説明

照明装置

【課題】金属粒子に結合したラマン散乱光発生分子の密度ムラによるSERSナノタグの発光強度バラツキを低減し、高い測定精度手法で分析を行うための照明装置を提供すること。
【解決手段】 所定物を照明する照明装置であって、楕円偏光光を供給する光源部と、楕円偏光の光束を分離する光束分離機構と、分離された2つの光束の強度比を経時的に変化させる光束強度比変更機構と、2つの光束を異なる方向から合成する光束合成手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている抗原抗体反応を利用した免疫測定方法として、SERS(表面増強ラマン散乱)ナノタグを利用した免疫測定がある。
SERSナノタグとは、例えば、米国特許公報第7,192,778号に掲載されているような、光照射によって強いラマン散乱光が発生する直径数10nm〜数100nmの大きさを持つナノ粒子である。この構造としては、ラマン活性レポーター分子を付着させた約60nm金ナノ粒子を、ポリマー・ガラスまたは任意の他の誘電性材料を含む被包シェルでシールドしている。
【0003】
このSERSナノタグにレーザ光照射をすると、SERSナノタグ内部の金属粒子で表面プラズモン共鳴現象が起き、電場が強められる。そして、金属粒子に隣接したラマン散乱光発生分子から強いラマン散乱光が発光する。たとえば、633nm励起光を照射すると670nm〜710nmのラマン散乱光を発生する。
【0004】
SERSナノタグを用いた分析装置は、例えば、特許文献1に提案された構成が知られている。これは、検査容器内で抗体を結合したSERSナノタグと抗原(被分析物質)を反応させ、該反応物に抗体を結合した磁性粒子を添加反応して反応複合体を作製する。その後、磁界発生部で集めた前記反応複合体にレーザ光を照射し、SERSナノタグから発生するラマン信号を測定して、その強度から被分析物質の量を測定する手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/014223号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SERSナノタグにレーザ光を照射すると、入射光の偏光方向と平行な軸上で特に強く電場増強する。そのため、金属粒子に結合したラマン散乱光発生分子の密度ムラがある場合、SERSナノタグと光軸の位置関係によってラマン信号強度にばらつきが発生してしまう。これにより、測定精度が悪いという問題を生ずる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、金属粒子に結合したラマン散乱光発生分子の密度ムラによるSERSナノタグの発光強度バラツキを低減し、高い測定精度手法で分析を行うための照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の照明装置は、所定物を照明する照明装置であって、楕円偏光光を供給する光源部と、前記楕円偏光の光束を分離する光束分離機と、前記分離された2つの光束の強度比を経時的に変化させる光束強度比変更機構と、前記2つの光束を異なる方向から合成する光束合成手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記光源部は、直線偏光の光束を射出する光源と、前記直線偏光の光束を楕円偏光の光束に変換する円偏光変換光学素子とを有することが望ましい。
【0010】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記2光束のうちのどちらか一方の光束の光路内に1/2波長板が配置されていることが望ましい。
【0011】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記1/2波長板を光束内に挿脱する1/2波長板挿脱部を有し、前記光束強度比変更機構は、2つの光束の強度比を周期的に変化させ、
前記1/2波長板挿脱部は、前記1/2波長板を光束内に挿入した状態と、光束内から退避した状態とを、2つの光束の強度比の変化の周期に応じて切り換えることが望ましい。
【0012】
また、本発明の好ましい態様によれば、実測値または計算値に基づいて所定の照明強度となるように前記光源部の発光強度を補正する補正部を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属粒子に結合したラマン散乱光発生分子の密度ムラによるSERSナノタグの発光強度バラツキを低減し、高い測定精度手法で分析を行うことができる照明装置を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1に係る照明装置の概略構成を示す図である。
【図2】濃度フィルタの状態と光量との関係を示す図である。
【図3】濃度フィルタの状態と偏光状態との関係を示す図である。
【図4】濃度フィルタの状態と偏光状態との関係を示す他の図である。
【図5】濃度フィルタの状態と偏光状態との関係を示すさらに他の図である。
【図6】偏光状態を説明する図である。
【図7】偏光を制御できる範囲を説明する図である。
【図8】電場が増強される領域を説明する図である。
【図9】一方の光路に1/2波長板を挿入した状態を示す図である。
【図10】一方の光路に1/2波長板を挿入したときの偏光状態を示す図である。
【図11】偏光光の強度を示す図である。
【図12】1/2波長板を挿入したときに偏光を制御できる範囲を説明する図である。
【図13】実施例2に係る照明装置の概略構成を示す図である。
【図14】実施例2において検出される光量を説明する図である。
【図15】変形例の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明にかかる照明装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
(実施例1)
以下、本発明の第1実施形態に係る照明装置100を説明する。図1は、本照明装置100を備える測定装置の概略構成を示している。
実施例1に関わる測定方法および測定装置は、検査容器内の抗体と反応した被測定物質(抗原)の濃度を測定するためのものである。測定のための測定系は、大別して、光学系と、磁界発生部と演算部を有している。
【0017】
光学系は、検査容器に励起光を照射して検査容器内の反応複合体から発せられた蛍光もしくはラマン散乱光等の発光強度(スペクトル)を検出する。
磁界発生部は、検査容器内の反応複合体を所定位置に集める。
演算部は、光検出部の測定結果に基づいて、データの解析を行う。より具体的には、演算部は、光検出部により検出された光強度に基づいて、発光標識の数、被測定物質(抗原)の数を算出する。以下、構成をさらに詳細に説明する。
【0018】
光源101は、例えばレーザ光源である。光源101は、例えば、アルゴンイオンレーザ、ヘリウムネオンレーザのようなガスレーザ、半導体レーザ等、蛍光・ラマン光を発生が可能なレーザを使用する。レーザ波長、強度、発信態様などの特性は、試料によって適切なものを選択する。光源101は、直線偏光の光を射出する。
【0019】
光源101からのレーザ光は、コリメートレンズ102により略平行光に変換される。コリメートされた光束は、濃度フィルタ103に入射する。濃度フィルタ103は、円形形状を有する。そして、円形形状の片側半分は100%透過、反対側半分は0%透過、すなわち遮光するように構成されている。
【0020】
図2(a)、(b)、(c)、(d)は、濃度フィルタ103が光軸まわりに回転する様子を光源101側から見た状態を示している。図において、濃度フィルタ103のうちの斜線を付した部分は透過率0%、斜線を付していない部分は透過率100%である。
【0021】
モータ110は、濃度フィルタ103を光軸の周りに回転駆動する。また、モータ110は、制御部111により制御される。制御に関しては後述する。濃度フィルタ103とモータ110と制御部111とで、光束強度比変更機構を構成する。
【0022】
図2(a)に示すように、円形形状の濃度フィルタ103は、光路Aの領域Apと光路Bの領域Bpとをフィルタリングするように光束内に配置されている。なお、図2(b)、(c)、(d)において、領域Ap、Bpの図示を省略する。
【0023】
図2(e)は、濃度フィルタ103の回転状態と、光路Aの光の強度(実線で示す)と、光路Bの光の強度(一点鎖線で示す)との関係とを示している。
このように濃度フィルタ103が回転することで、光路A、光路Bの強度を経時的(時間的)に変化させることが可能になる。
【0024】
なお、濃度フィルタの代わりに、液晶素子を用いる構成でも良い。液晶素子は、液晶と、特定の偏光方向の光のみを透過させる偏光フィルタ板から構成される。液晶に電圧を印加し液晶分子の向きが変化させると、液晶中を通過する光の偏向が変化する。偏向した光を偏光フィルタ板に通して、光の透過率を変えることができる。液晶素子を用いて光路A、光路Bの透過率を時間的に変化させれば、可動部を用いることなく光束強度を変化させることができる。
【0025】
図1に戻って説明を続ける。濃度フィルタ103を透過した光束は、1/4波長板104へ入射する。1/4波長板104は、入射光束の振動方向と、1/4波長板の高速軸の方向とが45度の角度になるように配置されている。これにより、1/4波長板104への入射光束は、直線偏光から円偏光に変換され、1/4波長板104から出射される。
【0026】
ここで、1/4波長板104は楕円偏光変換光学素子に対応する。
また、光源101と、コリメータレンズ102と、濃度フィルタ103と、1/4波長板104とで、楕円偏光光、特に円偏光光を供給する光源部を構成する。なお、円偏光は、楕円偏光のうちの一状態である。
【0027】
ダイクロイックミラーDMは、光源101からの光束(励起光)を波長に応じて選択的に反射する。そして、反応複合体から発光した光束を波長に応じて選択的に透過する。ダイクロイックミラーDMで反射された光は、直角プリズムミラー105に入射する。
【0028】
直角プリズムミラー105は、例えば、直角を構成する二面に金属膜が形成されている直角プリズムミラーである。直角プリズムミラー105は、光源101からの励起光の光路を、光路Aと光路Bとの2光路に分離及び偏角(偏向)する。
直角プリズムミラー105は、楕円偏光の光束を分離する光束分離機構に対応する。
【0029】
光路Aとして分離された光束は、ミラーMAで反射され、対物レンズLAを透過して、所定物である検査容器107上に集光される。同様に、光路Bとして分離された光束は、ミラーMBで反射され、対物レンズLBを透過して、検査容器107上に集光される。
【0030】
反応複合体からの発光光は、対物レンズLA、LBによりそれぞれ受光される。再度、直角プリズム105を経て合成され、ダイクロイックミラーDMを透過した光束は、集光レンズLにより集光される。ここで、直角プリズムミラー105は、2つの光束を異なる方向から合成する光束合成手段に対応する。光検出器108は、反応複合体からの発光を検出する。演算部109は、検出された発光に基づいて、所定の演算を行う。
【0031】
この光学系において、対物レンズLA、LBは、光源101から発せられた励起光を、検査容器107の測定領域に集光する。2つの対物レンズLA、LBの焦点位置は、略一致させる。対物レンズは、開口数(NA)の大きいものが好ましい。NAを大きくすることで、レーザースポット径を数10μm以下に小さくできる。
【0032】
ここで、後述するように、磁界発生部106によって、検査容器107内の反応複合体を所定の狭い領域に集合させる。このため、光源101からの光は狭い領域に照射されていることが好ましい。
【0033】
また、反応していない発光標識からの発光は、バックグラウンドノイズになる。従って、レーザースポット径を小さくすると、反応複合体を構成する発光標識のみ効率よく励起できるとともに、被測定物質と未反応の発光標識の励起を抑制することができる。さらに、対物レンズLA、LBのNAが大きいと、反応複合体を構成する発光標識から発せられた蛍光もしくはラマン散乱光等を効率よく集光することができる。
【0034】
光検出部108は、光の強度(スペクトル)を測定する。光検出部108は、例えば分光器、光電子増倍管、フォトダイオード、フォトンカウンティング等から構成される。励起光の除去が必要な場合、干渉フィルタを光検出部108とダイクロイックミラーDMの間に配置する。これにより、励起光の影響を除くことができる。
【0035】
磁界発生部106は、対物レンズLA,LBの焦点位置の近傍に配置されている。磁界発生部106は、例えばネオジウム磁石や電磁石のような、比較的強力な磁力を有する磁石から構成される。磁界発生部106の先端に検査容器107を配することで、検査容器107内の反応複合体を集めることができる。
【0036】
また、磁界発生部106の先端位置は、対物レンズLAの焦点位置及び対物レンズLBの焦点位置と略一致している。
演算部109は、光検出部108の測定結果に基づいて、データの解析を行う。具体的には、演算部109は、光検出部108により検出された光強度に基づいて、発光標識の数、被測定物質(抗原)の数を算出する。演算部109としては、データ処理用のコンピュータ等を用いることができる。
【0037】
検査容器107は、マイクロリットルからミリリットル程度の試料を入れることができるプラスチック製のキュベットなどである。検査容器107は、例えばエッペンドルフチューブやマイクロチューブを用いることができる。なお、検査容器107の材質は、磁力を通すものであればよく、ガラス製等であっても構わない。また、検査容器107は、必ずしも測定系自体に、固定的に付属されるものではなく、使い捨てることもできる。
【0038】
次に、対物レンズLA、LBの焦点位置における励起光の偏光状態について説明する。なお、上述したように、光源101は、直線偏光の光(励起光)を射出する。そして、励起光は、1/4波長板104で円偏光に変換される。ここでは、励起光の偏光は電場の振動が励起光の進行方向に向かって、時計回りに回転した円偏光とする。
【0039】
上述した濃度フィルタ103を含む光束強度偏光機構により、光路A、光路Bの強度比が下記(1)、(2)、(3)になった場合の対物レンズの焦点位置での偏光状態について考える。
【0040】
(1)光路Aは100%透過、光路Bは0%の場合:
図3(a)は、全体光束のうち、光路Aの光束領域Apと光路Bの光束領域Bpとを示している。また、図3(b)は、濃度フィルタ103の状態を示している。斜線部分は光を0%透過し、残りの部分は光を100%透過する。濃度フィルタ103のこの回転状態においては、光路Aは100%透過、光路Bは0%透過、すなわち遮光される。
図3(c)に示すように、励起光は、光路Aを通り対物レンズLAの焦点位置で集光する。ここで、励起光は、光路Bは通らない。そのため励起光は、光路Aの光軸AXAに進行方向に垂直な平面PLAにおいて円偏光で集光する。
【0041】
(2)光路Aは0%、光路Bは100%:
図4(a)は、濃度フィルタ103の状態を示している。濃度フィルタ103のこの回転状態においては、光路Aは0%透過、すなわち遮光、光路Bは100%透過される。
図4(b)に示すように、励起光は、光路Bを通り対物レンズLBの焦点位置で集光する。励起光は、光路Aは通らない。そのため励起光は、光路Bの光軸AXBに進行方向に垂直な平面PLBにおいて円偏光で集光する。
【0042】
(3)光路Aは50%、光路Bは50%:
図5(a)は、濃度フィルタ103の状態を示している。濃度フィルタ103のこの回転状態においては、光路Aは50%透過、光路Bは50%透過される。これにより、励起光は、光路A、光路Bともに同じ光量で、それぞれ対物レンズLA、LBの平面PLABの焦点位置で集光する。
【0043】
図6(a)、図6(b)は、偏光状態の電気ベクトルの振動方向を二次元で模式的に示している。図6(a)に示すように、対物レンズLA、LBの集光位置で、光路Aを経由した励起光の偏光方向が励起光の進行方向に向かって左上、つまり矢印A1(紙面左上)を向いているとする。光路A、光路Bともに光路長は等しいため、光路Bを通った励起光の偏光方向も、励起光の進行方向に向かって左下、つまり矢印B1(紙面左下)になる。
【0044】
よって、焦点位置ではA1ベクトル、B1ベクトルの足し合わせ(合成)により矢印AB1(紙面左)の方向に振動する。光路A、光路Bの振幅をE、光軸AXA、AXBのなす角を2θとする。この時の振幅は、2E×cosθとなる。
【0045】
また、図6(b)に示すように、対物レンズLA、LBの集光位置で、光路Aを経由した励起光の偏光状態の電気ベクトルが励起光の進行方向に向かって上、つまり矢印A2(紙面上)を向いているとする。光路A、光路Bともに光路長は等しいため、光路Bを通った励起光の偏光方向が励起光の進行方向に向かって上、つまり矢印B2(紙面上)になる。よって、焦点位置ではA2ベクトル、B2ベクトルの足し合わせ(合成)で矢印AB2(紙面上)方向に振動する。光路A、光路Bの光束の振幅をEとすると、この時の振幅は、2Eとなる。
【0046】
このように、光路Aは50%透過、光路Bは50%透過の場合、励起光は、対物レンズLA、LBのそれぞれ焦点位置において、光軸AXA、AXBの合成軸に垂直な平面に水平な平面PLAB(図5(b))において楕円偏光で集光する。
【0047】
光路A、光路Bの光量比を変えると、図7に示すように、光路A(光軸AXA)に垂直な軸NAと、光路B(光軸AXB)に垂直な軸NBで挟む範囲αで円偏光もしくは楕円偏光の方向を回転させることができる。
【0048】
ここで、金属ナノ粒子に光を照射すると、照射光の偏光方向に強く表面プラズモン共鳴が発生し、電場が増強される。この電場が増強される領域ついて説明する。
まず、金属ナノ粒子に(1)直線偏光状態、(2)円偏光状態、(3)本実施例の偏光状態、の光で照射した時の電場増強エリアの面積を算出する。この算出された面積を金属ナノ粒子の表面積で割る。これにより、電場増強エリアの立体角を算出する。
【0049】
図8(a)、(b)、(c)は、電場増強エリアの立体角が張る領域を示している。図8(a)は、金属ナノ粒子に直線偏光の光を照射したとき、電場が増強される領域Plineを示す。図8(b)は、金属ナノ粒子に円偏光の光を照射したとき、電場が増強される領域Pcircを示す。図8(c)は、金属ナノ粒子に本実施例の楕円偏光の光を照射したとき、電場が増強される領域Ppを示す。
【0050】
図8から、(1)直線偏光状態、(2)円偏光状態、(3)本実施例の偏光状態に従って、電場増強エリアの立体角が張る領域が格段に大きくなることが分かる。なお、算出にあたって、光路A(光軸AXA)と光路B(光軸AXB)とのなす角度は90度としている。
【0051】
従って、本実施例によれば、金属粒子に結合したラマン散乱光発生分子の密度ムラによるSERSナノタグの発光強度バラツキを低減し、高い測定精度手法で分析を行うことができる。
【0052】
(変形例)
次に、変形例に係る照明装置について説明する。光路A、光路Bの光束のうち、どちらか一方の光束の光路内に1/2波長板を配置する場合について説明する。ここで、1/2波長板WPの高速軸は前記2光束の作る面に垂直であるとする。また、図9に示すように、光路Bに1/2波長板WPが挿入されているとする。
【0053】
ここで、1/2波長板WPは、挿脱部120により、光路内に挿入された状態(図10(a)、(b)において実線で示す)と、光路外へ退避した状態(図10(a)、(b)において点線で示す)とを選択的に配置される。
【0054】
対物レンズLA、LBの焦点位置での励起光の偏光状態について説明する。なお、励起光(直線偏光光)は、1/4波長板104で円偏光に変換される。ここでは、励起光の偏光は電場の振動が励起光の進行方向に向かって、時計回りに回転した円偏光とする。
【0055】
実施例1と同様、光束強度偏光機構で、光路A、光路Bの強度比が下記(1)、(2)、(3)の場合について考える。
【0056】
(1)光路Aは100%透過、光路Bは0%透過:
励起光は、光路Aを通り対物レンズLAの焦点位置で集光する。励起光は、光路Bは通らない。そのため励起光は、光路Aの光軸AXAに進行方向に垂直な平面において円偏光で集光する。
【0057】
(2)光路Aは0%透過、光路Bは100%透過:
励起光は、光路Bを通り対物レンズLBの焦点位置で集光する。励起光は、光路Aは通らない。そのため励起光は、光路Bの光軸AXBに進行方向に垂直な平面において円偏光で集光する。
【0058】
(3)光路Aは50%透過、光路Bは50%:
図10(a)、(b)は、(3)の場合について説明する図である。励起光は、光路A、光路B共に同じ光量で対物レンズLA、LBのそれぞれの焦点位置で集光する。
【0059】
図10(a)における矢印は、その位置における電気ベクトルの振動方向を二次元で模式的に示したものである。図10(a)に示すように、対物レンズLAの集光位置で、光路Aを経由した励起光の偏光が矢印A1(紙面左上)を向いているとする。光路A、光路Bともに光路長は等しく、同時に、光路Bには、光路A、光路Bの光束の作る面に対して、高速軸が垂直である1/2波長板WPが挿入されている。
【0060】
このため、光路Bを通った励起光の偏光方向は矢印B1(紙面右上)になる。よって、焦点位置ではA1ベクトル、B1ベクトルの足し合わせ(合成)で、矢印AB1(紙面上)の方向に振動する。ここで、光路A、光路Bの振幅をE、光軸A,光軸Bのなす角を2θとする。この時の振幅は、図11に示すように2E×sinθとなる。
【0061】
次に、図10(b)に示すように、対物レンズLAの集光位置で、光路Aを経由した励起光の偏光が矢印A2(紙面上)を向いているときについて説明する。光路A、光路Bともに光路長は等しい。同時に、光路Bには、光路A、光路Bの光束が作る面に対して、高速軸が垂直である1/2波長板WPが挿入されている。
【0062】
このため、光路Bを通った励起光の偏光方向は光路Aを通った偏光と同じ方向、すなわち矢印B2(紙面上)になる。よって、焦点位置ではA2ベクトル、B2ベクトルの足し合わせ(合成)で矢印AB2(紙面上)方向に振動する。ここで、光路A、光路Bの振幅をEとする。この時は、振幅は、図11に示すように2Eとなる。
【0063】
このように、光路Aは50%透過、光路Bは50%透過の場合、励起光は、対物レンズLA、LBの焦点位置において、光軸AXA、AXBの合成軸に平行な平面において楕円偏光で集光する。
【0064】
図12に示すように、光路A、光路Bの光量比を変えると、光路A(光軸AXA)と光路B(光軸AXB)で挟む範囲で円偏光もしくは楕円偏光の方向を回転させることができる。
【0065】
本例によれば、図12に示すように、光軸AXA、光軸AXBのなす角度が狭い場合でも、広い角度範囲βの円偏光もしくは楕円偏光の方向を回転できる。このため、電場増強エリアの立体角が張る領域が大きくなることが分かる。従って、円偏光の範囲を広くすることができる。この結果、金属粒子に結合したラマン散乱光発生分子の密度ムラによるSERSナノタグの発光強度バラツキを低減し、高い測定精度手法で分析を行うことができる。
【0066】
また、1/2波長板WPは、上述したように挿脱部120により、光路B内へ測定中に出し入れすることができる。
図7の角度αの範囲(1/2波長板WPを光路から退避したとき)と、図12の角度βの範囲(1/2波長板WPを光路へ挿入したとき)と、を比較してわかるように、それぞれの状態で、異なる領域を円偏光または楕円偏光で照明できる。
【0067】
その結果、1/2波長板WPを光路へ挿脱すると、360度向きを変えた円偏光または楕円偏光の照明が可能になる。これにより、金属粒子に結合したラマン散乱光発生分子の密度ムラによるSERSナノタグの発光強度バラツキを低減し、高い測定精度手法で分析を行うことができる。
【0068】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2に係る照明装置200について説明する。実施例1と同じ構成は、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図13は、照明装置200を含む測定装置の概略構成を示している。
【0069】
ダイクロイックミラーDMに関して1/4波長板104と反対側に第2の光束分離機構である直角プリズムミラー201を配置する。ダイクロイックミラーDMによって励起光の大部分は反射され、その一部は透過する。第2の光束分離機構としては、前記光束分離機構と同様に二面に金属膜を施した直角プリズムミラー201を用いる。
【0070】
ダイクロイックミラーDMを透過した光は、光路C、光路Dの2光路に分割、偏向(偏角)される。対物レンズLC、LDは、それぞれの光束を光量検出器202に集光させる。
光量検出器202は、光量検出レンズの焦点位置に配置される。光量検出器202は、たとえばフォトディテクタを用いる。
【0071】
光軸AXC、光軸AXDのなす角度を2θ'とする。この角度2θ'は、前記光軸AXA、AXBのなす角度2θに等しくなるように設定する。
また、光軸AXC、AXDを通る透過光の強度比は、光軸AXA、AXBを通る励起光の強度比と等しい。
【0072】
このため、光軸AXC、AXDの集光点と、光軸AXA、AXBの集光点の偏光状態は等しい。従って、光軸AXC、AXDの集光点と光軸AXA、AXBの集光点光量も同じように変化する。
図14は、光量検出器202で検出される光強度I(縦軸)と、濃度フィルタ103の時間的な回転変化Tと、の関係を示している。
【0073】
ここで、制御部203は、光量検出器202で検出される光強度が一定になるように、光源101の射出強度をフィードバックする。または、光量検出器202で検出される光強度によって、光量情報に基づいて演算部109で検出器108の出力値を補正しても良い。これらの場合、制御部203及び演算部109は、補正部に対応する。
【0074】
本実施例によれば、照明強度を常に一定にすることが出来る。このため、よりSERSナノタグの発光強度バラツキを低減し、高い測定精度手法で分析を行うことができる。
【0075】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変形例をとることができる。例えば、図15(a)に示す照明装置300のように、2つの対物レンズLA、LBに代えて、1つの対物レンズ301を用いることができる。これにより、光学部品点数を削減し、コンパクト化を図ることができる。
【0076】
さらには、図15(b)に示す照明装置400のように、対物レンズLA、LBに代えて、放物面鏡401を用いることもできる。この場合、放物面鏡401の焦点位置と、検査容器107上の集光位置とが一致するように構成する。これにより、光学部品点数を削減し、コンパクト化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明にかかる照明装置は、ラマン散乱光を発生させる照明に有用である。
【符号の説明】
【0078】
100 照明装置
101 光源部
102 コリメートレンズ
103 濃度フィルタ
104 1/4波長板
105 直角プリズムミラー
106 磁界発生部
107 検査容器
108 光検出器
109 演算部
120 挿脱部
200 照明装置
201 直角プリズムミラー
202 光量検出器
300 照明装置
301 対物レンズ
400 照明装置
401 放物面鏡
AXA、AXB 光軸
LA、LB 対物レンズ
L 集光レンズ
AXC、AXD 光軸
LC、LD 対物レンズ
DM ダイクロイックミラー
MA、MB ミラー
MC、MD ミラー
WP 1/2波長板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定物を照明する照明装置であって、
楕円偏光光を供給する光源部と、
前記楕円偏光の光束を分離する光束分離機構と、
前記分離された2つの光束の強度比を経時的に変化させる光束強度比変更機構と、
前記2つの光束を異なる方向から合成する光束合成手段と、を有することを特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記光源部は、直線偏光の光束を射出する光源と、前記直線偏光の光束を楕円偏光の光束に変換する楕円偏光変換光学素子とを有することを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記2光束のうちのどちらか一方の光束の光路内に1/2波長板が配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記1/2波長板を光束内に挿脱する1/2波長板挿脱部を有し、
前記光束強度比変更機構は、2つの光束の強度比を周期的に変化させ、
前記1/2波長板挿脱部は、前記1/2波長板を光束内に挿入した状態と、光束内から退避した状態とを、2つの光束の強度比の変化の周期に応じて切り換えることを特徴とする請求項3に記載の照明装置。
【請求項5】
実測値または計算値に基づいて所定の照明強度となるように前記光源部の発光強度を補正する補正部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−17577(P2011−17577A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161500(P2009−161500)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】