説明

焼成用転写フィルム及び機能性パターン付き基体の形成方法

【課題】機能性パターンの転写性に優れ、焼成による有機物の熱分解ガスの放出をスムーズに行うことができ、形状や機能不良等の欠陥のない機能性パターンを基体上に形成できる焼成用転写フィルムを提供する。
【解決手段】剥離フィルムと、剥離フィルムの一方の表面に接するように形成された上記積層体とを含み、積層体はさらに、焼成用転写フィルムを基体の表面に貼着するための粘着層と、剥離フィルムと粘着層との間に形成された機能性パターンとを含み、機能性パターンは、無機粉体と焼成により除去可能な第1の有機物とを含有し、粘着層は、焼成により除去可能であって第1の有機物とは異なる第2の有機物を含有し、積層体を基体の表面に転写し焼成するときの焼成条件における第1の有機物の熱分解温度(Tdb)と、第2の有機物の熱分解温度(Tda)と、無機粉体の融着温度(Tw)とが、Tdb<Tda<Twの関係を満たす、焼成用転写フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス等の基体に配線回路や電極等の導電性パターンや模様等の装飾パターンを形成すための転写フィルムに関するもので、特に基体に機能性パターンを含む積層体を転写した後、焼成するのに適した焼成用転写フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上への電気回路等の導電性パターンの形成、陶磁器の装飾、プラズマディスプレイパネルにおける電極パターンやリブの形成、車載用ガラス板へのアンテナ形成など、ガラスや陶磁器等の基体に機能性パターンを付与することが各分野で行われている。
機能性パターンを形成する方法は、例えば、フォトリソグラフィー/エッチング法やスクリーン印刷法、スパッタリング法などが広く採用されている。しかし、基体の形状が平滑な面であれば直接上記の方法で形成することも可能であるが、基体が湾曲している場合や凹凸している場合では、上記の方法では対応ができない。そのためフィルム上に機能性パターンをあらかじめ形成しておき、フィルムから基体へこの機能性パターンを転写する転写方式が検討されている。転写方式であれば、基体の寸法や形状にかかわらず、機能性パターンを基体に追従させることが可能で、パターニング性や生産性に優れ、低コストで、任意の基体上に形成することができる。例えば、特許文献1〜5にはこのような転写型フィルムが記載されている。
【0003】
特許文献1には、印刷台紙上に複数の着色層と着色層の間に中間層をスクリーン印刷により順次形成し、最上部にカバー層を設けた陶磁器装飾用の転写紙が、特許文献3には、ベースフィルム上に、剥離可能に設けられた転写層と応力吸収層を設け、転写層はガラスフリットを含む無機成分と、焼成除去可能な有機成分を含有し、応力吸収層の複素弾性率を転写層の複素弾性率より小さくしたプラズマディスプレイパネル作製用の転写シートが、特許文献4には、転写フィルム上に積層された導体パターンを車載用ガラス板に転写方式で形成した車載用対数周期ダイポールアンテナが、特許文献5には、転写フィルム上にガラスペーストにより印刷パターンを形成し、この印刷パターンを基板上に熱転写し、転写された印刷パターンを焼成する電気回路等のパターン形成方法が、それぞれ開示されている。これらは基体に転写した後、焼成することにより機能性パターンを形成する焼成用転写フィルムである。
【0004】
【特許文献1】特開平05−139020号公報
【特許文献2】特開平11−135009号公報
【特許文献3】特開平11−260250号公報
【特許文献4】特開2001−211020号公報
【特許文献5】特開2000−151080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
焼成用転写フィルムの機能性パターンを含む積層体は、少なくとも機能性パターンを基体に接着するための接着層を必要とし、必要によりいくつかの層が積層された構成を有する。機能性パターンは、焼成後の機械的強度を発現するための熱融着可能な無機粉体と、焼成前の形状を維持し、焼成除去される有機物を含有し、接着層は機能性パターン自体に接着成分を含有させるか、これとは別に設けられ、焼成によって分解除去される有機物により構成される。
有機物は高温で焼成すると、各有機物固有の温度で、熱分解がおこり、熱分解ガスとなって除去される。一方、機能性パターン中の無機粉体は、粉体表面が溶融し、粉体同士や基体と融着する。ところが、機能性パターン以外の層は有機物が主成分となり、焼成時に発生する熱分解ガスの発生量が機能性パターンと比較して多いため、機能性パターンに含まれる無機粉体の影響で熱分解ガスの放出を妨げられ、気泡を内包した機能性パターンの焼成体が形成されたり、熱分解ガスの圧力が増加して、機能性パターンが破壊したり、基体から剥離するなどの焼成不良をしばしば引き起こす。このため、欠陥のない良好な機能性パターンの焼成体が形成されるためには、機能性パターンを含む積層体から有機物の熱分解ガスがスムーズに放出されることが重要となる。
【0006】
よって本発明の目的は、機能性パターンを含む積層体の転写性に優れ、焼成による有機物の熱分解ガスの放出をスムーズに行うことができ、形状や機能不良等の欠陥のない機能性パターンの焼成体を基体上に形成できる焼成用転写フィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基体の表面に機能性パターンを含む積層体を転写し、焼成することにより、機能性パターンの焼成体を形成するために用いる、焼成用転写フィルムであって、剥離フィルムと、剥離フィルムの一方の表面に接するように形成された上記積層体とを含むものであり、上記積層体はさらに、焼成用転写フィルムを基体の表面に貼着するための粘着層と、剥離フィルムと粘着層との間に形成された機能性パターンとを含み、機能性パターンは、無機粉体と焼成により除去可能な第1の有機物とを含有し、粘着層は、焼成により除去可能であって上記第1の有機物とは異なる第2の有機物を含有する、焼成用転写フィルムである。
本発明の焼成用転写フィルムは、剥離フィルム上から圧力を加えて機能性パターンを基体に貼り合わせる。その後、剥離フィルムを剥がして機能性パターン、粘着層を同時に焼成することにより余分な有機物を分解除去し、基体上に機能性パターンを付与することができる。
【0008】
本発明による焼成用転写フィルムは、さらに、上記積層体を基体の表面に転写し焼成するときの焼成条件における上記第1の有機物の熱分解温度(Tdb)と、上記第2の有機物の熱分解温度(Tda)と、無機粉体の融着温度(Tw)とが、Tdb<Tda<Twの関係を満たすことを特徴とする、焼成用転写フィルムである。
【0009】
本発明の一実施形態によると、上記積層体は、機能性パターンと粘着層との間に形成された中間層を備える。
上記本発明の一実施形態は、焼成条件における上記第1の有機物の熱分解温度(Tdb)と、上記第2の有機物の熱分解温度(Tdm)と、粘着層に含有される有機物の熱分解温度(Tda)と、無機粉体の融着温度(Tw)とが、Tdb<Tdm<Tda<Twの関係を満たすことを特徴とする。
【0010】
本発明の別の実施形態によると、上記積層体は、機能性パターンを保護するための、剥離フィルムと機能性パターンとの間に形成された保護層を備え、この保護層は、焼成により除去可能であって上記第1の有機物とは異なる第3の有機物を含有する。
上記別の実施形態は、焼成条件における上記第3の有機物の熱分解温度(Tdp)と、上記第1の有機物の熱分解温度(Tdb)とが、Tdp<Tdbの関係を満たすことを特徴とする。
本発明のさらに別の実施形態によると、焼成条件における粘着層に含有される有機物の熱分解ガス発生速度の最大値が、粘着層に含有される有機物の最初の質量を基準として5wt%/sec未満である。
【0011】
本発明はまた、基体の表面に機能性パターンを含む積層体を転写し、焼成することによる、機能性パターン付き基体の形成方法であって、本発明による焼成用転写フィルムを、粘着層を介して基体の表面に貼着し、焼成用転写フィルムの剥離フィルムを剥離し、機能性パターンを含む積層体が転写した基体を形成し、積層体が転写した基体を、積層体に含有される有機物が基体表面から遠い順に熱分解する焼成条件で焼成することを特徴とする機能性パターン付き基体の形成方法である。
本発明の一実施形態によると、焼成条件は、粘着層に含有される有機物の熱分解ガス発生速度の最大値が、粘着層に含有される有機物の最初の質量を基準として5wt%/sec未満である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の焼成用転写フィルムは、基体上に転写された機能性パターンを含む積層体の焼成において、下層よりも上層に含有される有機物の熱分解温度を低くし、そして無機粉体の融着温度を各有機物の熱分解温度よりも高くすることにより、有機物の熱分解ガスの放出が良好になり、形状や機能不良等の欠陥のない機能性パターンを基体上に形成することができる。また、粘着層に含有される有機物の熱分解ガス発生速度の最大値を5wt%/sec未満に制御することにより、前記効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である焼成用転写フィルムの構造を例示する拡大断面模型図である。本発明の一実施例によると、剥離フィルム1と、剥離フィルム1上に無機粉体と焼成除去可能な有機物を含有してなる機能性パターン2と、焼成除去可能な有機物よりなる粘着層3とを備えた構成であり、焼成用転写フィルムを前記粘着層3を介して基体(図示せず)に貼り合わせた後、前記剥離フィルム1を剥がし、機能性パターンを含む積層体が粘着された基体を焼成することにより有機物を分解除去し、基体上に機能性パターンの焼成体を形成することができる。図2は、機能性パターン2と粘着層3との間に、焼成除去可能な有機物による中間層4をさらに備えた構造を、図3は、機能性パターン2と剥離フィルム1との間に、焼成除去可能な有機物による保護層5をさらに備えた構造を例示した拡大断面模型図を示した。
【0014】
剥離フィルムは機能性パターンを含む積層体と剥離性を有するものであれば良く、フィルム基材をそのまま用いても良いが、必要によりフィルム基材上にシリコーン系やアルキド樹脂系などからなる剥離層や再剥離用の微粘着層を形成した構成であっても良い。また、前記剥離フィルム1を第1剥離フィルム1とし、機能性パターンを含む積層体の粘着層面に第2剥離フィルム6を貼り合わせ、この2枚の剥離フィルムの間に機能性パターンを含む積層体を挟持した構成としてもよい。図4は、第1剥離フィルム1と第2剥離フィルム6との間に、機能性パターン2と粘着層3とからなる積層体を設けた構造を、図5は、機能性パターン2と粘着層3との間に中間層4をさらに備えた構造を、図6は、機能性パターン2と第1剥離フィルム1との間に保護層5をさらに備えた構造を例示した拡大断面模型図を示した。この場合、第1剥離フィルム1側の剥離荷重よりも、第2剥離フィルム6側の剥離荷重が軽いことが必要である。剥離界面の接着強度は、基材や剥離層の種類、膜厚などによって調整可能である。
剥離フィルムの基材は、転写時の施工性を考慮してフレキシブル性のある基材が好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、アクリルなどのプラスチックや紙などが使用できる。また基材の厚みは特に限定されるものではないが、転写時の圧力や熱の伝達性とフィルムの屈曲性とのバランスの点から最適な厚みを選定すればよく、25〜250μm、好ましくは35〜125μm、さらに好ましくは50〜75μmが、製造上もしくは施工上好適に用いられる。
剥離フィルムは、機能性パターンを含む積層体を構成する機能性パターンと粘着層、さらに中間層や保護層を印刷方式等で形成するときの支持体の役割も有している。
【0015】
剥離フィルム上への機能性パターンや各層の形成方法は、スクリーン印刷やオフセット印刷などの印刷方式やグラビアコーティングなどの塗布方式を用いることができる。パターンを形成する場合は、上記印刷方法が好適に用いられる。広い面積に一様に層を形成する場合は、上記印刷方法に加えて上記塗布方法も好適に用いられる。
上記印刷方法や塗布方法により、機能性パターンや各層を形成する場合は、これらに含有される無機粉体や有機物を溶剤中に分散または溶解してなる塗布液(ペースト)を作製し、使用する。溶剤としては、無機粉体や有機物の溶解性や分散性、そして印刷工程に適した沸点を考慮し、水系、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、炭化水素系などを、単独または混合して使用することができる。そしてこれらの溶剤は、粘度やチキソ性など印刷適正、そして固形分を適宜調整して用いる。これらの溶剤は、機能性パターンの印刷や塗布後に大部分が揮発するが、残留する分は焼成によって揮発または分解除去される。
必要により印刷時の気泡対策や粘度調整のために消泡剤や増粘剤などの添加剤を使用してもよい。添加剤は焼成によって分解除去できるものを使用する。
【0016】
機能性パターンは、主に焼成後の機械的強度を発現するための基体に熱融着可能な無機粉体と、焼成後の所望の機能に応じた各種機能性材料としての無機粉体と、焼成前の形状を維持し、焼成除去される有機物とを含有する。
熱融着可能な無機粉体としては、各種機能性材料を焼成後に基体に担持させ、耐久性を向上させるなどの目的のために、ガラスフリットなどの材料が使用可能であり、焼成温度や熱収縮率などのバランスを考慮して、好適な組成のガラスフリットを選定すればよい。
機能性材料としては、焼成後の所望の機能に応じた材料を適宜選択して使用する。例えば、配線や電極などには、Au、Ag、Cu、Ni、Co、Sn、Pb、Zn、Bi、Inの粉体やこれらを含む合金の粉体を使用することが可能である。またコンデンサ部品などの誘電体や高抵抗部品などに使用される材料として、BaTiO、SiC、TiO2、SiO2、やRuOなどの粉体が挙げられる。
有機物としては、焼成除去可能な材料であれば特に限定されない。焼成による熱分解によって除去されやすい材料としては、アクリル、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエステルなどの樹脂が挙げられ、単独、またはこれらを混合して使用することができる。また有機成分として、焼成前の塗膜に可とう性を付与する目的で可塑剤を加えてもよい。可塑剤としては脂肪酸エステルやリン酸エステルなどから適宜選定して用いることができる。
機能性パターンは一つのパターンでも複数のパターンでもよく、複数のパターンを積層しても、個々に併設しても良い。機能性パターンの膜厚は、目的とする機能に合わせて適宜決定される。
【0017】
粘着層は焼成除去可能な有機物であれば特に限定されないが、常温で粘着性を有するアクリル系、ゴム系などの粘着剤が使用できる。粘着層は剥離フィルムなどの支持体全面を覆うように形成しても良く、機能性パターン上に同様のパターンを形成してもよい。
粘着層の膜厚は、1〜20μm、好ましくは2〜10μmである。1μm未満だと粘着力が不足し転写性が低下し、20μmよりも厚くなると熱分解ガスの発生量が多くなるため機能性パターンに欠陥が生じやすく焼成不良になりやすい。粘着層の膜厚は、粘着力を維持できる範囲で、できるだけ薄膜にすることが好ましい。
【0018】
本発明は機能性パターンと粘着層との間に中間層を設けることができる。中間層は粘着層の形成に使用される粘着剤に含有する溶剤や有機物の機能性パターンへの浸み込みを防止するバリア性の役割を担っている。
中間層は焼成除去可能な有機物であれば特に限定されないが、機能性パターンに用いられる有機物と同様なものから選ぶことができる。特にガラス転移温度が50℃以上である高分子樹脂が、バリア効果が高く好ましい。
中間層は剥離フィルムなどの支持体全面を覆うように形成しても良く、機能性パターン上に同様のパターンを形成してもよい。中間層の膜厚は0.5μm以上であればバリア性の効果はあるが、好ましくは1μm以上を必要とする。中間層が厚くなると熱分解ガスの発生量が多くなるため機能性パターンに欠陥が生じやすく焼成不良となる。よって、中間層の膜厚は10μm以下、好ましくは5μm以下で、できるだけ薄膜にすることが好ましい。
【0019】
保護層は基体に転写した焼成前の機能性パターンを異物の付着や傷から保護する役割を担っている。また機能性パターンは、含有する有機物の割合が少ないため焼成前の膜質は硬く脆い傾向にあるため、転写フィルムを屈曲させると機能性パターンにひび割れが発生しやすい。このため保護層はフィルムを屈曲した際のひび割れなどを防止する役割も担っている。保護層は焼成除去可能な有機物であれば特に限定されないが、機能性パターンに用いられる有機物と同様のものから選ぶことができる。
保護層は機能性パターンを覆うように形成してもよく、機能性パターンと同様のパターン形状で形成してもよい。保護層の膜厚は、0.1〜2μmであることが好ましい。
【0020】
本発明の一実施例によると、機能性パターンは保護層と中間層で挟持されているため屈曲性が向上し、基体への貼り合わせや転写などの施工作業性が高くなる。また保護層や中間層が粘着層を覆うため、転写後に粘着層が剥き出しとならず、粘着層の粘着性による異物付着を防止できる。さらに細線やドットなどの機能性パターンであっても、保護層や中間層、粘着層を支持体全面に形成することにより、機能性パターンのパターン形状やサイズに依存しないで基体との接触面積を広くでき、接着力が十分に維持される。また複数の機能性パターンを一度に転写可能となり、位置精度も向上するなどの利点がある。
【0021】
次に本発明の焼成用転写フィルムを用いて基体の表面に転写された機能性パターンを含む積層体が、焼成性に優れることについて説明する。
機能性パターンは焼成によって有機物が熱分解され除去された後、無機粉体が融着してパターン形成される必要がある。有機物は高温に暴露すると各有機物固有の温度で熱分解がおこり熱分解ガスとなって除去される。そして機能性パターンに含有されるガラスフリットや機能性材料のような無機粉体は溶融し、溶融した粉体同士の融着や溶融した粉体と基体との融着が発生する。(このとき機能性材料はガラスフリットのような溶融物中に保持されるため、必ずしも溶融する必要はない。)焼成する機能性パターンを含む積層体が、上層から保護層、機能性パターン、中間層そして粘着層の順に基体に積層している膜の焼成においては、基体に対して下層よりも上層の有機物の熱分解温度を低くすることで、下層の熱分解ガスの放出が容易となる。その結果、機能性パターンに気泡状の欠損や基体からの剥離などの形状不良、それに伴う機能不良等の欠陥のない機能性パターンを基体上に形成することができる。
そのため、本発明の焼成用転写フィルムは、粘着層の有機物の熱分解温度(Tda)、機能性パターン層の有機物の熱分解温度(Tdb)、無機粉体の融着温度(Tw)が、Tdb<Tda<Twの関係を満たす必要がある。また、機能性パターンと粘着層との間に中間層を備える場合には、中間層の有機物の熱分解温度(Tdm)が、Tdb<Tdm<Tda<Twの関係を満たす必要がある。無機粉体が複数の種類の粉体からなる場合は、前記関係式の無機粉体の融着温度(Tw)は、最も低い融着温度である。
【0022】
特に粘着層は、基体と接する位置、つまり最下層に位置し、膜厚も比較的厚くなるため、熱分解ガスが多く発生し、放出しにくい。また焼成時の昇温速度が速いと単位時間あたりの熱分解ガス量が多くなり、分解温度も高温側にシフトする。そのため良好な焼成膜を得るには、粘着層に含有される有機物の最初の重量を基準として、粘着層の最大熱分解ガス速度を5wt%/sec以下、好ましくは3wt%/sec以下にする必要がある。
ここで熱分解温度は、熱重量測定において焼成炉で実際に焼成する場合と同じ昇温プログラムで昇温したときに、重量変化曲線の微分値が最大となったときの温度とした。また熱分解ガス発生速度は、分解される有機物の最初の重量を基準として、重量変化曲線の微分値が最大となる温度の単位時間あたりの分解重量率で表し、単位をwt%/secで示した。また無機粉体の熱融着温度は、前記昇温プログラムで焼成したときの膜表面の観察結果から融着する温度を判断した。
【0023】
機能性パターンの粘着層と反対側に保護層を備えた場合には、保護層に含有される有機物の熱分解温度(Tdp)が前記機能性パターンに含有される有機物の熱分解温度(Tdb)以下であること(Tdp<Tdb)が必要である。
保護層は機能性パターンの上層に形成され積層体の最上層となるため、Tdp<Tdbの関係とすることで良好な焼成膜を形成可能となる。Tdp>Tdmの関係でも、膜厚が0.1〜2μmの範囲であれば、下層の熱分解ガスは部分的に分解した保護層の膜中を通過してガス放出することが可能となり、良好な焼成膜を形成することが可能となるが、保護層の膜厚が2μmよりも厚い場合は、下層の熱分解ガス放出により焼成不良が生じやすくなる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の具体例を説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
(焼成用転写フィルムの作製)
以下の手順で、焼成用転写フィルムを作製した。
剥離フィルムは、シリコーン系離形層を設けたPETフィルム「A70」(帝人デュポンフィルム(株)製、フィルムサイズ20cm×30cm、厚み50μm)を用意した。
機能性パターンの塗布液として導電性ペーストを表1に示す組成に基づき3本ロールミルを用いて作成した。
次いで、必要により、オーブン、熱風式乾燥炉、IR乾燥機などを用いた乾燥工程を施す。例えば、オーブン中で120℃、10分間の乾燥を行うことができる。
粘着層の塗布液としてアクリル系粘着剤「SK1451」(綜研化学工業(株)製)の溶媒をソルベッソ150で置換した粘着層ペーストを作製した。
前記剥離フィルムの離形層上に、スクリーン印刷機を用いて前記導電性ペーストをサイズ2cm×5cm、膜厚15μmとなるように印刷し、機能性パターンを形成した。
前記機能性パターンに重なるように、スクリーン印刷機を用いて前記粘着層ペーストをサイズ2cm×5cm、膜厚10μmとなるように印刷し、粘着層を形成した。
【0025】
(機能性パターン付き基体の作製)
以下の手順で、機能性パターン付き基体を作製した。
基体としてフロート法により製造されたガラス板(サイズ30cm×30cm)を用意した。
このガラス板の表面に、作製直後の前記焼成用転写フィルムをその粘着層を向かい合わせて、ローラーを用いて剥離フィルム上から0.5kg/cmの圧力で貼り合わせた。その後、剥離フィルムを剥離して、機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。
そして、このガラス板を焼成炉を用いて焼成した。焼成条件は、昇温速度20℃/minで室温から650℃まで昇温し、その温度を30分間維持した後、炉内放冷で100℃以下まで冷却することとした。
そして、冷却された機能性パターン付きガラス板を焼成炉から取り出した。
【0026】
(熱特性の測定)
機能性パターンを含む積層体の各層に含まれる有機物や無機粉体の熱特性を、JISK7129(プラスチックの熱重量測定方法)に準拠し、熱重量測定装置「TG-DTA2000」((株)マック・サイエンス社製)を使用し、(前記焼成条件と同じ)大気中で昇温速度20℃/min、室温から650℃まで昇温して、測定した。各熱特性は、導電性ペーストに含有される有機物の熱分解温度(Tdb)が335℃、ガラスフリットの融着温度(Tw)が490℃であり、粘着層に含有される有機物(以下、単に粘着層という)の熱分解温度(Tda)が414℃、粘着層の熱分解ガス発生速度が0.47wt%/secであった。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例2)
粘着層に用いられる粘着剤としてアクリル系粘着剤「SK1309」(綜研化学工業(株)製)を用い、粘着層の膜厚5μmとした他は、実施例1と同様の方法により、焼成用転写フィルムを作製した。
焼成条件の内、昇温速度を500℃/min、650℃での維持時間を5分間とした他は、実施例1と同様の方法により、機能性パターン付きガラス板を作製した。
焼成条件と同じ昇温条件で測定した熱特性は、導電性ペーストに含有される有機物の分解温度(Tdb)が355℃、ガラスフリットの融着温度(Tw)が510℃であり、粘着層の熱分解温度(Tda)が481℃、粘着層の熱分解ガス発生速度が4.19wt%/secであった。
【0029】
(比較例1)
粘着層に用いられる粘着剤としてアクリル系粘着剤「SP−205」(東洋インキ(株)製)を用いた他は、実施例1と同様の方法により、焼成用転写フィルムを作製した。
実施例1と同様の方法により、機能性パターン付きガラス板を作製した。
焼成条件と同じ昇温条件で測定した熱特性は、導電性ペーストに含有される有機物の熱分解温度(Tdb)が335℃、ガラスフリットの融着温度(Tw)が490℃であり、粘着層の熱分解温度(Tda)が309℃、粘着層の熱分解ガス発生速度が0.31wt%/secであった。
【0030】
(比較例2)
粘着層の膜厚を5μmとした他は、実施例1と同様の方法により、焼成用転写フィルムを作製した。
焼成条件を実施例2と同様とした他は、実施例1と同様の方法により、機能性パターン付きガラス板を作製した。
焼成条件と同じ昇温条件で測定した熱特性は、導電性ペーストに含有される有機物の分解温度(Tdb)が355℃、ガラスフリットの融着温度(Tw)が510℃であり、粘着層の熱分解温度(Tda)が485℃、粘着層の熱分解ガス発生速度が5.01wt%/secであった。
【0031】
(評価)
表2に、実施例1、2と比較例1、2における粘着層の膜厚、焼成の昇温速度、機能性パターンと粘着層の熱特性、及び機能性パターンの焼成体の評価を示した。評価は、機能性パターンの焼成体に欠陥がなく良好なものを「○」で、欠陥があり不良なものを「×」で示した。
実施例1と実施例2における機能性パターンの焼成体には欠陥がなく、良好な評価が得られた。これに対し、比較例1における機能性パターンの焼成体には、部分的な焼成むらや密着不良が発生し、比較例2における機能性パターンの焼成体には、ひび割れや剥離などの破損が発生したので、共に良好な評価が得られなかった。
【0032】
【表2】

【0033】
(対比)
実施例1と実施例2との対比を行う。
実施例1と実施例2における機能性パターンと粘着層の熱特性は、Tdb<Tda<Twの関係を満たしていた。特に実施例2においては、焼成の昇温速度が実施例1に対して25倍と速く、それにより粘着層の熱分解ガス発生速度が実施例1に対して約8.9倍と速いにもかかわらず、実施例1と同様の良好な機能性パターンの焼成体が得られた。
上層の機能性パターンに含有される有機物が最も早く熱分解されて除去され、機能性パターンに含有されるガラスフリット(無機粉体)が融着する前に下層の粘着層が熱分解されて除去されたため、機能性パターンの焼成体に欠陥が発生しなかったものと考えられる。
【0034】
実施例1、2と比較例1との対比を行う。
実施例1と比較例1とでは、粘着層の厚み、機能性パターンの厚みや焼成の昇温速度が同様であったが、粘着層に用いた粘着剤の種類が異なるため、粘着層の熱分解温度(Tda)と粘着層の熱分解ガス発生速度が異なっていた。実施例2と比較例1とでは、粘着層に用いた粘着剤の種類、粘着層の厚みや焼成の昇温速度が異ななるため、機能性パターンに含有されるガラスフリットの融着温度(Tw)、粘着層の熱分解温度(Tda)や粘着層の熱分解ガス発生速度が異なっていた。
比較例1においては、機能性パターンと粘着層の熱特性は、粘着層の熱分解温度(Tda)が最も低くなり、Tdb<Tda<Twの関係を満たしていなかった。そして比較例1においては、実施例1に対して粘着層の熱分解ガス発生速度は約0.66倍となり遅い速度であり、さらに実施例2に対して粘着層の熱分解ガス発生速度は約0.074倍となりかなり遅い速度であったにもかかわらず、良好な機能性パターンの焼成体が得られなかった。
【0035】
比較例1においては、上層の機能性パターンに含有される有機物が熱分解されて除去されるよりも速く下層の粘着層が熱分解され、発生した熱分解ガスが所々で上層の機能性パターンを突き破って放出され、機能性パターンの焼成体に部分的な焼成むらや密着不良が発生したものと考えられる。
これらの対比により、良好な機能性パターンを得るには、Tdb<Tda<Twの関係を満たす必要があることが分かる。
【0036】
実施例1、2と比較例2との対比を行う。
実施例1と比較例2とでは、粘着層に用いた粘着剤の種類や機能性パターンの厚みが同様であったが、粘着層の膜厚と焼成の昇温速度が異なるため、機能性パターンに含有されるガラスフリットの融着温度(Tw)、粘着層の熱分解温度(Tda)や粘着層の熱分解ガス発生速度が異なっていた。実施例2と比較例2とでは、粘着層の厚み、機能性パターンの厚みや焼成の昇温速度が同様であったが、粘着層に用いた粘着剤の種類が異なるため、粘着層の熱分解温度(Tda)や粘着層の熱分解ガス発生速度が異なっていた。しかし、その違いは小さなものであった。
比較例2においては、機能性パターンと粘着層の熱特性は、Tdb<Tda<Twの関係を満たしており、粘着層の膜厚が実施例1の半分であったが、良好な機能性パターンの焼成体が得られなかった。このとき、比較例2の実施例1に対する粘着層の熱分解ガス発生速度は、約10.7倍となり速い速度であったが、実施例2の実施例1に対する粘着層の熱分解ガス発生速度約8.9倍と対比して、それほど速い速度ではなかった。
【0037】
比較例2においては、上層の機能性パターンに含有される有機物の熱分解と下層の粘着層の熱分解がほぼ同時に進行し、粘着層の熱分解ガス発生速度が限界を超えたため、発生した粘着層の熱分解ガスが所々で上層の機能性パターンを突き破って放出され、機能性パターンの焼成体にひび割れや剥離などの破損が発生したしたものと考えられる。同じ昇温速度で焼成された実施例2の機能性パターンに破損が見られなかったのは、粘着層の熱分解ガス発生速度が限界を超えなかったためと考えられる。
これらの対比により、速い昇温速度で焼成を行う場合、良好な機能性パターンの焼成体を得るには、Tdb<Tda<Twの関係を満たすことに加えて、粘着層の熱分解ガス発生速度も重要な条件であることが分かる。
【0038】
(実施例3)
(焼成用転写フィルムの作製)
以下の手順で、実施例1の焼成用転写フィルムの構成に中間層と第2剥離フィルムを追加した焼成用転写フィルムを作製した。
第1剥離フィルムとして実施例1と同様のPETフィルムを用意した。
第2剥離フィルムとしてシリコーン系離形層を設けたPETフィルム「A31」(帝人デュポンフィルム(株)製、フィルムサイズ20cm×30cm、厚み25μm)を用意した。
機能性パターンの塗布液として実施例1と同様の導電性ペーストを作製した。
中間層の塗布液としてポリビニルアセタール系樹脂「KW1」(積水化学工業(株))製)を用意し、中間層ペーストとした。
粘着層の塗布液として実施例2と同じアクリル系粘着剤「SK1309」を用意し、粘着層ペーストとした。
【0039】
前記第1剥離フィルムの離形層上に、スクリーン印刷機を用いて前記導電性ペーストをサイズ2cm×5cm、膜厚15μmとなるように印刷し、機能性パターンを形成した。
前記機能性パターンを覆うように、メイヤーバーを用いて前記中間層ペーストをサイズ5cm×10cm、膜厚2μmとなるように塗布し、中間層を形成した。
次いで、オーブン中で120℃、10分間の乾燥を行った。
前記中間層に重なるように、メイヤーバーを用いて前記粘着層ペーストをサイズ5cm×10cm、膜厚1μmとなるように塗布し、粘着層を形成した。
粘着層を覆うように、離形層側から第2剥離フィルムを貼り合わせた。
このようにして2枚の焼成用転写フィルムを作製した。これらの焼成用転写フィルムを30℃の温度環境で保存した。
【0040】
(機能性パターン付き基体の作製)
前記温度環境で保存しておいた2枚の焼成用転写フィルムを用いて、それぞれ1時間後と1週間後に以下の手順で機能性パターン付き基体を作製した。
基体としてフロート法により製造されたガラス板(サイズ30cm×30cm)を用意した。
焼成用転写フィルムから第2剥離フィルムを剥離した。
ガラス板の表面に、前記焼成用転写フィルムをその粘着層を向かい合わせて、ローラーを用いて第1剥離フィルム上から0.5kg/cmの圧力で貼り合わせた。その後、第1剥離フィルムを剥離して、機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。
そして、このガラス板を焼成炉を用いて焼成し、機能性パターン付きガラス板を作製した。焼成条件は、実施例1と同様とした。
【0041】
(熱特性の測定)
機能性パターンを含む積層体の各層に含まれる有機物や無機粉体の熱特性を前記焼成条件と同じ昇温条件で測定した。各熱特性は、導電性ペーストに含有される有機物の熱分解温度(Tdb)が335℃、ガラスフリットの融着温度(Tw)が490℃であり、粘着層の熱分解温度(Tda)が401℃、熱分解ガス発生速度が0.51wt%/secであり、中間層に含有される有機物(以下、単に中間層という)の熱分解温度(Tdm)が370℃であった。
【0042】
(比較例3)
実施例3と同様の方法により、実施例3の焼成用転写フィルムの構成から中間層を省略した2枚の焼成用転写フィルムを作製した。
実施例3と同様の方法により、保存期間の異る2枚の焼成用転写フィルムを用いて2枚の機能性パターン付きガラス板を作製した。
【0043】
(評価)
粘着層の膜厚は、実施例3および比較例3では中間層の効果を確認するため、意図的に粘着力が不安定な1μmとした。粘着層を第2剥離フィルムで転写直前まで覆っていたので、粘着層への埃などの付着を防止することができた。
表3に、実施例3と比較例3における焼成用転写フィルムの機能性パターンを含む積層体のガラス板への転写の状態(以下、転写性という)と機能性パターンの焼成体の状態(以下、焼成性という)の評価を示した。評価は、転写性については、積層体がガラス板から浮き上がることなく良好に粘着できたものを「○」で、積層体がガラス板から部分的に浮き上がっており不良なものを「×」で、積層体をガラス板に転写できなかったものを「−」で示し、焼成性については、機能性パターンの焼成体に欠陥がなく良好なものを「○」で、欠陥があり不良なものを「×」で、焼成できなかったものを「−」で示した。
実施例3における保存期間1時間の場合の転写性と焼成性は共に良好であり、保存期間1週間の場合の転写性と焼成性も共に良好であった。これに対して、比較例3における保存期間1時間の場合の転写性と焼成性は共に不良であり、保存期間1週間の場合には、積層体をガラス板へ転写することができず、焼成できなかった。
【0044】
【表3】

【0045】
(対比)
実施例3と比較例3との対比を行う。
実施例3における焼成用転写フィルムと比較例3における焼成用転写フィルムとの違いは中間層の有無だけである。中間層がない場合には、粘着層に含有される粘着剤が機能性パターンに移動して粘着力が弱くなったものと考えられる。中間層がある場合には、この粘着剤の移動が妨げられて粘着力が維持されたものと考えられる。
この対比により、粘着層と機能性パターンとの間に粘着剤の移動を妨げることが可能な中間層を形成することで、粘着層の膜厚を薄くすることが可能なことが確かめられた。
【0046】
(実施例4)
中間層としてヒドロキシセルロース系樹脂「SP200」(ダイセル化学工業(株)製)を用い、膜厚2μmとした他は、実施例3と同様の方法で焼成用転写フィルムを作製した。
焼成条件の内、昇温速度を500℃/min、650℃での維持時間を5分間とした他は、実施例3と同様の方法により、前記焼成用転写フィルムを用いて機能性パターン付きガラス板を作製した。
焼成条件と同じ昇温条件で測定した熱特性は、導電性ペーストに含有される有機物の熱分解温度(Tdb)が355℃、ガラスフリットの融着温度(Tw)が510℃であり、粘着層の熱分解温度(Tda)が481℃、熱分解ガス発生速度が4.19wt%/secであり、中間層の熱分解温度(Tdm)が370℃であった。
【0047】
(比較例4)
中間層としてカルボキシメチルセルロース系樹脂「CMC−1240」(ダイセル化学工業(株)製)を膜厚2μmとした他は、実施例3と同様の方法で焼成用転写フィルムを作製した。
ガラス板上に転写形成した。
実施例3と同様の方法により、前記焼成用転写フィルムを用いて機能性パターン付きガラス板を作製した。
焼成条件と同じ昇温条件で測定した熱特性は、導電性ペースト中の有機物の分解温度(Tdb)が419℃、ガラスフリットの融着温度(Tw)が510℃であり、粘着層の有機物の熱分解温度(Tda)が414℃、熱分解ガス発生速度が0.47wt%/secであり、中間層の有機物の熱分解温度(Tdm)が290℃であった。
【0048】
(比較例5)
中間層としてアクリル系樹脂「BR50」(三菱レイヨン(株)製)を用い、膜厚2μmで形成した他は、実施例3と同様の方法で焼成用転写フィルムを作製した。
焼成条件を実施例4と同様とした他は、実施例3と同様の方法により、前記焼成用転写フィルムを用いて機能性パターン付きガラス板を作製した。
焼成条件と同じ昇温条件で測定した熱特性は、導電性ペースト中の有機物の熱分解温度(Tdb)が355℃、ガラスフリットの融着温度(Tw)が510℃であり、粘着層の熱分解温度(Tda)が481℃、熱分解ガス発生速度が4.19wt%/secであり、中間層の熱分解温度(Tdm)が492℃であった。
【0049】
(評価)
表4に、実施例3、4と比較例4、5における焼成の昇温速度、各層の熱特性、及び機能性パターンの焼成体の評価を示した。評価は、機能性パターンの焼成体に欠陥がなく良好なものを「○」で、欠陥があり不良なものを「×」で示した。
実施例3と実施例4における機能性パターンの焼成体には欠陥がなく、良好な評価が得られた。これに対し、比較例4における機能性パターンの焼成体には、破損が発生し、比較例5における機能性パターンの焼成体には、密着不良が発生したので、共に良好な評価が得られなかった。
【0050】
【表4】

【0051】
(対比)
実施例3と実施例4との対比を行う。
実施例3と実施例4における各層の熱特性は、Tdb<Tdm<Tda<Twの関係を満たしていた。特に実施例2においては、焼成の昇温速度が実施例3に対して25倍と速く、それにより粘着層の熱分解ガス発生速度が実施例3に対して約8.2倍と速いにもかかわらず、実施例3と同様の良好な機能性パターンの焼成体が得られた。この結果は、中間層を有しない実施例1と実施例2との関係と同様であった。
【0052】
実施例3と比較例4との対比を行う。
実施例3と比較例4とでは、中間膜として用いた樹脂が異なっていた。その結果、比較例4においては、中間膜の熱分解温度(Tdm)が機能性パターンに含有される有機物の熱分解温度(Tdb)よりも低くなった。従って、比較例5においては、上層の機能性パターンに含有される有機物が熱分解されて除去されるよりも速く下層の中間層が熱分解され、発生した熱分解ガスが所々で上層の機能性パターンを突き破って放出され、機能性パターンの焼成体に破損が発生したものと考えられる。
【0053】
実施例4と比較例5との対比を行う。
実施例4と比較例5とでは、中間膜として用いた樹脂が異なっていた。その結果、比較例5においては、中間膜の熱分解温度(Tdm)が粘着層の熱分解温度(Tda)よりも高くなった。従って、比較例5においては、上層の中間膜が熱分解されて除去されるよりも速く下層の粘着層が熱分解され、発生した熱分解ガスが所々で上層の中間層を押し上げ、中間層がその上層の機能性パターンを押し上げて、機能性パターンの焼成体に密着不良が発生したものと考えられる。
【0054】
以上の対比により、機能性パターンを含む積層体の層の数が増えたとしても、各層に含有される有機物が上層から順に熱分解されて除去され、機能性パターンに含有される無機粉体が融着する前に機能性パターンよりも下層が熱分解されて除去されること、つまりTdb<Tdm<Tda<Twの関係を満たすことにより、欠陥のない機能性パターンの焼成体が得られることが確認できた。
【0055】
(実施例5)
(焼成用転写フィルムの作製)
以下の手順で、実施例1の焼成用転写フィルムの構成に中間層と保護層と第2剥離フィルムを追加した焼成用転写フィルムを作製した。
第1剥離フィルムとして微粘着層を設けたPETフィルム「SRL−0754」(リンテック(株)製、フィルムサイズ20cm×30cm、厚み75μm)を用意した。
第2剥離フィルムとしてシリコーン系離形層を設けたPETフィルム「A31」(帝人デュポンフィルム(株)製、フィルムサイズ20cm×30cm、厚み38μm)を用意した。
保護層の塗布液としてポリエチレンオキサイド系樹脂「PEO−8Z」(住友精化(株)製)を用意し、保護層ペーストとした。
機能性パターンの塗布液として実施例1と同様の導電性ペーストを作製した。
中間層の塗布液として実施例3と同じポリビニルアセタール系樹脂「KW1」を用意し、中間層ペーストとした。
粘着層の塗布液として実施例3と同じアクリル系粘着剤「SK1309」を用意し、粘着層ペーストとした。
【0056】
前記第2剥離フィルムの離形層上に、メイヤーバーを用いて前記粘着層ペーストをサイズ5cm×10cm、膜厚5μmとなるように塗布し、機能性パターンを形成した。
前記粘着層を覆うように、アプリケーターを用いて前記中間層ペーストをサイズ6cm×12cm、膜厚2μmとなるように塗布し、中間層を形成した。
前記中間層上に、スクリーン印刷を用いて前記導電性ペーストをサイズ0.3mm×5cm、膜厚15μmとなるように印刷し、機能性パターンを形成した。
前記機能性パターンを覆うように、アプリケーターを用いて前記保護層ペーストをサイズ6cm×12cm、膜厚3μmとなるように塗布し、保護層を形成した。
保護層を覆うように、微粘着層側から第1剥離フィルムを貼り合わせた。
【0057】
(機能性パターン付き基体の作製)
以下の手順で、機能性パターン付き基体を作製した。
基体としてフロート法により製造されたガラス板(サイズ30cm×30cm)を用意した。
前記焼成用転写フィルムから第2剥離フィルムを剥離した。
前記ガラス板の表面に、前記焼成用転写フィルムをその粘着層を向かい合わせて、Φ5mmの曲率で屈曲させながら、ローラーを用いて第1剥離フィルム上から0.5kg/cmの圧力で貼り合わせた。その後、第1剥離フィルムを剥離して、機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。
そして、このガラス板を焼成炉を用いて焼成し、機能性パターン付きガラス板を作製した。焼成条件は、実施例1と同様とした。
【0058】
(熱特性の測定)
機能性パターンを含む積層体の各層に含まれる有機物や無機粉体の熱特性を前記焼成条件と同じ昇温条件で測定した。各熱特性は、導電性ペーストに含有される有機物の熱分解温度(Tdb)が335℃、ガラスフリットの融着温度(Tw)が490℃であり、粘着層の熱分解温度(Tda)が401℃、熱分解ガス発生速度が0.51wt%/secであり、中間層の熱分解温度(Tdm)が370℃であり、保護層に含有される有機物(以下、単に保護層という)の熱分解温度(Tdp)が305℃であった。
【0059】
(比較例6)
保護層ペーストとして中間層ペーストと同じポリアセタール系樹脂「KW1」を用い、アプリケーターで膜厚3μmとなるように塗布した他は、実施例5と同様の方法により、焼成用転写フィルムを作製した。
実施例5と同様の方法により、前記焼成用転写フィルムを用いて機能性パターン付きガラス板を作製した。
焼成条件と同じ昇温条件で測定した熱特性は、導電性ペースト中の有機物の熱分解温度(Tdb)が335℃、ガラスフリットの融着温度(Tw)が490℃であり、粘着層の熱分解温度(Tda)は401℃、熱分解ガス発生速度は0.51wt%/sec、中間層の熱分解温度(Tdm)が370℃、保護層の熱分解温度(Tdp)が370℃であった。
【0060】
(評価)
表5に、実施例5と比較例6における各層の熱特性の測定値と転写性、燃焼性の評価を示した。評価は、転写性については、積層体がガラス板から浮き上がることなく良好に粘着できたものを「○」で、積層体がガラス板から部分的に浮き上がっており不良なものを「×」で、積層体をガラス板に転写できなかったものを「−」で示し、焼成性については、機能性パターンの焼成体に欠陥がなく良好なものを「○」で、欠陥があり不良なものを「×」で、焼成できなかったものを「−」で示した。
【0061】
【表5】

【0062】
実施例5と比較例6においては、基体に機能性パターンを含む積層体を転写するときに、焼成用転写フィルムをΦ5mmの曲率で屈曲させながら基体に貼り合わせたが、ひび割れが発生することなく良好な転写性が得られた。これは、保護層が焼成前の脆い機能性パターンを保護することで達成されたと考えられる。
実施例5においては、機能性パターンの焼成体についてもひび割れが発生することなく良好な燃焼性が得られた。しかし、比較例6においては、機能性パターンの焼成体に部分的に焼成むらと密着不良が発生し、良好な燃焼性が得られなかった。
比較例6においては、最上層の保護層の熱分解温度(Tdp)がその下層の機能性パターンに含有される有機物の熱分解温度(Tdb)よりも高くなっていた。従って、機能性パターンに含有される有機物の熱分解ガスの放出が、保護層により妨げられて、良好な燃焼性が得られなかったと考えられる。
【0063】
以上の対比により、機能性パターンを含む積層体の層の数が増えたとしても、各層に含有される有機物が上層から順に熱分解されて除去され、機能性パターンに含有される無機粉体が融着する前に機能性パターンよりも下層が熱分解されて除去されること、つまりTdp<Tdb<Tdm<Tda<Twの関係を満たすことにより、欠陥のない機能性パターンの焼成体が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施例の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【図2】本発明の別の一実施例の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【図3】本発明の別の一実施例の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【図4】本発明の他の一実施例の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【図5】本発明の他の一実施例の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【図6】本発明の他の一実施例の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【符号の説明】
【0065】
1 剥離フィルム(第1剥離フィルム)
2 機能性パターン
3 粘着層
4 中間層
5 保護層
6 第2剥離フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面に機能性パターンを含む積層体を転写し、焼成することにより、機能性パターンの焼成体を形成するために用いる、焼成用転写フィルムにおいて、
前記焼成用転写フィルムは、剥離フィルムと、前記剥離フィルムの一方の表面に接するように形成された前記積層体とを含み、
前記積層体はさらに、前記焼成用転写フィルムを前記基体の表面に貼着するための粘着層と、前記剥離フィルムと前記粘着層との間に形成された機能性パターンとを含み、
前記機能性パターンは、無機粉体と焼成により除去可能な第1の有機物とを含有し、
前記粘着層は、焼成により除去可能であって前記第1の有機物とは異なる第2の有機物を含有し、
前記積層体を前記基体の表面に転写し焼成するときの焼成条件における前記第1の有機物の熱分解温度(Tdb)と、前記第2の有機物の熱分解温度(Tda)と、前記無機粉体の融着温度(Tw)とが、Tdb<Tda<Twの関係を満たすことを特徴とする焼成用転写フィルム。
【請求項2】
前記積層体は、前記機能性パターンと前記粘着層との間に形成された中間層を備え、
前記焼成条件における前記第1の有機物の熱分解温度(Tdb)と、前記第2の有機物の熱分解温度(Tdm)と、前記粘着層に含有される有機物の熱分解温度(Tda)と、前記無機粉体の融着温度(Tw)とが、Tdb<Tdm<Tda<Twの関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の焼成用転写フィルム。
【請求項3】
前記積層体は、前記機能性パターンを保護するための、前記剥離フィルムと前記機能性パターンとの間に形成された保護層を備え、
前記保護層は、焼成により除去可能であって前記第1の有機物とは異なる第3の有機物を含有し、
前記焼成条件における前記第3の有機物の熱分解温度(Tdp)と、前記第1の有機物の熱分解温度(Tdb)とが、Tdp<Tdbの関係を満たすことを特徴とする請求項1または2記載の焼成用転写フィルム。
【請求項4】
前記焼成条件における前記粘着層に含有される有機物の熱分解ガス発生速度の最大値が、前記粘着層に含有される有機物の最初の重量を基準として5wt%/sec未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の焼成用転写フィルム。
【請求項5】
基体の表面に機能性パターンを含む積層体を転写し、焼成することによる、機能性パターン付き基体の形成方法において、
請求項1〜4のいずれか1項記載の焼成用転写フィルムを、前記粘着層を介して前記基体の表面に貼着し、前記焼成用転写フィルムの前記剥離フィルムを剥離し、機能性パターンを含む積層体が転写した基体を形成し、
前記積層体が転写した基体を、前記積層体に含有される有機物が前記基体表面から遠い順に熱分解する焼成条件で焼成することを特徴とする機能性パターン付き基体の形成方法。
【請求項6】
前記焼成条件が、前記粘着層に含有される有機物の熱分解ガス発生速度の最大値が、前記粘着層に含有される有機物の最初の重量を基準として5wt%/sec未満であることを特徴とする請求項4記載の機能性パターン付き基体の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−307729(P2008−307729A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156038(P2007−156038)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(591186888)株式会社トッパンTDKレーベル (46)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】