210mVであった。
【0044】
次いで、濃縮・晶析し、塩化ナトリウムが95重量%の塩を得た。塩中のヨウ素の形態はヨウ素イオン単独であり、その濃度は14mg−I/kgであった。得られた塩を水で溶解し、塩化ナトリウム濃度が所定濃度の塩水を得た。この液100gに塩基性イオン交換樹脂(三菱化学製「PA318」)を10g加え、20℃で3時間撹拌した。その後、塩水をサンプリングし、イオンクロマトでヨウ素イオンの分析を行った。ヨウ素酸を分析する場合、前処理として、硫酸酸性下で亜硫酸ナトリウムで還元処理し、全ヨウ素イオンを元々のヨウ素濃度を差し引いて求めた。その結果、塩水中のヨウ素濃度は表1の様になった。
【0045】
【表1】

【0046】
参考例3:
塩素および少量のヨウ素を含む都市ごみをガス化改質し、水素と一酸化炭素を主体とする発生ガスを塩酸で洗浄した。ヨウ素はヨウ素イオンの形態で存在した。洗浄液に過酸化水素を添加し、第一鉄イオンを第二鉄イオンとし、水酸化ナトリウムを添加し、pHを5レベルに調節し、鉄分を水酸化第二鉄として除去した。得られた溶液の酸化還元電位は190mVであった。更に、pHを9レベルとして重金属を除去した後、pHを10レベルとし、カルシウムイオンを二酸化炭素により炭酸カルシウムとして除去した。得られた溶液の酸化還元電位は190mVであった。溶液に含まれているヨウ素はヨウ素イオンの形態で存在した。
【0047】
次いで、濃縮・晶析し、塩化ナトリウムが95重量%の塩を得た。晶析過程の分離液をブローし、ヨウ素イオンをイオン交換樹脂で除去し、晶析の母液のヨウ素イオン濃度が高くならないように調整した。塩中のヨウ素濃度は0.5mg−I/kgであった。ヨウ素の形態はヨウ素イオンであった。得られた塩を水で溶解し、塩化ナトリウム濃度が25重量%の塩水を得た。液中のヨウ素イオン濃度は0.13ppmであった。この液100gに塩基性イオン交換樹脂(三菱化学製「PA318」)を10g加え、20℃で3時間撹拌した。その後、塩水をサンプリングし、イオンクロマトでヨウ素イオンの分析を行った。ヨウ素酸を分析する場合、前処理として、硫酸酸性下で亜硫酸ナトリウムで還元処理し、全ヨウ素イオンを元々のヨウ素濃度を差し引いて求めた。その結果、塩水中のヨウ素濃度は表2の様になった。
【0048】
【表2】

【0049】
参考例4〜9:
ジャケット付きの内径1.9cmのガラス製カラムに塩基性イオン交換樹脂(三菱化学製「PA318」)50mLを充填した充填カラムを使用して実験を行った。試薬のヨウ化カリウムを純水に溶解し、ヨウ素として20重量ppmになる様に調節した。この溶液300mLをSV3h−1で充填カラムの下部から定量ポンプで通液した。この間カラム出口でヨウ素は検出されておらず、全量が吸着され、ヨウ素6mgが吸着した樹脂を得ることが出来た。
【0050】
次いで、試薬の塩化ナトリウムを純水に溶解させ所定濃度(カウンターカチオンは除く分量換算、例えば次亜塩素ナトリウムの場合:ClO)に調節した。更に、この塩水に種々の酸化剤を所定の濃度になる様に添加した。
【0051】
次いで、ヨウ素を吸着させた前述の樹脂カラムに上記の酸化剤溶液をダウンフローで流通させた。カラム出口液を所定の時間でサンプリングし、UV検出器を有したイオンクロマトでヨウ素イオンの分析を行った。ヨウ素イオンの分析は、イオンクロマトで行った。ヨウ素酸を分析する場合、前処理として、硫酸酸性下で亜硫酸ナトリウムで還元処理し、全ヨウ素イオンを元々のヨウ素濃度を差し引いて求めた。再生率は、流出液中のヨウ素量を求め、初期の吸着量に対する回収率として求めた。得られた結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
参考例10及び11:
酸化剤を使用せず、表4に示す再生剤を使用した以外は、参考例4と同様に操作し、得られた結果を表4に示す。
【0054】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の好ましい態様の一例を示すプロセスフローシート
【図2】本発明における電解工程の一例を示すプロセスフローシート
【図3】本発明における塩酸工程の他の一例を示すプロセスフローシート
【符号の説明】
【0056】
1:洗浄工程
2:重金属除去工程
3:カルシウム分除去工程
4:濃縮工程
5:晶析工程
6:固液分離工程
7:塩水精製工程
8:ヨウ素除去工程
9:電解工程
10:EDC製造工程
11:熱分解工程
12:塩酸製造工程
13:EDC製造工程
14:精留工程
15:液中燃焼工程
16:塩酸製造工程
90:電解槽
91:隔膜
A:次亜塩素酸ナトリウム分解工程
B:塩水濃度調節工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却炉から発生するガスを塩酸と接触させ、当該ガス中の重金属および塩素分を溶解して回収する酸洗浄工程、酸洗浄工程から排出される洗浄廃液に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、当該洗浄廃液中の重金属を水酸化物として沈殿させて除去する重金属除去工程、重金属除去工程で得られた粗塩水を陽イオン交換樹脂と接触させ、ナトリウム以外の金属成分が除去された塩水を回収する塩水精製工程、塩水精製工程で回収された塩水を電気分解し、水酸化ナトリウム水溶液と塩素を生成させる電解工程、電解工程で得られた水酸化ナトリウム水溶液を前記の重金属除去工程に再利用する水酸化ナトリウム循環工程を包含することを特徴とする、焼却炉から発生するガスの処理方法。
【請求項2】
重金属除去工程と塩水精製工程との間に、粗塩水中のカルシウムイオンを炭酸ガス及び/又は炭酸イオンと反応させて沈殿除去するカルシウム分除去工程を有する請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
電解工程で得られた塩素を塩酸に転換する塩酸製造工程を有し、塩酸製造工程で得られる塩酸を酸洗浄工程に再利用する塩酸循環工程を有する請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
電解工程の前に、塩水中のヨウ素を除去するヨウ素除去工程を有する請求項1〜3の何れかに記載の処理方法。
【請求項5】
ヨウ素除去工程が酸化還元電位400mV(SHE)以下に制御された塩水と陰イオン交換樹脂とを接触させる方法である請求項4に記載の処理方法。
【請求項6】
ヨウ素除去工程で使用された陰イオン交換樹脂の再生工程を有し、当該再生工程がヨウ素イオン(I)をヨウ素酸イオン(IO)まで酸化可能な酸化性化合物を含む水溶液を使用する方法である請求項4又は5に記載の処理方法。
【請求項7】
酸化性化合物を含む水溶液として、電解工程から排出される次亜塩素酸ナトリウム含有塩水を使用する請求項6に記載の処理方法。
【請求項8】
焼却炉がガス化溶融炉である請求項1〜7の何れかに記載の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−88095(P2006−88095A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279556(P2004−279556)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(500280076)ヴイテック株式会社 (8)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】