説明

焼却炉の運転制御方法

【課題】使用する燃料の性状が変動する焼却炉の運転制御(燃焼制御)を行うに際して、モデルの変更やモデル用パラメータの調整なしに、操業負荷、操業状態に応じた適切な制御設定値を算出して、安定した運転制御(燃焼制御)を可能とする焼却炉の運転制御方法を提供する。
【解決手段】発生熱量等が時間経過に伴って変化する燃料を使用し、所定の操業制約条件下で運転される焼却炉において、少なくとも一つの操作端における制御設定値を、データベースに記録された過去の操業計測データ実績、過去の操業操作量実績、および現在の燃焼負荷目標、もしくは投入熱量目標、もしくは現在の燃料発生熱量実績に基づいて決定することを特徴とする焼却炉の運転制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
焼却炉における運転制御方法(燃焼制御方法)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の焼却炉においては、炉で燃焼した燃料から発生した廃熱を用いて発生させた蒸気をエネルギーとして有効利用する要求が増えている。その焼却炉から発生するエネルギーを効率的に回収するためには、炉を安定に操業することが必要となる。その一方、焼却炉で使用する燃料の多様化や経年変化による性状の変動、操業条件変更による使用燃料量(炉負荷)変動、炉に対する制御操作量の変動などの様々な要因に伴い、炉の燃焼状態が変化する。このため、従来より、このような炉の燃焼状態の変化に対応しつつ、焼却炉を安定的に操業するための焼却炉の様々な運転制御方法が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−8586号公報
【特許文献2】特開2008−76012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の多くは何らかのモデルを用いて運転制御を行っており、制御性能はモデルの精度に依存する。多様で性状が変動する燃料を使用する場合、実現象の変動は大きく、固定のモデルでは十分に制御を行うことができず、モデル変化に対応するためには、再度モデル構築、調整が必要になるという問題が発生する。
【0005】
これらに対応するために、特許文献1においては、取得したプロセスデータに基づいて物理モデルのための境界条件を設定し、その境界条件に基づいて現実の燃焼状態を示す解析データを算出し、理想の燃焼状態を示す解析データと現実の燃焼状態を示す解析データとに基づいて現実の燃焼状態を理想の燃焼状態へ近づけるための燃焼炉の各操作手段の操作量を算出している。しかしながら、この特許文献1では元となる物理モデル構造の変更はなされておらず、燃料性状の大きな変更には対応できない。
【0006】
また、他の対応方法として、特許文献2においては、燃料性状に応じて複数のモデルを切り替えて使用することも行われているが、焼却炉のような非線形で複雑な燃焼現象に対応するためには多数のモデルを用意しなければならず、そのメンテナンスが大変であり、メンテナンス工数の増大に繋がる。更に、通常、焼却炉では制御目的の制約を満たしつつ、出力を目標に追従させるための操作量が複数存在するため、それら操作量と制御出力が複雑に干渉し合うので、モデル構造を定めるのも困難である。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、使用する燃料の性状が変動する焼却炉の運転制御(燃焼制御)を行うに際して、モデルの変更やモデル用パラメータの調整なしに、操業負荷、操業状態に応じた適切な制御設定値を算出して、安定した運転制御(燃焼制御)を可能とする焼却炉の運転制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有している。
【0009】
[1]発生熱量、もしくは形状、もしくは構成元素成分が、時間経過に伴って変化する燃料を使用し、所定の操業制約条件下で運転される焼却炉において、
少なくとも一つの操作端における制御設定値を、データベースに記録された過去の操業計測データ実績、過去の操業操作量実績、および現在の燃焼負荷目標、もしくは投入熱量目標、もしくは現在の燃料発生熱量実績に基づいて決定することを特徴とする焼却炉の運転制御方法。
【0010】
[2]前記焼却炉がストーカ式焼却炉であり、前記操作端における制御設定値が、燃料投入速度、一次燃焼空気流量(空気過剰率)、火格子下空気流量配分、火格子速度、火格子上燃料厚さ、二次燃焼空気流量から選択される少なくとも一つであることを特徴とする前記[1]に記載の焼却炉の運転制御方法。
【0011】
[3]前記操業制約条件は、ボイラ蒸発量目標偏差、ボイラ蒸発量標準偏差、炉出口O濃度、炉内温度、炉下流部温度から選択される少なくとも一つであることを特徴とする前記[2]に記載の焼却炉の運転制御方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、使用する燃料の性状が変動する焼却炉の運転制御(燃焼制御)を行うに際して、モデルの変更やモデル用パラメータの調整なしに、操業負荷、操業状態に応じた適切な制御設定値を算出して、安定した運転制御(燃焼制御)を行うことができる。
【0013】
すなわち、データベースに記録、蓄積されている過去の操業データのうち、現在の燃焼負荷量目標や投入熱量目標などの操業設定条件に近いデータを選択し、更にそれらデータにおいて、各目標と実績の偏差が小さく、かつ操業制約条件を満足しているデータ時の制御設定値を用いることで、過去実績として安定した制御設定値を用いることが可能となり、しいては安定した操業が実現可能となる。また、複数の制御量と複数の制御出力が複雑に干渉する場合においても、それらを考慮したモデルを作成することなく、制御設定値の決定が可能となる。
【0014】
また、焼却炉としてストーカ式焼却炉を用いる場合には、制御設定値として、燃料投入速度、一次燃焼空気流量(空気過剰率)、火格子下空気流量配分、火格子速度、火格子上燃料厚さ、二次燃焼空気流量から選択される少なくとも一つとすることで、ストーカ式焼却炉において安定した燃焼が可能となる。
【0015】
さらに、焼却炉としてストーカ式焼却炉を用いる場合には、操業の制約条件として、ボイラ蒸発量目標偏差、ボイラ蒸発量標準偏差、炉出口O濃度、炉内温度、炉下流部温度から選択される少なくとも一つとし、操業状態の良いデータを選択することで、良好な燃焼が実現可能な制御設定値の決定が可能となる。
【0016】
なお、本発明では、目標との偏差が発生した時に対応するため、目標偏差分を補償する制御があるほうが望ましい。過去実績の操業状態の良いデータから算出した制御設定値であるが、場合よっては目標との偏差が発生することが想定される。そのため、PID制御などで、その偏差を補償するような構造になっているほうが望ましい。ただし、その場合でも、元々適正制御設定値に近い操作量が、目標値近傍にその補正量は小さくて済むため、制御の安定性に与える影響は小さい。過去実績で制約条件を満たすデータがない場合も考えられるが、その場合にはオペレータの手動介入で良い状態の操業を見つけ出す操作を行い、データを蓄積させた後、本発明を適用すると良い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態におけるストーカ式焼却炉を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における制御装置・計算機の構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における演算フローである。
【図4】本発明の一実施形態における一次燃焼空気用マトリックスの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、ここでは、焼却炉として、ストーカ式焼却炉を対象としている。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態におけるストーカ式焼却炉(ストーカ式ごみ焼却炉)の概略構成を示す図である。
【0020】
このストーカ式ごみ焼却炉は、火格子4を有する全連型(24時間連続運転)のストーカ式ごみ焼却炉であり、燃焼室1、ホッパ2、燃焼室1の出口側に設けられたガス混合室7、ガス混合室7の下流側に設置されたボイラ9を備えている。
【0021】
クレーンでごみホッパ2に投入されたごみは、給塵装置3によって燃焼室1内の火格子4上に送り込まれる。火格子4は往復運動し、その往復運動によってごみの撹拌および移動が行われる。火格子4の下をごみ搬送方向に四つの領域に分割した風箱から燃焼室1内に一次燃焼用空気が供給される。燃焼室1内に供給された火格子4上のごみは、火格子4上を移動しながら、火格子4の下から供給される一次燃焼用空気によって、乾燥、燃焼、後燃焼が行われ灰となり、灰落下口5より外部に排出される。一次燃焼用空気は、一次燃焼用空気ブロア6により各風箱を介して火格子4の下から燃焼室1内に供給される。また、各風箱に供給される一次燃焼用空気の量は、各風箱に一次燃焼用空気を供給する各配管に設けられた火格子下一次燃焼用空気ダンパ14a,14b,14c,14dにより調整される。さらに、ガス混合室7内には、二次燃焼用空気ブロア11からの二次燃焼用空気が供給され、燃焼室1内で燃焼しきれなかった燃焼排ガス中の可燃性ガスを完全燃焼させる。ガス混合室7内で二次燃焼させた後の燃焼排ガスは、下流側のボイラ9で熱エネルギーを回収、排ガス処理を行った後に、煙突8を通じて外部に排出される。
【0022】
ここで、燃焼室1内には図1に示すようにガスの攪拌混合のため、中間天井10を設けることが好ましいが、中間天井を有さない焼却炉においても本発明が適用できることはいうまでもない。
【0023】
また、燃焼室においてガス温度を計測する温度計12、および燃焼下流部のガス温度を計測する温度計13、ガス混合室のガス温度を計測する温度計16を備えている。また、ボイラ9で発生した蒸気量を計測するための流量計15も備えている。
【0024】
次に、この実施形態における制御装置・計算機の構成を図2に示す。
【0025】
コンソールを備えた制御装置において、焼却負荷や投入熱量設定などの各種設定を人間が入力を行う。また、制御装置においては、センサにより計測された値や、各操作端からの操作実績値も受け取る。各操作端としては、制御設定値として、給塵装置、一次燃焼空気用ブロア、火格子下空気流量配分用ダンパ、火格子駆動装置、二次燃焼空気用ブロアなどが挙げられる。制御装置からデータベースを備えた計算機に、前出のセンサ計測値や操作実績値が送られる。データベースでは、送られたデータを項目ごとに蓄積する。制御設定値用計算機では、データベースからデータを受け取り、また制御装置から負荷設定などの情報を受け取り、操作端毎の制御設定値を計算して、制御装置に返す。制御装置においては、現場の実際の操作端に対して操作量を与える。
【0026】
次に、各操作端の制御設定値を計算するための演算方法(演算手順)をフロー図(図3)を用いて説明する。
【0027】
[STEP1]
制御装置から受け取った操業データは一定時間サイクル毎に項目ごとにデータベースに蓄積・保存する。
【0028】
[STEP2]
次に、データベースから演算に使用する項目を過去N個分だけを読み出す。過去N個は現在から時間的に近いデータから読み出しても良いし、使用燃料に季節変動などの周期的な変動がある場合には、周期性を考慮した過去のデータ、例えば現在の季節と同じ季節のN個データを選択するなどしても良い。次に、読み出したデータベースの過去の操業データのうち、操業状態の良いデータのみ抽出する。操業状態が良いか否かを判断するための指標として、ここでは、ボイラ蒸発量目標偏差、ボイラ蒸発量標準偏差、炉出口O濃度、炉内温度、炉下流部温度を用いることとするが、操業の良否に用いることが可能な指標であれば何を用いても良い。ここで、ボイラ蒸発量目標偏差は以下の式1を用いる。
【0029】
ボイラ蒸発量目標偏差=(ボイラ蒸発量実測値−ボイラ蒸発量目標値)/ボイラ蒸発量目標値 ・・・式1
【0030】
操業状態の良いデータを選択するための式として、以下の式2を用いる。ここで用いる各操業状態判断指標のしきい値は各操作端共通でよい。これらの条件に当てはまるデータのみ操業状態の良いデータとする。
【0031】
La1≦ボイラ蒸発量目標偏差≦La2 ・・・式2
Lb1≦ボイラ蒸発量標準偏差≦Lb2 ・・・式2
Lc1≦炉出口O濃度≦Lc2 ・・・式2
Ld1≦炉内温度≦Ld2 ・・・式2
Le1≦炉下流部温度≦Le2 ・・・式2
ここで、
La1、La2:ボイラ蒸発量目標偏差しきい値
Lb1、Lb2:ボイラ蒸発量標準偏差しきい値
Lc1、Lc2:炉出口O濃度しきい値
Ld1、Ld2:炉内温度しきい値
Le1、Le2:炉下流部温度しきい値
上記のしきい値は、燃焼安定、炉機器保護、排ガス規制値などの観点から操業者ならば容易に決定可能なものである。
【0032】
[STEP3]
次に、STEP2で選択した操業状態の良いデータにおける各制御設定値の操作実績値を、各制御設定値毎に設けたマトリックスに収納する。ここで、各制御設定値とは、燃料投入速度、一次燃焼空気流量(空気過剰率)、火格子下空気流量配分、火格子速度、火格子上燃料厚さ、二次燃焼空気流量を指す。マトリックスは焼却負荷、計算燃料熱量ごとに区分されている。計算燃料熱量とは、至近の燃焼炉における熱収支計算から求めるものであり、一般的な方法であるため、ここでは説明を割愛する。また、使用燃料の熱量が炉投入前に判っている場合には、その値を用いても良い。
【0033】
以降、一次燃焼空気流量のみについて説明を行うが、他の各制御設定値においても同様な計算を行う。マトリックス例として一次燃焼空気流量のマトリックスを図4に示す。ここでは、焼却負荷は3段階(負荷A〜負荷C)、燃料熱量は9段階(燃料A〜燃料I)としているが、必要に応じてマトリックス数を増減しても構わない。
【0034】
また、このようにマトリックスにする利点として、設定値の可視化が可能となり、人間が計算値の確認を行いたい場合も容易となることが挙げられる。
【0035】
以降の説明のため、図4におけるマトリックスのしきい値を式3で示すパラメータで定義する。
【0036】
LOi(i=1〜2):焼却負荷側しきい値パラメータ ・・・式3
HUy(y=1〜8):燃料熱量側しきい値パラメータ ・・・式3
【0037】
[STEP4]
次に、現在の焼却負荷設定、および計算燃料熱量に応じたマトリックス位置のデータの平均値を取り、それを制御設定値とする。現在の焼却負荷設定、および計算燃料熱量の値は制御装置から受け取ったデータを使用する。例えば、現在の焼却負荷設定、および計算燃料熱量が以下の式4で示される値の場合、図4において、S24のレンジが選択され、ここに存在するデータ値と個数から、式5に基づいて、一次燃焼空気設定値を決定する。
【0038】
LO1≦LSETNOW<LO2 ・・・式4
HU3≦CALNOW<HU4 ・・・式4
ここで、
LSETNOW:焼却負荷設定
CALNOW:計算燃料熱量
そして、
FDFSET=Σi=NsS24i/Ns ・・・式5
ここで、
S24i:領域S24に存在数するデータの値
Ns:領域に存在するデータ数
FDFSET:一次燃焼空気設定値
【0039】
マトリックス内にデータが存在しない場合には、近接するマトリックス平均値の内挿値、外挿値を用いてもよい。また、マトリックス内のデータの分散が大きい場合は、STEP2に戻り、燃焼状態判断のしきい値を厳しく、つまり範囲を狭めても構わない。
【0040】
今回例示した手法では焼却負荷、燃料熱量のマトリクスを用いて、現在の焼却負荷設定、および計算燃料熱量に応じたマトリックス位置のデータの平均値を計算する方法を示したが、抽出した過去の操業状態の良いデータの時の焼却負荷、燃料熱量と現在の焼却負荷、燃料熱量との距離を計算し、距離に応じた加重平均で設定値を求める手法でも良い。
【0041】
この実施形態においては、上記のような手法に基づき、モデルを使用することなく、過去の実績データ、および現在の負荷設定に基づき、良好な燃焼状態が実現可能な制御設定が計算可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 焼却室
2 ごみホッパ
3 給塵装置
4 火格子
5 灰落下口
6 一次燃焼用空気ブロア
7 ガス混合室
8 煙突
9 ボイラ
10 中間天井
11 二次燃焼用空気ブロア
12 燃焼室温度計
13 燃焼下流部温度計
14a〜14d 火格子下一次燃焼空気ダンパ
15 ボイラ蒸気流量計
16 ガス混合室温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生熱量、もしくは形状、もしくは構成元素成分が、時間経過に伴って変化する燃料を使用し、所定の操業制約条件下で運転される焼却炉において、
少なくとも一つの操作端における制御設定値を、データベースに記録された過去の操業計測データ実績、過去の操業操作量実績、および現在の燃焼負荷目標、もしくは投入熱量目標、もしくは現在の燃料発生熱量実績に基づいて決定することを特徴とする焼却炉の運転制御方法。
【請求項2】
前記焼却炉がストーカ式焼却炉であり、前記操作端における制御設定値が、燃料投入速度、一次燃焼空気流量(空気過剰率)、火格子下空気流量配分、火格子速度、火格子上燃料厚さ、二次燃焼空気流量から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の焼却炉の運転制御方法。
【請求項3】
前記操業制約条件は、ボイラ蒸発量目標偏差、ボイラ蒸発量標準偏差、炉出口O濃度、炉内温度、炉下流部温度から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項2に記載の焼却炉の運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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