説明

煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体およびその製造方法

【課題】本発明は、断熱性、耐熱性および耐熱衝撃性に優れ、使用時に爆裂が生じにくく、しかも施工性に優れた煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体ならびにその製造方法を提供する。
【解決手段】
(1)ケイ酸カルシウムを固形分中35〜99重量%含み、繊維径が20〜500μmであり且つ繊維長が2〜15mmである合成繊維を固形分中1〜3重量%含む水性スラリーを成形することにより、ケイ酸カルシウム−繊維複合成形体を得る工程、ならびに、
(2)工程(1)で得られた複合成形体を熱処理することにより、該複合成形体に含まれる合成繊維を分解させる工程、
により得られる、内部に該合成繊維由来の空隙を有する、煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラー、冷温水発生機、発電機等の煙道部を保護するための煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラー、冷温水発生機、発電機等の煙道部を保護するための煙突ライニング材として、耐火レンガ等を組積みした物にキャスタブル耐火物等を吹きつけた部材が一般的に使用されている。
【0003】
また、ケイ酸カルシウム成形体も煙突ライニング材として使用されている。前記ケイ酸カルシウム成形体は、前記部材に比べて、施工性および断熱性が優れている点で有利である。
【0004】
しかしながら、ケイ酸カルシウム成形体を煙突ライニング材として施工する際には、コンクリート打設時におけるコンクリート中の水分や、施工途中の煙突頂部に天笠が付いていない状況で煙道に入る雨等がケイ酸カルシウム成形体内部に入ることがある。ケイ酸カルシウム成形体が吸水した状態で煙道内部が急激に加熱されると、ケイ酸カルシウム成形体内部の水分が急激に水蒸気化し、その水蒸気が成形体外部に排出される速度が、水蒸気の発生速度に追いつかず成形体内部に圧力が発生し、その圧力に耐えきれずにケイ酸カルシウム成形体が爆裂するという問題がある。
【0005】
一方、ケイ酸カルシウムに合成繊維を含有させる成形体として、特許文献1には、合成繊維を含有するケイ酸カルシウム成形体を、該繊維の溶融温度以上の温度で加熱保持することにより、高強度で低吸水性であるケイ酸カルシウム成形体を製造する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、前記合成繊維溶融ケイ酸カルシウム成形体を煙突ライニングに使用すると、低吸水性であるが故に一度吸水すると水分を排出しにくい。よって、成形体内部で発生した水蒸気が成形体外部へ排出される速度が通常のケイ酸カルシウム成形体よりも遅いため、含水状態で該ケイ酸カルシウム成形体が急激に加熱されると、通常のケイ酸カルシウム成形体よりも爆裂が起こり易いという問題がある。
【0007】
成形体の爆裂を防止する技術として、例えば、特許文献2には、有機繊維を含有する高強度コンクリート中の該有機繊維が火災時の高温条件下で溶融・分解して空孔を形成し、この空孔部から水蒸気を逃すことにより爆裂を防止する技術が開示されている。また、特許文献3には、合成繊維および空気連行剤を含有させたセメント押出成形体を、該合成繊維が熱収縮する範囲の温度で加熱養生し、該成形体内の一部の合成繊維を熱収縮または熱分解させることにより、繊維跡の空洞部分が圧力開放経路となって成形体の爆裂や表面割れを防止する技術が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2の方法により得られるコンクリート部材は断熱性、耐熱性および耐熱衝撃性に劣るため煙突ライニング材には向かない。また、特許文献3の方法により得られるセメント部材は、断熱性、耐熱性および耐熱衝撃性が劣るうえに、重いから、施工性に劣る点で問題である。
【特許文献1】特開平9-71486号公報
【特許文献2】特開2003-306366号公報
【特許文献3】特開平6-321606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、断熱性、耐熱性および耐熱衝撃性に優れ、使用時に爆裂が生じにくく、しかも施工性に優れた煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体ならびにその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の方法により製造されたケイ酸カルシウム成形体が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体およびその製造方法に係る。
1. (1)ケイ酸カルシウムを固形分中35〜99重量%含み、繊維径が20〜500μmであり且つ繊維長が2〜15mmである合成繊維を固形分中1〜3重量%含む水性スラリーを成形することにより、ケイ酸カルシウム−繊維複合成形体を得る工程、ならびに、
(2)工程(1)で得られた複合成形体を熱処理することにより、該複合成形体に含まれる合成繊維を分解させる工程、
により得られる、内部に該合成繊維由来の空隙を有する、煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体。
2. 前記合成繊維が、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリアミド繊維およびポリオレフィン繊維からなる群より選ばれる少なくとも一種の合成繊維である、上記項1に記載の煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体。
3. 密度が0.1〜1.2g/cmである、上記項1または2に記載の煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体。
4. (1)ケイ酸カルシウムを固形分中35〜99重量%含み、繊維径が20〜500μmであり且つ繊維長が2〜15mmである合成繊維を固形分中1〜3重量%含む水性スラリーを成形することにより、ケイ酸カルシウム−繊維複合成形体を得る工程、ならびに、
(2)工程(1)で得られた複合成形体を熱処理することにより、該複合成形体に含まれる合成繊維を分解させる工程、
を含む、内部に該合成繊維由来の空隙を有する、煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体の製造方法。
【0012】
本発明の煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体は、
(1)ケイ酸カルシウムを固形分中35〜99重量%含み、繊維径が20〜500μmであり且つ繊維長が2〜15mmである合成繊維を固形分中1〜3重量%含む水性スラリーを成形することにより、ケイ酸カルシウム−繊維複合成形体を得る工程、ならびに、
(2)工程(1)で得られた複合成形体を熱処理することにより、該複合成形体に含まれる合成繊維を分解させる工程、
により得られるものであり、内部に該合成繊維由来の空隙を有する。
【0013】
本発明の成形体は、特定のケイ酸カルシウム−繊維複合成形体内部に存在する合成繊維を分解して形成された空隙を有する成形体である。煙突ライニング材は、実際の使用に際して、熱気等により急加熱される。吸水した状態で煙道内部が急激に加熱されると、ケイ酸カルシウム成形体内部の水分が急激に水蒸気化し、その水蒸気が成形体外部に排出される速度が、水蒸気の発生速度に追いつかず成形体内部に圧力が発生し、その圧力に耐えきれずにケイ酸カルシウム成形体が爆裂するという問題がある。これに対し、本発明の成形体は、成形体内部の水蒸気を前記空隙から好適に排出することができる。従って、本発明の成形体は、使用時の爆裂を防止または抑制でき、煙突ライニング材として好適に使用できる。
【0014】
また、本発明の成形体は、圧縮強さが高いため、施工に際して、一度に多量のコンクリートを打設できるという利点がある。
【0015】
前記空隙は、直径が実質的に前記合成繊維の径と一致する連続した空洞であり、成形体内に複数存在する。
【0016】
本発明の成形体の密度は、0.1〜1.2g/cmが好ましい。密度が0.1g/cm未満の場合、強度が劣り煙突ライニング材として使用しづらい。また、密度が1.2g/cmを超える場合、十分な断熱性および施工性が得られないおそれがある。
【0017】
本発明の成形体は、下記工程(1)および工程(2)を経て製造されるものである。
【0018】
工程(1)
工程(1)では、ケイ酸カルシウムを固形分中35〜99重量%含み、繊維径が20〜500μmであり且つ繊維長が2〜15mmである合成繊維を固形分中1〜3重量%含む水性スラリーを成形することにより、ケイ酸カルシウム−繊維複合成形体を得る。
【0019】
合成繊維の含有量が水性スラリーの固形分中1重量%未満の場合、成形体内部に十分な空隙が形成されず、爆裂を十分に防止できない。合成繊維の含有量が3重量%を超える場合、成形体の強度が低下し、煙突ライニング材としての使用が困難になるおそれがある。また、急加熱による爆裂を十分に防止できない。合成繊維の含有量が水性スラリーの固形分中3重量%を超える場合に耐爆裂性が低下する理由としては、成形体を合成繊維の溶融点以上で加熱した際に、合成繊維が分解し成形体中に合成繊維由来の空隙を形成しながらも、一部の合成繊維は分解せずに溶融し成形体内部を溶融樹脂で覆い、結果的に水蒸気の逃げ道を塞いでしまうためである。
【0020】
なお、水性スラリーの固形分とは、水性スラリーから水を除いたものを指す。
【0021】
前記水性スラリーは、例えば、ケイ酸カルシウムのスラリーに前記合成繊維を添加することにより調製できる。
【0022】
前記ケイ酸カルシウムのスラリーとしては特に限定されず、従来からケイ酸カルシウム成形体を製造するために用いられているケイ酸カルシウムの水懸濁液を使用できる。
【0023】
前記ケイ酸カルシウムとしては、例えば、ケイ酸質原料および石灰質原料を、水の存在下、必要に応じて撹拌しながら加熱・加圧等して得られる準結晶質ケイ酸カルシウム(CSHn)、トバモライト、ゾノトライト、フォシャジャイト、ジャイロライト、ワラストナイト等のゲル状物または結晶よりなる合成ケイ酸カルシウム、天然のケイ酸カルシウム、前記ケイ酸カルシウムを焼成して得られるワラストナイト等が使用できる。
【0024】
水性スラリー中のケイ酸カルシウムは、ゾノトライトであって二次粒子を形成した状態で分散していることが好ましい。
【0025】
前記合成繊維としては公知の合成繊維を適宜使用できるが、特に、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリアミド繊維およびポリオレフィン繊維からなる群より選ばれる少なくとも一種の合成繊維が好ましく、ポリプロピレン繊維がより好ましい。
【0026】
前記合成繊維の繊維径は20〜500μmである。繊維径が20μm未満の場合、合成繊維が分解した後に十分な大きさの合成繊維由来の空隙が得られないため、爆裂を防止できないことがある。繊維径が500μmを超える場合、合成繊維由来の空隙が大きくなりすぎるため、成形体の強度が低下し、煙突ライニング材としての使用が困難になる。
【0027】
前記合成繊維の繊維長は2〜15mmである。繊維長が15mmを超える場合、合成繊維が成形体中で十分に分散できず、結果的に爆裂を防止できないおそれがある。
【0028】
前記水性スラリーには、上記合成繊維以外にも、必要に応じて、従来から諸物性を高めるために一般的に添加されている繊維状物質の各種添加剤を配合してもよい。
【0029】
繊維状物質としては、例えば、木綿、木材パルプ、古紙パルプ、ノットカス、麻、すさ等の有機繊維、岩綿、スラグウール、ガラス繊維、耐アルカリガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、炭素繊維、無機ウィスカー等の無機繊維等が使用できる。これら繊維状物質は1種または2種以上で使用できる。繊維状物質の種類、大きさ、配合量等は、水性スラリーまたは成形体の所望の物性に応じて適宜調整できる。
【0030】
その他の添加剤としては、例えば、石膏、各種セメント、粘土類、炭素物質、炭化物、窒化物、珪化物、金属酸化物、金属水酸化物、吸熱物質、着色剤、撥水剤、合成樹脂、界面活性剤、凝集剤、混和剤等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。各種添加剤の種類、配合量等は、成形体の所望の物性に応じて適宜調整できる。
【0031】
水性スラリーを調製する際、前記合成繊維等を添加後、必要に応じて、撹拌してもよい。撹拌することにより、合成繊維が均一に分散し、成形体内部に空隙を均一に設けることができる。
【0032】
成形には、抄造法、プレス成形法、遠心成形法、押出成形等の常法が用いられる。
【0033】
得られたケイ酸カルシウム−繊維複合成形体は、ケイ酸カルシウム成形体中において合成繊維が分散したものである。合成繊維は、成形体表面から一部露出していてもよい。
【0034】
工程(2)
工程(2)では、工程(1)で得られた複合成形体を熱処理することにより、該複合成形体内部の合成繊維を分解させる。
【0035】
熱処理により、前記複合成形体内部を高温にし、合成繊維を分解させる。具体的に、合成繊維は、熱処理により、CO、HO等に分解される。
【0036】
工程(2)での熱処理における加熱温度は、前記複合成形体内部の合成繊維を十分に分解できる範囲であればよく特に限定されない。例えば、前記複合成形体が合成繊維としてポリプロピレン繊維を含む場合、加熱温度は、180℃以上が好ましく、180〜500℃がより好ましく、180〜400℃がさらに好ましい。前記複合成形体を180℃以上で加熱し続けると、数時間後、成形体内部の温度がポリプロピレン繊維を分解することが可能な温度にまで上昇する。
【0037】
前記加熱温度が180℃未満の場合、成形体の内部温度をポリプロピレン繊維を分解するのに十分な温度まで上昇させることができないおそれがある。例えば、ポリプロピレン繊維が分解せずに、溶融物として成形体内部に残存するおそれがある。この場合、前記溶融物は成形体の空隙を塞ぐため、水蒸気を排出して爆裂を防止することが困難になる。
【0038】
熱処理時間は、成形体の体積、厚さ、形状等に応じて適宜設定すればよい。
【0039】
熱処理の雰囲気は限定的ではなく、通常、空気下でよい。
【0040】
熱処理には、例えば、公知の乾燥装置等を用いることができる。
【0041】
以上の方法により、本発明の成形体を製造することができる。なお、工程(2)を経た後、必要に応じて、得られた成形体を表面処理してもよい。例えば、シリコーン系撥水剤を用いて表面処理することにより、本発明の成形体の表面に撥水性を付与できる。
【発明の効果】
【0042】
本発明のケイ酸カルシウム成形体は、該成形体中に存在していた合成繊維を分解して形成された特殊な空隙により、成形体内部の水蒸気を好適に排出することができる。そのため、煙突ライニング材として使用した際、爆裂することがほとんどない。また、本発明の成形体は、断熱性、耐熱性および耐熱衝撃性に優れている。このような本発明の成形体は、煙突ライニング材として好適に使用できる。
【0043】
また、本発明の成形体は、圧縮強さが高いため、施工に際して、一度に多量のコンクリートを打設できる。しかも、本発明の成形体は、比較的軽量であるため、容易に施工できる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明は実施例等に限定されるものではない。
【0045】
実施例1
石灰と珪石粉とをモル比(CaO/SiO2)が1になるように混合した混合物に対し、該混合物の12倍量の水を加え、原料スラリーを作製した。このスラリーをオートクレーブ中で圧力147N/cm2(15kgf/cm2)、温度197℃の条件下で6時間撹拌しながら水熱反応させ、ゾノトライトの二次粒子からなるケイ酸カルシウムのスラリーを得た。
【0046】
上記ケイ酸カルシウムのスラリーを固形分で77重量部、ベントナイト7重量部、ポルトランドセメント11重量部、ガラス繊維3重量部、パルプ2重量部、ポリプロピレン繊維(繊維径48μm、繊維長10mm、融点165±2℃)1.7重量部を均一になるように混合することにより水性スラリーを得た(水性スラリーの固形分中のポリプロピレン繊維の含有量:1.7重量%)。
【0047】
得られた水性スラリーを内径408mm×厚さ50mm×長さ1000mmの半円筒状の金型に注入して、加圧脱水して成形した後、200℃で12.5時間加熱乾燥してケイ酸カルシウム成形体を得た。
【0048】
そして、得られた成形体をシリコーン系撥水剤で表面処理した後、乾燥させ、表面撥水性ケイ酸カルシウム成形体を得た。
【0049】
この表面撥水性ケイ酸カルシウム成形体の走査電子顕微鏡(SEM)画像を図1に示す。
【0050】
図1のSEM画像から、成形体内部に、合成繊維が分解して形成された空隙があることが分かる。
【0051】
実施例2
ポリプロピレン繊維の添加量を1.2重量部(水性スラリーの固形分中のポリプロピレン繊維の含有量を1.2重量%)とした以外は実施例1と同様の方法により水性スラリーを作製した。作製した水性スラリーを3089mm×1022mm×52mmの金型に注入して、加圧脱水して成形した後、170℃で16時間加熱乾燥し、次いで、200℃で4時間加熱を行い、ケイ酸カルシウム成形体を得た。
【0052】
このケイ酸カルシウム成形体のSEM画像を図2に示す。
【0053】
図2のSEM画像から、成形体内部に、合成繊維が分解して形成された空隙があることが分かる。
【0054】
実施例3
ケイ酸カルシウムのスラリーを固形分で79重量部、ポリプロピレン繊維の添加量を1.3重量部(水性スラリーの固形分中のポリプロピレン繊維の含有量を1.3重量%)とし、パルプを添加しない以外は実施例1と同様の方法により水性スラリーを作製した。
【0055】
作製した水性スラリーを内径918mm×厚さ50mm×長さ1000mmの半円筒状の金型に注入して、加圧脱水して成形した後、200℃で14.5時間加熱乾燥してケイ酸カルシウム成形体を得た。
【0056】
比較例1
ポリプロピレン繊維を添加しない以外は、実施例1と同様の方法で表面撥水性ケイ酸カルシウム成形体を得た。
【0057】
比較例2
200℃で4時間加熱を行わなかった以外は実施例2と同様の方法でケイ酸カルシウム成形体を得た。
【0058】
このケイ酸カルシウム成形体のSEM画像を図3に示す。
【0059】
図3のSEM画像から、成形体内部に合成繊維が残存していることが分かる。
【0060】
比較例3
ポリプロピレン繊維の添加量を0.8重量部(水性スラリーの固形分中のポリプロピレン繊維の含有量を0.8重量%)とした以外は実施例1と同様の方法で表面撥水性ケイ酸カルシウム成形体を得た。
【0061】
比較例4
ポリプロピレン繊維の添加量を3.3重量部(水性スラリーの固形分中のポリプロピレン繊維の含有量を3.2重量%)とした以外は実施例1と同様の方法で表面撥水性ケイ酸カルシウム成形体を得た。
【0062】
比較例5
ポリプロピレン繊維の繊維長を20mmとした以外は実施例1と同様の方法で表面撥水性ケイ酸カルシウム成形体を得た。
【0063】
比較例6
ポリプロピレン繊維の繊維径を18μmとした以外は実施例1と同様の方法で表面撥水性ケイ酸カルシウム成形体を得た。
【0064】
比較例7
ケイ酸カルシウムのスラリーを固形分で77重量部とし、パルプを2重量部添加し、且つ、ポリプロピレン繊維を添加しない以外は実施例3と同様の方法でケイ酸カルシウム成形体を得た。
【0065】
試験例1(爆裂性試験A)
実施例1で得られた半円筒状の成形体の小口部(外周面および内周面を除く4つの面)を5mm裁断して水中に浸漬し、成形体の含水率を180〜220%に調整した。
【0066】
この含水させた半円筒状の成形体2つを向かい合わせにして針金で固定し、円筒状の試験体を作成した。その後、円筒状の試験体の下部から灯油バーナーを用いて加熱(3分間で650℃まで昇温)し、試験体の内周面(煙道部)の下部が650℃になるように調整して1時間保持した後、冷却し、試験体の内表面状態を観察した。
【0067】
比較例1および3〜6で得られた成形体についても同様の試験を行った。
【0068】
試験体の内周面で幅1mm以上のクラックが発生せず、剥離、膨れ等の爆裂痕が生じなかったものを○、試験体の内周面で幅1mm以上のクラックおよび/または深さ5mm未満の剥離および/または高さ5mm未満の膨れが生じたものを△、試験体の内周面で深さ5mm以上の剥離および/または高さ5mm以上の膨れが生じたものを×と評価した。なお、×と評価されたものには、剥離および膨れ以外にも、さらに幅1mm以上のクラックが生じたものもあった。
【0069】
なお、ケイ酸カルシウム成形体に幅1mm未満のクラックが発生しても、該成形体は大きく強度低下することなく、煙突ライニング材として好適に使用できる。
【0070】
結果を表1に示す。
【0071】
試験例2(爆裂性試験B)
実施例2で得られた成形体を長さ150mm×幅150mm×厚さ50mmとなるよう加工した後、重量変化がなくなるまで水中に浸漬させることにより試験体を作成した。得られた試験体を予め650℃に制御された電気炉中に設置し、蓋をして650℃で1時間加熱した後、冷却し、試験体の外観を観察した。
【0072】
比較例2で得られた成形体についても同様の試験を行った。
【0073】
試験体の外周面で1mm以上のクラックが発生せず、剥離、膨れ等の爆裂痕が全く生じなかったものを○、試験体の外周面で1mm以上のクラックおよび/または剥離および/または膨れが生じたものを×と評価した。
【0074】
結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
試験例3(圧縮強さ)
実施例3および比較例7で得られた半円筒状の成形体の図4に示す領域1から一辺約50mmの立方体片を切り出した後、立方体片を図4に示す方向に荷重をかけて10%変位までの最大荷重を測定し、次式に従って圧縮強さ(N/mm)を求めた。
圧縮強さ(N/mm2)=W/(a×b)
W:10%変位までの最大荷重(N)
a:試験片長さ(mm)
b:試験片幅(mm)
図4の領域2および領域3についても、同様に立方体片を切り出し圧縮強さを求め、領域1、領域2および領域3から切り出した立方体片の圧縮強さの平均値を算出した。
【0077】
実施例3の成形体の圧縮強さは、2.33N/mmであった。また、比較例7の成形体の圧縮強さは、1.67N/mmであった。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は実施例1にて得られたケイ酸カルシウム成形体のSEM画像を示す。
【図2】図2は実施例2にて得られたケイ酸カルシウム成形体のSEM画像を示す。
【図3】図3は比較例2にて得られたケイ酸カルシウム成形体のSEM画像を示す。
【図4】図4は試験例3での最大荷重の測定方法を具体的に示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ケイ酸カルシウムを固形分中35〜99重量%含み、繊維径が20〜500μmであり且つ繊維長が2〜15mmである合成繊維を固形分中1〜3重量%含む水性スラリーを成形することにより、ケイ酸カルシウム−繊維複合成形体を得る工程、ならびに、
(2)工程(1)で得られた複合成形体を熱処理することにより、該複合成形体に含まれる合成繊維を分解させる工程、
により得られる、内部に該合成繊維由来の空隙を有する、煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体。
【請求項2】
前記合成繊維が、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリアミド繊維およびポリオレフィン繊維からなる群より選ばれる少なくとも一種の合成繊維である、請求項1に記載の煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体。
【請求項3】
密度が0.1〜1.2g/cmである、請求項1または2に記載の煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体。
【請求項4】
(1)ケイ酸カルシウムを固形分中35〜99重量%含み、繊維径が20〜500μmであり且つ繊維長が2〜15mmである合成繊維を固形分中1〜3重量%含む水性スラリーを成形することにより、ケイ酸カルシウム−繊維複合成形体を得る工程、ならびに、
(2)工程(1)で得られた複合成形体を熱処理することにより、該複合成形体に含まれる合成繊維を分解させる工程、
を含む、内部に該合成繊維由来の空隙を有する、煙突ライニング用ケイ酸カルシウム成形体の製造方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−167054(P2009−167054A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7012(P2008−7012)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000149136)日本インシュレーション株式会社 (19)
【Fターム(参考)】