説明

熱亀裂が防止されたゼオライト分離膜及びその製造方法

【課題】
熱亀裂が防止されたゼオライト分離膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
アルミナ系原料、シリカ系原料、水酸化ナトリウムを水に溶かして水溶液を用意する段階と、水溶液を撹拌して水熱溶液を用意する段階と、ゼオライト粉体の湿式振動粉砕及び遠心分離を通して種結晶スラリーを用意する段階と、種結晶を真空ろ過法で前記支持体に通過させ、種結晶を支持体の表面に付着し、支持体の表面から深さが3μmになる領域から支持体全体の厚さの50%になる領域にまで付着する段階と、水熱溶液を水熱反応器に入れ、種結晶が付着された支持体を水熱溶液に浸して水熱処理を行い、支持体の表面だけでなく、支持体の内部にまで緻密なゼオライト分離層を成長させる段階とを提供することによって、ゼオライト分離層の熱亀裂が抑制され、加熱工程と加熱された目的工程温度で安定的かつ優れた分離性能を有するゼオライト分離膜を製造できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱亀裂が防止されたゼオライト分離膜及びその製造方法に関するもので、ゼオライト分離膜の熱亀裂現象を防止し、ゼオライト分離膜に安定的かつ優れた分離性能を持たせる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、結晶構造内に数〜数十Åの直径を有する均一なマイクロ又はメソ気孔が周期的に配列される物質であって、代表的なゼオライト物質はアルミノケイ酸塩(Aluminosilicate)物質である。
【0003】
アルミノケイ酸塩系ゼオライトは、SiO2の一部がAl23に置換された物質であって、電気中性を維持するために置換されたAl23のモル数の2倍に該当するNaイオンのモル数を含む物質である。
【0004】
例えば、NaAゼオライトは、結晶構造内に4Åの直系を有する均一なマイクロ気孔が三次元的に周期的に配列されるアルミノケイ酸塩鉱物であって、SiO2がSiO2のモル数の1/2に該当するモル数のAl23に置換された物質であって、電気中性を維持するために置換されたAl23のモル数の2倍に該当するNaイオンのモル数を含む物質である。
【0005】
このようなゼオライトは、産業的に触媒、吸着剤及びイオン交換剤などに広く使用されている。
【0006】
最近、板状又は管状多孔性セラミック、又は金属支持体の表面に薄膜状のゼオライト分離層を導入することによってゼオライト分離膜を製造している。
【0007】
このとき、ゼオライト分離層は緻密でなければならなく、ゼオライト分離膜は、ピンホール及び亀裂などの欠陥がないときに優れた分離性能を発揮する。
【0008】
このようなゼオライト分離膜は、エネルギー、環境、化学、生命医学分野などで有効物質の分離工程に使用されたり、触媒との混成化によって有効物質の合成を増進させる膜反応工程に使用されており、その活用頻度及び活用範囲が増加しながら多くの注目を受けている。
【0009】
現在まで製造されたゼオライト分離膜としては、LTA、MFI、FAUゼオライト分離膜が代表的であって、これらは、それぞれ直径が4Å、5.5Å、7.4Åであるマイクロ気孔を有する。
【0010】
特に、LTAゼオライト分離膜の一つであるNaAゼオライト分離膜とFAUゼオライト分離膜の一つであるNaYゼオライト分離膜は、均一なマイクロ気孔及び高い極性を有するので、現在、水/非極性溶媒の分離、極性/非極性溶媒の分離などの溶媒の分離に優れた性能を有することが報告されている。
【0011】
また、これらは、CO2、H2、SF6回収などと関連した気体分離とメタノール合成、CO選択酸化膜反応などに活用されると予想される物質である。
【0012】
しかし、NaA、NaYゼオライト分離層が温度増加時に収縮する性質を有する一方、その支持体として活用される多孔性セラミック又は金属支持体は、温度増加時に膨張する性質を有しているので、ゼオライト分離膜を目的工程温度に増加させる場合、ゼオライト分離層に熱亀裂が発生する傾向がある。したがって、熱亀裂が防止されたゼオライト分離膜及びその製造方法は、ゼオライト分離膜分野において最も重要な技術の一つとして認識されている。
【0013】
これまで知られたNaA、NaYゼオライト分離膜は、NaA、NaYゼオライト種結晶を多孔性支持体の表面に付着した後、アルミナ系原料、シリカ系原料及び水酸化ナトリウムを水に溶解・撹拌してなる水熱溶液に浸し、水熱処理することによって製造される。
【0014】
すなわち、従来技術に係るNaA、NaYゼオライト分離膜は、多孔性支持体の平均気孔径より大きいゼオライト種結晶を支持体の表面部に付着した後、この支持体を水熱溶液に浸し、水熱処理することによって製造される。
【0015】
図1は、従来技術に係るゼオライト分離膜の破面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【0016】
図1を参照すれば、最下部に支持体が現れ、最上部に純粋なゼオライト分離層が形成されることがわかる。
【0017】
このように形成されたゼオライト分離膜は、一般に常温以上の工程温度で使用されるので、加熱工程がどうしても必要であって、この加熱工程中にゼオライト分離層に熱亀裂が発生しやすい。その原因は、下記の図面を参照して説明することにする。
【0018】
図2及び図3は、従来技術に係るゼオライト種結晶のコーティング状態と製造されたゼオライト分離膜を示した断面図である。
【0019】
図2を参照すれば、支持体10の表面にゼオライト種結晶20を付着した後、水熱処理を行うことによって、図3に示すようなゼオライト分離層30を形成する。
【0020】
図3を参照すれば、ゼオライト分離膜を適用するための加熱工程で支持体10は膨張しようとし、ゼオライト分離層30は収縮しようとする特性が発生する。
【0021】
したがって、究極的に、支持体10には圧縮応力が発生し、分離層30には引張応力が発生するので、ゼオライト分離膜を加熱する場合、ゼオライト分離層30で熱亀裂が発生するようになる。
【0022】
図4及び図5は、従来技術に係るNaAゼオライト分離膜の亀裂発生を示した走査電子顕微鏡写真である。
【0023】
図4を参照すれば、ゼオライト分離層に垂直方向に長く熱亀裂が発生したことが分かり、図5は、これを拡大した写真である。
【0024】
上述したように、ゼオライト分離膜の目的工程温度のほとんどが常温より高い温度であるので、加熱工程がどうしても必要であって、加熱工程時にゼオライト分離層に熱亀裂が発生するおそれがあるが、これに対する解決策は未だにない状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、ゼオライト分離膜の製造において、1〜10μmサイズの直径を有するゼオライト粉体の湿式振動粉砕及び遠心分離を通してナノサイズのゼオライト種結晶を製造した後、これを支持体に付着して使用する方式を提供する。すなわち、支持体の平均気孔径が種結晶の平均直径より大きいという点を使用し、支持体の表面だけでなく、支持体の内部、すなわち、支持体の50%になる厚さにまでゼオライト種結晶を付着することによって、ゼオライト分離層の熱亀裂発生を抑制できるとともに、加熱工程による目的工程温度で安定的に分離性能を発現できるようにする熱亀裂が防止されたゼオライト分離膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明に係る熱亀裂が防止されたゼオライト分離膜の製造方法は、ゼオライト種結晶を支持体に付着し、前記支持体を水熱処理してゼオライト分離層を成長させることによって、ゼオライト分離膜を製造する方法において、前記種結晶を支持体の表面及び支持体の内部にまで浸透させて付着した後、水熱溶液を水熱反応器に入れ、前記種結晶が付着された支持体を水熱溶液に浸し、水熱処理を通して前記支持体の表面及び前記支持体の内部にまでゼオライト分離層を成長させることによって、前記ゼオライト分離層に発生する熱亀裂を防止することを特徴とする。
【0027】
ここで、前記種結晶は、前記支持体の表面から3μmの位置から、前記支持体の総厚さの50%にまで浸透させて付着することを特徴とする。
【0028】
そして、前記ゼオライト分離層は、加熱時に収縮性を有することを特徴とする。
【0029】
以下、これについての具体的な一例としてNaAゼオライト分離膜の製造方法を詳細に説明する。
【0030】
前記水熱溶液は、アルミナ系原料、シリカ系原料及び水酸化ナトリウムが水に溶解されて撹拌されたことを特徴とする。このとき、前記アルミナ系原料は、 アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、コロイダルアルミナ、アルミナ粉末及びアルミニウムアルコキシドのうち一つを含むことを特徴とし、前記シリカ系原料は、水ガラス、ケイ酸ナトリウム、シリカ粉末、コロイダルシリカ及びシリコンアルコキシドのうち一つ以上を含むことを特徴とする。
【0031】
また、前記シリカ系原料の添加量は、シリカ(SiO2)によって換算したモル量が前記アルミナ系原料をアルミナ(Al23)によって換算したモル量の1〜3倍であることを特徴とし、前記水酸化ナトリウムの添加量は、前記水酸化ナトリウムを酸化ナトリウム(Na2O)によって換算したモル量と、前記アルミナ系原料及びシリカ系原料内に含まれた酸化ナトリウム(Na2O)のモル量との和が前記アルミナ系原料をアルミナ(Al23)によって換算したモル量の2〜6倍であることを特徴とし、前記水熱溶液内の水(H2O)のモル量は、前記アルミナ系原料をアルミナ(Al23)によって換算したモル量の400〜800倍であることを特徴とする。
【0032】
また、前記水熱溶液を製造するのは、前記アルミナ系原料、前記シリカ系原料及び水酸化ナトリウムを水に溶解して水溶液を製造し、前記水溶液を20〜80℃の温度で30分間〜48時間撹拌することによって行われることを特徴とする。
【0033】
次に、前記種結晶は、ゼオライト粉体の湿式振動粉砕及び遠心分離を通して製造することを特徴とする。このとき、前記ゼオライト粉体は1〜10μmの直径を有することを特徴とする。
【0034】
また、前記種結晶は、100〜300nmの直径を有することを特徴とし、前記種結晶は、水の全重量に対して0.0005〜0.005重量%だけ添加された種結晶スラリー状で前記支持体に付着されることを特徴とし、前記種結晶スラリーは、真空ろ過法で前記支持体に付着されることを特徴とし、前記真空ろ過法は、1〜300torrの圧力で1〜60分間行うことを特徴とする。
【0035】
また、前記湿式振動粉砕は、セラミックボールを用いて200〜900cycles/minの速度で1〜48時間行われることを特徴とし、前記遠心分離は、1,000〜15,000rpmの速度で1〜60分間行われることを特徴とする。
【0036】
その次に、前記支持体は、0.5〜2μmの気孔径を有する多孔性セラミック又は多孔性金属であることを特徴とする。
【0037】
その次に、前記水熱処理は、70〜140℃の温度で12〜48時間行うことを特徴とする。
【0038】
その次に、前記ゼオライト分離層は、支持体の表面及び支持体の内部にまで浸透されて形成されたことを特徴とし、前記ゼオライト分離層は、前記支持体の表面から少なくとも3μm以上浸透され、前記支持体の総厚さの50%にまで浸透されて形成されることを特徴とする。
【0039】
さらに、本発明に係るゼオライト分離膜は、上述した方法で製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係るゼオライト分離膜の製造方法は、ナノサイズのゼオライト種結晶を使用し、ゼオライト種結晶が支持体の内部にまで付着された状態でゼオライト分離層を支持体の内部にまで形成することによって、ゼオライト分離層に発生する熱亀裂現象を減少させることができる。
【0041】
したがって、ゼオライト分離膜は、使用目的の工程温度に加熱するとき、又は使用目的の工程温度で安定かつ優れた分離性能を持続的に発現することができる。
【0042】
さらに、本発明に係るゼオライト分離膜の製造方法によれば、ナノサイズのゼオライト種結晶を湿式振動粉砕及び遠心分離方法で得るので、既存のナノサイズのゼオライト種結晶を合成して製造する方法に比べて製造単価を節減させることができ、製造時間の短縮及び製造信頼性の向上をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】従来技術に係るNaAゼオライト分離膜の破面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図2】従来技術に係るゼオライト種結晶のコーティング状態と製造されたゼオライト分離膜を示した断面図である。
【図3】従来技術に係るゼオライト種結晶のコーティング状態と製造されたゼオライト分離膜を示した断面図である。
【図4】従来技術に係るNaAゼオライト分離層の熱亀裂発生を示した走査電子顕微鏡写真である。
【図5】従来技術に係るNaAゼオライト分離層の熱亀裂発生を示した走査電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明に係るゼオライト種結晶のコーティング状態と製造されたゼオライト分離膜を示した断面図である。
【図7】本発明に係るゼオライト種結晶のコーティング状態と製造されたゼオライト分離膜を示した断面図である。
【図8】本発明によって製造されたナノサイズのNaAゼオライト種結晶に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実施例1に使用された支持体の破面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図10】本発明の比較例1に使用された支持体の表面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例1と比較例1に使用されたNaAゼオライト種結晶の粒径分布と支持体の気孔径分布を示したグラフである。
【図12】本発明の実施例1によって製造されたNaAゼオライト分離膜の破面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図13】本発明の比較例1によって製造されたNaAゼオライト分離膜の破面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図14】本発明の実施例1によって製造されたNaAゼオライト分離膜の150℃での熱衝撃実験後に得られた破面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図15】本発明の比較例1によって製造されたNaAゼオライト分離膜の150℃での熱衝撃実験後に得られた破面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【図16】本発明の実施例1によって製造されたNaAゼオライト分離膜を用いて70℃で95wt%エタノール―5wt%水の混合物質から水を分離するときの時間による水/エタノール分離係数を示したグラフである。
【図17】本発明の実施例1によって製造されたNaAゼオライト分離膜を用いて70℃で95wt%エタノール―5wt%水の混合物質から水を分離するときの時間による総透過流束を示したグラフである。
【図18】本発明の比較例1によって製造されたNaAゼオライト分離膜を用いて70℃で95wt%エタノール―5wt%水の混合物質から水を分離するときの時間による水/エタノール分離係数を示したグラフである。
【図19】本発明の比較例1によって製造されたNaAゼオライト分離膜を用いて70℃で95wt%エタノール―5wt%水の混合物質から水を分離するときの時間による総透過流束を示したグラフである。
【図20】本発明の実施例1によって製造された常温のNaAゼオライト分離膜に様々な温度で既に加熱された50%エタノール―50wt%水の混合物質を急速に流しながら、時間による水/エタノール分離係数と総透過流束を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の利点と特徴及びそれらを達成する方法は、添付の図面と共に詳細に説明する実施例を参照すれば明確になるだろう。しかし、本発明は、以下で開示する実施例に限定されるものでなく、互いに異なる多様な形態で具現可能である。ただし、本実施例は、本発明を完全に開示し、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるもので、本発明は、特許請求の範囲の範疇によって定義されるものに過ぎない。明細書全般にわたって同一の参照符号は、同一の構成要素を示す。
【0045】
まず、ゼオライト分離膜の製造方法について簡略に説明する。水ガラス、アルミン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムを水(H2O)に溶かして水溶液状態に製造した後、撹拌工程を行うことによって水熱溶液を形成する。
【0046】
次に、多孔性支持体にゼオライト種結晶を付着する。
【0047】
次に、水熱溶液が提供された水熱合成器内に種結晶が付着された多孔性支持体を入れ、水熱処理を通して支持体の表面にゼオライト分離層を形成することによって、支持体とゼオライト分離層とが結合された形態のゼオライト分離膜を合成する。
【0048】
図6及び図7は、本発明に係るゼオライト種結晶のコーティング状態と製造されたゼオライト分離膜を示した断面図である。
【0049】
まず、図6を参照すれば、ゼオライト分離膜の製造のための原料として、シリカ系原料のうち一つである水ガラス、アルミナ系原料のうち一つであるアルミン酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを水に溶かして水溶液を用意した後、撹拌及び熟成工程を行うことによって水熱溶液を形成する。
【0050】
次に、多孔性支持体100の表面及び内部にまでNaAゼオライト種結晶120を付着する。このとき、種結晶120が支持体100の表面から最下3μmの厚さになる位置から、支持体全体の厚さの50%になる領域にまで付着することが望ましい。
【0051】
ここで、支持体100全体の厚さの3μm未満の厚さで種結晶120が付着される場合、製造されたゼオライト分離膜のゼオライト分離層が支持体の表面部に集中的に形成されるので、熱亀裂を防止することができない。一方、 支持体100全体の50%を超える厚さにまで種結晶120が付着される場合、ゼオライト分離層が厚くなり、優れた分離性能、特に、優れた透過速度を得ることができない。
【0052】
さらに、本発明では、少なくとも100μm以上の厚さを有する支持体を使用するので、種結晶が付着される支持体の最大の厚さは少なくとも50μm以上になる。
【0053】
すなわち、支持体が200μmの厚さを有する場合、種結晶の付着のための上限厚さが100μmになり、1000μmの厚さを有する支持体を使用する場合、種結晶の付着のための上限厚さが500μmになる。
【0054】
ここで、「支持体の厚さ」は、図示したバー状の支持体100の総高さをいい、図示したバー状の支持体100の線幅を意味するのではない。すなわち、本図面では、支持体を所定の線幅を有する形態で誇張して示したが、実際の形態は、気孔が三次元的に互いに連結された構造であって、多孔性構造体と見なければならない。したがって、支持体の表面及び内部という表現は、例えば、スポンジに水が染み込む形態に対応する意味に理解することが望ましい。
【0055】
次に、図7を参照すれば、水熱溶液が提供された水熱合成器内に種結晶が付着された多孔性支持体を入れ、水熱処理を通して支持体の表面100にゼオライト分離層を形成することによってゼオライト分離膜130を合成する。
【0056】
このとき、支持体100の内部にもゼオライト分離層が形成されることによって、各支持体100間の領域で発生する圧縮応力がゼオライト分離層内部の引張応力によって緩衝されていることが分かる。
【0057】
したがって、図3を参照して説明しているゼオライト分離膜と比較するとき、加熱工程中に発生する熱亀裂が防止され、ゼオライト分離膜が安定していることが分かる。
【0058】
上述したように、本発明に係るゼオライト分離膜の製造方法は、加熱時に収縮性を有するNaY、NaAなどのゼオライト分離膜において、熱亀裂の防止のための手段として容易に適用される。
【0059】
以下では、その具体的な一例としてNaAゼオライト分離膜の製造方法を詳細に説明するが、本発明がこれに制限されるわけではない。
【0060】
ここで、水熱溶液を形成するための原料として、アルミナ系原料は、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、コロイダルアルミナ、アルミナ粉末及びアルミニウムアルコキシドのうち一つ以上の形態で使用することができる。
【0061】
そして、シリカ系原料は、水ガラス、ケイ酸ナトリウム、シリカ粉末、コロイダルシリカ、シリコンアルコキシドのうち一つ以上の形態で使用することができる。
【0062】
このとき、シリカ系原料の酸化ケイ素(SiO2)とアルミナ系原料の酸化アルミニウム(Al23)のSiO2/Al23のモル比は、目的とするNaAゼオライトの組成によって適宜決定されるが、1〜3であることが望ましく、2であることがより望ましい。すなわち、シリカ系原料の添加量は、シリカ(SiO2)によって換算したモル量がアルミナ系原料をアルミナ(Al23)によって換算したモル量の1〜3倍であることが望ましい。前記モル比が1未満である場合、Naゼオライト分離層の形成が難しくなり、分離膜の性能が低下するおそれがある。一方、前記モル比が3を超える場合、Naゼオライト分離層の形成が難しくなり、分離層に亀裂が発生するので、分離膜の性能が低下するおそれがある。
【0063】
次に、水熱溶液中の酸化ナトリウム(Na2O)は、水酸化ナトリウム(NaOH)、シリカ系原料及びアルミナ系原料内に含まれた酸化ナトリウム(Na2O)によって決定され、水熱溶液中の酸化ナトリウム(Na2O)と酸化アルミニウム(Al23)のNa2O/Al23のモル比は、目的とするゼオライトの組成によって適宜決定されるが、2〜6であることが望ましく、4.5であることがより望ましい。
【0064】
すなわち、前記水酸化ナトリウムの添加量は、酸化ナトリウム(Na2O)によって換算したモル量と、前記アルミナ系原料及びシリカ系原料内に含まれた酸化ナトリウム(Na2O)のモル量との総和が前記アルミナ系原料をアルミナ(Al23)によって換算したモル量の2〜6倍であることが望ましい。
【0065】
ここで、前記モル量が2倍未満で添加される場合、NaAゼオライト分離層の形成が難しくなり、分離膜性能が低下するおそれがある。一方、前記モル量が6倍を超えて添加される場合、分離層の厚さが厚くかつ不均質になり、分離性能が低下するおそれがある。
【0066】
一方、水熱溶液中の水(H2O)は、シリカ系原料、アルミナ系原料及び水酸化ナトリウムの水溶液内に含まれた水(H2O)によって決定され、水熱溶液中の水(H2O)と酸化アルミニウム(Al23)のH2O/Al23のモル比は、目的とするNaAゼオライトの組成によって適宜決定されるが、400〜800であることが望ましく、600であることがより望ましい。
【0067】
次に、水溶液を撹拌して水熱溶液を製造する段階では、水溶液を20〜80℃の温度で30分間〜48時間撹拌して水熱溶液を製造することが望ましい。水溶液が20℃未満の温度で30分未満で維持された場合、ゼオライト分離膜の分離性能が低下するおそれがあり、水溶液が80℃を超える温度で48時間以上維持された場合、均一なゼオライト分離膜を得ることができない。
【0068】
その次に、支持体としては、100〜300nmのゼオライト種結晶が支持体の表面に付着されたものを使用する。ここで、支持体にゼオライト種結晶を付着する理由は、ゼオライト結晶を主に支持体上で成長させる方式でコーティングするためである。
【0069】
したがって、100nm未満の種結晶は、過度に小さい粒子サイズにより、多孔性支持体に付着されずに通過してしまう現象が発生し、付着効果を得るには不十分である。また、種結晶が300nmを超える場合、支持体の表面に付着されるが、その均一性が低いので、緻密かつ均一なゼオライト分離層が形成されにくく、かつ、支持体の表面部にゼオライト分離層が形成されるので、熱亀裂が発生しやすい。
【0070】
その次に、種結晶を付着しようとする支持体は、多孔性セラミックス又は多孔性金属から選択された何れか一つになる。セラミックスとしては、ムライト、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、シリコンカーバイドなどの材料が使用され、金属としては、ステンレススチール、焼結されたニッケル、焼結されたニッケルと鉄の混合物が使用される。支持体の材料としては、液体中で溶出しにくい点でセラミックスが望ましく、そのうちアルミナがより望ましい。
【0071】
ここで、種結晶を付着しようとする支持体の平均気孔径は0.5〜2μmであることが望ましい。平均気孔径が0.5μm未満であれば、100〜300nmの粒径を有する種結晶が多孔質支持体の細孔内に付着しにくくなり、支持体に形成されるゼオライト分離層に熱亀裂が発生するという問題がある。
【0072】
一方、平均気孔径が2μmを超えれば、種結晶が支持体の表面及び内部に付着されずに通過してしまう現象が発生し、ピンホールなどの欠陥のないゼオライト分離層の形成が難しくなる。
【0073】
また、種結晶を付着しようとする支持体の気孔率は、20〜50%であることが望ましく、35〜45%であることがより望ましい。気孔率が20%未満であれば、透過速度が減少し、透過流束が低下する傾向がある。一方、気孔率が50%を超えれば、支持体の自己支持性(機械的強度)が低下する傾向がある。したがって、気孔率が35〜45%であれば、透過流束と機械的強度が十分に高いゼオライト分離膜を得ることが可能になる。
【0074】
また、上述したように、種結晶を付着しようとする支持体の形状としては、管状、中空糸状、板状、マルチ管モノリス状、ハニカム状(蜂の巣状)、ペレット状などがある。このような形状は、NaAゼオライト分離膜の用途と処理容量によって適宜決定することができる。
【0075】
次に、ゼオライト種結晶は、1〜10μmのNaAゼオライト粉体の湿式振動粉砕及び遠心分離を通して100〜300nmの直径を有して製造されることが望ましい。種結晶の平均直径が100nm未満であれば、種結晶が多孔性支持体の表面及び内部に付着される量が少ないので、均一でかつ目的とする厚さのNaAゼオライト分離層を確保することが難しく、平均種結晶の直径が300nmを超えれば、支持体の表面に種結晶が過度に付着され、支持体に形成されるNaAゼオライト分離層において、剥離又は不均一の問題と熱亀裂が発生する。
【0076】
ここで、種結晶を製造するための湿式振動粉砕は、1〜10μmの直径を有するNaAゼオライト粉体をセラミックボール、水と共に振動粉砕容器に入れ、200〜900cycles/minの速度で1〜48時間行うことが望ましく、500cycles/minの速度で24時間行うことがより望ましい。このとき、NaAゼオライト粉体:セラミックボール: 水の重量比は、1: 90: 20であることが望ましく、本発明では、バッチサイズを水20mlに固定した。
【0077】
また、セラミックボールとしては、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、ジルコニアなどが使用可能であるが、ゼオライト成分のうち一つであるアルミナボールを用いることが望ましく、アルミナボールの直径は1mm前後であることが望ましい。
【0078】
また、種結晶を製造するための遠心分離は1000〜15000rpmの速度で1〜60分間行うことが望ましく、6000rpmで10分間行うことがより望ましい。遠心分離の目的は、前記湿式振動粉砕によって得られた高農度スラリー内の相対的に大きい粒子を分別して除去することである。したがって、遠心分離後に得られた種結晶は、よく分散された状態であって、その後の使用目的で総体積が200mlになるように水で希釈して保管する。このとき、種結晶保管スラリー中の種結晶の重量%は0.1重量%である。
【0079】
次に、支持体に種結晶を付着する工程は、ディップコート法(支持体を種結晶に浸漬する方法)、スプレーコート法(種結晶を多孔質支持体にスプレーで噴霧する方法)、ろ過法(種結晶を多孔質支持体に通過させる方法)などが望ましいが、真空ろ過法(種結晶を多孔質支持体に真空をかけて通過させる方法)を使用することがより望ましい。
【0080】
ここで、真空ろ過工程中に使用される種結晶は、前記種結晶保管スラリーを再び水で希釈して製造された種結晶スラリー状であって、このときの種結晶の重量%は、水に投入する前記種結晶保管スラリーの量を変化させながら調節可能であるが、水の総重量に対して0.0005〜0.005重量%であることが望ましく、0.0026重量%であることがより望ましい。
【0081】
また、真空ろ過法による種結晶付着工程は、1〜300torrの真空部の圧力で1〜60分間行うことが望ましく、150torrの圧力で20分間行うことがより望ましい。
【0082】
また、ゼオライト種結晶を支持体に付着した後、支持体及びこれに付着した種結晶を乾燥させることが望ましい。支持体及びこれに付着した種結晶を乾燥させることによって、種結晶の付着状態をより強固にすることができる。次に、乾燥は、70〜120℃の温度で実施することが望ましい。
【0083】
次に、前記水熱処理は、70〜140℃の温度で12〜48時間行うことが望ましい。このとき、水熱溶液の温度が70℃未満であるか、水熱処理を行う時間が12時間未満である場合、NaAゼオライト分離膜が充分に形成されず、分離性能が低下するおそれがある。一方、水熱溶液の温度が140℃を超え、維持時間が48時間を超えれば、NaAゼオライト分離膜の表面に目的としないゼオライト相が形成されたり、分離膜の厚さが厚くなったり、表面部にゼオライト分離層が形成されるので、熱亀裂が発生し、分離性能が低下するおそれがある。
【0084】
本発明に係るNaAゼオライト分離膜は、上述した過程を経て容易に製造される。これまでには、1〜10μmサイズの比較的大きい種結晶を用いたり、高価な原料を使用し、精密に制御された工程でナノサイズの種結晶を製造することによってNaAゼオライト分離膜を製造した。
【0085】
その一方、本発明に係るNaAゼオライト分離膜は、信頼性のある廉価な単純工程でナノサイズのゼオライト種結晶をスラリー状に製造することができ、支持体全体の厚さの50%になる領域にまで種結晶を付着することによって、熱亀裂に強いNaAゼオライト分離膜を安定的に製造することができる。
【0086】
以下では、実施例及び比較例に基づいて本発明に係るNaAゼオライト分離膜についてより具体的に説明する。
【0087】
実施例1
水熱溶液原料として水ガラス、アルミン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム(NaOH)を水に溶かして水溶液を製造した後、28℃で24時間撹拌して水熱溶液を製造した。水熱溶液の総体積は500mlで、水熱溶液中のAl23、SiO2、Na2O、H2Oのモル数はそれぞれ1、2、4.5、600であった。
【0088】
1gのNaAゼオライト粉体に20gの水と90gの直径1mmのアルミナボールを用いて500cylces/minの速度で24時間湿式振動粉砕を行った後、6000rpmで10分間遠心分離を行い、これを200gの水に希釈することによって0.1重量%の種結晶保管スラリーを製作した。製作された種結晶保管スラリー4mlを抜粋して150gの水に希釈し、0.0026重量%の種結晶を製造した。製造された種結晶の平均粒径は0.15μm(150nm)で、その具体的な形状は図8に示す通りである。
【0089】
図8は、本発明によって製造されたナノサイズのゼオライト種結晶に対する走査電子顕微鏡写真である。
【0090】
図8を参照すれば、前記実施例1の150nmの平均直径を有する種結晶が備えられることが分かる。
【0091】
次に、前記種結晶は、外径7.8mm、内径5mm、長さ40cm、平均厚さ1,400μmのチューブ型Si−Al―Na―Oガラス支持体の外部表面から100μmの深さにまで付着し、種結晶付着時の内部圧力は150torrにし、維持時間は20分にし、100℃で12時間乾燥させることによって、最終的に種結晶が付着された支持体を製造した。このとき、使用された支持体の平均気孔径は0.65μmで、気孔率は42.3%で、その具体的な破面は図9に示す通りである。
【0092】
図9は、本発明の実施例1に使用された支持体の破面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【0093】
図9は、前記Si−Al―Na―Oガラス支持体の破面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【0094】
その次に、水熱溶液中の330mlの水熱溶液を容積400mlの水熱合成器に入れた状態で前記種結晶が付着された支持体を水熱溶液に浸し、水熱合成器を密封し、100℃で24時間水熱処理した後、水で5回以上洗浄して乾燥することによってNaAゼオライト分離膜を製造した。
【0095】
比較例1
前記実施例1と同一の工程で水熱溶液と種結晶を製造し、同一の方法で種結晶をコーティング・乾燥した後、支持体を水熱溶液に浸し、水熱処理及び洗浄乾燥を行うことによってNaAゼオライト分離膜を製造した。
【0096】
前記実施例1との差異点は、前記実施例1で使用された支持体と異なる支持体を使用した点にある。使用された支持体は、外径7.3mm、内径5mm、長さ40cm、平均厚さ750μmのチューブ型アルファ―アルミナ支持体であって、平均気孔径は0.12μmで、気孔率は33.6%であった。
【0097】
図10は、本発明の比較例1に使用された支持体の表面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【0098】
図10を参照すれば、アルファ―アルミナ支持体の表面の平均気孔径が本発明で薦める0.5μm未満に過度に小さく形成されており、結果的に種結晶が支持体の表面から3μm未満の深さまでしか付着されていない。
【0099】
このような事項は、図11を通して予測することができ、以下では、その具体的な事項を説明する。このとき、支持体の平均気孔径は、水銀ポロシメータを用いて測定し、種結晶の平均粒径は、レーザ散乱法を用いて評価した。
【0100】
図11を参照すれば、前記実施例1に使用された支持体の気孔径分布は(―●―)で表現されており、0.65μmの分布が最も高く示されることが分かる。
【0101】
次に、比較例1で使用された支持体の気孔径分布は(―○―)で表現されており、0.12μmの分布が最も高く示されることが分かる。
【0102】
そして、種結晶の粒径分布は(―■―)で表現されており、0.15μmの分布が最も高く示されることが分かる。
【0103】
したがって、比較例1によって製造されたゼオライト分離膜は、図13に示すように、ゼオライト分離層が支持体の表面部のみに集中的に形成されていることが分かる。これは、比較例1が従来技術による方法として代表されることを意味するが、その結果、図15に示すように、熱亀裂が発生したものと判断されるので、本発明に係る実施例1と対比されることが分かる。
【0104】
ここで、前記のような結果は、下記の評価方法によるもので、以下、前記実施例1及び比較例1によるNaAゼオライト分離膜に対する具体的な特性の評価方法及びその結果を説明する。
【0105】
[微細構造]
前記実施例1及び比較例1によるNaAゼオライト分離膜の微細構造は、その破断面を走査電子顕微鏡で観察することによって評価することができた。破断面の様相によって、形成されたNaAゼオライト分離層の位置と形状を判断することができる。
【0106】
[熱衝撃安定性]
前記実施例1及び比較例1によるNaAゼオライト分離膜の熱衝撃安定性は、常温のNaAゼオライト分離膜を予め150℃に加熱したオーブンに急激に導入した後、3時間維持して取り出し、分離膜表面の微細構造を走査電子顕微鏡で観察することによって熱亀裂の有無を確認・評価することができる。
【0107】
[分離係数]
前記実施例1及び比較例1によるゼオライト分離膜の分離性能は、分離係数によって評価することができる。分離係数は、例えば、水とエタノールを分離する場合、分離前の混合液中の水の濃度をA1モル%にし、エタノールの濃度をA2モル%にし、NaAゼオライト分離膜を透過した液体又は気体中の水の濃度をB1モル%にし、エタノールの濃度をB2モル%にすることによって、(B1/B2)/(A1/A2)で表される値である。
【0108】
分離係数が大きいほど、分離性能に優れていると判断することができ、分離膜に欠陥がないことを意味する。
【0109】
[透過流束]
前記実施例1及び比較例1によるゼオライト分離膜の水透過流束は、総透過流束と透過された物質の濃度から評価することができる。透過流束は、単位時間と単位面積に液体又は気体がNaAゼオライト分離膜を透過する量をいい、優れた分離係数を有しながら透過流束が大きいほど、実用性に優れていると判断することができる。
【0110】
ゼオライト分離膜に対する評価方法は、前記四つに分類することができ、まず、微細構造について説明する。
【0111】
図12は、本発明の実施例1によって製造されたゼオライト分離膜の破面に対する走査電子顕微鏡写真で、図13は、本発明の比較例1によって製造されたゼオライト分離膜の破面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【0112】
図12と図13を参照すれば、本発明に係る実施例1のゼオライト分離膜の場合、各支持体間の領域にもゼオライト分離層が成長されたが、比較例1によるゼオライト分離膜の場合、支持体の表面のみにゼオライト分離層が形成されることを確認することができる。すなわち、比較例1と本発明に係る実施例1のゼオライト分離膜の微細構造に明確な差が存在することを確認することができる。
【0113】
次に、前記実施例1と比較例1によって得られたNaAゼオライト分離膜の150℃での熱衝撃試験後に得たNaAゼオライト分離膜の表面に対する微細構造を説明する。
【0114】
図14は、本発明の実施例1によって製造されたゼオライト分離膜の150℃での熱衝撃実験後に得られた破面に対する走査電子顕微鏡写真で、図15は、本発明の比較例1によって製造されたゼオライト分離膜の150℃での熱衝撃実験後に得られた破面に対する走査電子顕微鏡写真である。
【0115】
図14と図15を参照すれば、実施例1に係るゼオライト分離膜の場合、熱衝撃試験後にもゼオライト分離層に熱亀裂が観察されないが、比較例1によるゼオライト分離膜の場合、ゼオライト分離層に熱亀裂が観察されることを確認することができる。すなわち、実施例1に係るゼオライト分離膜は、比較例1によるゼオライト分離膜に比べて熱衝撃抵抗性に優れていることを確認することができる。
【0116】
次に、図16は、本発明の実施例1によって製造されたゼオライト分離膜を用いて70℃で95wt%エタノール―5wt%水の混合物質から水を分離するときの時間による水/エタノール分離係数を示したグラフで、図17は、本発明の実施例1によって製造されたゼオライト分離膜を用いて70℃で95wt%エタノール―5wt%水の混合物質から水を分離するときの時間による総透過流束を示したグラフである。
【0117】
図16及び図17を参照すれば、水/エタノール分離係数は、評価時間によって増加する様相を示しており、ほとんどが1時間後に1000の値を示した。また、透過流束は、時間によって減少する様相を示しており、約0.1〜1kg/m2hrの値を示した。
【0118】
ここで、各線についての個別的な説明は、本発明で臨界的意義を有するものでないので、詳細な説明は省略し、その特性を全体的なパターンをもって把握することにする。また、同じ意味で、以下に示す各グラフの各線についての説明も省略する。
【0119】
次に、図18は、本発明の比較例1によって製造されたゼオライト分離膜を用いて70℃で95wt%エタノール―5wt%水の混合物質から水を分離するときの時間による水/エタノール分離係数を示したグラフで、図19は、本発明の比較例1によって製造されたゼオライト分離膜を用いて70℃で95wt%エタノール―5wt%水の混合物質から水を分離するときの時間による総透過流束を示したグラフである。
【0120】
図18及び図19を参照すれば、比較例1によって製造されたゼオライト分離膜は、ほとんどが約100以下の低い水/エタノール分離係数を有しており、一部が10000の高い分離係数を有していた。
【0121】
また、比較例1によって製造されたゼオライト分離膜の総透過流束は、そのほとんどが初期に1〜10kg/m2hrの値を示し、図18で10000付近の水/エタノール分離係数を示したゼオライト分離膜の場合、非常に低い0.1kg/m2hr以下の総透過流束を示した。
【0122】
さらに、70℃で1kg/m2hr以上の高い総透過流束を示し、約100以下の低い分離係数を有する試片を回収して微細構造を観察すれば、分離層によく発達した亀裂が存在することを確認することができ、これは、分離性能の評価のために70℃で加熱する工程で発生する熱亀裂によって現れる現象と判断された。
【0123】
上述した図14から図19までの結果から、本発明に係る実施例1のゼオライト分離膜の場合、従来技術といえる比較例1によるゼオライト分離膜の場合に比べて熱的安定性に優れていることを確認することができた。
【0124】
さらに、前記実施例1によって得られたゼオライト分離膜に対する様々な温度別分離係数と総透過流束を追加で実験し、その結果は以下の通りである。
【0125】
図20は、本発明の実施例1によって製造された常温のゼオライト分離膜に様々な温度で既に加熱された50%エタノール―50wt%水の混合物質を急速に流しながら、時間による水/エタノール分離係数と総透過流束を示したグラフである。
【0126】
すなわち、実験は、実施例1に係るゼオライト分離膜を常温で維持した状態で、既に目的温度に加熱された50wt%エタノール―50wt%水の混合物質を突然投入する方式で行った。
【0127】
その結果として、図20を参照すれば、実施例1に係るゼオライト分離膜の場合、134℃の温度では熱応力に耐えられずに熱亀裂が発生し、水/エタノール分離係数が急激に減少し、総透過流束が急激に増加する現象が発生した。
【0128】
これは、図16と図17に示した比較例1のNaAゼオライト分離膜と比較されるが、従来技術といえる比較例1の場合、70℃の低い温度でも熱亀裂が多く発生するが、実施例1に係るゼオライト分離膜は、約130℃まで安定していることを確認することができる。
【0129】
したがって、本発明に係るNaAゼオライト分離膜の製造方法は、熱亀裂が防止されたゼオライト分離膜を提供することができる。
【0130】
以上、本発明の一実施例を中心にして説明したが、当業者の水準で多様な変更や変形が可能である。このような変更と変形は、本発明の範囲を逸脱しない限り、本発明に属するものと言える。したがって、本発明の権利範囲は、以下に記載する特許請求の範囲によって判断されなければならない。
【符号の説明】
【0131】
100:支持体、120:種結晶、130:ゼオライト分離膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト種結晶を支持体に付着し、前記支持体を水熱処理してゼオライト分離層を成長させることによって、ゼオライト分離膜を製造する方法において、
前記種結晶を支持体の表面及び支持体の内部にまで浸透させて付着した後、水熱溶液を水熱反応器に入れ、前記種結晶が付着された支持体を水熱溶液に浸し、水熱処理を通して前記支持体の表面及び前記支持体の内部にまでゼオライト分離層を成長させることによって、前記ゼオライト分離層に発生する熱亀裂を防止することを特徴とするゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶は、前記支持体の表面から3μmの位置から、前記支持体の総厚さの50%にまで浸透させて付着することを特徴とする、請求項1に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記ゼオライト分離層は、加熱時に収縮性を有することを特徴とする、請求項1に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記水熱溶液は、アルミナ系原料、シリカ系原料及び水酸化ナトリウムが水に溶解されて撹拌されたことを特徴とする、請求項1に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記アルミナ系原料は、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、コロイダルアルミナ、アルミナ粉末及びアルミニウムアルコキシドのうち一つ以上を含むことを特徴とする、請求項4に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記シリカ系原料は、水ガラス、ケイ酸ナトリウム、シリカ粉末、コロイダルシリカ及びシリコンアルコキシドのうち一つ以上を含むことを特徴とする、請求項4に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記シリカ系原料の添加量は、シリカ(SiO2)によって換算したモル量が前記アルミナ系原料をアルミナ(Al23)によって換算したモル量の1〜3倍であることを特徴とする、請求項4に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記水酸化ナトリウムの添加量は、前記水酸化ナトリウムを酸化ナトリウム(Na2O)によって換算したモル量と、前記アルミナ系原料及びシリカ系原料内に含まれた酸化ナトリウム(Na2O)のモル量との和が前記アルミナ系原料をアルミナ(Al23)によって換算したモル量の2〜6倍であることを特徴とする、請求項4に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項9】
前記水熱溶液中の水(H2O)のモル量は、前記アルミナ系原料をアルミナ(Al23)によって換算したモル量の400〜800倍であることを特徴とする、請求項4に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項10】
前記水熱溶液を製造するのは、前記アルミナ系原料、前記シリカ系原料及び水酸化ナトリウムを水に溶解して水溶液を製造し、前記水溶液を20〜80℃の温度で30分間〜48時間撹拌することによって行われることを特徴とする、請求項4に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項11】
前記種結晶は、ゼオライト粉体の湿式振動粉砕及び遠心分離を通して製造することを特徴とする、請求項1に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項12】
前記ゼオライト粉体は1〜10μmの直径を有することを特徴とする、請求項11に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項13】
前記種結晶は100〜300nmの直径を有することを特徴とする、請求項11に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項14】
前記種結晶は、水の全重量に対して0.0005〜0.005重量%だけ添加された種結晶スラリー状で前記支持体に付着されることを特徴とする、請求項11に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項15】
前記種結晶スラリーは、真空ろ過法で前記支持体に付着されることを特徴とする、請求項14に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項16】
前記真空ろ過法は、1〜300torrの圧力で1〜60分間行うことを特徴とする、請求項15に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項17】
前記湿式振動粉砕は、セラミックボールを用いて200〜900cycles/minの速度で1〜48時間行われることを特徴とする、請求項11に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項18】
前記遠心分離は、1,000〜15,000rpmの速度で1〜60分間行われることを特徴とする、請求項11に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項19】
前記支持体は、0.5〜2μmの気孔径を有する多孔性セラミック又は多孔性金属であることを特徴とする、請求項1に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項20】
前記水熱処理は、70〜140℃の温度で12〜48時間行うことを特徴とする、請求項1に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項21】
前記ゼオライト分離層は、支持体の表面及び支持体の内部にまで浸透して形成されることを特徴とする、請求項1に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項22】
前記ゼオライト分離層は、前記支持体の表面から少なくとも3μm以上浸透され、前記支持体の総厚さの50%まで浸透されて形成されることを特徴とする、請求項21に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項23】
請求項1から請求項22のうちいずれか一つの方法で製造されたゼオライト分離膜。

【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−16688(P2012−16688A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165895(P2010−165895)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(502291252)韓国エネルギー技術研究院 (16)
【氏名又は名称原語表記】KOREA INSTITUTE OF ENERGY RESEARCH
【住所又は居所原語表記】71−2,Jang−dong,Yuseong−gu,Daejeon 305−343,Republic of Korea
【Fターム(参考)】