説明

熱アシスト磁気記録媒体及び磁気記憶装置

【課題】良好な(001)配向を有し、かつ、規則度が高いL1型磁性合金からなる熱アシスト記録媒体、及びそれを用いた磁気記憶装置を提供する。
【解決手段】基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L1構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、該下地層の少なくとも一つが、SrTiOであることを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体を用いる。また、SrTiO下地層を、Cr、もしくはCrを主成分とし、Ti、V、Mo、W、Mn、Ruのうちの少なくとも1種類を含有したBCC構造を有する下地層の上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱アシスト磁気記録媒体、及びそれを用いた磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
媒体に近接場光等を照射して表面を局所的に加熱し、媒体の保磁力を低下させて書き込みを行う熱アシスト記録は、1Tbit/inchクラスの面記録密度を実現できる次世代記録方式として注目されている。熱アシスト記録媒体としては、磁性層に、L1型結晶構造を有するFePt合金や、同じくL1型結晶構造を有するCoPt合金を用いた媒体が用いられる。上記L1型結晶構造を有する規則合金は、10J/m台の高い結晶磁気異方性Kuを有するため、熱安定性を維持したまま、磁性粒径を6nm程度以下まで微細化できる。これにより、熱安定性を維持したまま、媒体ノイズを大幅に低減できる。
【0003】
高い垂直磁気異方性を有する熱アシスト記録媒体を得るには、磁性層に用いられるL1型規則合金は良好な(001)配向をとっている必要がある。これを実現するには、下地層に適切な材料を用いる必要がある。例えば、特許文献1にはMgO下地層を用いることによって、L1型結晶構造を有するFePt磁性層が(001)配向を示すことが示されている。MgOはNaCl構造をとり、格子定数は0.421nmと、L1構造のFePt合金のa軸長と近い。このため、(100)配向したMgO下地層上にFePt磁性層を形成することにより、該磁性層に(001)配向をとらせることができる。また、非特許文献1には、TiN下地層を用いることにより、FePt磁性層が(001)配向を示すことが記載されている。TiNもMgO同様、NaCl構造をとり、格子定数もMgOと近い。このため、MgOの場合と同様、FePt磁性層に(001)配向をとらせることができる。
【0004】
なお、特許文献2には、熱アシスト磁気記録媒体の磁性層の上にSrTiO層を設けることにより、磁性層の磁気的な擾乱を与えることなく、その上に設ける超伝導膜の昇温が可能となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−353648号公報
【特許文献2】特開平11−296837号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Vac. Sci. Technol. B 25 (6), 1892−1895 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁性層を構成するL1型FePt合金の規則度を高め、かつ良好な(001)配向をとらせることが、高い保磁力と、高い媒体SNRを有する熱アシスト記録媒体を得る上で重要な課題である。上記課題は、MgO下地層、もしくはTiN下地層を用いることによってある程度は改善できるが、依然として不十分である。よって、新規下地層材料の開発により、FePt合金のL1規則度、(001)配向性を更に高める必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L1構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、該下地層の少なくとも一つが、チタン酸ストロンチウムであることを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体を用いることによって解決できる。すなわち本願発明は下記の発明に関する。
(1)基板と、前記基板上に形成された複数の下地層と、L1構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、前記複数の下地層の少なくとも一つが、SrTiOであることを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体。
(2)前記SrTiO下地層を、B2構造を有するNiAl、もしくはRuAlからなる下地層の上に有することを特徴とする(1)に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
(3)前記SrTiO下地層を、Cr、もしくはCrを主成分とし、Ti、V、Mo、W、Mn、Ruのうちの少なくとも1種類を含有したBCC構造を有する下地層の上に有することを特徴とする(1)に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
(4)前記SrTiO下地層を、TiN下地層、もしくはTiC下地層の上に有することを特徴とする(1)に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
(5)前記SrTiO下地層の上に、TiN下地層、もしくはTiC下地層を有することを特徴とする(1)に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
(6)上記SrTiO下地層を、MgO下地層の上に有することを特徴とする(1)に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
(7)上記SrTiO下地層の上に、MgO下地層を有することを特徴とする(1)に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
(8)磁性層が、L1構造を有するFePt、もしくはCoPt合金を主成分とし、かつ、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、Cから選択される少なくとも一種類の酸化物、もしくは元素を含有していることを特徴とする(1)1乃至(7)の何れか1項に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
(9)磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を回転させるための駆動部と、前記磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、前記レーザー発生部から発生したレーザー光をヘッド先端まで導く導波路と、ヘッド先端に取り付けられた近接場光発生部を備えた磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを移動させるための駆動部と、記録再生信号処理系から構成さる磁気記憶装置において、前記磁気記録媒体が(1)乃至(8)の何れか1項に記載の熱アシスト媒体であることを特徴とする磁気記憶装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、良好な(001)配向を有し、かつ、規則度が高いL1型のFePt合金、もしくはCoPt合金からなる磁性層が得られる。これにより、保磁力の高い熱アシスト記録媒体が実現され、これを用いた磁気記憶装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の磁気記録媒体の層構成の一例を表す図
【図2】本発明の磁気記録媒体の層構成の一例を表す図
【図3】本発明の磁気ヘッドを表す図
【図4】本発明の磁気記憶装置の傾視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明は、基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L1構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる熱アシスト磁気記録媒体に関し、前記複数の下地層の少なくとも一つを、SrTiOで構成することを特徴とする。
【0012】
SrTiOは、格子定数が0.391nmのぺロブスカイト構造をとる。このため、(100)配向したSrTiO下地層上に、450−600℃以上の高温でFePt合金からなる磁性層を形成することにより、該FePt合金に良好なL1規則度と、(001)配向性をとらせることができる。
【0013】
また、SrTiO下地層に(100)配向をとらせるため、SrTiO下地層を(100)配向したCr、もしくはCr合金下地層の上に形成するのが望ましい。Cr合金としては、CrTi、CrV、CrMo、CrW、CrMn、CrRu等を用いることができる。上記Cr、もしくはCr合金下地層は、例えば、Ni−50at%TiやNi−50at%Ta等の非晶質合金からなるシード層上に、150℃以上の高温で形成するのが望ましい。これによって、Cr、もしくはCr合金下地層に良好な(100)配向をとらせることができる。上記、非晶質シード層は、Co−50at%Ti、Co−50atTa、Cr−50at%Ti合金等、非晶質合金であれば特に制限はない。
【0014】
また、(100)配向したB2構造を有するNiAl合金、もしくはRuAl合金下地層上にSrTiO下地層を形成してもよい。この場合もエピタキシャル成長により、SrTiOは(100)配向をとる。NiAl下地層、RuAl下地層についても、Cr下地層と同様、非晶質合金下地層上に形成することによって、(100)配向をとらせることができる。この場合、基板加熱はなくてもよいが、良好な(100)配向をとらせるには、150℃以上の基板加熱を行うのが望ましい。
【0015】
更に、SrTiO下地層を(100)配向したNaCl構造を有するTiN下地層、TiC下地層、もしくはMgO下地層の上に形成してもよい。この場合も、SrTiO下地層はエピタキシャル成長により(100)配向をとる。TiN下地層、TiC下地層、MgO下地層に(100)配向をとらせるには、これらの下地層を、上記(100)配向したCr下地層、Cr合金下地層、NiAl下地層、RuAl下地層の上に形成すればよい。
【0016】
また、(100)配向したSrTiO下地層上に、TiN下地層、TiC下地層、MgO下地層を形成することもできる。この場合も、エピタキシャル成長により、TiN下地層、TiC下地層、MgO下地層は(100)配向をとる。よって、これらの下地層上に形成されたL1型FePt合金はエピタキシャル成長により、(001)配向をとる。
【0017】
熱アシスト記録では、記録時に加熱された磁性層の冷却速度が遅いと、磁化遷移幅が広がりSNRが劣化するため、磁性層は速やかに冷却される必要がある。このため、熱伝導率の高い材料からなるヒートシンク層を形成するのが望ましい。ヒートシンク層としては、Cu、Ag、Al、Au、もしくはこれらの元素を主成分とする合金を用いることができる。
【0018】
また、軟磁性下地層を形成しても良い。軟磁性下地層には、CoTaZr、CoFeTaB、CoFeTaSi、CoFeTaZr等の非晶質合金、FeTaC、FeTaN等の微結晶合金、NiFe等の多結晶合金を用いることが出来る。軟磁性下地層は、上記合金からなる単層膜でもよいし、適切な膜厚のRu層を挟んで反強磁性結合した積層膜でもよい。
【0019】
磁性層には、L1型のFePt合金以外に、L1型のCoPt合金を用いてもよい。また、結晶粒間の交換結合を低減するため、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、Cを粒界相材料として添加するのが望ましい。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
図1に本実施例で作製した磁気記録媒体の層構成の一例を示す。ガラス基板101上に、30nmのNi−45at%Ti接着層102、100nmのCu−1at%Zrヒートシンク層103、20nmのCo−50at%Tiシード層104を形成した。その後、4nmのSrTiO下地層105を形成し、550℃の基板加熱を行ったのち、10nmの(Fe−45at%Pt−5at%Ni)−15mol%TiO磁性層106を形成した。更に保護膜として3nmのDLC膜107を形成した。ここで、SrTiO下地層はSrTiO複合ターゲットを使用して、RFスパッタにより形成した。また、比較例としてSrTiO下地層の代わりにMgO下地層を形成した媒体を作製した。比較例媒体は、下地層以外の層構成、成膜プロセス条件は実施例媒体と同一である。
【0021】
本実施例媒体のX線回折測定を行ったところ、磁性層からは、L1−FePtNi(001)ピーク、FCC−FePtNi(111)ピーク、L1−FePtNi(002)ピークとFCC−FePtNi(200)ピークの混合ピークが観察された。L1−FePtNi(002)ピークとFCC−FePtNi(200)ピークの混合ピーク強度(I002+I200)に対する、L1−FePtNi(001)ピーク強度I001の比率を見積もったところ、1.88であった。これより、磁性層中のL1−FePtNi合金は良好な規則度を有していることがわかった。尚、上記ピーク強度比を以後、I001/(I002+I200)と記す。CuZrヒートシンク層からは(111)ピークが観察されたが、NiTi接着層、CoTiシード層からは明瞭な回折ピークが観察されなかった。このことから、NiTi接着層、CoTiシード層は非晶質構造であると考えられる。SrTiO下地層からも明瞭なピークが観察されなかったが、これは膜厚が4nmと薄いためと考えられる。
【0022】
本実施例媒体の磁化曲線を、PPMSにより室温にて測定したところ、保磁力Hcは20.1kOeであった。このとき、最大印加磁界は7Tで測定した。
【0023】
一方、比較例媒体についても、実施例と同様な手法でピーク強度比I001/(I002+I200)を見積もったところ、1.42と実施例に比べて大幅に低かった。また、PPMSにより測定したHcは16.5kOeであった。
【0024】
以上より、MgO下地層の代わりにSrTiO下地層を用いることにより、磁性層中のL1−FePtNi合金の規則度が向上し、高いHcを有する熱アシスト媒体が得られることがわかった。
【0025】
(実施例2)
実施例媒体1と同一層構成で、Co−50at%Tiシード層形成後、220℃の基板加熱を行い、15nmのCr(実施例2.1)、Cr−12at%Ti(実施例2.2)、Cr−30at%Mo(実施例2.3)、Cr−40at%V(実施例2.4)、Cr−22at%W(実施例2.5)、Cr−12at%Mn(実施例2.6)、Cr−10at%Ru(実施例2.7)、Ni−50at%Al(実施例2.8)、もしくはRu−50at%Al下地層(実施例2.9)を形成した磁気記録媒体を作製した。Co−50at%Tiシード層上に形成した上記下地層を、以後、第一の下地層と記す。第一の下地層形成後、SrTiO下地層、磁性層、DLC保護膜を、実施例1と同様の膜厚、及びプロセス条件で形成した。尚、磁性層形成前には、実施例1と同様、550℃の基板加熱を行った。
【0026】
本実施例媒体のX線回折測定を行ったところ、上記第一の下地層のうち、CrTi、CrMo、CrV、CrW、CrMn、CrRu合金はBCC構造をとっており、BCC(200)ピークのみが観察された。一方、NiAl、RuAl合金はB2構造をとっており、B2(200)ピークのみが観察された。また、全ての実施例媒体において、磁性層からは、L1−FePtNi(001)ピークと、L1−FePtNi(002)ピークとFCC−FePtNi(200)ピークの混合ピークのみが観察され、 FCC−FePtNi(111)ピークは観察されなかった。また、本実施例媒体のL1−FePtNi(001)ピーク強度は、実施例媒体1.1のL1−FePtNi(001)ピーク強度に比べて30−50%高かった。このことは、本実施例媒体では、L1−FePtNi合金層の(001)配向が改善されていることを示している。尚、膜厚が薄いため、明瞭な回折ピークは観察されなかったが、SrTiO下地層は、上記(100)配向した第一の下地層上にエピタキシャル成長し、良好な(100)をとっていると考えられる。上記L1−FePtNi合金層の(001)配向改善は、第一の下地層形成によるSrTiO下地層の(100)配向改善によるものと考えられる。
【0027】
表1に上記ピークから見積もった本実施例媒体のピーク強度比I001/(I002+I200)、PPMSにより7Tの磁界を印加して測定した保磁力Hc、及び保磁力分散ΔHc/Hcを示す。尚、ΔHc/Hcは、「IEEE Trans. Magn., vol.27, pp4975−4977, 1991」に記載の方法で測定した。具体的には、7Tの最大磁界を印加して室温で測定したメジャーループ、及びマイナーループにおいて、磁化の値が飽和値の50%となるときの磁界を測定し、両者の差分から、Hc分布がガウス分布であると仮定してΔHc/Hcを算出した。ΔHc/Hcは、反転磁界分散に相当するパラメーターであり、この値が低いほど、高い媒体SNRが得られるため、望ましい。
【0028】
【表1】

【0029】
本実施例媒体は全て2.1以上の高いピーク強度比I001/(I002+I200)と、22kOe以上の高い保磁力Hcを示した。これらの値は、第一の下地層を設けなかった実施例媒体1よりも高い。よって、SrTiO下地層を(100)配向したBCC構造、もしくはB2構造の合金からなる下地層上に形成することにより、L1−FePtNi合金の(001)配向、及び規則度が更に改善され、より高い保磁力を有する熱アシスト媒体が得られることがわかった。
【0030】
尚、本実施例媒体の中では、Cr下地層、CrMo下地層、CrW下地層を用いた媒体が特にピーク強度比I001/(I002+I200)が高く、規則度が良好であることがわかった。また、NiAl下地層、RuAl下地層を用いた媒体は25kOe以上の特に高いHcを示した。更に、CrTi下地層、CrV下地層、CrMn下地層、CrRu下地層を用いた媒体は、ΔHc/Hcが0.28以下と特に低く、反転磁界分散が狭いことがわかった。
【0031】
(実施例3)
図2に本実施例で作製した磁気記録媒体の層構成の一例を示す。ガラス基板201上に、5nmのNi−37at%Ta接着層202、50nmのAg−10at%Pdヒートシンク層203、20nmのCr−50at%Tiシード層204を形成したのち、220℃の基板加熱を行い、10nmのCr−15at%Mn下地層205を第一の下地層として形成した。その後、第二の下地層206を形成し、再度、460℃の基板加熱を行い、10nmの(Fe−45at%Pt−5at%Ag)−8mol%SiO−4mol%Cr磁性層207を形成した。ここで、第二の下地層には、SrTiO単層膜、もしくはSrTiO下地層を含む積層膜を使用した。具体的には、SrTiO(8nm)(実施例3.1)、MgO(4nm)/SrTiO(4nm)(実施例3.2)、TiC(4nm)/SrTiO(4nm)(実施例3.3)、TiN(4nm)/SrTiO(4nm)(実施例3.4)、SrTiO(4nm)/ TiN(4nm)(実施例3.5)、SrTiO(4nm)/ TiC(4nm)(実施例3.6)、SrTiO(4nm)/ MgO(4nm)(実施例3.7)を使用した。ここで、積層膜の表記は左側が下層(基板側)で、右側が上層(磁性層側)であり、括弧内は膜厚を示す。磁性層の形成後、DLC保護膜208を形成し、パーフルオルポリエーテル系の潤滑剤209を塗布した。また、比較例として第二の下地層に、TiN(比較例3.1)、TiC(比較例3.2)、MgO(比較例3.3)単層膜を使用した媒体を形成した。
【0032】
本実施例で作製した実施例媒体、及び比較例媒体の記録再生特性を、図3に示す熱アシスト記録用磁気ヘッドで評価した。磁気ヘッドは、主磁極301、補助磁極302、磁界を発生させるためのコイル303、レーザーダイオードLD304、LDから発生したレーザー光305を近接場発生素子306まで伝達するための導波路307から構成される記録ヘッド308、及びシールド309で挟まれた再生素子310から構成される再生ヘッド311からなる。近接場光素子から発生した近接場光により媒体312を加熱し、媒体の保磁力をヘッド磁界以下まで低下させて記録できる。また、LD、導波路、近接場発生素子からなる加熱機構313を主磁極と補助磁極の間に配置しても良い。但し、この場合、主磁極のリーディング側を加熱する必要があるため、媒体の進行方向は図とは逆に右側となる。
【0033】
表2に上記ヘッドで評価した本実施例媒体のSNRとオーバーライト特性を示す。尚、上記特性は、トラックプロファイルの半値幅と定義したトラック幅MWWが100nmとなるようにLDへの投入パワーを調整して評価した。
【0034】
【表2】

【0035】
本実施例媒体は全て15.5dB以上の高い媒体SNRと、27dB以上の高いオーバーライト特性を示した。一方、比較例媒体の媒体SNRと、オーバーライト特性は実施例媒体に比べて大幅に低かった。よって、SrTiO下地層を含む下地層を用いることによって、媒体SNRと、オーバーライト特性が大幅に改善されることがわかった。
【0036】
SrTiO下地層をTiC、TiN、もしくはMgO下地層上に形成した実施例媒体3.2、実施例媒体3.3、実施例媒体3.4は、16.2dB以上の特に高い媒体SNRを示した。また、SrTiO下地層の上に、TiC、TiN、もしくはMgO下地層上に形成した実施例媒体3.5、実施例媒体3.6、実施例媒体3.7は、特に高いオーバーライト特性を示した。以上より、SrTiO層上にMgO層、TiC層、もしくはTiN層を形成した積層下地層を用いることにより媒体SNRが更に改善し、また、MgO層、TiC層、もしくはTiN層上にSrTiO層を形成した積層下地層を用いることによりオーバーライト特性が更に改善できることがわかった。
【0037】
(実施例4)
実施例3で示した実施例媒体3.1〜3.7、及び比較例媒体3.1〜3.3を、図4に示した磁気記憶装置に組み込んだ。本磁気記憶装置は、磁気記録媒体312と、磁気記録媒体を回転させるための駆動部402と、磁気ヘッド403と、ヘッドを移動させるための駆動部404と、記録再生信号処理系405から構成される。尚、磁気ヘッドには、実施例3で示した熱アシスト記録用磁気ヘッドを用いた。
【0038】
線記録密度1600kFCI、トラック密度400kFCI(面記録密度640Gbit/inch)の条件で記録し、エラーレートを評価したところ、実施例媒体3.1〜3.7を組み込んだ磁気記憶装置は、1×10−6以下の低いエラーレートを示した。一方、比較例媒体3.1〜3.3を組み込んだ磁気記憶装置のエラーレートは、1×10−4台であった。以上より、SrTiO下地層を含む磁気記録媒体を組み込むことにより、エラーレートが低い磁気記憶装置が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0039】
101…ガラス基板
102…NiTi接着層
103…CuZrヒートシンク層
104…CoTiシード層
105…SrTiO下地層
106…磁性層
107…DLC保護膜
201…ガラス基板
202…NiTa接着層
203…AgPdヒートシンク層
204…CrTiシード層
205…第一の下地層
206…第二の下地層
207…磁性層
208…DLC保護膜
209…潤滑財
301…主磁極
302…補助磁極
303…コイル
304…半導体レーザーダイオード
305…レーザー光
306…近接場光発生部
307…導波路
308…記録ヘッド
309…シールド
310…再生素子
311…再生ヘッド
312…磁気記録媒体
402…媒体駆動部
403…磁気ヘッド
404…ヘッド駆動部
405…記録再生信号処理系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された複数の下地層と、L1構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、前記複数の下地層の少なくとも一つが、SrTiOであることを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項2】
前記SrTiO下地層を、B2構造を有するNiAl、もしくはRuAlからなる下地層の上に有することを特徴とする請求項1に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項3】
前記SrTiO下地層を、Cr、もしくはCrを主成分とし、Ti、V、Mo、W、Mn、Ruのうちの少なくとも1種類を含有したBCC構造を有する下地層の上に有することを特徴とする請求項1に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項4】
前記SrTiO下地層を、TiN下地層、もしくはTiC下地層の上に有することを特徴とする請求項1に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項5】
前記SrTiO下地層の上に、TiN下地層、もしくはTiC下地層を有することを特徴とする請求項1に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項6】
上記SrTiO下地層を、MgO下地層の上に有することを特徴とする請求項1に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項7】
上記SrTiO下地層の上に、MgO下地層を有することを特徴とする請求項1に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項8】
磁性層が、L1構造を有するFePt、もしくはCoPt合金を主成分とし、かつ、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、Cから選択される少なくとも一種類の酸化物、もしくは元素を含有していることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項9】
磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を回転させるための駆動部と、前記磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、前記レーザー発生部から発生したレーザー光をヘッド先端まで導く導波路と、ヘッド先端に取り付けられた近接場光発生部を備えた磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを移動させるための駆動部と、記録再生信号処理系から構成さる磁気記憶装置において、前記磁気記録媒体が請求項1乃至8の何れか1項に記載の熱アシスト媒体であることを特徴とする磁気記憶装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−221528(P2012−221528A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85992(P2011−85992)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】