説明

焼成なし炭素ナノシート複合体の製造方法、並びに該方法により得られた複合体を用いた有機性汚染物質の除去方法及び除去剤

【課題】有機性環境汚染物質を取り除くための処理剤を、高効率で、かつ、簡便な調製手段により提供する。
【解決手段】予め無機チタン塩をクエン酸と混合・撹拌して得られた溶液に、層状グラファイト酸化物又は層状グラファイト酸化物の分散液を混合し、混合物を90℃80分間還流し、これを100〜200℃で水熱処理して有機性汚染物質除去剤として有用な酸化チタン導入炭素ナノシート複合体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素ナノシート複合体の製造方法、並びに該方法により得られた複合体を用いた有機性汚染物質の除去方法及び除去剤に関するものであり、特に焼成することなしに炭素ナノシート複合体を製造する方法及び該炭素ナノシート複合体を用いた極微量の有機性汚染物質の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、残留性有機汚染物質(POPs)や環境ホルモン等の有機性環境汚染物質は、微量でも長期的に環境中に滞留し、人間を含む生物系に危害を及ぼすことが危惧されており、こうした極微量な有機性環境汚染物質の除去処理は、解決すべき重大な課題である。
これらの有機性環境汚染物質の除去処理方法として、吸着剤による吸着法、植物吸収法、触媒酸化、オゾン曝気、電気分解等による分解無害化法或いは吸着法と分解無害化法との組み合わせ等が挙げられることができ、これらに関する特許出願も数多く見られているが、いずれも対象物質の濃度は通常大きく、少ない場合でも数ppm以上である。
【0003】
本発明者らは、グラファイトを酸化して得たグラファイト酸化物をアルカリ中に分散し、或いは予め長鎖有機イオンで層間を拡張し、続いて金属或いは半金属酸化物のような硬い架橋剤を導入することにより、高表面積の含炭素多孔体複合体を合成できることを報告してきた(特許文献1〜3参照)。さらに、本発明者らは、グラファイト酸化物層状体を、より少量の有機金属種又は有機半金属種を用いて、メカニカル的に両者を均一的に混合させることで、効率的に、かつ短時間で有機金属種をグラファイト酸化物の層間に挿入できることも見出してきた。このような方法で得られた有機金属種挿入グラファイト酸化物は規則的な層状構造を保っており、有機金属種又は有機半金属種の仕込み量の増加に伴い、層間距離が次第に増大する結果となり、このような方法で得られた有機金属種挿入グラファイト酸化物を炭化等の後処理をすることにより、表面積1000m/g以上の含炭素多孔体複合材料を恒常的に合成することができることを見出した。そして、これらの方法において、有機金属種として有機チタン化合物を含有させた場合には、酸化チタンにより層間が拡張されたグラファイト酸化物の層状物を製造することができ、さらに驚くべきことに酸化チタンがグラファイト酸化物層に挿入されているにもかかわらず、光触媒活性を有することを見出した(特許文献4参照)。
【0004】
本発明者らは、このグラファイト酸化物層に挿入された酸化チタンの光触媒活性を利用して、有機性環境汚染物質を取り除くための処理剤としての有効性を確かめる過程で、前記酸化チタンが層間に挿入されているグラファイト酸化物の層状物について更に検討した結果、前記特許文献4に記載されているような、長鎖有機アミン、長鎖界面活性剤又は長鎖アルコール等による予備拡張処理を施すことなく、単にグラファイト酸化物の層状物を塩基性溶液中で撹拌することにより剥離して得られたシート状グラファイト酸化物を用いることによっても、酸化チタンを導入しうるという知見を得た。そして、導入する酸化チタンの原料として、予め有機チタン化合物を酸性水溶液中で加水分解して得られた透明ゾルを用いることにより、前記シート状グラファイト酸化物に導入される酸化チタンの結晶性を高めるとともに、その主成分を光触媒活性が高いアナターゼ微結晶とすることができることを見いだした。さらに、このようにして結晶性が高められた酸化チタンを、シート状グラファイト酸化物に導入してなる炭素ナノシート複合体は、従来の除去剤より速い除去速度で低濃度の有機性環境汚染物質を吸着・濃縮したうえに、光分解することができるものであることを発見するに至った(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開2003−192316号公報
【特許文献2】特開2004−217450号公報
【特許文献3】特開2004−217450号公報
【特許文献4】特開2006−272266号公報
【特許文献5】特願2007−107467号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献5の方法は、高温による焼結を必要とし、複合体を作製するための経済性の面でまだ充分なものではない。さらに、本発明者らが検討した結果、複合体中のチタニアの結晶形態を更に最適化することにより光分解活性の高効率化を図る可能性があることも見出した。
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであって、炭素ナノシート複合体を用いた有機性環境汚染物質を取り除くための処理剤について、高効率で、かつ、調製手段が簡便で、経済的に作製することが可能な処理剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述の目的を達成すべく鋭意研究を重ねたところ、無機チタン塩とクエン酸とを混合・撹拌して得られた溶液を用いることにより、高温での焼成を必要とすることなく、しかも、複合体中のチタニアの結晶形態を最適化できることを見出した。
【0007】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
(1)無機チタン塩とクエン酸とを混合・撹拌して得られた溶液と、グラファイト酸化物とを混合したのち、これを水熱処理することを特徴とする酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
(2)前記グラファイト酸化物が、層状グラファイト酸化物であることを特徴とする上記(1)の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
(3)上記(2)の製造方法において、前記水熱処理の前に、混合物を還流することを特徴とする酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
(4)前記グラファイト酸化物が、層状グラファイト酸化物を塩基性水溶液中で撹拌することにより得られたグラファイト酸化物であることを特徴とする上記(1)の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
(5)前記水熱処理を、100〜200℃で行うことを特徴とする上記(1)〜(4)の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
(6)前記酸化チタンが、アナターゼ微結晶を主成分とすることを特徴とする上記(1)〜(5)の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかの方法により得られた炭素ナノシート複合体からなり、その層間に有機性汚染物質が取り込むことができることを特徴とする有機性汚染物質除去用処理剤。
(8)上記(1)〜(6)のいずれかの方法により得られた炭素ナノシート複合体を用いて、有機性汚染物質をその層間に取り込むことを特徴とする有機性汚染物質の除去方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、高温焼成を必要とせず、しかも、製造された炭素ナノシート複合体は、その層間に有機性汚染物質を取り込むことにより、低濃度で存在する有機性汚染物質を吸着、濃縮し、省エネルギーの条件下で完全に無害化することができ、特に数〜数十ppb程度の極低濃度有機性汚染物質の除去処理への対応が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、グラファイト酸化物を基材として用い、これに酸化チタンが導入されてなる炭素ナノシート複合体の製造方法であって、この酸化チタンを構成する原料として、予め無機チタン塩をクエン酸とを混合・撹拌して得られた溶液(以下、「TC溶液」ということがある。)を用い、それにグラファイト酸化物を混合したのち水熱処理することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の方法に用いられるグラファイト酸化物(以下、「GO」ということがある。)は、層状グラファイト酸化物であっても、或いは、層が剥離した状態のグラファイト酸化物であっても良い。
層状グラファイト酸化物は、例えばグラファイトを濃硫酸と硝酸との混合液中に浸し、塩素酸カリウムを加え、反応させるか、或いは濃硫酸と硝酸ナトリウムの混合液中に浸し、過マンガン酸カリウムを加え、反応させることにより調製される。これらの処理によりグラファイトの炭素原子の少なくとも一部は、sp状態からsp状態に変化し、いわゆるベンゼン環を形成している炭素原子のような状態から飽和の脂肪族の炭素原子の状態に変化し、これらの変化した炭素原子に酸素原子や水素原子などが結合して、炭素の層上に酸素原子を導入することができる。このようにして製造されたグラファイト酸化物層状体の層間距離は、通常0.6〜1.1nm程度である。
【0011】
上記のようにして製造された層状グラファイト酸化物を、塩基性水溶液中に分散させることにより、層が剥離した状態のグラファイト酸化物となる。
具体的には、グラファイト酸化物を塩基性水溶液中で、好ましくは超音波処理等により、充分に撹拌、分散させることにより、グラファイト酸化物の層を剥離することができる。
【0012】
本発明の方法においては、前記の無機チタン塩とクエン酸とを混合・撹拌して得られた溶液(TC溶液)に、前記の層状グラファイト酸化物を混合するか、或いは前記の、層が剥離した状態のグラファイト酸化物の分散液を混合し、次に、得られた混合物を、水熱処理することにより、炭素のナノシート間に酸化チタンが導入された炭素ナノシート複合体を製造することができる。
【0013】
導入される酸化チタンの量を、モル数で、グラファイト酸化物(GO)のイオン交換可能な量(以下、[H]と略す。)の70倍以下、好ましくは5から30倍となるように、TC溶液とグラファイト酸化物とを混合させる。
ここで、GOの[H]とは、重量単位あたりのGOの陽イオン交換容量(mmol/g)(Cation Exchange Capacity、CECと略す)に、GOの重量をかけたものである。GOのCECは、GOを水酸化ナトリウムで処理して、ナトリウムイオンに交換にした後、これを塩酸などの酸で滴定して決定することができる。
GOの[H]の値は、使用するグラファイトや酸化方法などにより異なるが、例えば、後記する実施例において製造されたGOのCECが、6.74mmol/gであった場合、このGOを1000g使用した場合には、その[H]は6.74モルであり、これに対する、酸化チタンのモル数が、70倍以下、好ましくは5〜30倍である無機チタン塩を使用すればよいことになる。
【0014】
本発明において、グラファイト酸化物として、前記の層状グラファイト酸化物を用いた場合には、前記TC溶液と混合した後、還流を行うのが好ましく、この還流は室温〜180℃、好ましくは50〜110℃で、30分〜6時間、好ましくは30分〜3時間行う。
【0015】
TC溶液とグラファイト酸化物の混合物を用いて、酸化チタンが導入された安定な炭素ナノシート複合体を形成させるためには、該混合物を水熱処理することが必要である。
水熱処理は、100〜200℃、好ましくは120〜150℃の温度で、1〜10時間処理することにより行われる。当該水熱処理により、焼成をすることなく、酸化チタンが導入された安定な本発明の炭素ナノシート複合体が得られる。
具体的には、層状グラファイト酸化物とTC溶液の混合物に、好ましくは混合物を還流した後、水熱処理を施すか(「合成方法1」という。)、あるいは、層状グラファイト酸化物を塩基性溶液中に分散させて得られたグラファイト酸化物の分散液にTC溶液を混合した後、水熱処理を施す(合成方法2)ことにより、本発明の炭素シート複合物を得ることができる。
【0016】
本発明の方法において使用される無機チタン塩としては、前記した水熱処理により酸化チタンとなるものであればよく、好ましくは酸化チタンの大部分がアナターゼ型の酸化チタンの結晶となるものが好ましい。より具体的には、例えば、塩化チタン、硫酸チタン、酢酸チタン等が挙げられ、特に好ましい無機チタン塩としては、4塩化チタン(TiCl)が挙げられる。
【0017】
本発明の炭素ナノシート複合体はポアが形成されているため、光触媒により処理される有機性汚染物質などの被処理物が吸着されやすくなり、吸着されて酸化チタンと接触してよりよく分解されるものと考えられる。
さらに、本発明は、前記した本発明の炭素ナノシート複合体を有機性汚染物質の除去剤として使用を提供するものである。本発明の炭素ナノシート複合体は、ナノサイズのシート状炭素のシート上に、光触媒活性を有する酸化チタンが存在していることを特徴とするものである。本発明の除去剤は、大きな比表面積を有しているだけでなく、層間が拡張されて大きなポア径を有しており、吸着能に優れ、有機物を吸着して内部の酸化チタンに接触させることにより優れた分解能が発揮されるものと考えられる。
【0018】
本発明の除去用処理剤により除去される極微量の有機性汚染物質としては、ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニール類(PCB)、ポリ臭化ビフェニール類(PBB)、ヘキサクロロベンゼン(HCB)、ペンタクロロフェノール(PCP),2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、アミトロール、アトラジン、アラクロール、シマジン(CAT)、ヘキサクロロシクロヘキサン、エチルパラチオン、カルバリル(NAC)、クロルデン、オキシクロルデン、trans−ノナクロル、1,2−ジブロモ−3−クロロプロパン、DDT、DDE、DDD、ケルセン、アルドリン、エンドリン、ディルドリン、エンドスルファン(ベンゾエピン)、ヘプタクロル、ヘプタクロルエポキサイド、マラチオン、メソミル、メトキシクロル、マイレックス、ニトロフェン、トキサフェン、トリブチルスズ、トリフェニルスズ、トリフルラリン、アルキルフェノール(C5〜C9)、ノニルフェノール、4−オクチルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸ジ−2−エチルへキシル、フタル酸ジブチルベンジル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジエチル、ベンゾ(a)ピレン、2,4−ジクロロフェノール、アジピン酸ジ−2−エチルへキシル、ベンゾフェノン、4−ニトロトルエン、オクタクロロスチレン、アルディカーブ、ベノミル、キーポン(クロルデコン)、マンゼブ(マンコゼブ)、マンネブ、メチラム、メトリブジン、シペルメトリン、エスフェンバレレート、フェンバレレート、ペルメトリン、ビンクロゾリン、ジネブ、ジラム、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジプロピル等の環境ホルモン、及びフラン類などの残留性有機汚染物質などが挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
なお、各実施例及び比較例においては、層状グラファイト酸化物(GO)として、Hummers及びOffemanの方法(W. Hummers and R. E. Offeman, J. Am. Chem. Soc., 80, 1339 (1958))により製造されたものを用いた。この層状グラファイト酸化物のCECは、6.74mmol/gであった。
【0020】
(実施例1:層状グラファイト酸化物を用いた合成方法1)
クエン酸と4塩化チタンの濃度がそれぞれ0.384規定、0.493規定になるようにクエン酸、4塩化チタン、水を混合・撹拌して、TC溶液を得た。
得られたTC溶液28mlに対して、100mgの層状グラファイトを混合し、室温で3時間撹拌し、その後、90℃で80分間還流して、TC溶液とグラファイト酸化物の混合物を得た。
次いで、該混合物を、水で数回洗浄したのち、脱イオン水10mlに分散させ、該分散液に、150℃で2時間の水熱処理を施した。
その後、空気中で1昼夜放置し、さらに1昼夜、真空乾燥して、炭素ナノシート複合体(以下、「GOnd−TC−90R80−150HT2」と記載する。)を得た。
【0021】
(実施例2:層状グラファイト酸化物を用いた合成方法1)
実施例1における還流の温度を、110℃に変えた以外は、実施例1と同様にして、炭素ナノシート複合体(以下、「GOnd−TC−110R80−150HT2」と記載する。)を得た。
【0022】
(実施例3:グラファイト酸化物の分散液を用いる合成方法2)
クエン酸と4塩化チタンの濃度がそれぞれ0.6規定、0.77規定になるようにクエン酸、4塩化チタン、水を混合・撹拌して、TC溶液を得た。
一方、層状グラファイト酸化物(GO)の100mgを、10mlの0.05N NaOH水溶液中に加え、これを30分間超音波処理により撹拌して、層状グラファイト酸化物を剥離し、グラファイト酸化物の分散液を得た。
前記TC溶液18mlと、前記グラファイト酸化物の分散液とを混合し、室温で3時間撹拌した。
得られた混合液に、150℃で2時間の水熱処理を施した。
その後、遠心分離し、得られた固形物を、脱イオン水とエタノールで洗浄し、1昼夜、真空乾燥して、炭素ナノシート複合体(以下、「GO−TC−150HT2」と記載する。)を得た。
【0023】
(比較例1:特願2007−107467号の実施例1)
テトライソプロポキシチタン(Ti(OC)11.36gを、0.36NのHCl水溶液中に加え、50℃で3〜5時間反応させ、透明なゾルを得た。得られたゾルのテトライソプロポキシドに対するHClのモル比は、1.08であった。
得られた透明チタニアゾルと、上記のグラファイト酸化物(GO)の分散液とを混合し、50℃で3時間撹拌した。
使用した透明チタニアゾルの量は、Tiのモル数で、GOの[H]に対して、22.3倍であった。
次いで得られた生成物を水洗し、真空乾燥した後、真空中、550℃で焼成して炭素ナノシート複合体(以下、「Ti−1.08−GO−22.3−550」と記載する。)を得た。
【0024】
(比較例2)
実施例3において、グラファイト酸化物の分散液を用いない以外は、実施例3と同様にして、単独の酸化チタン(以下、「TC−150HT2」と記載する。)を得た。
【0025】
実施例1〜3、比較例1、2、及び市販品の酸化チタンST−01のそれぞれについて、熱重量分析からTiO含有量(wt%)を、X線回折法からアナターゼ結晶サイズ(LA(101)/nm、ここで、LA(101)=0.9λ/βcosθ;なお、λ=0.15418nm(CuKα線波長)、β=A(101)の回折ピークの半値幅、θ=回折角度)を、窒素吸着等温線に対するBET解析からBET比表面積(SBET/m−1)及び窒素吸着等温線に対するBJH解析からメソポア容積(Vmeso/mlg−1)、メソポアサイズ(Dmeso/nm)を測定した。得られた結果を、表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
30℃において初濃度(Cと記載する)50ppmのメチルオレンジ(以下、「MO」と記載する。)溶液中に、2L溶液/1gサンプルの割合で、実施例1〜3及び比較例1で得られた炭素ナノシート複合体、及び比較例2で得られた酸化チタンを投入し、暗状態及び光照射状態下でのMO濃度の経時変化を測定した。
その結果を図1に示す。図中、□は実施例1を、●は実施例2を、▲は実施例3を、○は比較例1を、△は比較例2を、それぞれ示し、「Dark」とは、光が完全にカットされた暗状態であり、サンプルのMOに対する吸着作用だけが働く状態である。一方、「UV」とは、暗状態で24時間吸着平衡させた後、6×15Wの殺菌灯で光照射を行う状態であり、光分解作用だけが働く状態である。
【0028】
また、実施例、比較例、及び市販品について、ゼロ次のメチレンオレンジ(MO)の光分解初期速度定数(k)を、以下の方法により算出した結果を、表1に示す。
光照射状態のC/C〜tの関係から6時間以内の測定点を直線で近似し、その切片(b)から、下式によりkを計算する。
=b×C×V/W
ここで、Cは初期濃度(50ppm、ppm≒mg/L)、Vは溶液容積(0.02L)、Wは触媒重量(10mg)である。
【0029】
表1及び図1から、本発明により得られた複合体は、単独なTiO2(比較例2)と比べ、有機物に対する吸着能がきわめて高く、比較例1のものよりも光触媒分解能が大きく向上されたことがわかる。そして、市販品と比べ、最高で光分解速度定数が3倍以上も大きい。
以上のことから、本発明の方法で製造された炭素ナノシート複合体が、吸着濃縮作用だけでなく、高い光分解活性も有しており、この両方による協同作用で効率よく低濃度有機汚染物質を除去できるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、光触媒として有用なアナターゼ結晶を主成分とする二酸化チタンが導入されたグラファイト酸化物、及び優れた吸着濃縮特性と強い光触媒活性を有する有機性汚染物質除去剤を提供するものであり、しかも光触媒の活性点がグラファイト酸化物の上に存在していることから、低濃度の有機性汚染物質に対し選択的に取り除くことができる。したがって本発明を生鮮野菜等の表面処理用水や飲用水等に好適な有機汚染物質が高度に除去された超清浄水の製造に利用することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例及び比較例の、暗状態及び光照射状態のMO濃度変化を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機チタン塩とクエン酸とを混合・撹拌して得られた溶液と、グラファイト酸化物とを混合したのち、これを水熱処理することを特徴とする酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
【請求項2】
前記グラファイト酸化物が、層状グラファイト酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法において、前記水熱処理の前に、混合物を還流することを特徴とする酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
【請求項4】
前記グラファイト酸化物が、層状グラファイト酸化物を塩基性水溶液中で撹拌することにより得られたグラファイト酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
【請求項5】
前記水熱処理を、100〜200℃で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
【請求項6】
前記酸化チタンが、アナターゼ微結晶を主成分とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により得られた炭素ナノシート複合体からなり、その層間に有機性汚染物質が取り込むことができることを特徴とする有機性汚染物質除去用処理剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により得られた炭素ナノシート複合体を用いて、有機性汚染物質をその層間に取り込むことを特徴とする有機性汚染物質の除去方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−57252(P2009−57252A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226640(P2007−226640)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省委託研究「試験研究調査委託費(地球環境保全等試験研究に係るもの)/吸着濃縮機能を持つ光分解法による極微量な残留性有機汚染物質(POPs)の高効率無害化処理技術に関する研究」産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】