説明

焼結含油軸受

【課題】限界面圧が高く、耐荷重性に優れた焼結含油軸受を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一種、及びポリオールエステルの少なくとも一種を25〜95質量%含有する潤滑組成物が含浸されていることを特徴とする焼結含油軸受である。式中、Ar1、Ar2及びAr3はそれぞれ、無置換もしくは置換された芳香族環基又は複素環基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結含油軸受に関し、特に、ワイパーモータ、ABS用モータ、空調用ブロワファンモータ等の自動車に搭載されるモータ用軸受として利用される焼結含油軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載用モータ軸受としては、PAO(ポリアルファオレフィン)やエステルを含浸した焼結含油軸受が種々使用されている(例えば、特許文献1)。低温から高温までの幅広い温度範囲で潤滑性を得ることを目的として、PAOやエステルは、最適な粘度範囲で使用されている。
ところで、モータには小型化及び高効率化の要求があるので、それに使用される軸受も小型化する必要がある。軸受けを小型化すると、面圧は増加する傾向にあるので、小型化の要請に応えるためには、高い面圧でも使用可能な含油軸受が必要であり、使用される含浸油が、優れた耐面圧性を示すことが必要である。
【0003】
例えば、機械的摩擦摺動部おいて、耐摩耗性、極圧性及び低摩擦特性に優れ、実用的な潤滑組成物として、放射状に数本の側鎖を有する環状構造の残基を有する化合物を主成分として含有する潤滑組成物が提案されている(特許文献2)。また、基油と所定の環状基を含む化合物とを含有する焼結含油軸受油用組成物も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−138215号公報
【特許文献2】特開2002−69472号公報
【特許文献3】特開2007−56213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、限界面圧が高く、耐荷重性に優れる焼結含油軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、鋭意研究した結果、上記課題は、所定の式で表されるトリアジン環化合物とポリオールエステルとを含有する潤滑組成物を含浸油として用いることで解決し得るとの知見を得、本発明を完成するに至った。
上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1] 焼結体、及び該焼結体に含浸された、下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一種と、ポリオールエステルの少なくとも一種とを25〜95質量%含有する潤滑組成物を有することを特徴とする焼結含油軸受:
【化1】

式中、Ar1、Ar2及びAr3はそれぞれ、無置換もしくは置換された芳香族環基又は複素環基を表す。
【0007】
[2] 前記潤滑組成物が、前記ポリオールエステルの少なくとも一種を50〜95質量%含有することを特徴とする[1]の焼結含油軸受。
[3] 前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする[1]又は[2]の焼結含油軸受:
【化2】

式中、R11、R12及びR13はそれぞれ、置換基を表し;p、q及びrはそれぞれ、1〜5の整数を表す。
【0008】
[4] 前記一般式(2)中のR11、R12及びR13のうち少なくとも1つが、オリゴアルキレンオキシ基を含む置換基であることを特徴とする[3]の焼結含油軸受。
【0009】
[5] 下記一般式(3)で表される化合物の少なくとも一種、及びポリオールエステルの少なくとも一種を25〜75質量%含有する潤滑組成物が含浸されていることを特徴とする焼結含油軸受。
【化3】

[6] 下記一般式(4)で表される化合物の少なくとも一種、及びポリオールエステルの少なくとも一種を25〜75質量%含有する潤滑組成物が含浸されていることを特徴とする焼結含油軸受。
【化4】

【0010】
[7] 前記焼結体が、有効多孔率が6〜35体積%である焼結合金であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかの焼結含油軸受。
[8] 前記焼結合金が、Feを40〜90質量%、Cuを9.5〜59質量%、並びにSn、Zn、Ni、P、及びCから選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする[7]の焼結含油軸受。
[9] 前記焼結合金が、Cuを70〜94質量%、Snを5〜13質量%、並びにZn、Ni、P及びCから選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする[7]の焼結含油軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、限界面圧が高く、耐荷重性に優れる焼結含油軸受を提供することができ、モータの小型化に伴う軸受の小型化に対応することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明の焼結含油軸受は、所定の式で表されるトリアジン化合物と、ポリオールエステルとを含有する潤滑組成物が、含油として含浸されていることを特徴とする。該トリアジン化合物とポリオールエステルとを混合して調製した潤滑組成物は、高い面圧に耐え得る油膜強度を有しつつ、高い潤滑性を示す。従って、これを含浸させた焼結軸受けは、該潤滑組成物の高い膜強度と潤滑性能によって、軸受とシャフトとの金属接触が低減され、すべり性が向上され、その結果、高い耐荷重性を示す。本発明の焼結含油軸受けは、限界面圧特性が改善されているので、軸受の小型化が可能であり、即ち、モータの小型化に寄与する。また、これまで焼結含油軸受が使用できなかった高い面圧条件まで適用範囲を広げることが可能である。
【0013】
本発明では、下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一種を含有する潤滑組成物を、軸受の含浸油として使用する。
【0014】
【化5】

【0015】
前記一般式(1)中、
Ar1、Ar2及びAr3はそれぞれ、無置換もしくは置換された芳香族環基又は複素環基を表す。前記芳香族環基は、単環を含んでいても、二以上の環の縮合環を含んでいてもよい。具体的には、フェニル基、インデニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基及びピレニル基等が挙げられるが、フェニル基及びナフチル基が好ましい。
Ar1、Ar2及びAr3でそれぞれ表される複素環基は、5〜7員環構造の複素環残基が好ましく、5又は6員環構造の複素環残基がより好ましい。複素環基は、単環を含んでいても、二以上の環の縮合環を含んでいてもよい。前記複素環基に含まれる複素環の骨格の具体的な例については、岩波理化学辞典 第三版増補版 (岩波書店発行)の付録11章 有機化学命名法 表4.主要複素単環式化合物の名称 1606頁 及び表5.主要縮合複素環式化合物の名称 1607頁 に記載される複素環が挙げられる。
【0016】
Ar1、Ar2及びAr3がそれぞれ表す芳香族環基又は複素環基は、少なくとも一つの置換基を有するのが好ましい。該置換基としては、炭素原子数8以上(好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基及びアルキル残基を含む置換基が好ましく、具体的には、アルキル基(オクチル基、デシル基、ヘキサデシル基、2−エチルヘキシル基等)、アルコキシ基(ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基等)、スルフィド基(ヘキサデシルチオ基等)、置換アミノ基(ヘプタデシルアミノ基等)、オクチルカルバモイル基、オクタノイル基及びデシルスルファモイル基等の置換基が好ましい。また、Ar1、Ar2及びAr3はそれぞれ、これらの置換基を2つ以上有しているのが好ましい。また、さらに上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、及びスルホ基等から選択された置換基を有していてもよい。
【0017】
Ar1、Ar2及びAr3には、総炭素原子数8以上(好ましくは8〜22、より好ましくは10〜18)の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル鎖、総炭素原子数4以上(好ましくは4〜18、より好ましくは6〜10)の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素原子数2以上(好ましくは2〜8、より好ましくは2〜5)の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル鎖、総炭素原子数2以上(好ましくは2〜18、より好ましくは6〜12)の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキルエーテル鎖、又は直鎖状もしくは分岐鎖状の有機ポリシリル鎖を含む置換基を含んでいるのがより好ましい。Ar1、Ar2及びAr3は、直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基であるのが好ましく、より好ましくは総炭素原子数4以上(好ましくは4〜18、より好ましくは6〜12)の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基で置換されたフェニル基である。より具体的には、Ar1、Ar2及びAr3は、−O(Cx2xO)ny2y+1(但し、nは1〜10、xは1〜6、yは1〜24である)で置換されたフェニル基であるのが特に好ましい。
【0018】
前記一般式(1)で表される化合物の中でも、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0019】
【化6】

【0020】
式中、R11、R12及びR13は各々独立に置換基を表し、p、q及びrは、各々独立して1〜5の整数を表す。なお、p、q及びrが2以上の整数である場合は、2以上のR11、R12及びR13はそれぞれ、同一でも異なっていてもよい。
【0021】
11、R12及びR13がそれぞれ表す置換基の例には、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、及びスルホ基等が含まれる。R11、R12及びR13はそれぞれ、総炭素原子数8以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル鎖、総炭素原子数4以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素原子数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル鎖、総炭素原子数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキルエーテル鎖、又は直鎖状もしくは分岐鎖状の有機ポリシリル鎖を含む置換基であるのが好ましく、炭素原子数8以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル残基、又は総炭素原子数4以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基であるのが好ましく、総炭素原子数4以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基であるのがより好ましい。各基中の総炭素原子数のより好ましい範囲については、式(1)中のAr1、Ar2及びAr3それぞれが有する置換基の総炭素原子数の好ましい範囲と同様である。R11、R12及びR13はそれぞれ、−O(Cx2xO)ny2y+1(但し、nは1〜10、xは1〜6、yは1〜24である)であるのが特に好ましい。
なお、R11、R12及びR13のフェニル基に対する置換位置については特に制限はないが、p、q及びrがそれぞれ1の場合は、−N−CH3の置換位置に対して、パラ位であるのが好ましく、p、q及びrが2又は3である場合は、−N−CH3の置換位置に対して、パラ位及びメタ位であるのが好ましい。
【0022】
また、一般式(2)で示される化合物の好ましい例には、下記一般式(3)あるいは(4)で示される化合物が含まれる。
【0023】
【化7】

【化8】

【0024】
但し、本発明に用いられる一般式(1)で表される化合物は、前記一般式(3)あるいは(4)で表される具体例に限定されるものではない。
【0025】
本発明に用いる潤滑組成物は、ポリオールエステルの少なくとも一種を含有する。ポリオールエステルを含有することにより、該潤滑組成物の潤滑性が改善され、耐荷重性がさらに高まる。本発明に使用可能なポリオールエステルについては特に限定されず、種々のものを用いることができる。ポリオールエステルは、1価カルボン酸と多価アルコールをエステル化して得られた化合物である。
1価カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸が、特には炭素数4〜18の直鎖又は分枝の脂肪族カルボン酸が好ましい。例えば、酪酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びこれらの直鎖の酸に対応する分枝の酸が挙げられる。
また、多価アルコールとしては、脂肪族多価アルコール、特には炭素数4〜18の直鎖又は分枝の脂肪族多価アルコールが好ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール及びグリセロール等の多価アルコ−ルのエステルを挙げることができる。
【0026】
前記一般式(1)の化合物とポリオールエステルとの混合割合は、ポリオールエステルが、組成物の全質量に対して50〜95質量%であるのが好ましく、50〜90質量%であるのがより好ましい。前記式(1)の化合物の中には、粘性が高い化合物も存在するので、ポリオールエステルと上記範囲で混合して、希釈することにより、粘性を下げることで、前記化合物による効果を長期的に維持できる。
【0027】
前記潤滑組成物中には、さらに、必要に応じて、鉱油あるいは上記以外の合成油を添加することも可能である。鉱油としては、具体的には例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用できる。
また上記以外の合成油としては、具体的には例えば、ポリα−オレフィン又はその水素化物、エチレン−α−オレフィン共重合体若しくはその水素化物、イソブテンオリゴマー及びその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル並びにシリコーン油等が使用できる。
【0028】
また、前記潤滑組成物には、種々の用途に適応した実用性能を確保するため、各種添加剤、すなわち摩耗防止剤、極圧剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤等を本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加することができる。
【0029】
本発明の焼結含油軸受は、多孔性の焼結体に、上記潤滑組成物が含浸することによって製造できる。該焼結軸受は、有効多孔率が6〜35体積%であることが好ましい。有効多孔率が6体積%未満であると含浸される潤滑組成物量が少な過ぎるため、軸受の潤滑を良好に保つことが困難となり、また35堆積%を超えると潤滑の点では良好であるが、軸受の強度が低下して摩耗が増大するため、最適範囲は6〜35体積%である。上記焼結体は、高い限界面圧を示す焼結合金であるのが好ましい。
好ましい焼結合金としては、鉄と銅合金が混在する焼結合金においては、Feを40〜90質量%、Cuを9.5〜59質量%、並びに残部としてSn、Zn、Ni、Pb及びCから選択される少なくとも1種を含む焼結合金が好ましい。Feの比率が多くなると硬さが上昇し耐面圧性は上昇するが、相手軸との焼付き性が低下していくため、Feの比率の最適範囲は40〜90質量%である。
また、銅系の焼結合金としては、青銅系CuとSnからなる青銅系材料をベースとした材料が耐面圧性、耐焼付き性の点で好ましい。この態様では、耐面圧性と耐焼付き性を両立するために、Cuを70〜94質量%、Snを5〜13質量%、並びに残部としてZn、Ni、P、及びCから選択される少なくとも1種を含む焼結合金であるのが好ましい。
【0030】
本発明の焼結含油軸受は、種々の用途のモータの軸受として有用である。特に車載用モータ軸受、具体的には、自動車のファンモータ、ワイパー、パワーウィンド又はスターター用の軸受として有用である。
【実施例】
【0031】
本発明について実施例及び比較例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
(1)焼結含油軸受の作製
(1)−1 含浸潤滑剤
下記一般式(3)又は(4)で表される化合物と、ポリオールエステルAとを表1に示す比率で配合して、潤滑組成物を調製した。
【0032】
【化9】

【化10】

ポリオールエステルA:トリメチロールプロパンのC518の直鎖又は分岐脂肪酸の混合酸エステル(粘度63.9cst(温度40℃))
【0033】
(1)−2 軸受
軸受として、銅を30質量%と錫3質量%とを含み、残部が鉄からなる組成の焼結合金を用いた。原料粉として、還元鉄粉(ヘガネス製 NC100/24)、電解銅粉(福田金属箔粉工業製 CE56)、錫粉(日本アトマイズ加工製、Sn−325)の各金属粉末と、成形潤滑剤(ステアリン酸亜鉛粉)を配合、混合した後、内径φ10mm、外径φ16mmの金型にて全長約10mmになるように圧縮成形を行い、還元雰囲気中780℃で30分間焼結した後、サイジングを施した。得られた焼結合金の密度は6.1Mg/m3、有効多孔率は24%であった。
(1)−3 含浸
調製した各潤滑組成物を、室温条件で、真空条件下で、上記焼結合金からなる軸受に含浸して、焼結含油軸受をそれぞれ作製した。
【0034】
(2)軸受試験評価
(2)−1 耐久試験
下記表に示す各種潤滑組成物を含浸した焼結軸受と、焼入れを施したS45C材シャフトとを組み合わせて、耐久試験を行った。シャフト回転数は5000rpm、軸受へのラジアル負荷は200Nの条件で、200時間運転した後の、軸受摩耗量で比較を行った。結果を下記表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
(2)−2 限界面圧試験
各種潤滑組成物を含浸した焼結軸受と焼入れを施したS45C材シャフトとを組み合わせて、限界面圧試験を行った。シャフト回転数を1000rpm一定として、軸受へ9.8Nずつ荷重を負荷させていき、焼付きにいたる面圧を比較した。結果を下記表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
(2)−3 熱分解安定性試験
各種潤滑組成物を含浸した焼結軸受を150℃で24時間加熱し、その後それらを有機溶媒で抽出し、残存量を高速液体クロマトグラフィーで測定した。非加熱品から抽出したものを100%とし残存率を求めた。結果を下記表3に示す。
なお、比較例2及び3として、下記式(5)又は(6)で表される化合物とポリオールエステルAとを表1に示す比率で配合して調製した潤滑剤組成物についても、同様にして、熱分解性試験を行った。
【0039】
【化11】

【0040】
【表3】

【0041】
上記結果から、本発明に係るN−位にメチル基が置換したトリアジン化合物を含有する組成物は、焼結軸受での熱分解安定性が著しく優れていることが理解できる。
【0042】
(2)−4 耐久試験
下記表に示す各種潤滑組成物を含浸した焼結軸受と、焼入れを施したS45C材シャフトとを組み合わせて、低温5℃での摩擦トルク試験を行った。1時間運転した後の、シャフト回転数5000rpmを維持するような軸受へのラジアル負荷を測定した。結果を下記表に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
上記表に示す結果から、ポリオールエステルAの割合が50質量%以上である実施例1及び2は、ポリオールエステルAの割合が50質量%未満である実施例3と比較して、ラジアル負荷が小さいことが理解できる。ポリオールエステルを所定の割合で添加し、希釈することで、粘性を下げ、その他の特性を維持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結体、及び該焼結体に含浸された、下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一種と、ポリオールエステルの少なくとも一種とを含有する潤滑組成物を有することを特徴とする焼結含油軸受:
【化1】

式中、Ar1、Ar2及びAr3はそれぞれ、無置換もしくは置換された芳香族環基又は複素環基を表す。
【請求項2】
前記潤滑組成物が、前記ポリオールエステルの少なくとも一種を50〜95質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の焼結含油軸受。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の焼結含油軸受:
【化2】

式中、R11、R12及びR13はそれぞれ、置換基を表し;p、q及びrはそれぞれ、1〜5の整数を表し、p、q及びrが2以上の整数の場合は、2以上のR11、R12及びR13はそれぞれ、同一でも異なっていてもよい。
【請求項4】
前記一般式(2)中のR11、R12及びR13のうち少なくとも1つが、オリゴアルキレンオキシ基を含む置換基であることを特徴とする請求項3に記載の焼結含油軸受。
【請求項5】
下記一般式(3)で表される化合物の少なくとも一種、及びポリオールエステルの少なくとも一種を含有する潤滑組成物が含浸されていることを特徴とする焼結含油軸受。
【化3】

【請求項6】
下記一般式(4)で表される化合物の少なくとも一種、及びポリオールエステルの少なくとも一種を含有する潤滑組成物が含浸されていることを特徴とする焼結含油軸受。
【化4】

【請求項7】
前記焼結体が、有効多孔率が6〜35体積%の焼結合金であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の焼結含油軸受。
【請求項8】
前記焼結合金が、Feを40〜90質量%、Cuを9.5〜59質量%、並びにSn、Zn、Ni、P、及びCから選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項7に記載の焼結含油軸受。
【請求項9】
前記焼結合金が、Cuを70〜94質量%、Snを5〜13質量%、並びにZn、Ni、P及びCから選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項7に記載の焼結含油軸受。

【公開番号】特開2011−208735(P2011−208735A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77417(P2010−77417)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)
【Fターム(参考)】