説明

熱アシスト磁気記録ヘッド及びその製造方法

【課題】光伝搬の効率が高く、変動の小さい光導波路をスライダ内に設けた熱アシスト磁気記録ヘッドを提供する。
【解決手段】光導波路を酸化膜からなるコアと酸化膜からなるクラッド層で構成し、コアと接するクラッド層の酸素含有量を化学量論的組成より高く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録ヘッドに記録媒体を加熱する機能を付与した高記録密度記録が可能な熱アシスト磁気ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録装置の記録容量の増加に伴い、磁気記録ヘッドの高記録密度化が要求されている。磁気記録ヘッドの記録密度を高めるには、記録トラック幅とビット長を狭小化するのが有効であるが、単磁極によりデータ書き込みを行う垂直磁気記録ヘッドにおいては、記録トラック幅を規定する単磁極の狭小化は書き込み磁界強度を低下させる。また、ビット長を詰める記録媒体の磁性粒子の微小化においても、熱揺らぎによる記録情報消去に対する熱安定性の目安となるKuV/kTにおけるV(磁性粒子の体積)を小さくすることになる。ここで、kはボルツマン定数,Tは絶対温度,Kuは磁性粒子の磁気異方性エネルギーである。そこで、熱安定性確保のためにKuを大きくすると、記録媒体の保磁力が増加して、記録層を磁化反転させるための書き込み磁界強度の増強が必要になり、高記録密度を進める上で書き込み磁界強度の不足を補うために、数々のアシスト記録が考案されている。
【0003】
このようなアシスト記録方法の一つとして、記録媒体の情報書き込み位置の局所領域を加熱して記録層の保磁力を低下させながら、コイルの誘導磁界による放出磁束で書き込みを行う熱アシストによる磁気記録方式が提案されている。特許文献1には、スライダにレーザダイオード等の光源を搭載し、光源からの入射光がスライダ内の光導波路を伝搬して浮上面まで導かれ、浮上面に設けた近接場光発生体に出射光が照射されて、近接場光発生体から近接場光を発生させる熱アシスト磁気ヘッドが開示されている。この近接場光により、記録媒体の局所領域を加熱することで記録層の保磁力を低下させて、垂直磁気記録方式による単磁極の書き込み磁極で記録媒体の記録層を磁化反転させて情報を記録する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−43368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱アシスト磁気記録ヘッドにおける課題の一つは、光源の光をスライダの浮上面側に設けた近接場光発生体まで伝搬させる光導波路の伝搬損失を低減して、伝搬効率を向上することにある。
【0006】
本発明は、光伝搬の効率が高く、変動の小さい光導波路をスライダ内に設けた熱アシスト磁気記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による熱アシスト磁気記録ヘッドは、記録磁界を発生する磁極と、近接場光を発生する近接場光発生体と、近接場光発生体に照射する光を導く光導波路とを有し、光導波路は、第1の酸化膜からなるコアと、コアの外周を被覆しコアより屈折率の小さい第2の酸化膜からなるクラッド層とを備え、クラッド層は、第2の酸化膜の化学量論的組成より高い濃度の酸素を含有する。コアと接するクラッド層は、化学量論的組成より3%〜20%高い濃度の酸素を含有するのが好ましい。
【0008】
本発明による熱アシスト磁気記録ヘッドの製造方法は、光導波路を形成する工程が、下層クラッド層となる第1の酸化膜を形成する工程と、下層クラッド層の上にコアとなる第2の酸化膜を形成する工程と、第2の酸化膜をパターニングしてコアを形成する工程と、コアの側壁を被覆する中間クラッド層となる第3の酸化膜を形成する工程と、コアの上面を被覆する上層クラッド層となる第4の酸化膜を形成する工程とを有し、第3の酸化膜及び第4の酸化膜として、各酸化膜の化学量論的組成より高い濃度の酸素を含有する酸化膜を形成するものである。
【0009】
また、本発明による熱アシスト磁気記録ヘッドの製造方法は、光導波路を形成する工程が、下層クラッド層となる第1の酸化膜を形成する工程と、下層クラッド層の上にコアとなる第2の酸化膜を形成する工程と、第2の酸化膜をパターニングしてコアを形成する工程と、第1の酸化膜を構成する原子を少なくとも一種類含む、コアの側壁に付着した混在層を除去する工程と、混在層を除去したコアの側壁に接するクラッド層となる第3の酸化膜を形成する工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、伝搬効率が向上し、性能変動の少ない光導波路を備える熱アシスト磁気記録ヘッドを提供することができ、記録層磁性体の加熱効率及び加熱の安定性を高めて、高記録密度化の要求に応えることができる。
【0011】
上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】イオンミリングによってコア表面に発生した加工ダメージを検査する実験の模式図。
【図2】実験結果を示す図。
【図3】Al23膜のAlとOの含有比率と屈折率の関係を示す図。
【図4】導波路のTEM観察像とEDX分析結果を示す図。
【図5】本発明による光導波路の構成例を示した断面模式図。
【図6】磁気記録装置の概念図。
【図7】本発明による磁気ヘッドの一例と、磁気記録媒体への記録動作時の一例を示す断面模式図。
【図8】コア層上に加工用のマスクを形成する工程を示す図。
【図9】コアとコアに接するクラッド層の製造工程を示す図。
【図10】コア側壁に接するクラッド層の製造工程を示す図。
【図11】コア上部に接するクラッド層の製造工程を示す図。
【図12】クラッド層の製造工程の他の例を示す図。
【図13】コアを掘り込んで、近接場光発生体の膜を積層する製造工程を示す図。
【図14】近接場光発生体をパターニングする製造工程を示す図。
【図15】近接場光発生体をコアに埋め戻す製造工程を示す図。
【図16】外周クラッド層に記録ヘッドの書き込み磁極を製造する工程を示す図。
【図17】本発明による熱アシスト磁気記録ヘッドの他の構造例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下の図において同様の機能部分には同じ符号を付して説明する。
【0014】
光導波路の構造体としては、一般に光ファイバが良く知られている。例えば、光ファイバは、コアとクラッドの境界面を全反射しながら伝搬するマルチモードと基底モードで伝搬するシングルモードの2つの伝送モードがある。ただし、構造としては、どちらもコアと呼ばれる光を伝送する中心部分と光を閉じ込めるクラッドと呼ばれる外周部分から構成される円柱状の構造体である。このようなコアとクラッドは、屈折率に差を設けてクラッドよりもコアの屈折率を高めに設定し、材質としては石英系ガラス及びプラスチック系で製造されている。
【0015】
光ファイバにおける伝搬損失には、例えば、次のようなものがある。
(1)コア材及びクラッド材の不純物で、光が熱に変換される熱損失
(2)微小凹凸で、光が全反射せずにコアからクラッドへ逃げる放射損失
(3)コアとクラッドの構造の不完全性で生じる、光の散乱損失
このような損失に対して、通常の光ファイバの製造過程においては、コア及びクラッドを結晶化することで不純物を除去して屈折率を制御し、凹凸を最小限に低減して損失を管理している。
【0016】
しかしながら、磁気ヘッドの製造過程でヘッド内に形成される光導波路は、再生ヘッドとして用いられる磁気抵抗効果素子の熱劣化による制限のために、光導波路を構成するコアとクラッドを結晶化温度まで熱処理できないために、アモルファス状態で製造される。このようなコア及びクラッドは、不純物,屈折率,透過率及び消衰係数等が製造過程で変動を生じ易く、光の伝搬損失により効率を低下させてしまう。
【0017】
また、上記光ファイバと同じ円柱状の構造体は、基板上に均一に多量に形成することが技術的に困難である。そこで、磁気記録ヘッドに設けられる導波路は、形成が比較的に容易で加工ばらつきが小さく、加工精度管理も容易な方形型の断面形状を有するコアが用いられ、コアを被覆するクラッド層は、コア形状に準じて下層と中間層及び上層に分割して形成することになり、プラズマ等の加工ダメージによる光伝搬損失も懸念される。
【0018】
例えば、加工ダメージとして、酸化物のコア材をパターンニング形成する際に不活性のHe,Ne,Ar,Kr,Xe,N等のガスを用いたIM法(イオンミリング)で加工すると、コア加工面の酸素が抜けてメタル化による消衰係数が発現することが判明した。つまり、光が吸収されて熱に変換する熱損失として伝搬効率の低下を招く消衰係数が大きくなる。
【0019】
例えば、以下に、コアとしてTa25酸化物(屈折率:2.13)を用いた場合に、不活性Arガスを用いたイオンミリングによって発生した加工ダメージの分析結果を示す。
【0020】
図1は、実験の模式図である。Si基板上にTa25膜を成膜し、試料表面にX線を照射し、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析により基板表面のタンタルと酸素の比率を分析した。比率は、ピーク面積を感度係数で補正して定量した組成比率を用いた。XPS分析では、放出された光電子の運動エネルギーから表面の元素組成や化学状態の情報が得られる。再現性を確認するために2つの試料を用い、エッチング時間を0分,1分及び5分と変えて、実験した。
【0021】
表1に、コアに用いたTa25膜のエッチング時間を変えたXPS分析結果を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
図2は、表1のXPS分析結果を横軸にエッチング時間,縦軸にTaとOの比率(at%)をとって図示したものである。
【0024】
エッチング時間0分の成膜の状態では、タンタルと酸素は、化学量論的組成の略2:5とTa25の状態で存在している。エッチング時間が、1分,5分と増えると、酸素が抜けてタンタル比率が上昇し、図2に示すようにTaとOの比率が接近してタンタルと酸素の比率は略2:4となり、酸素が欠損してメタル化が進む。ただし、加工ビームの強弱にもよるが、加工ダメージの深さは表層から約0.003μm〜0.005μm程度であると推定される。
【0025】
このような加工ダメージを受けたコアにクラッド層を被覆すると、コア内を伝搬する光がコアとクラッドの境界面で吸収されて熱に変換されながらクラッド層に逃げる熱損失が生じ、光導波路の伝搬効率を低下させる。
【0026】
本発明では、このようなコアのメタル化による熱損失を低減するために、コアの加工面を被覆するクラッド層は、アモルファス状態のAl,Ta,Nb,Ti,Si等の酸化膜及び列記元素が2以上混在する混合酸化膜の酸素濃度を化学量論的組成より余剰とし、コアとクラッドに酸素濃度の勾配を与える。
【0027】
例えば、このようなコアとクラッドの構成は、コアのメタル化した部位で光が吸収されて熱に変換されると、熱損失個所で発生した熱によりクラッド層の余剰な酸素が拡散し、コアの酸化を促進しながら熱損失部を自己修復する。そして、余剰な酸素をクラッド層内に残存させながら酸素濃度の勾配を維持し、コアからクラッド層側への酸素の逆拡散を抑制することができる。ただし、クラッド層の酸化膜に過剰すぎる酸素濃度を持たせると、膜の白濁による透過率の低下及び粒状に膜が抜ける現象等の膜変質により屈折率の変動を招く。
【0028】
例えば、クラッド層にAl23酸化膜を用い、スパッタリングガスに不活性Arガスと反応ガスとして酸素を添加した反応性スパッタリング法で、酸素濃度を高めて積層した膜の屈折率変化を調べた。
【0029】
図3は、Al23膜のAlとOの含有比率と屈折率の関係を示す。図中の数字は、膜のXPS分析結果から得られたAl2x膜のAlとOの含有比率2:xを示す。横軸は、Al2xにおけるxの値を表す。
【0030】
図3からは、Al2x膜の酸素濃度が化学量論的組成より高まると屈折率が上昇していることが分かる。ただし、Al:Oの比率が2:3.6を過ぎたところで酸素濃度と屈折率の比例関係が崩れて屈折率が下降し、Al2x膜は、酸素濃度以外の要因で膜質が変化したことを示している。また、酸素濃度が化学量論的組成より低い2:3.0未満の状態側でも同様の膜質の変化による屈折率の変化を示している。
【0031】
つまり、Al23への余剰な酸素濃度の量は、酸素による勾配を持たせるために化学量論的比率より3.1(≒103%)以上が必要で、膜質の観点から3.6(120%)以下とすることが好ましい。クラッド層として、Al23とは金属と酸素の化学量論的比率の異なるTa,Nb,Ti,Si等の酸化膜及び列記元素が2以上混在する混合酸化膜を用いる場合においても、同様に、コアに対する酸素の勾配を形成する観点、及び、酸化膜の酸素欠乏で発生する消衰係数による光の伝搬損失の増大を防止しながら膜質を維持する観点から、クラッド層の酸素濃度を化学量論的組成より3%〜20%以下の範囲で高めることが好ましい。
【0032】
また、図3は、膜中の酸素濃度の比率によって屈折率を設定できることを示している。例えば、コアに隣接するクラッド層の外周に更に第2のクラッド層を設定する場合、図3の関係から第2のクラッド層は酸素濃度の比率を下げて屈折率を低く設定すると、光の性質から光が屈折率の高い部分を選んで伝搬する効果を利用できるので好ましい。このようなクラッド構成とすることで、光源のマイクロメートルサイズに拡がった入射光を、屈折率の差を利用してナノメートルサイズのコアに導き、コアに閉じ込めて伝搬させることができる。
【0033】
ところで、コアは、クラッド層の積層過程においてもダメージを受ける。例えば、アスペクト比の高い方形型のコアにクラッド層を積層して被覆する工程で、スパッタリング及びプラズマ等でコアが削られて微小凹凸が発生する。この微小凹凸は、光が全反射せずにコアからクラッドへ逃げる放射損失として効率低下の要因となる。このような積層ダメージに配慮して、高段差への被覆性,膜質の均一性,膜厚制御性に優れた薄膜堆積手法の一つである原子層堆積法(Atomic Layer Deposition)を用いることが好ましい。
【0034】
さらに、伝搬効率の観点からは、コアとクラッドの構造の不完全性による光の散乱損失も低減しなければならない課題の一つである。
【0035】
図4は、本発明の導波路(コア:Ta25,クラッド:Al23)構造体に関連したTEM(Transmission Electron Microscopy)観察像とEDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)分析結果を示す図である。
【0036】
図4(a)は、導波路構造体を観察用に薄片化して電子線を照射し、透過した電子や散乱された電子を結像拡大するTEM観察を行った結果を示す図であり、図中の番号1は、Al23膜を用いたクラッド層を示している。番号2は、図4(b)に示したEDX分析を行った個所を示している。番号3は、幅0.1μmまで狭小化されたTa25膜を用いたコアを示し、番号4は、分析用の電子線により破壊された図示番号2と同様の組成部分を示している。
【0037】
図4(b)は、図4(a)の番号2で示したクラッド層とコアの境界層にある混在層に電子線を照射して発生した特性X線を検出し、エネルギー分光することによって元素分析や組成分析を行うEDX分析の結果を示す図である。
【0038】
図4(b)の分析結果には、Ta,Al,O,Arと試料観察用の台座材Moが検出されている。つまり、光導波路のコアをパターニング加工中に、下層クラッド層のAl23膜のAlとコアのTa25膜のTa及びOが混在してコア加工面に付着した混在層を形成していることが判明した。この混在層は、図示番号4のように分析用電子線で破壊される粗の膜密度で、酸化度合いも疎らな状態で付着しており、本分析の結果から屈折率の値に大きな幅を有していると想定される。
【0039】
このような混在層を有する導波路は、屈折率の差で制御しているコアとクラッド層間に屈折率の歪みが存在して光散乱による伝搬損失が発生する。例えば、本発明による化学量論的組成より酸素濃度の高い酸化膜から成るクラッド層は、屈折率の異なる混在層を除去した後にコアに被覆すると、酸素欠損部を有するコア表面層に対してクラッド層からの酸素拡散の効率が高まり、好ましい。
【0040】
図5は、本発明による光導波路の構成例を示した模式断面図である。図5に示した光導波路の構成は、コアとコアを被覆するクラッド層と外周のクラッド層の酸化膜から成る。各膜の化学量論的組成に対する余剰な酸素濃度比率は、A−A’断面での酸素濃度比率を示す図に示されているように、クラッド層>外周クラッド層>コアの酸素勾配によってコアからの酸素の逆拡散を抑制する。また、屈折率は、A−A’断面での屈折率分布を示す図に示されているように、コア>クラッド層>外周クラッド層と屈折率に勾配を有する。このような、コア側壁に付着した混在層を除去したコアとクラッド層からなる導波路の構成により、熱アシスト磁気記録ヘッドの光導波路を伝搬する光の熱変換損失,放射損失及び光散乱損失等の伝搬損失を低減した光導波路と製造方法を提供できる。
【0041】
以下、本発明をより詳細に説明する。
図6は磁気記録装置の概念図であり、図6(a)は平面模式図、図6(b)は断面模式図である。磁気記録媒体11は、モータ28により回転駆動される。情報の入出力時に、回転する磁気記録媒体11上の所定位置へサスペンションアーム12の先端に固定されたスライダ13が移動して、スライダ13に形成された磁気ヘッドにより磁化信号の記録再生を行う。ロータリアクチュエータ15を駆動することにより、磁気ヘッドが磁気記録媒体の半径方向の位置(トラック)を選択することができる。磁気ヘッドへの記録信号及び磁気ヘッドからの読み出し信号は信号処理回路35にて処理される。
【0042】
図7は、本発明による磁気ヘッドの一例と、磁気記録媒体への記録動作時の一例を示す断面模式図である。本発明の磁気ヘッドは、再生ヘッド24と記録ヘッド25間の主磁極1近傍に光導波路26が形成され、この光導波路26の磁気記録媒体11と対向する浮上面側に近接場光発生体27が設けられ、浮上面と対向する背面に光源となるレーザダイオード28が搭載されている。磁気記録媒体11は、基板20上に形成された記録層磁性体19を有する。コイル2によって励磁された主磁極から発生した磁束は、磁気記録媒体11の記録層磁性体19を通ってリターンポール3に戻る。リターンポール3にはトレーリングシールド32が接続されている。
【0043】
レーザダイオード28からの入射光は、光導波路26を伝搬して近接場光発生体27と結合し、近接場光発生体の電子がプラズマ振動して局所的な近接場光を発生し、磁気記録媒体11の回転駆動している下流側の記録層磁性体19を局所加熱して保磁力を低下させ、上流側に位置する主磁極1に一体形成された書き込み磁極1aが記録磁界を発生して情報に応じた磁化反転パターンで記録し、記録ヘッド25から遠ざかることで磁気記録媒体11は冷却され、記録層磁性体19は書き込み前の保磁力状態に戻る。
【0044】
図7に示した本発明の加熱機能を付与した磁気ヘッドは、既存の磁気ヘッドの磁気記録ヘッド及び再生ヘッドと同様の構造を有する。異なる点は、光を伝搬する光導波路26と、スライダの浮上面側の光導波路に埋設された近接場光発生体27と、浮上面と対向する背面にある光源のレーザダイオード28等である。なお、レーザダイオード28及びレーザダイオードを搭載するサブマウント29は、磁気ヘッドのスライダ加工後に、スライダの光導波路26とアライメントされて搭載される。
【0045】
ところで、このような光導波路26に埋設される近接場光発生体27においては、光導波路26を伝搬する光との結合状態の不備により、発熱で溶解,変形,記録媒体11の記録層磁性体19への加熱温度の変動による加熱不足等が発生するため、レーザダイオード28からの入射光を伝搬する光導波路26の伝搬効率と伝搬変動が近接場光の発生状態に多大な影響を与え、光導波路26の良し悪しが熱アシスト磁気記録ヘッドの性能を決める重要な要因となる。
【0046】
図7に示した本発明による磁気ヘッドの製造にあたっては、例えば、導電性のAl23−TiC等の基板上に、記録媒体11の磁化状態に応じた抵抗変化を高い感度で検知するセンサ部4と外部からの磁場ノイズを遮断する2枚の磁性シールド8,9から構成される再生ヘッド24を形成する。次に、再生ヘッド24が形成された基板は、再生ヘッド24の引き上げ端子とレーザダイオード28搭載時に、光導波路26と位置決めを行うアライメント用パターンが形成される。例えば、磁性シールド8,9と同じ材料のNiFe合金,Cu,Au等を電解めっき膜で形成し、電解フレームめっき用の電極として用いた下地膜をIM法(イオンミリング)及びウェットエッチング法等で除去して形成する。
【0047】
次に、熱アシスト磁気記録ヘッドで最も重要な光導波路の製造工程を行う。本発明における下層クラッド層の積層工程から上層クラッド層までの製造工程の一例について、図8から図12を用いて説明する。図8は、コア層上に加工用のマスクを形成する工程を示す図である。図9は、コアとコアに接するクラッド層の製造工程を示す図である。図10は、コア側壁に接するクラッド層の製造工程を示す図である。図11は、コア上部に接するクラッド層の製造工程を示す図である。また、図12は、他の実施例によるクラッド層の製造方法を示す図である。
【0048】
まず、図8(a)を参照して、下層クラッド層262からコア層261の積層工程を説明する。コアとクラッド層から成る光導波路26の下層クラッド層262としては、Al,Ta,Nb,Ti,Si等の酸化膜及び列記元素が2以上混在する混合酸化膜を、コアの屈折率より低い屈折率に制御して積層することが好ましい。一例として下層クラッド層262に、既存の磁気ヘッドに多用される層間絶縁膜のAl23膜を用いた例によって説明する。
【0049】
下層クラッド層262は、光が伝搬するコアを被覆して光導波路を構成するクラッド層の一部となり、下層クラッド層262のAl23膜中の酸素濃度を調整できる反応性スパッタリング法又は原子層堆積法等を用いて屈折率を1.615〜1.655に制御して積層する。なお、下層クラッド層262を2層構造にして、屈折率に勾配を持たせるようにコアに接するクラッド層の屈折率を高めに設定することも好ましい。
【0050】
次に、コア層261を積層する。ただし、コア層の積層は、スパッタリング用ガスとして不活性ガスを用いると、打ちこみダメージで下層クラッド層262に微小な凹凸を発生させる。この凹凸の発生を抑制しながら、下層クラッド層262とコア層261境界面の平均粗さRaを維持するために、初期層の0.003〜0.01μm程度の成膜を低パワーで積層し、不活性ガスの打ちこみダメージを低減して、残り膜厚をクラッド層の屈折率よりも高めに設定した屈折率が得られる積層条件でコア層261を積層することが好ましい。
【0051】
コア層材は、クラッド層の屈折率より大きな屈折率を有するTa,Ti,Nb,SrTi及びその他の酸化物で、透過率98%以上,消衰係数(k<1×10-4)の条件を満たす材料が好ましい。一実施例として、コア層に透過率98%以上,消衰係数(k<1×10-4)及び屈折率(n=2.09〜2.16)のTa25膜を用いた例によって説明する。
【0052】
図8(a)に示すように、Ta25膜のコア層261上にRIE(Reactive Ion Etching)耐性のあるハードマスク層100を積層する。ハードマスク層100としては、例えば、Ta,Ni,Ti,NiCr,Cr,NiFe,Cu,DLC(Diamond Like Carbon)を用いることができる。
【0053】
次に、図8(b)に示すように、フォトリソグラフィー法を用いてハードマスク層100上に感光性レジスト膜101でコア用パターンを形成する。次に、図8(c)に示すように、感光性レジスト膜101を加工マスクにし、ハードマスク層100をIM(Ion Milling)法を用いて加工して、ハードマスクにコアパターンを転写する。
【0054】
図9(a)は、Ta25膜のコア層261が、感光性レジスト膜101とハードマスク100のパターン形状に準じてRIE法で加工され、加工側壁に混在層267が付着したコア状態を示す。
【0055】
ところで、本発明に用いたRIE法は、反応室内でエッチングガスをプラズマ状態にしてプラズマ中のイオン種やラジカル種を加速して基板に衝突させる。例えば、不活性ArイオンによるスパッタリングとCF4,CHF3による化学反応を同時に起こしてコア材に用いたTa25層を加工する。
【0056】
また、コア261の断面形状は、再生ヘッド側から記録ヘッド側に光路の断面積が小さくなり,クラッド層に接する表面積の大きな台形形状よりも、クラッド層との接触面積を小さくしてクラッド層側へ光の逃げる損失を少なくするには、光路内で均一に光を伝搬するように断面積が変化しない直方体に近い方形型形状とすることが好ましい。
【0057】
このような直方体に近いコアの断面形状とするには、スパッタリング効果を大きく設定して加工の垂直性を上げる必要がある。ただし、スパッタリング効果を大きくすると、加工された原子の再付着による混在層とコアの光伝搬方向に対して垂直な加工傷による凹凸がコア側壁に発生して、光の放射及び散乱等による損失で光の伝搬効率を低下させてしまう。
【0058】
なお、加工側壁に付着した混在層267は、図4に示した分析結果から分かるように周辺の材料から成り、膜密度が粗で酸化度合いの疎らな状態で付着しており、異なる材料の含有により屈折率が大きな幅を有していると推定され、光の熱変換による伝搬損失の観点から除去する必要がある。
【0059】
図9(b)は、コア側壁の混在層267を除去した状態を示す。例えば、コア261の加工にRIE法とIM法を併用すれば、RIE法で方形型に加工されて混在層267が付着し、また、加工傷による凹凸がコア側壁に発生しても、IM法を用いてコア261の光伝搬方向と略平行方向からの22°〜40°の角度で加工用のArイオンが入射するように基板を傾斜させながら基板を回転させてArイオンを基板に衝突させる加工をすると、加工傷と共に加工側壁に付着した混在層267の0.01μm〜0.02μmを除去できるので好ましい。
【0060】
ただし、このような混在層267が除去されたコア261側壁のTa25膜は、IM法の不活性ガスによる加工ダメージにより酸素が抜け、TaとOの比率が化学量論的比率2:5より酸素濃度が低い略2:4の状態で酸素欠損によりメタル化し、消衰係数が発現する。
【0061】
図9(c)は、アスペクト比の高いコア261をクラッド層263で被覆した状態を示す。加工ダメージにより酸素欠損した側壁を有するアスペクト比の高いコア261を被覆するクラッド層263の成膜には、高段差への被覆性,膜質の均一性,膜厚制御性に優れた薄膜堆積手法の一つである原子層堆積法を用いることが好ましい。
【0062】
例えば、クラッド層にAl23膜を用いた場合の原子層堆積法は、コアが方形型のパターン状に形成された基板上にアルミニウムの原料であるTMA(トリメチルアルミニウム)を供給して化学吸着させ、不活性ガスのパージによりTMAを排気し、反応酸素を供給してTMAと酸素を反応させてAl23の生成物を堆積し、過剰な酸素を不活性ガスでパージして排気する一連の工程を1サイクルとして、数十〜数百サイクルを繰り返して所望の膜厚を形成して堆積する。なお、不活性He,Ne,Ar,Kr,Xe,Nガス等は、パージガスとして用いられているが、膜の生成には関与しないため、本手法を用いると膜中への不活性ガスの含有が非常に少ないAl23膜が得られる。また、反応酸素の排気までの時間によりAl23の酸化度合いを調整しながら屈折率を合わせ込むことができる。
【0063】
例えば、クラッド層としてAl23膜を用いて、膜中の酸素濃度をAlとOの化学量論的比率である2:3より、2:3.1〜2:3.6程度に高めて、コア261との酸素濃度に勾配を持ったクラッド層263を積層することが好ましい。
【0064】
このような本発明のクラッド層263は、光伝搬時にコア261の酸素欠損部がメタル化し、光を吸収して発熱すると、クラッド層263からの余剰酸素の拡散率が熱により高まり、コアの酸化を促してコア261の酸素欠損部を自己補修することができる。
【0065】
図10(a)は、コア261に接するクラッド層263の外周に再度クラッド層264を形成し、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法の停止膜102をパターンニングした状態を示す。停止膜102は、コア261の高さ方向上端より上方に0.1μm以上離して配置した。なお、CMP法の停止膜102には、CMP法で用いられるAl23粒のスラリーに対して研磨速度が遅く、酸素アッシング等の酸素処理で除去できるDLC(Diamond Like Carbon)膜が好ましい。
【0066】
例えば、このようなコア261に接するクラッド層263の外周に積層するAl,Ta,Nb,Ti,Si等の酸化膜及び列記元素が2以上混在する混合酸化膜から成るクラッド層264は、屈折率をコア261に接するクラッド層263より低く設定することで、外周のクラッド層264の光を屈折率の高いクラッド層263に伝搬させて、さらに屈折率の最も高いコア261へ伝搬させながらコア内に閉じ込めて伝搬させることができる。
【0067】
なお、クラッド層264の屈折率の調整は、酸素濃度をクラッド層263より低めに設定しながら、酸素欠損によるメタル化抑性の観点から化学量論的比率より余剰酸素を持たせて屈折率を下げることが好ましい。
【0068】
図10(b)は、コア261上にクラッド層263のAl23膜を残してCMP法でDLC膜を停止膜として平坦化した状態を示す。
【0069】
その後、図11(a)に示すように、CMP法の停止膜102として形成したDLC膜を酸素アッシングで除去し、コア高さ調整のIM法により所定の高さより0.03μm程度を残し、硬パッドと微小Al23粒のスラリーに酸化剤を混ぜて凹凸や傷等を除去するCMP法を行った。このCMP法では、残り膜厚を除去しながらコア上部のTa25膜を酸化剤で酸化させながら平坦化することが好ましい。
【0070】
図11(b)は、コアの露出した上部にクラッド層265を積層した状態を示す。例えば、コア高さ調整用のIM法のイオンビームにより酸素欠損したコア上部は、CMP法により平坦化され、酸化剤を含有するスラリーにより再酸化されて露出したコア上部に上部クラッド層265が積層される。
【0071】
図12(a)は、他の実施例として、コア側壁と接する中間クラッド層263をコア上部に残した状態を示す。図12(b)は、その後、上部クラッド層266を積層した状態を示す。
【0072】
図12(a)、図12(b)に示した実施例は、下層クラッド層262と中間クラッド層263によりコア261全体を被覆することで、コアとクラッド層の屈折率差の変動を小さくでき、光伝搬効率を高めることができる。ただし、図9(b)のコアパターン形成後にRIE法に耐性があるハードマスク100を除去する必要があるために、ハードマスクの材料が限定される。例えば、コア261に用いた酸化膜に影響を与えず、酸素アッシング等の酸素処理のみで除去できるハードマスク材としてDLC膜を用いることが好ましい。
【0073】
次に、コア261の浮上面側に近接場発生体27を埋め込む工程を行う。近接場光発生体27を磁気ヘッドの浮上面側のコア261に形成する製造工程の一例について、図13から図16を用いて説明する。各工程図の左側の図はスライダ浮上面近傍の断面模式図であり、右側の図は側断面模式図である。また、図中のABS(Air Bearing Surface)の位置は、スライダ加工において浮上面に加工される位置を示す。
【0074】
図13は、コアを掘り込んで遮光膜と近接場光発生体の膜を積層する製造工程を示す図である。図14は、近接場光発生体をパターニングする製造工程を示す図である。図15は、近接場光発生体をコアに埋め戻す製造工程を示す図である。図16は、外周クラッド層に記録ヘッドの書き込み磁極を製造する製造工程を示す図である。
【0075】
一実施例として近接場光発生体27は、コア261のTa25膜と上部クラッド層265のAl23膜に形成した長溝内に、近接場発生体の金(Au)膜,遮光膜のDLC膜及び誘電体のSiO2膜を積層し、Ta25膜で埋め戻して製造される。また、近接場光発生体27の形状は、頂点の曲率半径,頂点の頂角,高さ,膜厚等が規定された二等辺三角形形状とした。
【0076】
図13(a)は、フォトリソグラフィー法により感光性レジスト膜101に長溝パターンを形成し、感光性レジスト膜101をマスクにしたIM法により上部クラッド層265とコア261の積層膜に長溝を形成した状態を示す。
【0077】
このような長溝をIM法で加工すると、イオンビームの照射時間の差により長手方向で傾斜角が発生し、幅方向の底部に丸みが残る形状となる。例えば、二等辺三角形形状の近接場光発生体を長溝内に製造する場合は、溝底部の左右の丸みの曲率半径を近接場光発生体の頂点の曲率半径より大きくなるように残す。長溝の深さは、近接場光発生体の高さに相当し、幅は近接場光発生体の二等辺三角形の底辺に相当する。長手方向の傾斜角は、記録媒体と対向する浮上面からスライダ方向へ溝の深さが増加するように10度〜45度の傾斜角を有し、この傾斜角によりスライダの浮上面加工時に、後述する遮光膜の一部が除去されて近接場光発生体の頂点が露出することが好ましい。
【0078】
図13(b)は、近接場光発生体からの近接場光の発生を頂点付近に制限するために、遮光膜105としてDLC膜を基板全面に積層した状態を示す。
【0079】
図13(c)は、近接場光発生体となる金(Au)層103、及び金層の加工用とフォトリソグラフィー法の感光性レジストの密着層を兼ねたハードマスク104として、例えば、Ta,Ni,Ti,Cr及びNiCr層等を順次積層し、その後、フォトリソグラフィー法により感光性レジスト膜101をパターニングして長溝の中央に形成した状態を示す。
【0080】
図14(a)は、長溝周辺の不要なハードマスク膜104と近接場発生体膜をIM法で除去して感光性レジスト101を剥離し、長溝の中央にハードマスク材104を残した状態を示す。なお、不要な金(Au)材及びハードマスク材を除去するIM法においては、基板全面にある遮光膜105のDLC膜は加工速度が遅く、IM法の加工停止膜として機能させることができる。
【0081】
図14(b),(c)は、ハードマスク104を加工マスクにして近接場発生体の金(Au)膜103をIM法で加工している状態を示す。例えば、このようなIM法の加工において、近接場光発生体の金(Au)の加工速度は、ハードマスク104に用いるTa,Ni,Ti,NiCr,Cr等に対して2〜3倍の速度を有し、最も遅いのが長溝内及び基板表面にある遮光膜105のDLC膜になる。つまり、DLCで被覆された長溝は、形状を維持した状態でハードマスク104を起点に金(Au)に傾斜をかける加工が可能となる。そして、イオンビームの照射されるハードマスク104も、近接場光発生体の金(Au)より遅い速度で加工される。
【0082】
このようなハードマスク104の加工による狭小と薄膜化に伴って、近接場光発生体の金(Au)103の頂点の曲率半径を小さくさせながら、断面形状が二等辺三角形の近接場光発生体を製造できるので好ましい。
【0083】
次に、近接場光発生体103の浮上面からの厚さを規定する製造工程になる。
図15(a)に示すように、長溝の浮上面側にフォトリソグラフィー法で感光性レジスト101を形成する。この感光レジストの高さによる影を利用して、IM法のイオンビームの照射を制限することでハードマスク104と近接場発生体となる金103の不要部が除去されて、近接場光発生体の厚さが規定され、酸素アッシング等の酸素処理で長溝底部に残る遮光膜105の不要DLCを除去して感光性レジストを剥離する。
【0084】
次に、近接場光発生体の電子をプラズマ振動させて近接場光を発生させる共鳴特性を上げるために、誘電率の高いSiO2膜を積層して近接場光発生体を被覆する。
【0085】
図15(b)は、誘電体106のSiO2膜を積層した状態を示す。例えば、誘電体106のSiO2膜を基板全面に積層し、近接場光発生体(103)の浮上面から厚さ方向に残すために、IM法を用いて、基板に対して低角で入射方向が浮上面からに規定されたイオンビームにより加工することが好ましい。
【0086】
図15(c)は、コア材に用いたTa25膜で長溝を埋め戻して、遮光膜105のDLCをCMP法の停止膜として平坦化した製造工程の状態を示す。例えば、長溝をTa25膜で埋め戻す場合は、IM法の不活性Arガスで酸欠した表面層を再酸化させるために、Ta25膜を積層する前にオゾン等の酸化処理を施し、基板全面にTa25膜を積層して長溝内を埋め戻し、遮光膜のDLC膜を加工停止膜としてCMP法により平坦化して不要なTa25膜を除去することが好ましい。
【0087】
図16(a)は、CMP法の停止膜として機能した遮光膜のDLCを除去してAl23層107を積層し、硬パッドと微小Al23粒のスラリーにより凹凸や傷等を除去するCMP法により再平坦化した状態を示す。
【0088】
図16(b)は、ギャップ層108を介して上部の外周クラッド層266が積層され、浮上面側の外周クラッド層266が掘り込まれて、記録ヘッドの書き込み磁極1aとなる高飽和磁束密度の磁性体が充填されて製造された状態を示す。
【0089】
記録ヘッドの書き込み磁極1aは、光導波路の上部の外周クラッド層266のAl23膜にRIE法及びIM法を用いて逆台形形状の溝を形成し、例えば、Ni,Fe及びCoから選択される2つ以上の元素からなる合金による高飽和磁束密度を有する磁性体を充填し、浮上面側に傾斜が形成されてエッジ部に磁束を集中させる磁界増強効果を備えて製造される。
【0090】
また、ギャップ層108を、記録ヘッドの主磁極と一体形成される書き込み磁極1aを形成する際のRIE法による溝加工用の加工停止膜として機能させる場合は、例えば、Ta,Ni,Ti,NiCr,Cr等を用いて、書き込み磁極1aを形成する範囲にパターニングして残し、外周クラッド層266を積層することが好ましい。
【0091】
このように記録ヘッドの主磁極が形成された基板上に、誘導磁界を発生するコイルと、書き込み幅を規定するシールドと、記録媒体を介して閉磁気回路を形成するリターンポールが形成され、記録ヘッドが製造される。
【0092】
そして、再生ヘッドと記録ヘッドを有する素子が並んだ基板は、バー状に切断され、再生ヘッドのセンサ部の高さと記録ヘッドの書き込み磁極の高さを決める浮上面(ABS)加工が施されると、図16(b)に示した光導波路の浮上面側の傾斜部に埋設された遮光膜105の一部が除去されて、近接場光発生体(103)の頂点周辺が露出する。
【0093】
次に、記録媒体と対向するスライダの浮上面側にオーバーコートが施され、スライダの浮上面に対向するレーザダイオード側の光入射面側は、レーザ光の戻り光を低減するために反射防止膜としてクラッド層の屈折率より小さな屈折率を有する誘電体をコートしてレーザダイオードの駆動を安定化させる処置を施し、浮上用のレール加工後にスライダとして切断される。
【0094】
そして、光源となるレーザダイオードが、スライダに加工された磁気ヘッドにサブマウントを介して搭載される。例えば、サブマウントは、光透過用の穴が設けられ、光の吸収が少なく屈折率が空気より大きいUV硬化樹脂及び熱硬化性接着剤を用いて、磁気ヘッド側の導波路にアライメントして接着される。
【0095】
ところで、光源のレーザダイオードと磁気ヘッド側の光導波路のアライメントずれが発生すると、導波路の光は近接場光発生体と安定した結合が出来ずに、近接場光の発生効率を低下させることになる。
【0096】
図17は、本発明による他の実施例として、光導波路26のクラッド側に受光用の薄膜コア29a,29bを備えた構造を有する熱アシスト磁気記録ヘッドを示す。
【0097】
例えば、光導波路26と光源としてのレーザダイオード28のアライメントずれが発生して、光源28からの光フィールドがずれても光導波路26に確実に光を伝搬させる手法として、光がクラッド側に大きく染み出す光強度プロフィールを有する受光用の薄膜コア29a,29bをレーザダイオード搭載側のスライダ端面からスライダ中央付近に配置する。受光用の薄膜コア29a,29bから染み出した光を、光導波路26の屈折率がコアに近接するほど高くなるように屈折率に勾配を有するクラッド層を介してコアに閉じ込めて伝搬させる手法を用いると、光源28と導波路26のアライメントにずれが生じても安定した近接場光が得られるために好ましい。
【0098】
以上述べた実施例は、本発明の一実施例を示すものであって本発明を限定するものではなく、光源からの光を磁気ヘッドの搭載されたスライダ内を伝搬して浮上面まで導くコアとクラッドから構成された光導波路の形状,形態が異なっても本発明は実施することができ、本発明の範囲は特許請求の範囲及び均等範囲によってのみ規定されるものである。
【0099】
また、本発明に様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1…主磁極、1a…書き込み磁極、2…コイル、3…リターンポール、11…記録媒体、12…サスペンション、13…スライダ、24…再生ヘッド、25…記録ヘッド、26…光導波路、27…近接場光発生体、28…レーザダイオード、29…サブマウント、100…ハードマスク、101…感光性レジスト膜、102…CMP停止膜、104…ハードマスク、105…遮光膜、106…誘電体、108…ギャップ層、261…コア、262〜266…クラッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録磁界を発生する磁極と、近接場光を発生する近接場光発生体と、前記近接場光発生体に照射する光を導く光導波路とを有する熱アシスト磁気記録ヘッドにおいて、
前記光導波路は、第1の酸化膜からなるコアと、前記コアの外周を被覆し前記コアより屈折率の小さい第2の酸化膜からなるクラッド層とを備え、
前記クラッド層は、前記第2の酸化膜の化学量論的組成より高い濃度の酸素を含有することを特徴とする熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の熱アシスト磁気記録ヘッドにおいて、前記コアと接するクラッド層は、化学量論的組成より3%〜20%高い濃度の酸素を含有することを特徴とする光熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項3】
請求項1記載の熱アシスト磁気記録ヘッドにおいて、前記コアの側壁と接するクラッド層は、前記コア及び他のクラッド層より不活性ガスの含有量が少ないことを特徴する熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項4】
請求項1記載の熱アシスト磁気記録ヘッドにおいて、前記クラッド層は多層構造を有し、当該多層構造のクラッド層は前記コアに近い層ほど屈折率が高いことを特徴とする熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項5】
請求項1記載の熱アシスト磁気記録ヘッドにおいて、前記コアの側壁と接するクラッド層は、原子層堆積法により成膜されたことを特徴する熱アシスト磁気ヘッド。
【請求項6】
記録磁界を発生する磁極と、近接場光を発生する近接場光発生体と、前記近接場光発生体に照射する光を導く光導波路とを有する熱アシスト磁気記録ヘッドの製造方法において、
前記光導波路を形成する工程は、
下層クラッド層となる第1の酸化膜を形成する工程と、
前記下層クラッド層の上にコアとなる第2の酸化膜を形成する工程と、
前記第2の酸化膜をパターニングしてコアを形成する工程と、
前記コアの側壁を被覆する中間クラッド層となる第3の酸化膜を形成する工程と、
前記コアの上面を被覆する上層クラッド層となる第4の酸化膜を形成する工程とを有し、
前記第3の酸化膜及び前記第4の酸化膜として、各酸化膜の化学量論的組成より高い濃度の酸素を含有する酸化膜を形成することを特徴とする熱アシスト磁気記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
記録磁界を発生する磁極と、近接場光を発生する近接場光発生体と、前記近接場光発生体に照射する光を導く光導波路とを有する熱アシスト磁気記録ヘッドの製造方法において、
前記光導波路を形成する工程は、
下層クラッド層となる第1の酸化膜を形成する工程と、
前記下層クラッド層の上にコアとなる第2の酸化膜を形成する工程と、
前記第2の酸化膜をパターニングしてコアを形成する工程と、
前記第1の酸化膜を構成する原子を少なくとも一種類含む、前記コアの側壁に付着した混在層を除去する工程と、
前記混在層を除去した前記コアの側壁に接するクラッド層となる第3の酸化膜を形成する工程と
を有することを特徴とする熱アシスト磁気記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−41637(P2013−41637A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176788(P2011−176788)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】