説明

熱交換器用Ni−Cu系ろう材

【課題】各部品の隙間にバラつきが存在していても、全ての部品の接触部間を確実にろう付け固定できるとともに、ろう付け後のフィレット部の耐食性が高く、一定以上の強度を有するステンレス製熱交換器用Ni−Cu系ろう材を提供する。
【解決手段】重量%で、Cuが5〜15%、Crが20〜30%、Siが3〜5%、Pが3〜6%、残部がNiと不可避不純物よりなる熱交換器用Ni−Cu系ろう材を用いる。各隙間にろう材が浸透するとともに、その隙間にろう材を保持して流れ出ることがなく、信頼性の高い熱交換器を提供できる。また、ろう材のフィレット部の耐食性が高く、高温で繰り返し温度変化の起こる熱交換器を永続的に使用しうる。さらに融点が比較的低いので、ろう付け時の母材の材料劣化を効果的に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス製熱交換器に用いられるNi−Cu系ろう材に関する。
【背景技術】
【0002】
Ni−Cu系ろう材はろう付け時の濡れ性がよく、比較的安価である特徴がある。このようなろう材として、下記特許文献1の「ステンレス鋼用ろう材」、特許文献2の「金属ロウ」、特許文献3の「Ni基耐熱ろう材」、その他が知られている。
文献1のろう材は、30〜70%のCuと、5〜20%Snとを含み、残部をNiおよび不可避不純物からなることを特徴とする。また文献2は、Ni5〜40%、Cr2〜20%、Cu20〜60%、残部が25%以上のPdと不可避的な不純物とからなることを特徴とする。
さらには、文献3の「ぬれ性・耐食性に優れたNi基耐熱ろう材」は、Crを10〜30%、Pを2〜11%、Siを1〜10%でP+Siの合計が10〜13%含み、Cuを1%以下含み、残部はNiおよび7%以下の不純物を含むろう材が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−285888号公報
【特許文献2】特開昭54−109094号公報
【特許文献3】特許第3168158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の経験によれば、一例として図1に示すEGRクーラ(排気ガス再循環装置用冷却器)のごとく、多数の部品の組合せ体からなる熱交換器は、その接触部の隙間が各部でバラつきがあり、炉内での一体ろう付けが難しいものである。
この例の熱交換器は、多数のチューブ5とチューブプレート6とケーシング8と一対のタンク7(一方側を省略)とを有し、それぞれステンレス鋼材料よりなる。そして、各チューブ5の外面には多数のディンプル4が突設され、そのチューブ5の内部に波形に曲折されたフィン3が挿入されていると共に、そのチューブ5の両端部がチューブプレート6のチューブ挿通孔に挿通されてコアを構成する。このとき、隣り合うチューブ5のディンプル4は互いに接触する。このようなコアの外周にケーシング8を被嵌する。
【0005】
このケーシング8には、その長手方向両端部に膨出部12が設けられ、その膨出部12にそれぞれパイプ9,10が突設されている。そして、チューブプレート6の周縁またはケーシング8の両端開口に一対のタンク7を被嵌し、各部品の接触部間には粉末状のろう材がバインダーとともに付着され、高温の炉内で一体的にろう付け固定されて熱交換器を完成する。そして、高温の排ガス11が一方のタンクからコアの各チューブ5内に導かれ、他方タンク7からそれが流出する。また、冷却水13が一方のパイプ9からケーシング8内に導かれ、排ガス11との間で熱交換され、他方のパイプ10より流出するものである。
【0006】
このように組立てられる、ろう付け前の各部品の隙間は必ずしも一定ではなく、大小の各隙間が存在する。その隙間が比較的大きいと溶融したろう材はそこから流れ出してしまい、ろう付け不良を起こすことがある。また、隙間が極めて小さい場合には、溶融ろう材がその隙間に十分浸透できないことがあり、その場合にもろう付け不良が起こる。
そこで本発明は、各部品の隙間にバラつきが存在していても、全ての部品の接触部間を確実にろう付け固定できるとともに、ろう付け後のフィレット部の耐食性が高く且つ、一定以上の強度を有するNi−Cu系ろう材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明は、重量%で、Cuが5〜15%、Crが20〜30%、Siが3〜5%、Pが3〜6%、残部がNiと不可避不純物よりなる熱交換器用Ni−Cu系ろう材である。
請求項2に記載の本発明は、上記構成において、Pが5〜6%よりなる熱交換器用Ni−Cu系ろう材である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱交換器用Ni−Cu系ろう材によれば、特にろう材の濡れ性が3.0〜8.0の範囲にあるため、多数の部品と、多数のろう付け部を有する熱交換器において、各隙間にろう材が浸透するとともに、その隙間にろう材を保持して流れ出ることがない。それによって、信頼性の高い熱交換器を提供できる。また、ろう材のフィレット部の耐食性が高く、高温で繰り返し温度変化の起こる熱交換器を永続的に使用しうる。
また、請求項2に記載の発明によれば、融点が比較的低いので、ろう付け時の母材の材料劣化を効果的に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者の実験によれば、多数の部品の組立て体からなる熱交換器において、各部品の接触部の隙間が異なっていても、ろう材がその隙間に浸透し且つ、その隙間に保持されるためのろう材の濡れ性は、次の範囲であることが分かった。
即ち、粉末状のろう材(バインダーで練合せたもの)をステンレス鋼表面に円形に広げ、1150℃に加熱したとき、そのろう材の広がり直径の平均が元の直径の3.0〜8.0の範囲であれば、良好なろう付けが可能であることが分かった。この範囲であれば、ろう付け時に溶融したろう材が極めて小さな隙間にも浸透するとともに、比較的大きな隙間であっても、ろう材がそこから流出することなく、ろう材がその表面張力により保持される。それによって、通常起こり得る、熱交換器の各部品間のあらゆる隙間に対処できるものとなる。そこで、本発明のろう材はその濡れ性として、上記範囲を採用する。
【0010】
また、本発明が使用されるステンレス製熱交換器のごとく、比較的高温の流体と冷却水とが熱交換を行うものにおいては、ろうフィレット部の耐食性が極めて高いものが求められる。本発明者は、実際の熱交換器の使用条件を考慮し、交互侵食腐食試験を行った。
即ち、ろう材フィレットのサンプルを腐食液に浸漬した後、昇温し、次いで空冷し、再度腐食液に浸漬し、同様のことを繰り返し実験を行い、ろうフィレット部の侵食深さを測定した。本発明者の各種他の実験から、その侵食深さが60μm以下であれば、ろう材の適正な侵食限度とした。
【0011】
〔実験例〕
Cu、Cr、Si、Pの各成分を適宜範囲で換え、その濡れ性とフィレット部の耐食性を測定した。その結果が表1の通りである。
【0012】
【表1】

【0013】
同表において、No.1〜No.12のNi−Cu系合金がステンレス製熱交換器用として最適なものである。これは、Cuが5%〜15%、Crが20〜30%、Siが3〜5%、Pが3〜6%であり、残りがNiである。この範囲にあるろう材は濡れ性が3.0〜8.0の範囲に入るとともに、耐食性が60μm以下に維持されている。
これに対し、Cuが20%を超える(No.13合金〜No.21合金)と、ろうフィレット部の耐食性が極めて悪くなる。また、Cuが3%以下(No.28合金〜No.36合金)になると、表1のごとく濡れ性が悪くなり、極めて小さな隙間にはろう材が浸透し難い欠点がある。
【0014】
また、Crにおいては30%を超えると(No.22合金)濡れ性が悪くなり、それが18%以下ではろうフィレット部の耐食性が悪化する。また、Siにおいては5%を超えると(No.24合金)濡れ性が良くなりすぎ、熱交換器の比較的大きな隙間に保持されず、ろう材が流出してしまうおそれがある。また、Siが3%に満たないと(No.25合金)濡れ性が悪く、ろう材が小さな隙間に浸透し得ないおそれがある。次に、Pについては6%を超えると(No.26合金)濡れ性が良くなりすぎて、熱交換器の比較的大きな隙間に、ろう材が保持されず、それが流出してしまうおそれがある。またそれが3%満たないと(No.27合金)濡れ性が悪くなり、小さな隙間に浸透できないおそれがある。
【0015】
次に、前記実施例合金No.1〜No.12の各ろう材において、EGRクーラのエレメントを製作し、繰り返し加圧試験を行い、いずれも異常が認められなかった。さらに、ろう付けされたサンプル品を常温における剪断強さの実験を行った結果は、SUS304において5%Cuの場合、124(N/mm)、15%Cuにおいて136(N/mm)であり、公知のろう材BNi-5(Cr18.5〜19.5%、Si9.75〜10.5%、C 0.06%、残部Ni)の150(N/mm)と同等のレベルであった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のろう材が使用される熱交換器の一部破断要部斜視図。
【符号の説明】
【0017】
3 フィン
4 ディンプル
5 チューブ
6 チューブプレート
7 タンク
8 ケーシング
9 パイプ
10 パイプ
11 排ガス
12 膨出部
13 冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Cuが5〜15%、Crが20〜30%、Siが3〜5%、Pが3〜6%、残部がNiと不可避不純物よりなる熱交換器用Ni−Cu系ろう材。
【請求項2】
Pが5〜6%である請求項1に記載の熱交換器用Ni−Cu系ろう材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−202198(P2009−202198A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46466(P2008−46466)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000222484)株式会社ティラド (289)