説明

熱交換器

【課題】 アルミニウム(Al)からなるフィン部材やチューブ部材をはんだ付けまたはそれと同様の簡易な接合方式によって接合してなる熱交換器を提供する。
【解決手段】 フィン部材1は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)を主成分とする合金からなるフィン用基材6の表面における、少なくともチューブ部材2と接合される部分に、銅(Cu)を含むはんだ濡れ皮膜層5を備えており、チューブ部材2は、銅(Cu)または銅(Cu)を主成分とする金属からなるチューブ用基材11の表面における、少なくともフィン部材1と接合される部分に、錫(Sn)を含むはんだからなる、はんだ皮膜層12を備えており、フィン部材1とチューブ部材2とが、はんだ濡れ皮膜層5とはんだ皮膜層12とに由来した銅(Cu)と錫(Sn)との金属拡散接合を介して接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジン冷却用ラジエータなどに用いられる熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、フィン部材とチューブ部材とタンク部材とを組み合わせて要所ごとを接合することで、その主要部が構成されている。
例えば、自動車のエンジン冷却用ラジエータとして用いられる、熱交換器の場合、主な接合箇所としては、タンク部材とチューブ部材との間、フィン部材とチューブ部材との間があり、それらは、はんだ付けやろう付けなどによって接合されることが一般的であった(特許文献1)。
【0003】
そのような熱交換器には、フィン部材とチューブ部材との接合に着目して分類すると、金属材料として真鍮(あるいはそれに類似した銅(Cu)系合金)の板材を用いて成形加工されたフィン部材とチューブ部材とを300℃以下の炉中加熱のはんだ付けによって接合してなる構造を有する真鍮製のものと、アルミニウム(Al;但し、純AlのみではなくAl合金なども含む)の板材を用いて成形加工されたフィン部材とチューブ部材とを600℃相当の炉中加熱のアルミろう付けによって接合してなる構造を有するアルミニウム製のものとの、主に2種類がある。
【0004】
真鍮製のものは、1990年以前には大半の自動車用熱交換器で採用されていたが、アルミろう付け技術の進歩や、はんだ付けに伴う鉛(Pb)の問題などもあり、最近の熱交換器の大半は、後者のアルミニウム製のものが採用されている。但し、チューブ部材における腐食等の不都合からアルミニウム(Al)が適用できない場合などには、現在でも前者の真鍮製のものが採用されている。しかし、真鍮製の場合、後者のアルミニウム製のものと比較すると、重量が嵩んでしまうことは避け難いという欠点がある。
【0005】
また、はんだ接合技術を用いた、オールアルミ製の熱交換器も提案されている(特許文献2)。これは、フィン部材とチューブ部材とを全て、ニッケル(Ni)めっきを施してなるアルミニウム製とし、それらを仮組みした後、両者の接触している各部位をはんだ付けによって接合することで、その主要部の構造が製作されるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−136490号公報
【特許文献2】特開昭60−102270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般にアルミろう付けは、はんだ付けよりもそのプロセスが煩雑でコスト高なものとなる傾向にあるので、オールアルミ製の熱交換器の場合でも、その接合には、はんだ付けを採用することが、より望しい。
しかしながら、従来の技術では、アルミニウム(Al)からなるフィン部材やチューブ部材を、はんだ付けによって確実に接合することは、極めて困難であるという問題があった。
【0008】
また、上記のようなオールアルミニウム製の場合の欠点である腐食に対する弱さと、オ
ール真鍮製の場合の欠点である全重量が嵩む(重くなる)という欠点との、両方を克服するためには、チューブ部材を真鍮のような銅(Cu)系材料からなるものにすると共に、フィン部材をアルミニウム(Al)からなるものにする、という手法が有効であり、この方式についても我々は検討したが、この場合も、アルミニウム(Al)からなる部材と、真鍮のような銅(Cu)系の金属からなる部材とを、従来技術に係るはんだ付けによって確実に接合することは、極めて困難であるという問題があった。
【0009】
また、上記のようなアルミニウム(Al)からなる部材に対する良好なはんだ付けを実現するためには、その部材のアルミニウム(Al)の表面の酸化被膜(不動態被膜)を溶解させるほどに活性力の強いフラックスを使用する、といった手法を用いることなども考えられる。しかし、実際には、斯様に極めて強力なフラックスの使用は、はんだ付け後の接合部分付近を著しく荒らして劣化させてしまう虞が高いので、接合部位の耐久性や信頼性の観点から、望ましくないものと言わざるを得ないという欠点がある。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、アルミニウム(Al)からなるフィン部材と銅(Cu)系の金属からなるチューブ部材のような各部材をはんだ付けまたはそれと同様の簡易な接合によってその主要部の構造を構築することが可能な熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の熱交換器は、フィン部材とチューブ部材とを接合してなる構造を有する熱交換器であって、前記フィン部材は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)を主成分とする合金からなるフィン用基材の表面における、少なくとも前記チューブ部材と接合される部分に、銅(Cu)を含むはんだ濡れ皮膜層を備えており、前記チューブ部材は、銅(Cu)または銅(Cu)を主成分とする金属からなるチューブ用基材の表面における、少なくとも前記フィン部材と接合される部分に、錫(Sn)を含むはんだ皮膜層を備えており、前記フィン部材と前記チューブ部材とが、前記はんだ濡れ皮膜層と前記はんだ皮膜層とに由来した銅(Cu)と錫(Sn)との金属拡散接合を介して接合されていることを特徴としている。
また、本発明の第2の熱交換器は、フィン部材とチューブ部材とを接合してなる構造を有する熱交換器であって、前記フィン部材は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)を主成分とする合金からなるフィン用基材の表面における、少なくとも前記チューブ部材と接合される部分に、銅(Cu)を含むはんだ濡れ皮膜層と、当該はんだ濡れ皮膜層の表面上に、錫(Sn)を含むはんだからなる、はんだ皮膜層とを備えており、前記チューブ部材は、銅(Cu)または銅(Cu)を主成分とする金属からなるものであり、前記フィン部材と前記チューブ部材とが、前記はんだ濡れ皮膜層と前記はんだ皮膜層とに由来した銅(Cu)と錫(Sn)との金属拡散接合を介して接合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルミニウム(Al)からなるフィン部材と銅(Cu)系の金属(銅または銅合金)からなるチューブ部材とが、はんだ濡れ皮膜層とはんだ皮膜層とに由来した銅(Cu)と錫(Sn)との金属拡散接合を介して接合されるようにしたので、工程管理等が煩雑で高コストになりがちなアルミろう付けや、活性力が極めて高くて接合部位付近に劣化を生じせしめる虞の高い強力フラックス等を用いることなく、はんだ付けまたはそれと同様に簡易な加熱溶融接合によって、構造上の主要部の確実な接合を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る熱交換器の全体的な構成の主要部を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る熱交換器に用いられるフィン用基材を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る熱交換器に用いられるチューブ用基材を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る熱交換器に用いられるタンク用基材を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る熱交換器における、フィン部材とチューブ部材とタンク部材とを接合してなる熱交換器の構造のサンプルを示す正面図である。
【図6】図5に示したフィン部材とチューブ部材とタンク部材とを接合したサンプルの側面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る熱交換器に用いられるフィン用基材を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る熱交換器における、フィン部材とチューブ部材とタンク部材とを接合してなる熱交換器の構造のサンプルを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る熱交換器について、図面を参照して説明する。
本発明の第1および第2の実施の形態に係る熱交換器に共通の全体的な構成は、図1に示したように、フィン部材1と、チューブ部材2と、タンク部材3とを、その主要部として備えている。
このような構成の熱交換器においては、フィン部材1が波型に形成されており、その波型によって、フィン部材1の実質的な表面積が増したことになると共に、フィン部材1との間で構成される空間15で外気との熱交換が効率的に行われることとなる。従って、冷却水4のような冷媒がチューブ部材2を通って行くうちに、その冷却水4の保持していた熱が、チューブ部材2へと伝達されて出て行き、さらにそのチューブ部材2に接触(接合)しているフィン部材1へと伝達される。そしてさらに、その熱は、フィン部材1から外気中へと放散される。このようにして、この熱交換器における効果的な熱交換が行われることとなる。
そして、この熱交換器では、フィン部材1とチューブ部材2とが、本発明の実施の形態に係る接合技術によって、簡易なはんだ付けの手法によって確実に接合されている。
【0015】
[第1の実施の形態に係る熱交換器]
この第1の実施の形態に係る熱交換器では、フィン部材1は、図2に一例を示したフィン板材9を、所定の波状に折り曲げ加工して形成されたもので、隣り合う2つのチューブ部材2同士の間に挟まれて配置され、そのチューブ部材2と接触する各部分が確実に接合されている。またそれと共に、このフィン部材1は、左右のタンク部材3に挟まれて配置されている。フィン部材1とタンク部材3とは、接合してもよいし、単に機械的に接触した状態にしておいてもよい。
フィン板材9は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)を主成分とする合金からなるフィン用基材6の表面上ほぼ全面、またはその表面における少なくともチューブ部材2と接合される部分に、銅(Cu)を含むはんだ濡れ皮膜層5を備えている。
このはんだ濡れ皮膜層5の厚さを、5nm以上400nm以下、さらに望ましくは10nm以上400nm以下とすることは、好ましい数値的態様である。
これは、10nm未満では、良好な接合を得るためのはんだ濡れ性能を得ることが困難となる虞が高くなり(特に5nm未満では、それはさらに顕著になる)、また400nm超では、そのように厚い層を形成するための時間および材料が必要となるなどの技術的要因から製造コスト高になる虞が高くなるためである。
【0016】
ここで、上記のはんだ濡れ皮膜層5を、図2に一例を模式的に示したように、ニオブ(
Nb)またはクロム(Cr)の下地層7と、その下地層7の表面に設けられた、銅(Cu)を主成分としてニッケル(Ni)および亜鉛(Zn)のうちの少なくとも1種類の金属を添加された合金からなる表層8との、2層積層構造とすることは、望ましい一態様である。
このような2層積層構造とすることにより、加熱溶融状態のはんだとアルミニウム(Al)とが剥離することを防止することが可能となる。
【0017】
チューブ部材2は、図3に示したチューブ板材10を、その表面に形成されたはんだ皮膜層12が外側になるように、扁平なパイプ状または暗渠状に成形加工してなるもので、左右のタンク部材3の間に架け渡すように設けられて、一方のタンク部材3から他方のタンク部材3へと、冷却水4のような冷媒を導通させる導通管として機能するように設定されている。
チューブ板材10は、銅(Cu)または真鍮のような銅(Cu)を主成分とする金属からなるチューブ用基材11の表面ほぼ全面、またはその表面における少なくともフィン部材2と接合される部分に、錫(Sn)を含むはんだからなる、はんだ皮膜層12を備えている。
このはんだ皮膜層12の厚さを、3μm以上100μm以下とすることは、望ましい数値的態様である。
これは、3μm未満では、良好な接合を得ることが困難となる虞が高くなり、また100μm超では、このはんだ皮膜層12自体が接合後に剥離し易くなったりクラックが生じやすくなったりする虞が高くなることや、その厚いはんだ皮膜層12を形成するための材料的なコストが嵩む虞が高くなるためである。
【0018】
また、はんだ皮膜層12を、純錫(Sn)からなるものとし、その全体の成分中に鉛(Pb)やカドミウム(Cd)等を全く含まないようにすることも可能である。このようにすることにより、いわゆる鉛フリーのようなはんだ付けによって確実な接合が可能となる。従って、これは望ましい一態様である。
また、そのようにはんだ皮膜層12を純錫(Sn)からなるものとした場合、その厚さを、3μm以上30μm以下とすることは、望ましい数値的態様である。
これは、厚さを3μm未満のように薄くし過ぎた場合や30μm超のように厚くし過ぎた場合には、確実な接合が得られなくなる虞が高くなってしまうからである。さらに詳細には、接合時に、はんだ濡れ皮膜層5の銅(Cu)が純錫(Sn)側に拡散することで、良好な金属拡散接合が実現することとなるが、このとき、純錫(Sn)からなるはんだ皮膜層12が厚過ぎると、十分な拡散が行われなくなって、良好な接合が得られなくなり、また逆に、薄過ぎると、接合時に濡れ性を確保するという機能を十分に発揮することができなくなって、良好な接合が得られなくなるからである。
また特に、その純錫(Sn)からなるはんだ皮膜層12の厚さが30μm超になると、接合のためのはんだ付けプロセスにおける加熱時に、フィン部材1の表層の銅(Cu)成分が食われることで接合が行われるが、その銅濃度が薄くなるといった不都合が生じやすくなる虞もある。
【0019】
タンク部材3は、一方のタンク部材3が、例えばエンジンから送られて来た、温度の高くなった冷却水4のような冷媒をチューブ部材2へと分配供給し、他方のタンク部材3が、そのチューブ部材2を通って冷却されて来た冷却水4を回収してエンジンへと帰還させるように設定されている。
タンク板材13としては、図4に一例を示したように、例えばチューブ板材10の場合と同様に、銅(Cu)または銅(Cu)を主成分とする金属からなるタンク用基材14の表面上に、錫(Sn)を含むはんだからなるはんだ皮膜層12を備えたものを用いることができる。あるいは、フィン部材1との接合を行う必要がない場合には、一般的なはんだ付け等によって銅(Cu)系の金属からなるチューブ部材2との確実な(あるいは水密性
の高い)接合を確保できるのであれば、このタンク板材13の表面のはんだ皮膜層12は省略することも可能である。あるいは、このタンク部材3については、チューブ部材2との水密性を確保できるような接合が得られるのであれば、金属以外の材料からなるものとすることなども可能である。
【0020】
上記のようなフィン部材1とチューブ部材2とタンク部材3とを組み付けて、それらの接触部位を要所ごとに接合することで、図5、図6に示したような、本発明の第1の実施の形態に係る熱交換器の構造上のサンプルの主要部が構成される。ここで、図5、図6に示した熱交換器の構造のサンプルでは、接合構造についてのサンプルであるため、チューブ部材2は扁平なチューブ状や暗渠状には形成されておらず、実質的に扁平なチューブを約半分に切断したような形状としている。
この熱交換器では、フィン部材1が、アルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)を主成分とする合金からなるフィン用基材6の表面における、少なくともチューブ部材2と接合される部分に、銅(Cu)を含むはんだ濡れ皮膜層5を備えており、チューブ部材1が、銅(Cu)または銅(Cu)を主成分とする金属からなるチューブ用基材11の表面における、少なくともフィン部材1と接合される部分に、錫(Sn)を含むはんだからなる、はんだ皮膜層12を備えており、それらフィン部材1とチューブ部材2とが、はんだ濡れ皮膜層5とはんだ皮膜層12とに由来した銅(Cu)と錫(Sn)との金属拡散接合を介して接合されている。
このような、第1の実施の形態に係る熱交換器では、フィン部材1とチューブ部材2とを仮組みした後、加熱処理を施すことで、フィン部材1の表面における、溶融したはんだ濡れ皮膜層5、または図2に示した一態様の構成では特に表層8に由来した(溶融されたことでその皮膜から外部へと拡散可能となった;以下同様)、銅(Cu)成分と、チューブ部材2の表面における、溶融したはんだ皮膜層12に由来した錫(Sn)成分とが、相互熱拡散されて金属拡散接合を形成することとなり、その結果、良好なはんだ接合を確実に得ることができる。
【0021】
以上のように、この第1の実施の形態に係る熱交換器によれば、アルミニウム(Al)またはそれを主成分とする合金からなるフィン部材1と銅(Cu)系の合金からなるチューブ部材2との、良好なはんだ接合を、活性の強過ぎるようなフラックスを用いることなく、またアルミろう付けのような煩雑でコスト高になり易いような接合手法を用いることなしに、確実に得ることが可能となる。
また、フィン部材1をアルミニウム(Al)またはそれを主成分とする合金からなるものとすることができ、かつチューブ部材2を例えば真鍮のような銅(Cu)系の合金からなるものとすることができるので、それらを用いて製作される熱交換器の重量の軽量化と耐腐食性の向上との両方を共に達成することができる。
また、いわゆるPbフリーのはんだ接合が可能となるので、環境に配慮した熱交換器の製作が可能となる。
【0022】
[第2の実施の形態に係る熱交換器]
第2の実施の形態に係る熱交換器では、フィン部材1として、図7に一例を示したようなものが用いられる。すなわち、フィン部材1は、第1の実施の形態に係るフィン板材9の最表面に、さらにはんだ皮膜層12を追加したものを、所定の波状に折り曲げ加工して形成してなるもので、隣り合う2つのチューブ部材2同士の間に挟まれて配置され、その両者の接触する各部分が確実に接合されている。またそれと共に、このフィン部材1は、左右のタンク部材3に挟まれて配置されている。フィン部材1とタンク部材3とは、接合してもよいし、単に機械的に接触した状態にしておいてもよい。
そのフィン部材1は、さらに具体的には、アルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)を主成分とする合金からなるフィン用基材6の表面上ほぼ全面、またはその表面における少なくともチューブ部材2と接合される部分に、銅(Cu)を含むはんだからなる
、はんだ濡れ皮膜層5を備えている。
このはんだ濡れ皮膜層5の厚さを、10nm以上400nm以下とすることは、望ましい数値的態様である。これは、第1の実施の形態で説明した理由と同様の理由による。
【0023】
ここで、はんだ濡れ皮膜層5を、図7に一例を模式的に示したように、ニオブ(Nb)またはクロム(Cr)の下地層7と、その下地層7の表面に設けられた、銅(Cu)を主成分としてニッケル(Ni)および亜鉛(Zn)のうちの少なくとも1種類の金属を添加された合金からなる表層8との、2層積層構造として形成されているようにすることは、望ましい一態様である。これも、第1の実施の形態で説明した理由と同様の理由による。
【0024】
そしてさらに、上記のはんだ濡れ皮膜層5の表面に、錫(Sn)を含むはんだからなるはんだ皮膜層12を備えている。
このはんだ皮膜層12の厚さを、3μm以上100μm以下とすることは、望ましい数値的態様である。
これは、3μm未満では、良好な接合を得ることが困難となる虞が高くなり、また100μm超では、このはんだ皮膜層12自体が接合後に剥離し易くなったりクラックが生じやすくなったりする虞が高くなることや、その厚いはんだ皮膜層12を形成するための材料的なコストが嵩む虞が高くなるためである。
【0025】
また、はんだ皮膜層12を、純錫(Sn)からなるものとし、その全体の成分中に鉛(Pb)やカドミウム(Cd)等を全く含まないようにすることも可能である。このようにすることにより、いわゆる鉛フリーのはんだ付けによって確実な接合が可能となるので、これは望ましい一態様である。
そして、そのようにはんだ皮膜層12を純錫(Sn)からなるものとした場合、その厚さを、3μm以上30μm以下とすることは、望ましい数値的態様である。
これは、厚さを3μm未満のように薄くし過ぎた場合や30μm超のように厚くし過ぎた場合には、確実な接合が得られなくなる虞が高くなってしまうからである。また特に、その純錫(Sn)からなるはんだ皮膜層12の厚さが30μm超になると、接合のためのはんだ付けプロセスにおける加熱時に、フィン部材1の表層の銅(Cu)成分が食われることで接合が行われるが、その銅濃度が薄くなるといった不都合が生じやすくなる虞もある。
【0026】
チューブ部材2は、図示は省略するが、銅(Cu)または真鍮のような銅(Cu)を主成分とする金属からなるチューブ用基材11のみからなるチューブ板材10、つまり図3に示したチューブ板材10からはんだ皮膜層12を省略してチューブ用基材11のみとしたものを、扁平なパイプ状または暗渠状に成形加工してなるもので、左右のタンク部材3の間に架け渡すように設けられて、一方のタンク部材3から他方のタンク部材3へと、冷却水4のような冷媒を導通させる導通管として設定されている。
【0027】
タンク部材3は、一方のタンク部材3が、例えばエンジンから送られて来た、温度の高くなった冷却水4のような冷媒をチューブ部材2へと分配供給し、他方のタンク部材3が、そのチューブ部材2を通って冷却されて来た冷却水4を回収してエンジンへと帰還させるように設定されている。
タンク板材13としては、例えばチューブ板材10の場合と同様に、銅(Cu)または銅(Cu)を主成分とする金属からなるタンク用基材14の表面上に、錫(Sn)を含むはんだからなる、はんだ皮膜層12を備えたものを用いることができる。あるいは、フィン部材1との接合を行う必要がない場合には、一般的なはんだ付け等によって銅(Cu)系の金属からなるチューブ部材2との確実な(あるいは水密性の高い)接合を確保できるのであれば、このタンク板材13の表面のはんだ皮膜層12は省略することも可能である。あるいは、このタンク部材3については、チューブ部材2との水密性を確保できるよう
な接合が得られるのであれば、金属以外の材料からなるものとすることなども可能である。
【0028】
上記のようなフィン部材1とチューブ部材2とタンク部材3とを仮組みした後、それらの間の接触した部位の要所ごとを接合することで、図8にサンプルとして示したような、本発明の第2の実施の形態に係る熱交換器の構造上の主要部が構成される。
すなわち、この第2の実施の形態に係る熱交換器では、フィン部材1が、アルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)を主成分とする合金からなるフィン用基材6の表面における、少なくともチューブ部材2と接合される部分に、銅(Cu)を含むはんだ濡れ皮膜層5と、さらにその表面上に形成されたはんだ皮膜層12とを備えており、チューブ部材1が、銅(Cu)または銅(Cu)を主成分とする金属からなるチューブ用基材11自体をそのままチューブ板材10として用いてチューブ状に成形加工してなるものであり、それらフィン部材1とチューブ部材2とが、はんだ濡れ皮膜層5とはんだ皮膜層12とに由来した銅(Cu)と錫(Sn)との金属拡散接合を介して接合されている。
このような第2の実施の形態に係る熱交換器では、フィン部材1とチューブ部材2とを仮組みした後、加熱処理を施すことで、フィン部材1とチューブ部材2との間に溶融したはんだ内で、銅(Cu)と錫(Sn)とが熱拡散されて金属拡散接合を形成することとなり、その結果、フィン部材1とチューブ部材2との良好なはんだ接合を確実に得ることができる。
【0029】
以上のように、この第2の実施の形態に係る熱交換器によれば、アルミニウム(Al)またはそれを主成分とする合金からなるフィン部材1と銅(Cu)系の合金からなるチューブ部材2との、良好なはんだ接合を、活性が強過ぎるようなフラックスを用いることなく、またアルミろう付けのような煩雑でコスト高になりがちな接合手法を用いることなしに、確実に得ることが可能となる。
また、フィン部材1をアルミニウム(Al)またはそれを主成分とする合金からなるものとすることができ、かつチューブ部材2を例えば真鍮のような銅(Cu)系の合金からなるものとすることができるので、それらを用いて製作される熱交換器における、重量の軽量化と耐腐食性の向上との、両方を共に達成することが可能となる。
また、いわゆるPbフリーのはんだ接合を行うことも可能となるので、環境に配慮した熱交換器の製作が可能となる。
【実施例】
【0030】
上記の実施の形態で説明したフィン部材1およびチューブ部材2ならびにタンク部材3を用意し、それらに加熱接合を施して試作サンプルを製作し、その接合の評価・検討を行った。
【0031】
[実施例1]
実施例1として、上記の第1の実施の形態で説明した、図5、図6に示したような構造の熱交換器のサンプルを製作し、その接合状態を評価した。
まず、図2に示したような構成のフィン板材9と、図3に示したような構成のチューブ板材10と、図4に示したような構成のタンク板材13とを製作した。
フィン板材9用の基材であるフィン用基材6としては、A1−Mg合金であるA5052の硬材で、厚さt=50μm、幅W1=16mmのものを用いた。
チューブ板材10用の基材であるチューブ用基材11としては、真鍮材で、組成はCu−35%Zn、厚さは230μm、幅W2=20mmのものを用いた。
タンク板材13用の基材であるタンク用基材14もチューブ板材10と同じ材質の真鍮材で、厚さが500μmのものを用い、幅W3=30mmとした。長さ(高さ)は60m
mとした。
それら各基材の表面に、上記の第1の実施の形態で説明したような、はんだ濡れ皮膜層
5(下地層7および表層8)、はんだ皮膜層12をそれぞれ形成した。
そして、それらを所定の形状に成型加工してフィン部材1、チューブ部材2、タンク部材3を製作し、それらを仮組みした後、加熱処理を施すことで要所ごとをはんだ接合して、図5、図6に示したような構造の熱交換器の試料(サンプル)を製作した。
【0032】
フィン部材1は、はんだ濡れ皮膜層5における下地層7を、ニオブ(Nb)からなるものとした場合(表1の試料1〜21)と、クロム(Cr)からなるものとした場合(表2の試料22〜41)との、2種類とした。但し、その下地層7と組み合わされる表層8については、両方の種類とも同じく銅(Cu)−20wt%ニッケル(Ni)からなるものとした。それらの厚さは、下地層7を20nm、表層8を60nmとした。
波状のピッチD1は、30mmとした。また、フィン部材1とその両端に組付けられた
タンク部材3との合計の長さD2は、60mmとした。
そして、その各種類のフィン部材1の試料に対して、はんだ皮膜層12の材質を、錫(Sn)からなるものとした場合と、錫(Sn)−37wt%鉛(Pb)からなるものとした場合と、錫(Sn)−3wt%ビスマス(Bi)からなるものとした場合との、3種類のチューブ部材2を用意し、加熱処理による接合を行った。
チューブ部材2の表面のはんだ皮膜層12の形成方法としては、電気めっき法による場合と、溶融めっき法による場合との、2種類を試みた。
そして、そのフィン部材1、チューブ部材2、タンク部材3の、加熱処理による接合を行って、図5、図6に示したような構造の熱交換器のサンプルを製作した。
【0033】
より具体的には、フィン部材1、チューブ部材2、タンク部材3を、所定の構造となるように仮組みした後、フラックスとして活性の低いRMAタイプ(型式;HS−722(メーカー名;ホーザン))を塗布して、200℃〜260℃で3秒間の加熱処理による接合を行い、その接合状態を評価した。
加熱処理による接合直後のフィン部材1とチューブ部材2との接合状態の評価方法については、この種の熱交換器の品質管理・検査における熟練者による評価手法に即して、目視レベルで全く接合していないものを接合無し、接合していても触診により簡単にフィン部材1とチューブ部材2とが剥離するような状態のものを不良、簡単には剥離しない程度のものを良好、と判定した。また、良好と判定された試料については、その後、環境試験として、35℃で塩分5.0%の塩水(NaCl)を用いた96時間の塩水噴霧試験を施した。そしてその塩水噴霧試験後の接合状態について、接合直後の判定の場合と同様に、簡単に剥離するものを不良とし、簡単には剥離しないものを良好と判定した。
【0034】
このような第1の実施例に係る試料1〜41の接合についての判定(評価)結果を、以下、さらに詳細に説明する。
フィン部材1の下地層7をニオブ(Nb)からなるものとすると共に表層8を銅(Cu)−20wt%ニッケル(Ni)からなるものとした場合の結果は、表1に纏めて示したようなものとなった。
【0035】
【表1】

【0036】
フィン部材1のはんだ濡れ皮膜層5をニオブ(Nb)からなるものとした試料1〜21では、概ね良好な接合が得られているものの、チューブ部材2のはんだ皮膜層12を純錫(Sn)からなるものとした試料1〜9のうちの、比較例1の試料1では、はんだ皮膜層12の厚さが1.5μmと極めて薄過ぎるものであったため、接合無しとなった。また、比較例1の試料2では、はんだ皮膜層12の厚さが2μmと薄いものであったため、加熱処理直後の接合は良好であったが、塩水噴霧後は不良となった。また逆に、比較例1の試料8では、はんだ皮膜層12の厚さが40μmと極めて厚過ぎるものであったため、加熱処理直後の接合が不良となった。
このようなはんだ皮膜層12の厚さが薄いことや厚いことに起因した接合の不具合の発生は、はんだ皮膜層12を錫(Sn)−37%鉛(Pb)とした試料10〜18、および錫(Sn)−3%ビスマス(Bi)とした試料19〜21の場合、上限の数値は異なるが、他は同様の傾向を示した。すなわち、比較例1の試料10、試料11では、厚さをそれぞれ1.5μm、2μmと薄いものとしたため、加熱処理直後の接合は良好であったが、塩水噴霧後の接合は不良となった。また逆に、厚さを120μmと厚くし過ぎた比較例1の試料17では、加熱処理直後の接合が不良となった。
【0037】
上記のような結果から、はんだ皮膜層12の厚さは、3μm以上100μm以下とすることが望ましい、ということが確認された。また特に、半田被膜として純錫(Sn)からなるものとする場合には、3μm以上30μm以下とすることが望ましい、ということが確認された。
また、はんだ皮膜層12の厚さを、上記のような数値的態様の範囲内の値とした場合には、はんだ皮膜層12の形成方法が電気めっき法であっても溶融めっき法であっても、良好な接合が得られることが確認された。
【0038】
フィン部材1の下地層7をクロム(Cr)からなるものとすると共に表層8を銅(Cu)−20wt%ニッケル(Ni)からなるものとした場合の結果は、表2に纏めて示したようなものとなった。
【0039】
【表2】

【0040】
この場合も、下地層7をニオブ(Nb)とした場合とほぼ同様の結果となった。但し、この場合には、錫(Sn)−37%鉛(Pb)からなる、はんだ皮膜層12の厚さを1.5μmとした試料31については、上記の試料11とは異なり、加熱処理直後から既に不良となった。しかし、いずれにしても、はんだ皮膜層12の厚さが3μm未満のようにあまりにも薄いと良好な接合を得ることができなくなるということが、この結果からも確認された。
【0041】
[実施例2]
実施例2として、上記の第2の実施の形態で説明した、図8に示したような構造の熱交換器のサンプルを製作し、その接合状態を評価した。
まず、図7に示したような構成のフィン板材9と、チューブ板材10(図示省略)と、図4に示したような構成のタンク板材13とを製作した。
フィン板材9用の基材であるフィン用基材6としては、A1−Mn合金であるA3004の硬材で、厚さt=60μm、幅W1=16mmのものを用いた。
チューブ板材10用の基材であるチューブ用基材11としては、真鍮材で、組成はCu−35%Zn、厚さは230μm、幅W2=20mmのものを用いた。
タンク板材13用の基材であるタンク用基材14もチューブ板材10と同じ材質の真鍮材で、厚さが500μmのものを用い、幅W3=30mmとした。また、長さ(高さ)は
60mmとした。
そして、上記フィン用基材6の表面に、上記の第1の実施の形態で説明したような、はんだ濡れ皮膜層5(下地層7および表層8)を形成し、さらにその上に、はんだ皮膜層12を形成した後、それを所定の形状に成型加工して、フィン部材1を製作した。
また、チューブ用基材11それ自体をそのまま用いて、それに成形加工を施すことで、チューブ部材2を製作した。
また、タンク用基材14の表面にはんだ皮膜層12を設け、成形加工を施して、タンク部材3を製作した。
そして、それらフィン部材1、チューブ部材2、タンク部材3を仮組みした後、加熱処理を施すことで要所ごとをはんだ接合して、図8に示したような構造の熱交換器の試料(サンプル)を製作した。
【0042】
フィン部材1は、はんだ濡れ皮膜層5における下地層7を、ニオブ(Nb)からなるものとした場合(表3の試料1〜24)と、クロム(Cr)からなるものとした場合(表4の試料25〜48)との、2種類とした。但し、その下地層7と組み合わされる表層8については、両方の種類とも同じく銅(Cu)−20wt%ニッケル(Ni)からなるものとした。それらの厚さは、下地層7を20nm、表層8を60nmとした。
そしてさらに、はんだ濡れ皮膜層5の上に、はんだ皮膜層12を形成した。そのはんだ皮膜層12としては、材質を、錫(Sn)からなるものとした場合と、錫(Sn)−37wt%鉛(Pb)からなるものとした場合と、錫(Sn)−3wt%ビスマス(Bi)からなるものとした場合との、3種類とした。
はんだ皮膜層12の形成方法は、この実施例2(比較例2も含む)の試料1〜48では、前処理の陰極脱脂無しの電気めっき法と、前処理の陰極脱脂有りの電気めっき法との、2種類を試みた。陰極脱脂は、温度50℃の水酸化ナトリウム溶液を用いて、試料を陰極とし、1.7A/dmの電流を通電する条件で実施した。なお、溶融めっき法についても試みたが、良好なはんだめっきを得ることはできなかった。
このようにして製作したフィン部材1と、チューブ部材2と、タンク部材3とを所定の構造に仮組みし、加熱処理による接合を行って、図8に示したような構造の熱交換器のサンプルを得た。
【0043】
より具体的には、フィン部材1、チューブ部材2、タンク部材3を、所定の構造となるように仮組みした後、フラックスとして活性の低いRMAタイプ、型式;HS−722(メーカー名;ホーザン)を塗布して、200℃〜260℃で3秒間の加熱処理を施すことで接合を行い、その接合状態を評価した。
加熱処理による接合後のフィン部材1とチューブ部材2との接合状態の評価方法については、実施例1の場合と同様に、この種の熱交換器の品質管理・検査における熟練者による評価手法に即して、目視レベルで全く接合していないものを接合無し、接合していても触診により簡単にフィン部材1とチューブ部材2とが剥離するような状態のものを不良、簡単には剥離しない程度のものを良好、と判定した。また、良好と判定された試料については、その後、環境試験として、35℃で塩分5.0%の塩水(NaCl)を用いた96時間の塩水噴霧試験を施した。そしてその塩水噴霧試験後の接合状態について、接合後の判定の場合と同様に、簡単に剥離するものを不良とし、簡単には剥離しないものを良好と判定した。
【0044】
このような実施例2の試料1〜48の接合についての判定(評価)結果を、以下、さらに詳細に説明する。
フィン部材1の下地層7をニオブ(Nb)からなるものとすると共に表層8を銅(Cu)−20wt%ニッケル(Ni)からなるものとした場合の結果は、表3に纏めて示したようなものとなった。
【0045】
【表3】

【0046】
フィン部材1のはんだ濡れ皮膜層5をニオブ(Nb)からなるものとした試料1〜24では、はんだ皮膜層12の電気めっき前に陰極脱脂を施さなかったもの(表3における「陰極脱脂無」の試料)については、概ね良好な接合が得られているものの、その内訳をさらに仔細に見ると、チューブ部材2のはんだ皮膜層12を純錫(Sn)からなるものとした試料1〜10のうちの、比較例2の試料1では、はんだ皮膜層12の厚さが1.5μmと極めて薄過ぎるものであったため、接合無しとなった。また、比較例2の試料2では、はんだ皮膜層12の厚さが2μmと薄いものであったため、加熱処理直後の接合は良好であったが、塩水噴霧後は不良となった。また、試料7では、はんだ皮膜層12の厚さが40μmと厚いものであったため、加熱処理直後の接合が不良となった。
このようなはんだ皮膜層12の厚さが薄いことや厚いことに起因した接合の不具合の発生は、はんだ皮膜層12を錫(Sn)−37%鉛(Pb)とした試料11〜21、および錫(Sn)−3%ビスマス(Bi)とした試料22〜24でも同様の傾向を示すものとなった。但し、この場合には、良好な接合が得られる好適な厚さは3μm以上100μm以下であった。このような結果から、はんだ皮膜層12の厚さは、少なくとも3μm以上100μm以下とすることが望ましく、特に純錫(Sn)からなるはんだ皮膜層12の場合には、3μm以上30μm以下とすることが望ましい、ということが確認された。
【0047】
また、電気めっきの前処理として陰極脱脂を施した場合には(表3における「陰極脱脂有」の試料8〜10、19〜21)、厚さに関係なく、その全ての試料が接合無しという結果となった。
このことから、ニオブ(Nb)からなるはんだ濡れ皮膜層5の上に、はんだ皮膜層12を電気めっき法で形成する場合には、その厚さには関係なく、陰極脱脂を施さない状態で、そのはんだ皮膜層12の電気めっきを行うことが、良好な接合を得るための条件の1つとなるということが判った。
なお、陰極脱脂は施さないが、電気めっきの前処理として脱脂処理を施すことが望ましい。従って、ニオブ(Nb)からなるはんだ濡れ皮膜層5の上に、はんだ皮膜層12を電気めっき法で形成する場合には、その前処理として、陰極脱脂以外の、接合不良を発生さ
せないような脱脂処理を施すようにすることが望ましい。
【0048】
フィン部材1の下地層7をクロム(Cr)からなるものとすると共に表層8を銅(Cu)−20wt%ニッケル(Ni)からなるものとした場合の結果は、表4に纏めて示したようなものとなった。
【0049】
【表4】

【0050】
すなわち、下地層7をクロム(Cr)からなるものとした場合には、上記のニオブ(Nb)の場合とは異なり、陰極脱脂を施したことに起因する接合不良は生じなかった。その他の点については、上記のニオブ(Nb)の場合と同様の傾向を示した。
ここで、一般に、電気めっきの前処理として、脱脂を行うことが望ましい。これは、製造工程でめっき対象面上に油脂等が付着していると、それが電気めっき膜に欠陥等を発生させる要因となる虞が高いからである。この点からすると、下地層7をクロム(Cr)からなるものとすることは、その製造工程中で油脂分が付着しても、それを例えばアルカリ水溶液を用いた陰極電気分解等によって脱脂することが可能となるので、この観点からすると好ましい、ということである。
なお、上記のような陰極脱脂を施すことに起因した接合不良の発生要因は、ニオブ(Nb)からなる下地層7が陰極脱脂中に水素を吸収し、本来の下地としての機能を果たせなくなるためであるものと解せられる。そして、下地層7をクロム(Cr)からなるものとした場合には接合不良が発生しないが、これは陰極脱脂中の水素吸収が起こらないことによるものと解せられる。
【0051】
以上のように、本発明の実施例に係る熱交換器のサンプルを用いた実験の評価結果から、本発明によれば、はんだ濡れ皮膜層5およびはんだ皮膜層12の、材質および厚さを、上記のような適切なものに設定することにより、良好なはんだ接合を得ることが可能となることが確認された。
【0052】
なお、上記の実施例では、はんだの母材(主成分)として、純錫(Sn)、錫(Sn)と鉛(Pb)との合金、錫(Sn)とビスマス(Bi)との合金等を用いた場合について
説明したが、はんだ母材としては、それらのみには限定されないことは勿論である。
また、フィン部材1、チューブ部材2、タンク部材3における、各基材の厚さや外形寸法などのような、各種の具体的な設計上の仕様についても、上記の実施例で挙げたようなもののみには限定されないことは勿論である。
また、例えばフィン部材1の片面のみをチューブ部材2に接合すればよい、といった場合には、フィン用基材6の片面のみに、はんだ濡れ皮膜層5やはんだ皮膜層12を形成するようにしてもよい。その他、種々のバリエーションが可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0053】
1 フィン部材
2 チューブ部材
3 タンク部材
5 はんだ濡れ皮膜層
6 フィン用基材
7 下地層
8 表層
9 フィン板材
10 チューブ板材
11 チューブ用基材
12 はんだ皮膜層
13 タンク板材
14 タンク用基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィン部材とチューブ部材とを接合してなる構造を有する熱交換器であって、
前記フィン部材は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)を主成分とする合金からなるフィン用基材の表面における、少なくとも前記チューブ部材と接合される部分に、銅(Cu)を含むはんだ濡れ皮膜層を備えており、
前記チューブ部材は、銅(Cu)または銅(Cu)を主成分とする金属からなるチューブ用基材の表面における、少なくとも前記フィン部材と接合される部分に、錫(Sn)を含むはんだからなる、はんだ皮膜層を備えており、
前記フィン部材と前記チューブ部材とが、前記はんだ濡れ皮膜層と前記はんだ皮膜層とに由来した銅(Cu)と錫(Sn)との金属拡散接合を介して接合されている
ことを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
フィン部材とチューブ部材とを接合してなる構造を有する熱交換器であって、
前記フィン部材は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)を主成分とする合金からなるフィン用基材の表面における、少なくとも前記チューブ部材と接合される部分に、銅(Cu)を含むはんだ濡れ皮膜層と、当該はんだ濡れ皮膜層の表面上に、錫(Sn)を含むはんだからなる、はんだ皮膜層とを備えており、
前記チューブ部材は、銅(Cu)または銅(Cu)を主成分とする金属からなるものであり、
前記フィン部材と前記チューブ部材とが、前記はんだ濡れ皮膜層と前記はんだ皮膜層とに由来した銅(Cu)と錫(Sn)との金属拡散接合を介して接合されている
ことを特徴とする熱交換器。
【請求項3】
請求項1または2記載の熱交換器において、
前記はんだ濡れ皮膜層が、ニオブ(Nb)またはクロム(Cr)の下地層と、当該下地層の表面に設けられた、銅(Cu)を主成分としてニッケル(Ni)および亜鉛(Zn)のうちの少なくとも1種類の金属を添加された合金からなる表層との、2層積層構造として形成されている
ことを特徴とする熱交換器。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか1つの項に記載の熱交換器において、
前記はんだ濡れ皮膜層の厚さが、5nm以上400nm以下であり、
前記はんだ皮膜層の厚さが、3μm以上100μm以下である
ことを特徴とする熱交換器。
【請求項5】
請求項1ないし3のうちいずれか1つの項に記載の熱交換器において、
前記はんだ皮膜層が、純錫(Sn)からなるものである
ことを特徴とする熱交換器。
【請求項6】
請求項3記載の熱交換器において、
前記はんだ皮膜層が、厚さ3μm以上30μm以下の、純錫(Sn)からなるものである
ことを特徴とする熱交換器。
【請求項7】
請求項2記載の熱交換器において、
前記はんだ濡れ皮膜層が、ニオブ(Nb)からなるものであり、かつ前記はんだ皮膜層が、陰極脱脂を施されていない前記はんだ濡れ皮膜層の表面上に、電気めっきによって形成されたものである
ことを特徴とする熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−203727(P2010−203727A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51974(P2009−51974)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】