説明

焼成菓子

【課題】
本発明は、シューケースにおいて、新規な外観形状を有し、かつ形状が比較的均一なシューケースを平易な方法で提供する事を目的とする。
【解決手段】
側面を有する容器の内側にパイ生地、さらにその内側にシュー生地を設置して、少なくとも焼成時にパイ生地がシュー生地および容器側面が接する状態で焼成することで、新規な外観形状を有し、かつ形状が比較的均一なシューケースを平易な方法で提供する事が出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シュー生地とパイ生地を組み合わせて新規な外観形状を有し、かつ形状が比較的均一なシューケースを平易な方法で提供する事を目的とする。
【背景技術】
【0002】
一般にシュー生地は、水・牛乳などの液体、バター・マーガリン等の油脂、薄力粉・強力粉等の粉類、他適宜卵類や膨剤などを配合したもので、シュー生地を加熱・膨化させた、いわゆる「シューケース」と称される、生地の中に空洞が形成された焼成物の原料である。シューケースを用いたシュー菓子類は、シューケースの空洞部に様々なカスタードクリームやホイップクリームなどを入れる事、あるいはチョコレートやグレーズをコーティングする事で風味上のバラエティーを出したり、シュー生地の配合の改良によって食感に変化を付けることはよく為されてきたが、シュー生地を絞り出した状態の形状の工夫についてはシュー生地を長く絞ってエクレア皮として用いる以外はあまり一般的でない。
【0003】
一方パイ生地は、周知の如く、バター、マーガリン、牛脂などの固状ないし塑状の油脂組成物を、強力粉若しくは強力粉と薄力粉、食塩及び水などを用いて軽く捏ねたドウと併せ、折りと展延を何度か繰り返すことによって調製され、薄い層が積層した構造を有している。このようなパイ生地は、ドウと略同じ大きさの油脂塑性物とを重ね併せ、折込みと展延を繰り返すことによって層を造る折りパイ生地と、ドウに油脂組成物の小片を点在させて折込みと展延を繰り返すことによって層を造る練りパイ生地とがあるが、いずれも焼成後サクッとした若しくはサックリした食感を示す菓子である。
【0004】
パイ生地及びシュー生地は市場からは、昨今の消費者志向の多様化に伴い、風味もさることながら新規な形状を有し、しかも市場からの大量の需要要求に応える為の平易な方法でのシュー菓子の製造方に対する要求はきわめて大きいものがあった。
【0005】
従来、パイ生地とシュー生地を組み合わせて製造する方法は数々提案されており、例えば、パイとシューを組み合わせた複合菓子、より具体的にはパイ生地の上にシュー生地を任意形状に組み合わせて焼成した複合菓子が発明されている。(例えば特許文献1)
しかしながら、該発明では焼成条件の異なる生地を同時に焼成するための技術について主眼が置かれており、こと形状に関しては任意形状での組み合わせはもちろん、該発明において主に示されているパイ生地の上にシュー生地を乗せるものであっても既存のシューまたはパイに比べさほど外観や形態に優位性は見出せない。
【0006】
シュー生地にパイ生地で被覆するタイプの技術としては、シュー生地を上からパイ生地で覆って完全に被覆するようにして焼成する方法(例えば特許文献2)、天板の上にシュー生地を絞り出し、シュー生地の上にパイ生地を載置して焼成する方法(例えば特許文献3)等が提案されてきた。
しかし、これらの方法も折り込みパイ生地でシュー生地を包み込んだ形態、或いは折り込みパイ生地をシュー生地の上に乗せたり、底に敷いたりした形態であって、何れも外観や形態に優位性は見出せない。
【0007】
また、シュー生地にパイ生地で被覆するタイプの技術としては、多層パイ生地を、層を横切るようにスライスし、このスライスした生地でシュー生地を覆い、焼成することを特徴とするパイの製造法(例えば特許文献4)や、シュー生地とスリット状に切れ目を入れた折り込みパイ生地とを組み合わせて焼成することを特徴とする、菓子の製造方法(例えば特許文献5)などがある。前者はパイ生地の断面の縞模様がシューの表面に現れており、後者はシューの膨張によりパイのスリット部分が開いて簡単に網目状の外見がなされるものの、あくまでもベースがシューであり、表面形状が変わったシューという範疇のものであった。
【0008】
一方シューやパイ、特にシューは焼成により膨らみ方がランダムであり、それが外見上の特徴でもあるのだが、均一な形状を得にくく運搬や包装などで不利であった。
パイに関しての発明ではあるが、パイ生地を型の縁に接する周辺又は角を折り、型に入れて焼成することを特徴とする型焼きパイ菓子の製造法であって、パイ菓子のパイ皮内部にフィリング材を充填することを特徴とするパイ菓子の製造法が発明されている(例えば特許文献6)。
しかし、これはパイに関してであり、膨張率、特に層の方向に特異的に膨張する特性を持つパイ生地と全方向に比較的均一に膨張するシュー生地とを単純に置き換えて用いることができるようなものではないし、変化に富んだ外観、形状を示すとはあるが、あくまでもパイでのことであり、シューとパイを組み合わせた複合菓子に容易に応用できるものではなかった。
【特許文献1】特開昭58−56634号公報
【特許文献2】特開平6−327408号公報
【特許文献3】特開平10−66502号公報
【特許文献4】特開平10−150910号公報
【特許文献5】特開2002−272360号公報
【特許文献6】特開2002−281888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、シューケースにおいて、新規な外観形状を有し、かつ形状が比較的均一なシューケースを平易な方法で提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成する為に鋭意研究を行った結果、側面を有する容器の内側にパイ生地、さらにその内側にシュー生地を設置して、少なくとも焼成時にパイ生地がシュー生地および容器側面が接する状態で焼成することで、新規な外観形状を有し、かつ形状が比較的均一なシューケースを平易な方法で提供する事が出来る事を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)としては、側面を有する容器の内側にパイ生地、さらにその内側にシュー生地を設置して、少なくとも焼成時にパイ生地がシュー生地および容器側面が接する状態で焼成することを特徴とする焼成菓子の製造法であり、(2)としては、パイ生地がその層を横切るようにスライスしたものである(1)記載の焼成菓子であり、(3)としては、(1)の方法により得た焼成菓子である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、側面を有する容器の内側にパイ生地、さらにその内側にシュー生地を設置して、少なくとも焼成時にパイ生地がシュー生地および容器側面が接する状態で焼成するという極めて平易な方法で、従来にない特異な外観形状を有すシューケースならびにシュー菓子を製造することができる利点がある。
【0012】
特に、パイ生地がその層を横切るようにスライスし、そのスライス面に露出したパイの層が水平に重なっている形状にて容器内側に設置することで、焼成中のシュー生地の膨化に随伴してシュー生地の膨張方向に縞模様が明瞭になり内部のシューケースも見えるという新規な外観を与えるのに寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に使用するパイ生地は、折パイ生地または練りパイ生地の何れを使用することもできる。また、これらの生地に使用される油脂は、動物性脂肪由来、または植物性脂肪由来の何れであってもよく、これらの脂肪が混合された混合脂肪であってもよい。
本発明では、捏粉層と油性層とを使用した多層、より好ましくは64層〜3000層のパイ生地を使用するのが適当である。捏粉層と油性層からなる多層生地自体の調整方法は、従来より公知の方法に準じて行えばよい。
今日においては、以上のような、既に多層構造を有したパイ生地が市販されており、わざわざ小麦粉やバターあるいはマーガリンのような油脂組成物を使用して初めからパイ生地を調整する必要はない。
【0014】
パイ生地はそのまま用いてもかまわないが、層を横切るようにスライスしたものを用いるとより新規な外見上の特徴のある焼成菓子が得られる。層を横切るようにスライスするとは、図1の(a)のように面に対して垂直にスライスした場合のみならず、斜めにスライスした(b)も含まれる。このようにして得られたパイ生地は、スライス面にパイの層が露出したものとなる。また、スライスした生地を更に展延させることでパイの層を生地の向きに対して自由な方向に配したパイ生地を得られる(c)(d)。
【0015】
パイ生地の厚さは5mm前後にするのが製品にした時の大きさとして適当である。スライスは、パイ生地を冷凍状態から半解凍させた状態で行うと作業しやすく、状態も良い物が出来る。
【0016】
スライスしたパイ生地を、側面を有した容器の内側に設置する。側面を有した容器とは、例えば図2に表したような、円筒型(d)、円錐台(e)、円錐型(f)である事ができる。この場合、容器は側面のみでも底面は焼成時の天板が果たすため、有底である必要はなく筒状であってもよい。
焼成前の段階では図3(h)のように、パイ生地は容器の内側に設置されていれば特に容器側面とは接していなくてもかまわないが少なくとも焼成時にはパイ生地の膨化またはさらに内側にあるシュー生地の膨化により容器側面に押し付けられる形で設置することが必要であり、またパイ生地自体が薄く、単独では自立できない場合などの場合は容器側面内側に沿わせる形で設置させる方がより望ましい。(図3(j))
【0017】
パイ生地自体のスライスの方法や層の向きなどは特に限定はされないが、好ましくはスライス面、すなわちパイの層の断面は容器側面に露出している形状にて設置することが望ましい。パイの層の断面が容器側面に露出することで新規な外見の焼成菓子が得られる。
【0018】
またスライス面に露出したパイの層が水平に重なっている形状にて設置すると、パイは焼成時に層に対して垂直方向に膨化するため、パイの層の断面は容器側面に露出し、かつパイの層が水平に重なっている形状をとるパイは上部へと膨化し、シュー生地の膨化を妨げにくい。ただし、スライス面に露出したパイの層が水平ではない方向に重なっている場合でもパイ生地がシュー生地により容器内側側面に押し付けられることで新規な外見の焼成菓子が得られるのでかまわない。また、パイ生地は上面より見てパイ生地を完全に囲ったような、全周を備えてた形状でなくてもかまわず、図3(h)のように一部開いた状態であってもかまわない。同様にして図3(i)のように、パイ生地は底面に接触していなくてもかまわない。
【0019】
パイ生地を容器側面内側に設置しその更に内側にシュー生地を入れる。焼成前の段階ではパイ生地とシュー生地は必ずしも接触している必要はなく、焼成時に接触する程度であればよい。具体的にはシュー絞り量が20g以上の場合でが、図3(j)のように、その間隔が5mm以内になる事が望ましい。
【0020】
焼成の条件は、釜の種類や生地の大きさ等により一概には規定できないが、概ね180℃〜200℃、30分前後焼成することにより目的とする菓子を得る事が出来る。
【0021】
このようにして得たシューケースは、焼成により膨化して出来たシュー皮の空洞部中にフィリングを詰めたり、また必要に応じて、菓子の表面にチョコレート、フォンダン、粉糖等をコーティングもしくはふりかける事によって仕上げる事が出来る。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例示によって制限されるものではない。なお、例中の部及び%は何れも重量基準を意味する。
【0023】
<実施例1>
粉対比85重量%の油脂を使用して64層に折り込んだ市販パイ生地(商品名「パイブルージュSH−15」、不二製油株式会社製)を、冷凍から冷蔵に移し3時間ねかした後(芯温:−10℃〜−5℃)牛刀でカットし、円筒セルクルの内側にスライス面を沿わせるように置く。(図3(g)参照)
シュー生地は、油脂(ニューコンボル500、不二製油株式会社製)150部、水185部、牛乳185部、食塩4部、薄力粉120部、強力粉120部、全卵325部、グラニュー糖7.5部を使用して公知の方法にて調整することができる。
【0024】
前出のセルクル内に置いたパイ生地の内側に、丸口金を用いてシュー生地を重量約25g程度、丸く絞る。パイとシューをセット終了後、焼成前に霧吹きで水をかけてから釜に入れる。焼成条件は、上火180℃下火200℃で20分、上火200℃下火180℃10分焼成した。
【0025】
<実施例2>
実施例1で用いた市販パイ生地を展延し、実施例1でスライス後セルクルに沿わせたのと同程度の厚みをもつパイ生地を成型し、スライスをせずにセルクル内側に沿わせるように設置した。それ以外は実施例1と同条件でシュー生地を焼成した。
【0026】
<比較例1>
実施例2で用いたパイ生地を底に敷き、その上に実施例1と同配合、同重量のシュー生地を絞り、それ以外は実施例1と同条件でシュー生地を焼成した。
【0027】
焼成後のシューケースは実施例1では側面にパイの層をもった新規な外観を呈し、またシューケースの形もセルクルによって比較的均一な形状をしたものが得られた。実施例2ではパイの層が露出せず、また内側にパイが膨化したため、その内側のシューケースの膨化が窮屈にはなったが新規な外観を呈し、またセルクルに覆われていた部分は比較的均一な形状をしたものが得られた。
【0028】
しかし比較例1のシューケースは単に上方向に膨化したパイ生地の上にシューケースが乗っただけのもので、新規な外見ではなく、形状も従来のシューケースのように不規則な膨化形状を示した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によって、側面を有する容器の内側にパイ生地、さらにその内側にシュー生地を設置して、少なくとも焼成時にパイ生地がシュー生地および容器側面が接する状態で焼成するという極めて平易な方法で、従来にない特異な外観形状を有すシューケースならびにシュー菓子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】パイ生地のスライス方向と得られるスライスしたパイ生地の層の形状の模式図。
【図2】側面を有した容器の模式図。
【図3】焼成前の状態における、容器とスライスしたパイ生地とシュー生地の位置関係の模式図。
【図4】焼成前の状態における、容器とスライスしたパイ生地の層の形状とシュー生地の位置関係の模式図。
【図5】焼成後の形状の模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面を有する容器の内側にパイ生地、さらにその内側にシュー生地を設置して、少なくとも焼成時にパイ生地がシュー生地および容器側面が接する状態で焼成することを特徴とする焼成菓子の製造法。
【請求項2】
パイ生地がその層を横切るようにスライスしたものである請求項1記載の焼成菓子。
【請求項3】
請求項1の方法により得た焼成菓子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−259788(P2007−259788A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90873(P2006−90873)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】