説明

熱交換器用アルミニウム合金フィン材

【課題】フィン成形が容易な適度のろう付け前強度を有し、しかもろう付け後には高い強度と熱伝導度(導電率)とを有し、耐サグ性、耐エロージョン性、自己耐食性、犠牲陽極効果に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材、その製造方法および前記フィン材を用いた熱交換器の製造方法を提供する。
【解決手段】Si:0.7〜1.4wt%、Fe:0.5〜1.4wt%、Mn:0.7〜1.4wt%、Zn:0.5〜2.5wt%を含み、不純物のMgを0.05wt%以下に限定し、残部不可避的不純物とAlからなる組成を有し、ろう付後には抗張力130MPa以上、耐力45MPa以上、再結晶粒径500μm以上、導電率47%IACS以上であるアルミニウム合金フィン材。上記組成の溶湯から双ベルト式連続鋳造した薄スラブを所定条件で冷間圧延/焼鈍/冷間圧延/焼鈍/冷間圧延するフィン材製造方法。上記フィン材をろう付け加熱後、所定速度で冷却する熱交換器の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器用アルミニウム合金フィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製熱交換器は、アルミニウム合金フィン材をアルミニウム製の作動流体通路構成材料などにろう付けして構成される。熱交換器の性能特性を向上させるため、このアルミニウム合金フィン材の基本特性として、作動流体通路構成材料を防食するために犠牲陽極効果が要求されるとともに、ろう付け時の高温加熱により変形したり、ろうが浸透したりしないように優れた耐サグ性、耐エロージョン性が要求される。
【0003】
フィン材には、上記の基本特性を満足するために、Mn、Feが添加されているが、最近では、製造プロセスに工夫を凝らして、さらにろう付け前の抗張力が低く、且つろう付け後の抗張力が高い熱交換器用アルミニウム合金フィンが開発されている。
【0004】
特許文献1には、Si:0.8〜1.4wt%、Fe:0.15〜0.7wt%、Mn:1.5〜3.0wt%、Zn:0.5〜2.5wt%を含み、さらに不純物としてのMgを0.05wt%以下に限定し、残部が通常の不純物とAlからなる溶湯を注湯して、双ベルト式鋳造機により厚さ5〜10mmの薄スラブを連続して鋳造しロールに巻き取った後、板厚0.05〜0.4mmに冷間圧延し、350〜500℃で中間焼鈍を施し、冷延率10〜50%の冷間圧延を行って最終板厚40〜200μmとする、ろう付け前の抗張力が240MPa以下、且つろう付け後の抗張力が150MPa以上の熱交換器用アルミニウム合金フィンの製造方法が開示されている。
【0005】
一方、アルミニウム合金フィン材をアルミニウム製の作動流体通路構成材料などにろう付けする際、ろう付け後の冷却速度を規定することで所定の強度を得る熱交換器製造方法についても開発されてきた。
【0006】
特許文献2には、ろう付け加熱後の冷却速度に着目して、ろう付け加熱後の引張強度の大きいフィンを得る熱交換器の製造方法が開示されている。具体的には、Al熱交換器をろう付けにより作成するに際し、ろう付け温度から350℃までの冷却を、冷却速度100℃/min〜1000℃/minで行うことにより、引張強度の大きいフィンを得る熱交換器の製造方法である。
【0007】
特許文献3には、チューブとフィンを積層し、チューブ両端にヘッダーを取付け、塩化物系フラックスを使用し、大気中、乾燥空気中あるいはフッ化物系非腐食性フラックスを使用し、不活性ガス中でろう付け接合するアルミニウム製熱交換器の製造において、ブレージングシートを使用し、外面がAl−Si系合金ろう材からなり、内面がAl−Zn系合金からなるチューブを作製し、ロウ付け接合後の500℃から200℃までの冷却を50℃/min以上の速度で冷却することを特徴とするアルミニウム熱交換器の製造方法が開示されている。
【0008】
しかし、上記特許文献1には、ろう付け加熱後の導電率(熱伝導度)についての記載はあるが、特にろう付け加熱後の冷却速度についての記述は見当たらない。
【0009】
また、上記特許文献2,3には、ろう付け加熱後の冷却速度を規定して、高強度のフィン材を得る技術については開示されているが、ロウ付け加熱後の導電率(熱伝導度)についての記載は見当たらない。
【0010】
さらに、最近では、フィン材の更なる薄肉化のため、基本的なろう付け特性に加え、ろう付け後の耐力が高く、且つろう付け後の熱伝導性に優れたアルミニウム合金フィン材の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−220375号公報
【特許文献2】特開平1−91962号公報
【特許文献3】特開平2−142672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、フィン成形が容易な適度のろう付け前強度を有し、しかもろう付け後には高い強度を有し、且つろう付け後の熱伝導度(導電率)の高い、耐サグ性、耐エロージョン性、自己耐食性、犠牲陽極効果に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、Si:0.7〜1.4wt%、Fe:0.5〜1.4wt%、Mn:0.7〜1.4wt%、Zn:0.5〜2.5wt%を含み、さらに不純物としてのMgを0.05wt%以下に限定し、残部不可避的不純物とAlからなる組成を有し、ろう付後の抗張力が130MPa以上、耐力が45MPa以上であり、ろう付け後の再結晶粒径が500μm以上、且つろう付け後の導電率47%IACS以上であることを特徴とする、高強度で且つ伝熱特性、耐エロージョン性、耐サグ性、犠牲陽極効果および自己耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材が提供される。≪*≫
【0014】
上記の本発明のフィン材を製造する方法は、上記フィン材の組成を有する溶湯を注湯して、双ベルト式鋳造機により厚さ5〜10mmの薄スラブを連続的に鋳造してロールに巻き取った後、第1段の冷間圧延を行って板厚1.0〜6.0mmとし、250〜550℃で第1次中間焼鈍を施し、更に第2段の冷間圧延を行って板厚0.05〜0.4mmとし、360〜550℃での第2次中間焼鈍を施し、冷間圧延率20〜75%の最終冷間圧延を行って最終板厚40〜200μmとすることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明者は、ろう付け後の耐力が高く、且つろう付け後の熱伝導性に優れたフィン材を得るためには、フィン材そのものの製造プロセスと共に、フィン材を熱交換器にろう付けした後の冷却速度を適切な範囲に制御することが重要であるとの結論に至った。
【0016】
すなわち、上記の本発明のアルミニウム熱交換器を製造する方法は、本発明のフィン材をろう付け加熱することによりアルミニウム製熱交換器を製造する方法において、前記ろう付け加熱後の少なくともろう付温度から400℃までの温度範囲を冷却速度10〜50℃/minで冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、組成と、ろう付け後の耐力、再結晶粒径、導電率とを規定したことにより、高強度で且つ優れた伝熱特性、耐エロージョン性、耐サグ性、犠牲陽極効果および自己耐食性を確保できる。
【0018】
本発明のフィン材の製造方法は、本発明のフィン材の組成の溶湯を用いて、双ベルト式鋳造機で薄スラブとし、規定した条件で冷間圧延/焼鈍/冷間圧延/焼鈍/冷間圧延を行なうことにより、上記の諸特性を備えたフィン材を製造することができる。
【0019】
本発明の熱交換器の製造方法は、本発明のフィン材をろう付けした後の冷却速度を規定したことにより、Al-Mn析出物、Al-(Fe・Mn)-Si系析出物を析出させ、ろう付け後に高い導電率を達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材の組成を限定した理由を説明する。
【0021】
〔Si:0.7〜1.4wt%〕
Siは、Fe、Mnと共存してろう付け時にサブミクロンレベルのAl−(Fe・Mn)−Si系の化合物を生成し、強度を向上させ、同時にMnの固溶量を減少させて熱伝導度(導電率)を向上させる。Siの含有量が0.7wt%未満ではその効果が十分でなく、1.4wt%を超えると、ろう付け時にフィン材の溶融を生じるおそれがある。従って、Si含有量は0.7〜1.4wt%に限定する。好ましくは、Si含有量は0.8〜1.2wt%である。
【0022】
〔Fe:0.5〜1.4wt%〕
Feは、Mn、Siと共存してろう付け時にサブミクロンレベルのAl−(Fe・Mn)−Si系の化合物を生成し、強度を向上させるとともに、Mnの固溶量を減少させて熱伝導度(導電率)を向上させる。Feの含有量が0.5wt%未満では強度が低下して好ましくない。1.4wt%を超えると合金の鋳造時に粗大なAl−(Fe・Mn)−Si系晶出物が生成して板材の製造が困難となる。従って、Fe含有量は0.5〜1.4wt%に限定する。好ましくは、Fe含有量は0.5〜1.2wt%である。
【0023】
〔Mn:0.7〜1.4wt%〕
Mnは、Fe、Siと共存させることによりろう付け時にサブミクロンレベルのAl−(Fe・Mn)−Si系化合物として高密度に析出して、ろう付け後の合金材の強度を向上させる。また、サブミクロンレベルのAl−(Fe・Mn)−Si系析出物は強い再結晶阻止作用を有するため再結晶粒が500μm以上と粗大になり、耐サグ性と耐エロージョン性が向上する。Mnが0.7wt%未満ではその効果が十分でなく、1.4wt%を超えると合金の鋳造時に粗大なAl−(Fe・Mn)−Si系晶出物が生成して板材の製造が困難となるとともに、Mnの固溶量が増加して熱伝導度(導電率)が低下する。従って、Mn含有量は0.7〜1.4wt%に限定する。好ましくは、Mn含有量は0.8〜1.3wt%である。
【0024】
〔Zn:0.5〜2.5wt%〕
Znは、フィン材の電位を卑にし、犠牲陽極効果を与える。含有量が0.5wt%未満ではその効果が十分でなく、2.5wt%を超えると材料の自己耐食性が劣化し、また、Znの固溶によって熱伝導度(導電率)が低下する。従って、Zn含有量は0.5〜2.5wt%に限定する。好ましくは、Zn含有量は1.0〜2.0wt%である。
【0025】
〔Mg:0.05wt%以下〕
Mgは、ろう付け性に影響し、含有量が0.05wt%を超えるとろう付け性を害するおそれがある不純物である。とくにフッ化物系フラックスろう付けの場合、フラックスの成分であるフッ素(F)と合金中のMgとが反応し易くなり、MgF2 などの化合物が生成することに起因してろう付け時に有効に作用するフラックスの絶対量が不足し、ろう付け不良が生じ易くなる。従って、Mg含有量は0.05wt%以下に限定する。
【0026】
Mg以外の不純物成分については、Cuは材料の電位を貴にするため0.2wt%以下に制限するのが好ましく、Cr、Zr、Ti、Vは、微量でも材料の熱伝導率を著しく低下させるので、これらの元素の合計含有量は0.20wt%以下に限定するのが好ましい。
【0027】
次に、本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材の製造方法における諸条件の限定理由を説明する。
【0028】
〔双ベルト式鋳造機により厚さ5〜10mmの薄スラブを連続的に鋳造〕
双ベルト鋳造法は、上下に対峙し水冷されている回転ベルト間に溶湯を注湯してベルト面からの冷却で溶湯を凝固させてスラブとし、ベルトの反注湯側より該スラブを連続して引き出してコイル状に巻き取る連続鋳造方法である。
本発明の製造方法においては、鋳造するスラブの厚さは5〜10mmに限定する。この厚さであると板厚中央部の凝固速度も速く、均一組織でしかも本発明範囲の組成であると粗大な化合物の少ない、およびろう付け後において結晶粒径の大きい優れた諸性質を有するフィン材とすることができる。
【0029】
双ベルト式鋳造機による薄スラブ厚さが5mm未満であると、単位時間当たりに鋳造機を通過するアルミニウム量が小さくなりすぎて、鋳造が困難になる。逆に厚さが10mmを超えると、ロールによる巻取りができなくなるため、スラブ厚さの範囲は5〜10mmに限定する。
【0030】
なお、溶湯の凝固時の鋳造速度は5〜15m/min であることが好ましく、ベルト内で凝固が完了することが望ましい。鋳造速度が5m/min 未満の場合、鋳造に時間が掛かりすぎて生産性が低下するため、好ましくない。鋳造速度が15m/min を超える場合、アルミニウム溶湯の供給が追いつかず、所定の形状の薄スラブを得ることが困難となる。
【0031】
上記のような鋳造条件の下で、鋳造時のスラブ1/4厚みの位置におけるスラブ冷却速度(凝固速度)は、20〜150℃/sec程度である。このように比較的速い冷却速度で溶湯が凝固することによって、本発明の化学組成の範囲内において、鋳造時に晶出するAl−(Fe・Mn)−Siなどの金属間化合物のサイズを1μm以下に制御することが可能となり、Fe、Si、Mnなどの元素のマトリックスへの固溶量を高めることができる。
【0032】
〔第1段の冷間圧延を行って板厚1.0〜6.0mmとし〕
引き続く、第1次中間焼鈍における十分な軟化状態を得るためと、マトリックス中のSi、Fe、Mn等の固溶元素を十分に析出させるために、第1段の冷間圧延の板厚は1.0〜6.0mmに限定する。6.0mmより厚い板厚では、その効果が十分ではなく、1.0mm未満では第1段の冷間圧延時に耳割れが発生するなど圧延性が低下する。また、その後の第2段の冷間圧延と最終冷間圧延とのバランスを取るためにも制御が必要となる。
【0033】
〔250〜550℃で第1次中間焼鈍を施し〕
第1次中間焼鈍の保持温度は250〜550℃に限定する。第1次中間焼鈍の保持温度が250℃未満の場合、十分な軟化状態を得ることができない。第1次中間焼鈍の保持温度が550℃を超えると、マトリックス中のSi、Fe、Mn等の固溶元素が十分に析出せず、ろう付加熱後の熱伝導度(導電率)が低下する。
【0034】
第1次中間焼鈍の保持時間は特に限定する必要はないが、1〜5hrの範囲とすることが好ましい。第1次中間焼鈍の保持時間が1hr未満では、コイル全体の温度が不均一なままで、板中における均一な組織の得られない可能性があるので好ましくない。第1次中間焼鈍の保持時間が5hrを超えると、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するため、好ましくない。
【0035】
第1次中間焼鈍処理時の昇温速度および冷却速度は特に限定する必要はないが、30℃/hr以上とすることが好ましい。第1次中間焼鈍処理時の昇温速度および冷却速度が30℃/hr未満の場合、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するので、好ましくない。
【0036】
連続焼鈍炉による第1中間焼鈍の温度は400〜550℃が好ましい。400℃未満の場合、十分な軟化状態を得ることができない。しかし、保持温度が550℃を超えると、マトリックス中のSi、Fe、Mn等の固溶元素が十分に析出せず、ろう付加熱後の熱伝導度(導電率)が低下する。
【0037】
連続焼鈍の保持時間は5min以内とすることが好ましい。連続焼鈍の保持時間が5minを超えると、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するため、好ましくない。
【0038】
連続焼鈍処理時の昇温速度および冷却速度は、昇温速度については100℃/min以上とすることが好ましい。連続焼鈍処理時の昇温速度が100℃/min未満の場合、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するため、好ましくない。
【0039】
〔更に第2段の冷間圧延を行って板厚0.05〜0.4mmとし〕
第2段の冷間圧延は、引き続く第2次中間焼鈍における十分な軟化状態を得るためと、マトリックス中のSi、Fe、Mn等の固溶元素を十分に析出させるために必要である。
板厚が0.4mmを超えるとその効果が十分ではなく、0.05mm未満では、引き続く最終冷間圧延にかける圧下率を制御することができなくなる。このため、第2段の冷間圧延後の板厚は0.05〜0.4mmに限定する。
【0040】
〔360〜550℃での第2次中間焼鈍を施し〕
第2次中間焼鈍の保持温度は360〜550℃に限定する。第2次中間焼鈍の保持温度が360℃未満の場合、十分な軟化状態を得ることができない。しかし、第2次中間焼鈍の保持温度が550℃を超えると、マトリックス中のSi、Fe、Mn等の固溶元素が十分析出せず、ろう付加熱後の熱伝導度(導電率)の低下およびろう付け時の再結晶阻止作用が弱まって、再結晶粒径が500μm未満となり、ろう付け時の耐サグ性と耐エロージョン性が低下する。
【0041】
第2次中間焼鈍の保持時間は特に限定する必要はないが、1〜5hrの範囲とすることが好ましい。第2次中間焼鈍の保持時間が1hr未満では、コイル全体の温度が不均一なままで、板中における均一な組織の得られない可能性があるので好ましくない。第2次中間焼鈍の保持時間が5hrを超えると、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するため、好ましくない。
【0042】
第2次中間焼鈍処理時の昇温速度および冷却速度は特に限定する必要はないが、30℃/hr以上とすることが好ましい。第2次中間焼鈍処理時の昇温速度および冷却速度が30℃/hr未満の場合、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するので、好ましくない。
【0043】
〔冷間圧延率20〜75%の最終冷間圧延を行って最終板厚40〜200μmとする〕
<冷間圧延率:20〜75%>
最終冷間圧延における冷間圧延率が20%未満の場合、冷間圧延で蓄積される歪エネルギーが少なく、ろう付け時の昇温過程で再結晶が完了しないため、耐サグ性と耐エロージョン性が低下する。冷間圧延率が75%を超えると,製品強度が高くなりすぎて,フィン材成形において所定のフィン形状を得る事が困難になる。従って、最終冷間圧延における冷間圧延率は20〜75%に限定する。
<最終板厚:40〜200μm>
フィン材の板厚が40μm未満では熱交換器としての強度が不足することに加えて、空気熱伝導が低くなる。フィン材の板厚が200μmを超えると、熱交換器の重量が大きくなる。
【0044】
本発明のアルミニウム合金フィン材の製造方法により製造された板材は、一般に所定幅にスリッティングした後コルゲート加工して、作動流体通路用材料、例えば、ろう材を被覆した3003合金などからなるクラッド板からなる偏平管と交互に積層し、ろう付け接合することにより熱交換器ユニットとする。
【0045】
本発明の熱交換器の製造方法における製造条件の限定理由を説明する。
〔ろう付け加熱後の少なくともろう付温度から400℃までの温度範囲を冷却速度10〜50℃/minで冷却〕
アルミニウム熱交換器のろう付は、600℃程度で行われるのが一般的である。
ろう付け加熱後の少なくともろう付温度から400℃までの温度範囲を冷却速度10〜50℃/minで冷却しなくてはならない。ろう付け加熱後のろう付温度から300℃までの温度範囲を冷却速度10〜50℃/minで冷却することが望ましい。ろう付け加熱後のろう付温度から200℃までの温度範囲を冷却速度10〜50℃/minで冷却することがさらに望ましい。
【0046】
このように本発明品のフィン材は、ろう付け加熱後の冷却速度を遅くするほど、Al-Mn析出物、Al-(Fe・Mn)-Si系析出物の析出量が多くなるため、ろう付け後の導電率47%IACS以上を達成することができる。ろう付け後の冷却速度が10℃/min未満である場合、熱交換器の生産性が著しく低下する。ろう付け後の冷却速度が50℃/minを超える場合、ろう付け後の導電率47%IACS以上を達成することが困難となる。また、50℃/min以上のろう付け後冷却速度に対して、10〜50℃/minの範囲内であれば、ろう付け後の抗張力と耐力が高いフィン材とすることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。
〔実施例1〕 本発明例および比較例として、表1に示した合金番号1から9の組成の合金溶湯を溶製し、セラミックス製フィルターを通過させて双ベルト鋳造機に注湯し、鋳造速度8m/min で厚さ7mmのスラブを得た。スラブ厚み1/4における溶湯の凝固時冷却速度は50℃/sec であった。該薄スラブを4mmまで冷間圧延し,昇温速度50℃/hrで昇温して、400℃で2hr保持した後、冷却速度50℃/hrで100℃まで冷却する第1次中間焼鈍処理を施した。次いで120μmまで冷間圧延した後、昇温速度50℃/hrで昇温して、400℃で2hr保持した後、冷却速度50℃/hrで100℃まで冷却する第2中間焼鈍処理を施した。次いで冷間圧延を施し、厚さ60μmのフィン材とした。
【0048】
【表1】

【0049】
比較例として、表1に示した合金番号10の組成の合金溶湯を溶製し、常法のDC鋳造(厚さ560mm、凝固時冷却速度約1℃/sec )、面削、均熱処理、熱間圧延、冷間圧延(厚さ90μm)、中間焼鈍(400℃×2hr)、冷間圧延により厚さ60μmのフィン材を製造した。
得られた本発明例および比較例のフィン材について下記(1)〜(3)の測定を行なった。
【0050】
(1)ろう付け前の引張特性 上記得られたフィン材の抗張力(MPa)および破断伸び(%) (2)ろう付け後の引張特性、結晶粒径、導電性 〔ろう付加熱条件〕 昇温速度20℃/minで昇温して、600〜605℃で3min間保持した後に、200℃まで、冷却速度20℃/minで冷却し,その後加熱炉から出し、室温まで冷却した。
〔試験項目〕 [1] 抗張力、耐力(MPa ) [2] 結晶粒径 表面を電解研磨してバーカー法で結晶粒組織を現出後、切断法で圧延方向に平行な結晶粒径(μm)を測定 [3] JIS−H0505記載の導電性試験法で導電率[%IACS]
【0051】
(3)ろう付性(エロージョン試験) コルゲート状に加工したフィン材を非腐食性弗化物系フラックスを塗布した厚さ0.25mmのブレージングシート(ろう材4045合金クラッド率8%)のろう材面上に載置(負荷荷重215g)し、昇温速度50℃/min で605℃まで加熱して5min間保持した。冷却後、ろう付け断面を観察し、フィン材結晶粒界のエロージョンが軽微なものを良(○印)とし、エロージョンが激しくフィン材の溶融が顕著なものを不良(×印)とした。なおコルゲート形状は下記のとおりとした。
コルゲート形状:高さ2.3mm×幅21mm×ピッチ3.4mm、10山 測定結果を表1に示す。
【0052】
表1の結果から、本発明方法で製造されたフィン材は、H材の抗張力、ろう付(耐エロージョン)性、ろう付け後の抗張力、耐力、導電率のいずれも良好であることが判る。
【0053】
比較例のフィン材番号4は、Si含有量が少なく、ろう付け後抗張力、耐力、導電率が低い。
【0054】
比較例のフィン材番号5は、Si含有量が多く、ろう付性評価でエロージョンが劣っていた。
【0055】
比較例のフィン材番号6は、Fe含有量が少なく、ろう付け後抗張力、導電率が低い。
【0056】
比較例のフィン材番号7は、Fe含有量が多く、鋳造時に巨大晶出物が生成し、冷間圧延中に割れを生じフィン材が得られなかった。
【0057】
比較例のフィン材番号8は、Mn含有量が少なく、ろう付け後抗張力、耐力が低い。
【0058】
比較例のフィン材番号9は、Mn含有量が多く、H材抗張力が高く,ろう付け後の導電率が低い。
【0059】
比較例のフィン材番号10は、常法のDC鋳造(厚さ560mm、凝固時冷却速度約1℃/sec )、面削、均熱処理、熱間圧延、冷間圧延(厚さ90μm)、中間焼鈍(400℃×2hr)、冷間圧延により得られたフィン材であり、ろう付け後の耐力が低く、ろう付け後の結晶粒径が小さく、ろう付(耐エロージョン)性が劣り、またろう付後の導電率も低い。
【0060】
〔実施例2〕 本発明例および比較例として、実施例1で得られた合金番号2のフィン材をろう付加熱処理する際に種々の冷却速度で冷却した。
すなわち、昇温速度20℃/minで昇温して、600〜605℃で3min間保持した後に、表2に示す下温度(400℃、200℃)まで表2に示す冷却速度(60、40、30、20、10℃/min)で冷却し、その後加熱炉から出し、室温まで冷却した。
これらろう付加熱処理されたフィン材について、ろう付け後の抗張力・耐力、導電率を測定した。引張試験および導電率の測定は実施例1と同様の方法で行なった。測定結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示されているように、本発明方法で製造されたフィン材を本発明方法のろう付加熱後の冷却条件にてろう付加熱した番号2、13、14は、600℃から200℃までの温度範囲を20、30、40℃/minの冷却速度で冷却したため、ろう付加熱後の抗張力、耐力、耐エロージョン性、導電率のいずれも良好の結果が得られたことが判る。
【0063】
本発明方法で製造されたフィン材を本発明方法のろう付加熱後の冷却条件にてろう付加熱した番号11、12は、600℃から400℃までの温度範囲を10、20℃/minの冷却速度で冷却したため、ろう付加熱後の抗張力、耐力、耐エロージョン性、導電率のいずれも良好な結果が得られたことが判る。
【0064】
比較例のフィン材番号15は、ろう付加熱後の冷却条件が本発明方法よりも速かったため、ろう付加熱後の導電率が低い。
【0065】
比較例のフィン材番号16は、DC鋳造スラブ圧延品であるため、且つろう付加熱後の冷却条件が本発明方法よりも速かったため、ろう付加熱後の、耐力、導電率が低い。
【0066】
比較例のフィン材番号10は、DC鋳造スラブ圧延品であるため、ろう付加熱後の冷却条件が本発明方法の範囲内であるにも拘らず、ろう付加熱後の、耐力、導電率が低い。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、フィン成形が容易な適度のろう付け前強度を有し、しかもろう付け後には高い強度を有し、且つろう付け後の熱伝導度(導電率)の高い、耐サグ性、耐エロージョン性、自己耐食性、犠牲陽極効果に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材、その製造方法および前記フィン材を用いた熱交換器の製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.7〜1.4wt%、Fe:0.5〜1.4wt%、Mn:0.7〜1.4wt%、Zn:0.5〜2.5wt%を含み、さらに不純物としてのMgを0.05wt%以下に限定し、残部不可避的不純物とAlからなる組成を有し、
ろう付後の抗張力が130MPa以上、耐力が45MPa以上であり、ろう付け後の再結晶粒径が500μm以上、且つろう付け後の導電率47%IACS以上であることを特徴とする、高強度で且つ伝熱特性、耐エロージョン性、耐サグ性、犠牲陽極効果および自己耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
【請求項2】
Si:0.7〜1.4wt%、Fe:0.5〜1.4wt%、Mn:0.7〜1.4wt%、Zn:0.5〜2.5wt%を含み、さらに不純物としてのMgを0.05wt%以下に限定し、残部不可避的不純物とAlからなる組成を有し、
ろう付後の耐力が49MPa以上であり、ろう付け後の再結晶粒径が500μm以上、且つろう付け後の導電率47%IACS以上であることを特徴とする、高強度で且つ伝熱特性、耐エロージョン性、耐サグ性、犠牲陽極効果および自己耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材。

【公開番号】特開2012−211393(P2012−211393A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−129005(P2012−129005)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【分割の表示】特願2006−210797(P2006−210797)の分割
【原出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)