説明

熱サイクル用作動媒体

【課題】不燃性かつ環境への負荷が小さく、熱サイクル特性を更に改良した、新規な熱サ
イクル用作動媒体を提供する。
【解決手段】一般式(1)C−O−C ( 1 )( 式中、a+dが2〜8、b+e> 1 かつb+e <c+f となるような水素原子とフッ素原子の組み合わせを示す)で表されるフッ素化エーテルよりなる群からから選択される少なくとも1種類の化合物を、少なくとも50質量%以上含む、熱サイクル用作動媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化エーテルを含有する熱サイクル用作動媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水などの作動媒体を用いて、断熱圧縮、定圧加熱(蒸発)、断熱膨張、定圧冷却(凝縮)の4つの過程を経るランキンサイクルを用いた発電システムとその作動原理が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一般的に、ランキンサイクルシステムは、作動媒体を蒸発させる蒸発器ないしボイラと、蒸発器から蒸気を受けて発電機を駆動するタービンと、蒸気を凝縮する凝縮器と、凝縮された流体を蒸発器へ再循環させるポンプあるいは他の再循環手段と、を備えている。なお、ランキンサイクルシステムにおける作動流体は、多くの場合、水が使用され、その場合に、タービンは、水蒸気によって駆動される。
【0004】
作動媒体として水を使用する場合、このようなシステムを高温高圧にて作動させる必要があり、設備に負荷が掛かりやすく、比較的維持費用が高額になりやすい。このような背景のもと、低温発熱技術として、水の代わりに沸点の低い有機媒体を用いる有機ランキンサイクル(ORC)について種々の検討がなされており、中でも、有機ランキンサイクル用の作動媒体として、有機フッ素化合物を用いる技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2には、CF3CF2(CO)CF(CF32等のフッ化ケトン類を作動媒体として用いることが開示されている。また、特許文献3には、燃料電池から廃熱を利用する有機ランキンサイクルシステムの作動媒体として、4−トリフルオロメチル−1,1,1,3,5,5,5−ヘプタフルオロ−2−ペンテンを含む有機フッ素化合物が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、1,1,2,2−テトラフルオロ−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルを主剤とし炭素数1〜4のアルコールを混合した作動媒体をランキンサイクル等に用いることが開示されている。また、特許文献5には、C4925等のHFC類をランキンサイクル等熱サイクル用熱媒として用いることが開示されている。
【0007】
また、特許文献6には、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、モノクロロノナフルオロペンテン等のフルオロオレフィン類を作動媒体として用いる有機ランキンサイクルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3,393,515号
【特許文献2】特表2007/520662号公報
【特許文献3】特表2008/506819号公報
【特許文献4】国際公開2007/105724号パンフレット
【特許文献5】国際公開2008/105410号パンフレット
【特許文献6】米国特許第2010/0139274A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜6において、50〜200℃程度の中低温度の熱回収を目的として、これまで数多くの有機ランキンサイクル用又はヒートポンプサイクル用作動媒体について提案されているが、不燃性、環境への負荷、熱サイクル特性(発電サイクル効率)など、性能の観点から総合的に未だ十分なものではなく、更なる性能の向上が望まれている。
【0010】
また、現在、有機ランキンサイクル用作動媒体などに用いられる熱サイクル用作動媒体として、例えば、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa),1,1−ジクロロ−2,2,2−トリフルオロエタン(HCFC−123)等の作動媒体が挙げられる。しかし、これらの化合物は、可燃性、毒性、及び環境への負荷の観点から、将来的に使用することが懸念されている。
【0011】
本発明の目的は、不燃性かつ環境への負荷が小さく、熱サイクル特性を更に改良した、新規な熱サイクル作動媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、一般式( 1 )
−O−Cd ( 1 )
(式中、a + d が2〜8 、b + e > 1 かつb + e < c + f となるような水素原子とフッ素原子の組み合わせを示す)
で表されるフッ素化エーテルよりなる群からから選択される少なくとも1種類の化合物を、少なくとも50質量%以上含む、熱サイクル用作動媒体である。
【0013】
また、本発明において、前記フッ素化エーテルは、2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、又は、1−メトキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン、からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を用いることが好ましい。
【0014】
また、本発明において、前記化合物の1種以上は、少なくとも75質量%以上含む、ことがより好ましく、さらに、炭素数3〜6の飽和炭化水素を作動媒体中に、25質量%以下含むことがより好ましい。
【0015】
また、本発明において、前記飽和炭化水素が、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、ことが好ましい。
【0016】
また、本発明において、上述の熱サイクル用作動媒体は、ランキンサイクルシステムに適用することができる。
【0017】
また、本発明において、上述の熱サイクル用作動媒体は、ヒートポンプサイクルシステムに適用することができる。
【0018】
また、本発明において、上述の熱サイクル用作動媒体は、潜熱輸送システムに適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の作動媒体によれば、不燃性で、環境への影響が小さく、かつ、熱サイクル特性に優れた熱サイクル用作動媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る作動媒体を適用可能な有機ランキンサイクルの概略図である。
【図2】ランキンサイクルにおける作動媒体の状態変化を圧力−比エンタルピー線図(P−h線図)上に記載したサイクル図である。
【図3】本発明に係る作動媒体を適用可能なヒートポンプサイクルの概略図である。
【図4】ヒートポンプサイクルにおける作動媒体の状態変化を圧力−比エンタルピー線図(P−h線図)上に記載したサイクル図である。
【図5】本発明の実施例1におけるTs線図である。
【図6】本発明の実施例2におけるTs線図である。
【図7】本発明の実施例3におけるTs線図である。
【図8】本発明の比較例1におけるTs線図である。
【図9】本発明の実施例1におけるP−h線図である。
【図10】本発明の実施例2におけるP−h線図である。
【図11】本発明の実施例3におけるP−h線図である。
【図12】本発明の比較例1におけるP−h線図である。
【図13】メリット数と作動温度の相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の熱サイクル用作動媒体は、特定のフッ素化エーテルを含むことを特徴としている。具体的に好適なフッ素化エーテルとしては、1−メトキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CF3CH=CHOCH3: 沸点57℃)、2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン((CF32CHOCH3: 沸点50℃)、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン(CF2HCF2OCH3: 沸点37℃)を挙げることができる。これらの化合物は単体もしくは2種以上の混合物として使用することができる。
【0022】
これらの化合物は、不燃性であり、かつ、いずれも分子内にエーテル酸素を含み、水酸基ラジカルとの反応性が高く、大気寿命が短いため、地球温暖化に対する影響はきわめて小さいので、環境への負荷が小さい。また、本発明の作動媒体はいずれもHFC−245faに対し高い臨界温度を有し、作動媒体として優位である。なお、これらの化合物は、作動媒体中(100質量%)中、少なくとも50質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは90質量%以上、含むことが望ましい。50質量%未満である場合、本発明の作動媒体の効果(作動媒体特性、冷媒性能等)が十分得られにくくなるため好ましくない。
【0023】
以下に、本発明の熱サイクル用作動媒体に含まれるフッ素化エーテルについて詳細に説明する。
【0024】
<1−メトキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン:1363mzz>
本発明の、1−メトキシ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、文献公知の方法によって製造することができる。例えば、1−クロロ−3,3,3−トリルオロプロペンとメタノールを水酸化カリウム等の塩基触媒存在下液相で反応させることにより得ることができる。
【0025】
<2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン:356mmz>
2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンは、文献公知の方法によって製造することができる。例えば、2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンは、アルカリ存在下1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロアルコールとジメチル硫酸との反応により得ることができる(米国特許3,346448号)。また、3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−2−メトキシプロピオン酸メチルを出発原料として有機塩基を触媒として加熱分解して得ることもできる(特開2011−116661号公報)。
【0026】
<1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン:254pc>
1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタンは、本出願人らが開示した、テトラフルオロエチレンを塩基性触媒および添加剤として用いる非プロトン性溶媒の存在下、メタノールと反応させることで得ることができる(特開2007−39376)。
【0027】
(その他のフッ素化エーテル類)
また、上記の好適なフッ素化エーテル以外にも、2−(メトキシメチル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(メトキシジフルオロメチル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビスジフルオロメチルエーテル、メチルペンタフルオロエチルエーテル、1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリフルオロメチルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルトリフルオロメチルエーテル、ジフルオロメチル1,2,2,2−テトラフルオロエチルエーテル、ジフルオロメチル2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメチルエーテル、1−トリフルオロメチル−1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロー3−メトキシプロパン、2H−オクタフルオロイソブチルメチルエーテル、ヘプタフルオロイソブテニルメチルエーテル等を挙げることができる。これらのフッ素化エーテルは単独または2種以上の混合物で用いることもできる。
【0028】
本発明の熱サイクル用作動媒体は、上記のフッ素化エーテルに加えて、フッ素化オレフィン類、ハイドロフルオロカーボン類(HFC)、アルコール類、飽和炭化水素類などの他の添加化合物を含有していてもよい。以下、他の添加化合物について詳細に説明する。なお、これらの化合物の添加量は、本発明の作動媒体の効果を損じないよう、50質量%以下、好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下であることが望ましい。
【0029】
<その他の添加化合物:フッ素化オレフィン類>
その他のフッ素化オレフィン類としては、1−クロロ−2−フルオロプロペン、1,1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、3,3−ジクロロ−1,1,3−トリフルオロプロペン、1,3−ジクロロ−2,3,3−トリフルオロプロペン、3,3−ジクロロ−2,3−ジフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブテン、2,4,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン、2,4,4,4−テトラフルオロ−2−ブテン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン、1−クロロ−1,1,4,4,4−ペンタフルオロ−2−ブテン、1,4−ジクロロ−1,1,4,4−テトラフルオロ−2−ブテン,1,1−ジクロロ−1,4,4−テトラフルオロ−2−ブテン、パーフルオロ−(4−メチル−2− ペンテン)等を挙げることができる。
【0030】
<その他の添加化合物:ハロカーボン類、ハイドロフルオロカーボン類>
その他の、ハロカーボン類としては、ハロゲン原子を含む塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、ハイドロフルオロカーボン類としては、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)等を挙げることができる。
【0031】
<アルコール>
また、その他の化合物して、炭素数1〜4のメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、テトラフルオロプロパノール等のアルコール類、を含むことができる。
【0032】
<飽和炭化水素>
また、その他の化合物して、炭素数3〜6のプロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素から選ばれる少なくとも1以上の化合物を混合することができる。これらのうち、特に好ましい物質としてはn−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンが挙げられる。これらの飽和炭化水素は、地球温暖化係数が低いため、本発明に係る特定のフッ素化オレフィンに加えることによって、さらに、地球温暖化係数を下げることができる。また、これらの飽和炭化水素は、安価で入手が容易なため、本発明の熱サイクル用作動媒体のコストを低減させることも可能となる。
【0033】
<潤滑油>
また、本発明の熱サイクル用作動媒体をランキンサイクル発電のタービン用作動媒体に用いる場合、潤滑油は、天然物または合成オイルのアルキルベンゼン類、エステル類、ポリアルキレングリコール類またはポリビニルエーテル類を用いることができる。
【0034】
アルキルベンゼン類としては、n−オクチルベンゼン、n−ノニルベンゼン、n−デシルベンゼン、n−ウンデシルベンゼン、n−ドデシルベンゼン、n−トリデシルベンゼン、2−メチル−1−フェニルヘプタン、2−メチル−1−フェニルオクタン、2−メチル−1−フェニルノナン、2−メチル−1−フェニルデカン、2−メチル−1−フェニルウンデカン、2−メチル−1−フェニルドデカン、2−メチル−1−フェニルトリデカン等が挙げられる。
【0035】
エステル類としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの混合物等の芳香族エステル、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル、炭酸エステル等が挙げられる。
【0036】
ポリアルキレングリコールは、炭素数1〜18のメタノール、エタノール、直鎖状または分枝状のプロパノール、直鎖状又は分枝状のブタノール、直鎖状又は分枝状のペンタノール、直鎖状又は分枝状のヘキサノール等脂肪族アルコールに、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキド等を付加重合した化合物が挙げられる。
【0037】
ポリビニルエーテル類としては、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテル、ポリn−プロピルビニルエーテル、ポリイソプロピルビニルエーテル等が挙げられる。
【0038】
<安定剤>
また、本発明の熱サイクル用作動媒体は、熱安定性、耐酸化性等を改善するために安定剤を用いることができる。安定剤としては、ニトロ化合物、エポキシ化合物、フェノール類、イミダゾール類、アミン類等が挙げられる。
【0039】
ニトロ化合物としては、公知の化合物が例示されるが、脂肪族及び/または芳香族誘導体が挙げられる。脂肪族系ニトロ化合物として、例えばニトロメタン、ニトロエタン、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン等が挙げられる。芳香族ニトロ化合物として、例えばニトロベンゼン、o−、m−又はp−ジニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、o−、m−又はp−ニトロトルエン、o−、m−又はp−エチルニトロベンゼン、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−ジメチルニトロベンゼン、o−、m−又はp−ニトロアセトフェノン、o−、m−又はp−ニトロフェノール、o−、m−又はp−ニトロアニソール等が挙げられる。
【0040】
エポキシ化合物としては、例えばエチレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、グリシドール、エピクロルヒドリン、グリシジルメタアクリレート、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル等のモノエポキシ系化合物、ジエポキシブタン、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントルグリシジルエーテル等のポリエポキシ系化合物等が挙げられる。
【0041】
フェノール類としては、水酸基以外にアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲン等各種の置換基を含むフェノール類も含むものである。たとえば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、チモール、p−t−ブチルフェノール、o−メトキシフェノール、m−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、オイゲノール、イソオイゲノール、ブチルヒドロキシアニソール、フェノール、キシレノール等の1価のフェノールあるいはt−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−アミノハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン等の2価のフェノール等が例示される。
【0042】
イミダゾール類としては、炭素数1〜18の直鎖もしくは分岐を有するアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基をN位の置換基とする、1−メチルイミダゾール、1−n−ブチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−(β−オキシエチル)イミダゾール、1−メチル−2−プロピルイミダゾール、1−メチル−2−イソブチルイミダゾール、1−n−ブチル−2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、1,5−ジメチルイミダゾール、1,2,5−トリメチルイミダゾール、1,4,5−トリメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール等が挙げられる。これらの化合物は単独であるいは併用してもよい。
【0043】
アミン類としては、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジアリルアミン、トリエチルアミン、N−メチルアニリン、ピリジン、モルホリン、N−メチルモルホリン、トリアリルアミン、アリルアミン、α―メチルベンジルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジベンチ
ルアミン、トリベンチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等が例示される。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
また、本発明に用いる安定化剤は、上記化合物以外に、α―メチルスチレンやp−イソプロペニルトルエン、イソプレン類、プロパジエン類、テルペン類等の炭化水素等を含有してもよい。
【0045】
安定化剤は、予め作動媒体及び潤滑剤の一方または両方に添加してもよく、また、単独で凝縮機内に添加してもよい。このとき、安定化剤の使用量は、特に限定されないが、主作動媒体(100質量部)に対して、0.001〜10質量部が好ましく、 0.01〜5質量部がより好ましく、0.02〜2質量部がさらに好ましい。安定剤の添加量が上限値を越えるか、下限値未満では、作動媒体の安定性、熱サイクル性能等が十分得られない。
【0046】
本発明の熱サイクル用作動媒体は、不燃性かつ環境への負荷が小さく、熱サイクル特性に優れている。そのため、発電システム等に利用される有機ランキンサイクル用作動媒体、蒸気圧縮式冷凍サイクル(ヒートポンプ)システム用作動媒体、吸収式ヒートポンプ、ヒートパイプ等の媒体や、冷却システムまたはヒートポンプシステムのサイクル洗浄用洗浄剤、金属洗浄剤、フラックス洗浄剤、希釈溶剤、発泡剤、エアゾール等として用いることができる。
【0047】
ヒートパイプとは、パイプ状の容器の一端を蒸発部とし、他端を凝縮部として熱を伝える伝熱素子である。原理としては、パイプの一端が温められると、そこで作動媒体が蒸発して熱を吸収する。次いで、蒸発した期待はパイプの中を拡散し、低温部となる他端で潜熱を放出し凝縮する。作動媒体(液体)は重力や毛管力で再びパイプの高温部となる一端へ戻り高温部から低温部へ熱が輸送される。また、本発明の作動媒体は、ヒートパイプと同様な原理の二相密閉型熱サイフォン装置等の潜熱輸送用システムにも適用可能である。また、ヒートパイプにおける作動液を循環させる駆動力は、重力または毛管力に限定されず、ポンプなどの機械仕事を用いてもよい。
【0048】
なお、本発明の熱サイクル用作動媒体は、小型装置(ランキンサイクルシステムやヒートポンプサイクルシステムなど)のみだけでなく、工場スケールの大規模な発電システム等に適用可能である。
【0049】
以下、本発明の有機ランキンサイクル用作動媒体用いたランキンサイクルシステムについて詳細に説明する。
【0050】
<ランキンサイクルシステム>
ランキンサイクルシステムとは、蒸発器において、地熱エネルギー、太陽熱、中低温度(50〜200℃程度)の廃熱等により作動媒体を加熱し、高温高圧状態の蒸気となった作動媒体を膨張機にて断熱膨張させ、この断熱膨張によって発生する仕事によって、発電機を駆動させ、発電を行うシステムである。
【0051】
図1は、本発明の作動媒体を適用可能な有機ランキンサイクルシステムの一例を示す概略図である。以下に図1のランキンサイクルシステム100の構成と動作(繰り返しサイクル)について説明する。
【0052】
本発明のランキンサイクルシステム100は、熱を取り込む蒸発器10(ボイラー)と、熱を分配する凝縮器11(コンデンサー)と、を備える。さらに、ランキンサイクルシステム100は、システムを流通する駆動流体によって駆動される発電用タービン12と、凝縮器11を出た液体の圧力を高め、電力を消費するポンプ13と、を有しており、発電用タービン12によって、電力を発生させる発電機14を駆動する。
【0053】
本発明の作動媒体を用いてランキンサイクルを繰り返す場合、以下の(a)〜(e)を経て電気的エネルギー等として取り出すことができる。
【0054】
(a)熱交換器(蒸発器10)内で液状の作動媒体が廃熱と熱交換し、気化する。
【0055】
(b)熱交換器から気化した作動媒体を取り出す。
【0056】
(c)気化した作動媒体を膨張器(発電用タービン12)に通し、機械的(電気的)エネルギーに変換する。
【0057】
(d)膨張器から出た作動媒体を凝縮器へ通し、気体の作動媒体を凝縮して液化する。
【0058】
(e)液化した作動媒体をポンプにより工程(a)へ再循環させる。
【0059】
ランキンサイクルは、断熱変化および等圧変化からなるサイクルであり、作動媒体の状態変化を圧力‐比エンタルピー線図(P−h線図)上に記載すると図2のように表すことができる。
【0060】
図2の曲線は、飽和曲線である。図2において、1から2への移行は、タービン等の膨張機で断熱膨張を行い、高温高圧の作動媒体の蒸気によって、仕事を発生させる過程である。すなわち、この1から2へと移行する間に発電する。2から3への移行は、凝縮器で等圧冷却を行い、低温定圧状態の作動媒体蒸気(サイクルポイント2)を凝縮させ、作動媒体を液化させる過程である。3から4への移行は、ポンプで断熱圧縮を行い、作動媒体を高圧の作動媒体(サイクルポイント4)とする過程である。4から1への移行は、蒸発器で等圧加熱を行い高圧の作動媒体(サイクルポイント4)を高温高圧の作動媒体蒸気(サイクルポイント1)とする過程である。
【0061】
<ヒートポンプサイクルシステム>
ヒートポンプサイクルシステムとは、凝縮器において作動媒体の熱エネルギーを負荷流体に与えることにより、負荷流体を加熱し、より高い温度に昇温するシステムであり公知のシステムに適用できる。
【0062】
<ヒートポンプサイクルシステム>
ヒートポンプサイクルシステムとは、凝縮器において作動媒体の熱エネルギーを負荷流体に与えることにより、負荷流体を加熱し、より高い温度に昇温するシステムであり公知のシステムに適用できる。図3は、本発明の作動媒体を適用可能なヒートポンプサイクルシステムの一例を示す概略図である。以下に、図3のヒートポンプサイクルシステム200の構成と動作(繰り返しサイクル)について説明する。
【0063】
本発明のヒートポンプサイクルシステム200は、熱を取り込む蒸発器15と、熱を供給する凝縮器17を備える。さらに、ヒートポンプサイクルシステム200は、蒸発器15を出た作動媒体蒸気の圧力を高め、電力を消費する圧縮機16と、凝縮器17を出た作動媒体過冷却液を絞り膨張させる膨張弁18を有する。
【0064】
本発明の作動媒体を用いてヒートポンプサイクルを繰り返す場合、以下の(a)〜(e)を経て、凝縮器において被加熱媒体に投入電力以上のエネルギーを熱エネルギーとして取り出すことができる。
【0065】
(a)熱交換器(蒸発器15)内で液状の作動媒体が廃熱または空気と熱交換し、気化する。
【0066】
(b)熱交換器から気化した作動媒体を取り出す。
【0067】
(c)気化した作動媒体を圧縮機16に通し、高圧の過熱蒸気を供給する。
【0068】
(d)圧縮機から出た作動媒体を凝縮器へ通し、気体の作動媒体を凝縮して液化する。
【0069】
(e)液化した作動媒体を膨張弁により絞り膨張させ、低圧の湿り蒸気を供給し、工程(a)へ再循環させる。
【0070】
ヒートポンプサイクルは、断熱変化および等圧変化からなるサイクルであり、作動媒体の状態変化を圧力‐比エンタルピー線図(P−h線図)上に記載すると図4のように表すことができる。
【0071】
図の曲線は、飽和曲線である。図4において、1から2への移行は、圧縮機で断熱圧縮を行い、高温高圧の作動媒体過熱蒸気を発生させる過程である。2から3への移行は、凝縮器で等圧冷却を行い、高温定圧状態の作動媒体蒸気(サイクルポイント2)を凝縮させ、作動媒体を液化させる過程である。すなわち、この2から3へと移行する間に被過熱媒体へと熱エネルギーを取り出す。3から4への移行は、膨張弁で絞り膨張を行い、作動媒体を低圧の湿り蒸気(サイクルポイント4)とする過程である。4から1への移行は、蒸発器で等圧加熱を行い低圧の作動媒体(サイクルポイント4)を高温低圧の作動媒体過熱蒸気(サイクルポイント1)とする過程である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
<1−メトキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン:1363mzz>
図1の有機ランキンサイクルシステム100において、本発明に係る作動媒体として、1−メトキシ−3,3,3−トリフルオロプロペンを適用した場合のランキンサイクル性能(発電サイクル効率)について評価した。なお、図5、9において、実施例1におけるTs線図およびP−h線図を示す。図9において、サイクルポイント1、2、3、4はランキンサイクル計算条件1を、サイクルポイント1’、2’、3’、4’はランキンサイクル計算条件2を示す。
【0074】
また、評価について、表1〜表3に示すように、ランキンサイクル計算条件において、サイクル構成機器効率を、膨張タービン0.8、循環ポンプ0.6、発電機0.95とした。また、評価条件としては、条件1:有効発電量10kW、蒸発温度77℃(熱源水88℃を想定)、凝縮温度42℃(冷却水32℃を想定)及び、条件2:有効発電量10kW、蒸発温度140℃(熱源水または廃ガス150℃を想定)、凝縮温度42℃(冷却水32℃を想定)の2つの条件とした。作動媒体の物性値は、米国国立標準技術研究所(NIST)のREFPROP ver.8.0を用いるか、または物性推算法により求めた。
【0075】
以下に、ランキンサイクル計算条件を、表1〜表3に示す。
【表1】

【表2】

【表3】

なお、ランキンサイクル性能(発電サイクル効率)を算出する基礎式を導くにあたり、次の項目を仮定した。
【0076】
(A)ランキンサイクルの理想的な膨張過程は等エントロピー膨張とし、実機損失を考慮
し、膨張タービン断熱効率ηを導入。
【0077】
(B)膨張タービンによる発電機損失を発電機効率ηで考慮。
【0078】
(C)循環ポンプ動力は発電電気で駆動し、モータ効率を含めポンプ効率ηを導入。ポンプはキャンド型で、損失分は熱としてサイクルに含める。
【0079】
(D)軸受潤滑油の循環ポンプ動力は微小であるため無視。
【0080】
(E)配管の熱損失、圧力損失は無視。
【0081】
(F)蒸発器出口の作動媒体は飽和蒸気とする。
【0082】
(G)凝縮器出口の作動媒体は飽和液とする。
【0083】
以下に、ランキンサイクル性能(発電サイクル効率)を算出する基礎式について詳細に説明する。なお、基礎式は、エバラ時報No.211(2006−4)、p.11掲載の「廃熱発電装置の開発(作動媒体及び膨張タービンの検討)」の計算式を用いた。図2において、サイクルポイント1−2は、膨張タービン、サイクルポイント2−3は、凝縮器、サイクルポイント3−4は、循環ポンプ、サイクルポイント4−1は蒸気発生器から構成されている。なお、図中の点線(サイクルポイント1−2Tth)は等エントロピー膨張を示す。
【0084】
図2において,作動媒体循環量Gによる膨張タービンの理論発生動力LTth 及び膨張タービン効率を考慮した発生動力LT
【数1】

【数2】

と表せる。
【0085】
発電量EGは,発電機効率を用い,
【数3】

となる。
【0086】
循環ポンプは、凝縮器出口の作動媒体液を凝縮器圧力PC から圧力の高い蒸気発生器圧力PE に送り込むもので,その理論的な必要動力Lpth 及びポンプ効率を考慮した必要電力EPは、
【数4】

【数5】

となり,有効発電量Ecycle は次式となる。
【数6】

蒸気発生器への入熱量QE は,
【数7】

であり、発電サイクルとしての効率は,
【数8】

となる。
【0087】
なお、上記(1)〜(8)において、各種記号は以下を意味する。
【0088】
G: 作動媒体循環量
Lth: 膨張タービンの理論発生動力
Lt: 発生動力
EG: 発電量
E: 循環ポンプ必要電力
Pc: 凝縮器圧力
PE: 蒸気発生器圧力
Lpth: 理論的必要動力
E: 必要電力
Ecycle: 有効発電量
QE: 入熱量
ηcycle: 発電サイクル効率
ρ: 作動媒体密度
h: 比エンタルピー
1,2,3,4: サイクルポイント
[実施例2]
<2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン:356mmz>
1−メトキシ−3,3,3−トリフルオロプロペンの代わりに、2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンを用いた以外は、実施例1と同じ条件にて、ランキンサイクル性能(発電サイクル効率)について評価した。なお、図6、10において、実施例2におけるTs線図およびP−h線図を示す。図10において、サイクルポイント1、2、3、4はランキンサイクル計算条件1を、サイクルポイント1’、2’、3’、4’はランキンサイクル計算条件2を示す。
【0089】
[実施例3]
<1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン:254pc>
1−メトキシ−3,3,3−トリフルオロプロペンの代わりに、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタンを用いた以外は、実施例1と同じ条件にて、ランキンサイクル性能(発電サイクル効率)について評価した。なお、図7、11において、実施例2におけるTs線図およびP−h線図を示す。図11において、サイクルポイント1、2、3、4はランキンサイクル計算条件1を、サイクルポイント1’、2’、3’、4’はランキンサイクル計算条件2を示す。
【0090】
[比較例1]
<1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン:245fa>
1−メトキシ−3,3,3−トリフルオロプロペンの代わりに、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを用いた以外は、実施例1と同じ条件にて、ランキンサイクル性能(発電サイクル効率)について評価した。なお、図8、12において、比較例1におけるTs線図およびP−h線図を示す。図12において、サイクルポイント1、2、3、4はランキンサイクル計算条件1を、サイクルポイント1’、2’、3’、4’はランキンサイクル計算条件2を示す。
【0091】
実施例1,2及び比較例1のランキンサイクル性能(発電サイクル効率)の算出結果を比較したものを、条件1及び2について、それぞれ表4及び5に示す。
【表4】

【表5】

表4及び5の実施例1〜3及び比較例1のサイクル効率より、本発明の熱サイクル作動媒体は、現在使用されているHFC−245faよりも、大きなサイクル効率を有し、ランキンサイクル用作動媒体として優位である。サイクル効率は、蒸発条件と凝縮条件の間の温度差が大きい方が増大する。
【0092】
表4及び5の結果より、サイクル効率の差異は、高温熱源において差異が大きく、本発明の作動媒体が高温領域で特に有効であることを示す。凝縮温度は通常工場等で使用される冷却水温度よりもやや高めの32℃とし、蒸発温度は中低温廃熱を想定し88℃及び150℃の熱源をおいた。
【0093】
また、本発明の作動媒体は、現在使用されている1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)に比べ、いずれも臨界温度が高く、Ts線図(図5〜7)に示すように、良好な熱物性を有する。等エントロピー変化を仮定すれば、1サイクル間に受ける熱量はTs線図でサイクルが囲む面積であるため、臨界温度が高い方が有利である。
【0094】
<潜熱輸送システム(ヒートパイプ)>
本発明の作動媒体は、ヒートパイプ等の潜熱輸送システムの作動媒体として使用することもできる。一般的な潜熱輸送システムは、作動温度が−50〜200℃程度の範囲で作動させる。以下に、本発明の作動媒体をヒートパイプに適用する場合について説明する。なお、ヒートパイプ用の作動媒体としての性能は、後述の下記一般式(9)より算出した熱伝達効率(メリット数)により評価した。
【0095】
ヒートパイプ等に使用される潜熱輸送用作動媒体は、化学的安定性や環境への負荷など様々な特性が求められるが、熱伝達効率として、特に最大熱輸送量を決定する特定値として、メリット数Mを用いた性能評価が重要となる。このメリット数Mが大きいほど、効率よく熱を輸送することができ、かつ、抵抗も少ない優れた作動媒体である。また、環境への負荷、熱伝達効率(メリット数)など、性能の観点から総合的に未だ十分なものは報告されておらず、更なる性能を向上させた潜熱輸送用作動媒体が望まれている。
【0096】
一般的に、最大熱輸送量を決定する作動媒体の特性値であるメリット数M(kJ/(m2・s))は、下記一般式(9)で表される。なお、メリット数Mが大きいほど作動媒体の最大熱輸送量が大きくなる。
【数9】

ここに、ρは、作動媒体の密度(kg/m3)、σは、作動媒体の表面張力(N/m)、Lは作動媒体の蒸発潜熱(kJ/kg)、μは、作動媒体の粘度(Pa・s)である。なお、メリット数Mは温度によって変化する。
【0097】
上記(9)式を用いて、−50〜150℃におけるメリット数を算出した。その結果を図13(メリット数と温度の関係図)に示した。また、作動媒体の20℃におけるメリット数および標準沸点におけるメリット数を表6に示した。比較例1としては、従来、ヒートパイプの作動液として使用されているパーフルオロカーボン(n‐パーフルオロヘキサン:C6F14)を用いた。なお、347pc−fは、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルを表す。
【表6】

表6および図13より、本発明の作動媒体(実施例1〜3)は、幅広い温度域において、パーフルオロカーボン(比較例1)より、メリット数が大きく優れた熱伝達効率(メリット数)を有することが分かる。347pc−fは優れたメリット数を有しているが、特に、254pc、356mmzは、フッ素化エーテルの中でも、優れた熱伝達特性を有するため、ヒートパイプの作動媒体に好適であることが分かる。
【0098】
ハイブリット車両等の空調装置または電子部品の冷却器用のヒートパイプの作動媒体として使用する場合、作動媒体の沸点が高くなると、入力熱量が少ない場合に蒸発しにくくなり熱抵抗が増加する(熱伝達効率が悪くなる)ため、好ましくない。一方、沸点が低すぎるとヒートパイプ内の圧力上昇が大きくなり、装置の気密性が要求され、装置の設備コスト、重量が大きく好ましくない。このような中、254pc、356mmzは、ヒートパイプの作動媒体として使用する場合、好適な範囲の沸点であり、金属に対する安定性も高く、小型・軽量のヒートパイプに適用が可能となる。
【0099】
フッ素化エーテルの化学構造が異なれば、そのメリット数Mも異なる。そのため、ヒートパイプ等の潜熱輸送用作動媒体として性能は、フッ素化エーテルであれば如何なる構造のものでも等しく十分な性能が得られるものでもなく、潜熱輸送用作動媒体など特定の用途に使用できる化合物の特定は容易ではない。254pc、356mmzは、環境への負荷が小さく、金属に対しても化学的に安定であり、表6および図13より、フッ素化エーテルの中でも、優れた熱伝達効率を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の作動媒体は、不燃性かつ環境への負荷が小さく、熱サイクル特性に優れている
ので、これまで十分利用されてこなかった中低温域の工場廃熱等の利用に用いることがで
き、優れた発電効率によって、消費電力の低減に大きく寄与することが可能となるため、
ランキンサイクルシステム等の発電システムに好適に使用することができる。
【0101】
また、本発明の作動媒体は、電気自動車、燃料電池自動車、内燃機関(エンジン)と電
動モータとの両者を有して走行するハイブリット車両等の空調装置または電子部品の冷却
器用途向けのヒートポンプサイクルシステムに使用することもできる。また、その他とし
て、本発明の作動媒体は、地中熱、河川、海洋、家庭廃熱等のエネルギーを利用する高温
型ヒートポンプサイクルシステムの作動媒体としても使用することができる。
【符号の説明】
【0102】
100 ランキンサイクルシステム
200 ヒートポンプサイクルシステム
10、15 蒸発器
11、17 凝縮器
12 発電用タービン
13 ポンプ
14 発電機
16 圧縮機
18 膨張弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
−O−C ( 1 )
( 式中、a+dが2〜8、b+e> 1 かつb+e <c+f となるような水素原子とフッ素原子の組み合わせを示す)
で表されるフッ素化エーテルよりなる群からから選択される少なくとも1種類の化合物を、少なくとも50質量%以上含む、熱サイクル用作動媒体。
【請求項2】
前記フッ素化エーテルが、2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、又は、1−メトキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン、からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物である、請求項1の熱サイクル用作動媒体。
【請求項3】
前記化合物の1種以上を、少なくとも75質量%以上含む、請求項1又は請求項2の熱サイクル用作動媒体。
【請求項4】
さらに、炭素数3〜6の飽和炭化水素を作動媒体中に、25質量%以下含む、請求項1から請求項3の何れかの熱サイクル用作動媒体。
【請求項5】
前記飽和炭化水素が、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項4の熱サイクル用作動媒体。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかの熱サイクル用作動媒体を用いた、ランキンサイクルシステム。
【請求項7】
請求項1から請求項5の何れかの熱サイクル用作動媒体を用いた、ヒートポンプサイクルシステム。
【請求項8】
請求項1から請求項5の何れかの熱サイクル用作動媒体を用いた、潜熱輸送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−100805(P2013−100805A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280794(P2011−280794)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】