説明

焼成食品の焼き色調整できる乳化油脂組成物

【課題】乳化油脂組成物を使用する焼成食品において、簡易に焼き色を改善することができる乳化油脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】油溶性色素と還元糖を、それぞれ一定量配合した乳化油脂組成物を調製する。これを用い焼成食品を調製することにより、当該焼成食品の焼き色を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な焼き色を付与することができる、乳化油脂組成物および、それを用いた焼成食品に関する。
【背景技術】
【0002】
焼成食品における、良好な焼き色を付与する方法として、たとえば特許文献1には、シューパフ用乳化油脂組成物にカードランを含有させることで課題解決に至る旨の記載がある。しかし、カードランは比較的高価であるし、カードランは加熱凝固性を示す多糖類であるため、シューパフの食感へ何らかの影響をあたえるきらいもある。
【0003】
特許文献2には、シュー皮用乳化油脂組成物にグルコースを配合する旨の記載がある。ここには「水相中のアルカリカゼイン、リン酸塩類及びグルコース3者の相乗作用により初めて色調、形状、体積、空洞とともに満足なシュー皮の製造が可能であって」と記載があり、これら3成分を使用する場合以外について、色調を改善する方法に関する開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−161445号公報
【特許文献2】特開昭51−41472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、焼成食品において、簡易に焼き色を改善することができる方法を提供すること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題に対し、油溶性色素成分が一定の焼き色改善効果を示すことを見出した。しかし、それだけではまだ、十分とは言えず引き続き検討を行ったところ、還元糖と油溶性色素成分を併用した場合に、焼成食品における焼き色が極めて良好になることを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明は
(1)還元糖を0.3〜6重量%及び油溶性色素成分を0.0005〜0.005重量%含有する、焼成食品用乳化油脂組成物。
(2)還元糖がマルトース、キシロース、グルコース、フラクトース、ガラクトース、アラビノース、ラクトースから選ばれる1種以上である、(1)記載の乳化油脂組成物。
(3)油溶性色素成分がカロチンである、(1)記載の乳化油脂組成物。
(4)色素成分を含有する原材料を使用する、(1)記載の乳化油脂組成物。
(5)色素成分を含有する原材料がレッドパーム油である、(4)記載の乳化油脂組成物。
(6)シュー皮用である、(1)〜(5)いずれか1つに記載の乳化油脂組成物。
(7)(1)〜(5)いずれか1つに記載の乳化油脂組成物を使用した、焼成食品。
に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、簡易な方法により、乳化油脂組成物を使用する焼成食品において、焼き色を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で言う還元糖とは、溶液中で還元力を示す糖の総称であり、具体的にはグルコース、フルクトース、グリセルアルデヒドなどの全ての単糖、ラクトース、アラビノース、マルトースなどのマルトース型二糖・オリゴ糖が含まれる。なお、本発明においては、還元糖としてマルトース、キシロース、グルコース、フラクトース、ガラクトース、アラビノース、ラクトースから選ばれる1種以上を使用することが望ましく、より望ましくは、マルトースと、「キシロース、グルコース、フラクトース、ガラクトース、アラビノース、ラクトースマルトース」から選ばれる1種以上の還元糖を組み合わせるのが望ましい。詳細は不明であるが、このような組み合わせにおいて、焼成食品における焼き色改善効果は、より好ましいものとなる。
【0009】
本発明においては、焼成食品用乳化油脂組成物中に還元糖を0.3〜6重量%含むことが必要であり、より望ましくは0.4〜5重量%、更に望ましくは0.5〜4重量%である。還元糖の量が少なすぎる場合は、焼き色改善の効果が小さくなる場合がある。また、還元糖の量が多すぎる場合は、焼き色のバランスが崩れたり、また、風味に影響を及ぼす場合がある。なお、ここで言う還元糖の量は、2種類以上の還元糖を使用する場合においては、その合計量である。また、還元糖の量は無水物換算の量である。すなわち、本発明においては、含水結晶であるかどうかにかかわらず、上記還元糖であれば使用することができるが、使用量を決める場合は、無水結晶の量に換算して求める。
【0010】
油溶性色素は、脂溶性色素とも称されることがあるが、油に溶けるタイプの色素のことである。たとえば、水溶性色素を使用した場合は、シュー皮に接するクリームに、「色移り」が起こる等の問題が発生する場合があるが、油溶性色素であれば、そのような色移りを起こりにくくする効果がある。
なお、一般に「色素」という場合は、発色する本来の色素成分のほか、使用上の利便性向上を目的に、他の成分で希釈した状態のものも存在する。よって本発明では、このような混合物である「色素」ではなく、その中に含まれる、発色成分である「色素成分」にて規定を行う。
【0011】
本発明で言う油溶性色素成分とは、これら油溶性色素に含まれている色素成分の他、色素成分を含んだ原材料を使用することもできる。色素成分を含んだ原材料としては、レッドパーム油や卵黄粉末をあげることができ、特にレッドパーム油が色素成分の含有量が多い点などから好ましい。レッドパーム油とは、未精製のパーム油を精製する過程において、カロチンの色を残すような方法をとったものであり、「レッドパーム油」の名称で各種市販されている。また本発明においてレッドパーム油と言った場合には、一部分別工程を経た「レッドパームオレイン」も含む。
【0012】
油溶性色素を使用する場合には、対象となる焼成食品の生地に均一に分散させる必要がある。しかし、焼成食品の生地の連続相は水系であるので、油溶性の色素を均一に分散させることが困難となる場合がある。この点本発明のように、原料として使用する乳化油脂組成物中に油溶性色素を分散(溶解)させておくことで、当該油溶性色素の焼成食品生地への分散が容易になる。
【0013】
本発明では、油溶性色素成分を0.0005〜0.005重量%含有する必要があり、より望ましくは0.001〜0.004重量%である。油溶性色素の量が多すぎる場合は、色調のバランスが崩れてしまう場合もあり、また、油溶性色素の量が少なすぎる場合は、効果が少なくなる場合もある。なお、レッドパーム油など、色素成分を含む油等の原料を使用する場合は、当該原料に含まれる色素成分の量に、当該原料の配合率を掛け合わせることで、全体における色素の量とすることができる。
【0014】
本発明で言う油溶性色素には、カロテノイド(カロチノイドとも言う)色素、タール色素をあげることができる。カロテノイド色素においては、カロチン(カロテンとも言う)が好ましい。なお、レッドパーム油はカロテノイド色素を豊富に含むことが知られている。
【0015】
本発明で言う焼成食品とは、乳化油脂組成物を使用し、オーブン、窯等で加熱した後食する食品の総称であり、たとえば、パン、パイ、パウンドケーキ、シュークリーム等をあげることができる。特にシュークリームにおけるシュー皮(シューケースとも言う)への適用が好ましい。本発明は、これら焼成食品の焼き色を調整することができるものであり、これら焼成食品の表面の色の調整を意図するものである。
パンやパイ、パウンドケーキへ適用する場合は、当該乳化油脂組成物を生地へ練りこんで使用するか、また別途、当該乳化油脂組成物を配合し調製した生地を、これら食品の表面に塗布した後焼成することで、良好な焼き色を付与することができる。
【0016】
本発明で言う乳化油脂組成物とは、油脂を主体成分とする組成物であり、油脂を55〜95重量%、より望ましくは60〜90重量%含むものである。保存性の点からは油中水型乳化油脂組成物であることが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明で言う、焼成食品用乳化油脂組成物の調製方法を、油中水型の乳化油脂組成物を例に説明する。
油中水型乳化油脂組成物の調製においては、まず油相および水相を準備する。油相は、適度の融点を示す、単品ないし、2種類以上の油脂の混合物を主体とし、そこへ油に溶ける成分を溶解させたものである。使用する油脂は特に限定されないが、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米ぬか油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、やし油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード等の動物性油脂等、あるいはそれらの分別、硬化、エステル交換等を施した加工油脂が例示できる。
【0018】
油に溶ける成分として、油相に溶解させるものは、油溶性の乳化剤等をあげることができる。なお、本発明で添加する色素は、油溶性であるので、油へ溶解させてもよいが、原料の中では比較的添加量が少ないことから、油相と水相を混合した後の、調合液の段階で添加することもできる。この場合も、攪拌している間にほどなく、油溶性色素は油へ溶解するものと想定される。
【0019】
水相は、水へ水溶性成分を溶解したものであり、本発明においては、還元糖も水相へ溶解させるのが好ましい。しかしこれも、油相と水相を混合した後の、調合液の段階で添加することもできる。
水相と油相の調製が完了した段階で、油相を混合しつつ、水相を添加し、略乳化させる。この「略乳化」状態は、放置すると比較的速やかに分離する程度の、弱い乳化状態であり、調合液を入れたタンク内では常に混合していることが望ましい。
【0020】
更に、必要により油相、水相へ添加しなかった原料を添加して最終的な「調合液」として、その後油中水型乳化油脂組成物の製造装置へ供する。なお、油中水型乳化油脂組成物製造装置へ供する前に、必要により、殺菌工程等をとることもできる。
油中水型乳化油脂組成物の製造装置としては各種のものを使用することができる。具体的には、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の掻き取り式急冷混和機をあげることができる。調合液をこれら油中水型乳化油脂組成物製造装置へ通すことで、容易に油中水型乳化油脂組成物を得ることができる。得られた油中水型乳化油脂組成物は適宜包装容器へ充填し、必要によりテンパリング等の加熱処理を行った後、冷蔵ないし、冷凍保管される。
【0021】
本発明により得られた油中水型乳化油脂組成物を使用した焼成食品として、シュー皮の調製法を以下に説明する。
シュー皮の生地の配合は、一般的なものを採用することができる。たとえば、油中水型乳化油脂組成物、食塩、薄力粉、強力粉、全卵、炭酸アンモニウム等である。ここで、油中水型乳化油脂組成物として、本発明の油中水型乳化油脂組成物を使用する。
調製法の一例は、以下の通りである。
1.ボウルに乳化油脂組成物、水、食塩を混合し、沸騰するまで加熱溶解する。
2.これに薄力粉、強力粉をふるい入れ、ヘラでなめらかになるまで混ぜ合わせる。
3.低速で混ぜながら全卵を除々に加える。途中、膨張剤(炭酸アンモニウム)を加えた少量の全卵を加える。
4.高速で混合し、最後は低速で混ぜ生地を整える。
得られたシュー生地は天板に20〜35gずつ絞り、窯にて、170〜230℃で15〜25分間焼成する。
なお、窯の温度や焼成時間は、シュー生地の量などにより異なるので、適宜設定する。
【0022】
以上により調製したシュー皮は、本発明の乳化油脂組成物を使用しないシュー皮に比べ、焼き色がきわめて良好であり、見た目が美しく、消費者の購買意欲をそそるものである。
以下に実施例を示す。なお、特に断らない限り、%は重量%を意味する。
【実施例】
【0023】
検討1 色素成分と糖の併用効果の確認
実施例1、比較例1〜3
表1に示す配合にて乳化油脂組成物を調製した。
表1

油脂はパーム油、大豆油、エステル交換油の混合油(融点28℃)を用いた。
糖はそれぞれ無水物を用いた。
乳化剤は理研ビタミン製「エマルジーMS」及びレシチンを用いた。
【0024】
「乳化油脂組成物の調製」
油脂を60℃にて溶解状態にした後、油に溶ける成分(乳化剤)を溶解し油相とした。
(レッドパーム油も、油脂として同時に溶解、混合した)
水に食塩、リン酸ナトリウムを溶解後、カゼインナトリウムを溶解した。その後、配合に応じ糖を溶解し水相とした。
攪拌している油相へ水相を添加し、調合液とした。
調合液を10分攪拌後、ポンプにて送液した。プレート殺菌装置にて80℃3分の殺菌工程を経た後、シュレーダー社製コンビネーターA筒を通過させ15℃まで急冷、混捏した。
その後、同B筒を通過させた後、ダンボールケースに充填した。
充填後、5℃設定の冷蔵庫へ移動し、冷却、保管した。
【0025】
「シュー皮の調製」
配合を表2に示す。
表2


ボウルに各実施例・比較例の乳化油脂組成物、水、食塩を計量、混合し、沸騰するまで加熱溶解した。
これに薄力粉、強力粉をふるい入れ、ヘラでなめらかになるまで混ぜ合わせた。
低速で混ぜながら全卵を除々に加えた。途中、膨張剤を加えた少量の全卵を加えた。
高速で混合し、最後は低速で混ぜ生地を整えた。
得られたシュー生地を天板に28gずつ絞り210℃に設定したオーブンで20分間焼成した。
【0026】
「シュー皮の評価」
「シュー皮の調製」にて調製されたシュー皮を、5名のパネラーにて色、艶、総合の3項目について5段階評価を行い、その平均点を最終結果とした。
点数は、最も優れているものを5点とし、最も劣るものを1点、従来品と同程度のものを2点とし、全ての項目で、平均点が3点以上を合格とした。
判定は、色の側面、艶の側面にわけ、それぞれ程よく好ましい焼き色、艶となっているかを基準に判断を行い、それらを含め全体的に見て、好感をもてるシュー皮になっているかにより総合判断とした。すなわち、本発明の課題である「焼き色」が好ましいかどうかは、「シュー皮の評価」においては、「総合」の項目での判断となる。

表3に実施例1、比較例1〜3にて調製した乳化油脂組成物を使用したシュー皮の評価結果を示す。
表3

比較例1は全体的に白っぽく、好ましくなかった。
比較例2は全体的に黒っぽく、好ましくなかった。
比較例3は全体的に赤っぽく、好ましくなかった。
【0027】
以上のように、焼成食品の焼き色を改善する上で、色素成分と糖を併用することにより、良好な色調が得られ、好ましいことがわかった。

検討2 糖の種類の検討
実施例2〜6、(実施例1、比較例1)
表4に示す配合にて乳化油脂組成物を調製した。調製方法は検討1と同様である。
表4

糖はそれぞれ無水物を用いた。
【0028】
上記で得られた乳化油脂組成物を用い、シュー皮の調製を行った。調製方法は検討1と同様である。また、ここで得られたシュー皮について、評価を行った。評価法は検討1と同様である。
表5に評価結果を示す。
表5

実施例1〜6は良好な焼き色を示した。特に、マルトース及びそれ以外の還元糖を併用したもの(実施例1,2)においては、きわめて良好な焼き色が得られた。
【0029】
以上のように、各種の還元糖において、油溶性色素成分との併用により、良好な色調が得られることが確認された。

検討3 色素の検討
実施例7〜8、(実施例1)
表6に示す配合にて乳化油脂組成物を調製した。調製方法は検討1と同様である。
表6

糖はそれぞれ無水物を用いた。

上記で得られた乳化油脂組成物を用い、シュー皮の調製を行った。調製方法は検討1と同様である。また、ここで得られたシュー皮について、評価を行った。評価法は検討1と同様である。
表7に評価結果を示す。
表7

色素成分としてパーカロチンを使用しても、またベータカロチンを使用しても、良好な焼き色が得られた。更に、カロチン成分を多く含むレッドパーム油を使用した場合も、良好な焼き色が得られた。
【0030】
検討4 糖、色素成分の量の検討
比較例4〜9、(実施例2)
表8に示す配合にて乳化油脂組成物を調製した。調製方法は検討1と同様である。
表8

糖はそれぞれ無水物を用いた。

上記で得られた乳化油脂組成物を用い、シュー皮の調製を行った。調製方法は検討1と同様である。また、ここで得られたシュー皮について、評価を行った。評価法は検討1と同様である。
表9に評価結果を示す。
表9

色素成分は多すぎても少なすぎても、また、還元糖が多すぎても少なすぎても、良好な焼き色が得られないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により得られる乳化油脂組成物を使用して焼成食品を調製することにより、焼き色がきわめて良好であり、見た目が美しく、消費者の購買意欲をそそる製品が得られ、当該製品の販売量増加に寄与するだけではなく、消費者の満足感向上にも寄与するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元糖を0.3〜6重量%及び油溶性色素成分を0.0005〜0.005重量%含有する、焼成食品用乳化油脂組成物。
【請求項2】
還元糖がマルトース、キシロース、グルコース、フラクトース、ガラクトース、アラビノース、ラクトースから選ばれる1種以上である、請求項1記載の乳化油脂組成物。
【請求項3】
油溶性色素成分がカロチンである、請求項1記載の乳化油脂組成物。
【請求項4】
色素成分を含有する原材料を使用する、請求項1記載の乳化油脂組成物。
【請求項5】
色素成分を含有する原材料がレッドパーム油である、請求項4記載の乳化油脂組成物。
【請求項6】
シュー皮用である、請求項1〜5いずれか1項に記載の乳化油脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか1項に記載の乳化油脂組成物を使用した、焼成食品。

【公開番号】特開2011−130717(P2011−130717A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293746(P2009−293746)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】