説明

熱シールド

【課題】本願発明は、コリメーターのサイズを縮小して極低温検出器をより使いやすいものとし、検出器の性能を向上させるものである。近年の検出器技術の進展によって検出器サイズが拡大してきているため、コリメーターのサイズは、巨大化する傾向にある。
【解決手段】本願発明は、微細なハニカムコリメーターと金属メッシュを用いたコンパクトな熱シールドである。ハニカムコリメーターは、多数のセルから成るハニカム構造体を用いて窓を分割することにより、分割数に応じてコリメーターの長さを短くすることができる。ハニカム構造体には、セラミック、金属またはグラファイトを用いる。各セルの内面をカーボンブラックやネクテルブラックなど黒色の艶消し塗料で塗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ハニカムコリメータ及び金属メッシュを用いた熱シールドに関する。
【背景技術】
【0002】
極低温検出器は、冷却部、輻射シールド、窓、検出器、読出回路からなる。検出器は、輻射シールドに囲まれ、輻射シールドは、冷却部によって冷却される。検出器が検出する対象である光子ないし粒子(電子、イオン、中性粒子など)は、窓を通して室温の粒子源から検出器に導かれる。
【0003】
窓は、極低温部の冷却能力を維持し、検出器の性能を損なわないよう、室温赤外線をできるだけ内部に入れないよう細心の注意を払って設計される。窓を通して大きな熱流入があると冷却装置の到達温度が制限される。また、窓を通した熱流入は、赤外線光子が媒介する。この光子に検出器が応答してしまうために、窓を通した熱流入は、検出器のS/N比を悪化させる。
【0004】
一般に、窓には金属薄膜、ガラス、プラスチックフィルムなどが用いられるが、粒子を検出する際や、特定波長の光子を検出する際には、窓材として物質を使用することができず、コリメーターが用いられる。
【0005】
単一の検出器を用いた場合、検出器の温度を保つため、2個のリフレクトロンを配置し、リフレクトロン全体を冷却して、極低温環境への熱流入を抑えていた(下記非特許文献1参照)。それほど冷却に注意を払わない場合でも、直径1mmのコリメーターを10cm程度の距離に配置する例が多い(下記非特許文献2、3参照)。
【0006】
複数の検出器を並べる場合にはさらに大きなスペースが必要となる。またコリメーターを用いた場合、検出器の性能は、コリメーターを用いない場合に比べて劣化する。
【非特許文献1】”Development of a superconducting-phase-transitionthermometer (SPT) for the application in a time-of-flight mass spectrometer(TOF-MS) for heavy-ion molecules”, Rutzinger et. al, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A, vol.520, pp625-627, 2004
【非特許文献2】”Impact energy measurement in time-of-flight massspectrometry with cryogenic microcalorimeter”, Hilton et. al, Nature, vol.391, pp672-676
【非特許文献3】”High-efficiency Detection of 66000 Da Protein Molecules Using a Cryogenic Detector in a Matrix-assisted Laser Desorption /Ionization Time-of-flight Mass Spectrometer”, Frank et. al, Rapid Communication in Mass Spectrometry, vol.10, pp1946-1950, 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、コリメーターのサイズを縮小して極低温検出器をより使いやすいものとし、検出器の性能を向上させるものである。近年の検出器技術の進展によって検出器サイズが拡大してきているため、コリメーターのサイズは、巨大化する傾向にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、微細なハニカムコリメーター(図1)と金属メッシュ(図2)を用いたコンパクトな熱シールドである。
【0009】
多数のセルから成るハニカム構造体を用いて窓を分割することにより、分割数に応じてコリメーターの長さを短くすることができる。ハニカム構造体には、セラミック、金属またはグラファイトを用いる。各セルの内面をカーボンブラックやネクテルブラックなど黒色の艶消し塗料で塗装する。塗装を施すことにより、赤外線がハニカムの壁を透過することや、赤外線が壁で散乱・反射されることを防ぎ、冷却装置内部への赤外線の流入を減少させることができる。ハニカムにグラファイトを用いる場合、塗装は必要ない。
【0010】
コリメーターを用いても赤外線は、検出器に入射し、検出器の性能を悪化させる。コリメーターとともに金属メッシュを用いることにより、検出器に入射する赤外線を反射し、メッシュを使用しない場合に比べて入射する赤外線を1%程度まで減少させることができる。
【0011】
金属メッシュの構造は、波長10ミクロン近傍の常温の黒体輻射を効率よく反射するため、ピッチを5ミクロン以下とする(図2)。
【0012】
ハニカムコリメーターと金属メッシュは、必要に応じて片方だけでもよい。金属メッシュは、例えば、ピンホール型のコリメーターと組み合わせても機能する。このようにして構成した熱シールドは、奥行き10mm程度のスペースに収めることができる。また金属メッシュを用いることにより検出器に入射する赤外線が大幅にカットされ、検出器本来の性能が発揮できるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本願発明を用いることにより、極低温への熱流入量を抑制し、極低温検出器を動作せるために必要な熱シールドに使用する空間を著しく小さくすること、検出器の性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明を実施するための最良の形態を以下に示す。
【実施例1】
【0015】
図3には、粒子源にMALDI(Matrix-assisted Laser Desorption / Ionization)を使用し、超伝導検出器を取り付けた例を示す。粒子源で発生し、加速されたイオンは、飛行管(反応チャンバー)4、ハニカムコリメーター6、金属メッシュ7を通り超伝導検出器9に入射する。Φ10mm、ピッチ1mm、長さ10mmの黒く塗装したハニカムコリメーター6を用いることで、該コリメーター6を通して内部に侵入する熱を200〜300μWにすることができる。
【0016】
金属メッシュ7は、ハニカムコリメーター6を通過した、ほぼ直入射の赤外線を効率よく反射する。該メッシュ7を通して内部に到達する熱量は、1%程度(図4)であり、冷却装置への熱負荷は、2μW程度になる。波長10ミクロン近傍の室温黒体放射は、ほとんど金属メッシュを透過しないことがわかる。穴径と穴ピッチから幾何学的に決まる粒子の透過率は、25%程度で、実測でも20%程度のイオンは、透過する。材質は、銅のほか、アルミ、金、ニッケル、タングステン等の電気伝導率が高いものがよい。
【実施例2】
【0017】
図5には、粒子源に質量分析装置を用い、金属メッシュ7、コリメーター14、超伝導検出器9を取り付けた例を示す。質量分析部12において、単一のm/zをもつ粒子だけが選別される。質量分析部12には、Q−MASS、ウィーンフィルター、磁気スペクトロメーター、静電スペクトロメーター等のあらゆる質量分析装置が使用できる。
【0018】
質量分析部12を通過した粒子は、飛行管(反応チャンバー)4に入射する。反応チャンバー4から出た粒子は、金属メッシュ7、コリメーター14を通過して超伝導検出器9に入射する。各装置の壁面から放射される赤外線光子は、金属メッシュ7で反射され、コリメーター14で視野角を制限されて、冷却装置、および超伝導検出器9にはほとんど届かない。
【0019】
図6に、3keVに加速されたAr+イオンを入射させたときの検出器の応答を示す。横軸は波高値、縦軸はカウント数である。破線が金属メッシュを利用した場合であり、実線が金属メッシュを利用しない場合である。金属メッシュを利用したことにより、エネルギー測定精度が向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ハニカムコリメーターの模式図。ハニカム上に多数の穴が開いている。穴のサイズは1mm程度、穴のピッチともに1mm程度。
【図2】金属メッシュの模式図。穴ピッチは5ミクロン以下とする。穴の大きさはできるだけ大きくする。穴形状は円形、四角、六角形、三角形など、平面を密に埋めることができるものとする。
【図3】粒子源にMALDIを使用した場合の実施例
【図4】穴径2μm、穴ピッチ3.5μm、厚さ0.5μmのCu製金属メッシュの分光透過率。
【図5】粒子源に質量分析装置を使用した場合の実施例
【図6】3keVに加速されたAr+イオンを入射させたときの検出器の応答。
【符号の説明】
【0021】
1 サンプル
2 レーザー
3 加速電極
4 飛行管(反応チャンバー)
5 シャッター
6 ハニカムコリメーター
7 金属メッシュ
8 4K輻射シールド
9 超伝導検出器
10 0.4Kステージ
11 イオン源
12 質量分析部
13 イオンが通る経路
14 コリメーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱シールドであって、多数のセルからなる微細ハニカム構造を有し、各セルの内面を黒くすることにより赤外線を吸収及びコリメートするハニカムコリメーターから成ることを特徴とする熱シールド。
【請求項2】
請求項1に記載の熱シールドにおいて、上記ハニカムコリメーターは、セラミック又は金属により形成されていることを特徴とする熱シールド。
【請求項3】
熱シールドであって、室温赤外線は、反射させ、粒子又は短波長光子は、透過させるように、5μm以下のピッチを有する金属メッシュから成ることを特徴とする熱シールド。
【請求項4】
熱シールドであって、多数のセルからなる微細ハニカム構造を有し、各セルの内面を黒くしたハニカムコリメータ及び5μm以下のピッチを有する金属メッシュから成ることを特徴とする熱シールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−20039(P2009−20039A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184130(P2007−184130)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人科学技術振興機構委託研究「質量分析用超高感度粒子検出技術」産業活力再生特別措置法30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】