説明

熱伝導度検出器

【課題】微細化されたフィラメントを使用しても従来と同様の感度を得ることができ、ガスの流れを阻害することなく、かつ流量変動に影響されない熱伝導度検出器を実現することを目的としている。
【解決手段】加熱したフィラメントに測定対象のガスが接することにより発生する前記フィラメントの抵抗値の変化に基づき前記ガスの熱伝導度を検出する熱伝導度検出器であって、接合された基板内部に前記フィラメントと前記ガスの流路が設けられ、前記フィラメントと対向する内壁の少なくとも一方と、前記フィラメントとを近接させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサの一種である熱伝導度検出器に関し、詳しくは、ガスクロマトグラフ用の熱伝導度検出器(TCD:thermal conductivity detector)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、気体中に含まれる特定のガスに感応して、その濃度に応じて変化する電気信号を出力するもので、ガス分子が固体表面へ吸着し、あるいはさらに反応する特性を利用したものである。このようなガスセンサの一種に、無機分析用のガスクロマトグラフの汎用的な検出器として用いられている熱伝導度検出器がある。
【0003】
図7は、非特許文献1に記載されている従来の熱伝導度検出器の一例を示す構成説明図である。図において、アルミまたはステンレスのボディ1にはほぼM字形のガスの流路2(以下流路2という)とほぼW字形のガスの流路3(以下流路3という)が上下方向に対向して両側辺の端部が連通するように形成されていて、M字形の山部分と対向するW字形の谷部分間にはそれぞれ流路2と3に連通するようにガスの流路4と5が形成されている。
【0004】
これら流路4と5内には、それぞれコイル状の細いタングステン製のフィラメント6と7が配置され、これらフィラメント6と7の両端は気密状態で電気的に外部に取り出されている。M字形の谷部分にはガス入口のパイプ8が流路2に連通するように設けられ、W字形の山部分にはガス出口のパイプ9が流路3に連通するように設けられている。なお、流路2と3の両側辺の穴径は他の部分よりも大きく形成されている。
【0005】
このような構成において、パイプ8から入力されるガスは、流路2,3,4,5を通ってパイプ9から出力される。ここで、加熱したフィラメント6,7に接するガスの熱伝導度が変化するとフィラメント6,7の温度も変化し、抵抗値が変化する。また、実際には、もう一組、同一の構造があり、比較用に常にキャリアガスを流している。上記フィラメント6,7を含めた4本のフィラメントでブリッジ回路を構成し、上記フィラメント6、7の抵抗値の変化を電圧信号として出力する。
【0006】
ガスクロマトグラフでは、カラムにHe,H2,N2,Arなどのキャリアガスを流すとともに、そこに計量されたサンプルガスを導入することにより、サンプルガスを時間的に各成分毎に分解し検出器で測定する。出力するピークの出現時間で定性分析を行い、ピーク面積で定量分析を行う。熱伝導度検出器は、出現する成分のガスとキャリアガスの熱伝導度の違いを電気信号に変換する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】前田 真人、他1名、「ガスクロマトグラフ用新形熱伝導度検出器」、横河技報、横河電機株式会社、1983年、vol.27、No.1、p.27−32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図9の熱伝導度検出器は、流路2、3の形成にあたり、複雑な加工と高度な技術が必要であり、フィラメント6、7の固定にも高度な技術を必要とする。
【0009】
そして、工程の多くが手作業であるため相当の作業時間を要し、費用が高くなり、量産には不向きであるという問題がある。
【0010】
また、ボディ1が大きいため熱的に安定するまでに時間を要するという問題もあり、金属のフィラメント6、7の抵抗値が低いため、温度変化を検出するのが困難であるという問題もある。
【0011】
また、設計変更などが容易に行えないという問題もある。
【0012】
さらに、出力が流路を通過する被測定ガスや比較用ガスの流量変動に影響をうけてしまうという問題もある。
【0013】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、MEMS技術を用いることにより、小型で熱的安定時間を比較的短くできて配置場所の制限が少なく量産化でき、抵抗値を高くできることから温度変化の検出が比較的容易に行え、さらに必要に応じて、条件の異なる流路やフィラメントを具備し、従来の組立では実現困難であったフィラメントと内壁との間隔を近接して維持することができ、再現性よく熱的な特性を改善することで微細化されたフィラメントを使用しても従来と同様の感度を得ることができ、ガスの流れを阻害することなく、かつ流量変動に影響されない熱伝導度検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
加熱したフィラメントに測定対象のガスが接することにより発生する前記フィラメントの抵抗値の変化に基づき前記ガスの熱伝導度を検出する熱伝導度検出器であって、
接合された基板内部に前記フィラメントと前記ガスの流路が設けられ、
前記フィラメントと対向する内壁の少なくとも一方と、前記フィラメントとを近接させることを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記接合された基板内部に前記流路と連通された空間が形成され、流路内のガス流速やその変動から直接影響を受けないように前記空間内に前記フィラメントが支持されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、
前記フィラメントの対向する内壁の少なくとも一方に付着防止構造を設け、前記フィラメントが前記内壁に付着しないことを特徴とする。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項1から3いずれかに記載の発明において、
前記フィラメントは、単結晶シリコンで形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項1から3いずれかに記載の発明において、
前記フィラメントは、金属膜で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、このように構成することにより、小型で熱的安定時間を比較的短くできて配置場所の制限が少なく量産化でき、抵抗値を高くできることから温度変化の検出が比較的容易に行える熱伝導度検出器が実現できる。
【0020】
また、半導体製造工程により熱伝導度検出器が作製できるため、高度な加工技術が必要とならず、フィラメントの形状およびフィラメントと流路壁面との距離などが設計どおりに作製できる。さらに、様々な条件の流路およびフィラメントを具備した熱伝導度検出器が作製できる。
【0021】
また、気体より桁違いに熱伝導率の大きい内壁をできるだけフィラメントに近づける設計を行うことにより、従来の熱伝導度検出器と同等の感度、すなわち熱特性を得ることができる。
【0022】
さらに、センサチップ内部に流路を設けることにより気体の流れを阻害せず、また流路とフィラメントの距離により、フィラメント近傍の気体が置換する時間と流速から受ける影響度合いを調整できるため、流量変動に影響されない熱伝導度検出器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図である。
【図2】図1の熱伝導度検出器の作製手順を示す工程図である。
【図3】図1の動作説明図の一例である。
【図4】図1の動作説明図の一例である。
【図5】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図6】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図8】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図9】従来の熱伝導度検出器の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の熱伝導度検出器の一実施例を示す構成図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のX−X’断面図、(c)は(a)のY−Y’断面図である。
【0025】
図1において、基板10は、陽極接合などの基板の接合が可能な絶縁性を有する基板、本実施例ではパイレックス(登録商標)ガラス基板やセラミック基板などで形成されたものであり、その表面にはフィラメント11が設けられている。
【0026】
フィラメント11が設けられた基板10の表面には予めフィラメント11と近接するための浅い凹部10aが形成され、流路となる深い凹部10bが形成されている。また、凹部10aの外側には、基板10の表面に設けられたフィラメント11の裏面がそれぞれ露出するように貫通穴10c、10dがそれぞれ設けられている。この貫通穴10c、10dのフィラメント11の露出部を含む内周面には、フィラメント11の露出部を基板10の裏面から外部に接続するための電極12a,12bが設けられている。この電極12a,12bは、金属膜で形成されている。
【0027】
基板13は、フィラメント11が設けられた基板10の表面に重ね合わせるようにしてたとえば陽極接合により固着されているが、基板10との対向面にはフィラメント11全体を内包するようにフィラメント11の厚さよりもやや深い凹部13aが形成されている。
【0028】
また、流路となる深い凹部13bが形成されている。この凹部13bは、凹部13bの底面の端部近傍には基板13の裏面に貫通するように貫通穴13c,13dが形成されている。これらの貫通穴13c,13dは、ガスの導入口として機能する。
【0029】
これにより、基板10の表面に設けられたフィラメント11は、基板13により密閉されることになる。凹部10bと凹部13bが流路となり、ガスの導入口として機能する貫通穴13c、13dと連通されて、浅い凹部10aおよびフィラメント11の厚さよりもやや深い凹部13aが流路に連通した空間を形成し、内部にフィラメント11が配置され近接した内壁を形成する。
【0030】
すなわち、接合された基板10、13内部にフィラメント11とガスの流路となる深い凹部10b、13bがそれぞれ設けられ、フィラメント11と対向する内壁の少なくとも一方と、フィラメント11とを近接させている。また、接合された基板10、13内部に流路と連通された空間が形成され、流路内のガス流速やその変動から直接影響を受けないように空間内にフィラメント11が支持されている。
【0031】
また、流路にガスが導入され、加熱したフィラメントにこのガスが接することにより、発生するフィラメントの抵抗値の変化に基づいてガスの熱伝導度を検出するように構成されている。また、被測定ガスと、この被測定ガスと比較する比較用ガスの2つを1対の熱伝導度検出器として構成されている。
【0032】
まず、L側には被測定ガスを、一方R側には比較用ガスをそれぞれのガス導入口から挿入する。被測定ガスおよび比較用ガスの流路の両側に、それぞれフィラメントが形成されている。また、フィラメントと壁面との間隔が極めて狭いため、フィラメントが形成されている部分には、被測定および比較用ガスの流れがほとんど生じないため、被測定および比較用ガス、すなわち気体が拡散により置換される。ここで、壁面とは、フィラメントを挟んだ凹部10aおよび凹部13aの底面のことである。
【0033】
図2は、図1の熱伝導度検出器の作製手順を示す工程図の一例である。図2では、熱伝導度検出器の断面図で作製手順を示している。
【0034】
まず、(a)に示すように、基板10の表面にフィラメントとの間隔を形成するための段差である凹部10aを形成し、ガスの流路となる凹部10bを形成する。また、凹部10aの端部近傍には基板10の裏面に貫通するようにフィラメント11の電極用の貫通穴10c,10dを形成する。これら凹部10a、凹部10bや貫通穴10c,10dは、ウエットエッチング、ドライエッチング、あるいはサンドブラストなどの加工により形成することができる。
【0035】
一方、(b)に示すように、シリコン基板14の表面にたとえばボロンなどの不純物を高濃度に拡散して拡散深さおよび導電率を調整し、高濃度拡散層を形成する。このとき、たとえばエピタキシャル成長を用いることでより高い自由度が得られる。その後、ウエットエッチングあるいはドライエッチングなどで高濃度拡散層の不要部分を除去することにより、フィラメント11と電極パッド部分を形成する。
【0036】
ここで、(c)に示すように、(a)で加工した基板10と(b)で加工したシリコン基板14とを、基板10に形成された貫通穴10c、10dをシリコン基板14に形成されたボロン高濃度層の電極パッド部分が覆うようにして陽極接合する。
【0037】
そして、(d)に示すように、高濃度拡散層のフィラメント11のみを残すために、シリコン基板14全てをヒドラジン、TMAH、KOHなどのアルカリ液でエッチング除去する。
【0038】
続いて、(e)に示すように、パイレックス(登録商標)ガラス基板やセラミック基板あるいはシリコン基板を基板13として用いる。フィラメント11全体を内包するようにフィラメント11の厚さよりもやや深く、さらにフィラメントと接触しない凹部13aを形成する。また、ガスの流路となる凹部13bを形成する。また、凹部13bの底面の端部近傍には基板13の裏面に貫通するように電極用の貫通穴13c,13dを形成する。これら凹部13a、凹部13bや貫通穴13c,13dは、基板13の表面をKOHなどによるウエットエッチング、ドライエッチング、あるいはサンドブラストなどの加工により形成することができる。
【0039】
次に、(f)に示すように、(d)で加工した基板10と(e)で加工した基板13を、基板13の表面に形成された凹部13aが基板10の表面に設けられたフィラメント11全体を内包するように重ね合わせて、たとえば基板10がパイレックス(登録商標)、基板13がシリコンの場合は、陽極接合を用いる。
【0040】
そして、(g)に示すように、基板10の貫通穴10c,10dの内周面に電極12a,12bをスパッタなどで形成する。なお、図示しないが、内周面に電極12a,12bが形成された貫通穴10c,10dには、ハンダやメッキで金属を充填したり、導電性ペーストを充填することで、それぞれ電極を形成する。
【0041】
本実施例の図2では図示していないが、被測定および比較用をそれぞれ(a)から(g)の工程で製造し、この2対を1チップとした熱伝導度検出器を実現している。
【0042】
本発明に基づく熱伝導度検出器は、半導体製造工程により作製できるため、フィラメント11の形状およびフィラメント11とガスの流路壁面との距離などが小さなバラつきでほぼ設計どおりに作製できるとともに、必要に応じて、様々な条件の異なるガスの流路およびフィラメント11を具備した熱伝導度検出器を同時に作製できる。
【0043】
また、同時に一枚のウエハ内に熱伝導度検出器を複数個形成できるため、1個当りの単価を低価格にでき、量産に適している。
【0044】
また、熱伝導度検出器のボディを小型化にできるため、熱的に安定するまでの時間が短縮でき、配置場所や用途の制約が少なくなる。
【0045】
また、フィラメント11の材料として単結晶シリコンを使用しているため、抵抗値を高くしてブリッジ回路の電圧を上げることができ、容易に温度変化による任意のガスを検出できる。
【0046】
また、パッケージを必要としないため、パッケージ分のコストおよびパッケージに組み立てるコストを削減することができ、低コストを実現できる。
【0047】
また、基板材料の選択によっては、陽極接合による高信頼性シール構造を実現することができる。
【0048】
また、微細化された単純なフィラメント構造においても気体を介して放出する熱エネルギーを増加させるために、気体より桁違いに熱伝導率の大きい内壁をできるだけフィラメントに近づける設計を行う、すなわち少なくとも片側の内壁とフィラメントとの間隔を数μm程度にする設計を行うことにより、従来の熱伝導度検出器と同等の熱特性を得ることができる。
【0049】
さらに、ガスの流路とは別に、フィラメントと内壁との間隔を調整できる空間を設け、フィラメントと内壁とを近接することにより、ガスの流れを阻害することなく、流量変動に影響されない熱伝導度検出器を実現することができる。
【0050】
なお、本発明では、機密性の高い強固な接合が容易に得られるため、陽極接合を採用したが、機密性の高い強固な接合が容易に得られるのであれば、基板10にパイレックス(登録商標)ガラス、基板13にシリコンを使用する組み合わせでなくてもよい。
【0051】
図3は、図1の動作説明図の一例である。熱伝導度検出器の動作を説明する。
【0052】
図3のように、流路を形成している凹部10b、13bと、フィラメント部を形成している凹部10a、13aの深さは、流路を形成している凹部10b、13bの方が深く設定され、流路の断面積が圧倒的に大きくなるように設計されている。
【0053】
また、フィラメント11a〜11dは、フィラメント11a〜11dと対向する凹部10aと凹部13aの内壁にそれぞれ近接している。被測定ガスや比較用ガスをそれぞれ導入口から挿入し、流路である凹部10b、13bを流れている。
【0054】
フィラメント11a〜11dと、フィラメント11a〜11dと対向する凹部10bと凹部13bの内壁が近接し、流路に比べて狭いことにより、流路に流れる被測定ガスおよび比較用ガスの流れが、フィラメント11a〜11dに生じることはほとんどない。また、フィラメント11a〜11dの周囲の気体は、拡散により置換されている。
【0055】
図4は、図1の動作説明図の一例である。熱伝導度検出器の動作を説明する。
【0056】
フィラメント11の両端に電圧を印加すると電流が流れ、ジュール熱が発生する。流路から拡散によりフィラメント11の周囲の空間に存在する気体の熱伝導率に応じて熱が伝わり、フィラメント11はそれぞれに応じた温度になる。
【0057】
ガス入力用の貫通穴13cからフィラメント11の上下の空間に、一方の流路には図示しないガスクロマトグラフのカラムを介してキャリアガスおよび分離された被測定ガスを導入し、他方にはガス成分が変動しない比較用のキャリアガス成分のみが導入される。これにより、被測定ガスの成分あるいは濃度によって時々変化する熱伝導度がフィラメント11の抵抗値変化となりブリッジ回路により電気信号として出力される。
【0058】
図5は、本発明の他の実施例を示す構成図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のX−X’断面図、(c)は(a)のY−Y’断面図である。図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図5では、ガスの導入及び排出を基板10、13の端面方向により行った例を示している。
【0059】
図1ではガス導入出力を基板13の底面から行っていたのに対して、図5ではガスの導入及び排出を基板10および基板13に設けたそれぞれの流路20a、bの端面から行っている。このように、ガスの導入及び排出を基板10、13の端面方向から行うことにより、基板13を形成する工程が図1よりも容易にすることができる。
【0060】
また、被測定ガスおよび比較用ガスの流路を直線にすることにより、被測定ガスおよび比較用ガスの流れを阻害する要素をなくすことができる。このような構成は、同一の基板上にカラムやバルブの機能を集積できた場合に効果がある。
【0061】
図6は、本発明の他の実施例を示す構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図6では、付着防止構造30を内壁に設け、フィラメント11との付着を防止した例を示している。
【0062】
図6ではフィラメントの対向する内壁の少なくとも一方に付着防止構造を設け、フィラメントが内壁に付着しないようにしている。また、付着防止構造30とは、フィラメント11の対向する内壁に凹凸構造、または金属などの薄膜を設けている構造のことである。この付着防止構造を設けることにより、フィラメント11に熱が加わった場合や製造工程などで、フィラメントが撓むことにより、フィラメント11が内壁に付着することを防止することができる。
【0063】
図6では、基板10側に対してフィラメント11の対向面に付着防止構造30を設けているが、基板13側の対向面に付着防止構造30を設けてもよい。すなわち、基板10、基板13、どちらの基板側にフィラメント11の対向面となる付着防止構造30を設けたとしても、フィラメント11が内壁に付着することを防止することができる。
【0064】
また、付着防止構造30などから配線を取り出せば、フィラメント11が内壁に付着しているか否かの診断ができる。
【0065】
図7は、本発明の他の実施例を示す構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図7では、フィラメント50をジグザグパターンとして形成した例を示している。
【0066】
本発明では、熱伝導度検出器を半導体製造工程により作製することから、フィラメント50の形状が設計どおりに精度よく作製でき、フィラメント50を必要に応じて所望の形状に形成できる。
【0067】
たとえば、フィラメント50にかかる応力緩和のためにパターンの一部に折り返しを設けてもよく、あるいは抵抗値を調整するためにパターンを変更してもよい。さらに、フィラメント50の長手方向に沿ってパターン密度を異ならせることにより、温度分布を調整できる。
【0068】
また、フィラメント50をジグザグパターンとして形成したことにより、図1のフィラメント11よりも表面積を大きくすることができ、熱伝導度を検出する感度を図1よりも良くすることができる。
【0069】
図8は、本発明の他の実施例を示す構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図8では、フィラメント60を直列に折り返した形成した例を示している。
【0070】
フィラメントにタングステンなどの金属膜を使用する場合、他の配線抵抗と比較して大きな抵抗値を得るため、図8のようにフィラメント60を直列(熱的には並列)に設けることができる。この場合、基板14に金属を形成する方法以外にも、基板10に金属を成膜形成した後にフッ酸などのウエットエッチにより金属直下の基板をサイドエッチさせることにより空中に浮かせることができる。
【0071】
以上説明したように、本発明によれば、小型で熱的安定時間を比較的短くできて配置場所の制限が少なく量産化でき、抵抗値を高くできることから温度変化の検出が比較的容易に行える熱伝導度検出器が実現できる。
【0072】
また、半導体製造工程により熱伝導度検出器が作製できるため、高度な加工技術が必要とならず、フィラメントの形状およびフィラメントとガスの流路壁面との距離などが設計どおりに作製できる。さらに、様々な条件のガスの流路およびフィラメントを具備した熱伝導度検出器が作製できる。
【0073】
また、気体より桁違いに熱伝導率の大きい内壁をできるだけフィラメントに近づけるように調整することにより、従来の熱伝導度検出器と同等の感度、すなわち熱特性を得ることができる。
【0074】
さらに、センサチップ内部にガスの流路を設けることにより気体の流れを阻害せず、またガスの流路とフィラメントの距離により、フィラメント近傍の気体が置換する時間と流速から受ける影響度合いを設計できるため、流量変動に影響されない熱伝導度検出器を実現できる。
【符号の説明】
【0075】
10、13 基板
10a、10b、13a、13b 凹部
11 フィラメント
12a、12b 電極
13c、13d 貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱したフィラメントに測定対象のガスが接することにより発生する前記フィラメントの抵抗値の変化に基づき前記ガスの熱伝導度を検出する熱伝導度検出器であって、
接合された基板内部に前記フィラメントと前記ガスの流路が設けられ、
前記フィラメントと対向する内壁の少なくとも一方と、前記フィラメントとを近接させることを特徴とする熱伝導検出器。
【請求項2】
前記接合された基板内部に前記流路と連通された空間が形成され、流路内のガス流速やその変動から直接影響を受けないように前記空間内に前記フィラメントが支持されていることを特徴とする請求項1記載の熱伝導度検出器。
【請求項3】
前記フィラメントの対向する内壁の少なくとも一方に付着防止構造を設け、前記フィラメントが前記内壁に付着しないことを特徴とする請求項1または2記載の熱伝導度検出器。
【請求項4】
前記フィラメントは、単結晶シリコンで形成されていることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の熱伝導度検出器。
【請求項5】
前記フィラメントは、金属膜で形成されていることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の熱伝導度検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−169778(P2011−169778A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34290(P2010−34290)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】