説明

熱交換プロセスの異常検知方法

【課題】熱媒体とプロセス流体との熱交換プロセスにおいて、熱媒体のプロセス流体流路内への漏洩を迅速かつ容易に検知することができる熱交換プロセスの異常検知方法を提供する。
【解決手段】熱媒体とプロセス流体との熱交換プロセスにおいて、硝酸塩および/または亜硝酸塩を含む溶融塩である熱媒体が分解して発生するガス成分、またはプロセス流体流路内に漏洩した前記熱媒体とプロセス流体とが接触することにより発生するガス成分をプロセス流体流路における気相部で検知する熱交換プロセスの異常検知方法である。前記プロセス流体としては、第二級アルコール類またはその脱水生成物があげられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱媒体とプロセス流体との熱交換プロセスにおける異常検知方法に関し、より詳しくは、硝酸塩または亜硝酸塩を含む溶融塩である熱媒体と第二級アルコール類またはその脱水生成物であるプロセス流体との熱交換プロセス(アルコール類の脱水反応プロセスを含む)における異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換プロセスでは、熱媒体として溶融塩や水等が使用され、この熱媒体とプロセス流体との熱交換によりプロセス流体の温度が所定の温度に調整される。例えば、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の混合物である溶融塩は、(1)熱伝達能力が優れている、(2)高温下でも化学的に非常に安定である、(3)温度制御が容易である等の性質を有している。このため、種々のプロセス流体を加熱または冷却するための高温用熱媒体として使用されている。
【0003】
しかしながら、熱交換プロセス中においては、腐食等により配管からプロセス流体流路内に熱媒体またはその分解ガス(NOX等)が漏洩することがある。一方、プロセス流体が熱媒体流路内に漏洩した場合に、熱媒体とプロセス流体とが接触し反応した時に発生するガス成分を熱媒体流路における気相部で検知する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この方法では、熱媒体がプロセス流体流路内に漏洩した場合には、検知できないため、爆発等の二次災害が発生する等の危険性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−83833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱媒体とプロセス流体との熱交換プロセスにおいて、熱媒体のプロセス流体流路内への漏洩を迅速に検知することができる熱交換プロセスの異常検知方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱交換プロセスの異常検知方法は、熱媒体とプロセス流体の熱交換を行う熱交換プロセスにおいて、熱媒体が分解して発生するガス成分、またはプロセス流体流路内に漏洩した熱媒体とプロセス流体とが接触することにより発生するガス成分をプロセス流体流路における気相部で検知することを特徴とする。これにより熱媒体の漏洩を迅速かつ容易に検知することができる。
【0007】
本発明方法は、前記熱媒体が硝酸塩および/または亜硝酸塩を含む溶融塩であり、前記プロセス流体は、第二級アルコール類またはその脱水生成物を含有し、発生するガス成分は窒素酸化物、CO、CO2および水素ガスのうち少なくとも一種を含むのがよい。特に、前記溶融塩が、亜硝酸塩と硝酸塩の混合物からなり、亜硝酸塩を20〜90重量%含み、融点が100℃〜200℃あるのが有効である。すなわち、熱媒体がNaNO2等の亜硝酸塩を含む溶融塩である場合、この熱媒体とプロセス流体との反応によって窒素酸化物、CO、CO2および水素ガスのうち少なくとも一種が発生するので、このガスを検知することで、プロセス流体の漏洩を迅速に検知することができる。
【0008】
本発明の装置は、熱媒体とプロセス流体の熱交換を行う熱交換プロセスにおける異常を検知する装置であって、プロセス流体が流れるプロセス流体流路と、熱媒体が流れる熱媒体流路と、前記プロセス流体流路内のプロセス流体と熱媒体流路内の熱媒体との間で熱交換を行う熱交換器と、前記プロセス流体流路内の気相部に設けられ、熱媒体が分解して発生するガス成分、またはプロセス流体流路内に漏洩した熱媒体とプロセス流体の接触によって発生するガス成分を検知するガス検知器とを備えたものである。
なお、本発明における「熱交換プロセス」とは、第二級アルコール類等の脱水反応プロセスをも含む概念である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱交換プロセスの異常検知方法によれば、熱媒体とプロセス流体の熱交換を行う熱交換プロセスにおいて、プロセス流体流路内に漏洩した熱媒体の分解によって発生するガス成分、または漏洩した熱媒体とプロセス流体とが接触することにより発生するガス成分を検知することによって、熱媒体の漏洩を迅速かつ容易に検知することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る熱交換プロセスの異常検知方法を示す概略図である。
【図2】本発明の実施例で用いた試験装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態である熱交換プロセスの異常検知方法を示す概略図である。
【0012】
図1に示すように、本発明の異常検知方法は、熱交換器1においてプロセス流体流路内に漏洩した熱媒体の分解ガス成分、またはプロセス流体流路内に漏洩した熱媒体がプロセス流体と接触することにより発生するガス成分をガス検知器4により検知するものである。ガス検知器4は、プロセス流体流路である配管11から分岐した配管3に設けられている。
【0013】
前記熱交換器1としては、プロセス流体と熱媒体とが管、平板等の隔壁を介して熱交換するものであれば特に限定されず、例えば隔壁式熱交換器である多管円筒型熱交換器、プレート式熱交換器、スパイラル熱交換器、ブロック熱交換器等が使用できる。熱交換器には、単に熱交換を行う熱交換器の他に、反応と共に熱交換を行う多管式触媒充填反応器等の反応器も含まれる。
【0014】
前記熱媒体としては、前記したように、溶融塩や水等が使用される。この溶融塩としては、少なくともNaNO2を20〜90重量%含む組成物であって、融点が約100〜200℃の範囲内にあるものが好ましい。溶融塩としてNaNO2、NaNO3およびKNO3からなる組成物を使用する場合、これらの各成分がそれぞれ20〜50重量%、5〜15重量%および45〜65重量%の範囲内にあるものがより好ましい。また、溶融塩としてNaNO2およびKNO3からなる組成物を使用する場合、これらの各成分がそれぞれ20〜90重量%および80〜10重量%の範囲内にあるものがより好ましい。具体的には、例えばNaNO2(40重量%)、NaNO3(7重量%)、KNO3(53重量%)からなる組成物(融点142℃)、NaNO2(34重量%)、NaNO3(13重量%)、KNO3(53重量%)からなる組成物(融点152℃)、NaNO2(50重量%)、KNO3(50重量%)からなる組成物(融点139℃)等が挙げられる。また、これらの溶融塩の凝固点を下げ、温度操作をしやすくするために水を添加して使用してもよい。
【0015】
前記プロセス流体としては、熱媒体がプロセス流体流路内に流入した際に、熱媒体と接触することによりガスを発生するおそれのあるものであり、プロセス流体流路内の気相部でそのガスが検知できるものであれば特に限定されず、例えば、その性状は固体、液体、気体のいずれであってもよいが、気体であるのが望ましい。
【0016】
熱媒体が前記溶融塩の場合、プロセス流体としては、例えば各種の第二級アルコール類またはその脱水生成物、具体的には、例えばメチルシクロヘキシルカルビノール(MCC)またはその脱水生成物であるシクロヘキシルエチレン(CHE)を含む第二級アルコール等が挙げられる。これらのプロセス流体は、溶融塩と接触することにより、窒素酸化物、CO、CO2および水素ガスが発生する。
【0017】
以下、熱媒体として溶融塩を使用し、プロセス流体として上記MCCを使用し、このMCCを脱水することによってCHEを生産する脱水反応プロセスについて詳しく説明する。
【0018】
すなわち、MCCは、配管2を通じて熱交換器1に導入され、熱交換器1(反応器)内で約300〜400℃の前記溶融塩と熱交換され、気相反応によりMCCからCHEへ脱水され、配管11および冷却器17を通って吸収塔12へ送られる。吸収塔12に入ったCHE溶液はポンプ15で循環され、一部は吸収液として使用され、一部はプロセスの下流に導かれる。
【0019】
プロセス流体と熱交換した溶融塩は、熱交換器1から排出され配管5を通って熱媒体タンク6へ送られる。この熱媒体タンク6内には所定量の溶融塩が貯蔵されており、液相部7(溶融塩)と気相部8とで構成されている。液相部7の溶融塩は、この溶融塩を加熱または冷却するための冷却器/加熱器10にポンプ9により送液され、加熱または冷却された後、再度熱交換器1に供給される。
【0020】
一般に前記した第二級アルコール類の脱水反応プロセスは、ほぼ大気圧下で行われるため、プロセス流体内の流路は、熱媒体流路よりも低圧に維持されている。そのため、上記熱交換プロセスにおける熱交換器1内でプロセス流体の流路(隔壁)に応力や腐食によって亀裂等が発生すると、溶融塩がMCC、CHE等を含むプロセス流体流路に漏洩し反応して、窒素酸化物、CO、CO2および水素ガスが発生する。さらに、溶融塩が熱分解して発生するガス成分(NOX等)もプロセス流体流路内に流入する可能性がある。
【0021】
これらのガス成分をガス検知器4によって検知することで、熱媒体の漏洩が早期に検知される。これにより、インターロックが作動し、熱交換器1内へのプロセス流体および溶融塩の供給が停止され、被害の拡大を未然に防止することができる。
【0022】
前記ガス検知器4としては、定電位電解式や赤外線式のNOX検知器、赤外線吸収式のCO/CO2検知器、接触燃焼式の水素検知器等が使用でき、具体的には、例えば新コスモス電機社製の定電位電解式NOX計、横河電機社製の赤外線ガス分析計、新コスモス電機社製の接触燃焼式の水素検知器等が挙げられる。
本発明におけるプロセス流体流路とは、熱交換器1内の管路から吸収塔12までの流路を意味し、吸収塔12を出た後の液体流路は含まれない。よって、熱交換器1から吸収塔12の出口までの流路内またはこれから分岐した流路(例えば循環路)の気相部にガス検知器が設けるのがよい。さらに吸収塔12から排出される気体のベントライン16にガス検知器14を設けてもよい。
また、本発明における熱媒体流路とは、図1に示されるように、熱交換器1、配管5、熱媒体タンク6、ポンプ9および冷却器/加熱器10を含む流路を意味する。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明の異常検知方法について説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0024】
図2は、異常検知試験に使用した試験装置全体の概略図を示している。この試験装置を用いて、NaNO2を含む溶融塩と、MCCまたはCHEを含むプロセス流体とを混合した場合に発生するガスについて評価した。
【0025】
上記試験装置は、図2に示すように、恒温槽21内に溶融塩と導入ガスとの混合危険性を評価するステンレス製容器22と、該ステンレス製容器22内に入れられた溶融塩23と、MCCガスまたはCHEガスを含む導入ガスをステンレス製容器22内の溶融塩23へ供給するための供給管35と、溶融塩23が装置の上流側に逆流することを予防する溶融塩捕集容器34が備えられている。前記ステンレス製容器22には、排出ガスを捕集するための配管24が取り付けられている。前記排出ガスは、クーラー25の中に浸されているガラス製容器26で冷却され、一部が配管27を通じてフッ素樹脂製サンプリングバッグ28で捕集される。
【0026】
前記導入ガスは、N2ボンベ29から供給されるN2ガスを、オイルバス33で加熱したプロセス流体32(MCCまたはCHE)を入れたガラス製容器31中へ、バブリングすることで調整される。また、ガラス製容器31と溶融塩捕集容器34の間の配管は、リボンヒーター36でMCCまたはCHEの沸点以上に加熱することで、前記導入ガスが配管中に凝縮するのを防止している。N2ボンベ29のガス流量は、ガス流量計30の測定値に基づいて調整される。尚、図2において、Tは温度センサーを示す。
【0027】
上記のような試験装置を使用して、以下の手順で試験を行った。
(1)溶融塩23(NaNO2:40重量%、NaNO3:7重量%、KNO3:53重量%)を、150mlのステンレス製容器22内に10g仕込んだ。
(2)ステンレス製容器22を恒温槽21内に設置し、380℃の等温になるように加熱した。
(3)溶融塩23が所定温度に到達した後、N2ボンベ29から排出ガスが通る配管27までのラインを窒素ガスで置換した。
(4)MCCと窒素の混合ガスまたはCHEと窒素の混合ガスを、約2000mL/minの流量にてステンレス製容器22内に供給した。
(5)MCCと窒素の混合ガスまたはCHEと窒素の混合ガス供給によって発生したガスをフッ素樹脂製サンプリングバッグ28に所定時間捕集した。
(6)捕集した排出ガスのうち、NOXガスはイオンクロマトグラフィーで、その他のガスはガスクロマトグラフィーでそれぞれ測定し、排出ガスの容量組成を調べた。
試験結果を表1に示す。
【表1】

【0028】
表1に示すように、比較のためにおこなった試験1(溶融塩仕込まず、窒素のみ流通した)から、試験装置内には、H2、CO、CO2、NOXガスは存在しないことがわかった。
試験2では、380℃で溶融塩を加熱したが試験1と比較してNOXガスの増加が見られたため、当該温度で溶融塩が局部的に分解することがわかった。
試験3では、380℃でMCCを加熱したが、試験1と比較して、当該ガスに対して、H2、COおよびNOXガスが増加したため、当該条件下では、局部的にMCCが分解することがわかった。
試験4では、380℃でMCCと溶融塩を反応させたが、試験2、3と比較して、H2、CO、CO2、NOXガスが増加した。この結果から、NaNO2を含む溶融塩がMCCを含むプロセス流体に接触した時は、H2、CO、CO2、NOXガスが有効な検知対象ガスであることがわかった。
試験5では、380℃でCHEを加熱したが、試験1と比較して、当該ガスに対して、H2、CO、CO2が増加したため、当該条件下では局部的にCHEが分解することがわかった。
試験6では、380℃でCHEと溶融塩を反応させたが、試験2、5と比較して、H2、NOXガスが増加する結果となった。従って、プロセス流体が溶融塩に接触したときは、H2、NOXガスが有効な検知対象ガスであることがわかった。
【0029】
前記試験4および試験6の結果から、MCCおよびCHEが含まれるプロセス流体と溶融塩が当該温度で反応すると、H2、CO、CO2、NOXガスが増加すると考えられるため、これらのガスが有効な検知対象ガスになることがわかった。
【符号の説明】
【0030】
1:熱交換器、2:配管、3:配管、4:ガス検知器、5:配管、6:熱媒体タンク
7:液相部、8:気相部、9:ポンプ、10:冷却器/加熱器、11:配管
12:吸収塔、13:配管、14:NOX検知器、15:ポンプ
16:ベントライン、17:冷却器、21:恒温槽、22:ステンレス製容器
23:溶融塩、24:配管、25:クーラー、26:ガラス製容器、27:配管
28:フッ素樹脂製サンプリングバッグ、29:N2ボンベ、30:ガス流量計
31:ガラス製容器、32:プロセス流体(MCCまたはCHE)、33:オイルバス
34:溶融塩捕集容器、35:供給管、36:リボンヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体とプロセス流体の熱交換を行う熱交換プロセスにおいて、熱媒体が分解して発生するガス成分、またはプロセス流体流路内に漏洩した熱媒体とプロセス流体とが接触することにより発生するガス成分を、プロセス流体流路の気相部で検知することを特徴とする熱交換プロセスの異常検知方法。
【請求項2】
熱媒体が硝酸塩および/または亜硝酸塩を含む溶融塩であり、プロセス流体が第二級アルコール類またはその脱水生成物を含有し、発生するガス成分が窒素酸化物、CO、CO2および水素ガスのうち少なくとも一種を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶融塩が、亜硝酸塩と硝酸塩の混合物からなり、亜硝酸塩を20〜90重量%含み、融点が100℃〜200℃ある請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
熱媒体とプロセス流体の熱交換を行う熱交換プロセスにおける異常を検知する装置であって、
プロセス流体が流れるプロセス流体流路と、
熱媒体が流れる熱媒体流路と、
前記プロセス流体流路内のプロセス流体と熱媒体流路内の熱媒体との間で熱交換を行う熱交換器と、
前記プロセス流体流路内の気相部に設けられ、熱媒体が分解して発生するガス成分、またはプロセス流体流路内に漏洩した熱媒体とプロセス流体との接触によって発生するガス成分を検知するガス検知器とを備えたことを特徴とする、熱交換プロセスにおける異常を検知する装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate