説明

熱カシメ強度の測定装置及び測定方法

【課題】手間のかかる作業や大掛かりな装置を用いずに、レンズやレンズ枠に歪みを残すことなく、光学レンズの熱カシメ部分に加わるカシメ圧力が適正範囲内であることを測定する熱カシメ強度の測定装置及び測定方法を提案する。
【解決手段】測定装置10は、レンズ枠52が回転不能に載置される載置部材12と、光学レンズ51を吸着する吸盤16の排出口15と真空ポンプ34に接続されたエアーホース35とを連通させる通気孔を備えた保持部材20と、保持部材20を把持する回転型荷重測定器25とを備える。回転型荷重測定器25は、測定器本体26を回すと上面に設けられた表示部27に測定中におけるリアルタイムの測定値と1回の測定中の最大値とが表示される。支持台40の支持アーム43に形成された支持孔44により、保持部材20が回転自在、且つ昇降自在に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形状のレンズ枠の内側に熱カシメされた光学レンズの固定強度を測定する測定装置及び測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学レンズは、ABSやポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)又はポリカーボネート(PC)等の熱可塑性樹脂からなる円筒形のレンズ枠の内側に収められ、熱カシメ装置によって、前記レンズ枠の円筒形のカシメ代部が付熱状態で加圧され塑性変形して光学レンズが固定される。熱カシメ装置は、カシメ作業に先立って前記カシメ代部とヒーターチップとの位置合わせを行うが、光学レンズは精密部品であり高精度の位置合わせが求められる。また、光学レンズに押しつぶされるカシメ代部はリング状となるため、中心位置合わせだけでなく平面平行性も確保しなければならず、前記位置合わせ作業には熟練を必要とする。
【0003】
下記特許文献1には、熱カシメされるレンズ枠の中心と同じ回転中心を有する台座に触針式位置測定器を設けた調節治具をレンズ枠の受け台の上に載せ、熱カシメ装置にヒーターチップとレンズ枠の受け台とを取り付けた状態で前記受け台の位置調節を行い、その後ヒーターチップと受け台を取外すことなくレンズ枠にカシメ加工を施すことで、高精度な熱カシメを実施する熱カシメ装置の調節治具及び調節方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−245502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、熱カシメを精度良く行ったとしても、カシメ時の圧力が強すぎるとカシメられたレンズに歪みが生じる。また、カシメ力が弱すぎると使用中にレンズに緩みが生じてしまうことがある。これらの問題に対しては正しい圧力でカシメられているかを見つければ良く、レンズのカシメ強度を測定すれば良い。例えば、カシメられたレンズの光学面の歪みを、干渉計を用いてチェックすればカシメ圧力が大き過ぎるものは除外できる。しかし、干渉計による検査は手間が掛かり、コストアップの要因となる。また、カシメ力が小さいものを除外するには、レンズ枠にカシメられた光学レンズに、カシメ方向とは反対の方向から所定の圧力を加えて、外れるか否かをチェックする方法が考えられるが、この方法では、外れなかったレンズに対しても加えた圧力がストレスとして残留して熱カシメの劣化の原因となることがあり、不良品予備軍をつくることになりかねない。
【0006】
本発明は上記問題に鑑み、手間のかかる作業や大掛かりな装置を用いず、レンズやレンズ枠に歪みを残すことなく、光学レンズの熱カシメ部分に加わるカシメ圧力が適正範囲内であることを測定する熱カシメ強度の測定装置及び測定方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による熱カシメ強度の測定装置は、光学レンズが熱カシメされたレンズ枠を回転不能に支持する載置部材と、前記光学レンズの光学面に吸着される吸盤と、前記吸盤の保持部材に回転力を与えて前記光学レンズが回転し始める直前の静摩擦荷重を測定するトルクメータやトルクゲージなどの回転型荷重測定器とを備えたことを特徴とする。前記保持部材は、前記吸盤に形成され吸盤内の空気を排出する排出口と、一端側に真空ポンプが接続されたエアーホースの他端側とを連通させる通気孔を備えるようにすると良い。前記載置部材が固定された支持台に、前記保持部材が前記光学レンズの光軸を中心として回転自在に且つ昇降自在に取り付けられた支持アームが設けられるようにすると良い。
【0008】
本発明による熱カシメ強度の測定方法は、光学レンズが熱カシメされたレンズ枠を、回転不能に載置部材に載置する第1工程と、前記光学レンズの光学面に吸盤を吸着させる第2工程と、前記吸盤の保持部材を回転させ、回転力を徐々に大きくして、前記光学レンズがカシメ力に抗して回転し始める直前の静摩擦荷重の最大値を回転型荷重測定器により測定する第3工程とを順次に行うことを特徴とする。前記載置部材が固定された支持台に、前記回転型荷重測定器に把持された前記保持部材が、前記光軸を中心として回転自在に且つ昇降自在に取り付けられ、回転型荷重測定器に回転力が加えられて前記吸盤が回転し、前記静摩擦荷重の最大値が測定されるようにすると良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明による熱カシメ強度の測定装置及び測定方法によれば、カシメ強度の測定の際にレンズ枠の熱カシメ部分に熱カシメ部分を変形させるような過度な力が加わらないので、外れなかった合格レンズにストレスが残留せず、カシメ強度の測定によって不良品予備軍をつくることはない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による熱カシメ強度の測定装置の構成を示す図である。
【図2】熱カシメ強度が測定される光学レンズがカシメられたレンズ枠を上から見た図である。
【図3】図2のレンズ枠を横から見た外観(左)と中心断面(右)の図である。
【図4】保持部材と吸盤を示す図である。
【図5】測定するレンズ枠を測定装置に載置した図である。
【図6】吸盤を光学レンズに吸着させた図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す本発明による熱カシメ強度の測定装置(以下、単に測定装置という)10は、図2及び図3に示すレンズ枠52に熱カシメされた光学レンズ51が適正な荷重でカシメられていることをチェックするものであり、光学レンズ51は、レンズ枠52の光軸55に対する一方の側から装填された後にレンズ枠52のカシメ代部53が付熱状態で加圧されて変形し、光学レンズ51の光学面54に強く圧接されてレンズ枠52に固定される。レンズ枠52はカシメられた光学面54を上にして測定装置10に載置される。レンズ枠52の載置されたときに下側となる外周面52aの外形は光軸55に対して真円形状ではなく、例えば図示されるような四角形となっている。あるいは、真円形状に回り止めの凸部又は凹部が形成されたものであっても良い。
【0012】
図1及び図4に示すように、測定装置10は、レンズ枠52が載置される載置部材12と、光学面54を吸着する吸着口14と吸着口内部の空気を排出する排出口15とを有する吸盤16と、吸盤16の嵌合凸部17と嵌合する嵌合凹部21が一方の端面に形成された保持部材20と、保持部材20の他方の端面に設けられた六角ビット22を把持するクランプ部24を有する回転型荷重測定器25とを備える。吸盤16は、光学レンズ51の光学面54に強く圧接されても光学面54に傷を付けない樹脂、例えばポリアセタールやテクトロンなどによって形成される。また、吸着口14の大きさは大きい方が好ましく、光学面54の大きさに合わせた複数の吸盤16を準備すると良い。
【0013】
トルクメータやトルクゲージなど回転型荷重測定器25は、測定器本体26を回すと測定器本体26の上面に設けられた表示部27に測定中におけるリアルタイムの測定値と1回の測定中の最大値とが表示される。最大値はリセット機構によって測定前にリセットすることができる。保持部材20は嵌合凹部21に排出口15と一端側が連通する通気孔30を備える。通気孔30の他端側には保持部材20の外周面31にネジ込まれた取付金具32が設けられている。取付金具32には、一端側が真空ポンプ34に接続されたエアーホース35の他端側の接続金具36が接続される。載置部材12は、レンズ枠52の前記外周面52aの外形々状に対応した凹部38が形成され、凹部38に載置されたレンズ枠52が回転しないように支持される。外周面52aの外形々状が真円形であり、且つ回り止めもない場合は、レンズ枠52を固定する装置を載置部材12に備えるようにすると良い。前記吸盤16は、例えば、前記光学レンズ51が直径35mm、厚さ3mmであった場合、吸着口14の大きさが直径30mmのものを使用すると良く、前記吸盤16によって前記光学レンズ51が吸着される吸着力が100〜150(N)になるように前記真空ポンプ34を設定すると良い。
【0014】
前記載置部材12は支持台40のベース41に固定される。ベース41にはガイド支柱42が垂直に設けられ、支持アーム43がガイド支柱42に沿って摺動自在にガイド支柱42に支持される。支持アーム43には載置部材12に載置された光学レンズ51の光軸55の延長戦を中心とする支持孔44が設けられ、保持部材20が回転自在に、且つ光軸55に沿って昇降自在に支持される。
【0015】
次に、測定装置10を用いてレンズ枠52に熱カシメされた光学レンズ51が適正な圧力でカシメられているか否かをチェックする方法について説明する。この方法は、レンズ枠52を固定した上で光学レンズ51に回転力を与えて、光学レンズ51がレンズ枠52のカシメ力に抗して回転し始める直前の静摩擦荷重を測定し、その静摩擦荷重が予め定められた値の範囲内にあれば適正、大きければ光学レンズ51に歪みの発生が懸念されるので不適正、小さければカシメ力が弱く使用中に緩む可能性があるので不適正と判断される。例えば、前記カシメ力の適正値が35cN・mでありその許容範囲として±5cN・mが設定されている場合、30cN・m未満で光学レンズ51が回転したとき及び40cN・mを超えても回転しないときは、いずれも不適正と判断される。
【0016】
(第1工程)図5に示すように、光学レンズ51が熱カシメされたレンズ枠52が、支持台40に固定された載置部材12に、回転しないように載置される。
【0017】
(第2工程)図6に示すように、保持部材20を下げて、吸盤16の吸着口14を光学レンズ51の光学面54に接触させ、真空ポンプ34をオンにして、吸着口14内部の空気を排出口15から吸い出し、吸盤16を光学レンズ51の光学面54に吸着させる。
【0018】
(第3工程)回転型荷重測定器25の測定器本体26を手で回わすと、始めのうちは測定器本体26のみが回りクランプ部24及び保持部材20及び光学レンズ51は回転しないので回転型荷重測定器25の表示部27には測定器本体26に加えられた力量が表示される。加える力を徐々に大きくしていくと、表示部27に表示されるリアルタイムの測定値と最大値とがともに増していく。加えられる力が光学レンズ51を固定するカシメ力を超えると光学レンズ51が回転する。光学レンズ51が回転すると前記カシメ力は静摩擦荷重から動摩擦荷重になるのでリアルタイムの測定値は急激に減少するが、最大値の値は変化しない。この最大値が熱カシメ強度として測定され記録される。
【0019】
前記第1工程〜第3工程までの作業によって熱カシメ強度が測定され、測定結果が適正荷重範囲内であるか否かによって良否の判定が行われるが、この適正荷重の範囲は事前の測定によって定められる。強から弱までのいろいろな圧力で光学レンズ51が熱カシメされたレンズ枠52のサンプルについて、測定装置10による熱カシメ強度の測定値と、干渉計による光学面54の歪みの値とを比較して前記適正荷重の上限値を決定する。衝撃テストや加重テストなど過去の経験値をもとに、前記決定した上限値に対する下限値を設定する。この上限値から下限値の間が適正荷重範囲内として前記測定が行われる。
【符号の説明】
【0020】
10 測定装置(熱カシメ強度の測定装置)
12 載置部材
14 吸着口
15 排出口
16 吸盤
17 嵌合凸部
20 保持部材
21 嵌合凹部
22 六角ビット
24 クランプ部
25 回転型荷重測定器
26 測定器本体
27 表示部
30 通気孔
31 外周面
32 取付金具
34 真空ポンプ
35 エアーホース
36 接続金具
38 凹部
40 支持台
41 ベース
42 ガイド支柱
43 支持アーム
44 支持孔
51 光学レンズ
52 レンズ枠
53 カシメ代部
54 光学面
55 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学レンズが熱カシメされたレンズ枠を回転不能に支持する載置部材と、
前記光学レンズの光学面に吸着される吸盤と、
前記吸盤の保持部材に回転力を与えて、前記光学レンズが回転し始める直前の静摩擦荷重を測定する回転型荷重測定器と、
を備えたことを特徴とする熱カシメ強度の測定装置。
【請求項2】
前記保持部材は、前記吸盤に形成され吸盤内の空気を排出する排出口と、一端側に真空ポンプが接続されたエアーホースの他端側とを連通させる通気孔を備えることを特徴とする請求項1記載の熱カシメ強度の測定装置。
【請求項3】
前記載置部材が固定された支持台に、前記保持部材が前記光学レンズの光軸を中心として回転自在に且つ昇降自在に取り付けられた支持アームを設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の熱カシメ強度の測定装置。
【請求項4】
光学レンズが熱カシメされたレンズ枠を、回転不能に載置部材に載置する第1工程と、
前記光学レンズの光学面に吸盤を吸着させる第2工程と、
前記吸盤の保持部材を回転させ、回転力を徐々に大きくして、前記光学レンズがカシメ力に抗して回転し始める直前の静摩擦荷重の最大値を回転型荷重測定器によって測定する第3工程と、
を順次に行うことを特徴とする熱カシメ強度の測定方法。
【請求項5】
前記載置部材が固定された支持台に、前記回転型荷重測定器に把持された前記保持部材が、前記光学レンズの光軸を中心として回転自在に且つ昇降自在に取り付けられ、回転型荷重測定器に回転力が加えられて前記吸盤が回転し、前記静摩擦荷重の最大値が測定されることを特徴とする請求項4記載の熱カシメ強度の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−7726(P2011−7726A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153579(P2009−153579)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】